2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
ホーム お問合せ
会員団体出展者専用ページ 協会の概要 会員名簿 業種別名簿 品目・業種別分類表 統計資料 関連リンク
建材情報交流会ニュース
 第23回
“快適空間” 人に優しい室内空間を創る最新動向

*機関誌「けんざい」掲載分です。ホームページ用に再編集しておりませんのでご了承ください
  
掲載情報は全て著作権の対象となります。転載等を行う場合は当協会にお問い合わせください。

 

「住宅の健康性を再考する」
 近畿大学 理工学部 建築学科 准教授
  建築環境系 建築環境システム研究室
  岩前 篤 氏

資料はこちら(PDFデータ)

■キーワードは「健康」「高耐用」「省エネ」
 住まいの基本は雨露をしのぐ「シェルター」から出発しています。ただ、これだけのものに止まっていたら、私たちの住まいは今の形にならなかったでしょう。
そこに、「次世代を育む」という機能が求められ実現されることで、住まいは文化を具現化する存在として変化してきたのではなかろうか、と思います。
 現在においては、「生命と財産の保護」というのは住まいの大きな基本です。健康と財産を守ることが非常に大事なことでありまして、90年代以降、地球環境問題などとともに資源・エネルギー・廃棄物の問題が出てきました。これから先、おそらく「健康」と長く使い続ける=「高耐用」、そして「省エネルギー」という3つのキーワードがワンセットになって長い間続くと思われます。(図1)
 「健康」ということでは、たとえば、シックハウス症候群の問題があります。1990年代に「住原病」という言葉が出てまいりまして、私は当時ハウスメーカーに勤めておりましたから、非常に恐ろしい言葉として受け止めました。かつては、化学物質がその原因とされましたが、今は、カビや温度差、あるいはストレス、こういったものがもとになって、病気の原因となっていると考えられるようになった。「シックハウス症候群」の意味合いが少し変わりつつあります。
 一方、「高耐用」「省エネルギー」というキーワードは、非常に大きな背景を持っております。たとえば建材について見ると、海外との力関係の中で日本の材料は動いている。ましてエネルギーとなると、お金さえ出せば手に入るというものではなくなってきています。これは、食料についてもいえることです。
 エネルギー問題や食料問題の背後には、人口という要素を考えておく必要があります。18世紀の産業革命以後、人口が加速度的に増え、65億人にもなった結果が、いろいろなひずみの原因にもなっている。地球環境問題も、こうしたことをふまえて考える必要があるのではないか、と思います。

■住宅は今後、どこへ向かうか
 住宅について考える場合、正確な現状認識が意外に難しいということをまず考えておく必要があるだろうと思います。
 たとえば、正倉院の校倉造について、非常にすぐれた調湿機能をもった構造だとされてきましたが、データ的にはあれが特にすぐれているという傾向は全くありません。にもかかわらず、校倉造はすぐれた構造だという風に思っている人は、今でも多いわけです。
 同様に、日本の住宅のイメージも実際とはかなりズレがあります。よく、日本の住まいは高床式住居から寝殿造り、武家造りへと発展してきたと言われますが、庶民の住宅はむしろ竪穴式住居から壁付き竪穴住居、接地住居と発展してきたと考えられます。
 次に、今後の住宅の方向性ですが、私なりに整理した図をご紹介します。ちなみに、横軸は「ゆらぎ」と「安定」です。住まいはだんだん、ゆらぎから安定の方向へ向かっているということを示しています。縦軸は「保温」と「排熱」、あるいは冬と夏と読んでいただいてもいいと思います。(図2)
 図の右上のゾーンにある「保温」と「安定」、つまり欧米の技術を利用した高断熱高気密化を目指す流れ、ベクトルα(省エネ基準指導)からベクトルβ(世界基準)というのが、ひとつの大きな流れとしてあります。もうひとつの流れは、「保温」と「ゆらぎ」の方向ですね。たとえばパッシブソーラーハウスのような、つまりベクトルγ(Bio Climatic)の住まい、あるいは伝統的町家のような、より自然に近いけれど、住む人がガマンをしなければならないベクトルγ’の方向性も考えられる。大体、この3つに集約できるのではないか。この図は10年ほど前に描いたものですが、そんなに外れていなかったというのが、今の感想です。

