■官庁営繕の役割は、防災や利便のための施設整備
官庁営繕は国土交通省の組織の一つです。官庁営繕の役割・目的は、官公法によると、災害の防除、公衆の利便、公務の能率増進を図ること。これに基づいて私たちは施設整備を行っています。
具体的には狭あい化や老朽化した施設の建て替え、耐震性能が不足している施設の耐震改修、施設の集約化です。ハートビル対策、省エネルギー化なども行っています。施設整備は営繕部で行いますが、実際の施設管理はそれぞれ入居している各官署が行い、営繕部はそれに対し技術的な相談、指導をしています。
施設を調査し、調査・保全結果に基づいて施設整備の企画を行い、企画に基づく設計、工事発注、工事監理を行っています。技術基準等は本省で整備され、私たち地方整備局の営業部が実際に建物を整備していく実行部隊に当たります(図1)。
近畿地方整備局の営繕部で整備した事例を紹介します。堺地方合同庁舎、大阪高等検察庁が入っている大阪中之島合同庁舎、PFI事業で整備した大津びわ湖合同庁舎、内装に木材を使用したハローワーク阿倍野、大阪府警察学校、京都府警察学校の本館。
1991(平成3)年完成の神戸地方裁判所は、明治37年にできたレンガ造の部分に歴史的な価値があるということで、外観をそのまま残すファサード保存という方法が取られました。レンガ造の上にはガラスのカーテンウォールを施した建物が新しく建設されました。
彦根の地方気象台は昭和7年のもので、全国で3番目に古い気象台。創建当時の姿に戻そうと復元している事例です。舞鶴港湾合同庁舎は耐震改修の事例です。
他に、堺市の国際障害者交流センター(ビッグ・アイ)、国立国会図書館関西館、中之島にある国立国際美術館、京都地方合同庁舎、税務大学校大阪研修所、国立京都国際会館などがあります。2013(平成25)年に完成した谷口吉生氏設計の京都国立博物館・平成知新館は、展示室の床、展示通路の壁などに木材を使っています。
■木材利用促進の法律制定で大きな方針転換
「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が2010(平成22)年に制定されました。それ以前の、公共建築物の防耐火に係る経緯をまず説明します。昭和25年の「都市建築物の不燃化の促進に関する決議」で、「新たに建設する官公衙(かんこうが)等は原則として不燃構造とすること」とされました。
昭和30年の「木材資源利用合理化方策」では「耐火建築の普及奨励を推進し、国および地方公共団体は率先垂範すると共にその建築費用の低下を図るため構造部材の規格化と設計の標準化の施策を推進すること」と書かれています。
昭和25年の決議には「わが国の建築物がほとんど木造であって火災に対してまったく対抗力を有していない」、昭和30年の方策にも「森林の過伐傾向ははなはだしく、…木材資源の枯渇を招く」といったような表現がなされています。木材ではなくコンクリートで建物をつくろうという方針が昭和25〜30年頃に示されていたことになります。耐火建築物をつくるべきという考えで50年、60年来ていたので、国もあまり木材を念頭に置いていませんでした。
従って「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」は実務上の大きな方針転換だったと認識しています(図2)。国は率先して公共建築物における木材の利用に努め、そのための基本方針を定めることが法律で定められています。基本方針においては「建築基準法その他の法令に基づく基準において耐火建築物とすること、または主要構造部を耐火構造とすることが求められていない低層の公共建築物において積極的に木造化を促進する」と記載されています。つまり耐火建築物とすることが求められていると積極的に木造化を促進する対象とはなりません。
官公法の規定は建築基準法よりも厳しく、建築基準法上は耐火建築物を求められなくても官公法では耐火建築物にしなければならない場合があります。規定が厳しいだけでなく、災害応急対策活動に必要な施設など木造化になじまない施設もあり、木造化の対象となる施設が少ないのが現状です。
