2007けんざい
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建材情報交流会ニュース

 第52回
「VR、3Dなど先端技術で変わる建築の未来」

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基調講演
「バーチャルリアリティ(VR) ― その現状と課題」

 竹村 治雄氏 大阪大学 サイバーメディアセンター 教授
        日本バーチャルリアリティ学会 副会長
 

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■感覚器に刺激を与えて現実同様の感覚を生じさせる
 VR(Virtual Realty:仮想現実)とは、物理的には存在しないものを、感覚的に本物と同等の本質を感じさせる技術のことです。最も簡単なのは感覚器に刺激を与える方法です。例えば視覚器(目)の場合、皆さんが外界を見るのと同じ感覚を与えるということです。私たちは能動的に動くことができるので、絵を見ても、頭を動かしたり両目でよく見たりすると、それが本物ではなく平面に描かれた絵だということが分かります。しかし映画の中の遠景は、本物とCGや絵との区別がつきません。それはカメラがとらえた1視点からしか見ていないからです。
 VRでも、人間の行動を制約すると本物のように見えます。だまし絵などは、人間の三次元を復元する能力を利用しています。これをより正確に行うには、視覚器に刺激を与えると同時に、動いたときの刺激の変化を再現します。頭を動かすと違う方向の映像が見えるというのは、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)で実現されています。
 視覚のVRは、VR元年といわれるように、2016年はソニーの「Play Station VR」、パソコン用の「Oculus Rif(t オキュラスリフト)」(VRヘッドセット)や「HTC VIVE」が発売され、実用化のレベルに達してきました。聴覚的にもヘッドホンを使うといろいろなことができます。難しいのは嗅覚、触覚、味覚などです。他に平衡感覚、空腹感、吐き気といったものもあります。
 まず人の状態を計測し、それに対して刺激を生成して提示します。視覚なら、その人がどちらを見ているかを計測し、その方向から見た映像を生成して、何らかのディスプレイ装置を使って提示します。それを人が見て知覚し、違う方向を見るなどの反応を示したら、またそれに対して状態を計測し、刺激を提示する、これの繰り返しがVR生成のサイクルです(図1)。
 しかし計測には、センシング装置にもよりますが、時間がかかります。刺激を生成する(コンピュータグラフィックをつくる)のにも、計算機による計算時間が生じるし、それをディスプレイに表示するにもやはり時間がかかるわけです。こうしたタイムラグが人間の感覚でも分かる「遅れ」になってしまうと、自分が固定されている感覚がなくなるため、いわゆる「VR酔い」を引き起こします。

■VR・ARの変遷
 もともとは1958年、初めてHMDが提案されました。このときはまだ実現していません。1965年には最初のHMDがつくられました。これが初期のVRの動きです。1989年にNASAが船外活動をVRで行うためHMDが再び研究され、初の商用VRシステムが発売されました。このとき「バーチャルリアリティ」という言葉ができました。同年、筑波大学の岩田洋夫教授(VR学会会長)が「フォースディスプレイ」という国内初の力覚ディスプレイを開発しました。1991年にはイリノイ大学が立方体型ディスプレイ「CAVE」を開発しました。
 基本的なVRの概念はこの頃にかなり研究されましたが、問題はディスプレイの解像度が非常に低いことでした。しかしスマートフォンができて以降、5インチ程度の高解像な液晶が大量に生産されるようになったため、それをHMDに使えるようになりました。
 それでも、当時の液晶ディスプレイはまだコントラストが不十分でした。今の「Oculus Rift」や「HTC VIVE」は有機ELディスプレイ(高速応答でクリアな表現が可能な次世代パネル)を使っており、自ら発光するので“真っ黒”を出すことができ、リアリティが上がっています。2000年代は「PlayStation2」「ニンテンドーゲームキューブ」「Xbox」など、GPUと呼ばれる、高速に3次元のグラフィックが描画できる描画専用プロセッサを使ったゲームが多く出ました。そして2016年、「ポケモンGO」が出てAR(拡張現実)が広く知られるようになりました。

