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第39回
「大阪木材仲買会館:木材の利用促進と耐火木造建築物」
*機関誌「けんざい」掲載分です。ホームページ用に再編集しておりませんのでご了承ください
掲載情報は全て著作権の対象となります。転載等を行う場合は当協会
にお問い合わせください。
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「都市木造 第2ステージへ」
東京大学 生産技術研究所 人間・社会系部門 木質構造学 教授 腰原 幹雄氏
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■今年は、新しい耐火木造建築建設の節目
第2ステージというのは、これからの木造建築の新たな考え方です。最近、この大阪木材仲買会館をはじめ、新しい耐火木
造建築が各所で建ちはじめています。今年はその節目と考えてもよく、これから見方を変えて考えていかねばならないと思い
ます。
最近は国をあげて、森林資源の有効活用、木材利用が促進されてきており、特に建築の分野では、低層3階建てくらいの公
共建築はなるべく木造でつくることが推進されています。木は日本における有効な資源であり、その資源を活用するには、木
をどんどん使って循環していかなければなりません。第2ステージというのはここが重要なのです。
第1ステージ、つまり現在までは、木は昔からの日本の文化ですし、木造建築は環境にやさしいから、と進められてきまし
た。しかしそのまま進めればどこかで限界を迎えるでしょう。こうした理由や背景に頼ることなく、木造建築そのものをきち
んと見直し、それがどうあるべきかを考える必要があります。さもないと、今のようなブーム的な後押しがなくなったとた
ん、木の活用がストップしてしまいます。従って、次のステップのために、今の追い風の中でいかに木造建築の魅力を人に伝
えていくかが重要です。
そうすればいずれは、都市の中に木造ビルが建ち並ぶような風景が実現するかもしれません。でもこのためには、ブームで
終わらせず、これがいかに魅力的か、いかに望まれているかを考えねばならないのです。そこで木造の魅力を考えるにあた
り、日本の昔からの木の文化を振り返ってみましょう。
■伝統木造建築と今の木造建築は、進化のしかたが違う
古い木造建築といえば、東大寺の大仏殿や法隆寺の五重塔、あるいは京町家やかやぶき屋根の民家です。これらは重要文化
財、国宝などという形で価値が認められています。でも重要文化財じゃなかったらどうなりますか? 明治時代、法隆寺です
らぼろぼろでした。価値を見い出されていなかったからです。放置されれば、自然素材の木は朽ち果てるだけです。今その姿
をとどめていられるのは、価値や魅力に気付いて守られているからにすぎません。
木は建築材料として耐久性が非常に高いわけではないので、長く使うための技術が積み重ねられてきました。今木造建築と
いえば、せいぜい街中で見かける2〜3階建ての戸建住宅くらいで、それも戦後の、大量生産を目的にして進化してきた在来
軸組工法と呼ばれる住宅です。より効率を追求したのが、北米で生まれたツーバイフォーです。2インチ×4インチという非
常に細い材料に、合板と釘があれば、特別な技術がなくても住宅ができてしまいます。
さらに日本では、大量生産のため、ハウスメーカーによってプレハブ工法が開発されました。伝統的な木造建築に携わって
いる人々は、こんなものは木造建築ではないといいますが、進化のしかたが違うのです。伝統木造建築は、一戸一戸に価値を
見いだすため、山に木を見に行って厳選。そして宮大工以来の技術で、釘や金物を使わず木組みだけで十分な性能を発揮しま
す。しかしそこには豊かな自然環境、木を見る目、木を乾燥させるのにかかる時間、宮大工の高い技術など、さまざまなもの
が必要です。なおかつ工期が何年にもわたるほど長くなる。伝統木造建築は、それはそれで一つの重要な文化ですが、一方で
早く大量に、経済的につくることが必要とされる中で進化したものが、在来軸組工法というわけです。
■時代時代で、必要とされる建築は変わる
建築物は、時代によって求められる要求性能が変わり、それによって工法や技術も変わります。1987年の大断面集成材
というエンジニアードウッドの登場によって、大きな木造建築が可能になりました。それまで木材は、ばらつきや節など欠点
が多いため構造計算がしにくかったのですが、このように比較的安定した木質材料が登場したおかげで、鉄骨造と同様に構造
解析ができるようになり、戸建ての木造住宅で構造解析の技術が進んできました。ここで生まれた木造住宅は、経済性や生産
性重視の木造住宅とは限らず、むしろ伝統木造建築のように一戸一戸の建物に建築家・構造家が携わって生まれた家といえま
す。
必要とされる建物は、近代化による生活の変化のなかでつくられます。1950年の建築基準法の改正で、4〜5階建ての
建物が制限を受けることになったため、現在まで続いているのは2階建て程度の建築物ということになります。2000年の
改正では、階数の制限がなくなり、要求性能(構造性能あるいは防耐火性能)を満たしさえすれば、鉄骨造や鉄筋コンクリー
ト造と同じように木造ビルがつくれるようになりました。しかし、2005年にやっと1戸、そして2011年、2012年
