2007けんざい
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建材情報交流会ニュース
 第38回
「次世代型の高機能材料」

*機関誌「けんざい」掲載分です。ホームページ用に再編集しておりませんのでご了承ください
  
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「サステナビリティ時代において素材の力をどう引き出すか
  −建築家の材料選択と建材メーカーの材料開発−」
 東京大学 准教授 博士(工学)
  大学院工学系研究科建築学専攻  野口 貴文 氏

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■サステナビリティに求められる3つの側面
 昨今、「カタログから材料を選ぶ」のではなく、「自分から材料を指定する」「新しい材料から建築を発想していく」建築家が増えています。その一方、素材の内容を知らず安易に新素材に走る事例も見られます。「真摯に建材を学ぶ」建築家の意志と、「建築家に積極的に材料を知ってもらう」建材メーカーの熱意、「両者の間をつなぐ」研究者の努力がなければ、新しい建築は生まれません。サステナビリティ(持続可能性)が求められる時代ではなおさらです。
 サステナビリティという概念は、次の3つの面を同時に満たす必要があります。
 第1が「Socia(l 社会面)」。「安全・安心な社会の構築」、「快適な生活空間の提供」、「雇用創出」、「文化財の伝承」などの側面です。
 第2は「Economic(経済面)」。たとえば、各国のGDPの増大とコンクリート生産の間には正の相関関係があります。一国の建材の生産は、その国の経済成長の指標といえます。経済効果の現れとしての「都市化(高層化・不燃化)」も、この面に含まれます。
 第3の「Environmen(t 環境面)」は、スケール別に、地球環境・地域環境・室内環境と分かれます。従来の建材は、温熱環境や空気質環境など、室内環境を重視する傾向がありましたが、今後は、CO2の吸収など、地球環境に対応した開発が重要になると思われます。

■昔からの素材を新しく使う試み
 構造材に使われる素材としては、木、コンクリート、鋼材などがあります。近年、それらに新しい息吹が吹き込まれて、今までにない建築物が試みられています。たとえば、耐火構造物の外装に木材を用いた建築では、不燃処理を施した木材をボーダータイル的に張り、外壁の延焼性に考慮している事例があります。
 コンクリートでは、ケヤキを模した樹状構造のみで構成されたビルが生まれています。コンピュータによる複雑な構造シミュレーションを駆使すれば、さらに多彩な形状の建築物が生まれる可能性があります。
 また、鋼材では、適量の銅・クロムなどを入れ、赤サビ色の保護被膜を形成する製品が生まれており、色彩面での可能性を大きく広げました。
 一方、新しい素材の一例が紙管です。本来、建築素材ではないものに防水性を付与することで、外装材や構造材に使われるようになりました。現在は、国内外の仮設住宅やシェルターなどに活用されています。
 既存の素材についても、新たな可能性が追求されています。ここでは、木質材料・鋼材・ガラス・塗料についてご紹介しておきます。なお、ここで取り上げた情報は、2011年8月、日本建築学会の材料施工部門で行われた研究協議会「素材・形態・工法の革新・伝統と教育」での発表に基づきます*。

*木材(木質材料)は渋沢龍也氏(独立行政法人森林総合研究所)、コンクリートは山田一夫氏(株式会社太平洋コンサルタント)、鋼材は宇城工氏(JFEテクノリサーチ株式会社)、塗料は山本一人氏(関西ペイント株式会社)の情報による。