■VR実用化のためのインフラが整備されるまで
 トロント大学のP. Milgram教授の論文によると、実際には実環境(リアルな環境)から完全なVR環境までの間には連続性があります。実環境の一部をコンピュータの映像で拡張しているのが、いわゆるAR(Augmented Reality:拡張現実)。反対に、ほとんどがコンピュータでつくられている環境の中に現実のものを入れたのがAV(AugmentedVirtuality:拡張VR)。完全な実環境から完全なVR環境まで全てを含む環境が、いわゆるMR(Mixed Reality:複合現実)の考え方です(図2)。
 全ての考え方は90年代にすでにあったにも関わらず、開発に時間がかかったのは、いろいろな理由があります。例えば3Dプリンターが最近急激に普及したのは、特許が切れて誰でも生産・販売できるようになったからです。
 VRの場合は、センシングのサイクルが遅くてなかなか使い物になりませんでした。VRの研究者は、視覚刺激を遅らせて見せる実験も行いましたが、5分と見ていられないものでした。それが改善されてきたのは、技術が進んでセンシングが速くなってきたからです。
 刺激の生成もCPU、GPUで速くなり、ディスプレイも有機ELのように高解像度のものが登場、通信も速くなりました。こうしたインフラが整備されるまでに時間がかかったのです。カメラの進歩もありました。90年代はCCDカメラがメインでしたが、今はいろいろな使い方ができるCMOS(シーモス)カメラが主流です。
 皆さんにはこれからデモをご覧いただきます。一つは梅田地下街の経路探索実験で、浸水したときなどにどうやって逃げるかという避難シミュレーションです。法令に従った速度で避難すべき場所に向かって歩いたときに、どんな渋滞が発生するか、そして定められた時間内に逃げられるか、シミュレーションするものです。もう一つは、パリの郊外にある、建築家のル・コルビジェによるサヴォア邸という建物をCGで再現したものです。見ている人が立っているところから視点追従をして、建物の内外が見られるようになっています。
【来場者の多くがHMDを装着してデモンストレーションを体験】
 これは大学だけで使っているのではないので、申し込めば皆さんの会社でも使うことができるオープンなサービスです。

■ARにおける映像合成について
 T.Azumaが論文で定義したARの3要件というものがあります(図3)。@リアル+バーチャルつまり合成写真、Aリアルタイムつまり2次元GU(I グラフィカルユーザーインタフェース)、B3Dコンテンツつまり3次元CGソフトのことです。@とAを合わせればウェアラブルコンピュータ、AとBならVR、@とBなら映画やテレビ、CM、そして3要件全て合わさるとARやMRになるという考え方です。しかし、それぞれに解決すべき問題があります。
 ARにおける映像合成は、例えば網膜への直接投影、接眼光学系によるHMD、あるいはハンドヘルドディスプレイ(手で保持するもの)やハーフミラーを用いた据置型ディスプレイなど数種類あります。プロジェクションマッピングのように、プロジェクタを使って物体の上に情報を投影するものもあります(図4)。
 各映像合成手法に特徴があり、有利な点や不利な点もあります(図5)。HMDは環境によらず映像を提示でき、屋外や多人数に向いています。例えばコンピュータに、建物の中の配管の位置データが全て入っていると、それに接続したHMDやハンドヘルドによって、壁の裏にある配管を見ることができます。
 しかしHMDは、軽くなったとはいえ、普段メガネをかけていない人にとっては、装着するとかなり違和感があります。「Google Glass」の販売が中止になってしまったのは、メガネだけではなくカメラもついており、いろいろ問題があったのでしょう。結局「Google Glass2」という形で、日常的なものではなく、特殊な仕事のときにかけるものとして復活するようです。
 ハンドヘルドは、カメラがついたスマートフォンのような機械で撮影してCG画像を合わせる、「ポケモンGO」のような方式です。立体視やハンズフリーができないという問題もあります。ハンドヘルド型は、現在東京大学教授の暦本教授が1995年に「Navi Cam」をつくったり、奈良先端大学院大学の加藤教授が1999年に「AR Tool Kit」を開発したりしています。
 HMDもさまざまな試行錯誤をくり返しています(図6)。1995年にはすでに「I/O Glasses」が、コンシューマー対応のHMD兼オプティカルシースルーHMDとして発売されていました。小さな液晶テレビを見ているのと同等で、画角がせまく解像度も低いので、かぶって見るメリットがありません。このレベルではまだまだですが、AR用途、つまり現実の世界が見えていてその中に情報を提示するなら何とかなるだろうと考えられました。
 そこからいろいろと変遷し、欠点も改善され、今ようやく、「Oculus Rift」「HTC VIVE」「Play Station VR」を足して200万台くらいのHMDが世の中に出回っています。
 Spatial Augmented Realityは、今でいうプロジェクションマッピングと似たものです。プロジェクションマッピングは単に建物の上に映像を映すだけなのですが、対象物の形を把握した上で投影するとさらにいろいろなことができます。例えば「MicroSoft IllumiRoom」では、ゲーム画面の周りにプロジェクタで風景を映し出すことによってさらなる臨場感を生み出すことができます(図7)。

