2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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建材情報交流会ニュース

 第55回
「これから求められる建材とは」

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基調講演
「壁装材料等に関する大臣認定仕様基準の検討」

 土橋 常登氏 (一財)日本建築総合試験所 試験研究センター
           環境部 耐火防火試験室 室長
 

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■基準の整備、見直しを図る建築基準整備促進事業
 建築基準整備促進事業とは、建築基準法に関わる技術基準整備を行うため、民間の力の活用を図るため立ち上げられたものです。内容は国が提示し、公募対象となる調査事項が示され、最も適切な調査内容、実施体制等の計画を提案した者に対して国が支援する仕組みです。常日ごろ私たちが行っている性能評価とは少し異なるのですが、このような活動にも当所は参画しています。
 過去の防火関連の調査項目を平成20年度から振り返ると、例えば「超高層建築物等の安全対策に関する検討(防火)」をはじめ、避難対策などから検討が始まっています。その後「大規模木造建築物の火災実験に係る検討」、平成25年あたりから「F」(Fire)という文字が調査番号に入り、現在F14まで検討項目があがっています(図1)。
 木造関係ではF2で「CLT(直交集成板)の燃えしろ設計法に関する検討」があり、F3では「防火に関する大臣認定仕様の告示化の検討」が始まっています。平成28〜29年度のF10が今回のテーマである「不燃材料等に関する大臣認定仕様の基準化の検討」です。
 F10の調査には、木材利用の促進への社会的要請や建築技術の発展と、建築物に対するニーズの多様化のなかで、木造耐火や防火材料の告示仕様の見直しが求められているという背景があります。木造耐火や防火材料について大臣認定を受けた内容を整理し、これらを簡便に使用できるよう一般的な基準を定めるのが目的です。
 調査体制は、東京理科大の菅原進一先生を委員長とする検討委員会に、「防耐火構造等」と「防火材料等」のワーキンググループが設置されました。防火材料の検討は今回が初めてです。
 平成28年度は、既存の大臣認定を整理して告示化のニーズをまず調査することから始め、防耐火構造では防火被覆仕様の告示化、防火材料では壁装材料の告示化を対象としました。そして必要な耐火試験、加熱試験を実施して安全性を確認し、同年度に大臣認定仕様の基準化の検討を行い、平成29年度には木造建築物の屋根の防火性能・土塗材の検討も追加しました。

■壁装材料の防火性能に関する検討
 壁紙の防火性能に関する大臣認定について説明します。壁紙の大臣認定は、せっこうボードやけい酸カルシウム板などの下地を含んでいます。従って、性能評価試験においても、下地を含めた状態で性能評価を行っています。当然接着剤やシーラー(下地処理剤)も含みます。
 壁装材料は塩化ビニル樹脂系、繊維系、紙系、プラスチック系、無機質系などが代表的なものです。一般社団法人日本壁装協会の統計によると認定区分は不燃材料46%、準不燃材料54%で難燃材料はわずかです。壁紙全体の出荷のうち、防火認定品は99%を占めています。基整促F10では、最もシェアが多い塩ビ系樹脂に加え、繊維系、紙系をピックアップし、それぞれ告示化の仕様を検討していきます。告示化を検討するにあたり、内装制限のほとんどをカバーできる準不燃材料をまずは検討することに決めました。
 対象とする壁紙について。塩ビ系は「QM-0803(記号:V2)」という、すでに実績のある準不燃の基本仕様をベースに告示化を検討します。説明のため、V2という試験体記号を付けており、有機質量を増加した仕様(記号:V1)も候補に追加しています。繊維系も「QM-0757(記号:F1)」「QM-0813(記号:F2)」という実績のある認定品を2点選びました。塩ビと違い繊維系は通常難燃剤を入れているため、難燃剤込みでの設定です。
 下地処理剤と接着剤も、壁装協会が現在認定を取っている仕様と同様に設定しています。下地(基材)はせっこうボードが90%以上のシェアを占めています。告示品を使うのが一般的ですが、リサイクルを想定したものも含めて今回は総発熱量が異なる三つの仕様(G1〜G3)を設定して試験に使いました。G1:現行仕様の平均(2.9 MJ/m2)、G2 :現行仕様の値の高いもの(4.6 MJ/m2)、G3 :リサイクルを想定したもの(5.4 MJ/m2)となっています(総発熱量10分間)。けいカル板も、シェアは少ないですが下地に使うケースがあるのでこちらも試験しました。