■木質材料──エレメントによって異なる特性
 木質材料とは、細分化した木質エレメントを再構成した材料です。いわゆるムク材に比べると、原料選択の幅が広く性能のバラツキが小さい、耐朽性、不燃性などの性能付与が可能で、資源の有効利用、性能の信頼性向上に役立つ、などの長所があります。
 木質素材には、エレメントの種類と製法によって、集成材(エレメントはラミナ=挽き板、以下同)、LVL(木材をカツラむきした単板=ベニアの繊維方向をそろえて積層接着)、合板(ベニアの繊維方向を交互に直交させて積層接着)、パーティクルボード(木材の小片)、OSB(平板な木材小片)、インシュレーションボード・MDF ・ハードボード(いずれも木材繊維)、PSL(ベニアを小幅に切断したストランド材)などがあります。
 これらの木質材料は、エレメントが大きいほど強度が高く、小さいほど美粧性が高い(仕上げが美しい)傾向にあります。最近注目されているCLTパネルは、挽き板(ラミナ)をエレメントに、繊維方向を直交して交互に張り合わせたものですが、強度性能もそれなりにあり、美粧性もある素材です。
 また、木質エレメントをセメントで結合した木質セメント、OSBや合板の間にポリスチレンやポリウレタンをサンドイッチした木質断熱複合パネル(フォームコアパネル)なども開発されています。このフォームコアパネルは、強度・断熱性が高く、仕上げが良好で、施工性もよいため、多用される可能性があります。ただ、コア材の化成品が熱に弱い点は難点です。
 今後の木質材料の方向性ですが、サステナビリティの視点からは、「腐る」「燃える」「狂う」などの“欠点”が見直されるかもしれません。その方向での材料開発の可能性が考えられます。

■コンクリート──環境負荷をどう抑えるか
 コンクリートは、サステナビリティ時代への適用が一番難しい素材かもしれません。まず、世の中で使われている資源のほぼ4分の1(質量比)が投入されているといわれるほど、資源を消費します。解体などに伴う廃棄物も膨大ですし、地球の全排出量の5%前後を占めるといわれるCO2の抑制も課題です。
 その対策として、たとえばセメントの製造ラインでは、大量の廃棄物・副産物が再利用されています。コンクリート廃棄物を骨材として再利用する技術にもメドがついています。このシステムが確立されれば、コンクリート建築物の解体廃材の9割(RC造の場合・質量比)が再利用できると考えられています。
 さらに効率的なリサイクルのためには、「逆工程生産」の概念が有効でしょう。すでに、家電製品などでは普及している発想で、将来の再利用を想定して解体しやすい製品をつくるものです。たとえば、石灰石の代替資源として廃棄コンクリートを使う完全リサイクルコンクリート(セメント回収型)は実用化されていますし、廃棄コンクリートから骨材とセメントを容易に分離し、再利用するための技術開発も進行中です。
 地球温暖化問題については、同じ強度でありながらCO2排出量を約80%カットしたセメントが開発されています。
 また、超高強度コンクリートを使用すると、軽量化によって鉄筋・コンクリートの使用量が減り、
CO2排出量を2〜3割削減することが可能です。
 環境負荷を軽減する技術とは別に、コンクリートの特性を生かした技術開発も考えられます。たとえば、コンクリートの蓄熱性を利用したパッシブソーラー技術やパッシブクーラー技術などが挙げられます。
 また、素材の固化に空気中のCO2を利用し、その削減を促す技術も考えられます。消石灰を使ったしっくいが好例ですが、中国電力では排出されるCO2で固まる建材を試験的に開発しています。

■鋼材──クロム鋼をベースにした新素材開発
 鋼材の最大の課題は腐食=さびの防止ですが、そこからクロムの保護酸化被膜(不動態被膜)を利用したステンレス鋼(クロム鋼)が開発されました。
 関西国際空港や羽田空港にはクロム含有率20〜30%のクロム鋼が使われていますが、含有量を抑え、性能は保ちつつ低価格な11%クロム鋼も普及しつつあります。寿命は約1400年と見積もられており、塩害環境中の鉄筋コンクリートの鉄筋などに採用されています。
 また、21%クロム鋼に少量(0.4%)の銅を配合したSUS443J1鋼は、一般的なSUS304(クロム18%・ニッケル8%)よりもはるかに耐食性が高いことが分かっており、ニッケルを使わない省資源化鋼として注目されています。建築材料としては未認可ですが、食器や調理器具、建築金物などでは実用化されています。

