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第29回
長期優良住宅について
*機関誌「けんざい」掲載分です。ホームページ用に再編集しておりませんのでご了承ください
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「長期優良住宅への取組みと今後に向けての期待」
長期優良住宅先導的モデル事業評価委員長
京都大学
名誉教授 巽 和夫 氏 |
資料は当日配布のみです。 |
「200年住宅」から長期優良住宅へ
現在、長期優良住宅と呼ばれているものは、「200年住宅」から始まっています。「200年住宅」とは、超長期に対応する、質の高い住宅のストックの継承をめざした総合的な取り組みのことです。
戦後は、スクラップ・アンド・ビルドの社会でしたが、今は「持続可能」、「サスティナブル」が言われる時代になりました。よい住宅をつくって長く使おうという方向に、社会が大きく転換しつつあります。
量から質への転換はかねてから叫ばれていました。以前は「住宅建設計画法」(1966年公布)という、年ごとの住宅建設戸数を計画する法律があったのですが、2006(平成18)年に廃止され、「住生活基本法」(2006年公布・施行)という、住宅の質に関わる計画にシフトしました。
「200年住宅」はよい名称だと思います。「200年」にインパクトがあります。「100年」なら想像の範囲内ですが、「200年」だと「えっ?」となります。この「えっ?」がとても大事なのです。200年となると、われわれは当然生きていませんし、かなり将来の話ですから、住宅を造る仕組みをかなり変えなければならないであろういうことがイメージできるのです。
住宅政策の大きな転換が始まる前段階として、「住宅品質確保法」という法律ができました(2000年4月施行)。住宅の性能表示制度の創設、住宅紛争処理体制の整備、瑕疵担保責任の特例がその内容です。
実はこれまで、住宅や建築には、「品質」という概念がありませんでした。自動車でいうスピードや燃費、そういうものが重視されなかったため、住宅の品質におけるさまざまなトラブルが起こっていました。しかし、住宅も品質を明確にすべきだということで、やっとできたのが「住宅品質確保法」でした。これが制定されたことによって、住宅の品質や性能の確保が必要であるという概念が世の中に広まりました。
折しも、住宅政策が公共住宅から民間住宅へ転換されていたこともあり、政策も住宅ストックを重視する方向に移っていきました。「住生活基本法」では、豊かな住生活を実現するための基本概念の確立と到達目標がうたわれました。
「200年住宅」に求められるシステムと施策
長期の使用に耐える住宅を造ることは、建築における大きなテーマです。技術的なことは1960年代から研究されており、私も参加しておりました。内容は、(1)人工土地型集合住宅、長期耐用都市型集合住宅、スケルトン・インフィル住宅など、スケルトン住宅の開発・提案(2)二段階供給方式住宅、都市再生機構(UR)のフリープラン賃貸、スケルトン定借など、住宅供給方式からのアプローチ(3)システムズ・ビルディングやセンチュリーハウジングシステムといった、技術的開発からのアプローチなどです。こうした長期耐用住宅の研究はおおむね「センチュリー」、つまり100年スパンのビジョンです。
一方、「200年住宅」のビジョンは、2006(平成18)年に自民党政務調査会から打ち出され、3、4年で急速に広まりました。2007(平成19)年発足した、国土交通省・UR(都市再生機構)合同による「超長期耐用型の都市住宅とシステムに関する調査」研究会には私も参加し、国交省の社会資本制度審議会で、「長期にわたり持続可能な質の高い住宅を整備・普及させるための方策について」の答申を行っています。
センチュリーハウジングなどの研究は、主に技術系のシステムの話だったのですが、「200年住宅」の場合、それだけで収まりません。200年の間、いかに建物を維持・管理するか、流通システムをどうするのか、基盤・まちなみをどう修正するか。さらには、住宅金融公庫(現・住宅金融支援機構)の融資??現在は35年ですが??などにも、「200年」向けのシステムが求められます。2007(平成19)年に自民党から発表された「200年住宅ビジョン」には、これらの検討を踏まえた12の政策提言が盛り込まれています。
