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第46回
「今、注目される建築地下防水の重要性」
*機関誌「けんざい」掲載分です。ホームページ用に再編集しておりませんのでご了承ください
掲載情報は全て著作権の対象となります。転載等を行う場合は当協会
にお問い合わせください。
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「見えない建築地下防水の見える話」
田中 享二
氏 東京工業大学 名誉教授
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■地下防水は品確法の保証対象外
最近の建築裁判の紛争は地下関連の漏水が圧倒的に多くなっています。品確法(住宅品質保促進法)では、漏水なら10年間の瑕疵担保でとにかく直す、あるいは保証することが法律的に決められました。そのため裁判の紛争に上がる前に対処されることが比較的多くなっていると推察されます。それに比べて地下は非常に複雑で、100%完璧な防水は技術的に困難なので、品確法の対象外になっています。
一般市民にとっては屋上から漏れるのも地下で漏れるのも同じなので、おかしいと思うのは当然です。法律的な義務がないので、建築側の人間は「品確法に入っていないから保証しない」ということでもめる。それで地下防水関係の紛争になる事案が多いのではと個人的には思います。
例えば地下壁の漏水で多いのが下のスラブと立ち上がりの打ち継ぎのラインのあたりから水が浸入してくるケース。建物をつくったときの脆弱部から水が入ってきて、それがカビを発生させるなど、副次的な問題も起こします。カビで保管物が台無しになって、かなり高額な損害賠償に発展することもあります。
基本的には、できれば地下室はつくらないほうがいいというのが私の考えです。ただ最近の建築事情から、特に敷地面積が少ない都市部などは地下を使わざるを得ない。また、地下は地上とは違う空間としてのメリットもあります。例えば遮音性に優れる。いくら音を出しても近隣から文句を言われることがないというメリットがあります。地下に放送局をつくった例もあります。一般住宅レベルでいうと、オーディオルームなどです。遮音性能の観点から地下は圧倒的に有利です。また地下は温度変化が年間を通して少なく、ワインセラーなどに使う人もいるようです。
■地下防水紛争化の原因
地下室はそれなりに古くから使われており、地下の駐車場、機械室、倉庫、デパートの地下街などがあります。防水の観点からいうと、非生活空間としての使い方(古典的利用)で、それなりに安定的に地下室が利用されてきました。現在私たちが保有する地下工法は、この古典的利用がベースになっています。ところが最近、居室、音楽関係のスタジオ、ホームシアター、書斎、寝室など、生活そのものを地下空間に入れ込むというニーズが高まっています。建築をつくる側は古典的利用で地下防水のことを考え、供給してきましたが、消費者は普通の居室と同じレベルで地下を理解するので、そこに温度差と軋轢が生じます。今はちょうど軋轢の最中だと思います。紛争をなくすため、建築に携わる側として、さまざまなところで周知させる活動をしたいと思っているところです。
地下空間の利用には行政も一生懸命です。古くは1994(平成6)年、地下利用を推進するために建築基準法が一部改定されました。そして2001(平成13)年、大深度地下を公共的に利用できるよう法律的なサポートがなされました。
建築環境の側からみると、地下空間の問題は、湿潤空間になりやすいこと、暗いこと、通風が悪いことなどです。ただ現在は費用さえあれば技術的対応はかなり可能です。部分的な短所は改善されていますが、トータルな技術が伝わっていないので、結局いろいろ問題が起きているわけです。地下水の防水の水準に対して、消費者と建築関係者、特に古い建築関係者の意識に大きなかい離があるわけです。地下は品確法の対象外になっているので、いろいろと紛争が生じます(図1)。
■地下水の揚水規制で大都市の地下水位は年々上昇
敗戦後の経済復興期に、工業水として地下水を多く使ったため、地盤沈下で建物が傾いたり、ひび割れが入るなどの問題が発生して、東京も大阪も行政が地下水の揚水規制を行いました。地下は地上の川と違ってゆっくりとしか流れないため、汲み上げると地下水もゆっくりと下がっていきます。それが1960年代後半まで続きましたが、揚水規制で地下水が戻ってきました。そのためにいろいろな問題が発生しました。
一つは防水の問題。今まで地下室の周りには原則として水がなかったので、二重壁の技術で対処してきましたが、常時水があるということになると、相当量の漏水が発生します。もう一つは構造の問題。地下水がない前提で地下構造物をつくったところに水が戻ってきたので、建物自体が浮き上がる被害が発生しました。揚水規制以降地下水位が戻り、東京、大阪でも少し掘れば水が出るという状況になってきています(図2)。
さらに地下水で心配なのは、地下水位が低くなると、海の近くで地下水に海水が逆浸入することです。地下水に塩水が混ざると、鉄筋が腐食する危険性が高くなります。この塩水化に対する抜本的な策はまだありません。東京都は地下水のモニターを行っており、塩分濃度のデータも取っています。下町を中心として、かなりの領域で塩水化も進んでいます(図3)。まだデータは入手していませんが大阪も同様だと考えられます。
■一度漏水すると有効な対策がない
