建材情報交流会

  • 第63回建材情報交流会(8月28日開催)の講演録を公開しました
    2024年11月19日
    基調講演
    「建築に纏わる、ここだけの話」
    増田 敬彦 氏  増田敬彦一級建築士事務所 代表、大阪大学非常勤講師
            一般社団法人 日本建築協会 優良製品・技術表彰 選考委員

     増田と申します。よろしくお願いいたします。
     今回なぜ私が基調講演の講師に選ばれたのか。当方も当惑して事務局に問い合わせましたところ、「優良製品・技術表彰」の選考を依頼している各団体に、今後順に基調講演を依頼する予定で、その第一弾であるとのこと。
     折角の機会ですので、私が日々の仕事をしながら考えている、建築にまつわる様々なことをお話しようと考えております。その中でひとつでも皆さんと共有できるものがあれば幸いです。
     それでは、こんな人間が話をさせていただきますという主旨で、まずは自己紹介から。

    1)自己紹介

     私は、阪大の大学院を修了し、設計事務所に就職し設計や企画の仕事に従事した後、信託銀行に転職。ここでは開発不動産関係の仕事に携わりつつ、並行して建築の設計も行っていましたが、その後独立し個人事務所を立ち上げ、今年で23年目になります。

    大学時代

     初めての海外は大学4年の夏のアメリカ周遊でしたが、買い集めていた雑誌「CAR GRAPHIC」に掲載されていた在米の建築家白井順二氏のエッセイと巧みな挿絵の影響もあって、ロサンゼルスからグランドキャニオンやフロリダでのドライブも交えた旅になりました。
     大学で所属した研究室は、大学院生は春休みを利用してバックパックを担いで2ヶ月程ヨーロッパの建築を見て回ってくるのが伝統になっていました。実はこの時の一人旅が大学で一番勉強になったように思っています。
     旅から学んだ大事なことは、建築や都市、様々な国や文化は実際に行って自分の眼で見、動き回って体感しないと解らないということでした。今も先ず現地に行くことを心掛けるようにしています。

    設計事務所時代

     大学修了後、設計事務所に就職し、設計の仕事に取り組みました。
     その中で担当した芦屋沖の埋立地(現在の潮芦屋)の開発プロジェクトの企画書の作成を行っていた時ですが、「参考に」と資料として渡されたのがフランスのコートダジュールにある「ポール・グリモー」の開発のパンフレットでした。私は直ぐに「3日あれば見てこられる」と考えたのですが、叶わず。とても残念でした。
     仕事が忙しい中でしたが、建築士資格の取得や設計競技にも取り組んでいました。国鉄がJRに変わった1987年に催された「私の駅前」コンクールでは、「JR摂津富田駅」で一席をいただけたのは嬉しい出来事でした。 様々な仕事に取り組む中で、徐々に芽生えてきたのが、設計の仕事の与条件を規定している事業企画への興味でした。建築を創る側としての設計・デザインには強いこだわりがありつつも、発注をする側から建築の世界を見てみたいという気持ちは断ち難く、転職を決断するに至ります。

    信託銀行時代

     信託銀行に移ってからは、土地信託案件の企画・開発等の仕事に取り組みました。また、引き続き個人では企画提案や設計コンペにも参加を続けておりました。
     1991年に応募した「OSAKA夢百景」街づくりアイデア部門では「天保山マンハッタン計画」で最優秀賞をいただきました。
     この頃、すでにバブルの崩壊が始まっており、土地信託の案件も当初は住居系やオフィス系のプロジェクトが多かったのですが、景気が悪くなってくるにつれ、利回りが良い商業系が増える傾向が出てきます。
     担当物件で印象深かったものとしては、扇町のキッズパーク(1997年完成)の事業提案があげられます。これは土地信託事業として実現に至りました。(実は1階の「なんでもアリーナ」は、私が名付け親です。)
     商業施設を手掛ける中で、長いお付き合いになっているのが滋賀県のJR草津駅前にあるショッピングセンター「エイスクエア」(1996年完成)です。開業以来、増床やリニューアルを継続して行っており、信託銀行退職後もコンサルタントの立場で取り組みを続けており、もうすぐ30周年を迎えます。

    個人事務所設立以降

     私の個人事務所は以上のような私の履歴を踏まえて、多様な業務への取り組みを行っています。
     建築の設計はゼネコン・工務店、他の設計事務所との協働で、設計監修という形で行うことが多く、ショッピングセンター等の商業施設開発にあたっては、事業計画からテナントリーシング、管理運営まで包括的なコンサルティングを行っています。
     また、現在は古巣の阪大で非常勤講師も務めています。

     さてここからが本題で、建築にまつわるお話をしようと思いますが、その前に、皆さんに「お願い」があります。
     「ここだけの話」ですので、本講演でお話した固有名詞等、今後Web化する際には記載をしない内容も含まれます。皆さんも「ここだけの話」と思って、どうかお忘れください。(笑)
     また、会場の皆さんにも積極的に参加いただきたく、机上に「〇共感」「✕違和感」と両面に印刷した紙が置いてあります。講演の節目でご感想をおうかがいしますので、これをお使いいただいての意思表示をお願いします。