こうした流れを受けて、2006(平成18)年からは政策としての「200年住宅」が動き出し、2007(平成19)年から2009(平成21)年にかけて速いテンポで進んできました。たとえば、2008(平成20)年には、長期優良住宅の認定基準案が策定されましたが、これをベースにした法律が、現在の認定基準となっています。その他、環境整備や省CO2関連のものもありました。
長期優良住宅先導的モデル事業の発足
長期優良住宅先導的モデル事業の趣旨は「『いいものをつくって、きちんと手入れして、長く大切に使う』というストック社会における住宅のあり方について、具体的内容をモデルの形で広く国民に提示し、技術の進展に資するとともに、普及啓発をはかる」というものです。2008(平成20)年春の第1回目以来4回実施され、今年3月には第5回目を予定しています。
第1回目事業で603件もの応募があったのは驚きでした。このうち476件が戸建の新築住宅です。同様の傾向は以降も続いています(図3)。共同住宅への応募が少数だったのは残念でした。もう少し新築戸建以外の分野でも力を出してほしいというのが、事業評価委員の共通意見です。以下、私自身が1・2回目の全体を通して見た個人的な感想を述べてみます。
○提案者について
圧倒的多数が新築戸建部門の応募で、大半が在来木造です。中でも、住宅メーカーが総合的提案を中心に高水準で安定的な実力を示しているのは、さすがといえましょう。
一方、工務店などを中心とする地域の中小建設業者や宅建業者の方々の提案には、今までの技術・経営の立ち遅れを取り戻すための努力を感じました。在来木造戸建の多いことはその表れでしょう。
また、工務店同士がフランチャイズ化やグループ化による全国的ネットワークを組織したり、工務店と設計事務所、工法提案者、建材・材木店などが異業種協業的なネットワークを構成して、提案に参加する例も数多く見られました。モデル事業を続けることで、こうした動きがさらに促進されたり改新されたりして、住宅産業の再編成に大いに寄与していくのではないかと感じています。
○提案の特徴
提案内容は全体として高い水準でしたが、その中で少しでも先導的な個別技術が提案されたものを評価しました。これらの個別技術は、第1回目募集からすべて公開され、在来技術の仲間入りをするようになります。そして、回を重ねるごとに住宅技術水準が全体的に向上しています。これは、われわれが狙いとしていたことです。
ただし、先進的な個別技術だけが評価の対象ではありません。評価の定まった在来的技術を上手に組み合わせ、バランスのよい、欠点の少ない安定したシステムにまとめることも重要です。
一方で、地域に根ざした提案の増加も顕著です。たとえば、地域産材の活用や地域の森林・製材組合などとの連携。また、気候・風土への特性を配慮したり、地域人材のネットワーク化を図ろうとしたり、などですね。地域に根ざした住宅づくりも進んでいます。
これまで提案されてきた個別の先導的技術は多岐にわたります。外断熱工法、通気工法、給水さや管工法、排水ヘッダー工法、床下空間確保、免震工法……などなど、最近では常識になっているものですが、それらを上手に組み合わせているわけです。
本モデル事業の提案がいかに多様な特性を持っているか、模式図で示してみました。中心から1、2、3と、外へ行くほどレベルが高くなっています。耐久性、耐震性に優れた提案もあれば、面積や省エネルギー・バリアフリーの面で優れた提案もあるわけです。すべての項目でレベル2までを満たしつつ、いくつかの点でレベル3も達成している提案を求めています。
○第3回・第4回提案の特色
続く第3回は、去年(2009年)春に実施されました。総合的な提案が増加して全体的な水準は向上しましたが、個性的な技術提案は少なかったです。逆に、「木造等循環型社会形成」分野の提案は大幅に増加しました。林業、製材業、建設業と、建物を造るための一貫した流れを持ったものが“循環型”と考えられますが、そのような提案が全体の3分の1もありました。