地下が漏水すると、防水をやり直すのは事実上ほとんど不可能です。そのため漏水したままで解決しなければなりませんが、大変です。いくら品確法で地下の漏水が責任範囲外だといわれても、訴えた人も引き下がらない。だから一度起きてしまうと大変なのです。
地下構造物がつくられる手順は次の通りです。@山留め壁をつくる。A根切り(地盤を掘る)。Bならしコンクリートを打設する。C鉄筋を組み立てる。D耐圧盤(マットスラブ)コンクリート打設。E1階床鉄筋型枠工事。F1階床コンクリート打設。G地下躯体の完成。この様に地下は地上と違い、もう掘り起こすことができないので、漏水補修がほぼ不可能というわけです。
さらに地下には、水道管、ガス管、排水パイプなど外部からの貫通物がたくさんあることも、完璧な防水を実現しにくい一因です。
■仕組みと施工からみた地下防水工法
地下防水は、(1)防水領域(全面防水/部分防水/防水なし)、(2)防水層の位置(外防水/内防水)、(3)防水層施工順序(先やり防水/後やり防水)、この組合せです。(1)では地下壁も床もグルッとくるむのが全面防水です。防水の基本的なセオリーからいうと、全面防水をするというのが建前であり、大原則です。ただ、今でも防水なしの建物もかなりあります。(2)は、建物の地下室の外側からくるむというのが外防水、室内側から防水するのが内防水です。(3)は、後から防水をするか、先に防水をするかという工法の話。後やり防水は素掘りして、建物の地下室をつくってから防水。山留め壁に仮に防水層を先につくるのが先やり防水です。
どの防水層をチョイスするかですが、ここが地下防水と屋上防水が根本的に違うところです。屋上防水は水一滴も漏らしてはいけない。だからランキングはありません。一方地下の場合は、防水に区分(ランキング)があります。地下は100%防水が実務上難しいのですが、最上位は、「確実性、Aランク」です(図4、5)。発注者が防水に対して敏感な場合にはAランクで対応する。駐車場や万が一水が入っても大丈夫な場所ならB、ほとんど考えなくてもいいならCで、ということです。これは建築側の選定事項で、われわれに責任があります。
■さまざまな施工事例(後やり/先やり)
事例を写真で紹介します。後やり防水の例では躯体にポリマーセメントを塗っています。シート防水も使えます。特に非加硫ゴムの場合は、生コンとの接着が非常によい。ゴムアスファルト系の塗膜防水もあります。このようにいろいろな工法がありますが、写真はエマルジョンを吹き付けています。次は屋上防水で使うトーチで施工する改質アスファルトルーフィングの防水。トーチバーナーであぶって上から降ろしながら行います。これは防水でよく使うウレタンゴム吹き付けの例です。
次は先やり防水の例です。SMWといわれる地下壁に仮設的に防水層を先に止めているところです。この後に壁の鉄筋を組み立て、型枠をつくり、コンクリートを打設します。改質アスファルト常温粘着工法は、現場で裏紙をはがし、親杭横矢板の山留め壁に貼り付けるものです。次に親杭を打って木の板を入れ、その山留め面に防水材を施工している様子です(図6、7)。次はゴムアスファルトの吹付け。典型的な地下工法で、山崩れを防ぐために逆アンカーを打って止める。これはかなり大規模な地下工事の例です。
地下防水が完璧にできないのは、屋上と違い、防水の妨げになる諸々のものを切り抜けながら行う必要があるからです。今はいろいろな工法があり、どの工法が最もいいのかは気になると思うのですが、現場の状況やコストの問題、熟練した防水工事業者の有無など、総合的に判断せざるを得ません。どの工法がAかBかまでは言えません。今の地下防水の段階はそれ以前の状況なのです。まずは、必要な地下防水をきちんと設計にスペックインし、消費者に説明することです。
■防水の必要性を発注者に十分説明することが重要
地下防水が不十分だと、躯体の耐久性、居住性、健康・安全性(カビなど)、経済性(下水道排水費用など)の低下が生じます。特に耐久性は最も重要で、鉄筋の腐食、コンクリートの劣化など大きな問題となります。防水工事が建築の一連の流れの中で重要であることを示したフローチャートがあります。設計者が発注者の要望を聞く際、地下はどうするかをよく聞く必要があるのです。普通、発注者にとって地下の話を聞くのはここが最初にして最後なので大変重要です。設計者は発注者から使用目的を聞き、「それでは防水をこの水準でしましょうか」と、きちっと説明する。例えば物置程度ならこうするという様に防水をあらかじめ発注者に、分かるように十分説明しておく。今はそれが全くといっていいほどありません。そのため発注者にとって「こんなつもりで頼んだのではないのに」ということが起こるわけです。そういうことを踏まえて設計し、施工に引き渡す。地下は掘ってみなければ分からないので、施工者もきちんと対処しなければなりません。
従って、設計者、施工者、特に発注者に丁寧に説明しながらやっていかなければいけない。ここが屋上防水と根本的に違うところなのです。発注者は、屋上は絶対水が漏れないと思っています。つくるほうも絶対漏らさないというようにつくります。ここが暗黙の了解で問題は何らありません。ただ地下の場合には、建築側はそこまでの意識がない場合が多々あります。しかし発注者は普通に「漏れない」と考えているのです。
そもそもこの防水の要求水準(ランキング)があるということに関する情報発信も、きちっとされていなかったと思います。ことに、われわれの方にも抜かりがあったと思います。防水水準に関し、発注者にきちんと説明をしていくことが大事です。さらに施工との連携も必要です。地面は掘ってみなければ分からない。開けてみるといろいろ分かる。最終的には、具体的な工法はそこで決まってくると思います。スペックインのときに、「○△防水をスペックインする」と決めるよりは、外防水で、という程度でざっくり決めておいて、具体的には掘ってから決めるというのが、実務的にはいいのではと個人的には思います。