になっても、まだまだ少ししか出てきませんでした。
ところが今年に入り、日本中で大規模な木造建築が続々と日の目を見るようになりました。これをいかに普及させていくか
が、今日の話のメインです。
■都市に求められている木造は、歴史的な大規模建築ではない
日本で最大級の木造建築といえば東大寺の大仏殿ですが、しょせんは平屋の大きい屋根の建物なんです。このような建物を
都市のど真ん中に建てたいのではありません。神社仏閣が大規模な建築物だといっても、現在の都市の中に求められるような
建築物とは違うのです。城の天守は、木造のビルをイメージさせるような歴史的建築物といえますが、強固にする必要がある
ので太い柱が密に建っており、空間的には問題があります。また床は多いものの、上にいくほど小さくなるため、これも都市
部の中にあると異質な建築物です。
日本は千年以上の木の文化を持っているにもかかわらず、床の多い、ビルのような建築物は少ないといえます。過去から大
規模な木造建築を学ぶことはできないのです。建築は、その時代の生産システム、社会システム、生活スタイルに合わせて変
化しているので、今の時代に千年前の木造の技術が、必ずしも役立つわけでありません。もちろん伝統木造の文化は守るべき
ですが、これから生まれる都市の中の新しい木造という点では、木を新しい建築材料として、今の生産システムの中でどんな
ふうに扱っていけばよいのかを考えなければならないでしょう。
■今までの木造住宅と、これからの木造建築
私はNPO法人で、ティンバライズいう活動もしています。ティンバライズとは、伝統や慣習にとらわれることなく、木・
木造の可能性を模索する考え方。「もし今、木という新しい建築材料があったとしたら、一体どうやって使うんだろう?」と
いうくらい極端に考えてみるのです。木を新しい材料だと捉えたときに、今まで建ってきた「木造住宅」とは違いこれからの
「木造建築」では、考えねばならないことがたくさんあります。
従来の木造住宅は、施主が一人あるいは一組のみだという点で、非常に楽な建築といえます。その施主だけを説得できれ
ば、多少要求性能が低い建築物でもつくれたのです。ところが都市のビルのような建築物、特に不特定多数が利用する公共建
築物だとそうはいかない。特定の人だけではなく、不特定多数に理解される建築物にしなければならないという点が、木造住
宅と木造建築の大きな違いです。
図1は、大学で教えている建築の分野です。普通の木造建築、あるいは大型の建築物をつくるためには、これらが全部必要
です。(図1)
ところが木造住宅の場合、意匠も構造も計画も1人でやります。でもビル物になると、これらさまざまな分野にさまざまな
専門家が現れてくる。その専門家の意識を統合するのが設計者の役割です。
もう一つの大きな問題は、誰がつくるかということ。これまで大規模建築、公共建築は、組織事務所やゼネコンの設計部の
ようなところがつくってきましたが、これらはあまり木が登場しなかったので、木に関するノウハウは低いと考えられます。
一方木造建築は、小さい設計事務所あるいは大工・工務店がつくってきましたが、大規模建築は得意ではない。つまり、大規
模は得意だけど木造が不得意な人と、木造が得意なんだけど大規模建築は不得意だという人が登場してくるわけです。これか
らはそうした人たちの連携が要求されることになります。
■ポイントは、木が循環型資源であること
木造建築というのは、実は非常に面倒くさい。例えば鉄骨造の建物なら、当然耐震性能や防耐火性能、遮音性能、材料の耐
久性などが要求されます。ところが木造建築はこれ以前に、林業、木材工業、建設業、廃棄物処理業といった多種多様な業種
を考えなければいけません。国産材を使うとなったら、樹種や大きさをどうするか、地域産材を使うとなったら、地元にはど
んな製材所、集成材工場、合板工場があるのか、などを知らないと設計もできません。
木の材料が、コンクリートや鉄と違い、循環型の資源であることは非常に重要です。木を伐って、また植えることによって
山で木が育つというサイクルを守ることが大事。いくら建設業だけが頑張っても、木材工業や林業がつぶれると、木造建築が
つくれなくなってしまいます。循環型の材料を使う際には、自分の立場だけではなく、その上流あるいは下流の立場のことも
考えて建築材料あるいは建築物をつくらなければなりません。
もう一つ重要なのは利益。施主はつくり手にお金を払い、つくり手は自分の利益を確保してから、材料費を決め、製材業や
木質材料をつくる業者から、その金額で入手しようとします。すると今度は製材業者が自分たちの利益を確保してから丸太を
買うことになるので、山の人は言い値で売らざるを得なくなります。利益が残らないと、木を伐っても次に植えることができ
ない。循環型の資源を継続的に持続させるためには、ここで生まれる利益をそれなりに分配しなければいけないわけです。つ
くり手の一人勝ちでは、将来循環が切れてしまいます。
■エンジニアードウッドと構造用製材の登場
そうした背景の中で、なぜこんな大きな木造建築がつくれるようになったのでしょうか。これまで木造住宅といったら、山
の木を切って丸太にし、製材してつくってきました。自然材料なので地域によって特性が違い、性能も安定しません。それを
少しでも制御すべくつくられたものが、一度木を細かくして再構成したエンジニアードウッドです。
