■壁内通気が壁体温湿度に及ぼす影響
在来木造工法の外壁取り合い部、特に床と壁、壁と天井という上下の取り合い部では、気密施工をきちんと行うこととされています。しかし、現実の現場を見れば分かることですが、これは非常に困難です。
特に床部分は、配管や配線があるために、通気止めが機能しないことが往々にしてあります。すると、壁内気流が発生して断熱性が低下したり、壁体内結露を起こしたりということにつながるわけです。(図1)
そこで、このような壁内通気がある場合に、壁体内の温湿度にどのような影響があるかを、モデルを用いて実験してみました。
検証用の壁体モデルは、1階と2階の2タイプを想定して、壁内通気が発生するように造られました。さらに、グラスウール(裸・袋入)やPSボードなどの断熱材についても、施工位置、施工状況などをいろいろ変え、1階タイプで12モデル、2階タイプで3モデルを用意しました。これらのモデルは、実際の施工現場でよく起こる状況を想定して設定されています。その上で、モデルごとに、自然通気の場合および壁体内気流(1〜10l/分)を発生させた場合の、各部の熱流、湿度変化などを測定したわけです。なお、温湿度の条件は、冬場(低温・乾燥)を想定しています。(図2)
実験の結果、分かったことを挙げておきますと・・・・
1)湿度
1階モデルでは、壁内の通気量が増大するほど相対湿度が低下し乾燥します。ただし、これは冬場の空気だからで、夏場は逆に高い湿度がこもることになると思われます。なお、袋入りグラスウールの施工状態がよい場合は、壁内通気の発生は認められません。
2階モデルでは、通気量が増大すると相対湿度も増大します。特に上端の室外側は、湿度が飽和状態になり、冬場は結露の危険性があります。
2)熱貫流率
1階モデルは、通気量の増加によって断熱性が低下します。特に、壁体の上端部・下端部は冷気の入口と出口になりますから、断熱性の低下が顕著です。
逆に2階モデルでは、下(床ふところ部分)から暖気が入りますので、下端部は断熱性が向上しますが、上端部は低下するという傾向が出てきます。
3)熱貫流率の計算結果
自然通気状態のデータから、壁内通気は主に施工不良の断熱欠損部で生じていることが分かります。また、断熱性の低下は特に端部で著しく、中央部に比べて約20〜30%も低下していることが明らかになりました。この低下度合いは床の断熱材の種類によっても違い、グラスウールやPEボードを使った場合は、中央部に比べて約40〜50%も低下しています。
4)壁全体の断熱性
通気による断熱性への影響は、袋入りグラスウールより裸グラスウールの方が大きくなります。また、袋入りグラスウールよりPEボード、PEボードよりGWボードというように、床断熱材に通気性があるほど影響が大きくなることが分かります。逆にいえば、断熱材の性能は壁内通気の有無に大きく左右される。したがって、床部分の通気止めが非常に重要だということが確かめられました。
■外壁・屋根の日射侵入率評価
日射侵入率(η値)という言葉は耳慣れないと思いますが、省エネ基準の夏季日射取得係数を算出するための物性値と定義されています。透過量と室内への再放射量の合計を日射量で割って算出します。
したがって、η値が小さいほど日射熱を遮る力が強い=省エネ性が高いと見なすことができます。ちなみに、普通の透明なガラス窓のη値は0.88。日射熱の80%以上が、室内に入ってくるということです。逆に壁のη値はおおむね0.1を切る場合がほとんどです。
ただし、η値が使われるのはほとんど窓だけです。壁や屋根については、得られる数値そのものが小さいので、現実にはあまり用いられません。これをもう少し活用できないか、ということで実験を行いました。
実験に使ったモデルは10種類です。コンクリート壁体および屋根を想定して、断熱性は同一に、熱容量を小さくした上で、外装材や通気層の有無、遮蔽物の有無、凹凸のある外装などの条件を変えてあります。これらのモデルを、1昨年の沖縄で一番暑かった日の気候と同じ状態において、η値および熱貫流率U値を測定しました。(図3)
その結果分かったことは・・・・
1)壁体
○ 遮熱塗料を使用すると、未使用の場合に比べてU値は3割程度低下します。
○ 同様に、通気層を設けるとU値は約5割、さらに防風層の遮熱と併用すると約7割程度下がります。通気層の影響が、非常に大きいことが分かりました。
2)屋根
基本的な傾向は壁と同じですが、面白いのは遮蔽材として断熱ブロックを使った場合です。当初は、他とあまり差がないと考えていたのですが、実際に実験してみると、予想外に風がよく通ります。風速2mの風を発生させると、ブロック下面でも1.5m前後の風が起こります。それが、遮熱性を非常に上げることが分かりました。この遮熱ブロックというものは、予想以上に効果があるということがはっきりしたわけです。
結果ですが、U値とη値の関係がほぼ把握できました。全モデルについてみるとη=0.049U、また遮熱断熱モデルではη=0.029Uという関係式を得ています。
また、壁体構成がη値に与える影響を、定量的に把握できました。これは、先ほども触れた通りです。
今後の課題としては、η値測定の評価を行うこと、η値とU値のトレードオフ関係の可能性を検討することなどが挙げられると思います。
■最近の試験から
ご参考までに最近の試験・研究などについて、二、三の例をご紹介しておきます。
最近多いのが、遮熱材の効果を測ってほしいという依頼です。これは、実験室内に小型の屋根モデルを作るか、屋外で実際に設置し、小屋裏あるいは天井裏に入ってくる熱量を測って比較します。遮熱効果は絶対値で出せませんので、相互比較という形で実験します。
また、測定効果の表現では、遮熱効果と断熱性能を混同している例も見られます。私としてはやはり正確な表現を心がけていただければと考えております。
最近、住宅でもよく用いられる空調用ダクトに結露が起きるという相談が持ち込まれたことがあります。実際にやってみると、条件によっては結露が起きることが分かりました。天井裏などにダクトを施工する場合、防露性を十分検討しないと、結露によって天井板に影響が出る可能性があるということです。
また、金属製の手すりなどを躯体に直付けしたマンションで、夏の夜に大きな異音がするという相談もありました。現場で測定したのですが、温度による熱伸縮で音が出て、住んでいる方がびっくりされたわけです。これは、屋根材などでも起こりうることなので、施工時に注意が必要であると思われます。
その他、床下収納庫の断熱性、戸建住宅やマンションの結露調査、リフォーム時の断熱・結露性能に関する試験依頼なども、最近多数寄せられております。今後とも、建材の性能などで気になることがありましたら、当試験所に遠慮なくお問い合わせください。
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