■二重壁をどう考えるか
それでは二重壁は役に立たないのかというと、私はそうは思いません。地下壁の内側に軽量ブロックを積んで、そこに排水の樋をつくっておき、入り込んだ水をピットまで落としておいて、ピットが満杯になったら地上に揚水機で汲み上げるのが二重防水の方法です。これはやはり、発注者が完璧なことを要求するときには残したほうがいいと思います。なぜなら、地下は屋上と違って100%の防水はかなり難しく、そうなると万が一のことを考えておく必要があるからです。
二重壁なら、万が一の場合の水程度ならほとんど問題ないので、フェイルセーフ(もしものときの安全)になります。さらに地下の壁は結露しやすいという問題もあります。消費者にとって壁の結露はやはり困りますし、場合によってはクレームになります。二重壁を施しておくと、確かに地下壁のほうは結露しているのですが、室内側は乾いた環境に保てるので、仕上げもしやすいのです。壁紙を使ってもいいでしょうし塗料を使っても良い。いろいろな応用が利くという意味で、防水と二重壁のワンセットが最終的にベストの答えと思います。
われわれ情報発信をする側も、もっぱら屋上のことばかりで地下防水のほうが手薄になっていた反省も込めてのお話なのですが、情報提供が遅れたために、今困った状態になっているのだと思います。少し時間はかかると思いますが、地下防水に力を入れていきたいと思います。今後は、地下防水をきちんとするためにはそれなりの費用もかかりますよ、といった点も含め、しっかり説明していきたいと思っています。
■地下防水は品確法の保証対象外
最近の建築裁判の紛争は地下関連の漏水が圧倒的に多くなっています。品確法(住宅品質保促進法)では、漏水なら10年間の瑕疵担保でとにかく直す、あるいは保証することが法律的に決められました。そのため裁判の紛争に上がる前に対処されることが比較的多くなっていると推察されます。それに比べて地下は非常に複雑で、100%完璧な防水は技術的に困難なので、品確法の対象外になっています。 一般市民にとっては屋上から漏れるのも地下で漏れるのも同じなので、おかしいと思うのは当然です。法律的な義務がないので、建築側の人間は「品確法に入っていないから保証しない」ということでもめる。それで地下防水関係の紛争になる事案が多いのではと個人的には思います。
例えば地下壁の漏水で多いのが下のスラブと立ち上がりの打ち継ぎのラインのあたりから水が浸入してくるケース。建物をつくったときの脆弱部から水が入ってきて、それがカビを発生させるなど、副次的な問題も起こします。カビで保管物が台無しになって、かなり高額な損害賠償に発展することもあります。 基本的には、できれば地下室はつくらないほうがいいというのが私の考えです。ただ最近の建築事情から、特に敷地面積が少ない都市部などは地下を使わざるを得ない。また、地下は地上とは違う空間としてのメリットもあります。例えば遮音性に優れる。いくら音を出しても近隣から文句を言われることがないというメリットがあります。地下に放送局をつくった例もあります。一般住宅レベルでいうと、オーディオルームなどです。遮音性能の観点から地下は圧倒的に有利です。また地下は温度変化が年間を通して少なく、ワインセラーなどに使う人もいるようです。
■地下防水紛争化の原因
地下室はそれなりに古くから使われており、地下の駐車場、機械室、倉庫、デパートの地下街などがあります。防水の観点からいうと、非生活空間としての使い方(古典的利用)で、それなりに安定的に地下室が利用されてきました。現在私たちが保有する地下工法は、この古典的利用がベースになっています。ところが最近、居室、音楽関係のスタジオ、ホームシアター、書斎、寝室など、生活そのものを地下空間に入れ込むというニーズが高まっています。建築をつくる側は古典的利用で地下防水のことを考え、供給してきましたが、消費者は普通の居室と同じレベルで地下を理解するので、そこに温度差と軋轢が生じます。今はちょうど軋轢の最中だと思います。紛争をなくすため、建築に携わる側として、さまざまなところで周知させる活動をしたいと思っているところです。
地下空間の利用には行政も一生懸命です。古くは1994(平成6)年、地下利用を推進するために建築基準法が一部改定されました。そして2001(平成13)年、大深度地下を公共的に利用できるよう法律的なサポートがなされました。
建築環境の側からみると、地下空間の問題は、湿潤空間になりやすいこと、暗いこと、通風が悪いことなどです。ただ現在は費用さえあれば技術的対応はかなり可能です。部分的な短所は改善されていますが、トータルな技術が伝わっていないので、結局いろいろ問題が起きているわけです。地下水の防水の水準に対して、消費者と建築関係者、特に古い建築関係者の意識に大きなかい離があるわけです。地下は品確法の対象外になっているので、いろいろと紛争が生じます(図1)。
■地下水の揚水規制で大都市の地下水位は年々上昇
敗戦後の経済復興期に、工業水として地下水を多く使ったため、地盤沈下で建物が傾いたり、ひび割れが入るなどの問題が発生して、東京も大阪も行政が地下水の揚水規制を行いました。地下は地上の川と違ってゆっくりとしか流れないため、汲み上げると地下水もゆっくりと下がっていきます。それが1960年代後半まで続きましたが、揚水規制で地下水が戻ってきました。そのためにいろいろな問題が発生しました。
