■バリアフリーのための改修は介護保険でまかなえる
2000(平成12)年に施行された介護保険制度。運営主体は各市町村であり、税金で50%ほどまかなわれており、あとの50%を保険者であるわれわれが保険料として収めています。同保険の加入者には、第1号被保険者(65才以上)と第2号被保険者(40才から64才まで)があります。65才以上の人口は2,978万人で、人口比率からいくと23.3%、4人に1人くらいです。利用するには介護認定を受ける必要があります。
介護サービスが必要な場合、市区町村の窓口に相談して申請します。申請に基づき訪問調査などが行われ、認定という運びです。介護認定には、要支援1と2、そして要介護5段階の、計7段階があります。それぞれの段階にあわせて居宅サービスの費用や住宅改修の費用の一部や、用具の購入費用の一部を負担してもらう形で介護給付金が支給されます。金額には使える枠があり、ケアマネージャーなどの専門家が利用計画書を作成します。その中に住宅改修、福祉用具の貸与・購入が含まれます。(図1)定者数は218万人でした。その後どんどんと65歳以上の人口が増え、201(3平成25)年度では3,190万人高齢化率が25.1%になりました。介護保険費用は9.4兆円でしたが、高齢者数がピークを迎える2025年頃には20兆円を超え、認定者数も700万人を超えると予測されています。高齢者が増えると、当然それに対応した住宅環境を整えねばなりません。そこでバリアフリーリフォームのポイントを解説いたします。
■玄関
玄関は生活の範囲を広げる重要なポイントなので、玄関のリフォーム工事も重要です。介護保険対象の工事と部位を図2に示しました。足元灯を設置したり、スイッチを明かり付の大型スイッチに取り替えたりなどは、介護保険の対象外ですが、こういったところもリフォームすれば生活が一層しやすくなります。玄関のもう一つのポイントは車いす利用のためのスペース確保です。土間の広さが有効で幅1,100mm以上、奥行1,200mm以上が目安です。上がりかまちに設ける簡易スロープは、狭い場所でも最大15°を目安にします。
■廊下
廊下は居室内の各部屋を利用するための重要な移動スペース。自立するためには行きたい部屋に不自由なく行ける環境が必要です。介護保険対象の工事と部位を図3の通り。ポイントは安全に移動するための段差の解消、すべり止め、補助手すりの設置などです。介護保険の対象外にはなりますが、開閉が簡単な窓にするとか、十分に採光できる窓に替えることで住みやすい環境をつくれます。車いすを想定して、キックガード(壁の破損防止部材)の増設も必要でしょう。
■階段
階段も、廊下同様に自宅内の移動に重要な場所。手すりと階段の滑り止めが一つのポイントです。手すりはできれば両側に付けることをおすすめします。階段の段鼻部へのノンスリップも効果的です。階段の上り下りができない場合は、保険の対象外ですが階段昇降機があります。これは階段の幅に制約があり、最低750mm以上ないと難しいです。階段が途中にあると手すりがつけられないので、使うときだけ上げ下ろしできる遮断機式の手すりが便利です。滑りにくい床材として有効なのが、コルク材や、柔らかい材質のもの。大きなケガを未然に防止する工夫の一つです。
■トイレ
高齢になるにつれ使用頻度が高くなるトイレ。リフォームのポイントは、段差の解消、換気、暖房設備、補助手すり設置などです。介護保険対象の工事と部位は図4の通りです。介護保険対象外の工夫としては、ヒートショック対策に有効な照明付き暖房器の取り付け、臭い緩和のための換気扇の取り付け、暖房器ほか電気機器を付けるためのコンセントの取り付けなどがあります。片手でカットできるペーパーホルダーも、手が不自由になりがちな高齢者には便利です。
トイレでは遮断機式の手すりをうまく利用すると、排泄の補助になります。また、トイレの中に介助スペースを設けることで介助もしやすくなります。前方や側面方向に500mm以上のスペースをとるのが目安です。便座から立ち上がるときに上体をフォローしてくれる立ち上がり補助具を便座に取り付けると楽に排泄できます。
■浴室・洗面所
浴室・洗面所は、身体と精神をリフレッシュするために重要なスペース。一方で転倒やおぼれるなどの重大な事故が起こる場所でもあるので、やはり段差の解消、滑り止め、介護器具の選定・補助手すりの工夫が大事なポイントです。手すりの取り付け工事、滑りにくい床材への取り替え、引き戸への取り替えが介護保険対象になります。脱衣所は服を脱ぎ着するので手すりの取り付け工事が必要です。動作補助、座位・立位での状態保持ができるものを設置します。
