■モルタルは地震に弱いというイメージは誤解
中越地震(2005年)や中越沖地震(2007年)、今回の熊本地震(2016年)も古賀先生と一緒に調査させてもらいました。いずれのときも、モルタル外壁が落ちていました。モルタルは非常に地震に弱いのではないかというイメージを皆さんお持ちだと思います。学識経験者・メーカーや日左連で組織する日本住宅モルタル外壁協議会(NiMoGa)でモルタルに対するイメージ調査を行いましたが、やはり最初に出てくるのが「モルタルは地震に弱い、ひび割れする」というイメージでした。しかし実験をやると外壁は落ちないのです。地震によるモルタル外壁のはく落の原因は工務店や施工者、メーカーそれぞれに責任があるのではないかと私は思っています。
実際に工務店の場合はコストやデザイン重視で、施工に対しては職人に任せきりで経験的な施工を容認してしまう。コストを下げろと言われ、職人は困り果て、材料メーカーも販売競争なので規格外品でも出す。職人も勉強不足で仕様書もきちんと見ず、経験値だけでやるため不適切な施工になり、最終的にユーザーが被害を受けるという負のスパイラルが生じています(図1)。
皆さんがいろいろな立場から「値段の問題だけではなく少なくともこれはしないとだめ」と伝えたり、メーカーも職人や設計・施工者に対して「こうしてください」と強く言ったりすることができれば、問題は起こらず安全な住宅ができると思います。
中越地震の写真を見ると、不適切な施工を行われたモルタル壁が落ちているのが分かります。ステープルの線径が細く、脚の短いものがどさっと落ちているものがあります。モルタルとラスが一体になっていれば、非常に強いものなのですが、構造躯体、下地ときちんと留まっていないということです。裏側を見ると脚の短いステープルでピッチが荒い。壁が建物にきちんと付いていないので、モルタルの自重に耐え切れず落ちるのです。
不適切なモルタル外壁は、ひび割れから雨水が浸入したり、壁内結露があったりして部分的に下地が腐って抜け落ちたり、質量が軽い平ラスは錆びてしまって無くなっているケースもあります。設計上で鉄骨と木下地を組んだ変な組み合わせですが、見るとやはり同じ壁の中に違うラスを貼ったり、一部に裏打ち材がないので、下地金物が腐ってきてぼろぼろになっています。下地を腐食させると基本的には持ちません(図2)。
■正しく施工すればモルタルは強い耐震性を持つ
熊本地震では、益城町の中心を調査しました。私が古賀先生と行ったのは5月で、その時点で震度7が2回、6が5回、5が9回、4は100回を超えている状態の時期でした。今回の調査は、被災地で被害が少なかった木造モルタル住宅を中心に行いました。
被害が軽微で済んだ建物は、今まではどういう施工をしていたのか分からなかったのですが、実際に施工された左官業者の方々にも一緒に行ってもらい、住人の方に図面も見せてもらいました。その上で、自信を持ってきちんと施工すれば問題ないことがわかった事例がありました。震度7地域の住宅では、建築基準法の必要壁量ぎりぎりの木造軸組みの住宅で、ひび割れ程度の部分的な被害で「軽微」と判定された建物でした。被害が軽微で済んだのは、ラスモルタル壁が耐震的に寄与したとしか考えられないということです。きちんと施工すれば被害を免れることができるのです。
■ラスの種類について
ラスの正式名称はエキスパンドメタルラスです。「エキスパンド」は「膨らませる」、「メタル」は金属、「ラス」は木ずり、木舞(こまい)を意味し、昔、漆喰などを塗るための下地として打っていた細かい木のことです。ラスには現在、エキスパンドメタル、ワイヤーラス、メタルラス、ラスシートという4種のJIS規格があります。
厚さが1.0以上の鉄板を使ったものがエキスパンドメタルです。ワイヤーラスは、昔モルタル外壁が始まった頃に使われていたフェンス状のものです。どちらかというと古い建物で使われているケースが多く、塗り厚も非常に厚い場合が多いようです。現在はこれをつくっているメーカーはほとんどなく、JISのものとしてもほとんど見ません。このような施工をする左官業者の方々も今はほとんどおられないようなので、現状では使えないのではないかと思います。