一つは防水の問題。今まで地下室の周りには原則として水がなかったので、二重壁の技術で対処してきましたが、常時水があるということになると、相当量の漏水が発生します。もう一つは構造の問題。地下水がない前提で地下構造物をつくったところに水が戻ってきたので、建物自体が浮き上がる被害が発生しました。揚水規制以降地下水位が戻り、東京、大阪でも少し掘れば水が出るという状況になってきています(図2)。
さらに地下水で心配なのは、地下水位が低くなると、海の近くで地下水に海水が逆浸入することです。地下水に塩水が混ざると、鉄筋が腐食する危険性が高くなります。この塩水化に対する抜本的な策はまだありません。東京都は地下水のモニターを行っており、塩分濃度のデータも取っています。下町を中心として、かなりの領域で塩水化も進んでいます(図3)。まだデータは入手していませんが大阪も同様だと考えられます。
■一度漏水すると有効な対策がない
地下が漏水すると、防水をやり直すのは事実上ほとんど不可能です。そのため漏水したままで解決しなければなりませんが、大変です。いくら品確法で地下の漏水が責任範囲外だといわれても、訴えた人も引き下がらない。だから一度起きてしまうと大変なのです。
地下構造物がつくられる手順は次の通りです。@山留め壁をつくる。A根切り(地盤を掘る)。Bならしコンクリートを打設する。C鉄筋を組み立てる。D耐圧盤(マットスラブ)コンクリート打設。E1階床鉄筋型枠工事。F1階床コンクリート打設。G地下躯体の完成。この様に地下は地上と違い、もう掘り起こすことができないので、漏水補修がほぼ不可能というわけです。
さらに地下には、水道管、ガス管、排水パイプなど外部からの貫通物がたくさんあることも、完璧な防水を実現しにくい一因です。
■仕組みと施工からみた地下防水工法
地下防水は、(1)防水領域(全面防水/部分防水/防水なし)、(2)防水層の位置(外防水/内防水)、(3)防水層施工順序(先やり防水/後やり防水)、この組合せです。(1)では地下壁も床もグルッとくるむのが全面防水です。防水の基本的なセオリーからいうと、全面防水をするというのが建前であり、大原則です。ただ、今でも防水なしの建物もかなりあります。(2)は、建物の地下室の外側からくるむというのが外防水、室内側から防水するのが内防水です。(3)は、後から防水をするか、先に防水をするかという工法の話。後やり防水は素掘りして、建物の地下室をつくってから防水。山留め壁に仮に防水層を先につくるのが先やり防水です。
どの防水層をチョイスするかですが、ここが地下防水と屋上防水が根本的に違うところです。屋上防水は水一滴も漏らしてはいけない。だからランキングはありません。一方地下の場合は、防水に区分(ランキング)があります。地下は100%防水が実務上難しいのですが、最上位は、「確実性、Aランク」です(図4、5)。発注者が防水に対して敏感な場合にはAランクで対応する。駐車場や万が一水が入っても大丈夫な場所ならB、ほとんど考えなくてもいいならCで、ということです。これは建築側の選定事項で、われわれに責任があります。
■さまざまな施工事例(後やり/先やり)
事例を写真で紹介します。後やり防水の例では躯体にポリマーセメントを塗っています。シート防水も使えます。特に非加硫ゴムの場合は、生コンとの接着が非常によい。ゴムアスファルト系の塗膜防水もあります。このようにいろいろな工法がありますが、写真はエマルジョンを吹き付けています。次は屋上防水で使うトーチで施工する改質アスファルトルーフィングの防水。トーチバーナーであぶって上から降ろしながら行います。これは防水でよく使うウレタンゴム吹き付けの例です。
次は先やり防水の例です。SMWといわれる地下壁に仮設的に防水層を先に止めているところです。この後に壁の鉄筋を組み立て、型枠をつくり、コンクリートを打設します。改質アスファルト常温粘着工法は、現場で裏紙をはがし、親杭横矢板の山留め壁に貼り付けるものです。次に親杭を打って木の板を入れ、その山留め面に防水材を施工している様子です(図6、7)。次はゴムアスファルトの吹付け。典型的な地下工法で、山崩れを防ぐために逆アンカーを打って止める。これはかなり大規模な地下工事の例です。
地下防水が完璧にできないのは、屋上と違い、防水の妨げになる諸々のものを切り抜けながら行う必要があるからです。今はいろいろな工法があり、どの工法が最もいいのかは気になると思うのですが、現場の状況やコストの問題、熟練した防水工事業者の有無など、総合的に判断せざるを得ません。どの工法がAかBかまでは言えません。今の地下防水の段階はそれ以前の状況なのです。まずは、必要な地下防水をきちんと設計にスペックインし、消費者に説明することです。
■防水の必要性を発注者に十分説明することが重要
地下防水が不十分だと、躯体の耐久性、居住性、健康・安全性(カビなど)、経済性(下水道排水費用など)の低下が生じます。特に耐久性は最も重要で、鉄筋の腐食、コンクリートの劣化など大きな問題となります。防水工事が建築の一連の流れの中で重要であることを示したフローチャートがあります。設計者が発注者の要望を聞く際、地下はどうするかをよく聞く必要があるのです。普通、発注者にとって地下の話を聞くのはここが最初にして最後なので大変重要です。設計者は発注者から使用目的を聞き、「それでは防水をこの水準でしましょうか」と、きちっと説明する。例えば物置程度ならこうするという様に防水をあらかじめ発注者に、分かるように十分説明しておく。今はそれが全くといっていいほどありません。そのため発注者にとって「こんなつもりで頼んだのではないのに」ということが起こるわけです。そういうことを踏まえて設計し、施工に引き渡す。地下は掘ってみなければ分からないので、施工者もきちんと対処しなければなりません。