浴槽内の転倒防止をすのこなどで補う場合は、福祉用具の購入の範囲となります。浴槽の取り替えも有効な手段です。水栓金具の取り替えは、単純な金具交換だけでは保険対象にならないのですが、例えば床を上げたり下げたりした場合に、水栓の高さが変わるので、そういった場合の取り替えは介護保険の対象になります。入浴台・浴槽内いす・浴槽内すのこ・浴槽内手すり・入浴用いすなどは、改修工事ではなく福祉用具の購入でまかなえます。
トイレ同様、保険の対象外ですが換気扇・暖房機器も重要になってきます。暖房などの設備機器は体温低下によるヒートショック対策としては重要なポイントになってきます。ヒートショックによる死亡者は年間1万人以上(2011(平成23)年の1年間で1万7,000人)。これは高齢者に限らないのですが、普段の温かい格好をした状態で衣服を脱いだり、冷たくて寒い場所に行ったりすると、血圧が急に上昇するため脳梗塞を起こしたり心臓に一気に負担かかったりして死亡事故につながるのです。このような事故を解消するためにも、温度差が少ない状態にすることが重要になってきます。
浴槽を交換する際は、浴室スペースに介助可能な広さを設けます。短辺1,300mm以上かつ2.3m2以上で、背もたれが斜めになっていない垂直に近い形状の浴槽を選ぶことがポイントです。深さは500mm〜600mmぐらいで、浴槽のへりの高さは洗い場の床から400mm〜450mmくらいが適当とされています。
洗面所の出入口ではつまずきの原因となる床の段差をなるべくなくします。上吊り戸または、フラットレールの引き戸が有効です。浴室出入ロの参考としてもう一つ。開口幅は650mm以上、段差は20mm以下とします。20mmを超える場合は、浴室内外の高低差を120mm以下、またぎ高さを180mm以下として手すりを設置します。
■寝室
寝室は、住宅の中で大部分の時間を過ごす空間。安全に注意して採光や通風を十分に確保することで、快適に過ごせます。ここでも段差の解消、スペースの確保、家具の配置の考慮、補助手すりなどの工夫が必要です。介護保険対象の工事と部位は図5の通りです。保険対象外では、足元灯やスイッチ関係取り替え工事、脱着式手すりも押入れの前などで有効です。ヒートショックの対応として暖房設備も大事だと思います。ベッドなど家具は身体にあわせて配置を決定するのが、動作確保のためには重要です。
出入口は、引き戸の開口幅を750mm以上とし、敷居の高さを3mm以下にするのがポイントです。また、丸い握り玉のドアノブをレバー状に替えるとか、錠前だけの交換も可能なので、このような工夫も有効です。窓は日当たりの調整のために電動式のカーテンを使う、徘徊防止のために補助錠を付けるといった点が大事。収納は戸を引き違いか折りたたみに替えたり、キャスター付きのワゴンなどに替えたりすることで便利になります。身体条件にあわせて押入れ、物入れを便利に改造することも有効です。
■屋外/福祉用具貸与
屋外関係のバリアフリーリフォームは、玄関アプローチの工事が重要です。自立して安全に外出するには、段差の解消、滑り止め、補助手すり設置などによる工夫がポイント。介護保険対象の工事と部位は図6の通りです。保険対象外の工夫としては、風雨を避ける庇、夜間のことを考えた外灯、足元灯などの設置です。スロープ手すり、簡易スロープ、縁側の踏台も便利です。
住宅の中には賃貸で下地などがないような場所で、壁に手すりを取り付けるのは難しい場合があります。こんなときは福祉用具の貸与でフォローできます。利用者の住宅環境や経過観察が必要な場合には、こういった仮設置が可能な福祉用具の利用をおすすめします。(図7)
■身体機能の支援・安全確保介助者の負担軽減のために
バリアフリーリフォームが一般のリフォームと違うところは、身体機能の支援、安全確保、介助者の負担軽減を目的にしているという点です。だから基本としては、移動の障害となるものをなくす、広さにゆとりを持たせる、断熱性を高め住宅内の温度差をなくす、十分な換気を行う、といったことがポイントです。日本は長寿国になりましたが、長い人生を安心して楽しむには生活空間の充実が不可欠です。加齢にあわせて安全に快適な生活ができるようなバリアフリー化が求められています。当社では、高齢者が快適に自立した生活を送れる住環境をお手伝いするアイテムを多数取り扱っています。さまざまなアイテムのカタログもありますので、それらをご覧になっていただければ、バリアフリーリフォームがどういうものか、より一層お分かりいただけると思います。
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