■住まいから社会を変える
いろいろな社会課題の中心に住宅があります。例えば隣近所が関わりのあるまちなみをつくるコミュニティの再生。このためには住宅が大きな役割を持ちます(図1)。安心・安全の問題。災害に備えるシェルター機能が高い住宅も進めています。待機児童の解消を目指して開発したサテライト保育所には、「自然と触れ合う子育て」という提案の中には当社がずっと戸建て住宅で提案し続けている「5本の樹」や「里山」の要素が生かされ、環境共生、生態系保全といった社会課題解決への提案もなされています。ほかにも戸建て住宅同等の高い断熱性能とすることで、地球温暖化防止の課題、あるいはエアキス仕様という空気環境配慮仕様を採用してもらい安心・安全の提案を行っています。住宅でいろいろ提案をして開発してきた先進技術が保育所でも解決に役立つようになってきているという事例です。
■最新住宅メーカー情報
当社の主力商品「IS ROY+E(イズ・ロイエ)」です。天然石が使えるアクセント外壁、視線を制御する木調ルーバー、ピロティ空間。構造の進化によってここまで自由にできます。外部と内部の中間領域、スローリビングの提案。バルコニーでも内部と外部の連続性・一体感を追求し、大開口サッシも気持ちよさに貢献しています。
積水ハウスオリジナル外壁の塗装技術も格段に進歩しています。中でもフッ素塗装は非常に優秀で、明石海峡大橋や東京スカイツリーでも使われています。構造は、ここ数年は制震システムがメインです。省エネは進歩が早い分野で、住宅メーカー各社が競い合って性能向上を進めています。安心・安全も大きな社会問題ですが、住宅ができることは室外空気環境、室内空気環境の向上です。
重量鉄骨賃貸マンションと呼ばれる賃貸住宅の「ベレオ」です。すべて敷地、地域特性、周辺環境などを考慮してプランニングしています。高い設計力が必要です。商品としてわれわれ開発部が標準設定する建材と、支店の設計者が自由に選べる建材がありますが、特に賃貸住宅は戸建てよりも流行を追う必要があるので、共用部には新しいデザイン提案、素材提案が求められます(図2)。
共同住宅は3階建て以上になると厳しい防耐火性能が求められます。耐火被覆材など、もっとスリムな材料で施工性がよくてローコストのものを願っているところです。耐火塗料というよい材料もあるのですがコストが高くて、まだ工業化住宅では使いきれないのが実情です。防火サッシは個別に試験を受けるため開発のスピードが遅いのも懸案です。小さな子どもが多い賃貸住宅では空気環境、音の問題、交通振動対策にも取り組んでいます。
戸建て住宅の着工棟数は、年間で約40万棟前後。大手住宅メーカー9社の合計シェアは約17%、当社は3.7%です。賃貸住宅は棟数でいくと戸建ての1/10ですが、大手住宅メーカー6社のシェアが55%もあります。戸建て住宅市場以上に賃貸住宅における住宅メーカーの影響力が大きい。当社の賃貸住宅は12.7%で10棟に1棟以上です。
■外壁の変遷と開発の方向性
1980年代、初期のプレハブ住宅は外壁のパネル、ジョイント部に幅広の目地をはめており、おとなしいテクスチャーでした。2000年頃はサイディングの外壁が主流に。プレキャストコンクリートの外壁を使うようになったのは1984年(図3)。プレキャストコンクリートは1枚1枚型枠にコンクリートを流し、養生して脱型するという手間と時間がかかる製法ですが、ハンドメイド感が出て愛着の持てる外壁素材です。温かみのあるタイル外壁も人気があります。日本の空間に合う、愛着のもてる素材感を大事にして開発を進めています。
賃貸住宅の3、4階建ての延床面積はここ4、5年で大きくなっており、今は平均600uぐらいになって1,000u、2,000uの賃貸住宅もざらにあります。今までは戸建てとシャーメゾンの外壁柄が共通でしたが、戸建て住宅に合わせた柄ではなく、大きな建物に合わせた柄が必要だと考え、今まで常識だった250mmピッチをはずして大柄のデザインを検討するようになりました。
■バルコニー、集合住宅共用部の変遷と開発の方向性