従って、設計者、施工者、特に発注者に丁寧に説明しながらやっていかなければいけない。ここが屋上防水と根本的に違うところなのです。発注者は、屋上は絶対水が漏れないと思っています。つくるほうも絶対漏らさないというようにつくります。ここが暗黙の了解で問題は何らありません。ただ地下の場合には、建築側はそこまでの意識がない場合が多々あります。しかし発注者は普通に「漏れない」と考えているのです。
そもそもこの防水の要求水準(ランキング)があるということに関する情報発信も、きちっとされていなかったと思います。ことに、われわれの方にも抜かりがあったと思います。防水水準に関し、発注者にきちんと説明をしていくことが大事です。さらに施工との連携も必要です。地面は掘ってみなければ分からない。開けてみるといろいろ分かる。最終的には、具体的な工法はそこで決まってくると思います。スペックインのときに、「○△防水をスペックインする」と決めるよりは、外防水で、という程度でざっくり決めておいて、具体的には掘ってから決めるというのが、実務的にはいいのではと個人的には思います。
■二重壁をどう考えるか
それでは二重壁は役に立たないのかというと、私はそうは思いません。地下壁の内側に軽量ブロックを積んで、そこに排水の樋をつくっておき、入り込んだ水をピットまで落としておいて、ピットが満杯になったら地上に揚水機で汲み上げるのが二重防水の方法です。これはやはり、発注者が完璧なことを要求するときには残したほうがいいと思います。なぜなら、地下は屋上と違って100%の防水はかなり難しく、そうなると万が一のことを考えておく必要があるからです。
二重壁なら、万が一の場合の水程度ならほとんど問題ないので、フェイルセーフ(もしものときの安全)になります。さらに地下の壁は結露しやすいという問題もあります。消費者にとって壁の結露はやはり困りますし、場合によってはクレームになります。二重壁を施しておくと、確かに地下壁のほうは結露しているのですが、室内側は乾いた環境に保てるので、仕上げもしやすいのです。壁紙を使ってもいいでしょうし塗料を使っても良い。いろいろな応用が利くという意味で、防水と二重壁のワンセットが最終的にベストの答えと思います。
われわれ情報発信をする側も、もっぱら屋上のことばかりで地下防水のほうが手薄になっていた反省も込めてのお話なのですが、情報提供が遅れたために、今困った状態になっているのだと思います。少し時間はかかると思いますが、地下防水に力を入れていきたいと思います。今後は、地下防水をきちんとするためにはそれなりの費用もかかりますよ、といった点も含め、しっかり説明していきたいと思っています。
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「地下外壁防水『先やり防水工法』の普及、啓発に向けて」
森上 恒
氏 潟Eォータイト 代表取締役
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■防水材「ガスファルト」と先やり防水工法
当社は旧名を日本セメント防水剤製造所といい、セメント防水剤を日本で初めて製造した会社です。時代とともにセメント防水はあまり使われなくなり、今ではこれに代わってメンブレン防水が多く使われるようになっています。当社で開発したさまざまな材料の中の一つが、地下外壁防水の話と併せて紹介する、ゴムアスファルト系塗膜防水材「ガスファルト」です。こちらは1975(昭和50)年に弊社で開発、製造販売を始めたものです。特徴は、水性系の材料なので安全性が高く、乾燥硬化することで強靱な被膜を形成し伸びがいいこと、アスファルト系なので信頼性も高いことです。アスファルト系ですがコンクリートとの相性がいいという変わった特長がある材料です。それらの特長から、地下外壁防水に向いているとされ、私たちも地下防水に取り組むようになりました。地下防水には内防水と外防水があります。防水層は水がくる側に設置することが基本。ですから外防水があるべき姿とは思いますが、それにも二つの方法があります。一つは躯体ができてから防水層をつくり、その後埋め戻す後やり工法。そして他の工事に先行して山留め壁面を防水する先やり工法です。近年は、特に土地が狭い都市部で先やり防水が増えています。
先やり防水と後やり防水の違いを工程を追って見てみます。上が従来工法、下が山留壁面利用の外型枠省略工法で、余堀(よぼ)りスペースを少なくするために用いられる方法です(図1)。山留壁面利用の外型枠省略工法の場合は、山留壁を外型枠として、そのまま躯体の建設が進んでいきます。従来工法は、躯体がGL(グランドライン:表面レベル)よりも上までいった段階で防水層を形成します。この後埋め戻しをしますが、外型枠省略工法の場合は躯体がそもそも埋め戻しの工程がありません。外型枠省略工法のメリットを列挙すると、敷地が限度いっぱい使える。工程数も短くすむ。建築費が安くすむ。一方、デメリットは、埋め戻しの工程がないので、地下外壁の状態を確認できないこと、従って外防水ができないこととなります。
