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第37回
「次世代型の高機能材料」
*機関誌「けんざい」掲載分です。ホームページ用に再編集しておりませんのでご了承ください
掲載情報は全て著作権の対象となります。転載等を行う場合は当協会にお問い合わせください。
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「低炭素社会に向けた環境調和型材料の開発
〜ポーラス(多孔質)コンクリートの可能性を探る」
一般社団法人グリーンコンクリート研究センター
技術顧問 玉井 元治 氏
(元近畿大学教授 JCI名誉会員)
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■地球環境を考えれば脱石油化は避けられない
地球環境は年々悪くなっています。1992(平成4)年、リオデジャネイロで第1回国連環境会議が開催され、CO2を削減し、人類の持続可能な発展を目指した地球環境をつくらねばならないという大きなテーマが掲げられました。しかし20年経っても地球環境は改善されておりません。発展途上国ではCO2が大量に排出され、気候変動は激化し、CO2の10倍もの影響を及ぼすメタンガスが増え、人類の持続可能な発展が困難な状況です。だから、対策として低炭素社会を一刻も早く構築しなければならないのです。
現在、世界中で排出されているCO2は306億t。一番多いのが中国で90億tです。続いてアメリカ(65億t)、ロシア(25億t)、インド(25億t)。ちなみに日本は13億tです。1990(平成2)年を基準とした京都議定書で、2020(平成32)年時点でのCO2をマイナス25%にするという目標を立てましたが、これは現在の排出量から計算するとマイナス31%にもなり、とても達成できるとは思えません。
いずれにせよ、石油エネルギーへの依存は徐々に減少せざるをえないでしょう。アメリカでは、オバマ大統領がしきりに叫んでいるGreen New Deal政策(※1)、およびシェールガス(※2)への転換によって、脱石油化が進められています。オバマ大統領は、2015(平成27)年〜2016(平成28)年くらいまでに、シェールガスの開発によって、アメリカをエネルギー輸入国から輸出国に変えると言っています。
※ 1 Green New Deal 政策:環境保全・再生可能エネルギーなどの産業分野に大規模な投資を行い、新たな雇用を創出して経済活性化を目指す政策。
※ 2 シェールガス:従来のガス田ではなく、シェール(頁岩)から採取される天然ガスで、温室効果ガス排出量を低減できるといわれる。
しかし、これは低炭素社会の構築にある程度は貢献できますが、脱原子炉の問題が残ります。原子炉がなくなるとCO2は現状より30%以上増しになりますが、こうなるとわが国の立場に影響が出てきます。国土交通省や経済産業省を中心に、一層の低炭素社会化、脱石油化に向けて動くだろうと思います。日本の化学メーカーも現在、重油関係の研究よりもシェールガス研究に重点を置き、すでにプラスチックを合成する技術を確立したともいっています。シェールガスの普及で、世の中の流れがガラッと変わってくる可能性があります。
■アスファルトからコンクリートへの転換が始まる
私の専門である土木部門でも、将来的に道路行政は変わると思われます。なぜなら、石油からシェールガスへという転換によって、石油由来のアスファルトは減少、かつ高価格になると思われるからです。量的にもコスト的にも、さらに地球環境保全の意味からも、アスファルトは使えなくなるということを考えておかねばならないのです。
全国生コンクリート工業組合によると、工場数は1990(平成2)年がピークで約5,100工場、そして1工場あたりの出荷量が約3,900m3ありましたが、現在は約3,900工場で1工場あたり約2200m3、過去20年で最低の状態になっています。これは死活問題で何とかしなくてはいけませんが、アスファルトが使えなくなってくると、現状も大きく変わらざるを得ません。
舗装関係全般的に考えると、近い将来、コンクリート舗装が現状の3〜5%から30%くらいまでに転換すると考えられます。国土交通省道路局からもすでに、コンクリート舗装への転換を促す文書が出されています。アスファルトよりも耐久性はいいし、ヒートアイランド現象に対する抑制効果もあり、安全性も高いので、将来はコンクリートにシフトすべきだというのが、全国生コンクリート工業組合の方針です。
