■本題の背景としての社会動向
まず社会動向についての説明です。日本の人口は、2008年の1億2808万人をピークに横ばいになっている状況です。少子高齢化といわれているので、0歳から14歳および、15歳から64歳の働き盛りの人は今後減ってくると予想されています。反対に65歳以上の人口は今後非常に多くなり、何十年後かには40%くらいになるのではないかという統計が出ています。新築住宅着工戸数は気になる数字です。1980年代は160万、166万、167万戸あたりを推移して非常によかったのですが、ここでバブルがはじけます。そのときに130万戸代まで落ち、以降少しずつ回復はしていますが1995年に阪神淡路大震災、1997年消費税増税前の駆け込みがあったため、震災の復興と駆け込み需要が重なって160万戸代に戻りました。戻ってそのままの調子でいけばよかったのですが、若干落ちてそのまま平行線をたどったというのが現実です。2005年頃に耐震偽造事件が発生し、そのとき建築基準法の改正等がありました。2008年はリーマンショックが起こりました。私はその頃中部にいて仕事が減って苦労した経験があります。
2013年に消費税増税前の駆け込み需要で100万戸代になるかと予想されましたが、99万戸までいって現在にいたっています。今後は、統計上では右肩下がりが予想されています(図1)。
空家数は、1978年は7.6%でした。できるだけ空家は少ないほうがいいのですが、現状は14%から15%です。統計的に現状ある建物は空家率が高くなっていくのではないかと予想されています。このあたりも、われわれがどのように展開していくかがポイントです。
次に住宅の割合を調べてみました。戸建て住宅・プレハブ住宅のシェアを見ると、住宅は一戸建てが最も多く2,860万棟で54.9%です。共同住宅が2,209万棟で42.4%、長屋建てが129万棟で2.5%。気になる構造の部分ですが、日本の建物は木造が3,011万棟で57.8%と比率が非常に高い。次に鉄筋コンクリート造が1,766万棟で33.9%、鉄骨造が419万棟で8%しかないというのが現状です。戸建てとプレハブのシェアを見ると、今のところプレハブはわずか16%程度で、6棟に1棟の割合です。
リフォーム市場はどうでしょうか。リフォームは、狭義では住宅着工統計上「新設住宅」に計上される増築・改築工事、設備等の修繕維持費を指します。広義では、狭義のリフォーム市場規模に、エアコンや家具等のリフォームに関連する耐久消費財、インテリア商品等の購入費を含めた金額を入れたものを指します。両方ともほぼ平行線をたどっていますが、狭義の市場でも大体6兆円の規模、広義の市場では7兆5千億円くらいの規模を持っており、相当の額になっています。
こうした社会動向を踏まえた上で、大和ハウスグループの取り組みを紹介させてもらいます。
■大和ハウスグループの取り組みについて
当社は、戸建住宅事業 、賃貸住宅事業、マンション事業、住宅ストック事業といった住宅系事業と、商業施設事業、事業施設事業を行っています。その他海外事業展開や、大和八ウスグループでの取り組みがあります(図2)。グループ会社としては連結で142社です。売上は大和ハウス単体で1兆6千億円、グループで今回3兆1千億円を達成しました。建築の工業化を理念に創業、プレハブ住宅メーカーとして成長ニ一ズに対応した多角化で、「人・街・暮らしの価値共創グループ」としてさらなる成長を目指しています。
今回のテーマである、材料に関する考察にあたり、総合技術研究所の取り組みを説明します。総合技術研究所では、産・官・学・医と広く連携をとって研究活動を進めています。7つのキーワード「あ・す・ふ・か・け・つ・の」(あ:安全・安心、す:はスピード・ストック、ふ:福祉、か:環境、け:健康、の:農業)を常に考え、いかなる技術で応えていくかを研究開発テーマとしています。
まず「あ」の「安全・安心」。徹底した検証に基づく安全・安心の研究です。耐震住宅や制震住宅、Σデバイス等、その他の建築系では座屈拘束ブレース「D-TECBRACE」、鋼管杭工法「D-TEC PILE」などを研究所発信で行っています。世に出す前に必ずE-Defenseで安全・安心を検証します(図3)。