■ガラス──テーマは断熱性から光の透過性に
 ガラス素材の課題は熱(断熱性)でしたが、可視光の透過率をある程度保ったまま熱貫流量を抑える複層Low-Eガラスの開発で状況は変わりました。今ではむしろサッシュの断熱性が問われており、アルミ以外の樹脂、木材などに代わりつつあるようです。
 一方、光の透過性をコントロールする調光ガラスとしては、液晶を使ったLCWや、日射を制御するECW ・SPDなどが開発されています。特にSPDは、瞬時に日射を遮ることができます。

■塗料──低汚染性と日射反射性が主要課題
 塗料においては、低汚染塗料が大きなテーマです。現在は、親水性塗料によって表面に付着した水の接触角を小さくすることで、雨水と一緒に汚れを洗い落とすのが基本的な戦略となっています。
 また、高日射反射率塗料も注目です。これは、日射反射性にすぐれた白い塗料に、赤外線反射機能を付加したプライマー(塗装下地材)を組み合わせたもの。コンクリート構造物などに使用することで、ヒートアイランド現象の発生を抑えることが期待されます。
 一方、しっくいが持つ質感と機能を引き継ぐ塗料として、しっくい塗料の開発が進められています。CO2吸収機能、消臭・吸着機能、調湿・結露防止機能など、消石灰に由来する力を生かすための研究が進行中です。

■おわりに
 サステナビリティ時代においては、伝承性(素材の利用度)にまさる土・茅・ガラスなどの伝統的素材と、技術革新(加工度)が進む金属・ガラスなどの新素材を、上手に組み合わせて使うことが必要でしょう。その上で、物理学や化学などの基礎的知識に立脚し、その伝承と定着まで考慮した材料開発が求められています。建築家と建材メーカーの積極的なコミュニケーションが、サステナビリティ時代の素材開発、素材選択のカギであると考えます。 


「内・外装工法、内・外装仕上材工法」
 富士川建材工業梶@技術部 部長 齋藤 貴郎氏

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■モルタル外壁工法の大敵、クラックを防ぐ モルタル外壁工法は、木造建築の美しい外観を保ちながら、耐久性を向上させた左官外壁工法のひとつです。ただ、いくら美しい外観であってもクラックが入ってしまっては、美観も性能も損なってしまいますので、弊社ではそういった観点から、モルタルのひび割れを抑制・防止する工法を開発してきました。まずは、ノンクラック通気工法から説明いたします。
 通気工法は、木造住宅の壁体内に結露が発生することを防ぐために、外壁材と断熱材の間に通気層を設け、壁体内の湿気を常に放出して乾燥状態を保とうという考えです。また、壁が二重なので、外部からの雨水の侵入にも強いという利点があります。品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)では住宅性能表示制度の劣化等級3に分類され、長期優良住宅に対応しています。
 一方のノンクラック工法は、使用するセメントモルタルに特長があります。従来のモルタル外壁では、セメント1:砂3(体積比)のいわゆる1:3モルタルを使っています。さまざまなデザインに対応でき手作り感が豊かで、耐久性もあるといった長所がある反面、クラックが発生しやすいとよくいわれます。また、1:3モルタルは調合が現場で行われるため、安定した品質を出すのが難しいのも弱点といえるでしょう。こうしたデメリットを、既調合軽量セメントモルタルとガラス繊維ネットを使って克服したのが、ノンクラック工法です。
 既調合軽量セメントモルタルについて説明すると、規定量のセメントと骨材をあらかじめ工場で混ぜ合わせ、さらに必要に応じて繊維や軽量骨材、樹脂なども混入してある製品です。規定量の水と混ぜるだけで施工でき、作るのが簡単で品質がばらつきにくいよさがあります。また、単位容積あたりの質量も、1:3モルタルの2分の1で非常に軽くなっております。さらに、1 : 3モルタルは20mm塗り付けで3回塗るのに対し、既調合軽量セメントモルタルは15mmの2回塗りで、塗り回数も少なくて済みます。作業性が非常によい上、構造体への負担を大幅に軽減できるのも、このモルタルの長所です。
 ノンクラック工法と、先ほどの外壁通気工法を併用したのが、ノンクラック通気工法ということになります。ノンクラック通気工法は、既調合軽量セメントモルタルを使い、表面にはガラス繊維ネットを伏せ込んで、クラックを防止しようというものです。施工も、外壁通気工法やノンクラック方法と大差なく、簡単です。
 クラック防止効果ですが、規定の供試体を使って3点荷重試験を実施したところ、ガラス繊維ネットを伏せ込んだ方は、変位20mmになっても目立ったクラックが発生しない。一方、補強がない方は、変位が2mmでもクラックが発生して折れ曲がってしまうという結果になりました。
 また、弊社所有の水平加力試験機で、層間変形角1/200〜1/100radを3回ずつ繰り返す面内せん断試験を実施したところ、ガラス繊維ネットがまったくない壁は0.2mm幅以上のクラックが無数に発生しました。ところが、開口部にネットを張ると、その部分のクラックは0.1mm以下、全面にネットの伏せ込みを行うと、すべてのクラックが0.1mm以下に収まりました。最後に、開口部がない試験体で全面にネットを伏せ込むと、クラック発生ゼロという結果が出ています。つまり、クラック防止にガラス繊維ネットが有効ということが判明したわけです。