ただし、この転換にはコンクリート自体にも進化が必要です。従来、コンクリートは強度と耐久性があればいいという考え方でしたが、自然や生物、人間と調和できていないのでは、といわれるようになってきました。これを克服するにはどうすればいいか。強度と耐久性だけではない、ほかの付加価値が必要です。そこで、過去の研究データを参考に、エココンクリートの研究を積み重ねてきたわけです。
■エコマテリアルの活用で低炭素モデル都市を
地球環境の保全に貢献する材料として、「エコマテリアル」という理念が提唱されています。具体的には、(1)地球温暖化の防止に貢献する材料、(2)人類の活動圏を広げ、活動環境を拡張する材料、(3)人類の活動環境と生物環境との調和、または創造する材料、(4)活動圏の中で生活環境に豊かさや癒やしを与える材料、(5)循環型社会の構築ができる材料、といった5項目の概念があり、材料を製造して販売する場合、エコマテリアルの概念が入っているべきです。全要素が入っているのがベストですが、最低3点は必要でしょう。われわれの研究もそういう概念が入っていないものはまず対象になりません。またこれからは、家屋、交通、電力供給、地域インフラの観点で低炭素モデル都市をどんどんつくる必要があります。
エコマテリアルとして有力なものに、多孔質材料があります。人工のもの、自然のものがありますが、われわれは、コンクリートを使った多孔質材料(ポーラスコンクリート、POC)を研究しています。エココンクリートとも称し、普通のコンクリートよりも自然や人間に好影響を与えるようなマテリアルとして、開発していこうというものです。
普通のコンクリートは、骨材の間を埋めるペーストとしてモルタルが使われますが、ポーラスコンクリートは骨材の間に連続空隙があります。ペーストの量を制御することで、強度、環境性その他が変化します。
環境負荷低減型ポーラスコンクリートは、(1)透水・保水性能、(2)吸音性能――音のエネルギーが多孔層の中に入ってくると熱エネルギーに変換されて吸音される――、(3)水質浄化性能――多孔質の表面にバクテリアが多数付着し、水に入った有機物質をトラップして浄化する――、(4)温熱性能、(5)調湿・吸着性能などを有し、さまざまな所で使われています。国土交通省からも、雨水の処理に関して、道路づくりや施設に取り入れていくよう指示が出されており、近い将来、補助金対象になる可能性もあります。
ポーラスコンクリ―ト舗装には3種類あります。第1は「排水性舗装」。これは表層部分だけをポーラスコンクリートにして、基層や路盤は普通のコンクリートあるいはアスファルトコンクリートにするもの。第2は「透水性舗装」。表層の下に路盤があり、水を地盤まで抜いてしまうもの。そして第3は、現在最も使われている「保水性舗装」。表層部の下部分とさらにその下にも保水性のある材料を使い、下から上へと毛細管現象で水を引き上げて保水します。
ポーラスコンクリートは、水が瞬時に通過する材料で、駐車場や広場で使用されています。中国の杭州で提案し採用された結果、ドブのようだった湖が、コイが泳ぐほどきれいになりました。日本では、800万m2の舗装に適用されています。また、摩擦抵抗が非常によいので、山岳部に近いカーブ付近で使用されたケースでは、事故が少なくなりました。
さらに、材料厚さを調整することにより、良好なポーラスコンクリート吸音板ができます。もともとドイツで開発されたアイデアで、現地では表面にいろいろなデザインを施して実用化されています。
■生物共生型コンクリートでつくる癒やしの場
次に、環境負荷低減型とはまた違った、生物共生型ポーラスコンクリートの話です。(1)緑化基盤、(2)微生物や小動物の棲息基盤、(3)海生生物の付着基盤、(4)微生物の付着基盤といった役割があります。また、骨材に水よりも軽いものを使うと、ポーラス体が水に浮きます。これをうまく使えば水の浄化などの取り組みも可能になります。
たとえば、超軽量のポーラスコンクリートの表面に季節の植物を植え、下の方にはメッシュなどを利用して、魚や微生物が好むような付着物が形成されるようにします。これらを道頓堀あたりに設置すれば、水質が浄化できて生物も増える。道頓堀の名物の一つとしても注目してもらえるのではないでしょうか。
8年前に大川(大阪市)で、太陽光発電でためたエネルギーを使って実験をしました。この表面には植物を植え、夜間に光るよう電飾も施しました。セットして約2週間後、釣り人から「ここはよく釣れるようになった。ずっと置いておいて」という声が聞かれるようになり、3カ月後には、水質もかなりきれいになりました。東京などの都市河川でも、かなり応用できるのではないかと思っています。