■住宅の「現在」をとらえるためのポイント
 現在の日本の住まいをとらえる上で、いくつかのポイントがあります。それをこれから概観してみます。
●住まいづくりのキーワード
 戦後住宅の最初のキーワードは「健康」でした。きれいな空気、きれいな水、きれいな住まいというレベルのものです。1970年代に、日本の家は「ウサギ小屋」だと海外から言われるようになって、これは80年代の「快適」志向となって表れます。さらに、90年代以降には、「利便性」がキーワードになっています。
 ただ、エネルギー消費の問題、地球環境の問題などがクローズアップされる中で、再び「健康」が見直される状況になってきているのではないかと思います。
●世帯構成
 2005年(平成17)のデータでは、4人家族以上の世帯は全体の二十数%。個人的には、非常にショッキングなデータです。ちなみに1970年代は、日本の世帯の半分以上が4人家族以上でした。(図3)
 したがって、住宅の商品開発やイメージ、省エネ基準などを考えるに当たっても、従来の4人家族イメージはそろそろ変える時期ではないかと思います。
 2006年(平成18)現在、日本全体の平均世帯人数は2.55人です。よく1人世帯が増えているといいますが、むしろ2人家族が非常に多くなっているのが、現代の家族の特色かもしれません。
●住宅の寿命
 アメリカの住宅が100年以上、フランス・ドイツが80年近くもつとされるのに対し、日本の住宅の寿命は25〜30年といわれています。よしあしはともかく、非常に短いということは間違いありません。
 また、誕生(建設)から死亡(廃棄)までのライフサイクルエネルギーを試算してみると、部材を作るエネルギーが結構大きなウエイトを占めることが分かります。一度造った家はできるだけ長く使わないと、世の中全体ではムダになるということです。
●エネルギー消費
 住まいのエネルギー消費量は、基本的に増加傾向です。増えている内訳は、家電関係。パソコン、プリンターや携帯電話などの使用によるエネルギー消費です。
 京都議定書では、この量に相当するCO2を基準年換算で6%下げなくてはいけません。パソコンやテレビなどで削減できる量は少ないですから、暖房や給湯といったベーシックな部分での省エネが大きな意味を持つと思います。
●暖冷房エネルギー消費の抑制
 過去約10年ごとに省エネ基準がどんどん変わってきていて、高断熱・高気密化という方向になってきています。ちなみに、大阪あたりの気温をモデルに、年間の暖房費をシミュレーションしてみますと、30年前に5万円弱かかっていた暖房費が、同じ生活をしても今なら2万円強ぐらいに低下しています。
●自然室温の上昇
 断熱による省エネは、自然室温の上昇を招きます。これも、大阪付近の気温をモデルに、戸建て住宅の1階トイレの自然室温をシミュレーションしてみますと、30年前の旧基準と次世代基準+αの高断熱仕様ではだいたい5℃の差が見込まれます。それだけ、住宅の快適性が上がってきているわけです。(図4)
●断熱仕様とコスト
 暖房費が節約でき自然室温が上昇する断熱化は、非常にメリットが多いのですが、実際にはなかなか進まない。特に、大阪は全国で一番遅れているようです。
 そこで、暖房断熱についてのコストをいろいろ試算してみると、基準となる1980年(昭和55)に比べて、断熱コストは80万円程度の増額です。一方、暖冷房費は年間約3万円の節約になりますから、単純計算では30年ほどでイニシャルコストが回収できる。NEDOや環境省による3分の1助成などを使うと、20年程度で回収できるという計算です。
●気密性の向上
 いろいろ議論がありますが、住宅の気密性はどんどん進んでいます。かつての住宅はC値が7〜20ぐらい。京都の伝統的木造住宅ですと30〜50ぐらいという数字になりますが、最近の住宅では2以下、あるいは1以下という数字が普通に出てくるようになりました。

■結露のある家は不健康か
 さて、住まいの健康という話ですが、ひとつご注意いただきたいのは、カビであれ結露であれ、何かがあるだけで不健康だという考え方は、おかしいのではないかということです。
 たとえば、私の専門である結露です。よく結露がいけないといわれる。しかし、なぜいけないのか、ということは、実は専門家の間でもよく分かっていません。たとえば、窓ガラスが結露したからといっても、雨に濡れるのとどう違うのか。壁体内結露にしても、耐久性の観点などいろいろなものを問うた上でなければ、軽々には判断できません。
 結露で家が腐るという意見もありますが、これも実は問題です。ここ10年ぐらい、いろいろな木を濡らして腐らせるという実験をやっているのですが、含水率40〜70%を保った試験体は、だいたい100日ぐらいから腐朽菌が発生して、木がボロボロになっていく。それ以外の、含水率40%未満の試験体と70%以上のものは、200日後でもどうにもならない。そういうデータが得られています。
 一般的な状態では、結露程度で含水率40%を超えることはなかなかありません。つまり、結露程度の水分では木は腐らない、非常に腐りにくいということです。

