第19回 “サスティナブル建築 PART-T” 光触媒の最新技術
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基調講演 ナノテクノロジー
「高分子材料の撥水化技術とその可能性」
神戸大学 工学部 応用化学科
教授 工学博士 西野 孝 氏
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自然は不安定を嫌う
同じ材料ならどの部分でも性質は同じと思われますが、実は内部(Bulk バルク)と表面で物性や構造などはまるで違います。これは、分子同士の相互作用と関係があります。バルクの中の分子は、上下左右の分子から相互作用を受けます。その結果、トータルでは相互作用ゼロの安定した状態にある。しかし、表面にある分子の場合、相互作用をする分子が外側にありません。したがって、内側の分子との相互作用は打ち消されない。取り巻く相互作用はゼロにならないわけです。
これは、壁のない満員電車の中の乗客に似ています。車両の奥にいる人は、周囲の人と押し合うだけで、それなりに安定している。一方、端にいる人は、いつ列車から転落するか分からないという非常な不安にさいなまれます。同じように、材料の表面も非常に不安定な状態にあるわけです。
実は、自然はこういう不安定な状態を非常に嫌います。そこで、表面をできるだけ少なくしようとする。たとえば、水滴が球になるのは、空気という超疎水性の物質と水という親水性そのものの材料が接しているからです。この場合、水の表面は、疎水性と親水性の境目で非常に不安定な状態になる。その結果、ある体積を取った時に最も表面積が小さい形、つまり球になろうとする力が働くわけです。この力が表面張力です。
さて、表面張力の単位は単位長さあたりの力、N/mで表されます。この単位の分母と分子におのおのmをかけると、Nm/m2となります。Nmはジュール(J)というエネルギーの単位ですから、表面張力とは結局、単位面積あたりのエネルギー、熱力学でいう表面自由エネルギーということができる。自然が表面を最小化するということは、表面自由エネルギーを最小化すると言い換えられるわけです。
撥水性で汚れをはじく
さて、建材にはさまざまな汚れが付き物です。土。泥。大気中の浮遊物、油脂、血液、汚物、マジックペンやペンキなどの落書きもあるでしょう。では、こうした物質が、なぜ汚れとして付着するのか。それは、建材そのものが超疎水性の空気に比べるとずっと親水性であり、極めて不安定な表面を持っているからです。このような場合、自然は不安定な表面をできるだけ小さくするために、周囲の物質を付着させる。その結果、汚れが付いてしまうわけです。
では、汚れを防止するにはどうしたらよいか。一つの戦略は、汚れが付いても容易に離脱するように表面を改質する方法です。ちょうどイチローのように、どんな汚れにも巧みに対応してしまう。前回、発表があった酸化チタン触媒(光触媒)は、このタイプです。もう一つは、できるだけ汚れを付かなくする。汚れを力任せにかっ飛ばす。野球でいえば、松井型の戦略といえるでしょう。そして、その鍵を握るのが、材料表面の撥水性です。
撥水性とは、簡単にいうと材料の上で水滴がころころ転がるという性質のこと。カーワックスとかテフロン、洋服や着物の撥水加工などが有名です。では、高分子材料の表面を撥水性に改質するにはどうしたらよいか。表面荒れ性を利用する物理的な方法と、化学的な方法の2種類があるのですが、今日のテーマは後者です。先ほどの言葉で言えば、表面自由エネルギーをいかに下げるかということです。
ところで、親水性、疎水性といっても、それだけでは比較のしようがない。数値として定量的に測る方法が必要です。最もシンプルなのは、接触角(Contact Angle)。つまり、材料の上に水滴をのせて、それを真横から眺めたときの、水滴の接地面の角度θを測るわけです。水との接触角が高ければ、その表面は水をはじく。化学でいう疎水性表面であり、熱力学的には表面自由エネルギーが低い。逆に、接触角が低ければ、その表面は水に濡れる。親水性表面であり、表面自由エネルギーは高いわけです。
