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第33回
「うめきた地区構想と大阪ステーションシティの取り組みについて」
*機関誌「けんざい」掲載分です。ホームページ用に再編集しておりませんのでご了承ください
掲載情報は全て著作権の対象となります。転載等を行う場合は当協会にお問い合わせください。
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「うめきた(大阪駅北地区)の開発について」
大阪市 計画調整局 企画振興部
うめきた企画担当課長 橋田 雅弘 氏
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資料は当日配布のみです。
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■「うめきた地区」のアウトライン
JR大阪駅一帯は関西の中心であり、鉄道を始めとする交通資源によって関西国際空港、大阪空港、学研都市彩都などと短時間で結ばれる位置にあります。また、30分アクセス圏に660万人、60分アクセス圏内に1,100万人の計1,700万人を擁する、巨大マーケット「大阪都市圏」の中心でもあります。「うめきた地区」は、この大阪駅北側の三角形の部分、現在は貨物ヤードとして利用されているゾーンです。
「うめきた地区」のポテンシャルは2点です。1つ目は、関西主要都市と1時間以内で結ばれる、関西の広域中枢拠点であること。2つ目は、JR東海道線支線の地下化や新駅設置を図ることにより、関西国際空港とのアクセスを強化し、東アジア経済圏との交流に対する優位性を確保できることです。
■「うめきた地区」開発事業化の経緯
「うめきた地区」約24haは、「都心に残された最後の1等地」とも称されます(図1)。1987(昭和62)年の国鉄分割民営化後、種々の検討がなされ、関西のみならず西日本全体を牽引する地区として、関西一丸となって開発を進める方針が打ち出されました。
その後、2002(平成14)年の国際コンセプトコンペ、2004(平成16)年7月の「大阪駅北地区まちづくり基本計画」策定、さらに土地区画整理事業や地区計画などの都市計画決定を経て、2010(平成22)年3月に先行開発区域約7haの建築工事が始まりました。2年後の2013(平成25)年春には、まちびらきが予定されています。
まちづくり計画の中心は、大阪市長(会長)、関西経済連合会会長(座長)、国の機関や大学、経済団体の長で構成される「大阪駅北地区まちづくり推進協議会」です。一方、具体的なまちづくりは、関経連を事務局とする「大阪駅北地区まちづくり推進機構」を中心に進めていただきました。
■まちづくりの基本計画の整備イメー ジ
「大阪駅北地区まちづくり基本計画」のアウトラインは、縦(南北)の“シンボル軸”と横(東西)の“にぎわい軸”、さらに大阪駅北側の“大阪北口広場”によって構成されています(図2)。
南北の“シンボル軸”は、御堂筋(幅44m)に匹敵する40m幅の広い道路によって、象徴的で風格ある軸線を形成するものです。道路沿いには豊かな並木や植栽、水路、ゆったりした歩道空間を整備し、ストリートファニチャーやサインなどの意匠にも配慮。民間の敷地についても、緑豊かなセットバックを十分に設けます。樹木には、大阪を代表するイチョウを考えています。
一方、東西の“にぎわい軸”は、快適でにぎわいあふれる歩行者軸です。道路幅員は同じく40mで、豊富な植栽とゆったりした歩道を配置します。樹木は、樹形の美しいケヤキを予定しています。
“大阪北口広場“は、約1haという広大な三角形の敷地に、水場や工夫を凝らした意匠が考えられています。監修は建築家・安藤忠雄氏です。
■先行開発区域の全体計画
先行開発区域は、UR都市機構が土地区画整理事業の施工者となり基盤整備を、また、コンペで選ばれた各社を含む計12社が開発事業者となり、知的創造拠点(ナレッジキャピタル)を中核とした一体的開発を行っています。