図(略)は生物育成床です。網の中に入れて、河川護岸や法面に貼り付けることで緑化できるものです。生物育成床を用いた護岸構造は、大阪で提案中です。
ドブ川を改修してコイなどが泳げるようにし、高齢者が散策したり孫と一緒に遊べる広場あるいは通路をつくれないかという相談もあります。こんな場合も、これまでのお話で紹介したような材料を組み合わせてつくることができるでしょう。具体的には例えば、10p厚のポーラスコンクリートの上に砂をまいて芝を貼れば3カ月ほどで緑が育ってきます。こうするとアスファルト舗装の場合に比べて温度が10℃以上下がり、ヒートアイランドも抑制できます。
これらの技術を主体として、財団法人先端建設技術センターが『ポーラスコンクリート 河川護岸工法の手引き』をまとめました。あらゆるタイプの護岸にポーラスコンクリートがどんどん適用されています。工期・工費の面でも、ポーラスコンクリートは機械化施工すると従来型のものに対して30%以上安くなり、しかも施工が速いメリットがあります。
韓国・ソウルの清渓川(チョンゲチョン)はかつてドブ川でした。上を走っていた高速道路を全部撤去して、2年かけて整備しましたが、もとはドヤ街のようだったのが、ブティックが建つほどきれいになり、名所にまでなりました。
■藻礁ブロックで21世紀型の漁場を形成する
われわれは、21世紀型の漁港や漁場をつくっていこうと水産庁に日参し、どんな形にするかの構想も立ててきました。図(略)のような形にすれば、将来周辺の沿岸でかなり魚介類がとれるでしょう。漁業として採算が成り立つまでに持っていければと思っています。ただ、漁港関係というのは、申請にしても行政の対応にしても時間がかかるため、実用化には5年くらいかかるかもしれません。
ポーラスコンクリートの中に、養殖で不足しがちな鉄
分やカリウムを、すぐに外に溶け出さない状態で加工して入れる方法もすでに学会には発表済みです。ご援助しますので、ぜひこういったものを使って欲しいですね。瀬戸内海で行った例では、1年経つとコンブ類がかなり育ちました。藻礁ブロックは、ポーラスコンクリートを表面の部分だけ型枠的に使って、中が普通のコンクリートになっています。将来的には有望ではないかと思います。今は、魚を捕り過ぎている状況ですから、魚がそこに定住できて、漁民の方もそれで生計が立てられるような体系づくりがこれから必要ですね。
■土をベースにした新低炭素型資材の活用
最後に、マテリアルとしての土とわらについて、少し触れておきます。昔の建築は、土とわらが素材でした。中国の福建省にある客家土楼という有名な歴史遺産があります。4階建てくらいで、木材も使っていますが大部分は小麦わらと土です。アラビア半島のイエメン・シバームにある住宅は7階建てくらいありますが、これも主な建材は土と粘土です。
土と粘土を固めて乾燥すると、粒子間引力という力が働いてとても固くなります。また、麦わらが腐食するとポリマーが出てきて繊維と結合します。こうした原理によって、土やわらの建物は長期間もつことができるといわれているわけです。
大阪城の西の丸公園の通路も、材料は大部分が土です。しかし計量や練り混ぜの知識・技術が不十分と思われます。コンクリート関係の工業組合と一緒に、きちんと管理できるような方向で現在進行中です。将来的には、特に自転車道路や歩道と水路とをうまくリンクさせ、水辺の生き物をこの中に入れたいと考えています。さらに、高齢者が安心して快適に憩える、癒やしの道づくりとして、たとえば御堂筋の一部などにも取り入れてもらえるよう、働きかけてみるつもりです。可能性は十分にあると思います。
土をうまく利用すれば、丈夫でしかも環境に優しい固化物ができ上がります。温故知新から生まれた21世紀型の土系材料として、新しいポーラスマテリアルを開発すれば将来的に有望です。例えば、コンクリートにも使われる水砕スラグなどのリサイクル材を利用します。今、鉄鋼スラグ協会に依頼して進めていますが、ポーラスマテリアルとして新しい分野が期待できます。リサイクル材を使った製品はグリーン調達品制度が適用されますので、どんどん利用していただければと思います。
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「日本の森林を再生させる木材加工技術
〜サーモウッド外装、サーモウッド木製サッシ」