木造化が難しくとも、内装の木質化は積極的にやっていきましょうというのが私たちの方針で、特にエントランスホールなど国民の目に直接触れるところは原則、木質化することになっています。
「5つの環境づくり」が営繕部の取り組み内容です。@制度環境づくりは国土交通省の木材利用計画。A財務環境づくり。予算要求する際に使う、新営予算単価というものがあり、その中に木造の単価をつくっています。B技術環境づくり。法律ができてから、標準仕様書やガイドライン、整備指針などを、整備しています。C人的環境づくり。この中に出前講座もあるのですが、今日はその出前講座の一環で来ています。D情報環境づくり。ホームページなどによる情報発信にも営繕部では取り組んでいます(図3)。
■木造計画・設計基準??構造計算もしっかりと
木造計画・設計基準とは、木造の事務所建築の設計に関して必要な技術的事項および標準的手法をまとめたものです。木造ではないときの建築設計や構造設計の基準はもともとありましたが、法の制定を受けて既存の基準で不足している木造に関する基準もつくることになりました。設計関連基準の中に「木造計画・設計基準」があるのですが、2011(平成23)年5月に制定されています。
木造計画・設計基準の概要は「官庁営繕が行う木造の官庁施設の設計に関し、必要な技術的事項および標準的手法を定める」というもの。ポイントとしては、耐久性、防耐火、構造計算、構造材料があり、構造計算では「事務所用途の荷重に対応するため、原則として構造計算を行う」こととなっています。もともと木造は住宅が多く、法律も住宅用途の荷重を念頭に定められているものもあります。しかし事務所用途の建築物に木造住宅の設計手法や方法を必ずしも適用できないため、通常構造計算は必要ないものでも事務所用途の荷重に対応するため、原則として構造計算を行うこととしています(図4)。
■官庁施設における木造耐火建築物の整備指針
2013(平成25)年3月に策定された「官庁施設における木造耐火建築物の整備指針」は、官公施設としての性能は確保しつつ木造耐火建築物を適切に設計等する手法をまとめたものです。耐火建築物とすることが求められる場合は積極的に木造化を促進する対象から外れるのですが、基本方針では耐火建築物とすること等が求められる公共建築物であっても、木材の耐火性等に関する技術開発の推進状況等を踏まえ、木造化が可能と判断されるものについては木造化を図るよう努めるものとするという記載もあります。とはいえなかなかコスト面、構造計画で困難なのが現実です。そういう背景の中でまとめられた整備指針というわけです。 整備指針は本編と資料編に分かれています。本編第3章の木造耐火建築物の整備に関する技術的事項では、メンブレン型建築物、燃え止まり型建築物、鋼材内蔵型建築物、木質ハイブリッド型建築物などを取りまとめ、第4章で平面混構造、立面混構造、平面・立面の併用構造の技術的事項をまとめています。資料編ではケーススタディを行い、具体的に注意すべきところをまとめています。
■木造事務庁舎の合理的な設計における留意事項
2015(平成27)年5月に策定された「木造事務庁舎の合理的な設計における留意事項」は、建設コストなど、事前に把握して設計内容に反映しておくべき事項を留意事項としてとりまとめたものです。
官庁施設の計画・設計時に「木造計画・設計基準」等の基準類と共に活用することになっています。第2章の木材調達に関する留意事項では、必要な木材の概数量、建設地域で入手が容易な木材・困難な木材を調べて記載しています。調査結果では、木材の使用量は1uあたり0.2〜0.25?で、うち構造材が75%前後となりました。さらに、入手が容易な製材の長さ、断面とそのコスト傾向もJAS工場で調査し、結果を掲載しています(図5)。
■公共建築木造工事標準仕様書
「公共建築木造工事標準仕様書」は低層木造の事務所建築を対象に標準的な品質、性能および施工方法を示したものです。もともと1997(平成9)年に木造の住宅を想定して制定されたもので、木材利用の促進に関する法律および基本方針を受け、主な対象用途を住宅から低層の事務所用途の官庁施設に変更し、平成25年版より名称変更しています。平成28年版として関係法令やJIS、JASの改正に合わせた見直しを行いました。この基準では今のところ耐火建築物は対象す。