一方で製材の方でも工夫が始まりました。材料にばらつきがあるのなら、あらかじめばらつきを理解して統計的に考えま
す。構造解析の技術が向上し、多少のばらつきなら、構造安全性が担保できるようになりました。木の構造性能を明らかにす
るために生まれたのがJAS構造用製材です。私も含め、今の建築設計者は木材にあまり詳しくないため、見ただけでは木の
性能が分からないんです。JAS構造用製材として性能を表示することにより、目利きができなくとも木を安心して扱えるよ
うになります。技術者が不足して木を見る目がなくなったら、それをこうした規格で補っていこうというわけです。
古い木造住宅は地震に弱いといわれますが、最近の建築基準法に基づいてつくれば、地震でも十分安全な建物にすることが
できます。だから昔の建物は耐震補強をして、新築の木造住宅と同じような耐震性能を持たせる方向に進んでいます。そうす
ると7階建ての木造ビルでも、地震に対して安全を確保できるようになります。
■燃え方をコントロールする、耐火木造の技術
耐震のほかに重要なのは防耐火です。木はもちろん燃えますから、建物や中にいる人を守るにはどうするかを考えます。そ
こで生まれたのが、燃え方をコントロールする耐火木造という技術です。最も簡単なのは被覆型ですが、燃えない石膏ボード
を貼ったら木が見えないので、評判はいまいちです。もう一つが鋼材内蔵型で、中に鉄を入れることによって、熱容量の違い
で木の温度を下げてくれるというもの。可燃物が減ってくると、木が燃え止まるという性質があります。こんな技術ができて
いるんですね。
2000年の建築基準法改正で最初に出てきたのは、木を使って鉄骨造の耐火被覆をする技術です。最も簡単な石膏ボード
の貼り付けは、木が見えないため木造として受け入れがたいです。金沢のエムビルは、中に鉄が入った鋼材内蔵型なので、そ
れを知らなければ、この大阪木材仲買会館と同じような建築物に見えます。4階建てオフィスビルのウッドスクエアも鋼材内
蔵型ですが、鉄骨造やRC造と同じようなビルが、あたかも木造でできているように見えます。(図2)
そんな中で、竹中工務店さんの「燃エンウッド」、鹿島建設さんのFRウッドといった燃え止まり型の部材が出てきまし
た。こうして大阪木材仲買会館はじめ横浜のショッピングセンターなどが誕生、いよいよ学校、複合施設、商業施設、集合住
宅といったさまざまな種類の建築物が耐火木造で実現することになるのです。
■大規模木造用の規格をつくり、標準型の生産システムを
今日のテーマである「第2ステージへ」というのは、この流れの中で何を考えるかということです。これまでは技術主導で
したが、それだけでは限界がきます。これからは各種技術をうまく組み合わせて魅力的な建築物をつくらなければいけませ
ん。木を使うにしても、ブームだから「使わなければいけない」ではなく、「使いたい」と思わせるにはどうしたらいいかを
考える必要があるでしょう。
そこで一番問題となるのはコストです。そのためには生産システムを見直さねばならないので、大規模木造用規格が必要と
なります。前述の戸建て住宅用の規格が成功したように、大規模木造用の規格も用意して標準的な生産システムをつくればい
いと思います。そして標準型をもとに発展型を生んでいけばよい。本来は、標準型を提案することこそが公共建築の役割で
しょう。
さらに、建築物の内観や外観も重要です。ここに魅力がなければ、どんなに性能のいい建物でも普及しません。建物の中で
目に入るカーテンウォールやサッシや床、天井や仕上げ材、あるいはその仕上げを効果的に見せる照明。こうした造作材につ
いてもこれから考えていかなければいけません。大阪木材仲買会館の外観は、前に植わった桜と木と外装で非常に魅力的な建
築になっています。そこで考えなければいけないのは、都市の中にポツンと建物が建っているわけではなく、町並みの中の建
物として、これをどう扱っていくかということでしょう。(図3、図4)
■木の弱点は、技術や工法で補えばよい
木造の町並みと聞いて思いつくのは、宿場町や京町家のような、町家が並んでいる風景です。観光地としてはいいですが、
今さら住もうとはあまり思いません。でもこれはこれで一つの大きな魅力です。ただ防災関係者の私から見ると、耐震性が低
くて無防備なひどい建物です。ですからこれと同じものをつくるのではなく、新しい技術を加えて新しい町並みをつくってい
くわけです。経済性だけではなく、魅力的な町並みあるいは魅力的な建物をつくるための材料の開発も必要だと思います。大
阪木材仲買会館を見ていると、都市の中で木造建築をつくる際には、こんな建築で町並みをつくっていくのだという意識で木
を使うことが必要なのではないかと感じました。
なぜか木造というと、細かい材料をたくさん並べることが好まれます。しかし細かい材料は燃えやすく、腐りやすく、耐久
性がないのは誰が見ても分かります。耐久性の低い材料を使うということは、メンテナンスのしやすさ、交換のしやすさも必
要になってくる。メンテナンスを前提にすると建物の顔も変わってきます。鉄骨造とかRC造のビルでは、上からクレーンで
ぶら下がってくればメンテナンスできるので、ツルッとした外観の建物になります。
日本古来の建築の姿は、庇が出ているなど凹凸の激しいものです。これは、なにも木だけで全部つくる必要はないわけで、