越井木材工業梶@技術開発室
室長 山口 秋生 氏
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■日本全体でどんどん木を使っていく必要がある
去年から今年にかけて建てられた公共建築物の外装に、多くの木材が使われています。これは、2010(平成22)年10月1日、「公共建築物等木材利用促進法(「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」)」が施行されたためです。
木材は二酸化炭素を吸収し、光合成をして酸素を出すといわれますが、その力は若い木にしかありません。二酸化炭素の吸収を持続させるには、40年、50年たった木は伐採し加工して使い、また植林して若い木を育てていく必要があります。そこで、国全体で木材をもっと使いましょうということになったわけです。
この促進法では、可能な限り公共建築物の木造化、木質化を図ることになっています。今まで木造は建物全体の36%しかなく、公共建築物では7.5%しかなかったのですが、原則として低層1階、2階部分は木造化にしましょう、内装にもフローリングなどの木材をできるだけ使おうという流れができました。
施行から2年たった今、 「木材をこうして使っていこう」という計画が、府省庁と都道府県すべて、および約700市町村で策定されました。2011(平成23)年には、国土交通省の官庁営繕部が、防災や耐久性、構造計算や構造材料などの基準を規定した「木造計画・設計基準」を定めています。
もう一つの動きとして、経済産業省による省エネの推進があります。日本のエネルギー消費量は、1973(昭和48)年と2009(平成21)年を比べると1.3倍に増えています。産業部門は0.85倍ですが、民生部門が2.4倍になったためです。一層の省エネを進めるには民生部門を何とかせねばならない、ということで、2020(平成32)年には建築物・住宅の省エネ基準適合率100%が義務化される見通しとなりました。
さらに、2013(平成25)年度から導入される建築材料等のトップランナー基準では、窓(開口部)や外壁の断熱改修について、高断熱の木製サッシや木製外装などの導入を推進する動きがあります。当社でも、こうした流れに木製建材をどう絡ませていくか、前向きに対応しているところです。
■耐朽性と寸法安定性に優れるサーモウッド
木材を使うとき問題になるのは、「腐れ」「割れ」「反り」、さらに「防火」「色あせ(褪色)」などです。従来、木材に耐朽性を持たせるためには薬剤が必要でした。当社も、線路の枕木や木製電柱の防腐処理から出発した会社です。しかし、最近は薬剤を使用せず、熱処理で耐朽性を持たせる技術があります。
「腐れ」の原因は、担子菌という菌が木材を分解する酵素を出すからです。それには栄養(木の成分)、温度、空気、水分が必要です。この4つがそろわないと「腐れ」は起きません。地上にいる限り、温度と空気はなかなか制御できませんから、残りの2つ、栄養と水分をコントロールして木材を腐らないようにする──これが「サーモウッド」の基本的な発想です。
サーモウッドとは、その名の通り熱処理した木材のことで、耐朽性と寸法安定性に優れます。まず木材を100℃で乾燥させた後、180〜240℃の熱を加えると、中の成分が変化します。大体42時間、3日か4日くらいかけてサーモ処理機で処理しますと、木材の性質が変わり、耐朽性と寸法安定性が付与されるのです。
耐朽性とは、腐らないことです。腐朽菌が繁殖している容器内に試験体を12週間放置する実験では、240℃近くで処理した木材の質量減少率(重量がどれだけ減ったかで腐朽の度合いを見る)はわずか3%程度で、ほとんど腐らないという結果でした。また、熱処理した木材はシロアリも食わないということも、実験で確認されています。
一方、寸法安定性というのは、木材の伸び縮みの少なさです。熱処理によって収縮率が減少し、「割れ」や「反り」が少なくなります。また、平衡含水率も半分くらいまで落ちるため、湿気の影響を受けにくくなるのですが、これも「割れ」や「反り」を少なくします。
次に、「防火」の問題ですが、これは熱処理では対応できません。当社では薬剤処理をしていますが、1枚1枚、比重を測定しながら注入しています。木材には心材と辺材があり、心材には薬が入りにくい。ですから高い不燃性能が求められる製品については、原材料そのものについて心材率ゼロ、辺材率を100%とするなどしています。これによって、建築基準法で定める難燃、準不燃、不燃基準に対応できる材料を生み出しています。不燃認定されたものは、映画館や病院の通路、地下街などでも使用可能です。