第4回(2009年夏実施)の提案水準の傾向は第3回と同様で、新築共同住宅は当初から少なかったものがさらに減少しました。厳しい経済状況の反映と思われます。既存改修は、改修技術の提案のほか、人材育成の仕組み、診断、履歴の保存、流通など、内容的に広がりが見られました。そして、中小事業者の維持管理・流通面での意識が高まったといえます。
持続可能な住宅社会のためのサブシステム構築を
スクラップ・アンド・ビルド型社会から、サスティナブル社会への大転換を図るには、超長期住宅システムの構築だけでは不十分です。「地域建材・技術の活用と循環型地域経済の形成」「地域に根ざす住まい・まちづくり」「所有・利用・管理・流通システム」「住宅金融・税制システム」など、関連する多くの新しいサブシステムをつくる必要があります。いくつかの研究開発がすでに進んでおります。
先導的モデル事業は先進的な技術を活かしてモノをつくる事業ですから、完成されたモノに国は補助金を出します。しかし、持続可能な住宅社会を構築するためのサブシステムには、モノになりにくいものもあります。たとえば「住宅履歴情報整備」などは、個別の住宅の話ではありませんし、「先導的技術開発」も抽象的なものです。これらはモデル事業になじまないので、別途研究する必要があるでしょう。
次に社会住宅システムの研究開発テーマについて、私の考えを述べてみます。
○地域建材・技術の活用と循環型地域経済の形成
これまでの大量生産・大量消費の時代を代表するのが、大量に住宅を造る「住宅メーカー」でした。ところが現在、住宅メーカーの建てる住宅のシェアは減少しており、かつて約20%だったところが14%ぐらいになっています。逆に工務店の住宅が割合を増やしています。時代を反映しているといえましょう。
今は、もっと地域の文化、環境、街なみに調和するような住宅を造っていかねばなりません。そのひとつに、国産材で木造住宅を造るという考え方があります。7、8割も使っていた外材を国産材に変えると、計画的、安定的な利用が行われ、採算面でもちょうどバランスがとれて、外材を使う必要がなくなります。
私自身はこれをさらに進め、中低層の集合住宅も木造住宅化すべきだと考えます。木材は人間の生活によくなじみ、再生可能で、地域で循環できます。その際、林業、製材、建設、リフォームなど、タテのフローの木材産業システムを構築することが重要です。
地域産材というと木材ばかりが注目されますが、他にも多種多様なものがあり、これを建築や住宅用途に開拓することも課題です。たとえば芸術品である和紙、織物、陶磁器などを住宅にも使えないだろうかと思いますね。「京都こだわり住宅」というものをわれわれで造ってみたのですが、西陣織の裂地(きれじ)を天井に、清水焼のタイルを壁に貼ったりしています。こうして、ポイント的に使うだけでも住宅が映えるのです。今後は、家の壁に簡単に貼りつけられるような清水焼のタイルや、タペストリーとして飾れる西陣織を、京都のお土産にすればどうかと考えています。
そういう意味では、建築材料を瓦やコンクリート、金属材料などに限定するのではなく、もっと幅広くとらえることが大事ではないでしょうか。各地域のさまざまな産物を住宅に使ってみる、いわば地域産品の建材化を図るべきです。地域で作られたものをそこで使うだけでは量的な消費は難しいですが、お土産として買って帰ってもらったりすると、消費は拡大します。地域間の連携を図って、地域建材を利用し合えば、相互に需要量を拡大させ産業化を促進できるのです。
○地域に根ざす住まい・まちづくり
地域に根ざす住まいやまちづくりとはつまり、設計、生産、管理、流通……などが一貫した住まいづくりを、その地域のなかで考えるということです。
その中には、過密・老朽・低質住宅市街地の再生や危険な住宅の解消も含まれます。たとえば、京都は文化財が多く景観も優れた地域ですが、それはあくまで“表の京都”。戦災を免れたため老朽化した住宅が多いというのが“裏の京都”の姿です。住宅を建てるには、幅4m以上の道路に2m以上接している必要がありますね。ところが極端な例では、3mに満たない道路ならぬ“通路”が160mも続いて行き止まりになっている上に、周りは崖というようなところがあります。災害が起こったら大変です。
このような、早く手を打たなければならない場所は、日本の各地にたくさん残っています。人口減少の結果、増えている空き地や空き家を上手に利用して、地域の人口密度をもっと下げて、安全で住みやすい住環境を創る工夫が必要でしょう。
