第10回「建材情報交流会」”省エネルギー PART-U”
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「屋上緑化による暑熱環境の改善効果」
和歌山大学 システム工学部 助教授 山田 宏之 氏
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最も面積が大きく、高温なのは屋根
都市中心部で見られるヒートアイランド現象は年々その度合いを増し、熱帯夜が年間40日を越えることも珍しくありません。1876〜2000年の東京における最高気温と最低気温の変化をグラフで見ると気温の上昇は一目瞭然です。
都市部を撮影したランドサットの映像からは、東京に意外と緑地が多いことがわかります。明治神宮の森の中は25℃程度で、暑いところとの温度差が著しい。暑い部分は大抵屋根や屋上で、都市部では、屋根の占める面積が最も大きいのです。従って暑熱環境の改善には屋根や屋上を緑化することが効果的と言えます。
大学で学生と行なった実験では、緑地からの蒸発潜熱(水分が気化するとき周囲から奪う熱のこと)によって日射量の60〜70%を消去できるという結果でした。緑地が熱を消すわけです。
高温化のしかたは状況によっていろいろです。地形でいうと、凸凹がなく平らな面ほど高温化します。素材でも違います。ウッドデッキは最近よく使われていますが非常に高温化しやすく、黒っぽいものだとアスファルトより高温になるので、夏の日中にふさわしい素材ではありません。芝は温度が下がりやすく、上がりにくいという性質から都市を冷やすには効果的と言えます。
屋上緑化で夏の屋根裏部屋も快適に
次に、内側への効果について述べます。
真夏では、緑化面の場合最高でも30℃程度ですが非緑化面は60℃にまで達します。屋上緑化の効果は建物の構造によって違います。最も効果が高いのは断熱を施していない、または内断熱の建物で、逆に外断熱構造の上に緑化をしてもほとんど変わりません。
神戸市御影のある家屋(草屋根の家)を例に説明します。内断熱の木造建築の屋根部分に土を10cm盛って緑化したもので、真下は屋根裏部屋です。ふつう屋根裏部屋は非常に高温で、エアコンを入れても不快なぐらいですが、この家の場合天井裏面が冷たく保たれているため、日常生活ではエアコンも必要ないくらい涼しく感じます。屋根裏面の熱の流れを数値で見ると、マイナス値(室外へ熱の流れ)がプラス値(室内への熱の流れ)を大きく上回り、1日でトータルすると放熱過多になっています。通常の夏で冷房をつけるのは7日程度ということですから、この家では緑化によって無空調の室内環境がほぼ実現していると言えます。
省エネの観点から考えると、簡単な緑化でも、トータルで30%のコストダウンが可能です。屋上緑化は建物をトータルで考えねばならないので難しい部分もありますが、数年で元がとれるので、投資に見合うだけの効果は望めます。
建物保護、癒し…屋上緑化のさまざまな効果
屋上緑化にはほかにもさまざまな利点があります。緑地部分に雨水がいったんたまるので下水への流入量のピークを抑えることができます(遅延効果)。膨張・収縮の軽減、酸性雨の中和、紫外線の遮蔽、乾湿差の軽減ができるという点から建物保護にもなる。また、屋上緑化には防音効果もあります。そしてエコロジー。屋上の樹木にセミの抜け殻が見られる例がありますが、セミは土の中で何年も過ごし、木に登ってきて羽化しますから屋上の緑地でもそのような環境が実現しているということなのです。病院などではやすらぎの空間(セラピー効果)、集合住宅では地域の人が集まれる空間(コミュニティー効果)になります。実際、池と田んぼを作って住民の交流の場としている例があります。暑い地域に適した種の稲や、熱帯系の野菜は都心でとてもよく育ちます。このようにいろいろな楽しみ方ができるのも屋上緑化の魅力でしょう。
屋上緑化は途中から施工しようとすると確かに大変なのですが、建設の初めから組み込むと無理なくできます。また、技術的にはどんな建物にも、どんな形でも面にでもやろうと思えば可能なのです。
研究者・技術者としてこれからどんどん屋上緑化の活用を推進できればと考えています。
「屋上緑化設計上の注意点(防水、対根、排水、対風…)」
田島ルーフィング (株) 緑化事業課 課長 山崎 康夫 氏
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施主からの要望、意見から分析したポイント