    2)建築と不動産のあいだ

     信託銀行では不動産関係の資格も得ましたが、建築と不動産では業界の雰囲気も少し違います。
     ご存知の方もいらっしゃると思いますが、創造系不動産の高橋寿太郎氏の『建築と不動産のあいだ』という本には、建築出身で設計事務所から不動産業界へ転身した高橋氏が、建築と不動産の狭間を繋ぐことで新たなビジネスを創造するプロセスが描かれています。私も同じような「間」の仕事に奥深さや存在意義を見出していたので、いたく共感いたしました。
     都市の中で魅力的な施設を創ろうとした場合、建築の専門家だけの発想ではダメで、不動産や商業等の様々な知見も入れた上で計画をしていく必要があります。
     近くの例で言えば、「グランフロント大阪」はどうでしょう。私から見れば、不動産屋的な発想が勝ったプロジェクトに見えます。これからの時代、都市の中心部に物流を担える鉄道の貨物駅があることは大変重要だと考えますが、土地を単純売却するために、貨物駅を潰して遠隔からのトラック輸送に代え、せっかく都市の中心部に残った一団の土地を分割して民間企業に譲渡してしまいました。「うめきた」エリアは「大阪最後の一等地」と言われていましたが、これは「大阪の都市としての魅力を向上するために使うべき大事な土地」という意味だったはずですが、どこかで単に「一番高く売れる土地」という意味にすり替えられてしまったようです。
     ニューヨークのハドソンヤードの再開発では、敷地に広がる鉄道車両基地を残し、人工地盤を設けた上に大規模な複合開発を行って都市機能の重層化を図っています。
     (シドニーの路線図を示して)シドニーでは、地下の固い岩盤を掘って、郊外電車が都市の中心部の地下で一旦環状線のようにぐるりと一周回ってからまた出ていく構造になっていて郊外から都市へ乗換えが必要なく、通勤にもとても便利です。このような大規模な地下路線を構築するのは大変だったでしょうが、それをあえて実行したところが凄いと思います。自分たちの都市に必要な機能を理解した上で、それを実現するために知恵を絞るのが先進的な開発の考え方です。
     最近、岡山にある新しい複合開発を視察に行って、気になることがありました。大規模な施設の目玉はフードホールで、参画しているのは高名なデザイナー等のドリームチームなのですが、行ってみると開業時のメディアの報道と違って賑わっていませんし、何か違和感がありました。よく見ると、動線が上手くできていないのです。1階から2階への主動線が階段だけで、2階の店舗に人が回りません。その階段の途中からはフードホールのゴミなどを集積しているバックルームが全部見えています。力の入った外構植栽や凝った天井のデザインも、肝心の商業施設としての骨格がキチンとできていなくては、台無しです。どうしてこんなことになってしまったのでしょう。
     建築と不動産、建築とランドスケープ、また建築の中の意匠、構造、設備はできるだけ一緒に考える必要がありますし、お互いの領域を侵すぐらいに相互に意見を戦わせて初めて完成度の高い仕事に繋がります。先に意匠ありき、高く売れれば良い、というような単純な発想で、あるいはそれぞれの専門領域への遠慮から、あるべき計画の優先順位を間違えてしまったのでしょうか。
    私達は、常に優れた仕事を、そのプロセスも含め学んでいく必要があることを、改めて感じさせられました。

    今の話は如何でしたか。
    (「◯共感」の札が上がる。)
    ありがとうございます。それでは続けます。

    3)「作品」と呼ばないで?

     建築家の設計した建物は「作品」と呼ばれることも多いのはご存じの通りで、私の所属する日本建築協会の会報でも掲載する建築物を紹介する際には、普通に「作品」と呼んでいました。
     しかし昨年、建築協会では会報で「作品」との呼称を使わないことに決めました。
    今回の大転換に際しては、25年ほど前、阪大の舟橋國男先生が、公共的な施設を「作品」と呼ぶことに対し、会報への寄稿で行った問題提起も、論拠として採り上げられました。
     私としては「作品」の呼称を廃止する方針について理解はしつつも、それでは「代わりにどういう呼称を使うのか」も含め、全てがそれで割り切れるものではないと思いますので、自分なりに少し考察してみました。
     (髙﨑正治氏の「輝北天球館」や伊東豊雄氏の「台中国立歌劇院」のスライド等を映しつつ)これらのユニークな建築は、アートを志向しているように見え、そうなるとどうしても「作品」という呼称が相応しいように感じます。
     建築が「作品」なのか否かについては、大学での教え方も関係しているのではないかという指摘があります。確かに、大学でも建築がアート、つまり「作品」として扱われているふしがあります。講師を招聘するのに、大学側が目を引く建物を設計する建築家を選びがちだとすれば、それが暗に「目立つアイデアで勝負せよ」というメッセージを強く発することになるからです。
     学生は、そうなると建築とは何か圧倒的で突飛な「作品」をつくらねばならないものだという共通認識のもとに課題に取り組み、アーティスト的な才能がないとダメなので、自分は向いていないと考える学生は、諦めて別の分野に行ってしまいます。
     これは全くの間違いで、建築は技術や文化の集大成であり人命を預かるものでもありますから、むしろ目立つためだけのアイデアに抵抗感を持つ人たちに、堅いものを作ってもらう必要があるのです。
     建築には極端にアートに寄ったものもあれば、機能性重視のものもありますが、その間に優れてバランスの取れた仕事の領域があることを理解し、学生の皆さんには自分なりのデザインの軸を作るために、様々な世界を巡る旅の中で、優れた仕事を見て、ゆっくり時間をかけて体得して欲しいと願っています。
     アメリカのサンディエゴ郊外、ラ・ホヤにあるルイス・カーン設計のソーク生物学研究所(写真1)は1966年に建てられたものですが、打ち放しのコンクリート壁も白木のカーテンウォールも、海に近い立地にもかかわらず、よくメンテナンスされて美しく保たれているだけでなく、訪れる度に綺麗になっているように感じます。
     この建物が愛され、とても大事にされていることは確かです。建物の評価は時間の経過と共に変わるものですが、その時間の経過の中で、「作品」という地位を確定させていく建築があっても不自然ではありません。
    建築協会の会報における「作品」の呼称の廃止について、大学教育の問題との関連でお話しましたが、「作品」という呼称を全く無くしてしまう必要はなく、全てを「作品」と呼んでしまう風潮こそ、改めるべき対象であると思います。

    今の話は如何でしたか。
    (「◯共感」の札のみが上がる。)
    ありがとうございます。
    さて、どんどんと核心に迫っていきたいと思います。

    4)いったい誰が決めた?