このデメリットを解消するために考えられたのが先やり防水です。当社も地下外壁防水に取り組む中で、先やり防水は避けて通れなくなりました。ここで当社の初期の事例を紹介します。ゴムアスファルト系塗膜防水材は水性系で、水分が飛んで皮膜化し、防水層を形成するものですが、SMW連続壁面は完全な止水壁とはいえません。当然施行中に雨も降ります。例えばここは床面に水が溜まっています。弊社のガスファルトは、乾いていないときは茶色ですが、乾燥硬化すると真っ黒になる性質があり、この壁を見ると黒いところがほとんどですが、茶色が部分的に残っています。これはSMW連続壁面の土留め壁が湿っているか、湧水があって流れているかで、乾いていなかった状況で工事を進めたという可能性も考えられます。30年くらい前のことで正確な記録が残っていないのですが、この時代は相当苦労をしながら先やり防水に取り組んでいたことがうかがい知れます(図2)。
■先やり防水工法の普及・啓発について
以来地下外壁防水に伴って、先やり工法の説明や営業活動をしてきましたが、先やり防水工法は勧めるのが難しい工法でした。躯体工事と並行して防水工事が行われること自体、かなり特殊なことだと思うのですが、山留め壁をつくる業者の方、コンクリートを打つ業者の方、鉄筋工、型枠工の皆さんは防水工事に対する理解が基本的にありません。また、防水は基本的に躯体ができた後に行う工事です。防水施工業者は躯体工事に対する理解が低く、当初は先やり防水の工程を説明するのに苦労しました。一番難しかったのは、防水保証書が発行できないこと。せっかくコストと手間をかけ、各業者を巻き込み、ゼネコンの工程にも踏み込みながら進めていくにもかかわらず、そのメリットが目に見えてこないという点で、苦戦しました。
その中でも理解ある方々との連携で普及・啓発に努めてきた結果、2001(平成13)年9月に第1回防水シンポジウムが日本建築学会主催で開催され、初めて地下防水のテーマを取り上げてもらいました。このシンポジウムの内容を受けてつくったのが『地下躯体保護』という冊子です(図3)。地下防水はなぜ必要なのか、地下水位はどんどん上がってきている、といった話から、地下の掘削の進め方や地下防水のあるべき姿など、一通りをまとめています。できれば設計、施工業者の方々に教科書的に使ってもらえればと思ってつくりました。
この冊子の中で、私たちなりに先やり防水に適している材料を考え、ポイントを三つあげました。一つ目は、「施工の安全性」が確保される材料であること。二つ目は地下の水圧・土圧に耐えられる「防水層の信頼性」があること。三つ目は最も大事な「後打ちコンクリートへの水密接着性能」です。従って、塗膜防水の中でもゴムアスファルト系が優れていることがご理解いただけると思います。
■先やり防水の流れと施工上の工夫
ゴムアスファルト系塗膜防水材を使った先やり防水の流れを説明します。下地はSMW連続壁面で、平滑に仕上げていきます。凸部があると適切な壁厚確保が難しく、逆にへこんでいると防水層にコンクリート打設のときに余計な圧力がかかり防水層が破損する恐れがあるからです。SMW連続壁面全面に下地材を張ったのちに、防水材を吹き付け機ですき間なく吹き付けます。最終的にはコンクリートに接着しやすいように接着剤を吹き付けて養生を外します。こうして防水層を仕上げます。ポイントの一つとして、この現場の場合、セパレーターを受けるために、この後横アングルが溶接されます。その際に、防水層を傷つけないでくださいと要請することが重要です。このとき防水工事業者は現場にいないので、現場監督や溶接をされる業者の方の理解を得ながら行ってもらいます。
1回の施工は切梁りの高さまでです。切梁が何段かによって施工の回数や効率も変わります。例えばこの3段切梁の場合は、防水施工は4回に分かれます。現場での打ち合わせが重要な工法です。
施工上の工夫で先やり工法も少しずつ進化しています。SMW連続壁面は止水性はありますが完璧ではないので、最初に導排水板を山留め壁面に設置してから、下地材を貼り付けて防水施工をしています。こうすると躯体と山留め壁の間に水が滞留しなくなります。当社の下地形成シート「レンペキルーフ」は、片面が滑らかで、もう片面は不織布です。滑らかな面を山留め壁面にあて、不織布面のほうに当社の材料を吹き付けて防水層を形成します。防水施工修了後に横アングルの溶接作業をするので、アングルピースを出した状態で、その貫通部分を切り抜きながら布を張っていく作業があります。この開いた貫通部分の口はコーキングで塞ぎます。
ただ、防水層なので、貫通部はないほうがいいです。この部分は後々に弱点になる場所なので、私たちはまた一つ別の工夫を進めています。当社の商品ではありませんが「スクリュービット」という特殊なセパレーター受けは、防水層との取り合いがよく、貫通部の処理に適しています。最初にスクリュービットの頭部分をねじ込み、頭部分が突起した状態でレンペキルーフを貼り付けて、その上から直接ガスファルトを吹きます。養生も何もしません。その上から裏面にブチルゴムが付いた大型止水リングを突起部にあてがい、今度はセパレーター受けをねじ込みます。この方法なら貫通部分を最小限にすることができ、今一番止水性の高い工法だと思います(図4、5)。
山留め壁面の天端の納まりも注意が必要です。初期の先やり防水を始めたころは、案外失敗がありました。昔はGLの上まで防水していなかったようで、SMW連続壁面の先端部分までやって安心してしまっていました。GLはそれより高いケースがほとんどなのですが、これより上まで防水層を上げていなかったため漏水していたようです。今はSMW連続壁面まで終わって、躯体が上がってからGLの上まで防水層を塗り上げてくださいと現場で要請しています。実際の現場では、天端部分はいろいろな納まりがあるので、計算通りにいかないケースも多いのですが、初期の段階でゼネコンの方などと打ち合わせが必要な部分だと考えています。
■先やり工法は各業者の連携で進めなければならない