屋上緑化の施工後生じてしまったトラブルや、施主らへ行なったアンケート、また施主からのクレームなどから設計上の注意点をまとめました。チェックポイントは、@適切な防水層と耐根層の選定、A適切な防水納まりの選定、B耐風圧(負圧と正圧)への配慮、C適切な排水経路の検討、D適切なメンテナンスの5点です。
防水と耐根はまず第一に重要なポイントです。屋上緑化用の防水層は、アスファルト防水、シート防水、塗膜防水の3種に大別され、それぞれ性能が異なります。表から分かるように、耐用年数、劣化の有無、既存の面に重ねて施工可能か、耐根性能の有無などで評価すると、多くの点でアスファルト防水が優れています。日本建築学会では屋上を緑化する場合50年以上の耐久性を持つことが望ましいという指針を出しており、高耐久仕様ならば55〜60年もつアスファルト防水は防水層として適していると言えます。
屋根保護のためには防水層を根が貫通しないよう耐根層も必要です。用途に応じて素材や厚みの違った耐根シートを貼ります。防水層と一体型の耐根シート(同社品名:ルートガード)ならより安心です。
防水とともに施主からのクレームや要望の多いのが排水に関することです。
屋上に降った雨水などの水分がスムーズに流れるよう、適切な排水経路の検討は重要です。通常は上の階から下の階へルーフドレインを伝って流します。その際、屋根の排水勾配は1/100〜1/50勾配程度にする、隣接屋根や壁の面積を考慮してルーフドレインの数を設定する(万一の詰まりを想定して最低2個、必要に応じオーバーフロー管の設置も要検討)、排水が植栽帯を通らないようにする、植栽を壁面に隣接させない、といった注意が必要です。
風対策は負圧に注意を
次に風対策ですが、風圧には、正圧(木を押し倒そうとする力)と負圧(上へ持ち上げようとする力)があります。負圧には特に注意が必要で、緑化システム全体が飛散する(風飛び)おそれもあります。例えば芝生緑化の場合でも風圧が300kgf/m2以上になると風飛びします。これを防ぐため当社ではテープ貼りでシステムを下地にしっかりと接着する負圧対策を行なっています。
屋上緑化システムをメンテナンスするうえでのポイントは、植栽自体の管理はもちろんのこと、建築部分側の管理も大事です。防水層のチェック、排水孔や自動灌水装置のチェックなどです。
「安全・安心の屋上緑化のために」が我々の基本コンセプトです。この十数年間で得た知見や施主からの意見などをもとに、当社では前述のような注意点に配慮した屋上緑化資材を提供しています。
「屋根材一体型ソーラー発電の動向」
三晃金属工業(株) 営業推進チームリーダー 近藤 知秀 氏
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日本の太陽電池出荷量は世界一
地球に降り注ぐ太陽エネルギーは、わずか1時間で人類が1年間使用するエネルギーに匹敵します。この無尽蔵のエネルギーを利用するのが太陽光発電です。当社は金属屋根の施工会社で、エコロジー商品として太陽光発電にもいち早く取り組み、屋根と一体になった建材として開発し、世の中に送り出してきました。
太陽光発電の現状を見ると、日本の太陽電池の生産・出荷量は全世界(742.3MW)の49%で世界一ですが、このうち42%が輸出で、おもにヨーロッパが輸出先です。例えば水力発電に頼っているドイツでは太陽光発電エネルギーを高価格で買い取っています。
太陽電池には単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファス、アモルファスと結晶のハイブリッド型などの種類がありますが、太陽エネルギーを電気に変える変換効率がどれもまだ低く(8〜15%)、効率アップは各電池メーカーの課題であります。ただし太陽電池を計画する立場から考えると変換効率の善し悪しは太陽電池の面積に影響するだけで、公共・産業用の建物のように十分な屋根面積がある場合は関係はなくなります。
太陽光からつくられたエネルギーはどのように利用されるのでしょう。変換された電気はもともと直流です。これを交流に変えていろいろな用途に使い、余った分を売り、必要なところが買うわけです。
屋根と一体化して発電システムが「建材」に
屋根材一体型太陽光発電システムの開発経緯について説明します。CO2排出抑制を取り決めた京都議定書に基づく国の新エネルギー政策のひとつで、太陽光発電の累計導入目標が2010年で482万kWと定められていることを背景に、公共・産業用の大型施設への導入拡大が急務になりました。ところが倉庫や工場のような広い屋根にこれまでの据え置き型電池をつけようとすると美観性が損なわれたり耐風圧対策のための周辺工事で荷重負担がかかったりという問題が起こってきました。そこで、屋根材と太陽電池を一緒にして、建物の一部、つまり建材として設置できるよう軽量で意匠性を重視した屋根材一体型の製品化が進められてきたのです。我々も93年頃から電池メーカーと協力して開発に取り組んでいます。