     (大阪市バスや京都市バスなどのバスの写真を写しながら)いつも気になっていることの一つに、市バスのデザインがあります。「いったい誰が決めているのかな?」と。子どもの頃からあまりぱっとしないデザインだなと感じていました。「市内に緑を」で緑、青は「澄み切った青空」など色々な説明があるようですが、そもそも乗り物の色ってそんなことで決めるべきなのでしょうか。近年では大阪市バスがCDO(チーフデザインオフィサー)を著名なフェラーリのデザイナーに依頼していたこともあり、どうやら問題意識はあるようなのですが。
     私は、バスをはじめとした公共交通機関のデザインは交通のシステムと一体で考えるのがよいと考えています。(ストラスブールやミラノ、クリチバのバスの写真を映しながら)海外の事例では市バスとトラムのデザインを合わせたり、路線図のグラフィックと色を合わせてデザインしている例が見られます。
     (秋田新幹線やイタリアの新幹線「イタロ」等を映しながら)日本勢も頑張っているのですが、鉄道のデザインもまだまだ改善の余地があります。
     (日本、アメリカ、フランスの高速道路の案内標識を映しながら)道路等のサイン体系も同様です。不案内な旅行者でも走りやすいのは圧倒的に海外の方です。なぜでしょう。
     日本の組織の中で様々なデザインを決めて行くプロセスに問題があるのではと疑っております。
     要はクライアント側にもプロの人間が必要で、お任せでもなく、双方で力を合わせて一つのものを作る必要があると思います。上席だからデザインが判るという訳ではありません。
     最近、見学会に参加し、大変苦労して外装や天井に木製のルーバーや装飾を施したという施工者や市の担当の方のお話を聞いて、気になった某市の新市庁舎です。(建物内外の写真を映しながら)維持管理も含めて多様な意見を聞かないといけない類の建物なのですが、設計者側の意向が強く出てしまった例ではないかと、埃溜まりになるルーバーや装飾の必要性を考えてしまいました。
     クライアントである自治体やその首長は普通はプロではないですから、発注者側にもプロの目を持った人間が必要です。そこでクライアント側と設計者がお互いに丁々発止、意見を交わし合いながら一つの建築やデザインがバランスよくまとまっていくのが理想で、そのバランスを欠いた状態は、公共のものですとどうしても目についてしまいます。

     こんなことを考えている私は何か間違っているのでしょうか。ここまででご感想は如何でしょう。
     (会場からは「◯共感」60%、「×違和感」40%の反応。)ありがとうございます。
     「×違和感」の方とは是非後でゆっくり意見交換させていただきたく。(笑)

    5)もしかして私の方が間違っている?

     ちょっと「ブレイク」ですが、(建売住宅のパンフレットの完成予想図を映しながら)これは大手ディベロッパーさんの住宅販売の広告に使われているパースです。
     前に駐まっている車は、見事にドイツ系のセダンに統一されています。BMW、アウディ、ベンツ等々……、次の例は珍しいですが、イタリア系のマセラティですね。
     じゃあ実際はどうなのか。
     (写真2)これは当方が近所で感動のあまり撮ってしまった写真ですが、見事に白一色で、ほとんどがミニバン。でも、どっちが現実かというと後者です。
     建築設計者側も独善になってしまうといけません。意識が少しズレているかもしれないと自覚しないといけないのでは、という話です。

     これは如何でしょう。
     (「◯共感」の札のみが上がる。)
     では、このまま核心に参りましょう。

    6)美しい街を造るには?

     先程お話した、設計事務所時代に取り組んだ芦屋浜のプロジェクトで、参考にしてほしいとパンフレットを出されたのが「ポール・グリモー」。建築家フランソワ・スポエリが地中海沿いに開発した美しい街です。設計事務所を辞めて直ぐに現地に向かい、マリーナに面したスポエリの事務所のドアを叩くと、所員の方が応対してくれました。スポエリは、街を造るのであれば、その土地の文化に合ったものにするべきだという考え方です。
     当時日本からも「宮古島」のリゾート開発のプロジェクトの依頼を受けていたようですが、「地中海風」を望む日本のディベロッパーと「宮古島」固有の文化に根差した建築デザインを志向するスポエリとの間で、話がまとまらず、結局仕事にはならなかったと教えてくれました。自分達は風土に根差した建築の良さを大事にするべきだと、仕事を失っても頑張っているのに、君達は安易に「地中海風」をコピーしようとしているのはどういうこと? と諭されたようで少し恥ずかしい思いが残りました。
     (クロアチアのドブロヴニク(写真3)、イタリアのモラーノカラブロ、スイスのソグリオ等の美しい街の写真を映しながら)世界の美しい街を見ていると、その地方で産出される建築材料が使われることによって建物が固有の色味を持ち、それが集積することによって統一感のある街が形作られていることがわかります。もちろん日本にも(福島の大内宿や島根の石見銀山等の写真を映しながら)その土地の固有の材料を用い、全体として素晴らしい景観を生み出している集落が残っています。
     これらは、「揃っているのが美しい」という考え方です。確かにそれはその通りなのですが、今までの都市開発・建築関係者の議論を聞いていると、満場一致とはいかず、かなり異論がでてきます。
     (メキシコのグアナファトの宝石箱のような景観を例として映しながら)こういう街を見ると、多様な建物が立ち並ぶさまもまた美しいと感じられることがわかります。大阪で一番人気のある景観は道頓堀だったりするように、多様性がもたらす魅力も確かにあります。
     (スライドを映しながら)例えばストックホルムのガムラスタン(写真4)やコペンハーゲンのニューハウン(写真5)の街並みですが、多様性がある一方で、よく見ていただくと窓の部材は(国によって異なりますが)ほぼ同じです。むしろ部材が揃っていることで屋根のデザインや壁面の色の多様性ある美しさが際立っています。ここは「建築材料」という側面からも大変重要だと思います。部材まで好き勝手にするとどうなるか。これは日本の新興住宅地等でさんざん目にしておられると思いますので、あえてスライドは不要ですね。
     ギリシャのミコノス島は真っ白な壁に色とりどりの窓が並んで美しい景観を作っていますが、好き勝手な色が散らばっているわけではありません。そう見えるだけで、実際に数えてみるとペンキの色数は少なく抑えられています。
     単純に「揃える」のではなく、揃えるべきところは揃え、個性を出して良いところは大いに個性を尊重する、というのは当たり前のような話ですが、美しい街づくりに関しての落としどころのように感じています。

     この話は如何でしょうか。
     (「◯共感」の札のみが上がる。)
     ありがとうございます。

    7)優良製品・技術表彰審査の内幕

     最後に、「優良製品・技術表彰」の審査の内幕について触れておきます。
     選定委員は事前に各社の応募資料に全て目を通し、事前に机上で選考を行い、評価書を事務局に送るよう依頼されています。従って事前にある程度の製品知識を得た上で、審査当日に現地会場にて現物をじかに見て、各社からの説明を聞くことになります。机上では判らなかった製品の質感や、応募者からの直接の説明等によって印象も変わりますので、事前の評価をその場で大きく修正することもあります。また、製品に対する審査の評価軸も参加している各団体の審査員によって少しずつ異なるのですが、これらが総合的に加味された最終評価は、集団知と言うのでしょうか、集計してみるとそれなりに納得できる線にまとまるのが面白いところです。
     開発された方々からご教示いただく製品開発の背景、現場のお話などは非常に興味深く、審査委員の心を捉えて最終評価を左右することもあります。従って当日の製品説明は大変重要です。また、応募資料については、ここぞというア  ピールポイントを判り易く表現しておいていただければ、事前評価に際し、大変助かります。
     以上、来年度以降もご応募よろしくお願いいたします。