■カビのない家は健康か
 カビについても同じことが言えます。大阪市立環境科学研究所の浜田信夫先生が、過去何十年間か住宅のカビを追跡調査されたデータがあるのですが、それによると、私が生まれた1960年ごろは、住まいのカビはきわめて多かった。それが、過去15年ぐらいから激減している。この時期は実は、シックハウスが問題になる時期とほぼ重なっています。
 その後、2003年以後、住宅内のカビは再び増え出していますが、この年は住宅のホルムアルデヒド対策、シックハウス対策がとられた時期です。
 ここから分かるのは、カビの少ない住まいは結構なように見えますが、カビも生えないような家に住んでいるという解釈もできるということです。それが果たして健康なことかどうかはかなり問題でしょう。
 住宅のカビについては、ほかにもいろいろな相関関係があります。たとえば、暖房をしている部屋よりもしていない部屋、結露している部屋、夏なら毎日、開け閉めして換気している部屋の方が、有意にカビが多い。逆に、夏いちばんカビが少ないのは冷房頻度が高い部屋です。冷房によって湿度が下がるためですが、だからといって冷房をガンガンかけると、これは省エネルギーに反します。
 結局、湿度にしてもカビにしても、あるいはダニなどにしても、妥当な量というものがあるわけです。カビをなくす、というのではなく、一定の限度内で共生する方向を考えていかないと、本当に健康な環境というのは実現できないのではないか。カビが問題だから化学製品や防カビ剤をどんどん使う、あるいは冷房をガンガンかける。そういうことの結果が、シックハウスでありエネルギー消費の増加です。そのまま続けていけば、最後はクリーンルームのようなところでしか人間は住めなくなってしまう。そういう際どいところに、私たちは来ていると思います。

■室温上昇と冬季の死亡率の意外な関係
 では、省エネ時代の健康な住生活とはどういうものか。たとえば、室温を例に考えてみたいと思います。
 日本人は夜、寝る前に暖房を切る生活にあまりにも慣れています。このため、室温は一日の間で上下する。ちなみに、これは世界的には非常にレアなケースです。ヨーロッパや北米、韓国などは暖房を入れっぱなしで、室温も一日中ほとんど変わりません。
 こうした室温の変動と死亡者数には明確な因果関係が見えます。つまり、夏は少なくて冬が多い。厚生労働省のデータを調べてみると、夏と冬の死亡者数の差は、1月だけで約20,000人になります。(図5)
 昨年からはさらに、神戸市の救急搬送データをいただきまして、細かい研究をしています。私が注目しているのは、寝室の温度との関係ですが、これもやはり冬場の方が出動要請は増える傾向があります。
 そこで、このデータに気象庁が出している気温データを重ね、さらに、気温と室温の相関関係についてのモデル式を関連させ、数学的・確率的に処理しますと、相対的な事故発生率が出てきました。だいたい室温が1℃低下するたびに、事故相対発生率が0.05〜0.06%程度増加するという関係があることが分かりました。
 これはどういう数字かということですが、仮にこのデータを日本全国に適用できるとして、冬場の寝室の室温を12℃に維持できるとすれば、救急車の出動件数が全国で3万〜4万件減るということです。もちろん、この数字がどこまで妥当かという点は、まだまだ研究が必要です。