■通気性・施工性ともにすぐれた「TAKOHO」
 次のモルタル外壁通気シート工法は、TAKOHOという名称で弊社が扱っております。一般的な胴縁通気工法との違いは、下地面材に透湿防水シートを張りつけ、その上に独自のTAKOHOシートをステープルで留める点です。
 この工法では、透湿防水シートを張った下地材とTAKOHOシートの間に生まれた通気層が、壁体内に空気の流れを発生させ、余分な湿気を放出するだけでなく、屋外からの熱気や冷気を和らげる効果を発揮します。長所としては、胴縁不要で施工がしやすいこと、ノンクラック工法と同様クラックが発生しにくいこと、ローコストで安価に通気工法ができること、などが挙げられると思います。もちろん、長期優良住宅制度にも対応しております。
 カップの部分をステープル固定するため、防水性が気になる方も多いかと思いますが、TAKOHOシートに止水性機能を備えているため、下地材には一切水漏れがないことが、試験の結果確認されております。また、カップに水を貯め、ステープルからの漏水を確認する試験でも、透湿防水シートや下地材への水の浸出がなかったという結果が出ています。一方、水平加力試験によってひび割れの確認をおこなったところ、層間変形角1/120radで0.1mm以上のひび割れなし、と、こちらも信頼できる結果となりました。

■地震動によるクラックから外壁を守る
 当社では、ノンクラック工法以上にひび割れ防止効果が高く、厳しい条件にも対応できるスーパーノンクラック工法も開発しています。こちらは、ガラス繊維ネットと併用して、補強用ラスをモルタルの中に埋め込み、クラック発生を防止しようという方法です。地震に強く耐久力があり、通気工法にも使用できる点で、ラスモルタル外壁のひび割れ防止技術の信頼性につながる工法だと自負しております。
 モルタル外壁のひび割れの種類としては、乾燥収縮や温冷ムーブメントなど、材料自身のひずみに由来するものと、構造躯体の変形によるものの2種類に大きく分けられると思います。これを防ぐには、材料を改善する、下地を補強する、繊維ネットを使うといった方法が考えられます。たとえば、乾燥収縮に伴うひび割れには、ネットの使用が効果的です。
 しかし、地震などによる構造躯体の変形は、繊維ネットの引っ張り力では対応しきれません。特に、外壁のコーナー部分には、一般部分の9倍もの力がかかるといわれています。そこで、繊維ネットよりも引っ張りに強い補強用ラスを使って、過剰なひずみに対応させたのが、スーパーノンクラック工法です。
 実際に水平加力試験機で梁を左右に動かし、躯体の変形によるひび割れの状況を確認してみました。木造住宅で一般的な層間変形角1/120rad(震度5弱の地震に対応)でせん断試験を行い、ひび割れ率を調べた結果は以下の通りです。1)補強なし: 7.14% 2)開口部四隅に補強用ラスをステープルで固定(従来の補強方法):1.83〜2.44% 3)ガラス繊維ネットを全体に伏せ込み(ノンクラック工法):0.67% 4)補強用ラスを下塗りに伏せ込み補強※1 : 0.73% 5)補強用ラスとガラス繊維ネットを併用して補強※2:0.00%。
 ガラス繊維ネット単独でもかなり効果はありますが、補強用ラスとネットを併用すると、変形によるクラックにはきわめて有効であることがお分かりいただけると思います。