■竹村教授が取り組むさまざまなVR研究
 私の研究についても紹介します。「広視野視線検出装置」、これは視点を検出するゲイズトラッキングカメラです。眼球を正面から見た画像が得られ、ちょうど目の位置から見た映像と同じものが撮れます。
 「マルチビューポートVRインタフェース」は、難しかったVR空間内での大移動を可能にするものです。簡単にいうと“VR型どこでもドア”です。自分でどこでもドアをつくり、そこを通り抜けることによって大きな距離の移動を簡単にしました(図8)。
 「単眼カメラによる指さし位置の推定」は、カメラによって利用者の指さし位置を推定するもの。普通は3次元計測が必要なところを、これは画像による学習だけで推定することができます。
 「ハンドヘルドデバイスを用いたVRインタフェース」はVR空間中のナビゲーション。遠くにあるものを、ハンドヘルドデバイスで空間を歪めて近くに引き寄せる、といったことができます。
 「PTAMを用いたARモデリングとオーサリング」では、PTAM(ピータム:Parallel Tracking and Mapping)を用いて3次元のモデリングを可能にします。そこにあるものを3次元オブジェクトと指定してコピーをつくり、コピーをAR環境の中に落として動かし、ARジオラマを実現するものです。
 「複数のマルチタッチパッドを用いたインタラクション」は、複数のマルチタッチパッドを用いた両手操作による3次元ユーザインタフェースの提案です。
 「PBVRによる大規模ボリュームデータの可視化」は、口の中の空気の流れをシミュレーションした結果を可視化することができます。
 「ARにおける動的テキスト配置手法」は、AR画面の明るさの均一性を解析して、ディスプレイの文字表示を読みやすい場所に持っていこうとする研究です。他にもいろいろな研究に取り組んでいます。

■建築分野での応用について
 建築分野では、視覚的なVRを用いたウォークスルーはすでに実用化されています。HMDを使って間取りを見たり、物件の360°写真を撮ってコンピュータやスマホで見回すことができます。視覚、聴覚はある程度可能ですが、住環境の評価に必要な触覚や力覚は限定的です。例えばキッチンの高さを見たり、引き出しを開けたりはできますが、開けるのにどれくらい力が必要なのか、防音ドアはどれくらい開けにくいのか、特定の部屋がどの程度暑くなるのか、といったことまでVRで再現するのは現状では困難です。
 建築現場でも、ウェアラブル機器の発達によってさまざまな応用が考えられますが、あくまでも情報の提示がメインでしょう。図面通りに施工できているかの確認や作業手順の指示などはできるかもしれません。しかし正確な位置合わせを伴うARが利用可能かどうかは、まだ研究が必要かもしれません。
 省エネ住宅の断熱性能などの可視化など、環境評価に関しても応用は可能だと思います。ビル風が、より広い環境になったときにどの程度強くなるかといったシミュレーションは実際に行ったことがあります。
 大きなもののスケール感をうまく再現するのは非常に難しく、HMDをかぶっても個人差が大きいのです。大きな高解像度ディスプレイで正しく視点追従すると、かなり正確になりますが、それでは視点追従している1人にしか分からないことになります。建築分野への応用には、そのあたりを検討することが必要でしょう。最近は産学連携の共同研究が活発なので、「このようなニーズがある」といったお話をいただければ一緒に取り組むこともできると思います。
  