幾つかの表面自由エネルギーを比較すると、レチレン(CH2)系のポリエチレンが36mJ/m2。メチル(CH3)系のポリプロピレンは24mJ/m2。一方、材料表面がCF2で覆われたPTFE(ポリテロラフルオロエチレン)、いわゆるテフロンの表面自由エネルギーは18mJ/m2となります。では、表面をもっとフッ素の多いCF3で覆ったら?当然、テフロンよりも高い撥水性が予想される。実際にモデルを作って測定すると接触角は119°、表面自由エネルギーは6.7mJ/m2でした。これが、室温で化学的に作り出した表面自由エネルギーのThe Lowest、あらゆる材料を通じて得られる化学的撥水性の限界です。
フッ素系ポリマーの撥水性
さて、ここで高分子材料に話を戻しましょう。たとえば、天然ガスの主成分であるメタン(CH4)の分子量は16。アルコール(C2H5OH)が46、酢酸(CH3COOH)は60、食塩(NaCl)は58ですが、こういう分子量数十レベルのものが低分子。これに対して、大体分子量約1万以上のものを高分子といっている。これが定義1です。たとえば皆さんが着ている衣服、床、机、靴。人体も骨と水を除くと高分子です。
もう一つの定義は、モノマー(単量体)が重合し、共有結合でつながっていること。たとえばレチレンのモノマーが共有結合し分子量が1万を超えたものがレチレンの高分子(ポリマー)、つまりポリエチレンです。スチレンならポリスチレン、つまり発泡スチロール。塩化ビニルならポリ塩化ビニル、いわゆるビニールとなります。
さて、ここにポリメチルメタクリレート、いわゆるアクリル樹脂があります。このモノマー85%に、フッ素成分15〜16%を混ぜて共重合体を作ると、その接触角はほぼ120°。表面自由エネルギーは7.8mJ/m2と、化学的撥水性の限界近くまでいくわけです。ただし、この数値を出すには、表面にフッ素分子がきれいに並ぶようにフッ素成分を規則的に入れる必要がある。ランダムに入れた場合、フッ素成分が表面に散らばってしまうので、表面自由エネルギーは23mJ/m2と、あまり下がりません。同じ量のフッ素を使っても、入れ方によって表面の性質は変わってくるわけです。
この共重合体の面白さは、ごく少量で撥水性の高い表面を作れることです。たとえば、アクリル樹脂にこの共重合体を少しずつ混ぜていく。すると、ジブロック型なら重量比0.25%を入れただけで、100%混ぜた場合と同じ接触角120°が得られます。この共重合体に含まれるフッ素は15%ですから、その0.25%ということは、全体に対して375ppmのフッ素を入れただけで、化学的撥水性の極限近くまでいける。テフロン程度の撥水性(接触角98°)なら45ppmだけでいい。フッ素は極めて高価ですが、これぐらいの量であれば、商業的にもいけるのではないかと思います。
表面改質が広げる可能性
この共重合体でもう一つ興味深いのは、アクリルに対するフッ素の比率を15%から100%に増やした場合です。当然、もっと撥水性が高くなるのではと予想されますが、実際には期待はずれ。15%の時の数値7.8mJ/m2まで下がりません。原子間力顕微鏡で見ると、表面を形成するドメイン(分域)が小さくなって、構造がかえって安定していないことが分かりました。
その理由ですが、共重合体を溶かす溶媒と関係がある。ペンキなどと同じで、溶媒によって表面の性質が違ってくるわけです。この重合体の場合、アクリル成分はいろいろな溶媒に溶けますが、フッ素成分は溶けにくい。すると、溶媒と混ぜたときに、フッ素成分を内側に、アクリル成分を外側にしたミセル(コロイド粒子)になってしまう。その結果、フッ素成分が外に出ないために、表面自由エネルギーが下がらないと考えられます。それ以外にも、フィルムの作り方、熱処理方法の違いで数値は変わります。
こうした表面改質の発想はたとえば生体適合性、つまり人工臓器の分野でも応用できます。人工臓器の課題は、血管の梗塞を生み出す血栓の発生ですが、そのきっかけはたんぱく質の付着です。だから、たんぱく質を寄せ付けない材料を見つけ出せばいい。建材とはぜんぜん別の分野ですが、汚れをはじくという発想は同じです。
このように、高分子材料の撥水化技術は、防汚の面でもまだまだ開発する余地がある。たとえば、我々が今作っているのは、接着性がよく撥水性も高い高分子材料です。一般に、接着性のよい表面は撥水性が低い、つまり汚れやすいという問題がありますが、このポリマーは、よく接着するのにポリエチレン(接触角90°)と同レベルの撥水性を持っている。たとえば塩化ビニル表面に着いたマジックインキの線はアルコールで拭いても跡が残ります。ところが同じ基材をこのポリマーでコーティングをすると、24時間後でも拭けばきれいに落ちるわけです。しかも、接着しやすいから、いろいろな分野に応用が利く。建材としての可能性も広がっていくと思います。