     さて、本日の講演、全体としては如何でしたか。
     (「◯共感」の札が上がる。)
     長い話になりましたが、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

    2024年 優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    経済産業省 製造産業局長賞
     「オフセットサイディング」 ニチハ株式会社

    ■森を守りたいという思いから生まれた外壁材

     「オフセットサイディング」は原材料に国産木材チップを使用した外壁材で、国産木材の利用を促進して森を守りたいという思いから生まれました。
     木は太陽の光を浴びてCO2を吸収し、酸素を排出しながら成長しますが、その過程で残った炭素は木の内部に貯蔵されたままになっています。「オフセットサイディング」は木材を伐採した際に不要となった部分を木材チップにし、外壁材の原材料としてセメントと配合しています。こうして大気中から吸収したCO2は、炭素の形でオフセットサイディングの内部に閉じ込められたままになり、大気中に排出されません。
     このように、光合成により大気中のCO2を固定している木が木製品に生まれ変わり、身の回りに増えるほど、大気中のCO2が減ることになり、地球温暖化防止に貢献しております。
     2020年度の当製品使用による炭素の固定量は年間およそ18万tで、東京ドーム約80個分に相当する量のCO2排出削減効果を生み出しました。近年はSDGsへの関心の高まりから、環境貢献などの活動が促進され、持続可能な社会の実現に向けて、森林や木材資源の循環利用、都市の木質化などの脱炭素活動が注目されています。
     製品本体に含まれる国産木材チップは、体積比率50%以上で国産の合法木材をふんだんに活用し、強靭化に寄与する木材製品として、これまで通り外壁として使用するだけで負担なく環境貢献ができる製品となっています。
     また、近年は戸建て住宅のみならず多くの人々が集う物件、中でも中高層物件にもオフセットサイディングを使っていただくことで環境貢献を行いたいと考えました。その結果、専用金具を開発することで、最大45mの高さまで施工することが可能になり、大面積での環境貢献ができるようになりました。

    ■住宅、商業施設、宿泊施設、中高層に多数採用

     実際に「オフセットサイディング」を使用した物件をご紹介します。同製品は木材チップを3層構造にすることで、表層を細かい原料として柄の凹凸感も演出できるのが特長であり、戸建て住宅の採用事例では、そのような柄の質感が生かされています。また、表面にはインクジェット塗装を施したプリント技術を採用したサイディングや木目のサイディングもラインナップしています。
     施設・店舗で採用された事例には、2023年の大河ドラマ「どうする家康」の浜松大河ドラマ館もあります。鏡面仕上げを施した近未来感あふれる「COOL」という製品を採用いただきました。こちらももちろん「オフセットサイディング」です。
     医療施設ではホワイト、アイボリー、木目など、温かみのある柄が人気です。観光地、宿泊施設など多くの人々が集まる施設にも採用されています。
     近年は中高層物件での採用も増加。新開発の専用金具を使用することで、先述の通り45mの高さまで施工でき、サイディングの幅広いラインナップで理想の外観を演出することが可能となります。特に最近はSDGsに関心を持つ施主様が多く、貼るだけで地球温暖化防止に貢献できる「オフセットサイディング」のニーズは高まっています。また、国内のみならず海外でも当製品は多くの引き合いをいただいております。

    ■エシカルな材料を選択する時代に向けて

     2023年1月には、環境省が支援するグリーンライフポイント推進事業に、窯業系サイディング業界として当社が初めて採択されました。外壁材という素材の選択を通じて、機能性やデザイン性とともに、エシカルな選択にもこだわってほしい、そんな思いを込めて今後も「オフセットサイディング」の製造販売に全力で取り組んでまいります。

     
    2024年 優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    国土交通省 住宅局長賞
     「ヨドルーフ157セキュア」 株式会社淀川製鋼所

    ■開発の背景と経緯~近年の巨大台風被害から

     「ヨドルーフ157セキュア」は、鉄骨造や物流倉庫、商業施設などに使われる折板屋根です。同じカテゴリーの従来商品と比べ、価格はそのままで強度が1.3倍以上に高まっています。当製品を開発した背景と経緯、そしていかにして精度を上げたのかについてご説明します。
     近年の台風被害は甚大で、2018年の台風21号では関西国際空の連絡橋にタンカーが衝突し、翌2019年も関東が台風被害に遭いました。この頃から半かん合式の折板(高強度折板)のニーズがかなり高まってきたと考えています。特に通常より広い梁間隔が求められる大型の物流施設や、大きな設計風圧力が設定された物件では、この高強度折板が採用されるようになってきました。
     2020年に気象庁が過去40年の台風の変化を発表しました。具体的には、2000年以前の20年間と比べ、日本への台風の接近数は約1.5倍、強い台風が来る頻度は約2.5倍、移動速度は36%遅くなっています。
    ここから言えるのは、強い台風が低速で頻繁に来ることによって、強風が建物に対して長時間作用する状況になっていることです。この状況に鑑みても、「ヨドルーフ157セキュア」は有用性の高い製品だと考えています。

    ■独自のリボン型金具で接合部の強度アップ

     折板屋根の強度は、屋根材本体と屋根材を留め付けている接合部、両方の強度で決まります。まず屋根材自身が最初に風荷重を受けるわけですが、屋根材が耐えても、接合部から屋根材が飛んでしまう事例が過去にありました。それらを受け、屋根材本体の強度と接合部の強度、この二つを考える必要があるとして、現在金属屋根業界では強度の検討を重ねています。
     そして二つの強度をしっかり上げたのが「ヨドルーフ157セキュア」というわけです。谷型形状で斜辺部分にリブが2カ所あるのが大きな特徴です。
     まず接合部の強度性能について。折板屋根との接合は、屋根の斜辺部分でかん合させる形状になっていますが、かん合時に接触している部分が長いほど強度が上がるため、接合する部分は長くします。しかし全体の幅を広げるとコストが上がるので、それを解決するために独自のリボン形状の固定金具を開発しました。このようなかん合形状にすることで、接合部の強度を2.5倍アップすることに成功しました。