1980年代初期のアパートでは縦格子や装飾切り抜き格子など、80年代後半から胴差し、矢切飾りなどの外部付帯の飾り物、90年代は外装部材にアクセントカラーが採用され始めます。不景気だった1998年は落ち着いた雰囲気の商品が多く、外壁と同柄・同色の面材のバルコニーで重厚感を演出していますが全体的に地味です。 2003年あたりから他社競合が激しくなり、派手なカラーリングで若々しさや目新しさをアピールするなど、少し過剰ともいえるデザインが多く開発されました。最近は透明感、高級感があってモダンなガラス面材のバルコニーが主流ですが、通風をしっかりとるのが課題です。
これからのバルコニー面材開発の方向性のキーワードはルーバー、通風、異素材のコラージュなどです。存在を感じさせない方向と自由な表現のアイテムとしての方向の二つの方向性があります。
今はマンションクオリティーが追求されており、素材やディテールのレベルアップが必要となっています。共用階段、共用廊下でも、1カ所をよくするとほかの部分が見劣りしてしまうことに関し、妥協しないことが次の開発のステップになると思います。
■賃貸住宅スタイルの変遷と開発の方向性
1969年から順番に、外廊下スタイル、内階段スタイル、テラスハウス、重層テラスハウスという形でいろいろな賃貸スタイルを開発してきています。現在の比率は円グラフの通りで、当社の場合重層テラスが半分です。2000年のはじめにテラスハウスを1、2階に積み上げた重層テラスハウスが登場。内階段スタイルの2015年バージョンとして今年リニューアルして発売したものは、オートロックの共用玄関を標準採用として防犯性を高め、共同階段が見えないようにして高級感を出しています。100年先、住まいの形は変わり、進化多様化するため、次のスタイルを予想しながら開発しています(図4)。
■スローリビングの変遷と開発の方向性
1987年、“内部と外部の中間領域”「C・ZONE」を提案しました。一番の特徴はルーフライトウェル。下屋をくりぬいて木を植え、木もれ陽がリビングにさし込む設計です。2000年に発表したのが「セントレージ・ギャラリー」です。ロッジアという壁で少し囲われた外部空間に、日よけのオーニング、風通しのいいルーバー引き戸などを採用しました。2010年、中間領域のスローリビング「ビー・サイエ」を発表。構造システムが大きく進化し、今まで以上の大開口が可能になりました。耐力壁を強化したり、間仕切りに移動したりできるシステムによって外壁の耐力壁が減少したためです。
これによって中間領域の魅力が進化したわけですが、床と天井の連続性が大事なので、フルフラットサッシも重要になってきます。バルコニーにはかつて、室内との間に20cmくらいの段差があったのですが、2010年にようやくフルフラットバルコニーができました。こうなると、座って楽しめるバルコニーの床材の質感も求められますし、外部なので紫外線を含め耐退色性なども厳しくなると思います。2014年、3 ・4階建ての都市型住宅「ビエナ」でもスローリビングを提案しています。都会で緑豊かに暮らすためにバルコニーでの緑化計画が今後重要になります。スローリビングはまだまだ戸建て住宅向けの部材が多いのですが、賃貸住宅はまだ手をつけていないので、これから建材を開発していきたいと考えています(図5)。
■健康で長生きできる家
住宅ができることはまず、居室・廊下・トイレ・洗面などの温度差を少なくすること。昔の家は温度差が激しく、冬のサーマルショックによる心筋梗塞や脳梗塞の危険性が非常に高かった。これは断熱性の高い家にすることで解決します。またユニバーサルデザイン、介護ロボットの活用、空気環境配慮も住宅でできます。
2003年、シックハウス対策のために建築基準法が改正されたとき、ホルムアルデヒドに関する建材、あるいは換気設備に対して規制が行われました。いきなりハードルを高くできなかったので、当時最低限の規制だったとのこと。しかし中には、F☆☆☆☆さえ使えば大丈夫だろうととらえる住宅メーカーもありました。F☆☆☆☆といっても、24時間換気しないと基準を容易に超えるのです。われわれは「F☆☆☆☆を使っていれば大丈夫だというのではない」と啓蒙しています。大人にとっての基準だから、子どもならもっと厳しくしないといけませんよ、と。