街区は、先に触れた駅前広場(大阪北口広場)、とA・B・C各ブロックの4つです。このうち、駅に近いAブロックは商業施設とオフィス地区、Bブロックは「ナレッジキャピタル」を中心とする商業・オフィス・ホテル地区、Cブロックは分譲マンション地区を予定。合計延床面積は約50万m2です(図3)。
先行開発区域には、“シンボル軸”に並行する2本の歩行者空間を設けます。一つは、北口広場からA ・B ・Cブロックまでをつなぐ半屋内型の通路「都市回廊」です。歩行者の回遊性への配慮から、建物内にテラスやカフェなどを配置するなど、快適で楽しく歩ける歩行空間にするよう計画されています。
もう一つは、A ・Bブロックの建物の中心を走り、Bブロックの「ナレッジキャピタル」に続く「創造のみち」です。両ブロックの2階レベルで建物を接続する吹き抜けの歩行者空間であり、商業施設も含むにぎわいのある場が創出されます。
また、「大阪駅北地区まちづくり基本計画」の方針に基づき、緑やオープンスペースを重視しています。施工区域の約半分を道路や広場などの公共空間とするほか、屋上緑化なども積極的に進められる予定です。
さらに、街区全体として水や緑を生かした取り組みを行うほか、各建物でも、自然換気排気システムや太陽光発電、エネルギー効率の高い設備機械を取り入れ、環境負荷の低減や低炭素化を図る予定です。また、大阪市と関係者が連携して、開発区域全体のタウンマネジメントを行い、長期的な低炭素化への取り組みを続ける予定です。
■ナレッジキャピタルとタウンマネジメント
先行開発区域の特色は「ナレッジキャピタル」と「タウンマネジメント」です。これらは、「うめきた地区」開発のキーワードでもあります。
○ナレッジキャピタル
Bブロックに置かれる「ナレッジキャピタル」は、延床面積約9万m2にのぼる「知の集積」エリアです。斬新なアートやデザインがあふれるエンターテインメント空間「サイバーアートセンター」、ロボットの研究開発や実証実験をする「ロボシティコア」、さらに「ナレッジサロン」「コンベンションセンター」「ナレッジシアター」などを設け、価値創造、新産業創出の拠点にします。
また、エンターテインメント性豊かな展示空間や多彩なイベントを通じて未来のライフスタイルを体験できる「フューチャーライフショールーム」も計画されています。大阪駅に近い立地を生かし、大勢の市民と研究者が気軽に触れ合える空間をめざします。
○タウンマネージメント
「ナレッジキャピタル」を運営するのは、開発事業者12社が作る「株式会社ナレッジ・キャピタル・マネジメント(KMO)」です。ナレッジコーディネート業務、テナント企画、広報プロモーションなどを主事業とするほか、「ナレッジトライアル」という先行企画も、2年前から開催されています。
さらに、KMOを含む「うめきた地区」全体をマネジメントするために、TMO(タウン・マネジメント・オーガニゼーション)という運営組織を設立する予定です。
「うめきた地区」では極めて高度な機能を持った空間づくりを進めていますが、ただ開発して終わりではなく、まち全体でこれを維持・発展させていかねばなりません。そこで、長期的視点に立ったエリアマネージメントを行い、都市再生に貢献するTMOの役割が重要になるわけです。この組織は、今年度中に立ち上げる予定です。
■(仮称)大阪オープン・イノベーション・ヴィレッジ
大阪市では、今年3月に策定した計画案に基づき、「ナレッジキャピタル」内に、「(仮称)大阪オープン・イノベーション・ヴィレッジ」を運営することを計画しています。
グローバル競争に勝ち抜くための技術革新や商品・サービスの変革には、誰もがイノベーションのプロセスに参画でき、その成果を利用できる「オープンイノベーション」の「場」と「仕組み」が必要です。「(仮称)大阪オープン・イノベーション・ヴィレッジ」では、中立性を持つ自治体(=大阪市)が中心になり、自律的・継続的なイノベーションの「場」を創り出すととともに、大学・研究機関、大企業、中堅・中小企業、ユーザーなどを巻き込み、さまざまな人々が参画できる「仕組み」を構築していきます。