※1:ラスの入れ方・質量・寸法などをいろいろ変えた中のひとつ。
※2:通常の直塗り工法、通気工法とも同じ結果。

■注目を集める調湿性内装材
 人が健康でいられる相対湿度は、大体40%〜60%といわれており、これより低いとウイルス、バクテリアが繁殖しやすくなり、高いとダニやカビが発生しやすいといわれています。現代の住宅で問題となるカビ、ダニ、結露の発生、アレルギー疾患やシックハウス症候群などは、高気密化・個室化の普及、窓を開けず畳も干さないといった生活環境の変化、さらに接着剤の使用などが理由ですが、これらの多くは、湿度と深く関係しています。
 設備機器に頼らずに湿度調整を行う方法として注目されているのが、さまざまな調湿性内装材です。梅雨期の屋内湿度を比較した実験では、ビニールクロスを使った試験棟内では湿度80%を超えた日が60%近くになったのに、調湿性内装材を使用した棟は10%以下であったという結果が報告されています(日本建築学会技術報告集第10号)。調湿性素材の効果がよくお分かりいただけると思います。
 調湿性内装材でよく知られているのは珪藻(けいそう)土です。その名の通り、太古の植物プランクトン(ケイソウ類)の殻が堆積した地層からとれる土で、二酸化ケイ素を主成分とする超多孔質粒子が集まってできています。粒子の表面にあいた無数の細かい穴が、湿気を吸ったり吐き出したりする役割を果たします。
 また、シリカアルミナ多孔体で構成された天然鉱物で、高い消臭・水浄化機能を持つ天然ゼオライト、火山灰土を原料とし、耐火・断熱・耐酸・耐アルカリ性能にもすぐれたシラスなども、調湿性素材として注目を集めています。これらを使った内装材は、弊社でも製品化しています。
 一方、地域独自の素材を利用した内装材として、漆喰(しっくい)を利用した内装仕上げ材も出しています。地域の土と漆喰を混ぜ合わせることで、その土地その土地の風土に合い、地産地消にもなる、自然素材100%の内装材をご提案しています。合わせてご検討いただければと思います 


「耐火性能の安全・安心「耐火間仕切壁用繊維混入石膏板(FPFG)」」
 潟Gーアンドエーマテリアル 建材営業本部 技術・開発部
   部長 磯部 勝彦氏  技術グループリーダー 久保 剛氏