鉄骨造のビルに木のパネルを入れたり、ALC版の代わりに木のパネルを入れたり、あるいは鉄骨造、RC造との混構造もあ
ります。RCのコアに木造の建物がついていますが、構造的に弱い木造は、コンクリートに寄り添えばいいんです。混構造な
ら、木造側には耐震要求がゼロでも、地震に対して安全なものができます。強さの差がある場合、弱ければ強いほうに寄り添
えばいいということです。先ほどまでの話は構造的な部分ですが、防火のことを考えていくと、大きい防火区画があって、そ
の中に小さい木造を入れていくという手法も、もしかしたら可能かもしれません。建築基準法上はまだこういう解釈はできま
せんが。(図5)
JR九州の大分支社は、殺伐とした高架下なのですが、建築的には非常に楽で、柱と梁と屋根がコンクリートなので、この
中に木造の箱を入れるともう木造のオフィスができます。大きいコンクリートの空間の中に小さい木造の空間を落としこむこ
とによって、木造の空間が生まれるわけです。(図6)
ですから弱点をきちんと見つめることによって、その弱点をどう補っていくかを考えていけばいいということになります。
例えば、細くて性能の弱い、ヤング率の低い材があれば、それを組み合わせてどうやって強いものをつくるかを考えるので
す。短い材であればブロック状にして積み上げればいい。でもただ積むのでは面白くないから、すき間を空けて木のブロック
を積み上げれば、魅力的な空間もできます。
■表面塗装は、数十年後の姿を考えて
最後になりますが、もう一つこれから考えていただきたい話があります。表面処理の塗装についてです。先日伊勢神宮に
行ったのですが、木造建築には、白木のイメージが非常に強いなと思いました。木を使うイコール白木だというイメージがあ
るんです。白木は木目と節が露出しています。こんな空間がどこにいっても目に入ります。
伊勢神宮は今まさに遷宮の年で、20年間の劣化があります。20年しか使わないという前提があるから、劣化させたまま
なのかもしれませんが、普通の建築でここまで劣化させていいかというと、なかなかそうもいかないのです。普通は、薬師寺
などのように朱塗りや漆塗りを施します。いくら昔でも白木のまま使うなんてことはありません。ですから、なんとなくの白
木信仰なわけですね。本当にそういうものが必要なのか、あるいは塗ってはいけないのかということも、そろそろ考えなくて
はいけないのではないでしょうか。
塗るならばどんな性能を確保しなければいけないのか、どうすれば魅力と性能を両立することができるか、ということを考
えていくのです。そこで重要なのは、先ほど出てきた宿場町と、サイディングが貼られた住宅の町並みとの違いです。このサ
イディングは木目調なのですが、宿場町の建物と比べると全く違います。この違いは何でしょうか。時代と共に年をとるのが
普通の木材ですが、サイディングは年をとらないのです。(図7、図8)
そもそも今の工業製品は、変化せずメンテナンスしなくともよいものをというのが開発の目的です。でも住宅の場合、30
年後に変わらずこの姿だとしたら、それはおおかた失敗といわざるを得ません。なぜかというと、建物のデザインは30年前
なのに、表面の材料はそこそこ新しいと、気持ち悪いからです。宿場町の場合は、100年前のデザインで、それなりに年を
とった材料で表されているから全然違和感がないのです。従って、このようなサイディングの建物をつくる場合は、何十年か
後にそのデザインが変えられるようなものなのか、あるいはそのときのサイディングの耐久性はどういうものなのか、といっ
たことも考えなくてはいけません。
■経年変化する自然材料の価値観をいかに表現するか
このようなことを考えていくと、木材の魅力は、現在の価値観とまったく違うことが分かります。メンテナンスフリーで経
年変化しないことを求めてられているのが今の工業製品です。しかし経年変化というのは、よい意味でも悪い意味でも使われ
ます。もちろん劣化や老朽化という意味の経年変化は悪いかもしれませんが、味わいを増すのも経年変化なんです。変化する
ものとしないものがあって、今の価値観は変化しないものを目指しているのでしょう。しかし、変化するものにも魅力がある
こと、あるいは変化してもいいやと思えるものを考えていくことも必要だろうと思います。
自然材料を使っているのですから、割れるとか変形するという変化は当然です。それによって構造的な性能が落ちるのなら問
題ですが、性能に問題がない範囲なら、変形を許容できるかどうかは重要でしょう。
工法で材料の欠点を補ってやる、納まりで工法の欠点を補ってやる、それが設計者のすべきことです。きれいに完成して、
それで終わりではなく、完成してから何年たっても味わいを増し続けるものをつくっていくためには、こういうことも考える
必要があるのです。
今、どんな場所でも、どんな建物でも、木造による建築が可能になりました。しかしながら、全部木造にすると、おそらく
違和感のあるまちになってしまうことでしょう。しかし木造の魅力がきちんと伝わるような建物ができれば、都市の中をどん
どん木造にしていくことも可能になります。そのためには、先ほどから申し上げているように、今までの工業製品の価値観と
は違った、自然材料の価値観――時間に伴う変化――をいかに表現できるかを考えます。どうやって考えていったらいいの