同ヴィレッジでは、1)都市の強みを生かした『知の集積』を形成、2)国際的な『知の交流』の創出、3)「イノベーションにつながる『知の連鎖』の創造、という3つの考え方に基づいて、世界に通用する製品・サービスの創造、新たな市場・雇用の創出を目標としています。そこから、大阪・関西の知的創造ブランドを高め、中堅・中小企業の新たなビジネスチャンスを創出。さらに、文化の発信を通じて、次世代が夢を持ってアジア・世界へ羽ばたくチャンスを生み出すことをめざしています。
■ロボットやエネルギー分野での革新を狙う
同ヴィレッジが目指す分野は、一言では説明できません。ロボットテクノロジーを活用した医療機器開発から、太陽光をはじめとする新エネルギーの活用、EV電池あるいは新型蓄電池の開発、さらにデザインの力で変革を促すイノベーション・デザインなども視野に入れています。
一方、運営面でも、運営組織の設置、大学・研究機関との連携、有識者会議の設置など、幅広い連携を通じて多角的に産業が生まれていくような仕組みを目指して組織づくりを図ります。
「(仮称)大阪オープン・イノベーション・ヴィレッジ」は、2013(平成25)年春、「うめきた地区」のまちびらきと同時に開設の予定です。まだ見えにくい部分もあると思いますが、「オープン・イノベーション」や「ナレッジキャピタル」の仕組みを、さまざまな組織や人にうまく使ってもらい、新産業、新技術を生み出していきたいと考えています。これが「うめきた地区」開発の中心課題であり、市が「(仮称)大阪オープン・イノベーション・ヴィレッジ」の開設に乗り出す理由でもあります。
■うめきた地区2期開発について
先行開発区域の後は、約17haの2期開発区域の整備が待っています。開発テーマは「環境」ですが、先の震災の影響もあり、エネルギー対策も併せて考えていかねばなりません。「グリーン・アース」および「アンビエント・ライフスタイル」に取り組み、アジア・世界に向けて発信することで、世界をリードする「環境先進地域・関西」の都市型環境拠点をめざすことを目的としています。
取り組みの核となるのが、“シンボル軸”をはさんでナレッジキャピタルの向かいに位置する「環境ナレッジ」です。「実証フィールド」というシンボリックなオープンスペースを配し、環境をテーマに企業、市民などの参加を促します。具体的な空間イメージはまだありませんが、緑豊かなオープンスペースをできるだけとり、ヒューマンスケールを重視した質の高い都市空間を形成することを考えています。同時に、エネルギー・マネジメントや省エネルギー、新エネルギーなどを生かした先進的な環境インフラを積極的に導入したいと考えています。
■まちびらきと同時にスタートする2期開発
2期開発区域は、今年4月に土地区画整理事業とJR東海道線支線の地下化などの都市計画を決定し、事業開始をめざして調査・調整を進めています。この計画には、関空特急「はるか」が停車する新駅設置も含まれています。完成すれば、現在のように新大阪駅で乗り換えなくても、大阪から40分?45分で関空に行けるようになります。2012(平成24)年度末の貨物駅廃止後、工事開始の予定です。
景気低迷に加え東日本大震災の影響が日本全体をおおっている今、この「うめきた地区」開発が関西を牽引するだけにとどまらず、日本全体を浮揚させる開発になればと思います。そのためには、大阪市だけではなく、官民あわせて関西が一丸となって事業を進める体制が必要です。今後も引き続き、「うめきた地区」開発に対する皆さまからのご支援、ご協力をお願いいたします。
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「大阪ステーションシティについて」
大阪ターミナルビル
常務取締役 企画部長 江本 達哉 氏
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資料は当日配布のみです。 |
■新しい都市基盤デザインとしてのプロジェクト
おかげさまでこの5月4日、「大阪ステーションシティ(以下、OSC)」は全面開業いたしました。当日のノースゲートビル来店者は約50万人。開業1カ月間の来店者はノースゲートビルで約1,000万人、サウスゲートビル込みでは約1,500万人に上ります。
