2007けんざい
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けんざい226号掲載


阪神甲子園球場

 「聖地」という言葉がいちばん似合う場所──それが阪神甲子園球場でしょう。関西人の私にとって、春夏の高校野球も阪神タイガースの活躍も、この球場なしにはイメージできません。長らくツタにおおわれていたその「聖地」が最近、美しくスマートに変身したと聞きました。何がどんな風に変わったのか、本誌の山中編集委員長にご一緒していただき、取材にうかがいました。
東リ株式会社  越智 篤子 


「聖地の中の聖地」グラウンドに立つ
 「こちらへどうぞ」と案内され、階段を上がったそこに「聖地の中の聖地」がありました。
 ここは、阪神甲子園球場のグラウンド。広々とした青空をバックに、外野の鮮やかな芝生、ダイヤモンドの黒い土、客席の濃緑色が、どっしりした存在感を見せています。たくさんの高校球児たち、タイガースの名選手たちが踏みしめた場所に立っていると思うと、身体が震えるようでした。
 振り返ると、甲子園のシンボルのひとつ、大銀傘が広がっています。「ガリバリウム鋼板を使い、内野席全体を覆うように面積を拡大しました」と、案内してくださったのは、阪神電気鉄道株式会社甲子園事業部主任の村山さん。支柱のない巨大な銀傘の下にライナービジョンが走り、内野席が整然と広がる光景は、まるで、本場大リーグの球場のようです。
 それにしても、両翼95m、センター118mのグラウンドは、想像以上の広さです。ピッチャーが投げるマウンドもはるか遠くにあるよう。選手たちは、これだけの距離を投げ、打ち、走るのですね。
 「一連のリニューアルでも、このグラウンドだけは手を加えていません」と村山さん。なぜなら、ここが甲子園の伝統の原点だから。「普通の野球場なら、すべて変えてもいいでしょう。変わらないものがあるからこそ、甲子園は『聖地』なのです」。


85歳を迎えた、日本最初の本格球場
 阪神甲子園球場が生まれたのは、85年前の1924(大正13)年。当時、阪神電鉄はこの一帯で、高級住宅地の開発を進めていました。「ちょうど中等学校野球(今の高校野球)が盛り上がっていた時期で、多くの観客が入れる野球場が計画されることになったようです」。
 国内では誰も見たことのない本格球場。しかも、現地は武庫川の支流の廃川跡です。地盤もいい状態ではなかったはずですが、着工からわずか5カ月で球場は完成。ちょうど十干十二支の最初である甲子(きのえね)にできたので、「甲子園」と名づけられました。
 「当時は、陸上競技などにも使えるように、今より大きなグラウンドでした。日米野球で来日したベーブ・ルースが"でかすぎる"と驚いたそうです」。
 観客席も当初は内野席だけでしたが、やがてアルプス席、外野席と整備され、鉄傘も設置されます。建物内には、屋内プールや貴賓室まであったとか。中等野球に加え、プロ球団・大阪タイガースも設立され、戦前の甲子園には多くの野球ファンが集まります。
 「いちばん大変だったのは、戦争中でしょうね。鉄傘は供出、グラウンドはイモ畑だったそうです」。戦後も米軍による接収が続き、ふたたび野球が開催されたのは、実に1947(昭和22年)だったとか。今日に続く「聖地」甲子園の戦後史は、このときから始まったのですね。



きめ細かく用意された車イススペース


座席下に荷物置きスペースのある外野席


元はプールだった3塁側屋内練習


内野席をおおうガリバリウム鋼板性の大銀傘

家族や友人連れで楽しめるボックス席

バックスクリーン下のココナッツ
ガーデン

ホテルのようなロイヤルスイートも
 戦中・戦後を生き抜き、阪神・淡路大震災でも致命的な損傷を受けなかった甲子園球場。しかし「建設から80年以上がたち、全体に老朽化が目立っていました。そこで、施設の安全性向上を目的として、リニューアル計画が持ち上がったわけです」。詳細な検討の末、基本構想が固まったのが2005(平成17)年11月。2007(平成19)年から、第1期工事に着手しました。
 リニューアルのコンセプトは3つ。「『歴史と伝統の継承』として、グラウンドやスコアボードを継承する一方、ツタの再生や銀傘の架け替えを実施。『安全性の向上』として、耐震補強を行いました」。特に、ツタの再生では、改修前のツタからとった苗を全国の高校に育ててもらったものも一部植えています。「10年もすれば、昔のように外壁全体を覆ってくれますよ」。
 もうひとつのコンセプトは『快適性の向上』。特に、座席には大改修が加えられています。「床の傾斜を緩和し、座席の前後幅を広げた上、通路を増やして出入りしやすくしました」。ゆったりした内野席。樹脂製ベンチで一新されたアルプス席と外野席。車イスのまま観戦できるバリアフリー席やオストメイト対応トイレなど、バリアフリー対策も充実しています。
 「グラウンドそばの特別シートは、年間予約制ですが臨場感が自慢。テレビのある3塁側のボックス席は、家族連れや友人同士でどうぞ」。驚いたのは、バックスクリーン下のガーデンカフェ。ホームランが飛び込んだら、飲食代は無料だそうです。明るいトイレや廊下、授乳室など、女性への行き届いた配慮も新鮮でした。
 美しい内外野席から記者席まで案内してくださった村山さんが、最後に見せてくださったのが、33室のロイヤルスイート。銀傘の真下にある法人だけの特別席です。専用エレベーターを降りると、静かな廊下が続き、ホテルのような個室が連なります。内部はまさに特等席。ホテル仕様のソファでくつろいでもよし、外の座席から声援を送ってもよし。食べ物や飲み物は、すべてサービススタッフで対応するそうです。評判はどうですか、と村山さんにうかがうと「おかげさまで、今年はすべて完売でした」。さすがは、阪神タイガースの本拠地とうれしくなりました。
 最後に、今後の甲子園への思いをうかがうと、「時代に応じてどんどんチェンジしながら、伝統も大事に保っていく。古い甲子園と新しい甲子園のよいところを受け継ぎながら、長生きしてほしいですね」と村山さん。まずは100年のお祝いをぜひ、と思いつつ、球場をあとにしました。



ホテルを思わせるロイヤルスイートとその眺望



山中委員長(左)、村山主任(右)
と共に

阪神甲子園球場/

所在地:西宮市甲子園町1-82
TEL:0798-47-1041
URL:http://www.hanshin.co.jp/koshien/
竣 工:1924(大正13)年


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