■「省エネ」「高断熱」「高気密」の住宅開発を
 今後の住宅の健康性を考えた場合、私自身はさらに省エネ・高断熱・高気密という性能を高めていく必要があると思います。
 すでに海外では、私たちの先を行っています。スウェーデンでは、「無暖房住宅」が公的住宅でかなり広がっていますし、ドイツでは年間暖房エネルギーが1uあたり灯油1リットル以下という「1リッターハウス」に取り組んでいます。フランスのサルコジ大統領は昨年11月、2020年までにフランスの新築住宅は全部「エネルギーポジティブ」にする、つまり使うエネルギー以上のエネルギーを作る家にするという声明を出し、欧州に大きな衝撃を与えました。
 ドイツの「1リッターハウス」や「3リッターハウス」では、大規模な実証実験をやっております。海外では、こういう大規模な先行投資、技術開発を企業が中心となって元気よくやっています。一方、最近の日本では、こういうトライアルが見られないようです。
 しかし、日本でもできることはあります。たとえば、既存住宅の部分的な断熱改修です。家全体でなくても、使う部屋だけでも断熱改修を行う。実際の外気温と寝室の室温データをご紹介しますが、改修前と後で室温がまったく違うことがお分かりいただけると思います。いくつかの問題はありますが、非常にコスト効率、エネルギー効率が高い。国もこういう方面に助成するといったシステムが必要だと思います。(図6)
 もうひとつ、できそうなのに行われていないのが、「ベース暖房」という考えかたです。室温を20℃とか25℃に保つのではなく、寒さを感じない15〜18℃程度に維持する。それでも寒い場合は、ストーブなどの採暖装置で補えばいいという考えかたです。(図7)
 今、国の方では「200年住宅」プロジェクトが動き始めました。そうした時代に求められる対応としては、●機械や設備による解決にあまり依存しない技術●建て替えではなくリフォームを生かした環境改善●安易な利便性に依存しない生活、といった点が重要であろうと思います。部分断熱やベース暖房のように、省エネはできることからコツコツ進めていくことが大事だと思います。
 最後に、日本の建築を変えてきたのは、やはり建材です。塗料、部材、サッシなどの建材が新しくなることで、建築も変わってきたわけです。そういう流れが最近、少し見られないのは個人的にはやはりさびしい。建材に関わっておられる皆さんには、問題意識に基づく新しい建材をぜひ開発していただきたいと願っております。


「快適な住環境づくりに貢献する健康建材」
 鰍hNAX総合技術研究所 材料技術開発室
  渡辺 修 氏

資料はこちら(PDFデータ)

■なぜ、機能性タイルなのか
 歴史上いちばん古いタイルは、古代エジプト・ジェセル王の階段ピラミッドの地下空間にあった緑がかった青いタイルです。今から四千何百年前にもう、こういうものがあったわけです。
 現代のタイルは、ここから始まっているわけですが、特に発展した要因としては、イスラム教が世界に広がったことがあります。イスラム教では、偶像崇拝が禁じられていますが、その代わりにモスクをタイルで装飾することが古くから行われました。これがヨーロッパに広がり、さらに産業革命で工業化されることで、世界に普及していきました。わが国では明治以降、西洋建築とともにタイルも輸入されたわけです。
 ここでタイルの機能をご紹介しますと、ひとつは建物の保護材。外壁や内部に施工して、建物自体を保護します。何千年経てもびくともしないという、すぐれた耐久性を発揮します。もうひとつの機能としては、意匠性が挙げられます。日本では、室内用タイルは主に水回りに使われてきたという経緯がありまして、意匠材としてよりは耐久性などの機能に重点が置かれてきました。
 ちなみに、世界的なタイルの消費は、ここ10年間でどこも増えています。特に、中国は8倍に急増しました。今や中国は世界一のタイル生産国です。
 一方、日本では、この10年間のタイル生産は半減しています。逆に、輸入タイルは増えており、2000年(平成12)では全体の約4分の1を占めています。国産タイルよりもはるかに安く、品質も向上していますから、輸入タイルはどんどん伸びています。
 こうした状況の中で、価格ではなく機能で輸入品に対抗する方向性が打ち出されました。その中で生まれたのが、調湿あるいはVOC吸着性のタイルです。

■調湿性タイル〈エコカラット〉の誕生
 タイルで調湿という発想が生まれたのは、今から15年ほど前です。日本の気候風土は、夏季に高温多湿でカビが生えやすい。カビの胞子は、シックハウスの原因ともいわれます。一方、冬は居住空間が乾燥傾向にあり、加湿器などがよく使われている。こういう状況を、タイルで改善できないかと考えたわけです。
 居住空間の湿度は、炊事や入浴、冷暖房のオン・オフなどで、1日の中でも変動します。梅雨時や冬の乾燥のような、年間を通じた変動もあります。
 こうした条件を考えると、調湿材料には2つの要件が求められます。ひとつは、吸放湿する容量が大きいこと。十分な湿気を吸着し、あるいは放出することです。もうひとつは、応答速度が速いことです。(図1)
 この2つの条件を満たすために、私たちが考えたのは大きさの違う細孔構造を構成することでした。湿気を吸着するのはそれに見合った小さな孔であり、そこまで湿気を導くのは大きな孔です。材料の中にこれらの孔をできるだけたくさん造ることで、目的を達成できると考えたわけです。ちなみに、今回私たちが目指したのは、湿度50〜90%で湿度を吸ったり吐いたりする材料です。そのためには、2〜13nmの大きさの孔(メソボア)を用いる必要があることが分かりました。
 この目的に合う材料をいろいろ探してみたところ、アロフェンというものがあります。それから、粘土鉱物も同じような性質がある。また、必要な細孔を得るには水酸化物を熱処理させればよいということも分かりました。これらを組み合わせることで、調湿性タイル〈エコカラット〉が生まれたわけです。