■模型箱を中心とした3種類の試験方法の概要
 質量に対し面積が大きいため、燃え拡がるとフラッシュオーバーを起こしやすいという壁装材料の燃焼性状を考え、燃え拡がりを評価できる模型箱試験を中心に検討を実施しました。発熱速度(発熱量)は模型箱試験、発生ガスの毒性はこれまで通りガス有害性試験で確認します。参考として、性能評価試験で実績のある発熱性試験(コーンカロリーメーター試験)も実施しています。
1.模型箱試験
 模型箱試験は、中間規模で室内を再現した試験です。着火→発熱→燃え拡がり→消炎が同時進行している燃焼プロセスを再現しており、燃え拡がりを調べるのに適しています。図2は模型箱試験装置の全体概要です。試験体から出てくる煙を集煙フードで集め、中のガスをガス分析計で分析して発熱速度を求めるという試験方法です。試験体は1畳程度のスペースにパネルで壁と天井を組んで箱状にし、収納箱内に設置します。火源には、プロパンガスバーナーを用い、試験体の隅角部に設置します。
 発熱速度はガス分析(O2・CO2・CO)、ダクト内の流量や温度から測定します。バーナーの発熱速度は40kWに設定、これは試験体の天井を少しなめる程度の高さの炎です。点火と同時に試験を開始し、準不燃材料の場合10分間燃焼させます(図2)。
 判定基準は、告示化の検討でも普段行っている性能評価と同じで考えています。1. 加熱開始後10分間の総発熱量が、50M(J 火源からの寄与分20MJを含む)を超えないこと。
2. 加熱開始後10分間防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴がないこと。3. 加熱開始後10分間最高発熱速度が10秒以上継続して140kWを超えないこと。以上3点が判定基準です。
2.発熱性試験
 発熱性試験は、模型箱試験より小規模の試験体(99mm角、厚さ50mm以下)で材料の発熱速度を測定することが可能で、材料単体がどう燃焼するのかを調べるものです。熱分解ガスの噴出速度(火炎の大きさ)ととらえることができ、燃焼面積が同じ場合は炎がより高く上がるほど発熱速度が大きいことになります。
 図3が発熱性試験装置です。燃えたときのガスはヒーターの上にあるフードで拾い、ガス分析計に送り、ガス分析して発熱速度を求めます。発熱速度を求める方法は模型箱試験と同じ原理です。試験体は、加熱面以外をアルミ箔で覆い、金属製の試験体ホルダーに入れます。加熱方法は電気ヒーターを用い、加熱強度は試験体表面で50kW/m2となるように調整します(図3)。
 判定基準は同様に3つですが、1は加熱開始後10分間の総発熱量が8MJ/m2以下、とm2当たりの量で規定されており、3は加熱開始後10分間、最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えないこと、というもので、2は模型箱と同じです。
3.ガス有害性試験
 燃焼時に発生する煙・ガス等の毒性を評価するのがガス有害性試験で、マウスを用います。加熱炉で燃やされた煙が集煙箱に集められ、そこから決められた量をマウスのいる被検箱に流し込み、燃焼ガスをマウスに曝露する試験装置です(図4)。被検箱には8匹のマウスを使うのですが、回転かご内のマウスの行動と連動して信号が取れる仕組みになっています。
 試験体は、発熱性試験に似た平板(220mm角、厚さ50mm以下)を使います。試験体を加熱炉に設置し、加熱開始と同時に試験を開始、6分後に加熱はストップしますが15分後まで待って試験終了となります。判定基準は、8匹のマウスの行動停止時間の平均から標準偏差を引いた値(平均行動停止時間(Xs))が6.8分以上の基準を満足する場合に合格としています。6.8分というのは、ラワン材を燃やしたとき、大体これくらいの時間でマウスが行動を停止することから設けられた基準です。

