けんざい238号掲載
大阪府立近つ飛鳥(ちかつあすか)博物館 現代の私たちが生きるこの地域に、太古の人々も同じように暮らしていました。家族を築き、社会を築き、一生を終えました。今も残る古墳は、そんな彼らの生きた証しです。「近つ飛鳥」と称される大阪府南部の地域には、 日本でも有数の古墳群が存在します。 近つ飛鳥の遺跡で発見された数々の出土品を収めたのが、今回紹介する「近つ飛鳥博物館」。安藤忠雄氏の名建築がかもし出す、太古のロマンを体験してきました。
「けんざい」編集部
■深い森に眠る古墳群を見渡す博物館 木々が深く生い茂る、曲がりくねった山道を歩いていると、重なり合った枝のすき間から白く大きなものが見え隠れし始めます。 そして視界が開けると、突如目の前に現れるコンクリートの不思議な物体。大阪府立近つ飛鳥博物館です。 大阪府の古墳の宝庫、南河内。奈良県との県境に位置する河南町・太子町にある史跡公園、「近つ飛鳥風土記の丘」には、 日本を代表する群集墳・「一須賀(いちすか)古墳群」 が保存されています。 公園といっても、イノシシやマムシが日常的に出没する、自然あふれる深い森におおわれています。 29haの園内には6世紀前葉から7世紀前葉の古墳が、確認されているものだけでも102基、群をなすように集まっています。園内の山道を散策していると、積まれた岩や小高い盛り土がそこここに見受けられます。 これは全部、千数百年前の古墳なのです。 これら貴重な遺跡の調査・研究の成果を展示し、教育的価値を付与した施設として、1994(平成6)年、園内の一角に近つ飛鳥博物館が建設されました。 設計は、大阪生まれの世界的建築家・安藤忠雄氏。コンクリートの質感と個性的な造形が特徴です。一見無機質なコンクリート建築ですが、多数の古墳が眠るうっそうとした山林の中にあって、その自然になぜか溶け込んでいるのも安藤建築の独自性でしょう。 同館企画管理課課長の川中秀樹さんはこういいます。「来館者の方々は、やはり博物館の建物自体に驚きの声をあげられますね。でも、見慣れてくると、この異質で奇抜な形が風景と溶け合っていることがわかるんです。不思議ですね」。 ■人を黄泉の国へといざなう 「現代の古墳」 安藤氏は、この博物館の姿を 「古墳と同じく空に向けたファサードの表現」を持つ「現代の古墳」と表現しています。 確かにそう思って見ると、なんだか巨大な遺跡のように見えてきます。 墳墓と同じように、出土した埋葬品を保存した展示室の大部分を地下に埋設し、 階段状の屋根で覆っています。 この階段も、まるで墳墓の斜面を思わせます。そして湾曲する壁面。 これらが周囲の起伏によくなじんでいるのです。 階段屋根の中央には、窓のない大きな塔(30m)がそびえています。 その名も 「黄泉(よみ)の塔」。 黄泉は、古事記や日本書紀などで描かれる死者の国のことです。安藤氏は、「建物内部に入るとき、人々は古墳内部に入っていくのと同様な感覚を体験できる。それは古代の黄泉の国への旅である」 と語っています。 わくわくしながら中へ……というのも少し変ですが、古代、死者の住みかとなった古墳内部に入るというのは、何かしらロマンを感じます。
大阪府立近つ飛鳥博物館/
所在地:大阪府南河内郡河南町大字東山299番地TEL: 0721-93-8321 URL: http://www.chikatsu-asuka.jp/