    ■リブのベスト位置を追求して屋根材の強度アップ

     次は屋根材本体の強度で、ポイントは二つ。これまでの経験を生かし、座屈を抑制する段状リブの形状にしたことが一つ目のポイントとなります。フレームとかん合するために上にリブを設け、併せて下にも段状リブを設けることで強度をアップしました。
     二つ目のポイントは適切なリブ位置の設定。従来の折板は斜辺がストレートで、屋根材が風で吹き上げられると、梁間中央で底部が折れます(座屈)。この座屈を抑制するのにリブが有効であることが分かっていました。そのベストな位置を追求した結果、上の引張側と下の圧縮側の中立軸を屋根材の高さ方向のちょうど真ん中にくるように調整すると強度がアップすることが分かりました。検証試験でも1.3倍の強度を実現しています。こうして接合部は2.5倍、屋根材本体は1.3倍まで上がったので、全体強度としては少なくとも1.3倍以上の製品として商品化することができました。
     屋根の耐火構造認定も取得しています。梁間隔は5.7m、5.9mです。昨今の物流倉庫では、仕上がりが11mグリッド、真ん中に小梁を1本入れて5.5m飛ばす、といった話を設計者様からよく聞いていたので、5.5m超えで認定を取り、大規模な物流倉庫のニーズにもしっかり対応できる商品になっています。

    2024年 優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    優秀賞(日本建築協会賞)
    「ワンタッチドアオープナー オストパス」ナカ工業株式会社

    ■「回す」を「押す」に変換する新アイテム

     当社は主に、手すりなどの福祉機器や火災時の避難器具を販売しています。「オストパス」はこれらの知見をもって開発した製品です。現在住宅室内ドアの多くはレバーハンドルで操作しますが、手の不自由な方にとってハンドルをつかむ動作は難しく不便に感じるものです。「オストパス」はドアのレバーハンドルに簡単に装着でき、押すだけでドアを開けることができます。
     仕組みは単純で、プッシュハンドルとドア上部に取り付けるドアオープナー、2部品だけで構成されています。
     まずプッシュハンドルを押し込むと、ドアのレバーハンドルが下がり、同時にドア上部のドアオープナーのバネが反発して自動的にドアが開く仕組みです。ドアオープナーにはスプリング(圧縮ばね)が入っており、ドアが閉まっている状態でも、常時ばねが反発してドアを開けようとする力が働いています。この状態でドアが開かないのは、ドアに付いているラッチが引っかかっているからです。いざ開けようとプッシュハンドルを手で押すと、レバーハンドルが下がってラッチが解除され、ばねも解放されてドアが自動的に開いてくれるわけです。
     取り付け方も至って簡単です。プッシュハンドルには接着テープが付いており、ドア表面に貼るだけ。ドアオープナーの方は、ドア上部に引っ掛けて調節ネジを回し、ドアの厚みに合わせて固定するだけ。工事は不要、テープなのでドアや壁など表面材を全く傷付けず、穴も開けることなく設置できるようになっています。

    ■手が不自由な方々の悩みを解決したいという思い

     ノブハンドルが使いづらいことは、すでに皆さまもご承知の通りでしょう。今はほとんどの住宅のドアはレバーハンドルになっています。ただレバーハンドルも、つかみながらひねりつつ、さらにその状態で体を通すという動作が必要なので、手が不自由な人にとっては難しく感じます。
     他にも脳性麻痺、リウマチ、筋ジストロフィー、ALSなど筋肉が衰えていく疾患をお持ちの方、あるいは手・指を欠損された方などは、レバーハンドルでも使いづらいのです。
     リウマチ患者だけでも全国に約30万人以上。この悩みを何とか解決できないかと考え、レバー式をプッシュ式に変換する装置「オストパス1号機」を考案、押すだけでドアが開く最初の装置が誕生しました。
     課題へのアプローチとして、各専門家の方々、手・指関節が不自由な方々に製品を使用いただいた上でヒアリングを行いました。最終的には当社社員の自宅にも取り付けて検証し、どんな方にも使いやすい製品になるように検討や改良を重ね、今の最終形にたどり着きました。

    ■どんな形状にも対応し、誰でも簡単に開けられる

     プッシュハンドルの方は湾曲した形をしていますが、ハンドルが設置されている高さ(900~1000mm程度)で真っ直ぐ押し込むのが難しい、というアドバイスをいただき、リウマチで体勢の自由が利かない人でも体のどこか一部が当たれば開けられる形状となるよう工夫しました。また、アジャスターの調整で幅が異なるレバーハンドルに設置可能です。
     ドアオープナーは単純なばね構造の製品で、蝶番寄りに設置すると開く力が大きくなり、戸先寄りだと小さくなります。3方枠や見切り枠など、どの形状のドア枠にも対応できるのも特徴です。
     「オストパス」はナカ工業にとって初めての試みであるネット販売を主流としているので、興味を持たれた方はぜひネットショップや当社の販売サイトをのぞいてみてください。

    2024年 優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    優秀賞(大阪府建築士会賞)
    「機能維持耐震天井工法『FMS 天井』」 安田株式会社

    ■耐震化が進む中、天井は超軽量化へ

     地震大国であるわが国では、地震災害に対する建築物構造の耐震性について、耐震、免振などで多くの製品、工法が開発・実行されてきました。
     非構造部材の中で多くの範囲を占める吊り天井に対しても平成25年、国交省が「特定天井」耐震基準の告示を行い、耐震化が進められているのが今の状況です。その中で、天井面構成部材が2kg以下であれば「特定天井」には該当しないことから、超軽量な天井の開発、普及が現在進んでいます。
     当社では、超軽量な天井を開発する過程で部材の特性を生かし、部材接合部の各種工夫によって天井面の剛性を確保して変形を抑え、2kg/㎡以下でありながら告示耐震基準水平2.2Gをクリアした天井を開発しました。

    ■特定天井に該当せずとも高い耐震性能を持つ天井

     2011年の東日本大震災では、各地の施設で天井が落下しましたが、それらの多くが吊り天井という構造でした。吊り天井は、構造体から吊りボルトなどで天井パネルをつるすことで空間をつくり、天井裏にある配線や空調のダクトを隠します。さらに断熱性や吸音性能をもたらすため、ホールや体育館など多くの大空間で採用されてきました。
     ところが耐震化していない吊り天井は、強い揺れを受けると先述のように天井パネルが落下するおそれがあります。特定天井の制約を受けない軽量の天井が2014年以降、全国各地で普及しましたが、災害時の避難場所となる大型施設や病院等で天井の崩落が起これば、たとえ2kg以下の軽い天井であっても安全とは言えず、2次災害につながるおそれもあります。
     「FMS天井」は、メインとクロスのアルミニウム押出形材のTバーを格子状に配置、それらの交差部を嵌合させることによって緊結し、アルミTバーの下側に化粧グラスウール天井板や不燃段ボール天井板などをジョイナーカバーによって留め付ける形式の耐震天井で、天井面構成部材の質量が2kg/㎡以下の超軽量天井です。