■実験条件と実験結果
○模型箱試験とその結果
 では建築基準整備促進事業の調査における実験説明に入ります。模型箱試験の測定方法は普段の性能評価の際と同じように、防耐火性能試験・評価業務方法書に準拠して行います。準不燃材料の性能評価は10分間ですが、今回は性能の余裕度を確認するため、かつ模型箱試験データの蓄積が必要なため、可能な範囲で延長しています。火源はプロパンガスバーナーで発熱速度を40kWに設定。まず壁紙を張って燃やす前に、ブランクデータ的な意味合いでせっこうボード単体をG1〜G3の3仕様でそれぞれ燃やします。10分間の総発熱量はG1からG2 、G3の順で大きくなるように設定されています。有機質量が多いほど燃えやすいということです。しかし最も燃えるG3でも、炎の接する箇所以外への燃え拡がりは見られませんでした。
 続いて壁紙を張っての実験です。塩ビと繊維、着目したいのは有機質量の違い。塩ビのV1は有機質量が多め、繊維は有機質量があまり変わりませんがF2でポリエステルが混紡されて難燃剤が少なめになっているのがポイントです。
 塩ビの実験結果をご覧ください(図5)。有機質量高めの壁紙と現行仕様で発熱量の多いせっこうボードの組み合わせ(V1‐G2)では、バーナーの発熱速度である40kWを一度超えるので、炎が接している部分の壁紙が一気に燃えていることが分かります。その後いったん落ち着きかけるが、壁紙の燃え拡がりが収まらず、5分過ぎから急激に発熱速度が上がります。開口部から炎が噴き出るフラッシュオーバーのような状況になりました。
 壁紙を有機質量少なめにしたV2-G2では、最初は40kWを超えて燃えますが、その後はピークの出る燃え方はありませんでした。有機質量の違いが表れていることがここで分かりました。せっこうボードを最も発熱量の大きい仕様にしたV2-G3では、やはり発熱速度のピークが出るような燃え方をしたので、同じ壁紙でも下地の影響が出てしまうことも分かりました。けい酸カルシウム板(C1)を下地にした試験体V1-C1では、ボード自体が薄く、熱容量が小さいため、バーナー点火後の燃え方が大きく、その後も一気に燃えました。
 結果として、下地の仕様による違いもあり、下地自体の発熱量の違いも壁紙の燃焼に影響を及ぼすことが明らかになりました。
 繊維の実験では、発熱量が大きい仕様のせっこうボードG3を使っての比較。F1-G3は20分過ぎから若干上がり始めますが、いきなり炎が噴き出るような燃え方はありません。F2-G3になると10分までは十分余裕があるのですが、20分を過ぎた辺りから一気に燃え、火炎が噴出するような燃え方をしました。
 フラッシュオーバー的な燃え方をすると発熱速度が判定基準を超過してしまいますが、「何分で超えたか」をまとめたのが図6の表です。塩ビのV1はどんな下地でも厳しい結果に終わりました。V2では、G3の下地だと厳しいがG2くらいなら余裕を持っての合格でした。繊維系は、下地がG3でも10分という従来の基準からすれば十分余裕を持っていました(図6)。
○発熱性試験、ガス有害性実験とその結果
 発熱性試験では、まず塩ビ系壁紙の場合、有機質量の少ないV1と多いV2では最初のピークで差が出ており、V2のほうが低くなっています。繊維系壁紙の場合、最初のピークがF1で低く、F2で高く出ています。F1とF2で有機質量はさほど変わりませんが、F2にはポリエステルが混紡されています。ポリエステルの単位重量あたりの発熱量は、セルロースよりも約2倍大きいので、その差が結果に出ています。
 ガス有害性試験は、下地にG2(現行仕様の値の高いもの)と、塩ビV1(有機質量多い)、繊維F2(ポリエステル多い)をそれぞれ組み合わせた試験体で実験しました。マウスはほぼ15分近い値まで行動できており、6.8分という判定基準に対して余裕のある結果となりました。

