■国の告示化により、誰でも木造耐火が可能に
2000年に建築基準法が改正され、性能さえあれば木造でも耐火構造が認められるようになりました。ここ数年は、国の推進と共に木造の普及がようやく進み始めています。もともとは、雇用創出を目指して林業の活性化を図ったのがスタートで、収穫した木をなるべく低層の建築に利用できるようにと、公共建築物等木材利用促進法が出されました。
改正建築基準法に注目したのが日本ツーバイフォー建築協会でした。2004年に日本で初めて木造の耐火構造認定を取得し、ツーバイフォーによる木造耐火を始めました。遅れること2年、在来軸組工法の木住協(日本木造住宅産業協会)が耐火構造認定を取得しています。それぞれ、各協会に費用を払って講習会を受講し、登録して初めて使う権利を得られます。
しかし2018年3月、全ての部位に、告示化された所定のせっこうボードを被覆することで、誰でも木造耐火ができるようになりました。
■コストや工期など、木造にはさまざまなメリットがある
準防火地域や防火地域など地域による規制、あるいは建物の規模によって耐火が要件になることがあります。例えば準防火地域で1,500m2を超える建築を建てるには、耐火建築物にする必要があります。通常は鉄骨かRCにするのが一般的でしたが、最近は木造も選択肢に入ってくるようになりました。いずれにせよ地域や規模によって法規上の制約が存在します。
木造の耐火建築物に関する統計を見ると、現在6,000棟をはるかに超え、かなりの棟数となっていることが分かります。この統計は今後取れなくなる見込みです。これまでは各協会が耐火の認定に相当な制約をかけていたため、使用ごとに記録が可能でした。今後は確認申請のみで、従来のように公に記録される機会がなくなるわけです。
当社はせっこうボードメーカーなので、「告示化されたせっこうボードの張り方を教えて」といった問い合わせが多くなっています。告示を利用して耐火を使いたいという意向が非常に増えていると感じます。
木造には次のようなメリットが考えられます。
○減価償却期間が他構造よりも短い。木造で22年、鉄骨32年、RC47年です。高齢者施設や店舗では減価償却期間の短さは非常に重要なポイントになります。
○工期が短い。木造にはプレカットという優れた技術があり、同じm2数の建物ならRCより木造のほうがずっと早く完成します。
○断熱性に優れる。木造耐火で外壁をつくった建物の熱貫流率は40〜55%と、外部からの熱をかなり抑えられることが分かりました。
○狭小地でも小回りが利く。RCや鉄骨は重機を使うので、近隣が住宅地だとクレームの原因になります。そういう意味では近隣との摩擦も少なくなるという考え方ができます。
○コストが低い。相場や建物にもよるので必ずとはいえませんが、要件によっては安く済むことも多いです。また、減価償却費にも触れましたが、トータルでみると安いという考え方もあります。
○重量が軽い。地盤補強のコストが抑えられます。
■吉野石膏の木造耐火のつくり方
木造耐火のつくり方にはいろいろな考え方があります。世の中で9割方使われているのが「メンブレン型」。木材が炭化しないようにせっこうボードを張って被覆する方法です。鉄骨と木材で耐火構造をつくる「ハイブリッド型」は、構造躯体を木で表したシンボリックな建物に適していると思います。「燃え代被覆型」は、竹中工務店様で開発されたような、モルタルで燃え止まり層をつくるといった考え方。この三つの考え方の中で当社ができるのは、基本的にはメンブレン型です。
木造耐火には、省令準耐火・準耐火・耐火というグレードがあります(図1)。省令準耐火とは、金融支援機構のフラット35の融資基準になるような優良住宅の耐火性能のこと。間仕切壁でいうと、12.5mmのせっこうボードを1枚張るとフラット35の省令準耐火仕様におおむね該当するようになっています。
準耐火は、45分なら15mmのせっこうボードを1枚ずつ張り、60分なら12.5mmを2枚重ねして25mm分の被覆にします。耐火になると、21mmの強化せっこうボードを木材の両面に2枚ずつ張り、42mmの被覆を行わねばなりません。
日本ツーバイフォー建築協会と木住協の耐火設計を行う場合、有料の講習会を受講すると、非常に丁寧なマニュアルがもらえるので、その通り実施すればうまくいきます。しかし告示を使う場合は、日本建築センターの『木造建築物の防・耐火設計マニュアル』を購入する必要があります。耐火だけでなく、防火・準耐火全ての耐火の納まり、被覆材の埋め付け方などが掲載されています。
■各部位の告示仕様の概要について
告示には「合計○○mm以上」としか書かれていません。例えば「合計27mm以上」なら、15mmと12.5mmを組み合わせると告示を満たすことができます。46mmの場合は25mmと21mmを組み合わせます。