か、それをぜひ、建築材料協会として取り組んでいっていただければというのが、私からのお願いです。
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「木製サッシの魅力」
タミヤ梶@マネージャー 藤島 久士氏
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■木のぬくもりと安らぎを生かした木製サッシ
当社は、1991年創業の木製サッシメーカーです。製品の「ウッドフェンスター」は、従来の日本の建具が持つ美しさや
精巧さ、そしてヨーロッパの窓が持つ高断熱、高気密、セキュリティなどの性能をあわせ持った木製サッシです。
木製サッシの最大の特徴は木のぬくもり・安らぎです。木製サッシは建物の外観・内観のイメージにも大きな役割を果たし
ます。次に断熱性の高さ。木製サッシは、アルミ窓では難しい断熱が可能で、当社の窓は断熱性能H-4 〜H-5
を有しています。窓は建物の中で最も熱の出入りが多い部分で、建物全体から出ていくいわゆる熱損失のうち、およそ48%が窓からのものです。
EU諸国では家の燃費を表示することが義務化されています。窓の断熱性向上は建物全体の断熱性を向上させるうえで非常
に重要なため、EUでは窓の見込み寸法を大きくすることによって断熱性能をさらに高めるといった、窓の開発が進められて
います。
木製サッシでも、気密・水密・耐風圧性でアルミサッシに劣らぬ性能を出すことができます。当社の製品では、気密性能で
A-4、水密性能でW4〜W5、耐風圧性能でS5〜S7までを実現しています。木製サッシの技術が進んだヨーロッパ製の
システム金具を使用することによって性能を向上させています。多くの窓で防火設備の個別認定も取得しています。
また環境性能の点でも木製サッシは優れています。使用時の省エネ性能だけでなく、製造段階で出る炭酸ガス量も極めて小
さいうえ、廃棄時にダイオキシンなどの有害物も出しません。
図1は、1m2あたりの窓枠サッシについて、アルミ製と木製のサッシ製造にかかるエネルギーと炭素放出量を比較した表
です。製造時、アルミは木製の約135倍の熱量を使い、それだけ炭酸ガスの発生に関与することを示しています。
■木製サッシのバリエーション
木製窓にもさまざまな開閉バリエーションがあります。代表的なものがケースメント(縦すべり出し窓)、オーニング(横
すべり出し窓)、ドレーキップ(内開き・内倒し)、ヘーベシーベ(引戸)、折戸、ドア、FIXなどです。FIXは台形、
三角、楕円などの特殊な形にすることもできます。このように、日本で必要とされる窓種のほとんどが木製サッシでカバーで
きています。
木製サッシの性能に大きく関わっているドイツ製システム金具を紹介します。まずドレーキップ窓。「ドレー」はドイツ語
で「内開き」、「キップ」は「内倒し」を意味し、ドイツではこの窓の普及率が85%以上を占めます。金具がサッシの四方
すべてに入っており、そこに付いたロッキングポイントで引き寄せて気密、断熱、セキュリティを確保します。
次がヘーベシーベ(引戸)のシステム金具です。へーべはドイツ語で「持ち上げる」シーベは「スライドさせる」。ハンド
ル操作で戸車が持ち上がり、閉めるときに戸車が下がるというシステム金具です。戸車が上がると、ガスケットなどの摩擦・
抵抗部品からフリーになるため、重い引き戸でもスムーズに開閉できるシステムです。閉めると戸車が下がってガスケットに
密着するため、気密、断熱、水密性が確保できます。この金具を使って、大型開口のコーナーサッシも製作が可能です。(図
2)
以上のように、木製サッシは意匠性、性能、開閉方式が多種にわたること、大きなサッシに対応できるなど、優位な点を多
く持つ窓といえます。
■海外では木製サッシがかなり多く使われている
海外の木製サッシも紹介します。世界各国における材種別窓の割合をご覧ください。(図3)
日本の場合、木製サッシは1%にも達していません。複合も含めたアルミの合計は92%と、圧倒的にアルミが多いです。
ドイツやアメリカでは60%以上がPVC樹脂サッシですが、木製サッシも20%以上と、相当量が出ています。北欧におい
ては木製と木・アルミの複合サッシの合計は60%を超えます。このことから、海外の先進国では木製サッシが多く使われて
いることがわかります。
海外の木製サッシを写真で紹介します。ノルウェーでは、ケースメントもしくはトップターンの木製サッシが多く見られま
した。デンマークの田舎町では一般住宅だけでなく、駅についている窓にも木製サッシが使われており、外開きの窓が中心で
した。デンマークの首都コペンハーゲンにはいろんな建物があり、古い建物も非常に多いですが、町を歩いていて木製サッシ
以外を見つけるのは難しいくらい、ほぼ木製の窓というような状況でした。非常に古い窓の場合は二重窓になっており、内側
には内開きの木製のサッシ、外側には外開きの木製のサッシがついていました。
ドイツではPVC樹脂サッシが多いのですが、木製サッシもよく見られます。ドイツの窓は外開きではなく、内開き、内倒
しのドレーキップが主流です。ベルギーでも木製サッシが多かったですね。
ヨーロッパの美しい町並みを見ていると、このように木製サッシがごく一般的に使われていることがよくわかります。(図
4)
■意匠にもこだわった大阪木材仲買会館の木製サッシ
