2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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けんざい221号掲載


 中部地区の動向は、建築の世界でも注目を集めているようです。個々の建物に息づく、さまざまな工夫とこだわり。その奥に流れているモノづくりの精神が、私たちの心に新たな印象を刻むせいでしょうか。戦前の名建築とされる「愛知県庁舎」、最新の複合ビルである「ミッドランド スクエア」のいずれにも共通していたのは、「少しでもよりよいモノを目指したい」という人々の変わらない熱意かもしれません。

社団法人日本建築材料協会事務局 木絢子

お城を思わせる重厚な建築「愛知県庁舎」

 名古屋駅から車で、愛知県庁へ。大通りの角を曲がると、クラシックな建物がすぐ視界に飛び込んできました。初対面でもすぐ分かる、堂々たる風格です。
 車から降り立つと、改めてその重厚さが迫ってきました。正門と1階はどっしりした御影石。2階から5階は褐色タイル、6階は白のタイルで仕上げられ、その上にお城のような唐破風の屋根が載っています。重々しい緑青色の銅瓦が、かえって新鮮です。
 中へ入ると、高い廊下の床や壁は、丁寧なタイル敷き。上下に開閉するスチールサッシの窓、御影石の踏み段と大理石の手すりを持つ階段、昭和初期風の字体の階数表示板などにも、時代が感じられます。
 建設部建築担当局公共建築課長補佐の松原さんと主査の武田さんによれば、庁舎建設の決定は1933年(昭和8)で、着工は1935年(昭和10)秋。延べ18万人以上の人員と約200万円の工事費を費やし、現在の帝冠様式の県庁舎が生まれたのは、1938年(昭和13)とのこと。戦争中は銅瓦の供出、迷彩色の採用といった困難にも会いましたが、戦後まもなく復元され、生き残ったのが現在の庁舎です。
 欧米風のビルの上に和風の瓦屋根を載せた独特のスタイルは、帝冠様式と呼ばれています。「戦時下という時代背景、信長・秀吉・家康を生んだ県の歴史も理由ですが、すぐ近くの名古屋城天守閣との調和も考慮されたのだと思います」。
 風景の中の建築というこの観点は、現在も愛知県の街づくりに生かされ、「愛知まちなみ建築賞」というユニークな制度を生み出しました。担当部局の公園緑地課長・山下榮一さんによれば、「建築単独のデザインではなく、その周囲の景観と調和して、新しい価値を生み出しているかどうかが審査基準」とのこと。昨年までの15回で、100件以上の建築が賞を受け、愛知県の景観に新たな可能性を生み出しています。

豪華そのものの貴賓室

 70年の歳月を経た今も、庁舎内はよく昔の面影をとどめています。たとえば、お城を思わせる瓦屋根の正面塔屋。コンクリート造りにもかかわらず、細部まで丁寧に仕上げられています。最上部の白タイルは、お城の白壁をイメージして選ばれたといいます。
 ここの階段は、踏み段まで大理石製。もとは全階段がこうだったと聞かされ驚きました。あまりに磨耗しやすいので、他はすべて御影石に取り替えられたのだとか。この庁舎にかけた人々の想いが分かります。
 さらに驚かされたのが、5階の貴賓室。美しいドアを開き、室内へ導かれたとたん、ため息がもれました。
 中央の主室、その両側の控え室とも、漆喰仕上げの天井と文様を織り出した高級な壁紙、ウッドタイルを敷き詰めた床で統一されています。天井には、漆喰で華麗な花模様のレリーフが刻まれ、柱はすべて漆塗り。シャンデリアとブラケットのランプシェードは、オニキス(メノウ)製という豪華さです。
 控え室奥のバスルームにも驚かされました。マンションのリビングルームほどもある室内は、壁も床もすべて大理石仕上げ。昔は、ここにヒノキのお風呂を運び込んで入浴もされたのだとか。洗面台や洋風便器も、今と変わらないモダンなデザインです。
 戦前は、天皇陛下をお迎えしたこともあるという貴賓室は、昔からの調度や電話も含めて今なお現役です。補修やメンテナンスのご苦労は少なくないそうですが、これほど美しい部屋を保ってこられた熱意と努力に頭が下がりました。

耐震改修で貴重な遺産を未来へ伝える

 その愛知県庁舎では今、東海・東南海地震などに供えた耐震改修が進行中。工法には、積層ゴムアイソレータや直動転がり支承、ダンパーによって建物荷重を支えながら、揺れを減衰させる「基礎免震」が採用されました。今年度中に耐震工事を終え、全工程が終了するのは来年末とのことです。登録有形文化財でもある建物を使用しながら、これほど大規模な免震工事が進められていることに驚かされました。
 「先人の熱意で建設され、県民の支持で生きてきた貴重な建物を大事にするのは当然。今年で満70歳ですが、100歳、200歳と長生きしてほしいですね」。

 