「す」のスピード・ストック。工業化技術が生み出す高資産価値のストックです。例えば工業化住宅の「トリプルコンバインドシステム」は、三つの鋼材を一つの柱と見立てた技術で、集合住宅は全部これを使っています。他に外張り断熱通気外壁、ecoナビゲーター、DSQフレームシステム、狭小空間点検ロボッ卜「moogle (モーグル)」などの技術ストックもあります(図4)。
「ふ」の福祉では、利用する人の全てに優しく、細やかな提案を心がけています。当社オリジナルコンセプのユニバーサルデザインを「フレンドリーデザイン」としています。「か」の環境」。新エネルギーの風を利用した「風流鯨 (かぜながすくじら)」、そのほかに「エコジャイ口」、リチウムイオン蓄電池、壁面緑化技術なども当研究所からの発信で世に出しています(図5)。
「け」の「健康」は、心と体の健康のための住まいの技術。在宅健康チェックシステム「インテリジェンストイレ」と「健康かんりくん」は自宅でも健康管理をしようというところがキーポイントです。家全体の空気を浄化しようというイメージでつくったオリジナル空気清浄機「空気浄化ef」、ピアノ演奏をしたり大音量で音楽や映画を鑑賞したりといったニーズからの防音技術による心の健康「奏でる家」などもあります。
「つ」の通信。ホームネットワーク、防犯配慮「留守宅モニタリングシステム」、「スマートハウス」実証実験、エネルギーマネジメントシステムと「D-HEMSV」などがあります。「電気がどうなっているか」という単なる見える化に終わるのではなく、今後はA(I 人工知能:Artificial Intelligence)やIOT(Internet of Things)を使いながらそこをコントロールしていきたいと考えています。
「の」の「農業」は、食料自給率向上を目指すための「農業の工業化」です。植物工場ユニット「agri-cube (アグリキューブ)」は、光、温度、水質などを管理したユニットで野菜を育てるものです。今は小さな建物ですが、今後はもっと大きい建物、例えば工場の跡地などに大きなユニットボックスができそうなので、そちらに展開を検討しているところです。
■課題(1)人財不足
建設業界には、(1)人財不足、(2)環境問題、(3)技術改革の三つの課題があります。
まず人財不足。1997年には約685万人いた建設関連の労働者は2014年には約505万人になり、180万人ほど減りました。中でも建設作業者数が顕著に下がっています。建設業就業者の年齢構成の推移を見ると、1997年当時は55歳以上と29歳以下労働人口の比率がほぼ同じでしたが、全部門の29歳以下が一気に減り、当然ながら建設に関わる労働人口も減って、2014年には16.4%になってしまいました。55歳以上は34%で高い比率です。抜本的な手を打たないと今後建設業は生き残っていけないでしょう(図6)。
建設関係でも、現場は人の手によります。当社には工場があり、一部ロボット化してはいますが、まだまだ人が介在してパネルをつくったり、鉄骨をつくったりしています。ロボット化による省人化を進め、設計そのものを簡素化する必要があると思っています。
当社の企業理念は「事業を通じて人を育てること」が一番はじめに来ます。事業を行う上で一番重要なのは人材育成であるという考えです。「人財」と、「材」ではなく財産の「財」を必ず使います。人財育成センターでは、社員のみならず施工現場で働いている人たちの研修も行っています。
■課題(2)環境問題
企業側もCO2の削減を行わなければなりません。日本の排出量は世界の3.7%です。日本の部門別CO2排出量の割合を見ると、産業部門は34%と一番多いのです。この34%をどう落としていくかが大事です。
世界の森林面積の変化についてのグラフがありますが、世界的に森林の面積が減ってきていることが分かります。特にアフリカ、南米で顕著に落ちています。ヨーロッパが上げているのはなかなか素晴らしく、特筆すべきことです。廃棄物排出量の業種別排出量と割合のグラフからは、製造業からの廃棄物が最も多く28%、電気・ガス・水道業が25%、そして意外にも次が農林業で21.6%、建設業は20.9%。建設業の廃棄物排出量をいかに減らすかも課題です。環境問題を解決するには、太陽光発電や自然エネルギーをどう使っていくかが重要な課題です。廃棄物を減らす努力も必要ですが、どのように管理していくかが重要なテーマになってくるのではと思います。