■高い調湿性能を発揮
 ここからは、〈エコカラット〉の特性についてお話します。まず、水蒸気の吸着等温線を見ますと、一般の壁紙に比べてかなり高い水蒸気吸着性能( 500g/u)を示していることが分かります。しかも、この反応は可逆的でして、湿度が下がると容易に放湿することが分かりました。
 今度は湿度90%の状況に材料をおいたときに、どの程度の吸着力を示すかを見てみました。〈エコカラット〉はだいたい24時間で300g/uを吸着することが分かります。時間をかけると、500g/uぐらいまで
 次に、温度を25℃・湿度60%の状況で実験容器を密閉しまして、温度を変化させました。中に、調湿材料がない場合は、過湿による結露が起こるのですが、〈エコカラット〉を入れた場合は、温度に関係なく相対湿度50〜70%という状態を保ち続けます。つまり、空気中の絶対湿度を変化させている、水蒸気を吸ったり吐いたりしているということが分かるわけです。
 次に、VOCについてお話しします。平成12年に行われた国の実態調査で、ホルムアルデヒドなどのVOC濃度が指針値を越える住宅が全体の4分の1以上もあることが明らかになりました。これが後に建築基準法の改正につながったことは、ご存じのとおりで
 実はホルムアルデヒドは、発生することも問題なのですが、それが屋内に滞留する、ずっと居続けることも大きな問題です。ほかにもクロロピリフォス(防蟻剤)の使用が禁止、他13種類が強制力はないものの安全とされる濃度が指針値として示されています。最近では、対象物質はもっと多いといわれていますが、表 このため、住宅内の換気基準が定められたわけですが、実は高気密化のせいか、実際の換気量が非常に少ないことが分かっています。本来、1時間あたり0.5回の換気が推奨されているのですが、実際に調べてみると、それより少ないという実態が明らかになりました。やはり、換気によって暖気や冷気が逃げる、空調のエネルギーが余計にかかるということで、あまり換気しないということだと思います。
 これらを背景に、〈エコカラット〉では、VOCの濃度を減らすことも目指しました。実際に、ホルムアルデヒドを満たした容器内で測定してみますと、厚生労働省のガイドライン値をかなり超えた濃度でも、エコカラットはホルムアルデヒドを吸着して濃度を下げ、しかも1週間以上その状態を維持しています。この結果に基づいて、日本建築センターから低減建材の認定をいただきました。また、トルエンについても、ホルムアルデヒドほどではありませんが、高い吸着力を示しております。(図3)
 さらに、トイレのアンモニア臭や生ゴミの硫化水素臭、タバコ臭などについても、珪藻土を上回る脱臭効果が確認されました。また、1枚あたり約20,000u、大体ビルの外壁に相当する表面積を持っていますので、タバコのヤニ汚れが目立ちにくいのも、〈エコカラット〉の特徴です。
 なお、〈エコカラット〉にはタイルのほかに塗装タイプの〈ヌリカラット〉も出ており、同様の性能を持っております。まず、湿度については窓の結露量を調べたところ、施工前と施工後では大幅に違うことが分かりました。また、ホルムアルデヒドについても、十分な吸着効果があることが確認されております。
 最後に、エコカラットの施工空間イメージをご紹介しておきます。住宅、商業空間、公共施設などいろいろありますが、意匠材としても十分活用していただけると思います。建物の空気質を改善し、しかも美しい意匠をもたらす材料として、〈エコカラット〉がどんどん使われることを期待しております。


「水配管レス 湿度・温度個別コントロール空調方式」
 ダイキン工業梶@空調営業本部 技術部
  来間 伸一 氏

資料はこちら(PDFデータ)