城郭を思わせる威容の愛知県庁舎


屋上から見た銅瓦葺きの正面破風


県公共建築課の松原課長補佐(右)と武田主査(左)


かつて階下の郵便室まで郵便物を運んだシューター

県公園緑地課の山下課長

昭和天皇も訪れたという貴賓室内部。天井に浮かび上がる華麗なレリーフ(鏝絵)、シャンデリアのシェードはオニキス製。

洗面室・トイレも内部は大理石仕上げ

和風の豪華な内装が印象的な旧・県議会(写真提供)

 

名古屋の新たな「顔」ミッドランドスクエア

 愛知県庁舎が中部の歴史の象徴なら、ミッドランド スクエアは現代のシンボルと言えそうです。
 地上47階・地下6階、高さ247mのオフィスタワーは、中部地方で最も高い建物。地上6階・地下6階の商業棟とあわせた延床面積は、19万3400u以上にもなります。ビル内部には、30社以上の企業オフィスをはじめ、著名なブランドショップ、レストラン、シネコン、ホールなどが入居。日本最高クラスの屋外展望施設も備えた、まさに名古屋駅前の新たな「顔」です。
 ご案内いただいた東和不動産株式会社の理事・浅井文夫さんによれば、ここはもともと東和不動産と毎日新聞社のビルがあった場所。建て替えのきっかけは、阪神大震災だったそうです。
 「東南海地震の発生が予想される名古屋にとって、あの被災はひとごとではありませんでした。当時、築40年を越えていた両ビルには、多くのオフィスやショップが入居し、人の行き来も多かった。これに代わる安全なビルの建設は、まさに急務だったわけです」。
 こうして、中部最高のタワー計画は本格化。2003年(平成15)の着工から急ピッチで工事が進み、2006年(平成18)の竣工を迎えます。浅井さんは振り返ります。「旧ビルのテナント交渉などの難問も、全員の力で乗り越えました。中部地方を代表するビルの建設に関われたことを、今も誇りに思っています」。

最新の耐震設計や地域冷暖房などを導入

 オフィスで働く人々、ショップやレストランを訪れる人で日々にぎわうミッドランド スクエア。その内部には、最新の設計が盛り込まれています。
 耐震設計では、タワー中心部に五重塔の心柱のような連層鋼板壁チューブを採用。高・中・低層の3カ所で、各8本ずつのアウトリガーダンパーを設置しています。これらが人の背骨と肋骨のような役割を果たし、地震の揺れに抵抗します。私も見せていただきましたが、巨大なダンパーは圧倒的な迫力でした。
 一方、最上部には制震装置であるATMDも設置。ウエイトを揺らすことで、中地震や風による揺れを相殺する仕組みです。さらに、タワーと商業棟の間にも相互の揺れを抑制する連結ダンパーを設けるなど、二重三重の耐震設計が施されています。
 「耐震グレードは、防災拠点や拠点病院並み。大地震でも主要機能を確保できるとされるクラスです」。
 また、環境への配慮としては、商業棟の屋上緑化、ビル内の雑排水や雨水をトイレの洗浄水などに再利用できる中水処理施設および雨水瀘過装置、夏の日射や冬の冷気による温度変化を和らげ、省エネにも貢献するエアバリア方式などを採用。とりわけ驚いたのは、地下のガス・コージェネレーション装置によって、この建物だけでなく他のビルや地下街にも冷温水を供給する、地域冷暖房設備(DHC)の存在でした。
 「熱源を共有することで、地域全体のCO2発生量を減らし、省エネにもつながる。建築に可能な地域貢献、環境貢献のひとつだと思います」。
 最後は地上46階の展望施設「スカイプロムナード」へ。はるか中央アルプスや伊吹山も視野に収めるという視界の中、濃尾平野の広がりが印象的でした。一方、足元では新たなビルが続々生まれています。
 「このビルの後に、名古屋ルーセントタワーやモード学園スパイラルタワーズなどの高層ビルが生まれ、名古屋の風景は一気に現代化してきました。名古屋市が目指す『名古屋新世紀計画2010』の実現に、はずみがつけばいいと願っています」と浅井さん。永らく秘められてきた中部の実力がますます花開く時を、私も心待ちにしたいと思いました。


中部地方最高を誇るミッドランド スクエア


一流のブランドショップが並んだアトリウム


強い揺れからタワーを守るアウトリガーダンパー


東和不動産株式会社・浅井理事

環境に配慮した商業棟の屋上緑化

シースルー・ダブルデッキ・シャトルエレベーター

愛知県庁舎/




ミッドランド スクエア/
(豊田・毎日ビルディング)

所在地:名古屋市中区三の丸三丁目1番2号
URL:http://www.pref.aichi.jp/
竣 工:1938年(昭和13)


所在地:名古屋市中村区名駅四丁目7番1号
URL:http://www.midland-square.jp/
竣 工:2006年9月(平成18)


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