さてここからは、この大阪木材仲買会館に施工された木製サッシの概要です。樹種はヒノキ、等級は無節材です。3枚の積
層材にして、反りや狂いを抑えられるよう設計しています。窓種はヘーベシーベ大型引戸。最大の寸法は幅2,672mm、
高さ3,464mm、サッシ重量が硝子をあわせると1枚あたり約200kgの重いサッシです。
ガラスの仕様は空気層が12mm、外・内のガラスの厚みが8mm、全体で28mmの複層ガラスを使用し、木材保護塗料
には防虫・防腐性能を兼ね備えた浸透性タイプの塗料を使用しました。
納入した建具は引戸、引戸とFIXの連窓などで計24セット。単純に障子に1枚のガラスを入れるという通常の設計では
なく、それぞれに寸法の違うガラスを入れて意匠に変化をつけるように設計されています。
次に建具取り付け方法です。左右は、躯体に取り付けられた耐風柱から、サッシ枠に取り付けられたアンカーに溶接で固定
しています。その間にフラッシングを取り付けて、カラマツの集成材でカバーしています。
連窓部分の取りつけですが、連窓部分は躯体H鋼から、サッシ枠に埋め込んだフラットバーと溶接して固定しています。上
下は、躯体アンカーからサッシ枠に取り付けられたアンカーを溶接で固定しています。また、クリープに対応できるよう、上
部にファスナーを取り付けています。
■木製サッシの製造工程
今回納入したサッシと同じ仕様で試験体を作成し、気密・水密・耐風圧の、3性能の試験を実際に行いました。気密性能は
A4、水密性能はW4、耐風圧性はS3を取得しました。性能試験を行った建具のサイズは、幅が2,785mm、高さが
3,500mmでした。
木製サッシの製造工程を紹介します。まずフリッチ材を購入し、その後サイズに合わせて製材します。製材の後乾燥させる
わけですが、含水率8%から9%まで乾燥機で落として、常湿で12%前後にもどします。その後は、回転プレスを使って積
層加工をします。積層加工が済んだらモルダーで四面を削ります。
そしてサッシの加工として、ホゾ加工をします。そのあとサイディングを行い、組み立て加工します。組み立てた障子は窓
の種類に合わせて外面を加工していき、その後、仕上げのために手でペーパーがけをして、塗装に移ります。次に、先ほど紹
介しましたドイツ製金具を取り付けます。そして最終的に金具の操作、開閉の確認などを行い、製品検査をして梱包、いよい
よ出荷と、こんな流れです。
■大がかりで苦労の多かった搬入作業
大阪木材仲買会館のサッシの施工のようすを紹介します。大変苦労したのは木製サッシの搬入です。まずトラックから降ろ
した後、平らに寝かせてスリングで固定し、クレーンで持ち上げます。そしてクレーンで吊り上げた状態で設置場所まで持っ
て行きます。写真だと非常に分かりにくいのですが、足場が設置されています。躯体とその足場のわずかなすき間から、重い
サッシを慎重に降ろして取り付け位置まで持っていかなければならないという、緊迫感ただよう作業状況でした。(図5)
クレーンから降ろされてくるサッシを、足場と躯体のすき間からなんとか通した後、下から手で受け取るという形で作業は
進みます。サッシ自体が約200kgという大変な重量なので、手で受け取った後、台車に載せて内側まで持って行かねばな
らないということで、15人くらいの人手を要する大変な作業でした。この後はチェーンブロックを取り付け、垂直にして
セッティング、続いて溶接を行いました。これで無事施工が完了です。
今回の大阪木材仲買会館の木製サッシは、材木のプロフェッショナルの方々がいらっしゃる建物への納入ということで、材
料の選定に大変苦労しました。また大きなサッシということで性能試験も行い、性能の確保にも大変気をつかった案件でし
た。無事竣工を迎えたときには私どもも安堵と喜びでいっぱいでした。
最後になりますが、当社が日本各地で木製サッシを納入させていただきました施工例です。幼稚園、学校、スポーツ施設、
図書館、道の駅など、各地域に密着した物件を多く手がけております。最近では環境対策の観点から、国産材、地域材の利用
を促進する取り組みが各地で動き出しています。当社といたしましても、その土地の気候、風土を最大限に生かし、美しさと
機能性を兼ね備えたサッシをつくっていきたいと考えています。また、ますます環境の大切さが問われるこの時代に求められ
る木製サッシとはどのようなものか、これからも私どもは研究を重ね、追求してまいりたいと思っています。
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「大規模耐火木造建築の実現に向けた取り組みと大阪木材
仲買会館」
(株)竹中工務店 先進構造エンジニアリング本部 課長 小林 道和氏
大阪本店 設計部 主任 白波瀬 智幸氏
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白波瀬氏の資料は当日映写のみです。
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<小林氏>
■3層構造で耐火性能を確保する「燃エンウッド」
耐火集成材「燃エンウッド」の開発を担当しております私から、開発の背景やその仕組み、開発の概要について説明いたし
ます。
現在、建築基準法において都市部や大規模な建築、多くの人々が集まるような建物には、法の定める「耐火建築物」の性能