景観面では、中高層マンションや大規模団地、工業化住宅など、“外来種”ハウジングの問題があります。これらの住宅が大量供給された結果、各地の住景観は個性を失い、どこも似たような風景になってきました。これらを地域化する努力が必要です。
さらに、地域に根ざす担い手の育成という課題もあります。病院でたとえるなら、大病院ではなく町のお医者さん的ポジションで住宅の面倒をみる存在が、これからの地域には必要です。
たとえば、居住者やNPOと、“まちなか建築家”というべき地域の建築士事務所、大工・工務店、建材・設備店とのネットワークをつなげてはどうでしょう。新築だけでなく、あらゆるレベルの住宅リフォームやコンバージョンを行なうためには、幅広いアプローチが必要です。こういう場合に、居住者を取り巻く地域の住まいの担い手らが、きめ細かく面倒をみていくわけです。
○所有・利用・管理・流通システム
東京では、マンションが超高層化・大規模化していますが、将来の建て替えはおろか、大規模修繕すら容易ではないでしょう。15年前の阪神・淡路大震災で倒れたマンションでさえ、最後のものの建て替えが去年やっと終わったばかりです。完全に倒壊した建物でこれですから、老朽化のための建て替えに何百人もの人々が合意できるとは、私には到底思えません。
これは、マンションという区分所有で建物を「持つ」こと自体が矛盾しているのです。集合住宅はやむを得ないですが、長期優良住宅の時代に応じた新しい所有・利用・管理の形態の構築が急がれます。
超長期住宅のストックは、数世代にわたり「住み継ぎ」されます。長期間、良好に住み継がれるための、流通と管理のシステムが構築されるべきです。
○住宅金融・税制システム
よいものをつくるには余計に初期投資がかかるため、それを何とかカバーしたいものです。初めの費用が2、3割増しになったとしても、後で高く売ることができるのが本来のあり方でしょう。一方、当初の負担を軽減するための公的融資も考えられます。
次に、固定資産税などの税制の問題。高額なものを造ると税金も高くなる。すでにこれが矛盾です。高いもの、よいものを造らない方向に行ってしまうからです。建築物で社会資産的な性質を持った部分、つまりスケルトンを非課税にして、私的資産的な部分、つまりインフィルだけに課税することにしてはどうだろうかと私は考えます。とりわけ、集合住宅化している社会では、躯体はその社会全体の資産といえるものです。非課税にすることで、どんどんよいものにしていく必要があると思います。
通常住宅(50年)と超長期住宅(200年)の投資・資産変化を、200年スパンで比較してみました。通常住宅では、初期投資を1として50年で価値0(100%減)になるというサイクルを4回繰り返すことになります。長期優良住宅の場合、初期投資が通常の0.2増、50年後の価値は30%減にとどまるとし、そのたびに0.2の追加投資を行うものと仮定します。これで、200年後の総投資額と価値を計算すると、通常住宅では総投資額4、価値0(減価100%)、長期優良住宅では総投資額1.8(=1+0.2+0.2×3)、価値0.6(減価40%)という違いが出てきます。もちろん計算上の話ですが、こうした仕組みも検討していかねばならないと思います。
これからのモデル事業に期待されるもの
先導的モデル事業は相当の成熟をみており、徐々に普及過程に入っているようです。新たな提案は減少していますが、まだまだ検討材料はあります。
たとえば、居住者参加によるDIY型維持管理やリフォームシステムの構築です。この種の提案はあまりなかったのですが、一方でDIY関連製品を扱う店は増えています。より普及させるには、プロでなくとも簡単に扱える建材や道具が必要でしょう。同時に、インターネット活用の可能性も検討できそうです。
また、スケルトン賃貸、設備・インフィルのリースシステムのビジネスモデルを検討してはどうでしょうか。冷暖房はもちろん、太陽光発電、燃料電池、エレベーターなど、最近の住宅はますます重装備化しており、金額負担も大変なものです。だからもっとリースを活用すべきだと思うのです。
その他、木材利用循環システムの徹底化や地域特性(気候・風土、歴史・文化、産業・経済、生活・慣行)への適切な対応なども課題です。