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■耐火認定の変更がもたらしたもの
(磯部)当社の主力商品は、けい酸カルシウム板、セメント板、石膏系ボードです。今回は、新たに開発された耐火用石膏系ボードについてお話をいたします。
 皆さまご存じのように、2000(平成12)年の改正建築基準法により、耐火認定の試験方法が仕様規定から性能規定へ移行しました。日本独自の試験方法からISO基準に準拠した共通の試験方法に変わったということです。
 新旧の試験方法の比較をご紹介します。試験体のサイズ、加熱温度、温度時間などが変わっております。加熱時間については、現在は、1時間加熱後放置し、3時間後の温度上昇を見る方法が大半です。また、衝撃試験もなくなっています。さらに、温度の判定基準も大きく変わりました。昔は鋼材温度というものがありましたが、今は建材裏面側の温度のみとなり、開発側としてはいろんな意味で開発の幅が広がりました。
 こうした変更の結果、今までは試験方法の違いから別々とされていた「防火」「準耐火」「耐火」という序列が明確になりました。「防火」の上に「準耐火」、さらにその上に「耐火」が来るということで、例えば耐火認定を取ったものは、防火認定もクリアできるということです。
 当社では、試験方法の変更に伴っていろいろ開発を進めてきておりましたが、この過程で問題が発生しました。国土交通省で過去の認定商品の性能確認が行われ、当社の耐火1時間間仕切りが認定取り消しの対象となったわけです。
 この問題を受け、不燃・防耐火構造認定商品の性能面における安全基準というものを社内的に設定しました。何をしたかというと、旧試験で認定を受けた商品については、単なる読み替え認定、つまり新たな試験方法でクリアできると判断したものは新しい番号をもらうという方法はとらない、全部、現行の試験方法で認定を取り直すという決断をしたわけです。以来、当社ではこの方針をずっと進めてきております。
 また、昔は試験基準ギリギリで認定を取ることが評価されていた面がありましたが、それは非常に考え方がおかしいということで、今は十分な安全レベルを確保した上で認定の取り直しを進めております。
 これからご紹介する耐火用繊維混入石膏板、「FPエフジーボード」といいますが、これもこの過程の中で生まれたものです。一般内装用に販売している石膏系ボードと別立てに耐火性能を上げたものを開発しまして、新たな不燃認定を取り直したということです。

■強くてしなやかな不燃建材「エフジーボード」
(久保)「FPエフジーボード」は、当社の新しい耐火間仕切用繊維混入石膏板です。当社の繊維混入石膏板で、不燃認定NM-2967「エフジーボード」の耐火性能をさらに上げたものです。
 最初に、「エフジーボード」の大きな特長を4つご紹介します。1つ目は寸法安定性、つまり水分や湿度に対する長さ変化率が非常に小さい点、2つ目は、可撓性が高く曲面施工が可能な点。3つ目は、遮音性能に優れる点。4つ目は、耐衝撃性に優れる点です。具体的な物性値をご覧いただきます。
 まず、寸法安定性についてお話しします。「エフジーボード」の見かけ密度は1.6、けいカル板の0.8〜1.0、石膏ボードの0.7に比べると、石膏系でありながら密度が非常に高い材料です。長さ方向に流れている繊維に対して垂直に力を加えた場合の曲げ強さも18N/mm²と、けいカル板や一般の内装用石膏ボードの2倍弱の曲げ応力があります。また、曲げヤング率も13kN/mm²とセメント系に比べると若干柔らかさがあります。吸水率は15%程度です。総じて非常にタフな材料、強くて軟らかい材料といえます。
 特長的なのが、吸水による長さ変化率です。繊維方向(長さ方向)の変化率は0.07%、1,000mm(=1m)に対して0.7mmくらいの収縮しか起きません。飽水状態の含水率15%から40℃で24時間乾燥させ、含水率0.5%前後まで下げた時の変化率が、この値です。これも安全値を見たデータで、社内の検査では、0.05%くらいが平均値と、非常に長さ変化率が小さい材質です。実際には内装用材料ですから、雨水などで限界ぎりぎりの吸水率になることはまず想定できません。長さ変化率もクラックも非常に少ないといえます。