が求められ、1)消火活動の終了後の倒壊防止、2)近隣建物への延焼防止の措置、が必要となります。耐火建築物では、
柱・梁部材に耐火構造の部材が求められることで大規模・都市部での木造建築の計画は困難でしたが、今回の開発によって実
現することができました。
次に耐火構造部材としての「燃エンウッド」の仕組みを説明します。「燃エンウッド」は3層構成です。モルタルで囲まれ
た内側の部分は、いわゆる構造体の部分に当たりますが、耐火性能はその外周部の2層によって付与されています。第1層目
は、自ら燃えて炭化することで遮熱層を形成する燃え代層。第2層目は燃え止まり層と呼んでおり、モルタルと集成材が交互
に配置されています。この部分で外部からの入熱を吸収します。この燃え止まり層で確実に熱を吸収することで、万が一の火
災でも、建物を支える構造体の部分を守るという考えによるものです。(図1)
■耐火試験で1時間耐火構造の大臣認定取得
次の資料は、「燃エンウッド」の柱の耐火試験の様子をまとめたものです。1時間で約945℃になる環境で燃やしてお
り、周りの部分は炭になりますが、モルタルの部分はしっかりと熱を吸収していることを、この写真からも確認いただけると
思います。これらの一連の実験を実施することで、耐火部材としての国土交通大臣認定を取得することができました。
国土交通大臣認定は、カラマツ材で取得しています。部材サイズの認定範囲は、柱で最大670�×1,220�、梁で
670�×1,135�となっています。燃え代層の寸法は、断面の大小に関わらず60mmです。この最大断面でどのくら
いのスパンを実現できるかというと、荷重条件にもよりますが、おおよそ9.4mです。
また、お示しした耐火試験以外にも、柱曲げ実験、クリープ試験など、実用化に向けたさまざまな試験を行いました。
「燃エンウッド」の使用条件については、耐火構造1時間の大臣認定を取得していますので、4階建てに使用できます。た
だし、RC造の耐震要素を平面的に配置するという条件も必要となります。
次に「燃エンウッド」を採用したサウスウッドのプロジェクトについて説明いたします。建築主は株式会社横浜都市みらい
で、建築地は横浜市営地下鉄センター南駅前となります。規模は地下1階、地上4階で、2〜4階部分に「燃エンウッド」を
使っています。延床面積は約11,000m2です。設計はE.P.Aという設計事務所が担当され、弊社は構造設計と施工
を担当しています。工期は約15カ月で、9月30日の竣工予定です。2013年3月末に建て方がスタートしていますが、
その前年の1月に原木を発注し、10カ月かけて「燃エンウッド」の部材をつくりました。(図2)
■耐火木造の建築モデルを作成、CO2削減効果も試算
「燃エンウッド」と大規模木造建築のプロモーションを進めるうえで、お客様のご理解を深めるために耐火木造建築モデル
をつくりました。個々のプロジェクトの図面やコストなどをお示しできないので、建築モデルを作って、関連する数字をご紹
介する目的によるものです。
このモデルは、4階建て2,850m2の事務所を想定しています。前面外壁はガラスのサッシです。基準階平面図から
は、建物の3方がRC造耐震壁になっていることがお分かりいただけると思います。RC造の壁により耐震性を確保しつつ、
隣地からの延焼を抑えます。これは大阪木材仲買会館のRC造の壁の使い方と同じです。
また、木材を使うことにより、このモデル建築がどの程度のCO2を削減するのかというお問合せもありました。そこで、
この建物が、オールRC造の建物と比べ、どれくらいCO2を削減できるのかを試算してみました。2,850m2の床面積
で、280m3の集成材を使っている想定です。
削減効果の一つ目は、RC造部材と木部材の排出量の差であり、削減効果の二つ目は、木材の中にCO2を蓄えることに
よって排出を抑制するという効果、三つ目は、森林サイクルと呼ばれる森林循環内のCO2吸収効果を挙げてみました。森林
サイクルが成立するという前提ですが、新しく植えた木が吸収するCO2を含めています。
まず、先ほどの木造建築モデルをRC造とした場合の新築時のCO2排出量は約3,500tとなりました。先ほどの削減
効果の一から三を足し合わせると合計716tの削減となり、約20%の排出量削減の効果が得られるのではないかと推測し
ています。(図3)
先ほどは事務所の木造建築モデルをお示ししましたが「燃エンウッド」適用モデルとして、中高層商業建築モデル、免震建
物モデルなども考えています。研究施設など重要施設であれば、免震装置を設置することによって、耐震性の高い大規模耐火
木造建築が実現できると考えています。
<白波瀬氏>
■大阪木材仲買会館の位置づけは「都市の中の森」
大阪木材仲買会館は、「都市の中の森」にしたいという思いでご提案をしました。この建物のある場所は、昔から材木商が
多く、木にゆかりのある土地でした。建物前に見える桜の木は、旧会館の竣工時に植えられたものだそうです。設計プロポー
ザルの際、組合様からのご要望は、木をふんだんに使ってほしい、桜を残してほしい、という2点でした。そこで私たちは、
1)火に強い木、2)木にやさしい骨格、3)木の香る建物、という3つのことをご提案しました。