■オフィスのCO2排出量は空調が最多
 1990年(平成2)に作成された京都議定書では、日本はCO2削減6%を決められております。ところが、実際の温室効果ガスの総排出量は、2005年(平成17)で7.8%の増加を見ております。つまり合計13.8%のCO2を急ピッチで削減しなければならないわけです。
 その内訳ですが、排出量が減少しているのが、工場などの産業部門。逆に、増加しているのが運輸部門、家庭部門です。とりわけ事業所・サービスなどの業務部門では、45%も排出量が増加しております。
 この業務部門のエネルギー消費の比率を調べてみますと、○動力部門8.6%○照明・コンセント部門42%○空調部門43%ということで、これが最多であることが分かります。当社は空調分野を手がける企業ですので、この部門のCO2排出量を削減し、そのための有効な省エネ方法を追求しようと考えたわけです。

■省エネと快適性を両立させる
 さて、空調における省エネには、大きな課題があります。すなわち、「省エネを優先すると、快適性は難しくなる」ということです。
 たとえば、事務所などでは設定温度を1℃上げる(夏季)と約10%の省エネになるといわれています。そこで、夏は28℃、冬は20℃が設定温度として推奨されています。ところが、実際にこの設定温度を守ると、夏は多くの方が蒸し暑さを感じます。
 その理由は次の通りです。居室の熱負荷は温度分と湿度分に分かれます。ところが、空調機は、その中の温度分によって制御しています。設定温度に達すると空調機が停止するため、湿度は成り行きとなります。すなわち、実際の空調機では、設定温度26〜28℃で湿度50%を目安に設定されていますが、湿度が60%、70%と上がっていくと、蒸し暑い不快感を感じるわけです。(図1)
 ここで除湿量と冷媒蒸発温度、COP(エアコンの冷房効率)の関係を見ますと、冷媒蒸発温度を上げれば、COPは向上し省エネにはなりますが、除湿量は低下します。逆に除湿量を上げるには、冷媒蒸発温度を下げる必要があり、COPはダウンしてしまいます。通常、「省エネ(COP)」と「快適性」は反比例の関係となります。
 しかし、当社は省エネ性と快適性を両立するシステムを開発しました。

■温度と湿度を別々にコントロール
 建築物衛生法(旧ビル管理法)や建築基準法では、一人あたり20m3/h換気をするように規定しています。これは、夏季であれば、外気の温度(顕熱)分だけでなく、湿度(潜熱)分も一緒に負荷として、室内に取り入れてしまうということです。
 〈DESICA〉は夏期、室外の湿度(潜熱)分のみを除去し、室内へ供給することで、湿度を適正に保ちます。また、冬季は湿度(潜熱)分を室外から取り込むのと、室内の湿度(潜熱)分を回収することにより、湿度を適正に保ちます。
 一方、温度(顕熱)分に対しては、高効率な高顕熱形ビル用マルチエアコンで温度処理を行います。 この機種(HDMP50A)の場合、風量500m3/hとなりますので、25人ぐらいの人員のオフィスに対応できます。(図2)

■ハイブリッドデシカ素子が湿気を吸着・放出
 〈DESICA〉の核心であるハイブリッドデシカ素子は、エアコンのアルミフィンの上に当社独自の吸着剤を塗布したものです。この素子は加熱すると水分を放出し、冷却すると吸着する性質を持っています。従来、デシカントは、80℃程度の高温を必要としましたが、当社の素子はヒートポンプ熱交換器と一体となっているため、40℃程度で再生します。その分、省エネ効率もよくなります。
 次に、このデシカ素子はどのような作用をするかをご説明します。まず除湿の場合、屋外の湿気を含んだ空気が冷たいデシカ素子に触れると、水分が吸着されます。室内には、この除湿された冷気が供給されます。
 この吸着された素子を再生させるために、冷媒回路とダンパーを切り替え、暖かい冷媒を流すことにより、吸着された水分を放出させ、この空気を屋外へ捨てます。このように冷媒回路とダンパーを一定時間で切り替えることにより、2つの素子は別々の作用をします。
 加湿の場合はこの逆で、冷却されたデシカ素子が、室内の空気から水分を吸着・回収します。再び冷媒回路とダンパーを切り替え、暖かい冷媒を流すことにより水分を放出させ、それを室外の湿気分に加えて、この空気を室内に供給します。除湿の場合と同じく、冷媒回路とダンパーは一定時間で切り替えられます。

