けんざい233号掲載
大阪ステーションシティ(大阪駅開発プロジェクト) 東京や名古屋の友人が大阪に来るとしたら、どこに案内しますか? 道頓堀? 中之島? 大阪城? でも、これからは迷わずに「大阪ステーションシティ」を挙げることにしましょう。南北2つのビルと大屋根が作り出す巨大な空間は、大阪の正面玄関にふさわしい壮大さ。そこには、いつもと少し違う時間が流れています。日常と非日常との不思議な調和が、このシティの一番の魅力なのかもしれません。 「けんざい」編集部
■「都市」になったターミナル駅 大阪の都心で、こんな広場に出会えるとは思っていませんでした。 降り注ぐ陽光を遮りながら、それでも明るい吹抜のフロア。その上方には、巨大なドーム屋根が、白いトラスの骨組みに支えられて、悠然と広がっています。連なる銀色の列柱には、鮮やかな小旗がなびき、柱の上には軽やかな銀のオブジェが風に揺れています。 ここは、生まれ変わった大阪駅を象徴する「時空(とき)の広場」。6つある大阪駅のプラットフォームをひとまたぎにする、雄大な空中広場です。 広場の南北には、この場所を象徴する2つの大時計が、金と銀の輝きで訪れる人を見守ります。その足元のベンチでも、多くの人々がゆったりと時を過ごしていました。大阪駅のような巨大ターミナルで、こんな風景に出会うのは始めてです。 「時空の広場」の両側にそびえるのは、JR大阪三越伊勢丹や専門店街LUCUAなどが入るノースゲートビルディング、大丸大阪梅田店とホテルグランヴィア大阪を中核とするサウスゲートビルディングです。ことに、ノースゲートビルの中央にある8層吹抜のアトリウム広場は圧巻。何人もの人が、上を見上げてはカメラや携帯電話で撮影をしています。 この駅では、見るもの触れるもの体感するものが、すべて発見と驚きに満ちています。そこにあるのは、通過点としての駅を超えた、都市そのものとしての駅体験。「大阪ステーションシティ」という新名称が、なるほどと納得できました。 ■当初は計画されていなかった「大屋根」 今回の大阪駅開発プロジェクトを進めてきたお一人、大阪ターミナルビル株式会社の江本達哉常務取締役・企画部長にお話をうかがいました。 実は大阪駅の改良は、1988(昭和63)年、JR各社の民営化が終了した時点で検討が始まっていたそうです。本格的なプロジェクト始動は、2001(平成13)年の秋。隣接する梅田北貨物ヤードの移転が、その2年前に本決まりとなり、梅田エリアの大々的な開発計画が求められるようになってからといいます。 当初の方針は、「西日本最大の乗降客を誇る駅にふさわしく、大阪の玄関口全体を見据えたプロジェクトにすること」。とはいえ、最初の計画案はとてもシンプルだったといいます。 「たとえば、あの大屋根は最初、予定されていませんでした。サウスゲートビルの建設も、課題の認識はあったものの、当時は具体的な議題にのぼっていなかったわけです」。 当初の計画案で決まっていたのは、大阪駅北側に百貨店を中核施設とする新ビルを建てること。それが、ここまでの規模に拡大したのは「月並みな言いかたかもしれませんが、めぐり合わせですね」。関係者が議論し合い、知恵を出し合ううちに、これだけの規模に育ったといいます。核心にあったのは、「駅の南北を一体とする」開発方針でした。 「今まで、駅の再開発といえば、どこかの出入口に重点をおいて、新しいビルや施設を造るという手法が多かったのです。しかし、長いホームといくつもの線路が入り込む大阪駅で、そうした再開発を進めると、街を分断することにもなりかねません。それを解決したのが、駅の南北を結ぶ『時空の広場』の発想です」。 ■街を結び、人を結ぶ「時空の広場」 「時空の広場」は、ユニークな存在です。駅の中に、これほど大きな広場があるのですから。「もったいない、という意見はなかったのですか」とうかがうと、江本部長は笑っておっしゃいました。 「いや、何もない場所だからいいんだと、私は思っています。無理に用途を決めていないから、逆にいろいろな形でご利用いただける。広場というのは、都市の大切な要素ですが、こういう場所がほとんどなかったのが、今までの大阪だったと思いますよ」。 実際、この「時空の広場」ほど、人が集まっている場所はないでしょう。北から南へ、南から北へと歩く人以外にも、立ち止まる人、座る人、屋根を見上げる人、ホームを見下ろす人と、いろいろな人の姿が見られます。欧米の都市でよく見かける「広場」の姿が、そこにはありました。 「せっかくのスペースですから、今後はいろいろなイベントも企画してみたいですね」と江本常務。すでに、センチュリー交響楽団による演奏会などが開かれましたが、今後は全部で8つある広場ごとに、性格の異なるイベントも検討してみたいといいます。 「大阪とひと口にいっても、キタとミナミ、天王寺では雰囲気がかなり違っていて、それが大阪全体の個性になっています。各広場のイベントも、同じような発想で考えられないかと思いますね」。それぞれのスペースが、さまざまなイベントに彩られるとき、この駅はますますシティに近づくに違いありません。
「天空の農園」のぶどう園
大阪ステーションシティ/
所在地:大阪市北区梅田3 TEL:06-3458-0212(大阪ステーションシティ 北インフォメーション) URL: http://osakastationcity.com/