当社では、「Challenge ZERO 2055」と名付け、2055年までに環境負荷ゼロに挑戦する活動を進めています。その一環が施工現場のゼロミッションです。購入した材料は工場で加工して施工現場に出しますが、現場で生じた廃材は細かく分別してもらい、一度工場へ戻します。工場では2次分別を行ってリサイクル工場へ出し、リサイクル工場でつくられたリサイクル材を再び新築現場に納入するというサイクルになっています。現状は新築住宅だけですが、今後リフォームなどにも展開しようと考えています(図7)。
廃棄物を出さないためにはどうしたらいいのか。建物そのものをReuse(リユース)できないかを考えます。例えばコンビニがあったとして、今は売上が大きいが数年後には客が入らなくなることが予想されるとき、オーナーは壊すのかどうかの判断をします。そこで、これをそのまま解体して再利用・再構築しながら、再生(リストア)してもう一回営業できるしくみがあります。今、システム建築という建築商品だけを持っているので、建物をリストア&リビルドする形で建物をReuseするやり方です。
建物の外壁に使われる面材は、端材部分が廃材になります。今まではメーカーに返したり捨てたりしていたのですが、もったいないのでリサイクルすることにしました。廃材を微粒子レベルまで粉砕し、プラスチックと混ぜて高い強度を持つリサイクルプラスチック製品をつくりました。これは基礎鉄筋を適正に配置する「基礎スペーサー」に適用されています。
■課題(3)技術改革
建材を長寿命化していかなければいけないと感じています。途中で壊れたり、錆びたり、朽ち落ちたりするのが現状です。今は、何年持つかという議論ばかりです。もの自体を長寿命化することも大事ですが、長寿命化させるための金物や、アシストするような部材も必要ではないかと考えます。建材の軽量化・高強度化が求められていますが、壊れてしまうケースが出ると思うので、新素材や新建材が今後必要ではないでしょうか。目線を変えて、石油系由来から植物由来植物へのシフトによって持続可能な素材をつくっていきたいと考えます。
■次世代の建築に対応するマテリアルの開発を期待
今後求められるマテリアルとして、自社でも素材の活用を検討しています。長寿命化に関しては、高耐久・高強度メンテナンスフリーなどがキーワードです。その中で軽量素材や複合材料をつくっていきたいと考えています。森林資源やその有効活用の問題ですが、木材そのものをいろいろなものと組み合わせたハイブリッド工法も検討に入っており、今試作している最中です。今後、施工性や環境負荷低減、軽量化などについては、やはり新素材、新構法を持っていきたいという考えです。
現在、金沢工業大学など28機関と一緒にCOIの活動を行っています。現状は革新材料による次世代インフラシステム構築を目指し、安全・安心で地球と共存できる数世紀社会の実現のため「革新材料」および「革新製造プロセス・製造装置」の開発にあたっています。われわれが求められているアプリケーション・サービスが三つあります。社会インフラ、海洋インフラ、住宅・都市インフラです(図8)。
社会インフラでは、トンネル、道路、橋などに関し、長寿命化、軽量・高強度構造、新たな施工方法や維持管理技術によって社会コストを大幅に低減するのが目的です。海洋インフラでは、鉄などの従来材料ではできないような非常に長いものを1枚ものでつくれないか、といったことに取り組んでいます。
われわれが携わるのは住宅・都市インフラです。環境性能に優れた素材、高機能材料によって新たな住宅環境をつくり、都市を再生・構築するというもの。こうした形でCOIの活動も一緒になって行っています。
ハウスメーカーが求めるマテリアルとは、使用者と供給者が問題点や課題を共有し解決する手段だと思います。2020年の東京オリンピック・パラリンピック以降の仕事量は、当社ではまだまだ予測できませんが、少子高齢化・人口減少による人財不足、職人不足は避けて通れない現実です。そのため、次世代の建築物への対応として安全で環境に優しく、低コストで高品質なマテリアルの開発に期待します。
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