■例示仕様案の提案と今後の課題
 例示仕様案は次のようなものになりました。塩ビ系壁紙の場合、V1は、下地G1〜G3で難燃材料の発熱の判定基準を満たしたが、余裕は少なかったこと、さらに当初目的としていた準不燃材料の判定基準は満足しなかったことから、やめることになりました。V2は、下地G2で十分余裕を持って合格し、G3でも24分以上の性能を有していたことから、V2を基準に考えていくことになりました(図7 )。
 続いて繊維系壁紙の場合、F1、F2共にもともと準不燃認定取得品だったこともありますが、最も発熱量の多い下地G3でも十分余裕を持った性能を有しており、F1とF2の両方を考慮して例示仕様案としてまとめました(図8)。
 今回、下地と壁紙の組み合わせで性能試験を行いました。下地の発熱量と壁紙の発熱量を考えたとき、そもそも下地の発熱量が壁紙の組成に応じた一定の値以下に管理されている必要があります。また現場施工するので、そこで使われているせっこうボードの発熱量がどの程度であるか分からないといけません。そのための制度もつくっていく必要があるのではないかという提言も行っています。
 今回提案した例示仕様案は、あくまでも模型箱試験で確認できた範囲で決めたものです。下地と壁紙の組み合わせによる燃え方の違いは実験しないと分からないため、今後さらに実験を加えていくことで、適用される範囲を広げられる可能性があります。引き続きデータを蓄積していく必要があるでしょう。

 


“防耐火”で実現する「都市木造」〜耐火木造技術とその実例〜
 宮崎 賢一氏 樺|中工務店 木造・木質建築推進本部 副部長
 

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■なぜ「まち」で木材利用が少ないのか
 当社では耐火木造を推進しています。私の所属する木造・木質建築推進本部では、「木のイノベーションで森とまちの未来をつくる」をミッションとし、「燃エンウッド」やCLTの開発、木造プロジェクトの創出、国産木材利用自体の推進などを業務活動としています。
 「都市木造」とは、都市の中に建つ大規模な木造建築のことです。市街地・大規模・人が集まる特定建築という要素から、もれなく耐火の要件が付いてきます。耐火建築には、火災時の避難・倒壊の防止・延焼の防止という三つの課題がありますが、これらを木造建築でいかに解きほぐしていくかが本日のテーマです。
 六大都市が戦災を受けたことから、1950年の建築基準法制定の背景には、できるだけ都市が燃えないようにという都市の不燃化運動がありました。そうした「燃えない都市」が現在の都市計画法のベースになっており、そこから日本の都市部では、大きな建物にはできるだけ木を使わないという考え方が主流になりました。同時に、戦災復興のため、住宅の木材需要が高く建設用の木材がかなりひっ迫していました。従って大きな建物は鉄筋コンクリート造、ものによっては一部鉄骨造となりました。
 こうして1950年からしばらくの間は、木を使わないことで一般に合意があったと考えています。40〜50年を経て、主に海外の木材利用状況を背景に、それまで「禁止」だったものが、所定の性能があれば使ってよいという「性能規定」に変化します。
 2000年の建築基準法改定で、所定の耐火性能を満たせば、どんな建物でも木造での建設が可能になりました。これをきっかけに木造に門戸が開かれたわけです。当社の「燃エンウッド」もちょうどこの頃開発に着手しました。

