2007けんざい
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けんざい242号掲載




上から見たアクロス福岡

アクロス福岡
 
階段状の斜面に緑があふれ、滝が流れる屋上庭園。そこにあるのはまぎれもない本物の山。1995(平成7)年、福岡の中心地・天神の旧県庁舎跡地に、巨大な屋上庭園を持つ多機能複合施設・アクロス福岡が誕生しました。一方からはシャープなオフィスビルに見え、反対側からは山に見えるという、ユニークな姿をした建物です。「都会で山を育てる」という壮大な計画は、18年を経た現在、どんな段階にきているのか……興味津々で取材に訪れてみました。 
都会の真ん中に突如現れる大きな山の正体は?

「けんざい」編集部



 ビルが立ち並ぶ、九州最大のオフィス街・福岡市の天神地区。鮮やかな芝生の緑が目にまぶしい天神中央公園を散策しながら北の方に目をやると、そこには山がありました。都会の真ん中にそびえる山……なんとも不思議な風景です。この山の正体は、大規模公民複合施設「アクロス福岡」の南側緑化面でした。

 アクロス福岡は、「国際・文化・情報」をコンセプトに、「アジアに向けて開かれた福岡の新しい都市施設」として1995(平成7)年に完成しました。地下4階・地上14階で、賃貸オフィス、店舗、コンサートホール、多機能ホールなどが入った公民複合施設です。

 自然の山を思わせる南側の外観とは対照的に、オフィスが大部分を占める北側の外観は、アルミカーテンウォールで仕上げた、極めて直線的な印象です。福岡市のメインストリート・明治通りの都会的な景観によくなじんでいます。このように、ビジネス街と都市アメニティゾーンという二つの正面性を持っていることも、アクロス福岡の大きな特徴です。

120種・5万本の植栽を擁する巨大屋上庭園

 今回の取材の最大目的は、南側の“山”にあります。斜面が階段状なので「ステップガーデン」という名前がついていますが、人々はこれを「アクロス山」と呼んで親しんでいます。同ビルを管理するエイ・エフ・ビル管理株式会社の総務部課長補佐・川野厚子さんが、山登りのガイドを、もといステップガーデンの案内をしてくださいました。

 「この大規模な屋上緑化の目的は、建物自体を天神中央公園と一体化し、訪れる人々に潤いと安らぎを与える都会のオアシスを創出することです」と川野さんは言います。植栽の刈り込み手法によって、実際に公園の緑が最上階まで連続しているように見えるから不思議です。ステップガーデンは誰でも無料で入ることができます。しかしビル側からではなく、南面の外側から階段で登っていく必要があるため、本当にちょっとした山登り気分です。

 2階から14階までの屋上緑化面積は5,400m2。植栽は約120種・5万本程度というから驚きです。「この山は成長しているんです。当初は76種・37,000本でしたが、徐々に補植したり、野鳥が運んだ種で樹種が増えたりして、今に至ります。最終的には300〜400種にするのが目標です」と川野さん。

 「自然の山の姿」を重視しているため、決して大バサミで刈るようなことはせず、小バサミで丁寧に手入れをします。薬は一切使っていないので、害虫なども全て手で捕獲。落ち葉や雑草なども取り除かず、できるだけ自然の山のような地面をつくり出しています。そのせいか、本物の山のにおいがして、まるで緑深い山道を歩いているような錯覚に陥ります。

 さらに感心したのが、排水・灌水システム。雨水は厚さ50cmの人工土壌に吸収・保水されますが、降水量が多いときは、余った雨水が少しずつ階下に落ち、地表面の植込みや池に流れます。これも自然の山の排水システムにならっているそうです。地下4階には600tの雨水を蓄える貯水槽があり、うち300tはビル内のトイレに、残り300tは植栽への散布に使われています。実際は人工土壌の保水力のおかげで、日常降る雨水だけで植栽の水をまかなうことができます。

 





直線的なファサードを持つモダンなビル

ステップガーデン側出入り口

高さ58.4mの吹き抜けを持つアトリウム






日射熱をさえぎり、周囲に涼をもたらす

 さて屋上緑化といえば、夏場の遮熱やヒートアイランド緩和の効果が気になるところ。川野さんは「アクロス福岡の周囲10mの気温を東西南北面で計測したデータでは、本来なら最も高温になる南面が、植栽の効果によって最も低温になっていました。サーモグラフィーでも、コンクリート面と植栽面では10℃近い差がはっきり見て取れます」と説明してくださいました。

また、九州大学の興味深い調査結果がありました。夜間、ステップガーデンの斜面から、放射冷却によって冷やされた空気が冷気流となって降りてきて、公園や周辺のまちを冷やしていることが分かったそうです。これは山の斜面で見られる現象です。アクロス福岡の設計時、冷気流は意識されていなかったといいますから、想定外の効果だったわけですね。

 そんな話を聞いているうちに、14階の山頂に到着しました。上から見下ろすステップガーデンは、“登頂”の達成感とあいまって、最高の眺めです。四季折々の変化を楽しめるよう工夫をこらして構成された植栽は、日ごとに表情を変化させていきます。今はもう、すっかり秋の彩りです。

 「建築物は必ず老朽化しますから、アクロスもいつかはその使命を終えるときがきます。“都会の山”であるステップガーデンで育った木々は、そのときが来たら、本物の山に帰します(移植する)」。人々に憩いを、そして都会の夏に涼をもたらす「アクロス山」。10年後、20年後、さらにその先、どんな姿を見せてくれるのか、とても楽しみです。

 

 



竣工当時はまだコンクリートが目立った

ステップガーデンの一般散策道

ステップガーデンとトップライト

1,871人を収容するシンフォニーホール ©ACROS FUKUOKA

6カ国語同時通訳設備を持つ国際会議場 ©ACROS FUKUOKA


 

 



アクロス福岡/

所在地:福岡市中央区天神1-1-1
TEL:
092-725-9111
URL:
http://www.acros.or.jp/


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