    ■ブレース配置を容易にし、あらゆる施設で設置可能に

     「FMS天井」は、天井面に作用する地震時の水平慣性力を、ブレースを介して支持構造部に伝えることができ、耐震基準の水平加速度2.2Gに対して損傷しない性能を有することを目標として各種試験を行い、(一財)日本建築総合試験所から「建築技術性能証明」を取得しています。
     当製品は設置に際しても優位性を発揮します。一般的な耐震天井は、ある一定の面積、例えば20㎡ごとにブレースを設けることで性能を確保しています。しかし天井裏にはダクトや配管、配線などが多数巡らされています。従ってブレースを設置しようにもダクトなどが干渉してできないケースがあり、耐震天井を断念せざるを得ないケースがこれまでに多くありました。
     しかし「FMS天井」は、各メインバー、クロスバーに設置するブレースに対して、圧縮側で33.1mまで一つのブレースで対応できるという性能証明を得ており、特許も取得しています。例えば33m×33mの天井であれば、配管やダクトを避けて任意の位置に一つのブレースを配置することで耐震性能が確保できるわけです。
     つまり「FMS天井」なら、ダクトや配管などが多い天井裏でも、それらが干渉しない位置にブレースを設置することが可能となるため、ほぼ全ての施設に耐震天井を設置することができるのです。
     現在は新たな挑戦として意匠性の向上に努めており、さらなる使用用途の拡張を図っています。今後も、場所を選ばず、安全で信頼性の高い天井を提供できるよう努めてまいります。

    2024年 優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    優秀賞(日本建築家協会近畿支部賞)
    「チヨダサーキュラせっこうボード」 チヨダウーテ株式会社

    ■廃石膏ボードの増加が業界課題となっている

     石膏ボードは、石膏に原紙を巻いたシンプルなつくりで、安価ながら施工性、寸法安定性に優れるため広く普及しています。
     また、石膏ボード1枚には、約20%の水が含まれており、約30坪の住宅なら石膏ボードに約780Lの水が蓄えられていることになります。このため火災時でも石膏ボードが一定温度を保つため、建物を火災から守ることができます。こうした優れた防火性能も石膏ボードが利用される要因となっています。
     一方で、廃石膏ボードの排出量増加が業界課題となっています。予測では2063年まで解体系廃石膏ボードの排出量が増え続ける見込みです。新築系廃石膏ボードのリサイクル率は約88%ですが、解体廃石膏ボードは約58%にとどまっています。
     環境配慮の観点から、原料となる石膏は今後減少していく見込みで、石炭火力発電所などから副生される石膏が減少し、天然石膏の輸入にも依存できなくなりつつあります。
     そこで今、廃石膏ボードの早期リサイクル拡大が求められています。

    ■特許技術で廃石膏ボードを新品ボードに水平リサイクル再生

    「チヨダサーキュラーせっこうボード」は、建築現場から回収した廃石膏ボードから改質した原料石膏を100%使った世界初のリサイクル石膏ボードで、ボード製造時の熱源に木くずチップを燃料としたバイオマスボイラー、電力についても太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使う実質ゼロカーボン石膏ボードです。
     廃石膏ボードのリサイクル事業については、(株)トクヤマとの合弁会社(株)トクヤマ・チヨダジプサムを2011年に設立し、2013年3月四日市工場内に廃石膏ボードリサイクル工場を整備したのを機に、2016年7月に千葉工場、23年9月には室蘭工場を増設し拡大しています。
     「チヨダサーキュラーせっこうボード」は、100%リサイクルだけではなく、製造時のC02排出量削減の取り組みにも力を入れており、工場では熱源のバイオマスボイラーに加え、再生可能エネルギー由来電力の採用を進めており、SuMPO環境ラベルプログラムでは、1平方メートルキロ当たりの排出量は1.1kg- C02eqとなっています。これは原材料調達、原材料輸送、製品製造までの環境評価となり、標準的な石膏ボードの数値と比べ約4分の1の水準です。
     発売から1年が経過し、生産量はまだ全体の数%にとどまるものの、環境志向の建築主や施工者を中心に非住宅分野で採用され始めています。また、価格も発売当初より約2割引き下げています。
     廃石膏ボードから新たな石膏ボードを生み出す水平リサイクル(ボードtoボード)の流れをこれからも広げていきたいと考えております。

    2024年 優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    優秀賞(大阪府建築事務所協会賞)
    「GAINAルーフ」 株式会社日進産業

    ■高性能ルーフ材と断熱塗料のコラボによる開発

     当製品は、暑さ寒さで物置にしかならないロフトや屋根裏を快適にし、寝室にも子ども部屋にもできるようにしようというコンセプトで開発しました。
     日進産業には「GAINA」という断熱塗料があります。日本初の省エネ大賞を受賞した建築用塗料であり、JAXAの技術を取り入れて民生建物用に開発した塗材です。これを利用して、ワールドチャンピオンルーフィングというルーフ材を開発した(株)チャンピオン様と共に開発したのが「GAINAルーフ」です。多くのゴムアスファルトルーフィングは可燃ですが、軟質弾性プラスチックの「GAINAルーフ」は止水性、難燃性共に高い製品です。

    ■エビデンスに裏付けられた確かな省エネ性

     「GAINA」は反射塗料ではなく断熱塗料です。反射塗料は大手を含めてメーカー各社が反射率で性能を表示していますが、反射率は1年程度で半減して効果が持続しません。冬場には取り入れなければならない日射の熱も反射してしまいます。当社の塗料は「夏涼しく冬暖かく」できる断熱塗料です。
     ある倉庫で、1,300㎡の屋根に「GAINA」を塗装しました。倉庫内では、数名の従業員が作業していますが、治安上ほとんど窓を設けておらず、エアコン4台でもなかなか涼しくならず、屋根を散水して冷やしていました。「GAINA」施工前、この倉庫の水道光熱費は、夏で約25万円、冬で約15万円でしたが、施工1年後には、夏は50%、冬は40%の水道光熱費が削減できました。施工1年目ならば、夏の削減率は、高性能の反射塗料でもほぼ近い結果になると思います。当製品は「夏涼しく冬暖かく」できる唯一の塗料であり、夏は熱をシャットアウトし、冬は室内の暖房による熱を逃がしません。なおかつ効果が10年間持続します。
     東京都立大学(首都大学東京:当時)との共同研究では、構内に同じ建物を2棟建て、一方は外壁、内壁、ルーフィングに「GAINA」、もう一方は一般塗料を施工して省エネ効果を検証。間取り、建築材料、塗り方(色も)は全て同じです。3年間継続した結果、夏は23.4%、冬は21.6%の省エネ効果が確認でき、「GAINA」のエビデンスも得られました。