■省エネ・配管レスでコスト削減にも貢献
 従来から、オフィスの空調では、温度コントロールを主とするビル用マルチエアコンが使われてきました。しかし、〈DESICAシステム(DESICA+高顕熱形ビル用マルチエアコン)〉の場合、温度と湿度を並行して高効率でコントロールできるため、システムの電気代は約20%程度抑えることができます。しかも、冷媒配管、ドレン配管、給水配管が不要なため、トータルのランニングコストでは約36%抑えることができます。
 空調性能については、実際のオフィスで実験したデータがありますが、夏場28℃の状況ですと、従来なら相対湿度60%程度が下限だったのが、このシステムでは45〜50%を保つことが可能です。また、加湿の場合も、従来は温度20℃で40%程度が上限ですが、本システムでは40〜50%を保つことができました。
 ビル管理法では、室内湿度を40〜70%に保つように定めていますが、〈DESICAシステム〉はこの範囲を十分に保つことができます。このように快適性を保ちながら、省エネにも貢献できるわけです。

■〈うるるとさらら〉にも独自の調湿機能
 温度・湿度と快適さは、密接な関係をもっています。たとえば暖房の場合、温度を上げても湿度が低いと暖かさを感じにくいものです。快適な暖かさには、一定の湿度が必要なのです。これは冷房についても同じで、同じ温度でも湿度が高いままだと不快感が残りますが、除湿を行うと、涼しさを感じるようになります。
 ドライ運転が肌寒いと感じるのは、除湿を行うために設定温度を2〜3℃下げて運転を行うためです。湿度と一緒に室温も下げてしまうため、人によっては肌寒いと感じます。
 そこで、無給水加湿・再熱除湿という二つの機能を搭載したのが、当社の家庭用エアコン〈うるるとさらら〉です。加湿が必要な冬季は、外気の水分を集めて室内に放出します。一方、除湿が必要な中間期は、冷却コイルとは別の再熱器によって空気を暖め、冷えた空気とミックスすることで、除湿された冷たくない空気を放出します。(図3)
 地球環境問題がクローズアップされる中、当社では今後も、省エネ性と快適性の両立に全力を挙げて取り組んでまいります。


「最近の断熱・遮熱・結露の試験・研究から」
 (財)日本建築総合試験所 建築物理部 環境試験室
  室長代理 小南 和也 氏

資料はこちら(PDFデータ)

■壁内通気が壁体温湿度に及ぼす影響
 在来木造工法の外壁取り合い部、特に床と壁、壁と天井という上下の取り合い部では、気密施工をきちんと行うこととされています。しかし、現実の現場を見れば分かることですが、これは非常に困難です。
 特に床部分は、配管や配線があるために、通気止めが機能しないことが往々にしてあります。すると、壁内気流が発生して断熱性が低下したり、壁体内結露を起こしたりということにつながるわけです。(図1)
 そこで、このような壁内通気がある場合に、壁体内の温湿度にどのような影響があるかを、モデルを用いて実験してみました。
 検証用の壁体モデルは、1階と2階の2タイプを想定して、壁内通気が発生するように造られました。さらに、グラスウール(裸・袋入)やPSボードなどの断熱材についても、施工位置、施工状況などをいろいろ変え、1階タイプで12モデル、2階タイプで3モデルを用意しました。これらのモデルは、実際の施工現場でよく起こる状況を想定して設定されています。その上で、モデルごとに、自然通気の場合および壁体内気流(1〜10l/分)を発生させた場合の、各部の熱流、湿度変化などを測定したわけです。なお、温湿度の条件は、冬場(低温・乾燥)を想定しています。(図2)
 実験の結果、分かったことを挙げておきますと・・・・

1)湿度
 1階モデルでは、壁内の通気量が増大するほど相対湿度が低下し乾燥します。ただし、これは冬場の空気だからで、夏場は逆に高い湿度がこもることになると思われます。なお、袋入りグラスウールの施工状態がよい場合は、壁内通気の発生は認められません。
 2階モデルでは、通気量が増大すると相対湿度も増大します。特に上端の室外側は、湿度が飽和状態になり、冬場は結露の危険性があります。

2)熱貫流率
 1階モデルは、通気量の増加によって断熱性が低下します。特に、壁体の上端部・下端部は冷気の入口と出口になりますから、断熱性の低下が顕著です。
 逆に2階モデルでは、下(床ふところ部分)から暖気が入りますので、下端部は断熱性が向上しますが、上端部は低下するという傾向が出てきます。

3)熱貫流率の計算結果
 自然通気状態のデータから、壁内通気は主に施工不良の断熱欠損部で生じていることが分かります。また、断熱性の低下は特に端部で著しく、中央部に比べて約20〜30%も低下していることが明らかになりました。この低下度合いは床の断熱材の種類によっても違い、グラスウールやPEボードを使った場合は、中央部に比べて約40〜50%も低下しています。