先やり防水は難しい工法です。躯体工事との連携が必要な上、防水施工業者がいなくなってからの作業がかなりあります。その際防水層の管理は誰がするのかなど、さまざまな問題があります。皆さんにお願いしたいことは、防水層と躯体が一体化した状態を防水の完成と呼ぶのであれば、先やり防水は防水施工業者が完成に立ち会うことができない特殊な防水工法だということに対する理解です。防水施工業者だけで考えていても問題解決はできません。各業者が皆で一緒に考える必要があります(図6)。
最後に弊社の新社名について説明させてください。100年前、創業者が「ウォーター・タイト」という言葉から「ウォータイト」という商標がつくられたようです。戦時中だった祖父の時代、鉄鋼不足の中で軍艦をつくれなくなったので、コンクリートで軍艦をつくったそうですが、そのときに当社も協力したことからウォータイトのロゴマークができました。意味のあるマークだと思っています。本当にコンクリートで船をつくったのかと探してみたら、広島県呉市安浦漁港に2隻だけありました。仕事を終えたコンクリート船が防波堤として現存しているので、広島方面に行くことがあればぜひ足を運んでみてください。
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「地下外壁用防振材の防振性能と施工例について」
菱沼 亨
氏 鞄結档uイテック 営業部長
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■防振材「ビブラン」による防振対策
関西に本社を持つ防振装置メーカーに30年間在籍し、10年前にそこの技術者2名と一緒に起業したのが当社です。防振材の販売にあたり、発泡プラスチック系材料である発泡ポリエチレン(または発泡ポリプロピレン)が効果が高いと分かったので、この材料を使用し、特に地下鉄振動対策として防振材「ビブラン」の販売を行っています。
建築的には山留め面に材料を貼り付けていく工法です。従来は、技術の方はよくご存知だと思いますが、表面波の振動に関してはここに防振溝をつくるのが一般事例ですが、空気層のようなものをつくっていれば振動遮断できるのです。現実的にはそういうことはできないので、この振動表面波をどういう形で絶縁するかという工法になります(図1)。従来はいろいろな文献を見る中、EPSなどの発泡断熱材なら厚さ500o、200oなど、また東京ではゴムシートやゴム材を貼り付けるなどの工法で防振対策をしようとしていた時代がありましたが、性能評価については疑問視されていました。われわれとしては、基本的に防止溝の代わりに、発泡ポリエチレンの材料を山留め側に貼り付ける工法で、性能評価をしています。
もともとセパボルトも一つの振動ブリッジになるので、どうしても外壁や山留め面に接触するため、ここから振動がコンクリート面に伝わっていきます。このあたりが振動の伝わる大きな原因になります。ウォータイトさんが特許を取得されているので、その関係から使用契約をさせてもらい、ウォータイトの特許をわれわれのほうで採用させていただいています。
このセパボルトに同じ発泡ポリプロピレン系の筒型の材料を取り付けて、振動の是正を図ります。ただこれは防水をあまり考慮していないので、ウォータイトから注意を聞き、途中と根元に止水リングをつけてもらうようゼネコンに要請はしていますが、完璧な防水対策とはいえませんので、あくまでも防振だけを考慮した内容になっています(図2)。この性能については2013(平成25)年に日本建築学会で発表された、あるゼネコンによる試験のデータがあるので後で紹介します。
建物の振動は、基本的には入力損失で評価しますが、テスト振動、それに対する評価法のようなものは今のところありません。当社の技術者が日本建築学会の固体音小委員会のメンバーに入っており、2015(平成27)年には鉄道振動の騒音の測定法に関しての研究を進めていこうと考えていますが、まだできていません。これからは鉄道振動に関するいろいろな規制法が出てくるのではないかと思います。
防振材の性能計算については、理論上、設備などの場合はバネ・質点系などで評価します。荷重が掛かったときにバネがどれだけたわむか、バネ材の固有振動数で計算します。地下鉄に関しては、土木で使われている波動インピ−ダンスの性能計算になるのではないかといわれています。比重の小さいものと横波伝播速度の非常に遅いものを使うことで、絶縁性能が上がるといわれています。インピ−ダンスの違いになりますので、なるべく比重の軽い材料で施工する方法が有効であることが分かってきています。
■各現場での振動調査と防振対策の施工事例
さまざまな現場での施工事例を紹介します。まず東京の私鉄沿線で施工された現場です。建物は賃貸住宅・マンション。これは蒲田の駅からの線ですが、池上線ともう一つが東急多摩川線で、池上線は建物から2mも離れていないところに軌道が走っており、事前振動調査をしたところ大きな地盤振動が計測されました。ちょうど125Hz帯域です。レールの継ぎ目で衝撃波形が入るので、ゴトンゴトンという音が地盤上で計測されました。防振材「ビブラン」で基本的にこの周囲までを壁面だけ防振対策しました。東急多摩川線に関しては、距離が約20m離れていたので、データを計るとこちらのほうが10dBから15dBくらい減衰することが分かり、こちらのほうは対象外にして、池上線側の面だけ防振対策をした事例です。