大阪駅は今まで4回建て替えられ、各時代の要請に応えてきました。文明開化の象徴的存在だった初代駅舎(開業1874年)。東海道線および関西圏の鉄道網の玄関口と位置づけられた2代目駅舎(同1901年)に続き、3代目駅舎(同1940年)では、「駅前広場」「高架駅」「貨物駅」を初めて採用。地上交通と連携しながら人と車を安全に分離し、10万人の乗降客と膨大な貨物をスムーズにさばける近代的駅舎になりました。また、「アクティ大阪」として親しまれた4代目駅舎(同1983年)は、国鉄民営化を目前に控え、駅とセットでなされる関連事業を積極的に取り込んだ、国鉄最後にして最大の駅ビルとなりました。
今回のOSC建設では、1)にぎわいの拠点づくりとしての駅ビル建設、2)ネットワークを含めた鉄道駅整備に加え、3)周辺回遊性の向上、に最も力を入れました。通路やデッキ、特に広場を整備し、歩行者ネットワークを拡充することで、単なる駅ビルや駅ナカ開発を超える「まち」としての駅を整備したわけです。それによって「線区価値の向上」、すなわち「あの沿線に行きたい、住みたい」という想いを、沿線に、面へと広げていくことを目指しました。
■構想開始から24年を経て完成へ
OSCの開発が本格的に動き出したのは、北梅田貨物ヤードの移転先が決定した1999(平成11)年からです。
その後、「大阪駅地区都市再生懇談会」の発足や大阪市による「大阪駅北地区全体構想」公表を受けて、2003(平成15)年12月に、「大阪駅改良・新北ビル開発計画」を発表。2004(平成16)年5月から改良工事が始まり、2006(平成18)年10月に新北ビル本体が着工します。南側のアクティ大阪(サウスゲートビル)増築についても、2005(平成17)年に開発計画を発表。2008(平成20)年から着工し、今春めでたく開業いたしました。
ちなみに、ノースゲートビルは長さ約250m、高さ約150m、延床面積約21万m2。使用した鉄骨はざっと戦艦1隻分の約5万tです。また、サウスゲートビルは、既存の延床面積約14万m2に約4万m2の建物を増築しています。さらに、OSCのシンボルとなっているドームは、長さ約180m、幅約100m。もっとも、当初計画にはなかったのですが、OSC全体のシンボルとして本当にあってよかったと思っています。
■「ステーションシティ」というコンセプト
大阪駅周辺には、北に「うめきた地区」や阪急茶屋町、南に阪急・阪神両百貨店、西にハービスなど、多彩な「まち」が広がっています。その真ん中にある大阪駅が全く閉じた開発を行えば、周辺の「まち」の開発も、ぶつ切りになってしまいます。
そこで思い至ったのは、われわれの強さは周りの開発と一体となることにある、という点です。そこから、歩道やペデストリアンデッキを造ることで、東西にも南北にも行けるという人の流れを生み出す、その間には人が何もせずに過ごせるような広場も造るべきではないか、という考えが生まれました。これが「ステーションシティ」のコンセプトです。ノースゲートビル・サウスゲートビルの名前も、まちに入る「ゲート」の意味からつけています。
■大阪駅開発プロジェクトの4本柱とは
OSCの開発では「通路・広場の整備」「駅改良工事」「新北ビル計画」「アクティ大阪の増床」という4つのテーマが柱となりました。
○通路・広場の整備
各所を結ぶ通路によって歩行者のネットワークを生み出し、結節点に広場を造る──この開発コンセプトに基づき、8つの広場を造りました。
メインである「時空(とき)の広場」はドームの下、橋上駅の上にあります。サッカーコート1面分の面積がありますが、OSCのコンセプトを象徴する広場として、カフェテリア以外は何の店舗もありません。われわれもよく思い切ったと思います(笑)。
実際の様子を見ると、大きなドームの下にカフェがあり、ぼんやり座って一日を過ごせるような、ヨーロッパの駅舎でよくある風景になっています。休みの日には子ども連れのご家族が下のホームを眺めている様子が見られますが、われわれの望む通りの使われ方で、非常にありがたい限りです。
もう一つの目玉が、ノースゲートビルの低層部最上層にある「天空の農園」です。果樹園、野菜畑、水田などがあり、農作業の体験イベントを開催しています。作物がきちんと育つことが確認できれば、お客さまに貸し出すことも考えています。