一般的にラスといわれるのはメタルラスで、平ラスというフラット状のものがよく目にされます。平ラスに波を付けたのが波形ラス、それにこぶを付けたものがこぶラス、メッシュの間にリブという骨が付いたものがリブラスです。リブラスは、リブの山の高さによってA型、B型と分かれていますが、今回JISの改訂でB型が廃止になり、新しくC型がJISとして採用されています(図3)。
ラスシートは角波亜鉛鉄板ラスのことで、残念ながら地震のときにことごとく落ち、危ないとよくいわれるのですが、調査すると、座金の付いたビスではなく、頭の小さいビスだけで留めているものが落ちていることが分かりました。スポット溶接だけで留まっていることになり、どうしても自重に耐え切れず、ラスとモルタルが落ちた事例がたくさんあります。実験でも、きちんと施工すれば地震に対してほぼ問題がないというデータが出ています。
鉄骨造の場合は外壁と内壁、内装によってもラスが変わります。木造住宅の場合は在来工法やツーバイ、プレハブ、下地の構造によって使い分ける必要があります。木造の場合、モルタル直貼りと通気工法があり、それによっても下地が異なります。
直貼りは、在来ならラス下地、ツーバイなら下地面材に防水紙を貼り、ラスを貼ってモルタル。これが基本的な直貼りの工法です。一般的によく使われる二層下地通気工法は、躯体に透湿防水シートを貼り、胴縁の上に下地を設け直貼りを行います。躯体と外壁の間に通気層を設けるという工法です。直貼りと同類のラスに使うことができます。単層下地通気工法は、サイディングと同じように胴縁の上に防水紙の付いたラスを貼り、その上にモルタルというやり方です。
■ラスの施工について
施工例をご覧ください。木造住宅の場合に使われるステープルは、F、J、M、Tとアルファベットが大きくなるにつれて線径が太くなります。F線は防水紙留めで使う手打ちのものです。J.M線は、直貼り・二層下地通気工法でラスを留めるものです。また、ラスは700g/u以上でステープルの脚長は19o以上が基本です。建物が変形したとき、脚の短いものはすぐ抜けるので、抜け落ちないための安全率を考えると19mm以上が必要です(図4)。
単層下地通気はリブラスCが基本となり、質量も800g/u以上になります。胴縁しかないので裏打ちにラスの裏打ち材が付いたものを使います。ステープルはT線以上。胴縁を貫通して下地の構造まで届くには最低でも25mm必要です。
鉄骨造の場合はリブラスCとラスシートで施工します。座金を使った留め付け方法が望まれます。内装の間仕切りの中に使うラスシートは板厚0.19mmが標準で、高さが6m以上になると地震で落ちるおそれがあるので、外部に使われるラスシートと同じ0.4mmを使うのが望ましいです。施工については日本住宅モルタル外壁協議会のウェブサイトで各種仕様書や研究結果が掲載されています。
■JISの改訂について
もともとメタルラスがJIS化されたのは1950(昭和25)年で、2014(平成26)年、大改訂を行っています。技術的な改訂で、適用範囲、品質、材料の削除と追加、試験の追加、検査の追加、製品削除と追加、呼称の変更があります。
適用範囲の変更では、もともと左官、庇、およびコンクリートの下地に使用するメタルラスに規定されていましたが、今回左官の耐火被覆・防水被覆などの下地に使う材料、軽量気泡コンクリートパネルの芯材(ALC)も加わり、適用範囲が増えました。
品質の改訂では、今までは外観検査しかありませんでしたが、新規格はそれに加えて引張性能試験が追加されています。
材料の改定では、もともとはメッキされていない鉄の素材でしたが、新規格は、モルタルなどの下地に使われるラスについては溶融亜鉛メッキ鋼板、基本的にはメッキの付着量表示記号Z12以上として、リブラスについては
Z08以上という表記のものを使うことになりました。今回は新たにステンレスの素材も入りました。従来のメッキ処理されていないものは、ALC用として使われることになりました(図5)。
今までは試験はありませんでしたが、新規格は外観試験、寸法および質量測定、引張試験、耐食性試験が増えました。耐食性能試験は200時間の中性塩水噴霧によって錆びた状態で引張試験をするというものです。