1時間10本から20本くらい取って、そこから大きい5、6本くらいの平均値を出すと、相当大きな振動が出てきます。振動加速度で10ガルになったので、80dB相当という大きな振動値です。施工事例ですが、SMW山留め壁に、900×1,200mmで厚み50mmの発泡ポリエチレンの材料を施工しました。土圧水圧がかかるので、それに対応できる耐荷重性能を持ったものを使います。上は800kg/uくらいから下は10t/uくらい。層に分けて貼り付けます。今回この壁についてはセパボルトを使ってコンパネで壁をつくります。セパボルトも振動ブリッジになるので、大工の方に、セパボルトに付ける防振材を包んでもらって施工します。結果としては振動値は小さいものでした(図3、4)。
■地下鉄線近傍での事例
地下鉄銀座線のすぐそばのビルで防振対策したいということで、鉄道軌道の側だけを防振対策した事例です。鉄道振動で特徴的なのは、特に地下鉄の場合、東京の場合は1/3オクターブでいくと、50Hz振動成分や63Hz振動成分など80Hz振動成分これが大きく立ち上がってきます。これは銀座あたりだったのですが、だいたい80Hz振動成分が大きく立ち上がってきます。これは外部の振動ですが、外部の道路面で測っています。できあがった時点で建物内部、スラブの中央部に振動センサーを置き、挿入損失を測っています。当然建物の挿入損失と防振材の挿入損失も入るわけです。入力の挿入損失としては約20dBなので、一般的にゼネコンの方などが言うには、構造体の挿入損失が5dBくらいあればいいほうだということだったのですが、防振も含めて20dBなので、防振材としての性能は高いと評価しています。
施工的には、SMWともう一つ既存壁もあり、既存壁に防振材を貼り付ける方法と、SMW面に防振材を貼り付ける方法をとっています。基本的にはSMWのセメント面にビスで打ち込みます。既存壁にはコンクリート面に釘を打ち付けて固定するよう施工しています。セパボルトも5〜6本/uくらいは入りますが、この現場は壁厚が1mくらいあり、セパボルト自体を防振材でくるんでコンクリートの直接の接触を防ぐ方法をとっています。
次に仙台市の地下鉄で行った工法で、埋め戻し工法です。事前調査では振動が大きく、60dB近くまで振動値が上がるので、防振対策をしたいということでした。これも直接、新設建物のコンクリートに防振材を貼り付けて、その挿入損失を測った事例です。ここでも分かるように15dBくらいの性能差が出てきて、挿入損失が出ているので、やはり防振材としてはそれなりの性能が出ていると考えています。
防振材の性能を測る手法がまだはっきりしていないので、本来は防振材のある・なしで測ることによってその性能を評価できるのですが、なかなかそういうことは不可能に近いため、今のところは挿入損失で評価をしています。これがそのときの工法です。ポリスチレンとは違い、非常に粘着性の高い材料です。引裂き強度が非常に強く、あとから土を埋め込んでも外れることはまずありません。
■地下鉄近傍の新旧建物における比較(学会発表)
これは2010(平成22)年の日本建築学会の大会で発表された現場です。地下鉄M線の近傍に既設のSRC造で7階建ての建物があったのですが、2階、3階ではNCの60という非常に大きな音、特に50Hzの振動成分が出ていました。騒音も50Hzのゴーという低周波音が3分おきに聞こえていました。2010(平成22)年にその建物を取り壊す際、いろいろな振動データを測りました。
既存建物の杭、壁、2階スラブ、3階スラブの振動を全部測り、施工的には全周の壁面、一部の地中梁の壁面、全周壁底面に防振材を貼り付けました。地中内部で建物を梱包するような感じです。問題なのは杭からの振動入力が考えられることです。杭頭での振動データも測っており、壁に対して約10dBくらいは小さくなる。防振対策をすると相当の効果が期待できるのではないかと思いました。
そのときの比較ですが、基本的には既存建物の2階の旧建物騒音です。NCで評価してますが、NC65くらい、63Hzの周波数の低周波音がゴーと3分おきに聞こえていたという感じです。新設の建物では防振対策をした後、建物の構造が違うのですが、基本的にはS造でつくっているので、SRCから比べれば相当揺れが大きくなり、条件的には悪くなっているものの、防振材を入れることで20 dB落ちています。音は完全に消えているわけではありませんが、空調などを運転させるとほとんど判らない状態になります。非常に評価が高く、学会の2010年大会のときに、あるゼネコンに発表してもいいという了承をもらって出しています(図5、6)。
最後にJR線(京急線)沿線のある開発地域の事例です。ホテル棟、商業施設、住宅棟があります。振動調査をすると京急線の振動は小さかったものの、1時間に数本走る貨物列車の振動が大きいことが分かりました。周波数は低く出るのですが、1/3オクターブでいくと、31.5Hz帯域の振動が出ています。非常に低周波で気にならない周波数帯域ではありますが、基本的には防振対策をしていこうと、この全周に防振材料を全部打ち付けました。この現場に関してはセパボルト用の防振材ではなくて、施工業者側で独自の防振ハンガーのようなものをつくって施工しています。
まだ10年程度なので、実績としては関東で100件くらいの施工があり、防振材の性能が出ることは分かってきました。今は設計事務所を中心にPR活動を始めたところです。材料の発泡ポリエチレンをつくっているのは世界で2社(カネカとJSP)。われわれはこの材料に関して、柔らかいものから固いものを準備しています。現場で土圧・水圧がかかってもつぶれないよう、よい品質を保証できるよう努めています。
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