■木のイノベーション耐火集成材「燃エンウッド」
 「燃エンウッド」は開発に約10年を要し、2012年に耐火部材として国土交通大臣の認定を取得しました。「燃エンウッド」の断面を一部はがしたモデルから分かるように、一番内側にある荷重支持部が柱の本体で、それをモルタルの燃え止まり層と木材の燃え代層の2層で被覆しています(図1)。
 現在は1時間耐火と2時間耐火の2仕様があります。1時間耐火があれば、東京の事務所系ビルの30%は建てることができます。2時間耐火になると99%の建物を木造で建てることが可能となります。当社ではこのような部材を使って、都市部の中高層ビルを木造で建設していこうという活動を進めています。
 耐火には、準耐火構造と耐火構造があります。準耐火の考え方は、火災時の避難時間をかせぐことを目的としています。所定の時間を過ぎれば建物は燃え尽きて崩壊してもよいということが想定された構造です。一方耐火は、火災後に倒壊せず、自然鎮火しなければなりません。「燃エンウッド」がどのような仕組みでそれを実現するのかを示した図があります(図2)。
 木材は260℃を超えると炭化が始まるため、耐火構造を実現するためには、火災の間260℃を超えないようにすればいいわけです。
 「燃エンウッド」の外側は木なので、もちろん火災時には火が着き、赤熱して内側に向かって炭化が進みます。しかし内側の燃え止まり層(モルタル)は木材に比べて大きな比熱を持つため、木に対して吸熱効果を発揮し、燃え止まり層に覆われた柱本体を260℃以下にとどめます。
 外側の炭化層には、外からの熱に対して断熱効果があります。つまり炭化部の断熱とモルタルの吸熱という二つの効果で耐火を実現しているのです。写真からも分かるように、火災後も燃え止まり層の内側は健全です。モルタル部分の吸熱効果で、260℃を下回れば自然に火は消えるので、自然鎮火も実現しています。

■「燃エンウッド」製造のプロセス
 「燃エンウッド」は国産のカラマツからスタートしました。木材は冬季に伐採し、集成材として成型します。製材所では最初にラミナというひき板にし、2日ほど乾燥させます。全てのラミナは曲げヤング率の試験を行い、所定の強度にふるい分けてナンバリングします。その後ラミナに接着剤を塗布して集積。これが一般的な大断面集成材と呼ばれるものです。
 ここから耐火の燃え止まり層と燃え代層を形成します。集成材の一部を切削して溝切り加工し、モルタルバーというモルタルの部材を収納していきます。その上から燃え代層を接着すれば、「燃エンウッド(1時間耐火)」の完成です。
 カラマツは東日本から北海道にかけて生える樹種なので、より地産・地消に対応できるよう、今では西日本でもメジャーなスギ、ヒノキを加え3樹種でつくっています。カラマツ1樹種から3樹種に仕様を拡張したことに伴い、断面構成も変えて、当初1時間耐火のみだったものを、今では2時間耐火にも対応しています。新しくできた「カラマツ・スギ・ヒノキ対応」版は、中に石こう系の材料を流し込んでつくる工法で、1時間と2時間があります。

■防耐火を実現するためのディテール開発
 柱、梁の耐火性能は、燃え止まりのプロセスや製造工法でつくられていますが、実際の建物として実現するには、それだけではなく、接合部の耐火性能をいろいろとつくり込む必要があります。図3は「燃エンウッド」の標準的な耐火性能を持つ柱接合部のディテールです(図3)。
 柱に梁が接合され、上にRCの床スラブが載っている状況です。通常の大断面集成材と同様に、鋼製のガセットプレートを設けて接合しています。柱と梁のすき間から火炎や熱が入るので、ガセットプレートの周りをモルタルバーで覆っています。
 金物の打ち込み条件も決めています。金物は熱橋として木の内部に熱を伝えるので、耐火性能を毀損することが懸念されています。従って打ち込みの条件を、耐火試験によって確認しました。同時に、上に有機系塗料を塗った場合についても試験で確認しました。基本的には燃え代層の厚さまでなら、クギなど金物の打ち込みが可能で、一般的な有機系塗料も耐火性能に影響はないことが分かっています。
 耐火部材と防火区画の壁をどう取り扱うかという問題も検証しました。「燃エンウッド」は、耐火構造だが燃えるという、RCや鉄骨とは異なる特徴を持ちます。通常の防火区画を、例えば「燃エンウッド」の梁に付けても、そこから「燃エンウッド」側で燃え込み、燃え抜けが生じることが懸念されるわけです。それに対し、耐火性能を有するディテールを開発し、燃え抜けがないような防火区画の工法も開発しています。
 通常、木造では設備用の梁貫通を設けることはほぼありませんが、複層の大きな建物の場合、梁せいが1m近くに及ぶこともあるため設備計画に支障をきたします。そのため「燃エンウッド」では、耐火性能を持つ梁貫通孔技術を開発しました。貫通孔の内側にも耐火性能を持つ被覆を設け、孔からの燃え込みを防ぎます。さすがに大きな空調などは難しいのですが、電気系など簡単なものなら梁貫通でも対応できます。
 部材の製作は、工場製作とBIM※で連携しており、当社における設計の中で断面の構成まで全てデータ化しています。それを工場に持って行き、工場側でNC加工をもって切削を行います(図4)。
 「燃エンウッド」は、公共的または公益的趣旨で技術の一部をオープンにしています。契約先の製造事業者(3社)を通して、燃エンウッド部材の購入、技術情報の入手が可能です。
※BIM:Building Information Modelingの略で、コンピューター上で3Dの建築モデルを構築するシステム。