そして「褪色」の問題。当社では現在、「褪色」は劣化ではないがデザイン的に問題だということで、色の画像データを集めて、経年による木材の外装の色変化のシミュレーションをつくろうと動いています。木材を使ってもらうときに、「2年後にはこんな色に変わりますよ」といった説明をすれば、設計側も対応しやすくなるのではと思っています。
■環境負荷を軽減する木製サッシ・外装材
海外では木製サッシが多く使われていますが、日本ではほとんどがアルミおよび樹脂製で、木製サッシは0.5%にすぎません。しかし、木製サッシは、耐朽性や寸法安定性に優れている上に、熱伝導率がアルミや樹脂に比べて桁違いに低く、結露しにくい性質があります。先ほど触れた木材利用促進や次世代省エネ基準の観点からも有意義な商品であるため、当社でもサーモウッドを使った木製サッシを開発中です。
すでにいろいろな試験を受けて、その性能を確認しているところです。3階建て、4階建てに使える耐風圧性や気密性や水密性、防火性などですね。加工のしやすさなど、アルミや樹脂製品よりすぐれた点も多く、検証を進めています。
一方、木製外装材についても、3年くらい前から環境効果の検証を進めています。都市部で昼間に生じる熱がヒートアイランド現象の原因だということで、建物の外装を木製で被覆すれば、夜間の熱が減少するのではないかと考えたものです。
当社では、ハウスメーカーおよび大学の熱工学の専門家と一緒に「国産材を活用したヒートアイランド対策協議会」を組織し、木製外装による抑制効果について研究と実験を続けています。
大阪木材会館(大阪市)で実施した実験では、建物表面に木材を張ったところ、隣のRCの建物がまだかなり蓄熱している夕方16時時点で、木材の表面温度が下がっていることを確認しました。この結果に基づき計算したところ、大阪市の本町地域で47%の建物に木材被覆すれば、1970年代の夜間外気温に回帰できる、といったシミュレーションもしています。データ的には、屋上緑化や屋上高反射より有効です。
また、つくば市の森林総合研究所で行った省エネ効果実験では、サーモウッドの被覆した建物とそうでない建物を並べ、クーラーの電気消費量を比較。その結果、「被覆あり」の方が18%省電力化できたというデータを得ています。
図(略)に、各種外装材の環境負荷を比較した表を掲出しておきます。サーモウッド(コシイスーパーサーモ・スギ)の方が、タイル、アルミよりも、製造時・施工後の両面で、二酸化炭素排出量が低いことが、お分かりいただけると思います。
■木材の利用が山への還元につながる方法を
当社は、木材の技術を通じて日本の森林の再生に貢献したいと考えています。ご覧いただいている写真の中に、われわれが愛媛県のある市長さんと面談しているものがありました。今、日本の山で、木を間伐しましょう、そして木材を使いましょうという流れがあるけれど、普通の正方角材の売値が4万円/m3、丸太の単価でみるとざっと1万円/m3にしかならない。伐採コストなどを考えると、なかなか山の方にお金が残らない──そういうお話でした。
当社では、木製サッシはじめ外装材には、やはりいい木材が必要だと考えており、化粧材は高く買うべきだと思っています。もし化粧材の売値が8万円/m3になれば、先ほどの1万円/m3が1万5,000円/m3になって、山にお金が残ります。利益を山に還元するには、価値の最大化が重要だととらえています。
同じマグロのにぎりでも、赤身と中トロと大トロでは価格が違います。木材でも同じように、高い材は高い、安い材は安いという使い分けができるのではないか。たとえば、一等材は構造材や下地材に、化粧材は外装材に使おう、といった具合ですね。もう一つ、丸太の場合の歩留まりがあります。心材と、その外側の辺材で組み合わせることによって、歩留まりがよくなっていきます。その他、径が小さくて製材できないものはそのまま防腐処理して使い、径の大きいものは製材して使うというやり方をとれば、山にもっとお金が落ちるんじゃないかと思います。要は価値と歩留まりと間伐材両立の最大化です。