「施主に視覚で訴える! 3D建築CADシステム」
 福井コンピュータアーキテクト
  安田 茂男氏  住宅メーカー推進室 室長
  高橋 かおり氏 住宅メーカー推進室
 

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■断熱なども一元処理できる3D建築CADシステム
 当社は福井に本社を持つ福井コンピュータグループの子会社で、建築CADソフトウェアを扱っています。協会会員の方々の中にもユーザーがいらっしゃるのではないかと思います。常にお客様の声に耳を傾け、営業担当やカスタマーサポートセンターなどを通して、福井の開発本部で一貫して開発を行うのが当社の体制です。基本は全て内製化を前提にしており、いち早くバグを修正したり、新商品のリリースにつなげたりできるような努力をしています。
 「ARCHITREND ZERO(アーキトレンドゼロ)」はプレゼン、申請、積算まで一気通貫で処理できる3D建築CADシステムです。3DなのでVR、MRにもデータ連携しています。昨今この業界では省エネがテーマになっており、省エネ基準を満たす商品の開発に取り組んでいます。プランのデータから断熱計算などを一元処理し、それに伴う各説明も自動生成する仕組みです。部材の自動集計、積算、見積もりが素早くできるため、営業的にも利便性が高く、部材の受発注までつなげられるようなシステムになっています。
 このようなデータを、エクセルあるいは他社の見積もりソフトに書き出せるようになっており、さまざまなシステムとの連携を重視しています。実際にVR、MRへのモデリングをつくるためにこのソフトをどう活用するのかを、図面を使って解説します。
■図面からパースを自動作成、設計業務を効率化
 弊社のソフトで描いた図面があります。この図面から上がったパースが、VRやMRにつながっていきます。では具体的な操作説明に入ります。まず部屋を選び、部屋の領域を入れます。すると自動的に壁、内壁外壁、外部仕上げなどが作成されます。次に建具を入れていきますが、和室なら障子といったように、各部屋に合った建具が選ばれます。本日は、さらにキッチンなど他の箇所も入力し終えたデータをデモのためにすでに用意しております。まとめていくと、レイアウトが可能となります。
 これでパースを上げることができます。簡単なLDKと和室ですが、部品も入った状態で1階の間取りのパースができました。拡大や回転も自由なので、部分的な確認も可能です。図面とパースはリアルタイムで連動しているので、図面側で修正してもパース側で修正しても、両方に反映されます。屋根も簡単にかけることができます。屋根をかける前から形状を確認できるようになっております。デモの屋根は寄棟で、勾配などの数値変更が可能です。
 1階、2階、屋根も全て描かれた状態のものを、一括立ち上げします。現状は平面図と屋根と天井ですが、ここから4面の立面図が現われ、選ぶべきものも自動で立ち上がります。ここでは立面図と外皮計算を一気に立ち上げました。耐震や省エネはこの外皮計算ソフトで簡単に作成できます。
■省エネ性能・コストの「見える化」
 ここからは、テーマである3つの「見える化」についての話です。1つ目は省エネ性能・コストの見える化。皆さんは新聞に挟まれる住宅広告のチラシを見てどのように思われますか? 「坪60万円」「高性能住宅」などのワードが並んでいます。この「高性能住宅」というワードに焦点を当ててみます。