「アトリウム広場」「カリヨン広場」「南ゲート広場」は、自分がどこを向いているのかがすぐに分かる、次に行くべきところが見えるようになっています。交通の結節点の役割を果たす広場です。
最後の「和らぎの庭」「風の広場」「太陽の広場」は、2つのゲートビルの屋上や中間階に設けられポケットパーク的な役割を果たしています。
○駅改良工事
大阪駅の基本構造は昭和10年代の高架駅で確立され、今も健全に機能しています。しかし、現在の乗降客は、当初想定の3倍近い約85万人に膨れ上がっており、いろいろと改良が必要でした。
今回は、高架上に「橋上駅」を新設し、こちらからも乗降できるほか、南北の自由な行き来も可能にしています。工事中はノースゲートビルに確保した40m平方のアトリウム空間で地組みを構築。、躯体を組み立てて夜間、ホーム上方に送り出す作業を5回繰り返しました。「ドーム」の方は、この橋上駅の躯体上に仮設足場を構築し、10m×100mのピースごとに資材を降ろして組み立てました。ノースゲートビル屋上で加工したトラス地組みをクレーンで吊り込み、順々に東西にスライドさせ組んでいったわけです。
もう一つ、重要な改良が構内の線路の配線変更です。大阪駅に集中する多くの線路を整備・統合することで、入出線のカーブをゆるくし、車両の発着をスムーズにするとともに、新北ビルの用地も確保しました。この作業には、改良工事着工から新北ビル着工までの2年余を費やしています。
○新北ビル計画とアクティ大阪増築
「新北ビル(ノースゲートビル)」は、百貨店・専門店・オフィス・トップレストランなど6つのゾーンで構成されています。おかげさまで、14層あるオフィスゾーンも含めて満杯となりました。
一方、「サウスゲートビル」は、既存の「アクティ大阪」ビルに増築をしました。高さ120mの建物に65mの建物を連接する工法は、おそらく日本で初めてです。地震の際、2棟のビルの動きをどう制御するかが大きな課題でしたが、優れた制震技術が開発されたことで、やっと実現した経緯があります。
■OSCならではの新たな取り組みも
○地球環境保全
地球環境保護の取り組みの中では、屋上緑化なども当初想定通りの効果がありましたが、特に有効だったのは、約1.8haの大屋根を利用した雨水利用です。この5、6月は、ほぼ全てのトイレの水を雨水だけでまかなっています。
○新たなプロモーション
OSCというモノにどんなコトを盛り込むのかということで、重点を置いているのが「まちとまちとの交流」「地域との連携」です。おかげさまで、各スペースは予定された企画でいっぱいですし、女性ガイドによるツアー(有料)も好評をいただいています。
さらに、「うめきた」、阪急・阪神・JRとわれわれが一体となり、梅田というまち全体を売り込んでいこうということで、昨年12月に初めて「スノーマンフェスティバル」に取り組み、エリア全体でクリスマス気分を盛り上げました。他にも、普段の掃除や不法駐輪の排除など、地域と一緒になってやる取り組みが大事だと考えています。
○鉄道との連携
アーバンネットワークによる集客を目指し、今年3月のダイヤ改正では、宝塚線や阪和線で大阪直通便の増発や、神戸線・京都線で車両の増結を行いました。また、JR西日本管内や九州新幹線沿線からの来場を促すネットワークづくりに取り組んでいます。こうした連携により、OSCはもちろん、梅田全体に一層のにぎわいが生まれることを願っています。
■「駅ビル」から「駅ナカ」、そして「駅まち」へ
われわれは国鉄時代を通じて、多数の駅ビルを造ってきました。その進化系が昨今、話題になっているJR東日本などの駅ナカビジネスでしょう。
そして、これからは「駅まち」です。駅ビルと駅ナカ、それに街路・広場を合わせたものであり、21世紀の新しい駅の開発のあり方だと思っています。2011年、大阪駅を「まち」にするべく、なお一層のご来店、ご愛顧を賜りましたら幸いです。
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「大阪駅ドーム大屋根について」
蒲ю製鋼所 製造・開発部 マーケティンググループ
グループリーダー 橘 亮太 氏
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資料は当日配布のみです。 |
