■コンパクトシティ化による事業内容の変化
2015年に7,200万人だった生産年齢人口は、2030年に6,773万人に減少すると予想されています。高齢者人口は2030年、75歳以上が25%以上になり、しかもそれが三大都市圏に集中します。また、居住地域の22%が無居住化するというデータもあります。
国でもいろいろと施策をとっています。人口が減少している地方中核都市で居住誘導区域が策定されるコンパクトシティ化もその一つです。
それに伴い当社も「まちなかソリューション」と銘打って、郊外型住宅から都市型住宅に商品ラインナップを変えています。90ミリパネルより断熱性や剛性の高い120ミリパネルを標準化し、ZEHに対応できるようになりました(図1)。
ガレージは、狭小地や防火地域での需要を見込んでいます。都市部では大開口のインナーガレージが必要になってきます。木材の工法は4mしかスパンが取れませんが、5m以上取れると車が2台並べられるので、当社も大開口フレームのガレージをつくろうと試みています。
リフォームもずいぶん変わってきました。キッチンなど水まわりを新しくするのは、私たちはメンテナンスの延長と考えます。これからの高齢化に伴い、高齢化した後のことを考えたのが「そなえるリフォーム」です。断熱性や安全性の基本的スペックは押さえ、加えてリフォームで先行配管(将来専用トイレを設置できるように)、建具の工夫、移動経路確保などを行います。そして将来の個別対応として、専用トイレや介助スペース、外部アプローチ、手すり設置などを低コストで提供するわけです。このように、将来高齢化したときのことを考えて備えるための商材ラインナップを今つくり始めています。リファイニングとは大掛かりなリフォームのようなものです。築36年の専門学校をマンションにした事例がありますが、リファイニングは今都市部で非常に人気です。当社でもこれから積極的に進めていきたいと考えています。
■コンパクトシティとまちづくり
コンパクトシティの一番のメインはまちづくりです。千葉県で、病院の建て替えに伴って隣にバリアフリーの商業施設と高齢者向けマンションを建てた事例があります。秋田市のCCRC事例も紹介しています。CCRCとは、元気なうちからマンションを購入し、介護や医療が必要になってもそこに住み続けられるような建物のことです。このようなスマートウェルネス拠点整備もこれからやっていかねばならないと考えています。
まちづくりに公園は欠かせません。しかし都市部の公園は夜間危険だとされています。都市公園をこれからどうきれいに整備してコミュニティに活用していくのか、それに伴ってどのような商材が必要なのか、国内ではまだ着手されていませんが、公園資材はこれから必ずビジネスになります。高齢者も安心できて楽しめるような公園資材の開発は、当社も急ピッチで進めております。
建物だけを建ててもだめで、病院とマンションのCCRCプラス都市公園の整備が、あるべきビジネスモデルではないかと思います(図2)。
■省エネ対策補助金による市場の形成
省エネ対策補助金によって市場がかなり変わってきています。最もインパクトが大きかったのはLED。発売当初に比べて今は40%の価格になりました。LEDは今や国内でほぼ100%普及したと言っても過言ではありません。しかしLEDは長寿命なのでLED業界は喜べないわけで、今後LEDの付加価値がますます必要になってきます。
2番目の市場インパクト、太陽光発電(PV)は2014年に補助金が終了したとたんに落ちてきました。住宅はZEHの補助金があるので横ばいで、非住宅が落ちています。欧米では送電線がネットのようにつながり、電気がループしているので、ある州で電気がなくなっても隣の州から融通できます。日本ではなかなかそれができない。従って欧米では電力の買取が制限されることもありません。日本ではいろいろなしがらみがあり、それに引っ張られて太陽光発電が減少しています(図3)。
3番目のエコキュートは累計500万台を超え、補助金が終了しても横ばいである程度の地位を確立しました。エネファームやハイブリッド給湯器などの競合が出て来たため伸びは鈍化しています。4番目のエネファームは補助金が今出ていますが、高価なので補助金が終了すればこれ以上の普及は厳しくなるでしょう。5番目がエコカーですが、車もかなり値段が下がり、ハイブリッドカーもスタンダードになってきました。