 このようなワードを見ても、何と比べて高性能なのか分かりません。しかし具体的な数値が明確になっていれば分かりやすいと思います。住宅チラシと同様、車のチラシもよく見られます。車を購入する際、デザイン、性能、価格を気にされるでしょう。リッター何km走行可能なのかという燃費も気になれば、保険や税金、駐車場代にいくらかかるのか、なども考えるでしょう。ここで悩むのがイニシャルコストとランニングコストの問題です。
 先ほどの「高性能住宅」に話を戻します。皆さんがマイホームを建てるとき、建築費用が2,350万円の住宅と2,670万円の住宅、どちらを選ばれますか? これだけでは判断しかねるのが当然だと思います。では、月々の支払いが6万6,799円と7万4,456円なら? これでもなかなか判断は難しいですね。Ua値(断熱性能の指標)0.87と0.60では? と言われてもUa値が分かりにくい。
 住宅は、車と同じでイニシャルコストとランニングコストの両方がかかります。ここが説明されていないチラシが多いのです。ライフサイクルコストを検証しないと、施主にとってどの提案が最も得になるのか分かりません。住宅の寿命を35年と仮定した場合、ライフサイクルコストはこのグラフのようになります(図1)。トータル金額が3,435万5,580円と3,337万1,520円、これなら比較する意味があります。エアコンやユニットバスなど、寿命のある住設機器の取り替えや外壁の張り替え、屋根の塗り替えなど、経年劣化に対する保守費用も検討しておく必要があります。
 そこで、施主に具体的な数値をグラフでご覧いただくのはいかがでしょうか(図2)。当社製品では、ZEH仕様(超高断熱+太陽光)、高断熱仕様、標準仕様という3通りのグラフが出せます。ZEH仕様は他の2仕様に比べ、住宅購入額は高額ですが、年間光熱費などを考慮すると、35年間のライフサイクルコストは最終的に逆転します。
 ZEH(ゼロエネルギーハウス)の普及によって、家庭のエネルギーの需要構造を根本的に改善し、エネルギーの消費量を大幅に削減することが期待されています。ZEHの経済的メリットを説明するソフトが現在多数リリースされ、イニシャルコスト、ランニングコストなどを施主に提示するために当社ソフトを利用されるケースも増えています。当社ソフトはプランの仕様を詳細に説明できる機能を装備しています。
■耐震・構造の「見える化」
 2016年4月の熊本地震は各地に大きな被害をもたらしました。なぜ建物が倒壊したのかを、建築基準法の概要と合わせて説明します。図3の写真をご覧ください。左右の建物は地震の揺れによって1階部分がつぶれた状態です。建築基準法が建物に求める耐震性能は、「大地震(建物の供用期間中に一度遭遇するかも知れない程度の地震)に対して(一度だけ)倒壊・崩壊せず、人命が守られる」というものです。人命が第一なので、この写真のような状態になった建物にはもう住むことができません。
