ビルが立ち並ぶ、九州最大のオフィス街・福岡市の天神地区。鮮やかな芝生の緑が目にまぶしい天神中央公園を散策しながら北の方に目をやると、そこには山がありました。都会の真ん中にそびえる山……なんとも不思議な風景です。この山の正体は、大規模公民複合施設「アクロス福岡」の南側緑化面でした。
アクロス福岡は、「国際・文化・情報」をコンセプトに、「アジアに向けて開かれた福岡の新しい都市施設」として1995(平成7)年に完成しました。地下4階・地上14階で、賃貸オフィス、店舗、コンサートホール、多機能ホールなどが入った公民複合施設です。
自然の山を思わせる南側の外観とは対照的に、オフィスが大部分を占める北側の外観は、アルミカーテンウォールで仕上げた、極めて直線的な印象です。福岡市のメインストリート・明治通りの都会的な景観によくなじんでいます。このように、ビジネス街と都市アメニティゾーンという二つの正面性を持っていることも、アクロス福岡の大きな特徴です。
120種・5万本の植栽を擁する巨大屋上庭園
今回の取材の最大目的は、南側の“山”にあります。斜面が階段状なので「ステップガーデン」という名前がついていますが、人々はこれを「アクロス山」と呼んで親しんでいます。同ビルを管理するエイ・エフ・ビル管理株式会社の総務部課長補佐・川野厚子さんが、山登りのガイドを、もといステップガーデンの案内をしてくださいました。
「この大規模な屋上緑化の目的は、建物自体を天神中央公園と一体化し、訪れる人々に潤いと安らぎを与える都会のオアシスを創出することです」と川野さんは言います。植栽の刈り込み手法によって、実際に公園の緑が最上階まで連続しているように見えるから不思議です。ステップガーデンは誰でも無料で入ることができます。しかしビル側からではなく、南面の外側から階段で登っていく必要があるため、本当にちょっとした山登り気分です。
2階から14階までの屋上緑化面積は5,400m2。植栽は約120種・5万本程度というから驚きです。「この山は成長しているんです。当初は76種・37,000本でしたが、徐々に補植したり、野鳥が運んだ種で樹種が増えたりして、今に至ります。最終的には300〜400種にするのが目標です」と川野さん。
「自然の山の姿」を重視しているため、決して大バサミで刈るようなことはせず、小バサミで丁寧に手入れをします。薬は一切使っていないので、害虫なども全て手で捕獲。落ち葉や雑草なども取り除かず、できるだけ自然の山のような地面をつくり出しています。そのせいか、本物の山のにおいがして、まるで緑深い山道を歩いているような錯覚に陥ります。
さらに感心したのが、排水・灌水システム。雨水は厚さ50cmの人工土壌に吸収・保水されますが、降水量が多いときは、余った雨水が少しずつ階下に落ち、地表面の植込みや池に流れます。これも自然の山の排水システムにならっているそうです。地下4階には600tの雨水を蓄える貯水槽があり、うち300tはビル内のトイレに、残り300tは植栽への散布に使われています。実際は人工土壌の保水力のおかげで、日常降る雨水だけで植栽の水をまかなうことができます。
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