間仕切壁には21mmを2枚組み合わせます。外壁になると、耐火構造は外装の仕上げ材が必要になります。木造耐火の外壁は何を張ってもいいわけではなく、外装材にも指定があります。窯業系サイディング張り、金属板張り、モルタル塗り、漆喰などが該当し、限定されているので注意が必要です(図2)。
柱はとにかくせっこうボードで巻きます。間仕切なら42mmですが、柱が独立すると46mmの被覆が必要です。梁も柱と同じく、独立すると46mm必要です。床は表側が42mm、下階の天井側は46mmとなります。屋根は30分耐火で27mmの被覆です。告示には屋根材の指定がないので、屋根の直下に27mm分の強化せっこうボードを張れば耐火になります。階段を木でつくる場合は、踏み面、蹴込み、階段裏、全て27mm分のせっこうボードで巻く必要があります(図3)。
■柱・梁・枠材などを隙間なく連続して覆う
木造耐火で難しいのは納まりと設備計画です。例えば被覆してある天井は、照明のための切り欠きができない場合もあります。メンブレン木造耐火の基本的な考え方は、躯体の木材が露出しないよう、“一筆書き”でボードがつながるように覆うというものです。通常、開口部周りにボードは張りませんが、木造耐火ではボードを張って木材が炭化しないように守らなければなりません。とにかく一筆書きでボードが途切れないようにすることが重要なのです。
開口部周りの納まりを見ると、まさに一筆書きでぐるりと回していることが分かります。準耐火までならスタッドと枠を直接止めることができますが、木造耐火の場合は躯体をまず守った上で枠を付けるので、一般的な建物とは考え方が異なります(図4)。基礎の土台の立ち上がり側面も独特です。準耐火では土台の側面にボードを張りませんが、耐火の場合は張る必要があります。先に立ち上がり部分だけボードを張っておき、その後に床を載せるといった作業が必要になります。「張れば何でもいい」のではなく、こうした細かい部分の納まりも確認しなければなりません。
天井の配管の納まりも重要なポイントです。横引きのダクトを躯体の耐火部分に入れるのは非常に困難です。そこで天井をもう一重つくり、そこに穴を開けるわけです。今私たちがいるこの部屋の天井は、裏側に耐火構造のスラブがあってそこで耐火性能を確保しているため、穴を開けても大丈夫なのです。木造の場合、穴を開けると耐火被覆が切れてしまうので、部分的に二重天井を計画する必要性も出てきます(図5)。
照明器具も、天井を切り欠けないわけではありませんが、10cm角程度しか開けられないうえ、後処理も大変です。従ってこの場合も二重天井がよく使われています(図6)。床下も、二重床にして配管を引くことが多いです。アパートなどで木造耐火を行う場合、階高なども変わるのでこうした計画が重要になってきます。
木造にこだわり過ぎると生産性を欠くおそれがあります。例えば階段で、踏み面から何から全部せっこうボードを張るとやはり大変です。従ってアパートなどでは鉄骨階段を使うことも多いです。
■自社の社宅で木造耐火のあり方を表現
最後に兵庫県内で建設中の当社社宅を紹介します。延床面積約2,000uの3階建て木造耐火で、竣工は2018年12月の予定です。構法はツーバイフォー。耐火だけでなく、ZEH仕様の省エネ住宅であることも特徴です。壁の仕様は、日本ツーバイフォー建築協会の認定を使いつつ、告示化されたものも使っています。着工が2月、告示化が3月だった関係上このようになりました。
床の構造はツーバイフォーの個別認定を使っています。木造である程度の遮音を確保するために、大手メーカーから協力を得て、特殊なゴムを敷いて床遮音を実現しました。断熱用のグラスウールには、当社傘下である旭ファイバーグラスの「アクリア」を採用し、外壁、外周面、屋根に140mmのものを使いました。
基礎の部分ですが、ツーバイフォーでは土間コンクリートを打った後に、下枠という、土台の代わりになるような材料を立ち上げて、その上に床板を載せていきます。施工写真から、せっこうボードを仕込んでいる様子が分かると思います。
この建物を鉄骨でつくった場合、コストは1.1倍、RCなら1.3倍かかるそうです。工期は、この建物が10カ月であるのに対し、鉄骨は同じく10カ月、RCは1年とのことでした。木造躯体を表すことは、それ自体日本的な考え方で素晴らしいと思います。さらに生産性だけにスポットを当ててみても、木造が最も生産性が高いのではないでしょうか。生産性も考えつつ木造建築をつくることを考えれば、このような建物が増えてくるのではないかと個人的には思います。
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