■厳しい条件下で行われたドーム大屋根工事
ドーム大屋根は「大阪ステーションシティ(OSC)」のシンボルの一つです。この大屋根に当社の商品が採用され、工事を行うことになりました。
実際の工事は、1日約1,500本の電車が動き、約80万人の乗降客が利用するという厳しい条件の中で進められることになりました。ドーム大屋根建設を含む工事全体の作業時間は延べ1,600万時間。200万人以上がこの工事に携わりました。
ちなみに、1日80万人という大阪駅の乗降客数はJR全体で4番目。OSC開業後は85万人になると予測されており、その時点で現在第3位の渋谷駅を抜くことになります。
■当初の計画になかったドーム大屋根
OSCの最初の計画ではドーム大屋根の話はなく、われわれは後から工事に参加する形となりました。計画当初、ドームの素材はハニカムパネルが想定されており、また、トップライトもありません。その後の検討で、「ヨドルーフ200」という折板屋根の採用と、トップライトの施工が決まったわけです。
ちなみに、この「ヨドルーフ200」は、関西国際空港のターミナル屋根用に開発された商品で、きわめて高い強度が求められる建築物の屋根に採用されてきました。今回のような設計基準が厳しい工事には、最適の製品と考えております。
施工検討を行った結果、ドーム大屋根の下に東西架構という骨組を先に施工し、次に南北架構を施工した後、180m×100mのドーム大屋根を施工することにしました。また、荷物や作業資材の搬入には、新北ビル中央のアトリウムを利用することにしました。
■安全と工期をどう両立させるか
今回非常に神経を使ったのは、“営業している線路上空”にドーム大屋根を架設するということです。関西圏の心臓部ともいえる巨大ターミナル駅の工事だけに、わずかな不注意が重大な結果につながります。その結果、小さなミスも許さない非常に厳しい管理体制がとられました。たとえば、現場に入れる作業員は厳しい選別を経た者だけに限られ、作業中の移動も必ず2人以上で行うと決められました。
また、ドーム大屋根のスライド作業(後述)など、走っている列車の上でできない工事は、列車が来ない深夜にやるしかありません。ところが大阪駅の場合、線路が完全に空くのは1 : 30?4 : 00の2時間半のみ。ダイヤが乱れたりすると、さらに短くなります。結局、線路上空での工事については、実質作業時間を1日1時間と想定し、工程表を組み上げました。
こういう厳しい条件の中、安全と工期をいかに両立させるかが、われわれにとって最大の課題となりました。当社では、昼2人、夜2人の常駐体制をとり、4人体制でその対応に当たりました。
■ドーム大屋根の基本施工計画
OSC全体の工事計画によれば、ドーム大屋根着工時点で、現場では橋上駅の架構が終了していす。そこで、施工計画では、この橋上駅上に足場とクレーンを設置。北ビルの屋上でトラスを組み合わせ、クレーンで橋上駅降ろすこととしました。さらに、屋根ピースの地組み・仕上げを橋上駅でしておいてトラス上に吊り上げ、夜間に横へスライドさせる計画になりました。
ドーム大屋根のピースは全長100m。3カ所で異なるアール形状を出します。工場から運搬するのは道路交通法上、不可能という判断で、成型機とコイルを現場に持ち込み、その場で成型することにしました。
組み立てに当たっては、屋根材を3カ所でジョイントする工法を選択しました。漏水は一切許されないという通常以上の厳しいスペックがお客様から課されたので、当社の試験センターで計6回、さまざまな風雨を想定した試験を実施しています。さらに耐荷重試験も行い、問題がないことを確認しました。
なお、今回の施工では、万一の地震を想定して、計20台以上の制震装置を使って、屋根の揺れを吸収する措置が取られているとのことです。大架構物の工事に、このような対策が取られること自体大変少ないそうで、今回のドーム大屋根は震災にも配慮した構造になっているとうかがっております。
■橋上駅でトラスを組み立て、クレーンで荷揚げ