寸法と質量測定規定でラスのメッシュ寸法は、長径26〜32mm×短径13〜16mmと範囲指定でしたが、「長径26×短径13mm」をT型、「長径32×短径16mm」をU型としました。分けた理由は、関東メーカーがメッシュの小さい(関東目)T型、関西メーカーがメッシュが大きい(関西目)U型のメッシュで生産されているからです。
外形の寸法ですが、昔は坪単位だったので、2尺の6尺では2‘×6‘(3枚で1坪)、といった形でJISを規定していました。現在は、3‘×6‘が主流で3尺幅の製品はJISの範囲ではありませんでした。今回はその範囲を入れて寸法を変えています。
今まではJISの1号品、2号品、3号品、4号品、という呼び方をしていましたが、今回質量で表すことになったので、u単位の質量が1号の場合は450gで「F450」となります。Fは「フラット」の意味で、平ラスの場合はF、こぶラスの場合はKと表記します。
こぶラスは、800g/uと、山の高さ11mm高を新規に追加しました。波形ラスの場合W「ウエーブ」とし、従来は10mm山の波の高さだけがJIS製品でした。これは基本的にモルタルが砂モルタルで、告示は20mmが基本的な塗り厚だったためです。そのためラスがちょうど中心に来る10mm山高というのがJISの標準でしたが、近年では既調合軽量モルタルで15mm、16mmの塗り厚で防耐火認定を取れるものが出てきており、今回の改訂で6mmと8mm山高がJIS規格に増やされました。
リブラスの表記はR「リブ」とA型とC型の組み合わせで「RA」・「RC」となります。また新設されたリブラスCの寸法形状について、リブの部分は連続成形でロールフォーミングするために、ハット形、V形が今回追加されました。リブピッチは山から山の長さを表しています。リブラスの規格基準では、先ほどと同じように質量が表記されています。0.3mmという板厚のものに対して山高が5mm、6mm、7mm、8mmと、各1mmサイズで基準が決められています。ただしこれは若干質量が変わることになるため、リブピッチが150mmおよび155mm製品の場合だと、最低の5mm山高で800g/u、板厚0.4mmのものはほとんど1kg/u、板厚0.5mmでは1.3kg/u以上の質量となります。使用用途によりリブピッチが100mm、75mmといろいろなタイプがあるので、このように規格が増えています。
製品の呼び方は、以上のような規格を踏まえているのでご注意ください。例にあげた「ラス下地用平ラス:I
F 700(3号)Z12」は、メッシュの形が「I型」、ラスの形状が「F」ということです。「700」は質量の表示で、旧の呼び方が3号。「Z」は材料記号で溶融亜鉛メッキを表し、「12」がメッキの質量です。今までは「3号品」や「平ラス3号」などと呼んでおり、どんなものか分かりにくかったのですが、こう表記することでメッシュの形状や質量がすぐ分かるようになっています。波形ラスやこぶラスの場合も、「W」が波形(ウエーブ)、「K」がこぶを意味します。その後ろに質量表示がきて、次に「10」や「11」など山の高さが示され、メッキの量が続きます。
リブラスの場合は、リブの本数によっていろいろ変わってきたので、メッシュの形状であるI型、II型という表記では呼び分けができません。そのためにリブのピッチ寸法(155や75など)を先に表します。その後ろにリブラスCを現す「RC」という表記がきます。そして質量、山の高さ(5mmや8mmなど)が続くところはこぶラス、波形ラスと同様です。溶融亜鉛メッキの場合は「Z」、ステンレスの場合は「SU」という表記で表します。例えば、ステンレスリブラスの場合「155RC800-05SU」となります。このように、呼び方がかなり変わることになりますが、配布資料にある近畿メタルラス工業組合のパンフレットに、いろいろな基準のものが分かりやすく記載されているので、参考にご覧ください(図6)。
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