■曲面に沿って「曲げられる」石膏ボード
 第2は可撓性です。通常のドライ工法の場合、繊維方向に直角に、横張りに曲げるようなものをイメージしていただければいいと思いますが、6mm厚のもので、曲率半径1,000mを基準として出しております。これはあくまでもカタログ値で、限界値としておおよそ3倍を見ておりますから、実際には曲率半径300mmくらいは曲がる材料です。もう少し曲げたいのであれば、ウエット工法というのがあります。ホースでボードに散水したり、10分ほど水槽に漬けて、飽水状態にしてから曲げる方法で、面下地で200mm、胴縁下地で400mmの曲率半径を基準としております。
 曲面の施工例ですが、大阪モード学園のモニュメントの地図ですね。このように卵型や3次曲面もできます。もう一つは、新潟にあるプラスチック系材料の研究所の内装です。こういう多次元曲面もすべて「エフジーボード」の曲げ加工でやっています。
 第3の遮音性ですが、一般に材料の密度の高い方が、一定の遮音性が出ます。さらに、単位重量があっても軟らかい材料は、コインシデンス(遮音性の落ち込み)が125〜4000Hzの帯域には出にくい特性があります。遮音特性を生かした実績では、文化ホールや音楽ホール、音楽関係の施設にかなり使われております。最近では、この会場のすぐ近くの中之島フェスティバルホールの天井とか、韓国などでも遮音材料として使われています。この遮音性や可撓性を構造体の方にも生かしたいということで、新たに構造認定も取っております。

■新しい耐火構造間仕切り「FPエフジーボード」
 今回の「FPエフジーボード」は、「エフジーボード」を改良して、耐火構造用につくったものです。簡単にいってしまうと、一般のエフジーボードより熱収縮が少ない。800℃、1000℃の熱に対しても収縮量が少なくなるような補強繊維等を加えています。2種類の間仕切りについて、ご紹介させていただきます。
 第1は、曲面施工が可能な耐火間仕切りの「FPエフジーボード耐火60」。6mm厚の板を3層両面張りに張ってもらえれば耐火1時間という材料なんですが、波打ったような施工も可能ですし、廊下のコーナーの部分だけ強いアールを付けたいというようなご希望でも対応できます。
 注意点としては、認定の中でスタッド(間柱)が450mmピッチで一般的に使われていますが、コーナーでアールを付けたいということがあれば、必要により半分の225mmピッチくらいで使用していただきたい。それが唯一の注意点になると思います。曲げ施工になると横張りになると思いますが、横目地でクラックが入るといった可能性が非常に少ない材料です。
 第2は、近々出す予定の構造商品ですが、「FPエフジーボードG耐火60」。売りは高遮音耐火ということで、耐火と遮音の両方を兼ね備えてた間仕切りです。75〜113mmの範囲の中空層をはさんで、強化石膏ボード15mmと「FPエフジーボードG耐火60」6mm、スタッドは300mmピッチの千鳥配置という材料構成で、耐火構造試験も合格して、近々認定される予定です。
 この遮音性能ですが、75〜100mmの中空層を持つ一般的な施工法でTLD値45仕様、建築基準法の遮音構造基準からワンランク上がった性能をクリアしております。コンクリート壁でいえば150mm厚くらいの遮音性能になります。もっと遮音性のグレードを上げたいとなりますと、中空層を100mmに組んで、間にグラスウール24kを25mm厚で入れていただければ、
性能は格段に上がりTLD値55仕様に相当します。品確法でいえば最高等級の4レベル、マンションなどの間仕切りにも使えるぐらい遮音性能があります。
 なお、「FPエフジーボードG耐火60」の遮音認定は要らない、耐火構造認定だけでいい場合、スタッドのピッチは600mm以下とし、横張でよろしければ、このピッチで石膏ボードと本製品をビス留めしていただければ、耐火構造の構造体にも使えます。従来のエフジーボードともどもご愛顧いただければ、ありがたく思います。

(磯部) 今回は、もともと不燃認定された商品を耐火の視点でグレードアップしましたが、逆に耐火性がベースになっているものを特化して不燃内装材をつくりますと、耐火認定を取った時点で不燃認定もクリアしていますから、その分だけコストが下がるという面もあります。やはり、1つの商品ですべてをまかなうといくことではなくて、目的にあった形での商品開発を行ってコスト面を抑え、リーズナブルな価格の商品をユーザーの皆さまに供給していく、という形が、今後の当社の基本になっていくのかな、と考えております。ご清聴ありがとうございました。 

 
 
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