 地震への対策は必要不可欠だと分かっていても、構造計算など自分ではできないし、プロに依頼すると設計費用がかさみます。地震多発国の日本では、今や耐震等級3が当たり前です。構造計画まではいかなくとも、プランを施主に提案する段階で「直下率」を検証することはさほど難しくありません。直下率とは、2階建て住宅で、1階と2階の柱壁が何%合致しているかを表すものです。建物の倒壊は、直下率の低さが大きな原因です。
 当社製品で直下率をシミュレーションした図があります(図4)。1階と2階の柱壁および、1・2階で重なっている柱壁を色で表示することができます。1・2階の柱壁がずれていることによって耐震性が弱くなることを、施主に分かりやすく伝えられます。
 当社ソフトとフリーソフトを活用することで、実際の建物を使った震動台実験と同等の内容をシミュレーションし、視覚的に確認することが可能になります。実際にシミュレーションをご覧ください。実際の実験では、1階手前の壁が崩れているのが分かります。次に、同じ建物をソフトでシミュレーションします。同じ震動で揺らしているのですが、補強されている部分が表示されており、実際の実験で崩れた壁を補強すれば崩れないということを施主に説明できるわけです。
 こうすることで、設計段階でどの部分が弱いのか、その設計で想定した強度が出ているのかを確認することができます。施主への営業段階では、耐震に対して自社設計の強みを視覚的にアピールすることができ、会社としての信頼性も伝えられて他社との差別化も図れます。例えば設計途中で躯体が変わるような変更があった場合、口頭ではなかなか危険性などを施主に理解してもらえませんが、シミュレーションを見てもらうことで、「ここに壁を入れないと強度が足りないんですよ」と視覚的に伝えられます。早い段階でプランを確定できるので、資材発注や工事スケジュールが立てやすく、経費削減にもつながります。
■さらなる「見える化」〜アクティブな仮想空間の体験
 「見る」プレゼンは、住設機器の高さなどが施主に伝わりにくいものです。図面で3割、プラスパースで6割くらい、さらにVRやMRで体感を加えると9割は伝わるでしょう。時代はVRからARを経てMRへ進みつつあります(図5)。医療現場でもVR、AR、MRを活用したサービスへの取り組みが始まっています。
 当社ソフト「リアルウォーカー」では、ウォークスルーしながら日当たりなどの状況を簡単にシミュレーションできます。また、MRシステムと連携することで仮想現実を体感することが可能です。実際にウォークスルーのデモをご覧ください。先ほど「ARCHITREND ZERO」の説明でお見せした建物をウォークスルーソフトで書き出すとこのようになります(図6)。晴れ、雨など天候が選べ、時刻に応じた日当たりも提示できます。
 中に入ると、どの部屋にどんな時間帯に昼間どれくらいの日が入ってくるのかも分かります。家の周りに建物を置いて、周囲の建物と日当たりの関係を確認することもできます。また、ゲームのコントローラーを使ってお客様に操作してもらうことも可能です。キッチンに立つ女性の目線、子どもの目線、といったように目線も自由に変えられます。過去のお客様の声で、ペットの低い目線にまでも対応可能です。
 図面とパースだけの提案よりは、省エネ、耐震などが分かる提案に加えて、ウォークスルー(MR)のある提案のほうが、よりお客様の心をつかむことができると思います。体感できる提案ならば、安心安全や性能が見え、施主の未来も見えるのではないでしょうか。