    ■断熱材一切なしで夏は涼しく、冬は暖かく

     チャンピオン社とコラボしたのは、同社のチャンピオンリングルーフィングに「GAINA」を塗布すればいいのでは、という発想からです。
    「GAINAルーフ」は縦にスリットが入っており、この形状がメリットをもたらします。まず雨水がたまらず雨漏りを防止できること。そして上下に空気層ができるため屋根から野地板に熱が伝わりにくくなること。「GAINAルーフ」は熱エネルギーの移動を対流・放射・伝導の3点でコントロールする機能を持ち、一般のゴムアスファルトのルーフィングでこの性能は出ないという結果が当社の実験でも得られました。
     現地でフィールド実験も行いました。広島にある板倉工法の家で、瓦と野地板の間に「GAINAルーフ」施工し、サーモグラフィーで温度を計測しました。夏場の南側屋根瓦の表面が55℃のとき、天井の温度は約30℃でした。断熱材は一切入っていません。
     金属屋根でも検証しました。これも断熱材を一切入れず、金属屋根と野地板の間に「GAINAルーフ」を施工、南屋根温度が62℃のときに天井の温度は42.5℃。約20℃も温度上昇を抑えることができました。
     反射塗料は太陽光に向かって反射させないと性能が出ないのですが、「GAINA」自身が別の形で熱の移動を止めることができるので、日射の当たらない部分でも断熱が可能となります。
     これからも当社は「GAINAルーフ」で「夏涼しく冬暖かい」室内環境づくりに貢献してまいります。

    2024年 優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    特別賞(日本建築材料協会賞)
    「神ゼロガード」ゼロクロメート・ブランカ 株式会社神山鉄工所

    ■鉄製ねじをより高性能にする「ゼロクロメート」

     「神ゼロガード」は、鉄、ステンレスのねじに、それぞれ特殊な表面処理を施す技術で、耐食性、環境保護性、作業性を向上させた設計になっています。
     「ゼロクロメート」は鉄製ねじに処理するめっきです。環境に配慮した製品づくりで社会に貢献したいと考え、有害性のある六価クロムや三価クロムを使用しないめっきを開発することになりました。同時に耐食性もアップさせています。
     環境性能に関しては、クロムフリーと完全コバルトフリーを掲げています。三価クロメートめっきは建築でも一般的に使われているのですが、コバルト化合物を含有します。コバルトは今後規制が強まるので、将来も見据えて有害物質を使わない開発に努めています。2025年、RoHSの規制物質に7物質が追加されるとして検討が進んでいますが、その中に塩化コバルト、硫酸コバルトが含まれています。よって今一般的に使用されている三価クロメートは代替が進むと予想されています。
     「ゼロクロメート」処理を施した製品の外観は、三価クロメートとほぼ見分けがつかないので、ユーザーの方々に違和感なく置き換えを進めていただくことができます。
     ねじ締めトルクの試験を社内の試験機で行いました。その結果、「ゼロクロメート」は三価ユニクロと比べトルクのピークが30%減と作業性に優れ、施工の時間の短縮につながることが分かりました。
     薄膜であることも特徴の一つです。高耐食の表面処理(塗装系)では、ねじの十字穴に液が詰まり、それが粉になって落ちるためクレームにつながります。しかし「ゼロクロメート」は薄膜のめっき処理のため、塗装系特有の粉落ちが生じません。
     加えて耐食性。一般めっき処理である三価ユニクロは6時間、三価クロメートは72時間で白さびが発生しますが、これはJIS規格を満たす性能です。ところが「ゼロクロメート」はそれを大きく上回り、200時間を実現しています。塩水噴霧試験でも、「ゼロクロメート」頭部にさびが発生するのに1,248時間を要し、従来のねじよりも長時間にわたって耐食性を発揮しました。
     ガルバリウム鋼板に鉄のねじを打つと電食が起こりますが、こちらも三価ユニクロよりも高い耐電食性でした。塩害屋外地域での暴露試験では、犠牲防食効果で「ゼロクロメート」が鋼板の腐食を抑えました。

    ■ステンレス製ねじを焼き付かせない「ブランカ」

     続いてステンレス製ねじの表面処理「ブランカ」です。こちらも「ゼロクロメート」と同様に環境配慮から有害物質を使っておらず、耐食性も従来より大幅アップしています。ステンレス製ドリルねじはステンレスの中でも耐食性が低いSUS410を使用しているため、何とかねじの耐食性をアップさせたいと考えて開発しました。また、ステンレスに対する焼き付きを抑えたため、従来使用できなかったステンレス鋼板やハイテン鋼板にも対応可能です。
     塩水噴霧試験では11,500時間と、非常に長時間の耐食性が確認されました。加えて塩水噴霧より過酷な条件下で実施する複合サイクル試験でも、従来製品と比較して優れた耐食性を持つことが分かりました。暴露試験においても同様です。
     「ブランカ」でも同様に、ねじ締めトルクの軽減効果が見られ、これが作業者負担の軽減や施工時間の短縮を実現しています。焼き付きに強い「ブランカ」のドリルねじは、従来ドリルねじのように下穴を開ける必要がなく、一発で打ち込みが可能です。
     もしご興味をお持ちいただけましたらぜひご検討ください。

    2024年 優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    特別賞(日本建築材料協会賞)
    「KMEW耐火シート」 ケイミュー株式会社