4)壁全体の断熱性
 通気による断熱性への影響は、袋入りグラスウールより裸グラスウールの方が大きくなります。また、袋入りグラスウールよりPEボード、PEボードよりGWボードというように、床断熱材に通気性があるほど影響が大きくなることが分かります。逆にいえば、断熱材の性能は壁内通気の有無に大きく左右される。したがって、床部分の通気止めが非常に重要だということが確かめられました。

■外壁・屋根の日射侵入率評価
 日射侵入率(η値)という言葉は耳慣れないと思いますが、省エネ基準の夏季日射取得係数を算出するための物性値と定義されています。透過量と室内への再放射量の合計を日射量で割って算出します。
 したがって、η値が小さいほど日射熱を遮る力が強い=省エネ性が高いと見なすことができます。ちなみに、普通の透明なガラス窓のη値は0.88。日射熱の80%以上が、室内に入ってくるということです。逆に壁のη値はおおむね0.1を切る場合がほとんどです。
 ただし、η値が使われるのはほとんど窓だけです。壁や屋根については、得られる数値そのものが小さいので、現実にはあまり用いられません。これをもう少し活用できないか、ということで実験を行いました。
 実験に使ったモデルは10種類です。コンクリート壁体および屋根を想定して、断熱性は同一に、熱容量を小さくした上で、外装材や通気層の有無、遮蔽物の有無、凹凸のある外装などの条件を変えてあります。これらのモデルを、1昨年の沖縄で一番暑かった日の気候と同じ状態において、η値および熱貫流率U値を測定しました。(図3)
 その結果分かったことは・・・・

1)壁体
○ 遮熱塗料を使用すると、未使用の場合に比べてU値は3割程度低下します。
○ 同様に、通気層を設けるとU値は約5割、さらに防風層の遮熱と併用すると約7割程度下がります。通気層の影響が、非常に大きいことが分かりました。

2)屋根
 基本的な傾向は壁と同じですが、面白いのは遮蔽材として断熱ブロックを使った場合です。当初は、他とあまり差がないと考えていたのですが、実際に実験してみると、予想外に風がよく通ります。風速2mの風を発生させると、ブロック下面でも1.5m前後の風が起こります。それが、遮熱性を非常に上げることが分かりました。この遮熱ブロックというものは、予想以上に効果があるということがはっきりしたわけです。
 結果ですが、U値とη値の関係がほぼ把握できました。全モデルについてみるとη=0.049U、また遮熱断熱モデルではη=0.029Uという関係式を得ています。
 また、壁体構成がη値に与える影響を、定量的に把握できました。これは、先ほども触れた通りです。
 今後の課題としては、η値測定の評価を行うこと、η値とU値のトレードオフ関係の可能性を検討することなどが挙げられると思います。

■最近の試験から
 ご参考までに最近の試験・研究などについて、二、三の例をご紹介しておきます。
 最近多いのが、遮熱材の効果を測ってほしいという依頼です。これは、実験室内に小型の屋根モデルを作るか、屋外で実際に設置し、小屋裏あるいは天井裏に入ってくる熱量を測って比較します。遮熱効果は絶対値で出せませんので、相互比較という形で実験します。
 また、測定効果の表現では、遮熱効果と断熱性能を混同している例も見られます。私としてはやはり正確な表現を心がけていただければと考えております。
 最近、住宅でもよく用いられる空調用ダクトに結露が起きるという相談が持ち込まれたことがあります。実際にやってみると、条件によっては結露が起きることが分かりました。天井裏などにダクトを施工する場合、防露性を十分検討しないと、結露によって天井板に影響が出る可能性があるということです。
 また、金属製の手すりなどを躯体に直付けしたマンションで、夏の夜に大きな異音がするという相談もありました。現場で測定したのですが、温度による熱伸縮で音が出て、住んでいる方がびっくりされたわけです。これは、屋根材などでも起こりうることなので、施工時に注意が必要であると思われます。
 その他、床下収納庫の断熱性、戸建住宅やマンションの結露調査、リフォーム時の断熱・結露性能に関する試験依頼なども、最近多数寄せられております。今後とも、建材の性能などで気になることがありましたら、当試験所に遠慮なくお問い合わせください。

建材情報交流会ニュース一覧へ
 

 


Copyright (C) 2007 JAPAN BUILDING MATERIALS ASSOCIATION. All rights reserved.