今、日本の都市部はいわばコンクリートのジャングルみたいなものなので、そこにこの会館のような建物が建っていくこと
で、都市の中に森ができればいいなというのが当初描いたイメージです。
この建物は3階建てで、2、3階の2層分に、耐火集成材「燃エンウッド」を使っています。それ以外にもたくさん木を
使っていこう、そして桜の木を残せるような形にしよう、ということで、桜の木2本を囲むようなボリュームとし、南面と西
面に木製の建具を設けました。
■光と風を取り入れ、木と庭と花見を楽しめる空間
大規模な地震があった場合、火災にならなくとも、津波被害にあったら木造は復旧事業が大変になることから、1階部分は
コンクリートでかさ上げするような形になっています。また、隣地からの延焼を防ぐ防火壁として、駐車場と隣地のビルに面
した2面の壁はコンクリートにしました。
建物のボリュームは、普通の四角いビルではなく、少し軒庇を出しています。これは伝統的な雨よけや日よけの考え方で、
外部に露出した木を守ることを目的としたものです。また、各階でここを足場にしながら容易にメンテナンスできるようにと
の配慮もあります。また、たっぷりの自然光や自然通風を確保し、内外一体となって、日本古来の木を楽しめる、庭を楽しめ
る、そしてお花見もできるような空間を創出しました。
同館は、木をたくさん使うことを提案し、建物の中からも外からも、木がふんだんに見えるようになっています。ただ、木の
耐久性や防災のこともきちんと考えねばなりませんので、木はたくさん使いながら、防災やメンテナンス性もバランスよく成
り立つ形状をデザインしました。
■木のいろんな形態の可能性を感じられる空間に
提案の3つ目にある、木の香る建物についてですが、とにかく同館のほうでは、この建物を木の殿堂、要は木のショールー
ムにしたいというご要望がありました。木の環境を取り巻く産業はいろいろです。木は生えているところから切り出され、原
木として取引されて、製材されます。製材のときにもさまざまな加工があります。そして製材品を組加工して使う技術もあれ
ば、集成材にする技術もある。中でも、比較的小さな木製家具や、構造用の集成材、それがまたペレットのような二次製品と
して使われたり、木くずになったりして、いろんな形を経ていくわけです。そこにはいろんな可能性があるはずなので、木の
いろんな形態の可能性を感じられるような空間にしましょうということで考えた、いくつかの使いかたをご紹介します。
エントランスのところは展示スペースになっているのですが、旧会館のときから材種見本として置かれていた木の切り株
を、せっかくなのでそこに展示しました。また、製材工場で製材がきれいに積まれた感じを、そのまま間仕切りにしていま
す。ガラスにカンナくずを挟んで、目かくしと日よけをつくってみました。また、集成材をジョイントする部分をフィンガー
ジョイントというのですが、そのフィンガージョイント材の向きを変えて、壁として使っています。白い壁や黒い壁は、自然
由来の材料を使おうということで、でこぼこした表情を持った和紙を使いました。ほかにもいろいろありますが、木の種類や
加工残材ごとにいくつかデザインを提案し、それを不燃処理せずに生の木で使っています。これにあたり、実物大の仕上げ
モックアップをつくって、一個一個の材料について、それを燃やすという実験をしています。(図4)
■すべての材料を一個一個実験して燃え方を確認
例えば、この明らかによく燃えそうなフィンガージョイントの壁、これも、どうすれば燃えないようにできるのかを、この
ような実験で確認しています。最初はフィンガージョイントをたくさん使いたいのでかなりぎっしり並べていたのですが、か
なり激しく燃えてしまいました。それで半分くらい減らしたのですが、まだ同様に燃えるので、結果的に木材面と壁面を同面
にする、今のような形に落ち着いたわけです。
このように一個一個確認することによって、木を比較的自由に、いろんな形で使うことができています。使用木材一覧があ
りますが、だいたいこの建物の中で仕上げ材として約100m3の国産の木を使用しています。建物の床面積が
1,000m2なので、単純に割り戻すと10m2あたり1m3くらい使っていることになります。
■木のあたたかみと存在感を存分に示す木造建築
結果的にできあがって最初に足場が取れたときの雰囲気を見たとき、少し言葉はしっくりこないかもしれませんが、最近の
工業製品でできているのに、とても暖かみをもった仕上がりで、街に対して存在感を示すことができていると感じました。
この後見学に行っていただきますので、館内の説明をしておきます。3階のうち1階は会館のエントランスホールと展示ス
ペース、組合用の駐車場です。敷地の東側にある駐車場も組合敷地内で、貸駐車場になっています。皆さんエントランスに入
り、吹き抜けを歩いて来られたと思いますが、2階は吹き抜けを介して東側が事務室、西側が理事長室となっています。
3階は、中会議室と今この会場となっている大会議室があります。この建物は、面積がそれほど大きくありません。従っ
て、できるだけ各階の端から端まで、同時に使っていてもあまり気にならない機能を、それぞれ組み合わせて配置しながら、
各階の端々まで木の部分が見通せて、広く感じられるような平面計画にしています。
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