■「燃エンウッド」の適用事例
 最初の「燃エンウッド」プロジェクトとして2013年に竣工したのが大阪木材仲買会館。施主が木材の仲買組合ということもあり、内部にも木がふんだんに使われています。柱と梁に「燃エンウッド」を使用し、内装の木質化と組み合わせました(図5)。
 図6は、同館を例とした「燃エンウッド」の構造と防災計画を説明したものです。木造を中高層のビルに使う場合、防耐火以外にも細かいケアが必要です。基本的にはRCに「燃エンウッド」を組み合わせることで耐火性能、耐震性能を担保します。この立地は津波被害も懸念されたため、1階をRCのみとし、津波が来ても木が濡れず建物の健全を保てるよう工夫しました(図6)。
 隣地境界部分は、延焼防止のために耐震壁を外側にまわしました。また、各階にバルコニーを設け、どの部屋からもバルコニー経由で避難できるような経路も確保しました。地震、水、避難経路についても一つずつ解決していくことが、木を都市の大型建築に使うために必要だと考えます。
 2018年2月に竣工した江東区立有明西学園(東京)では、さまざまな国産木材を使って木材利用推進を図りました。ほかに自動車のショールーム(愛知県)、病院(千葉県)などがあり、現在建設中のものでは10階建て2時間耐火の集合住宅(宮城県)があります。2018年、当社の社員寮として12階建ての2時間耐火プロジェクトを着工しました。東京本社の近くに、2020年完成予定です。
 今後、都市木造のモデル建築として、当社が取り組みたいと考えているのが20階建ての高層木造です。下6層にRC+木質化、上階は1時間耐火と2時間耐火の「燃エンウッド」で構成されています。これは現在ある技術で可能な建物であり、2025年に向けて現実のプロジェクトにしていきたいと考えています。
 「燃エンウッド」はまだ年数の浅い技術です。都市に木造を建てるニーズは大きいものの、それを実現する耐火技術のハードルは非常に高いと感じます。これから都市木造の普及を進めたいと思っていますが、防耐火技術について皆さまのご指導をいただければ幸いです。

 


「大規模木造建築物と耐火被覆について」
 廣瀬 俊氏 葛g野石膏DDセンター 大阪分室 室長 需要開発部

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■国の告示化により、誰でも木造耐火が可能に
 2000年に建築基準法が改正され、性能さえあれば木造でも耐火構造が認められるようになりました。ここ数年は、国の推進と共に木造の普及がようやく進み始めています。もともとは、雇用創出を目指して林業の活性化を図ったのがスタートで、収穫した木をなるべく低層の建築に利用できるようにと、公共建築物等木材利用促進法が出されました。
 改正建築基準法に注目したのが日本ツーバイフォー建築協会でした。2004年に日本で初めて木造の耐火構造認定を取得し、ツーバイフォーによる木造耐火を始めました。遅れること2年、在来軸組工法の木住協(日本木造住宅産業協会)が耐火構造認定を取得しています。それぞれ、各協会に費用を払って講習会を受講し、登録して初めて使う権利を得られます。
 しかし2018年3月、全ての部位に、告示化された所定のせっこうボードを被覆することで、誰でも木造耐火ができるようになりました。