木造工事標準仕様書は、公共建築工事標準仕様書と併用する構成になっています。
■地方公共団体との連携
地方公共団体との連携も行っています。「公共建築物における木材利用の導入ガイドライン等の検討」は、47都道府県と20政令指定都市でつくる全国営繕主管課長会議の付託事項です。木造計画・設計基準等は事務所用途の建築物を中心に記載していますが、事務所用途以外の公共建築物における木材の利用を促進するためにガイドラインを策定しました。
@取組事例集(平成24年7月公表)とA導入ガイドライン(平成25年6月公表)の二つがあり@は事務所用途以外の公共建築物94件の木材利用の取組に関する事例を、Aは事務所用途以外の公共建築物の事例をもとに収集してまとめたものです。事例集は、関係者の理解を「構築」、「発注上の課題」、「維持管理上の課題」、「その他」、とテーマ別に分けて紹介しています。 テーマ「発注上の課題」を具体的に説明します。設計施工一括発注方式による木材乾燥期間の確保等ということで、浜松市の例を記載しています。私たちが発注する際は、設計・施工は通常分離して発注することが多いです。木造となると木材の調達、乾燥にかなりの時間がかかるため、工事を発注した後に不要な待ち時間が発生することがあります。そのため、この浜松市の例では設計・施工を分離ではなく、設計・施工一括発注方式を取り入れました(図6)。
もう一つの「公共建築物における木材利用の導入ガイドライン」。こちらでもテーマ別に事例を収集しています。大分県中津市の小学校の体育館は、合理的な工法や材料を選択した事例で、伝統工法を採用して特殊な金物に頼らず構成されています。
木造建築物の一部に非木造の耐火建築物を挟み込むことで、耐火建築物としなくてよくなった事例も紹介しています。他に維持管理を考慮した設計・施工などが事例として紹介されています。
建築部位の設計では、どこにどんな樹種を使ったかの具体例を収集しています。資料に載せているのは梁の樹種。柱・梁・外壁はスギが多く、床は色々な種類が分散しているという結果でした(図7)。
2015(平成27)年から2016(平成28)年度にかけても本省では検討会を行っており、今は保全に関する調査を行っています。平成27年度の成果として、「木材を利用した官庁施設の適正な保全に資する整備のための留意事項(案)」というものがホームページにアップされています。今日紹介した技術基準等も国土交通省ホームページに掲載されています。
■木造、内装の木質化の事例紹介
最近畿地方整備局で木造や内装等の木質化の整備事例を紹介します(当日映像のみ)。京都の農林総合庁舎の倉庫。木造であることが分かりづらいですが、法が施行された後で、耐火建築物が求められる建物ではなかったので木造化しています。皇宮警察京都護衛署の警備待機所。木造は京都に多くなっていますが、京都御苑の児童公園休憩所は2010(平成22)年につくられたもので木造です。同じく京都御苑の中にある堺町休憩所で、これは法施行前で、下がS造で上が一部木造です。
木造の事例は以上で、次に内装の木質化事例です。京都地方合同庁舎のエントランスホールは、壁に木が使われています。先ほども外観をご覧に入れましたが、堺地方合同庁舎のエントランスホール、大津びわ湖合同庁舎のエントランスホール。そしてハローワーク阿倍野の事務室です。こちらはハローワークという性質上、来庁者が多いので天井に木材を使っています。京都国立博物館は、展示室の床、廊下の壁、休憩スペースの壁を木質化しています。
木造・内装等の木質化の整備を行うことは、国の職員として達成すべきミッションであると同時に、建築に携わる者として、よりよい建物をつくるためのツールであると私たちは考えています。
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