そこで当社では「エアキス」という仕様を決めています。国の基準の半分以下に。ホルムアルデヒドだけではなくてトルエン、キシレン他5物質も規制。建材側だけはなく竣工現場で測定して確認しています。建材は当社の研究所で検査しており、時間と労力がかかりますが、建材メーカーにも協力いただき、当社の検査に合格するように努力をしています。世の中に出すときはF☆☆☆☆という基準しかないのが残念なくらい、レベルの高い建材を実現しています。
空気環境は内装建材だけではなく、外装建材、構造躯体にも関係があります。外壁や構造用合板などに使われる接着剤が室内に漏れてシックハウスの原因になることもあります。住宅メーカーは、空気環境をトータルな観点から見ています。
■高齢者の住まい
トイレ手摺りは1990年くらいから標準的になりました。手摺りの角度に注目してください。手摺りは垂直よりも15°傾いているほうが握りやすいという実験結果から部材をつくりました。最近はサービス付き高齢者向け住宅が増え、トイレ手摺りに要求される機能も多様化しています。高齢社会では予防医学が重要であるように、建築にも傷害予防の観点が重要になってきます。転びにくい家を実現するために、床の段差をなくすのは当たり前の設計で「転んでもケガしにくい家」レベルの開発を目指しています(図6)。
■賃貸住宅インテリアの変遷と開発の方向性
賃貸住宅のインテリアスタイルをアピールするようになったのが1987年頃。以来変遷を重ね、2007年からは、当社が採用している、建具が4色で床材が3色というカラーコーディネートシステムで展開しています。当初はナチュラルモダン系のミディアムあたりが多かったのですが、ここ2、3年はシンプルモダンダーク=濃いめの建具で、これに明るい色を組み合わせるものが約50%です。グレード感があって重厚感があるというような感じのインテリアが今の旬です。基本建材以外にも「キッズでざいん&ベビーでざいん」と称して細かい配慮部材をつくっています。ベビーカーを置くためのバギーピット、ベビークローゼット、チャイルドロック、ソフトクローズの建具などです。入居者ファーストの立場で暮らしの提案を進めています。
■ストックビジネス
2008年、優良ストック住宅推進協議会、通称「スムストック」が優良ストック住宅の普及推進を目的に住宅メーカー9社でスタート。築20年で一律に価値がゼロになってしまうという不動産業界の常識を覆そうとしています。住宅メーカーの家は築20年でもスケルトンに全く問題がありません。きちんと評価をする物差しをつくって、適正価格で中古住宅を流通させようというのが趣旨です。スクラップ&ビルドの社会から優良ストック社会に転換させたいわけです。アメリカではずっとメンテナンスをするので、住宅に投資をした分が今の住宅資産として残りますが、日本は投資をしたにもかかわらず、国の資産として住宅がストックされていません(図7)。
しかし住宅メーカーの築20年の家は、新省エネ基準を大きくクリアしており、非常にスペックが高い。ひと昔前の築20年と今の築20年は違うのです。外壁にもプレキャスコンクリートを採用して古さを感じさせない外観なのに、これが価値ゼロというのはおかしいと思います。住宅メーカーはスケルトンとインフィルにわけて考えています。インフィルはリフォームでしっかりとメンテナンスしていく。当社でもこれまで以上にリフォーム、ストックビジネスに力を入れていきます。小規模リフォームはネットで、大規模のものはコンサルティングで、新しいビジネスをつくろうと考えています。ネットリフォームに乗ってくるような新しい建材もあるでしょう。皆さまと一緒に開発できればと思っています。スクラップ&ビルドと決別し、住宅投資をきちんと資産として残していくことが必要です。
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