■コストや工期など、木造にはさまざまなメリットがある
 準防火地域や防火地域など地域による規制、あるいは建物の規模によって耐火が要件になることがあります。例えば準防火地域で1,500m2を超える建築を建てるには、耐火建築物にする必要があります。通常は鉄骨かRCにするのが一般的でしたが、最近は木造も選択肢に入ってくるようになりました。いずれにせよ地域や規模によって法規上の制約が存在します。
 木造の耐火建築物に関する統計を見ると、現在6,000棟をはるかに超え、かなりの棟数となっていることが分かります。この統計は今後取れなくなる見込みです。これまでは各協会が耐火の認定に相当な制約をかけていたため、使用ごとに記録が可能でした。今後は確認申請のみで、従来のように公に記録される機会がなくなるわけです。
 当社はせっこうボードメーカーなので、「告示化されたせっこうボードの張り方を教えて」といった問い合わせが多くなっています。告示を利用して耐火を使いたいという意向が非常に増えていると感じます。
 木造には次のようなメリットが考えられます。
○減価償却期間が他構造よりも短い。木造で22年、鉄骨32年、RC47年です。高齢者施設や店舗では減価償却期間の短さは非常に重要なポイントになります。
○工期が短い。木造にはプレカットという優れた技術があり、同じm2数の建物ならRCより木造のほうがずっと早く完成します。
○断熱性に優れる。木造耐火で外壁をつくった建物の熱貫流率は40〜55%と、外部からの熱をかなり抑えられることが分かりました。
○狭小地でも小回りが利く。RCや鉄骨は重機を使うので、近隣が住宅地だとクレームの原因になります。そういう意味では近隣との摩擦も少なくなるという考え方ができます。
○コストが低い。相場や建物にもよるので必ずとはいえませんが、要件によっては安く済むことも多いです。また、減価償却費にも触れましたが、トータルでみると安いという考え方もあります。
○重量が軽い。地盤補強のコストが抑えられます。

■吉野石膏の木造耐火のつくり方
 木造耐火のつくり方にはいろいろな考え方があります。世の中で9割方使われているのが「メンブレン型」。木材が炭化しないようにせっこうボードを張って被覆する方法です。鉄骨と木材で耐火構造をつくる「ハイブリッド型」は、構造躯体を木で表したシンボリックな建物に適していると思います。「燃え代被覆型」は、竹中工務店様で開発されたような、モルタルで燃え止まり層をつくるといった考え方。この三つの考え方の中で当社ができるのは、基本的にはメンブレン型です。
 木造耐火には、省令準耐火・準耐火・耐火というグレードがあります(図1)。省令準耐火とは、金融支援機構のフラット35の融資基準になるような優良住宅の耐火性能のこと。間仕切壁でいうと、12.5mmのせっこうボードを1枚張るとフラット35の省令準耐火仕様におおむね該当するようになっています。
 準耐火は、45分なら15mmのせっこうボードを1枚ずつ張り、60分なら12.5mmを2枚重ねして25mm分の被覆にします。耐火になると、21mmの強化せっこうボードを木材の両面に2枚ずつ張り、42mmの被覆を行わねばなりません。
 日本ツーバイフォー建築協会と木住協の耐火設計を行う場合、有料の講習会を受講すると、非常に丁寧なマニュアルがもらえるので、その通り実施すればうまくいきます。しかし告示を使う場合は、日本建築センターの『木造建築物の防・耐火設計マニュアル』を購入する必要があります。耐火だけでなく、防火・準耐火全ての耐火の納まり、被覆材の埋め付け方などが掲載されています。

■各部位の告示仕様の概要について
 告示には「合計○○mm以上」としか書かれていません。例えば「合計27mm以上」なら、15mmと12.5mmを組み合わせると告示を満たすことができます。46mmの場合は25mmと21mmを組み合わせます。
 間仕切壁には21mmを2枚組み合わせます。外壁になると、耐火構造は外装の仕上げ材が必要になります。木造耐火の外壁は何を張ってもいいわけではなく、外装材にも指定があります。窯業系サイディング張り、金属板張り、モルタル塗り、漆喰などが該当し、限定されているので注意が必要です(図2)。
 柱はとにかくせっこうボードで巻きます。間仕切なら42mmですが、柱が独立すると46mmの被覆が必要です。梁も柱と同じく、独立すると46mm必要です。床は表側が42mm、下階の天井側は46mmとなります。屋根は30分耐火で27mmの被覆です。告示には屋根材の指定がないので、屋根の直下に27mm分の強化せっこうボードを張れば耐火になります。階段を木でつくる場合は、踏み面、蹴込み、階段裏、全て27mm分のせっこうボードで巻く必要があります(図3)。