モデル事業全体に期待したい点もあります。たとえば、第1回では600を超す応募がありながら、実際の採択は40件で、残りの提案は“討死”です。あまりにもったいないので、これらを分析し住宅産業の構造的解明に活かせないものかと研究しております。
また、技術・事業の開発力を必要としている地域への支援も必要です。たとえば、北海道には寒冷地住宅の研究センターがあり、十分な技術があるのに対し、沖縄の蒸暑地向け住宅の開発力は少し足りない。こういう場合、大いに沖縄を応援しようではないかということです。
こうして得た技術は、沖縄の支援にとどまらず、インドネシアやベトナムなど、東南アジアでも応用可能です。事実、ベトナムからは技術支援の問い合わせがきています。日本の量産技術は、国内ではもう通用しないかもしれませんが、中国や東南アジアでは、まだまだ大量の住宅供給が求められています。そこで、気候・風土などが似通っている沖縄で研究開発を行ない、技術を輸出する。こうした試みを通じて、ストック時代を迎える住宅産業像を創出していこうではないかと考えているわけです。
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「長期優良住宅マンション事例報告」
樺キ谷工コーポレーション 技術推進部門
執行役員 河村 順二 氏 |
資料はこちら(PDFデータ) |
長期優良住宅の認定基準について
共同住宅(マンション)の長期優良住宅の認定基準は、以下の6つに大別されます。各認定基準は、主に住宅性能表示制度の等級で定められます。
1)構造躯体の耐久性/耐久性等級3(最高)に加え、水セメント比45%以下もしくは、50%以下プラスかぶり厚1cm増。
2)住宅の耐震性/免震建築物もしくは耐震等級2など(震度6程度の地震でも倒壊しないレベルが耐震等級1、その1.25倍のエネルギーの地震にも耐えられる水準が等級2)。
3)変化に対応できる空間の確保/躯体天井高2,650mm以上。
4)維持管理の容易性/維持管理対策等級3および更新対策等級3(専用および共用の配管を、内装に極力影響を与えることなく、また内部に入らず外からメンテナンスや更新ができること)。
5)長期利用される構造躯体が対応すべき性能/省エネ対策等級4(省エネ性)、高齢者対策等級(共用部分)3(バリアフリー対応)、まちなみ景観への配慮など。
6)計画的な維持管理/長期で適切な修繕計画策定。
先導的モデルの提案趣旨と内容について
当社では、2008(平成20)年の第1回「長期優良住宅先導的モデル事業」に応募し、採択されました。これは、長期優良住宅の基本性能を確保しながら、分譲モデルの事業化を図るための提案で、「コンクリートのひび割れ低減技術」「高耐久ステンレス共用配管システム」など6項目があります。
以下、今年1月から東京と大阪で分譲中のプロジェクト(「ブランシエラ浦和」「ブランシエラ吹田片山公において、購入される方々に当社の取り組みを理解していただくよう作成された『建物語』というガイドブックを参考にご説明します。このガイドブックでは、長期優良住宅マンションの特徴を4つのカテゴリーに組み替え、長期優良住宅認定基準と先導的モデル事業技術をはじめとする当社の技術を説明しています。
○長持ちする丈夫なマンション(耐久性・耐震性)
温度変化や乾燥・収縮によるコンクリートのひび割れは、雨水の浸入→鉄骨の錆びを経て、構造躯体の大きなクラックにつながりかねません。ひび割れ防止は、耐久性向上の必須条件といえます。
そこで当社では、水和発熱の小さい低熱ポルトランドセメント(対「温度ひび割れ」)および混和剤(対「乾燥収縮ひび割れ」)によるひび割れ低減対策を提案、先導的モデル事業に採択されました。技術研究所でも多数の試料を使って実験を繰り返し、期待通りの性能を確保できたと思います。
○メンテナンスへの配慮(維持管理・更新性)
長期の維持管理におけるポイントは、給配管です。当社プロジェクトの共用給水配管に用いているステンレス管の期待耐用年数は200年以上とされていますが、継手やバルブは30?40年の耐用年数しかありません。そこでステンレス管について、住戸間に2カ所の「ハウジング継手」を設け、コンクリートをはつらなくとも配管の更新を可能にするとともに、工期の短縮、工事騒音の減少、コストダウンも実現しました。