日本人の「エコ」は、環境保全より節約の意識が強いので、補助金がないと買いません。環境保全の意識が強いヨーロッパでは、若干高価でも買われています。
■全ての世代に共通の消費動向からビジネスを考える
これまで社会動向(国策)による市場について話してきました。当社だけでなく他社も同じことをしていると思います。しかし本当にそれだけでいいのでしょうか。本当に補助金や市場動向だけで会社を運営していてもいいのでしょうか。日本が財政破たんすると、一緒に企業も倒産してしまいます。これからは将来の消費動向を考えていかないといけません。
補助金は麻薬のようなもの。エコの補助金が出るからといって断熱性能アップにどっと流れる、介護の補助金が出るとなったら今度はそちらの開発に流れる。しかしこれだけをやっていると必ず死角が生まれます。
全ての世代に共通の消費動向は「健康と美容」です。マイクロバブルなどの水質改善品、男性用美容商品はかなりの伸びを見せています。当社の商品でいうと、PM2.5対応の高性能フィルターが隠れたヒット商品になっています。また、調湿建材、プラズマクラスターイオンによる空気浄化なども伸びています(図4)。
CSの観点でいうと、今最もポイントが高いのが提案型です。さらに、迅速な対応が満足度に大きな影響を与えることが、当社自身のクレーム対応から明らかになっています。
■これからの現役世代の動向
今、お金を出すのは祖父母の世代ですが、ものを決めるのはこれからの現役世代、若い人々です。その割に私たちは現役世代のマインドを知らない。これからの現役世代といえば、シェアリング、スマホによるヘルスケア、ICによる自動化、AIスピーカー、ビットコイン、テレワーカー、ハイパーループ……などがあります。
当社の部材購入の動向予測(2000年→2025年)では、外部部品は7%落ちます。セキュリティは今、付加価値としてお客様がお金を出してくれますが、2020年以降はそれが当たり前になってきます。当たり前イコール価格競争になります。内部部品も落ちますが、まだ光は当たっています。自然志向、健康志向もあってインテリアにはお金をかけています。設備(AIや通信)はもちろん拡大します。
20代前半から30代半ばくらいまでの、これからの現役世代の特徴について。キーワードは「共感」で、「自分がこう思う」よりも「他人が自分を見てどう思うか」にウェイトが置かれています。昔、バブルの時代はブランドロゴを強調するファッションがもてはやされていましたが、今はファストファッションの流行にも見られるように、少しだけ背伸びしたファッションが主流です。あまりに背伸びするとSNSで「炎上」してしまうからです。さりげなくブランドが分かるようにして、友人から「いいね」と言ってもらいたいという気持ちを持っている……らしいです。
親子、特に母と息子の距離感が昔と比べて縮まっています。最近は若い男性の8割が化粧水を使っているらしいのですが、その化粧水を選んでいるのは母親です。若い男性が最も心を許して話せるのは、男の親友に次いで2位が母親というデータもあります。また、一生親と住むために二世帯住宅を買うのは、親ではなく息子や娘のほうが多くなっています。
例えばボランティア、チャリティ、応援消費、動物福祉などエシカル(倫理的、道徳的)な行動は、私たちの世代からすると若者特有のものに思えますが、ボランティア的な感覚は大人になって以降もずっと続くといわれています。一過性のものではないということです。
エシカル消費とは、環境配慮、地域配慮、人・社会的配慮のための消費のことです。エシカル消費はまだあまり認知されていません。「エコ」が91%、「フェアトレード」が47%の認知度であるのに対し、「エシカル」はわずか12%です。しかしこれは言葉の認知度であり、一度意味を説明すると45%の人が賛同し、それならすでにやっていた、という人は20%です。これらを合計すると90%程度になるのです。物心がついた頃からエシカルな感性を持っているのは日本人だけといわれています。