まず横葺きタイプ(単結晶タイプ)のもの。これは住宅から公共施設まで幅広く使えるもので、7.7m2で1kW発電できます。縦葺き(フラット葺き)タイプは、屋根の幅が広いので多様性があります。超高層の屋根まで使えて、−500kg/m2の荷重にも耐えることができます。
アモルファスタイプの一体型は、基盤がフィルム状でフレキシブルなので、アールのついた屋根にも使えますし、とても軽量です。単結晶や多結晶タイプと違って、この電池は光の波長で紫外線域によく反応するという特徴があり、直射だけでなく分散光でも反応します。従って曇天でも、またどうしても屋根を南向きにつくれないというときでも一定量の発電が可能です(効率は南面を100%とした場合、東西面86%、北面64%)。また、結晶タイプの電池は高温になると性能がかなり落ちますがアモルファスはあまり変化がないので、夏場に強い電池なのです。
建材として申請できるこの屋根材一体型システムはNEDOの新形態太陽電池として補助対象になっています。太陽光発電をお考えの企業、オーナーの方々はぜひ一度当社へご相談ください。
「塗料による外壁と屋根の遮熱・断熱工法」
エスケー化研(株) 営業技術開発チーム 上級主任 水谷 篤 氏
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空気環境だけでなく省エネも塗料で
平均的な家庭の1カ月の電力消費量約300kWhのうち、最も多いのがエアコンによる消費で4分の1を占めます。そのため本日は、塗料による遮熱・断熱でいかに省エネに貢献できるかにしぼってお話します。
塗料や塗装に関わる環境対策は従来、PRTR法(化学物質排出把握管理促進法)やVOCによる大気汚染、水質汚濁、悪臭に重点がおかれていました。しかし昨今の省エネ法改正や地球温暖化防止会議などの流れを受けて、エネルギー消費量削減による地球環境対策を塗料・塗装の分野でも考える必要が出てきました。
遮熱効果とは太陽光線の中で熱エネルギーに影響を与える波長を効率よく高反射して屋根や壁面の温度上昇を抑える働きのことです。一方、断熱効果とは建物内への熱の移動を遅らせ、室内温度の急激な変化を緩和する働きです。
まず塗料による遮熱のメカニズムを簡単に述べます。太陽光線は可視光線(色相)が約50%、近赤外線(熱線)が約40%(残りが紫外線)であり、一般の塗装仕様の屋根に光線が当たると熱線を内部に吸収して蓄熱します。一方、遮熱塗料の屋根は熱線を効果的に反射して表面温度の上昇を抑制します。
これは塗料に特殊顔料を配合することによって、熱線である近赤外線の反射率を高め、遮熱機能を発揮させるものです。次に断熱効果のメカニズムですが、一般の塗装と違って、塗膜に「特殊軽量バルーン」という中空の風船状のものを含むことにより、塗膜が断熱層を形成し、熱伝導を低く保つようにしたものです。熱伝導率を測定すると、断熱塗装は汎用塗装仕様と比較して6分の1という低さでした。
問題点を改善した遮熱・断熱塗料
従来の塗料による遮熱・断熱工法の問題点には、塗膜が汚れて遮熱効果が落ちる、濃い色で遮熱効果を発揮するのが難しい、膜厚がないと断熱性が確保しにくいなどがありました。当社ではこれら問題点をクリアする塗料を開発し、商品化しています。まず汚れの問題では低汚染機能を付与します。濃色の問題は、特殊顔料を使用して色相の制限をなくし、どんな色でも遮熱効果を得られるようにしています。さらに膜厚は、中塗り層をつくって厚みを確保しました。
当社の屋根用遮熱塗料、「クールタイト」は、濃色系の色相が多彩で、ウレタン樹脂を使っており耐久性にすぐれているという特長があります。下地処理を行ないサビ止め効果のあるプライマーを塗り、「クールタイト」を2回塗りすると、高い遮熱効果を発揮します。赤外線ランプ試験では一般の塗料と比較して10〜15℃の温度低減効果があるという結果を得ています。この結果に基づき夏場エアコンを3ヵ月使用した場合のシミュレーションを行ない、熱量計算をして電気料金に換算したところ、年間約42万円のコスト減につながるという試算もあります。
その他、低汚染性、防水性、防カビ性を備えた屋上防水用の「クールタイトHI工法」、遮熱・断熱ともに効果があり、耐久性にも優れた外壁用の「サーモシャット工法」があります。
業界全体でも、今後省エネに貢献できる商品としてどんどん市場が広がっていくと考えられます。
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