■柱・梁・枠材などを隙間なく連続して覆う
 木造耐火で難しいのは納まりと設備計画です。例えば被覆してある天井は、照明のための切り欠きができない場合もあります。メンブレン木造耐火の基本的な考え方は、躯体の木材が露出しないよう、“一筆書き”でボードがつながるように覆うというものです。通常、開口部周りにボードは張りませんが、木造耐火ではボードを張って木材が炭化しないように守らなければなりません。とにかく一筆書きでボードが途切れないようにすることが重要なのです。
 開口部周りの納まりを見ると、まさに一筆書きでぐるりと回していることが分かります。準耐火までならスタッドと枠を直接止めることができますが、木造耐火の場合は躯体をまず守った上で枠を付けるので、一般的な建物とは考え方が異なります(図4)。基礎の土台の立ち上がり側面も独特です。準耐火では土台の側面にボードを張りませんが、耐火の場合は張る必要があります。先に立ち上がり部分だけボードを張っておき、その後に床を載せるといった作業が必要になります。「張れば何でもいい」のではなく、こうした細かい部分の納まりも確認しなければなりません。
 天井の配管の納まりも重要なポイントです。横引きのダクトを躯体の耐火部分に入れるのは非常に困難です。そこで天井をもう一重つくり、そこに穴を開けるわけです。今私たちがいるこの部屋の天井は、裏側に耐火構造のスラブがあってそこで耐火性能を確保しているため、穴を開けても大丈夫なのです。木造の場合、穴を開けると耐火被覆が切れてしまうので、部分的に二重天井を計画する必要性も出てきます(図5)。
 照明器具も、天井を切り欠けないわけではありませんが、10cm角程度しか開けられないうえ、後処理も大変です。従ってこの場合も二重天井がよく使われています(図6)。床下も、二重床にして配管を引くことが多いです。アパートなどで木造耐火を行う場合、階高なども変わるのでこうした計画が重要になってきます。
 木造にこだわり過ぎると生産性を欠くおそれがあります。例えば階段で、踏み面から何から全部せっこうボードを張るとやはり大変です。従ってアパートなどでは鉄骨階段を使うことも多いです。

■自社の社宅で木造耐火のあり方を表現
 最後に兵庫県内で建設中の当社社宅を紹介します。延床面積約2,000uの3階建て木造耐火で、竣工は2018年12月の予定です。構法はツーバイフォー。耐火だけでなく、ZEH仕様の省エネ住宅であることも特徴です。壁の仕様は、日本ツーバイフォー建築協会の認定を使いつつ、告示化されたものも使っています。着工が2月、告示化が3月だった関係上このようになりました。
 床の構造はツーバイフォーの個別認定を使っています。木造である程度の遮音を確保するために、大手メーカーから協力を得て、特殊なゴムを敷いて床遮音を実現しました。断熱用のグラスウールには、当社傘下である旭ファイバーグラスの「アクリア」を採用し、外壁、外周面、屋根に140mmのものを使いました。
 基礎の部分ですが、ツーバイフォーでは土間コンクリートを打った後に、下枠という、土台の代わりになるような材料を立ち上げて、その上に床板を載せていきます。施工写真から、せっこうボードを仕込んでいる様子が分かると思います。
 この建物を鉄骨でつくった場合、コストは1.1倍、RCなら1.3倍かかるそうです。工期は、この建物が10カ月であるのに対し、鉄骨は同じく10カ月、RCは1年とのことでした。木造躯体を表すことは、それ自体日本的な考え方で素晴らしいと思います。さらに生産性だけにスポットを当ててみても、木造が最も生産性が高いのではないでしょうか。生産性も考えつつ木造建築をつくることを考えれば、このような建物が増えてくるのではないかと個人的には思います。

 



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