「地産地消」という言葉がありますが、森林の多い山間部では、消費しようとしても住宅は少ないし建物も少ない。かたや都市部は人口が多いですから住宅も多く、建物も多い。だから都市部でもっと木材を使うことになれば、山間部でも力が出てくるのではないかと思い、われわれは「地産外消」という言葉で活動をしているところです。たとえば、九州、四国のスギ・ヒノキを阪神、中京、首都圏に持っていく。北陸地方のスギ・カラマツは中京、首都圏に、さらに東北のスギ・カラマツ・アカマツ・トドマツは首都圏で使うことにすれば、日本の山ももっと活性化してくるはずです。もちろん、木材をこういう所で使うためには、やはり処理技術が必要になってくる。われわれのサーモウッド技術が、「地産外消」を促す結果になればよいなと考えております。
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「熱の均衡化による塗膜断熱」
鞄進産業
代表取締役社長 石子 達次郎 氏
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■塗料ではない断熱セラミック塗膜「ガイナ」
20年ほど前、「ペンキで熱を止めます」と説明しても、まともに聞いてくれるところはありませんでした。熱を遮断するには塗膜の厚みが絶対的に必要、というのが、当時の建築界の常識だったからです。しかし、あきらめずに開発・研究を続けてきた結果、こんなに多くの方々に「ガイナ」の話を聞いていただけることになりました。夢のような気持ちです。
分かりやすいように「ペンキ」と言ってきたのですが、当社の商品「ガイナ」は塗料ではありません。すべて断熱セラミックです。直径が10〜50μm(マイクロメートル)ぐらいの微細なセラミックが完全な層をなしているのが、ガイナの構造です。
ただし、施工方法はペンキ=塗料と変わりません。ローラー、吹き付け、コテ塗りなどで、簡単に施工できるのも、ガイナの長所のひとつです。
■効率的に熱をコントロールし、省エネ効果を発揮 セラミックの集合体はいろんな効果を発揮します。中でも特徴的なのが熱のコントロール。実際の事例をいくつかご紹介いたします。
首都大学東京との共同研究で、外装にガイナを塗った建物と一般塗料を使った建物の省エネ効果を比較しました。建物は同一設計、塗膜厚も同じです。
冒頭にも触れました通り、建築の世界では塗膜の厚みで熱をコントロールするのが常識です。しかし、比較試験の結果、ガイナを塗った建物は、夏に27.6%、体感温度(中に人がいることを想定)を加味すると35.2%の省エネ効果を実現しました。冬季は21.6%で、やはり大幅な効果が見てとれました。ペンキ並みの塗膜厚で、熱を十分にコントロールできたわけです。
埼玉県の倉庫の屋根にガイナを塗装し、11年間の電気代のデータをとったところ、省エネ率はほぼ40%で推移しています。11年たっても、ガイナの省エネ効果は落ちにくいことが分かります。ですから、外装にガイナを使うと短期間にペイできる。冷暖房コストが毎年、顕著にしかも確実に削減でき、しかもメンテナンスコストがほとんどかからないからです。
これを立証する例が、島根県松江市にある工業団地の共同冷凍倉庫です。それまでは自力で省エネ運動に取り組んでいましたが、大変すぎて続かないということで相談を受けたのです。そこで、最も電力を食う冷凍倉庫にガイナを塗って、電力のピークカットを実施したところ、冷凍倉庫以外の所では普通にエアコンを使っていたにもかかわらず、2年間で740万円ものコストダウンができ、初期費用がペイした上に、資源エネルギー庁長官賞まで受賞してしまいました。
また、沖縄のある企業の例では、夏も冬も電気代が大幅に下がり、電気料金が50%カットできました。実は沖縄でも、冬は結構暖房を使っているのですが、ガイナの断熱性が暖房ロスを抑えたわけです。外装に塗っただけで夏も冬も効果がある、これがガイナの大きな特徴になっているわけです。
■塗るだけで内部を保冷・保温できる断熱材料
あまり知られていませんが、ガイナは実にいろんなものに塗られています。例えば自動車運搬船。ある船会社で、何社もの塗料を試験的に甲板に塗って航海に出たら、最後に塗膜が残っていたのはガイナだけだったということがありました。ああいう運搬船は炎天下で紫外線も強烈な所を通りますが、ガイナは全部セラミックなので、紫外線に一番強かったわけです。あとで船会社の方に感謝されたのは、輸送する自動車は55℃以下の環境を保たなければならないが、甲板直下の最上船倉は最高60℃にもなるので空けておくしかなかった。しかし、ガイナを甲板に塗ってからは40℃以上になったことは一度もなく、最上船倉までフルに使えるようになったというのですね。2航海すれば、使ったガイナの費用もペイできるというお話でした。