「それを買うことによって誰かの役に立つ」というのがフェアトレード商品です。児童労働や強制労働がなく、環境配慮がなされているもので、もともとはコーヒーから始まったようです。今テレビCMでフェアトレードをうたっている企業がフェアトレードのトップランナーとなるでしょう。フェアトレード市場は、イギリスが約1,500億円であるのに対し、日本はまだ16億円ですが、確実に伸びてきています(図5)。
■当社の取り組み事例
まだまだ道半ばではありますが、当社でもさまざまなものに取り組んでいます。名古屋のあるメーカーで製造されている車のドアトリムは、インドネシアケナフを使っています。その端材を当社が引き取り、デッキ材にしています。これでケナフ全体の3割くらいです。使用できる繊維の部分はケナフの周りだけで、心材部分だけがインドネシア農家の軒先に野積みになっている状態です。それをどうにかしないと100%貢献していることにはならないので、野積みの心材を建材にしてみる、珪藻土に混ぜてみるなど、いろいろ試しています(図6)。
こうしてできた完成品が、他商品と同性能、同品質なら、1割高でも魅力ある商材となります。そういう選び方をする現役世代が実際に増えているからです。
仕上材の植林木利用を現在試みています。アカシアやユーカリ、インドネシアチークは仕上材には不向きとされ、これまでチップなどにされてきました。植林木を基材ではなく仕上材にすることによって付加価値を上げ、その付加価値をマレーシアやインドネシアの人々に提供する。このようなビジネスモデルをオープンにすることによって全体の付加価値が上がっていきます。天然木のチークよりも意匠は劣るかもしれませんが、また別のところに付加価値が生まれると思います(図7)。
次にホタテ貝殻(北海道)の再利用です。ホタテ貝殻は炭酸カルシウムなので、肥料や石灰、珪藻土にしたり、凍結防止剤にしたり、あるいはそのまま装飾に使ったりと、意外と使い勝手がよい材料です。しかし残念なことに、洗浄された時点で北海道を離れ、加工工程に行ってしまうのが現状です。そこで、粉砕と焼成の工程までを現地で行い、付加価値を高める(戻す)ための活動を始めようと考えており、すでに現在一部で始めています。
■事業チャンスを高めるために
これからリサイクルをするなら、建築廃棄物よりも動植物系廃棄物のほうが脚光を浴びやすいと思います。例えば卵の殻は年間20万t出ています。バーク(樹皮)も、今多くが野積み状態ですが、燃料としてリサイクル可能なものです。
竹は、タケノコが中国産になってしまったうえ、竹材が樹脂に取って代わられたため放置竹林が増えている状況です。成長の極めて早い竹をこれからどうするかは非常に重大な問題です。漁業や造園にも利用されていますが微々たるものです。
お茶の茶殻は5万t、コーヒーかすは50万tにのぼり、これらは飲料メーカーは積極的にこれらのリサイクルに取り組んでいます。
カスタマーからすれば、「もの」よりも「こと」が大切です。「こと」とは、安全な労働環境の確保、共感意識、労働者の生活を守るしくみなどです。「もの」を売ってもそれがどのようにつくられ、買うことによって誰を幸せにするのか、これからの若い消費者はそこに敏感です。今や、CSR(企業の社会的責任)よりもCSV(共通価値創造)が重視されるようになりつつあります。加えて、世界で2,800兆円が投資されているESG投資(※1)、国連で掲げられた目標であるSDGs(エスディージーズ)(※2)の内容はこれからの現役世代の消費動向と合致していることが分かります(図8)。
今後事業チャンスを高めるためには、CSV、ESG投資、SDGsの3つの連携を取りながら、「もの」をつくるときにどうすれば現役世代の心をつかめるかを考えることが非常に重要になってくると思います。
※ 1 ESG 投資:環境(environment)、社会(social)、企業統治(governance)
に配慮している企業を重視・選別して行う投資のこと。
※ 2 SDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の
略で、「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」といった17 の目標が掲げられた。
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