 


「MR(Mixed Reality)技術を用いた3Dデータの有効活用」
  (「見える」を「ある」へ)

 キヤノン梶@MR事業推進センター 部長
  村木 淳也  氏

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(PDFパスワード:Mreal2017)

 

■VR/AR/MRはエンターテインメントから産業用途へ
 VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)は、日々メディアで目にします。今までVRやARは、どちらかというとベンチャー企業が担っていましたが、次第に大手企業が参入して活況を呈しているというのが昨今の傾向です。この発表をするときに苦労するのは、体験しないとさっぱり分からないという点です。今日の話で、体験してみたい、あるいは皆様のお仕事で使えるのではないか、という方向につながればうれしく思います。
 VRは完全にコンピュータグラフィックスでできている世界、ARは「ポケモンGO」で知られたように、現実世界にキャラクターが登場する、つまり現実の中に仮想を重ねる世界です。MRは、現実と仮想を融合するもので、非常にリアルに見えます。
 2016年は約23億ドルの売り上げがありましたが、2021年にはそれが673億ドル(7.4兆円)というものすごい市場になると、調査会社は試算しています。別の会社の試算では、2025年には、ハードウェアだけで約4兆円のビジネスになると見込まれています。注目すべきは、ゲームやライブイベントなどのエンターテインメントよりも、エンジニアリング、ヘルスケア、不動産などの産業用途での市場が拡大するだろうと予想されていることです。
 今皆様が身近に感じているのはエンターテインメント分野だと思いますが、住宅関連でも徐々に活用され始めており、各社がいろいろな活用法を試している状況です。活用事例は多数ありますが、代表的なものとして図1をご覧ください。建設業、製造業、医療、小売業は、取り組みが注目される4業種です。
 左上の建設業は、入居する前にどんな住宅になるのかをVRで確認している事例です。右上の製造業は、MRを使ってCGの車を見ながらどのようなデザインに仕上げていくかを事前検証している事例。医療は歯科の事例で、まだ市場には出ていませんが、MRを使って歯科医のトレーニングをしている様子です。実際にレントゲンで撮った歯のデータをモデルの顔に重ねて、どう処置するかを事前にシミュレーションするわけです。小売業の例は車のショールームです。現物はありませんが現物同様の新車が見られていろいろと確認ができるようになっています。
 まだ定着とまではいっておらず、あくまでも試されている段階だと思います。試行錯誤の中で、どのような形でお客様あるいは企業の皆様が仕事に定着させていくかはこれからだと感じています。
 建設業での一例を紹介します。1億円超の邸宅を建設するにあたり、後でお客様からクレームが来ないように、VRを利用してイメージギャップの解消を試みた例です。歯科の例では、経験や勘に頼らない医療を実現するためにVRが活用されているそうです。
 少し前は、「すごい ! 」「本物みたい ! 」「画面で見るより臨場感がある」という驚きの反応がほとんどで、ビジネスとしてはまだまだ成り立たないものでした。今は徐々に価格が下がり、使いやすくなってきたという声が増えてきています。今後は、お客様のほうでも理解度が高まって、より現実的で高精度のものが求められる時代になってくるでしょう。
■合成映像、自由視点、実寸大…キヤノンMRの特長
 皆様にはキヤノンMR(Mixed Reality)の紹介ビデオをご覧いただきました。現実の場所に車を登場させて、みんなでデザインを見たり視認性を確認したりする様子が描かれています。同製品は、@実世界とCGを違和感なく一体化する合成映像で、A自由視点によって自分の見たい位置に動いて見たい場所を確認でき、B実寸大で体感できる、という特長を持っています。
 @の合成映像では、例えば手に持ったモックアップに実際の製品をぴったり合わせてデザインの雰囲気を確認したり、実際の部屋に物を置くとどうなるかを確認したりできます。Aの自由視点ですが、VRの場合は全てCGで目もふさがれているため、歩いて検証ができません。その点で、動いて自分の視点で見られるのは大きなメリットです(図2)。Bでは、目の前で触れるかのようにスケールを感じられ、乗り込む雰囲気までも体感でき、大変喜ばれています。お客様からの評価が最も高いのもこのBの部分です。
■試着、試乗するように“試住”ができる
 キヤノンMRシステムで何ができるか、実例を紹介します。現在活用しているのはほぼ製造業の方々です。大学を除くと、次に多いのが建築・建設業です。福井コンピュータアーキテクト様の「リアルウォーカー」と当社のMRのコラボで、大和ハウス工業様に新しいソリューションを提供しました。