また、設備配管については、ある住戸の配管が他住戸の専用部分にないこと、配管が床や壁の貫通部などを除いてコンクリートなどに埋め込まれていないこと、などを基準とする維持管理対策等級3を取得。共用配管はすべて住戸外に設定しています。
一方、更新性の面では、外装(クラディング)システムで非構造壁にALCパネルを採用。構造体に影響を与えないような架構とし、設置についてはボルトを使用するため、将来の更新工事も容易です。
○未来の住み心地への対応(可変性・快適性)
将来の間取り変更のしやすさを考え、二重床の施工には、オリジナルの「床先行工法」を採用しました。これは、二重床を施工した後、その上に間仕切り壁をつくる方法で、間仕切り壁の固定後に二重床を施工する「壁先行工法」に比べて、間取り変更をするときに床仕上げ材を補修するだけで壁を移動することができます。同時に、かねてより課題であった遮音性能も確保しました。
また、収納家具を間仕切りとして活用する「可動間仕切り収納壁」も採用。家族構成に応じて空間を好きなときに自分で変えることを可能にしています。
一方、水回りの可変性については、キッチンに大幅な自由度をもたせる一方、風呂・洗面などは一定のゾーンの中での可変性にとどめています。これは、下階住戸の防音・遮音面からの判断です。
○建物の価値の継続(維持管理計画・アフターサービス)
従来より大幅に保証期間を延長した長期アフターサービスと、定期点検の一層の強化を特徴とする「長谷工プレミアムアフターサービス[L]」を導入。アフターサービスの強化を図っています。
なお、これらの内容は、各プロジェクトの販売センターでも展示中です。また、夫婦2人住まいから始まり、赤ちゃんが生まれ、さらにひとり増えてそれぞれ成長して小学生になり……といったライフスタイルの変化に応じた間取り変更についても、可動間仕切り収納壁を活用してシミュレーションしていますので、興味のある方はご見学ください。
今後の課題として、たとえば世代を超える使用を見据えた修繕計画の策定、住宅の定期総合診断の確立などがあります。また、住宅履歴情報の作成・保存システムの確立、住まいを継承していくためのシステム整備、維持管理に関する入居者への意識啓発なども大きな課題です。長期優良住宅は非常に大きなテーマで、考えるべき内容も多岐にわたるため、当社グループでも総力をあげて、さらなる技術開発とシステム構築を図っていきたいと考えています。
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「戸建住宅での長期優良住宅への取り組みについて」
積水ハウス
技術部長 内山 和哉 氏 |
資料はこちら(PDFデータ) |
お客さまにとって「長期優良住宅って?」
長期優良住宅とは、今まで以上に長く住み継がれ、しかも性能がよい住宅であり、まちなみとの調和や長期維持管理計画、「住まいの履歴書」作成なども含む仕組みです。当社では、そのメリットを100年間のシミュレーションで想定し、お客さまとともに長期優良住宅を考えていけるようお話しています。
たとえば、5?10年後のメリットは、手入れが簡単であることです。長持ちするよう建てるわけですから、すぐに修繕や交換が必要にならないということです。
15?30年後のメリットは、家族や暮らしの変化に柔軟に対応できること。そのために、家具の移動や間仕切りを容易に変更できる工夫があります。
40年後になると、家族構成が大きく変わってしまうため、大規模なリフォームも必要となるでしょう。その際、役立つのが、平面図、立面図、設備仕様、メンテナンス情報などが記録された「住まいの履歴書」です。ここに記載された情報をもとにリフォームを行いその結果をまた書き込んでいくことで、長期にわたって住み継ぐためのデータベースが生まれます。
さらに60年後には、住まいの転売も視野に入ってくるでしょう。その際、築60年でも資産価値の確かな家であることをどう証明するか。その証明には、品確法の評価書や、今回新たに加わった「住まいの履歴書」が役割を果たすことでしょう。いずれは新築・中古を問わず、長期優良住宅認定制度や品確法などに基づく住宅の資産評価が全国的に進むと思われます。