    ■担い手の減少という課題を施工性で解決したい

     当社の事業は、屋根材事業、外壁材事業、雨とい事業の三つに大別されます。今回受賞した「KMEW耐火シート」は、外壁材の部材として開発された製品です。
     現在、建設業就業者の減少や高齢化が問題視されています。そのような状況に対し、建材の施工性向上、工期短縮などの方法で社会に貢献することが、建材メーカーとしてのミッションであると考えています。
     そこで開発したのが「KMEW耐火シート」です。サイズは1,870×1,004mmミリで厚さわずか0.7mmという非常に薄いシート状の建材です。非常に薄いシートですが、火災時の熱により発泡することで、熱の伝達を抑制、耐火性の向上に貢献します。
     こちら、当社の外壁材事業で扱っている窯業系サイディングと「KMEW耐火シート」、そして透湿防水シート、石膏ボードと組み合わせて、外壁の1時間耐火構造の大臣認定を取得しております。

    ■軽量で体積は石膏ボードの5%、工期4割減

     サイディングの耐火構造はこれまで石膏ボードに大きく依存している部分がありました。しかしながら石膏ボードは1枚当たり約20kgと非常に重く、工事作業者には大きな負担になっていました。一方「KMEW耐火シート」は1梱包10枚で16kgと軽く、柔軟性もあるので丸めて運搬することができます。
     0.7mmという薄さを実現したことで、カッターで簡単に切断加工することができ、足場上でも細かい加工が容易に行えます。施工性も優れており、薄いのでタッカー(建築用のホチキス)で簡単に留め付けることができ、工期短縮にも貢献できると考えます。
     建設現場での搬入・仮置き時の様子を通常の石膏ボードと比較してみました。石膏ボードは厚みもあり、現場の規模にもよりますが、一つの現場でも複数回に分けて搬入することが多いでしょう。しかし「KMEW耐火シート」なら、石膏ボードの5%のボリュームしかないので、搬入は1回で済み、置き場もわずかなスペースしか必要としません。
     このように運搬性、加工性、施工性に優れる「KMEW耐火シート」を用いた外壁1時間耐火構造認定は、従来の認定よりも工期を短縮することができます。建設業界の抱えるさまざまな課題解決に資するのではないでしょうか。
     「KMEW耐火シート」を用いてシミュレーションを行いました。石膏ボード2枚張りの工期が10日かかると仮定したとき、石膏ボード+「KMEW耐火シート」を用いれば6.5日となり、4割近い工期削減が可能となります。
     また、建設現場で発生する廃材の量に関しても、当製品なら抑えることができます。そもそも厚みが薄いため、重なりを調整しながら施工することで廃材を少なくすることができ、元の体積が少ないことで、最終的な廃材量も削減できます。石膏ボードとの比較では、20分の1程度まで抑えられることが分かりました。

    ■キーワードは運搬性、加工性、施工性のよさ

     最後に本商品のポイントをキーワードで振り返ります。「KMEW耐火シート」のポイントは運搬性、加工性、施工性のよさであり、工事作業者の負担を軽減することができ、工期の短縮に貢献します。そして建設現場において廃材発生量を抑え、同時に置き場の省スペース化でクリーンな建設現場を実現します。
    ただ、コスト面の問題でまだご利用が少ない状況です。しかし工期短縮や、現場の負担軽減、人材確保といった点を考えれば、トータルではコストメリットにつながると考えております。

    2024年 優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    特別賞(日本建築材料協会賞)
    「匠能登ひば ひばデッキ」 株式会社ムラモト

    ■古い歴史を持つ、能登生まれの木材

     能登ひばは石川県の県木でもあり、当社は「匠能登ひば」と銘打って能登ひばの商品を販売しています。
     ひばが有名なのは青森県ですが、青森ひばは伐採の制限などの理由もあって非常に高価な木材となっています。こうした背景から、そこまで高価ではない能登のひばが比較的使いやすいということで、注目されつつあります。
     能登ひばをご存じない方も多いかと思いますが、歴史的にとても古い材料です。古い話では12世紀に東北地方から持ち込まれたという説があります。また、17世紀に加賀藩の藩主が青森県から苗木を取り寄せたという説もあります。ただ、能登半島で発掘され縄文時代の遺跡から能登ひばの木材が発見されているので、やはりこの地域に昔から自生していたのではないか、などいろいろな説が語られているわけです。

    ■強く優しく加工しやすい、リーズナブルな国産材

     能登ひばは、一般住宅の構造材やフローリング、羽目板、浴室など使用されます。歴史的建造物では金沢城の菱櫓や五十間長屋、河北門にも使用されています。
     今回受賞したのはこの能登ひばを利用したデッキ材「ひばデッキ」です。サイズは120mm幅の30mm厚、長さが1,950mmで4角をアール加工して肌触りよく仕上げてあります。
     特徴は5点。一つ目は耐久性です。水気、湿気、シロアリにも強いとうのがひば本来の性質です。
     二つ目がヒノキチオール。ひばは腐朽菌やカビ類など雑菌類の繁殖を抑えるヒノキチオール非常に多く含んでいるのですが、実はその量がひのきより多いのです。
     三つ目、白太が極端に少ないこと。ひばの特徴である白太が薄く、ほとんどが中心の赤身部分で、私たちは総赤身とも呼んでいます。赤身の部分は耐久性が高いので、材料として非常に強いものになっています。
     四つ目は、針葉樹なので広葉樹より柔らかく、大工など施工者にとって加工しやすいこと。柔らかい分、足触りも優しくなっています。
     五つ目が、外国材と比較してリーズナブルであること。最近は外国材の値段が上がっているので、耐久性の高い国産材はリーズナブルで使いやすいと思います。
     また、見た目では分かりませんが、ひばの心地よい香りに包まれます。

    ■復興支援のために能登ひばを使ってほしい

     今年1月1日に能登半島地震が起こりました。この地震で、輪島市にある能登ひばの原木の製材所が被災してしまいました。社屋や倉庫など、製材所の部分は全て倒壊しています。今はどうしているかといいますと、材料をつぶれた 倉庫などから引っ張り出し、2時間半~3時間ぐらいかけて金沢市内まで運んで加工しているという状態です。
     ここからはお願いです。私たちも前述の製材所はじめ被災地にボランティアで片付けにも行きました。ただ、能登はこれから、被災した状態から復興に向けてまだまだ時間がかかると思います。私たちムラモトとしても、一体何ができるのだろうかと考えます。
     もちろんボランティアに行くなどの活動をしてはいるのですが、ここからは長期戦になるので、やはりこの材料を、少しでも多く販売し、使ってもらうことしかないと思っています。
     デッキ材だけでなく、フローリングも羽目板もありますので、ぜひ使っていただければと思います。そして使ってくださった施主さまに、それが間接的な復興支援になっていることを伝えれば、きっと喜んでいただけるのではないかと思います。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -