総工費140億円をすべて寄付でまかなって建設
大阪モノレール・万博記念公園駅を下車し、同様に昨年秋完成した日本最大級の大型複合施設「EXPOCITY」を見ながら歩いていくと、市立吹田サッカースタジアムが眼前に迫ってきます。地上40m、縦・横・斜め3方向に鉄骨トラスがかかった、約23,000uの巨大な屋根が存在感を際立たせています。今回は、指定管理者である株式会社ガンバ大阪の企画・運営グループスタジアム建設担当、本間智美さんにご案内いただきました。
スタジアムは、「日本初の『みんな』でつくるスタジアム」と銘打たれたように、約140億円の総工事費が全て寄付でまかなわれたことでも話題になりました。
従来のホームスタジアムである万博記念公園陸上競技場はかなり古くなっていました。サッカーファンやサポーターの「大阪にサッカー専用スタジアムをつくりたい!」の思いがついに実現したのです。「まず関西の財界、サッカー界、ガンバ大阪が中心となって組織する『スタジアム建設募金団体』が一般市民や企業などから寄付を募りました。寄付で集めるにはものすごい金額ですから、当社社長も先頭に立って、関係者ともども一所懸命になって募金運動に奔走しました。竣工後は吹田市に寄贈し、当社が指定管理者として運営しています」と本間さんが説明くださいました。
海外11カ所を視察、徹底した観客目線の設計
同スタジアムで特徴的なのは、徹底的に観客・サポーターの立場で設計されていることです。もともと敷地面積が狭かったため、国際規格の「収容人数4万人」を満たすサッカー専用スタジアムとしては驚くほどコンパクトな構造です。客席とピッチ間が最短7mの近さは欧米のスタジアム並みで、臨場感たっぷり。後方の席でも見やすいようにと、すり鉢状に高くなっていく座席の勾配は最大35°で、前に座る人の存在が全く視界を遮りません。
「後ろにいくほど角度をつけたことによって、ピッチからの高さはありますが、距離は非常に近く、たとえ最後列でも全然遠く感じないんですよ」と本間さん。実際に座ってみるとそれが実感できます。ピッチからの水平距離は、日本最大のスタジアム・日産スタジアム(横浜市)の最前列とこのスタジアムの最後列で同じくらいというから驚きです。
選手のベンチがスタンドと一体化しているため選手との距離が近いのも、観客にとってはうれしい部分です。旧スタジアムでは32席しかなかった車椅子スペースは、300席に増えました。ぐるりと回遊できるコンコース、2,000席のVIPエリア、調度品にこだわった高級感あふれるVIPラウンジを設けたことによって、飲食をしたり会話を楽しんだりしながらゆったりとした気分で観戦するという、ヨーロッパのような多様な観戦スタイルも可能になりました。
「ヨーロッパでは、スタジアムのVIPルームが社交の場としても利用されています。コンコースやVIPエリアはサッカー観戦以外のイベント利用も積極的に進めていく予定で、試合がなくても人でにぎわっているスタジアムを目指したいと思っています。国内はもちろん、ヨーロッパでも11カ所のスタジアムを視察して回り、いいところを一つでも多く取り入れるように努めました」。視察には設計担当者も同行し、本間さんたちが感じる「ここをこうしたい」という思いを一つひとつ伝えて設計に反映しました。
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