「ナノテクノロジーによる耐汚染性外壁塗料の開発」
水谷ペイント 常務取締役 執行役員
技術部統括部長 博士(工学) 水谷 勉 氏
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テーマは耐汚染性と地球温暖化
今回、当社のエマルジョン塗料の開発に当たっては、2つのテーマがありました。一つは、従来型のエマルジョン塗料、壁用塗料の問題点である耐汚染性を高めること。特に、有機質素材面に塗った場合に、汚れが非常に目立つ欠点を改善するということです。
それから、地球温暖化につながる石油系資源の減少です。元来、水系のエマルジョン塗料は、溶剤系塗料に比べてかなり少ない方ですが、樹脂成分に含まれる石油系資源までは減らせない。極端に減らすと、つやが消えたり、物性が落ちたりする。そこで、無機成分の増量という方向で、石油系資源を削減し、かつ耐汚染性の高い塗料の開発を試みました。
開発にあたっては、当社と京都工芸繊維大学、科学技術振興機構という産・官・学の連携で、約8年かけて共同特許を出願しました。その間、平成10年と15年の2度、科学技術振興機構の事業に採択されております。その結果生まれたのが、ナノコンポジットWという塗料です。
開発の核心はナノコンポジットエマルジョンです。直径20〜30nm(ナノメートル)のシリカ微粒子(コロイダルシリカ)を中心に、周りをアクリルシリコン樹脂で覆った50〜60nmの粒子を作り、水の中に分散させたのがナノコンポジットエマルジョンです。
このエマルジョンの特徴は、従来型エマルジョン(400〜500nm)、酸化チタンなどの無機フィラー(800〜1000nm)に比べ、非常に小さいことと、コロイダルシリカを内包していることです。一般に塗料は、無機成分、つまり充填剤を増量すると、非常に不均一な塗膜を作ってしまうのですが、このエマルジョンを使うと塗膜の中に均一に充填材が分散するだろう。そのような予想のもとに開発を進めました。
ナノコンポジットの4つの効果
ナノコンポジットエマルジョンを使った塗料の機能は、大きく4つあります。まず、コロイダルシリカを使った分、石油系資源が削減されるので、地球温暖化対策に貢献できる。次に、耐汚染性。JRの貯水タンク(塗装後2年)や仙台の住宅(同4年)での実例、汚染暴露試験の比較などでは、光触媒と同レベルの耐汚染性を確認しております。耐汚染性の低い従来型塗料はもちろん、親水性添加剤を添加した低汚染性塗料よりも長期間性能が安定しています。
この耐汚染性のメカニズムですが、接触角40°前後という親水性表面が理由の一つと思われます。ただそれだけでは、これだけの耐汚染性を4年も保っている理由が説明できないと思われます。一つの仮説ですが、乾燥したフィルムの中に均一で緻密に分散しているシリカ微粒子が、塗膜表面をブロックして汚れの浸入を防いでいるのではないか。通常、汚れの油成分は樹脂成分と親和性が高いため、塗膜の中に浸入してしまうのですが、それをシリカ粒子が防いでしまう。そこに雨が降ると、親水性塗膜によって流れ落ちるというメカニズムではないかと考えています。
次に難燃性ですが、大量に入っているシリカが難燃性を発揮します。簡易バーナーで30cmくらいの距離で4〜5分、燃焼させた場合でも、溶剤型塗料や従来型エマルジョン塗料と違って焦げません。その結果、JISのA1321の難燃1級にも合格しております。
そのほか、従来型エマルジョンに比べて水抜けがよく、乾燥が非常に速いため、工期短縮や寒冷地塗装が可能です。また、つや消し塗料でありながら汚れにくい上に、塗り継ぎ部分が目立たず、仕上がりが均一であると、施工店からも評価をいただいています。さらに、値段も他社同クラスの塗料と同等レベルの価格帯に設定しております。なお、耐候性についても、西表島に暴露台を設置して継続的に試験中です。
現在、ナノコンポジットWは、ファミリーレストランやファーストフード、郊外型量販店など、汚れに対して敏感な業界で特に評価され、採用されております。また、展示会にも出品しておりますが、塗料であるにもかかわらず環境によいということで、特に一般の方からも支持していただいております。
「衛生陶器の防汚技術について」
(株)INAX総合技術研究所
創造技術研究室 三浦 正嗣 氏
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「P/(I+O)>1」を目指して
ご存じのとおり、現在の地球は、絶え間ない人口増加や膨大なエネルギー消費、水需要の増大といった問題に直面しております。その中で、サスティナブル成長を追求するには、ネーチャーテクという考え方、自然に学び、救い、共生し、活用する技術の発展が大事ではないかと思います。
INAXではこれを「環境基本理念」として、P/(I+O)という式で考えています。Pは商品、あるいは製品の価値。I、Oは我々が使うインプット(Input)、排出するアウトプット(Output)。この式が正になる、1よりも大きくすることが、我々のモノづくりのテーマです。負荷を減らしながら、しかし製品の価値は落とさないということです。
そこで防汚という話ですが、主婦の方にアンケートしますと、掃除はあまりしたくないが、家はいつもきれいにしたいという声が圧倒的に高い。一方で、衛生陶器の環境負荷を考えると、エネルギー使用量や二酸化炭素の排出量が一番多いのは、家庭で使用している期間です。つまり、防汚というテーマを考えることで、価値を高め、環境負荷を少なくできる。先ほどの式を1よりも大きくできるのではないかということです。これは本来、デザイン面や機能面からも追及すべきテーマですが、今回は材料ということでお話をさせていただきます。
プロガードで水アカ汚れを防ぐ
さて、衛生陶器の汚れの一つに、水アカ汚れがあります。これが発生するのは、水の入っている部分の上です。水が流れて、濡れて、乾燥して、と繰り返される部分で発生します。この汚れを拡大すると、衛生陶器の釉薬部分に何か析出物があるということが分かる。どんな元素でできているかと調べてみると、シリカ(Si)です。
調べてみると、日本の水道はどこでもシリカがかなり含まれていることが分かりました。このシリカが、汚物を流すときに衛生陶器の表面に流れます。すると、釉薬の表面のシリカ成分と化学結合して、乾いて析出していく。ちょうど、鍾乳石と同じことが、短期間に衛生陶器の上で起こっているようなものです。そこに汚物の中の有機物が取り込まれて汚くなってしまう。細菌の温床にもなると分かってきました。
ここで参考にしたのが自然、具体的にはかたつむりです。あの殻は大体汚れていませんが、顕微鏡で見ると、衛生陶器の釉薬に当たる無機質の部分があって、その表面に少しだけタンパク質の部分がある。こういうものを、衛生陶器の表面に付けてやると、無機の部分に汚れが付きにくいのではないか、と考えたわけです。西野先生が基調講演で言われた不活性化ということです。
具体的には、フッ素系のカップリング材を設計して付けてやりました。これが、私どもの製品、プロガードですが、フッ素系の分子を緻密に並べてやることで、釉薬のシリカの化学結合の手をふさいでしまう。すると、これ以上は反応しませんので、ケイ酸がやってきても、はじかれて析出しなくなるということだと考えております。お手元にサンプルをお回ししますので、実際に紙でこすって確かめてみてください。
プロガードの効果ですが、モニター家庭で10日間掃除して試していただいたところ、従来の衛生陶器で水を流す回数に比べて、プロガード処理のものは半分ぐらいに減ることが分かりました。また、洗浄用の洗剤の使用量も72%減ったことが報告されています。環境負荷を減らす上では、十分有効な技術だと思います。
細菌汚れを防ぐナノテク
ところで、衛生陶器に発生する汚れにはもう一つ、水没部分で発生する細菌汚れがあります。これは、し尿の中の栄養分を細菌が食べ、そのことで尿石やアンモニア臭が発生し、さらに他の菌が繁殖するというサイクルによって悪化します。そこでINAXでは、この水没部分に抗菌機能、釉薬の中に銀を入れて抗菌性を付与させています。実はこの技術もナノテクです。
具体的には、ナノメーターオーダーのコロイド粒子になった銀を、釉薬の中に高濃度で分散させている。それで、銀の抗菌作用が発生する形になっています。この技術は、抗菌製品技術協議会(SIAA)による正規の認定を受けたもので、SIAA抗菌という形で表示されております。ですから、我々の衛生陶器には2つの防汚技術が取り入れられているわけです。
「外壁材のナノ親水セルフクリーニング効果について」
ニチハ(株)
商品開発部 部長代理 今井 俊夫 氏
親水性外壁で汚れを浮かせる
私たちの周囲では、家の外壁やサッシ、換気口からの雨筋汚れなどをよく見かけます。この汚れ成分ですが、INAXさんからお借りしたデータによれば、泥汚れや白華汚れ、虹彩汚れ、油汚れなどもあるのですが、約70%が都市型汚れです。具体的には、空気中の排気ガス、換気扇などの排気口から出る油性の物質がバインダーになった汚れ、看板などの突起物周辺の汚れなどです。これらは親油性で、雨などでは簡単に洗い流されません。
近年、こうした汚れが目立つ理由として、外壁の耐久性や塗装塗膜の耐久性の向上が考えられます。タイルでも塗装でも昔より長持ちしますから、塗り替えのサイクルが長くなる。すると、汚れがいつまでも残ってしまうわけです。また、都市環境の中で建物の美観への意識が高まっていることも考えられます。
さて、こうした汚れがなぜ起こるかですが、建物の外壁表面は概して疎水性です。ここに雨が降ると、外壁についている汚れなどを巻き込んで流れ落ちる。すると、表面が疎水性ですから、水が水滴状になってコロコロと筋状に流れていきます。その水が流れた跡が、汚れの跡として残って、見た目に汚いということになっています。高耐久化した塗膜表面は一般的に疎水性が高いですから、なおさら汚れが目立ってきます。
では、この都市型汚れの除去を容易にする、汚れを防止するにはどうすればいいか。この種の汚れは油分ですが、それを水分子によって壁面から浮いた状態にしておけば、雨水などでより離れやすくなる。そういう設計をしてやればいいのではないか。つまり、表面を親水化してやることで、油成分をセルフクリーニングするということが考えられます。具体的には、前回お話があった光触媒。塗膜自身に親水化成分を入れ、表面に配向させる親水化技術。有機無機のハイブリッド化による塗膜の親水化…。その中で、ナノサイズのシリカ粒子を表面に塗布するというのが、弊社のマイクロガードです。これはもともと、INAXさんの技術を窯業建材、サイディングボードに応用したものです。
ナノシリカ粒子による防汚技術
マイクロガードの特徴ですが、まずナノサイズのシリカ粒子を塗布することで、帯電を防止し汚れの付着を防止する。つまり、汚れを引き寄せる静電気を起きにくくするということがあります。次に、親水化による汚れの付着力低下。表面に水分子を引き寄せることで、雨が降ったときに汚れを落としやすくします。そして、雨が降ると水が汚れの下にいわば入り込んで、汚れを浮かして落とす。これは先にもお話ししました。あと、塗膜下に無機のガード層が要りません。これは、光触媒と異なる点です。
実際にマイクロガード処理をしたものと未処理のものを比較してみました。たとえば帯電防止効果の実験では、未処理品が一定時間後もマイナスに帯電しているのに対して、処理品は最初からずっと帯電しない常態を維持しています。また、汚れをのせて水をかけてやると、塗布したものは汚れが落ちますが、未塗布のものは残ってしまう。
次に、人為的に耐久性負荷をかけてその結果を見る促進耐候性試験をやりました。未処理品の場合、当初は接触角90°以上、L値(汚れ度)18以上ありますが、時間とともに表面が劣化して、L値も9以下になります。一方、マイクロガード処理サンプルでは、若干接触角は上がりますが、L値はほぼ2以下で、汚れに対する耐久性もあるようです。
防汚の機構ですが、塗膜表面にシリカ粒子の塗布層を作ります。このシリカ粒子が親水性なので、表面に水分子の膜が寄るというモデルを考えています。このシリカ粒子の大きさは、大体20〜30nm。断面で見ると、シリカ層の界面部分がデコボコして表面積を広げ、親水性を高めている。これとシリカ自体の親水性との相乗効果で、水との接触角を下げていると思われます。
実は当社の工場の中で、マイクロガード処理した建物としていないものを建てて、2年半ほど経過を見ました。処理していないものは、窓枠のところで汚れが出ていますが、処理した建物は特に雨筋汚れなども出ず、非常に良好な結果となっています。
なお、マイクロガードの親水性は、防汚効果はありますが、防藻性とか防カビ性については特に従来品と変わらないと考えております。防藻や防カビ効果は、外壁材の形状や周りの環境にも左右されるので、親水性に加えて防藻防カビ剤を配合するなどの処理が必要ではないかと考えています。
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