今度はお寺です。2011(平成23)年9月に完成した東大寺宝物殿の外装・内装および国宝の保管ケースにもガイナが使われています。白く見えるので漆喰のようですが、これによって館内やケース内の温度・湿度がコントロールできるわけです。
あと、ガスを液化して保管するため、高温になっては困るガスタンクですとか、長時間の保温が必要な炉体なども、ガイナが使われています。面白いところでは、キャンピングカーの内装の断熱用ですね。実は、従来使われてきたグラスウールなどの断熱材は、年々水分を吸って重くなります。すると、キャンピングカーの燃費が落ちてしまう。それで、ガイナが使われるようになりました。
■遮熱塗料や一般断熱材とガイナの違い
ここで、一般の遮熱塗料や断熱材とガイナとの違いをご説明しておきましょう。
まず、遮熱塗料は太陽光線を反射することによって温度上昇を抑えます。ただ、その威力は太陽光の角度によって制限されるため、効果があるのは10時から15時の間だけです。もちろん、曇りや雨の日、夜間も意味を持ちませんし、冬季には室内で発生した熱がそのまま逃げてしまいます。これは、外に塗っただけで、夏も冬も熱が下がるガイナとの大きな違いです。
次に、一般的な断熱材のメカニズムです。熱は必ず高温の所から低温の所へ移動します。その移動する過程に抵抗を設け、熱の移動を遅らせるのが断熱材の考え方。遅らせるだけで、高温から低温へというエネルギーの方向は不変です。対してガイナのメカニズムは、熱が高温の所から低温の所に向かって進むと、熱が遠赤外線に変換されて熱源側に返ってくる。たとえば、夏場に室内を冷房しているときは、屋外から屋内に伝わってきた熱がガイナの塗膜で遠赤外線に変換され、熱が来た側、つまり屋外に戻されてしまうので、室内は涼しくなります。
逆に冬場で室内を暖房しているときは、熱は屋外に逃げようとするのですが、ガイナの塗膜で遠赤外線に変換されて室内に戻るわけです。外に塗っても中に塗っても、夏でも冬でも、昼でも夜でも、どんなときにでも効果があるというのは、こういう原理です。面白い材料でしょう。
■暑い日本に適した建築は完全に失われた
ところで皆さん、大阪の緯度が世界のどの辺りに位置しているかご存じですか? パリ辺りだと答える方が多いのですが、なんとアフリカのサハラ砂漠付近です。アメリカ大陸なら、アリゾナ砂漠とマイアミ半島の近く。とんでもなく暑い所に大阪はあるんです。実は、日本は先進国中、一番暑いのです。
こういう暑い国で夏をいかに過ごすか、その結論が1000年を超える日本建築が生み出した、古来の高床式住宅です。私の子供のころでもまだ、かくれん坊ができるほど床の高い家は普通でした。風がどこからでも入ってきて、どこからでも出て行けるよう、高床式で風を通し、温湿度をコントロールする、軒を出して直射の影響を抑え、高い天井で空気を循環させる。これが日本の住宅だったんです。
ところが今、高床式住宅をつくろうと思ったら、防災上の問題でNGが出ます。
■来た方向に熱を戻せる技術は世界でガイナだけ
日本の住宅は今、おかしな状態になっています。床下がなくて高気密、高断熱、コンクリート、石造り。寒いヨーロッパなら最高の建築ですが、日本は暑くて湿度が高い国です。どうしてそこに違う住宅を建ててしまうのか。どこの偉い建築の先生に聞いても、やはりこれを常識として進めます。特に高気密、高断熱に至ってはまったく違うのではないかと私は思います。
「違う」という一つの例として、衣服を考えてみてください。夏と冬では、熱の進行する方向が別ですよね。だから夏の暑いときに厚いコートを着る人はいない。コートはいわば断熱材です(熱を逃がすのを遅らせることはできても、熱の出入りそのものを止めることはできません)。断熱材が熱を止めるなら、夏に綿入れを着て帽子をかぶって、というスタイルでいいはずです。でも私たちは、夏になったら断熱材を捨てて、冬になると断熱材を身にまとう。当然です。
一方で、一年じゅう断熱材に覆われていない住宅は、高性能住宅じゃないといわれる。とんでもない話だと思います。熱の進行方向が逆になっているのにもかかわらず、その逆になるものを何のコントロールもしないまま建てているわけですから。
日本の建築のおかしな状況を直せるのは、私はガイナしかないと思っています。熱を遠赤外線に循環して来た方向に戻す、という特殊な性質を持ったものは世界を見回してもほかにありません。今後もガイナの普及に向けて、企業努力を続けていきたいと考えております。
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