 その成果として、大和ハウスの「トライエラボ」が2014年にオープンしました。「トライエラボ」は注文住宅の“試住”ができる施設です。洋服なら試着、車なら試乗ができますが、住宅の場合は一生に一度の買物なのに、なかなか“試しに住む”ことができません。特に注文住宅など自分で設計されるものは、ずっと設計図とにらめっこしながら「これはどうなるのか?」と想像したりディスプレイで見たりしますが、やはり後で手直しを求められることもあるようです。
 同施設の「トライエ バーチャル」は住まいを疑似体感できるスタジオ(バーチャルショールーム)です。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)をかぶり、自分が設計したパースを、部屋の中にいるかのようにして見られるのです。HMDをかぶっていない人も、かぶっている人の視点を横のモニターで一緒に確認できます。こうして、より深く納得してもらってから最終的な設計に入り、施工を始めることができます(図3)。
 このシステムによって、お客様の“納得感”が深まり、成約率も高まった、終わった後の手直しが大幅に減った、など高い評価が得られているそうです。これは当社にとっても非常に大きな実績だと考えています。
■その他建築・建設業界でのさまざまな活用事例
 大林組様では、実際の建物が建つ前に周囲の建築物との比較を行うことで、発注者や関係者との間でより正確なイメージを共有できるようになりました。例えば日が当たらなくなる、何かが見えなくなるなど、建設前との違いを確認して、高さや反射を検証するといった使い方をされています(図4)。
 JR東日本様では、安全フェンスを立てる位置を検証するのに活用されました。現実映像の上にCGの安全フェンスを重ね、人が通行する道幅が確保できているか、フェンスの高さは適切か、などの点を事前に確認してから、実際のフェンス製作、施工に入りました。
 空調機メーカーの三機工業様では、病室の空調設置に活用されました。病室では患者様に空調の風が直接当たらないようにしなければなりません。以前はフルバーチャルで行っていましたが、今回はMRシステムを導入して、室内で実際にどのように空気が流れるか、どうすれば人に風が当たらないか、そのためにはどのように壁を設置するべきかを全て事前に検証したそうです。
 同社では事前シミュレーションはもちろんのこと、違う効果も得られました。実際設計図をつくって、「手直しをしたほうがいいですよ」とオーナーに話をする際、これまでは言葉や設計図でその説明をしていたため、先方にどうしても納得してもらえず追加予算がもらえませんでした。しかしMRシステムを使うことによって、例えば「空気の流れを変えるためにはこのように設計が変わるので、追加予算が必要」と双方が納得し、追加予算がついたということです。
 早い段階から現実に近い環境で検証・確認が可能であるという点が評価され、MRの活用につながっています。
■初期段階で現実的検証ができ、納得感が得られるMR
 VR、ARと比較して、MRが採用される理由について説明します。MRもARも、現実の中にCGを登場させる技術であることには変わりありません。ARの場合は、CG部分が少し透けていたり、映像が若干暗かったりする一方で、MRはその点がより現実的になり、奥行感なども含めて自然な表示ができるのです(図5)。
 VRとの比較は一目瞭然でしょう。現実の世界が全くありません。手を使う場合でも、CGの手を使って距離感などを確認することになりますが、MRは自分自身の手が見えて確認できるといった大きな違いがあります。作業場で、どの部品をどう置けば作業者が無理なく動けるかを検証した図があります。VR表示は、完全なるバーチャルなので、手も頭もCGで、今一つ納得感が得られません(図6)。
 手で持った部品を見下ろした映像では、VRの場合自分の足元が見えませんが、MRで表示すれば足元がしっかり見えています。細かいことと思われるかもしれませんが、作業検証の観点では、安全性の確保が確認できるため非常に実用的だといわれています。
 早い段階から現実的な検証ができ、お客様の納得感や安心感を得られる当社のMRシステムは、他社製品ではなかなか実現しにくいものだと思います。現実に近い検証ができるので、結果が出た後の、いわゆる「手戻り」といわれるクレームが極めて少ないというのも、ユーザーの方々から実際にいただいている声です。事前の作業検証を行わないと作業者の体に負荷がかかるとして現在、大手自動車会社でも導入が進んでいるところです。
 VR、AR、MRは実際に体験しないとそのよさが分かりません。MRシステムの仕事に携わって分かったことは、HMDをかぶってすぐに「これは使えますね」と言うお客様はまだいらっしゃらないということ。実際に皆様の困りごとを聞きながら、どんなところに使えるのか、活用の仕方を調べていくような製品なのかと感じています。
 東京には当社グループが運営する「MREALデモスタジオ」があります。もし体験してみたいということであれば、出向いてご紹介いたしますので、ぜひお声がけいただければと思います。

 



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