そして、100年後。個々の住宅は長く使われて愛着のある家となり、そのような住宅が普及したまちなみは、さらに魅力を増しているでしょう。その動きは、次の100年にも受け継がれていくと思われます。
長期優良住宅認定制度への対応
長期優良住宅では、住宅ローン減税や各種税制、ローンや保険などの優遇措置があります。中でも、ローンを組まない場合にも減税が受けられる投資型減税の創設は、今回初めて実現したものです。
これらのメリットを受けるには、住宅性能や居住面積、住宅履歴書作成、維持保全計画などについて一定の認定基準をクリアする必要があります。ここでは戸建住宅に関する当社の対応のうち、「耐久性」「耐震性」「省エネルギー対策」「維持保全計画」について、関連する住宅性能表示制度の内容もからめながらご紹介します。なお、当社が請負う戸建住宅は、約8割が長期優良住宅に認定されています。
○耐震性/耐震等級3(最高)
当社では、長期優良住宅認定制度以前から、最高等級3を標準仕様としています。鉄骨造では、従来の耐震構造だけでなく、シーカス(SHEQAS)という制震構造を用いて等級3を満たす仕様もあります。一方、当社の戸建住宅の約2割を占める木造住宅においても、耐震等級3を標準仕様としています。
○耐久性/劣化対策等級3(最高)
劣化対策等級3では、床下換気や通気性の確保が求められます。また、木造の場合、メンテナンスのための点検口確保も必要です。
○省エネルギー対策/省エネルギー対策等級4(最高)
いわゆる「次世代省エネレベル」をクリアするために、断熱外壁や遮熱断熱ペアガラスサッシなどを使っています。この種のサッシの性能は年々向上していますが、高齢者の方などには重すぎる恐れもあり、軽量化の工夫も必要かなと感じております。
○維持保全計画
30年を超えるメンテナンス計画書をお客さまにお渡ししているほか、アフターサポートのための組織を全国に設置。多くのメンバーと仕事を進めています。
長期優良住宅先導的モデル事業の採択内容から
当社では、このモデル事業にも積極的に参画しています。ここでは、いくつかの採択事例をご紹介します。
○まちなみ分譲モデル・提案住宅モデル(2008年度第1回)
長期優良住宅の標準仕様に太陽光発電や高効率給湯器などの「+α仕様」を盛り込み、同時にまちづくりにも配慮したものです。
「+α仕様」のベースは、居住時のCO2排出量の60?80%削減を目指す当社の「グリーンファースト」モデルです。さらに、燃料電池などを加えた「グリーンファーストプレミアム」モデルでは、100%削減を達成し、実績を挙げております。
また、まちづくりの面では、「環境」「生活」「タウン」「経済」のマネジメントを軸とした「まちづくり憲章」、地域の生態系の保全・育成や良好な景観形成をまちづくりに活かす方策として、“3本は鳥のために、2本は蝶のために、日本の在来樹種を”植栽する「5本の樹」、外部環境との“つながり”のルールを体系化した環境共生型まちづくりデザイン手法の「n×豊か」の考え方を参考に、長期的なまちなみの美観維持を考え、陶版(木造住宅)や超親水性外壁を用いた「高耐久外壁」などを盛り込みました。
○住まいの愛着モデル(2009年度第1回)
住まいをより深く広く知っていただく「Webすまい塾」、参加型イベントによる「住まいづくり体験」やなじみ深い国産材の使用など、愛着を持って長く暮らしていただくための多彩な取り組みを提案しました。
○フルスケルトン再生モデル(2008・2009年度)
お客さまが積水ハウスを売却される際、当社がいったん買い取り、骨組みは残しつつ中身はすべてリニューアルした上で(フルスケルトン再生)、次のお客さまに購入していただく仕組みです。既存ストックを長く住み継ぐビジネスモデルとして、今後ますます求められるのではないかと考えています。
今年、創立50周年を迎える当社は、すでに200万戸の住宅をお届けしてきました。今後はさらに、「長期優良住宅認定制度」「先導的モデル事業」「アフターメンテナンス体制」「オーナー住宅買取事業(エバーループ)」を発展させ、長期優良住宅の普及と流通市場育成を目指していきたいと考えています。
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