いよいよ、ドーム大屋根本体の工事です。まず、橋上駅の上に設置したクレーンと作業足場を使い、鉄骨トラスを組んでいきました。北ビルの屋上で溶接した鉄骨トラスをクレーンで橋上駅に降ろし、順次組み上げていくわけですが、工事状況がアクティなどから丸見えだったため、非常に緊張感のある作業となりました。同時に幅1.4m、長さ11mの巨大な樋も工場で加工し、水下(勾配の下方)に設置しました。
トラスが組み上がったら、屋根を張っていきます。屋根材を成型する機械とコイル、そして逆アール成型機を現地に持ち込み、成型しては上に送って張るという作業を9ヶ月間繰り返しました。結局、三百数十枚の屋根材を1枚1枚上げては張ったことになります。限られた場所で長い折板材を加工するため、当初はとても苦労しました。
■人海戦術だった逆アール屋根成型
屋根材の成型で、特に苦労したのがアール加工です。大屋根の水下に逆アールをつけるような作業は、雨仕舞や耐久性の問題もあり、普通は行いません。今回は、事前試験を重ねた上、関西国際空港やさいたま新都心駅などの実績データもあったので、施工可能と判断されたわけです。
実際の加工は、“機械でプレスして少し角度をつける”ことを繰り返す、人海戦術的な作業です。成型した屋根材は非常に長くてうねるので、専用の吊具を作り、クレーンで屋根上へ運びました。屋根勾配に合わせて急角度で吊り上げる必要があったため、吊具には滑り止めをつけてあります。また、屋根材を張る面もすべて角度が違うので、ワイヤーの長さで調整して所定の場所へ持っていき、最後は人の手で予定の位置に収めました。この作業を千何回も繰り返したわけです。
逆アールは32mのアールで、近くでみると非常にきついアールであることがわかります。上に立てないくらいの急な傾斜で、よく作業員の方々はここでやってくださったと思います。折板屋根で逆アールのものができたことで、今後使用していただけるバリエーションが増えるのではないかと期待しています。
■屋根の一部が完成すると、横にスライド
ドーム大屋根は片側ずつ造り、屋根材を張った状態で東西へスライドさせます。スライドした後は修正が効きませんので、かなり厳しい品質検査を受けてから端へと送り出していきました。
この間、難問だったのがトップライト回りの作業です。当初想定していなかったガラス製のトップライトが入った結果、屋根を張った後にガラスを入れて水仕舞をする工程が増えました。やったことのない角度で、やったことのない工法を行うことになり、はじめは作業員もこわごわでしたが、経験値が上がるにつれ作業効率も高まり、結局は工期内に完了することができました。
こうして、東西に合計7回屋根ピースをスライドさせ、180mまで広げたところで、真ん中の部分だけが残りました。当然ですが、ここにはスライド工法が使えません。結局、先に作ったピースを、工事済みの屋根の上に仮置きし、人の手で戻すことになりました。高低差30m、まるでスキーのジャンプ台のような傾斜の上で、長さ35mの屋根材を作業員が横持ちして、最後の屋根ぶきを終えたわけです。ドーム大屋根の完成後、メンテナンスができるように点検用の床も設置しました。
終了したドーム大屋根の総面積は、本体約15,500m2とトップライト約2,500m2の計約18,000m2。工事中の就労人員約3,400人。工期は2009(平成21年)12月初旬から翌年9月中旬までの約9カ月間ですが、事前の検討から考えると約2年6カ月という長期間を費やしたことになります。
先ほど、このドーム大屋根はOSCのシンボルであるというご紹介をいただきましたが、われわれとしても、これだけのプロジェクトに参画できて、非常に感慨深いものがあります。全工程を無事故で完了できたことも大きな収穫でしたし、折板屋根の可能性やすぐれた施工性などを実証できた、よいプロジェクトだったと思います。
新北ビル(ノースゲートビル)からドーム大屋根を見ると、我ながらきれいにでき上がったなと思います。今後は、プラットホーム上のスレート屋根をガラス屋根に変える改修工事が予定されています。こちらも、稼働中の駅での工事になるので気は抜けません。最後まで無事故で通し、皆さまのご要望にこたえられるようにしたいと考えています。
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