お城を思わせる重厚な建築「愛知県庁舎」
名古屋駅から車で、愛知県庁へ。大通りの角を曲がると、クラシックな建物がすぐ視界に飛び込んできました。初対面でもすぐ分かる、堂々たる風格です。
車から降り立つと、改めてその重厚さが迫ってきました。正門と1階はどっしりした御影石。2階から5階は褐色タイル、6階は白のタイルで仕上げられ、その上にお城のような唐破風の屋根が載っています。重々しい緑青色の銅瓦が、かえって新鮮です。
中へ入ると、高い廊下の床や壁は、丁寧なタイル敷き。上下に開閉するスチールサッシの窓、御影石の踏み段と大理石の手すりを持つ階段、昭和初期風の字体の階数表示板などにも、時代が感じられます。
建設部建築担当局公共建築課長補佐の松原さんと主査の武田さんによれば、庁舎建設の決定は1933年(昭和8)で、着工は1935年(昭和10)秋。延べ18万人以上の人員と約200万円の工事費を費やし、現在の帝冠様式の県庁舎が生まれたのは、1938年(昭和13)とのこと。戦争中は銅瓦の供出、迷彩色の採用といった困難にも会いましたが、戦後まもなく復元され、生き残ったのが現在の庁舎です。
欧米風のビルの上に和風の瓦屋根を載せた独特のスタイルは、帝冠様式と呼ばれています。「戦時下という時代背景、信長・秀吉・家康を生んだ県の歴史も理由ですが、すぐ近くの名古屋城天守閣との調和も考慮されたのだと思います」。
風景の中の建築というこの観点は、現在も愛知県の街づくりに生かされ、「愛知まちなみ建築賞」というユニークな制度を生み出しました。担当部局の公園緑地課長・山下榮一さんによれば、「建築単独のデザインではなく、その周囲の景観と調和して、新しい価値を生み出しているかどうかが審査基準」とのこと。昨年までの15回で、100件以上の建築が賞を受け、愛知県の景観に新たな可能性を生み出しています。
豪華そのものの貴賓室
70年の歳月を経た今も、庁舎内はよく昔の面影をとどめています。たとえば、お城を思わせる瓦屋根の正面塔屋。コンクリート造りにもかかわらず、細部まで丁寧に仕上げられています。最上部の白タイルは、お城の白壁をイメージして選ばれたといいます。
ここの階段は、踏み段まで大理石製。もとは全階段がこうだったと聞かされ驚きました。あまりに磨耗しやすいので、他はすべて御影石に取り替えられたのだとか。この庁舎にかけた人々の想いが分かります。
さらに驚かされたのが、5階の貴賓室。美しいドアを開き、室内へ導かれたとたん、ため息がもれました。
中央の主室、その両側の控え室とも、漆喰仕上げの天井と文様を織り出した高級な壁紙、ウッドタイルを敷き詰めた床で統一されています。天井には、漆喰で華麗な花模様のレリーフが刻まれ、柱はすべて漆塗り。シャンデリアとブラケットのランプシェードは、オニキス(メノウ)製という豪華さです。
控え室奥のバスルームにも驚かされました。マンションのリビングルームほどもある室内は、壁も床もすべて大理石仕上げ。昔は、ここにヒノキのお風呂を運び込んで入浴もされたのだとか。洗面台や洋風便器も、今と変わらないモダンなデザインです。
戦前は、天皇陛下をお迎えしたこともあるという貴賓室は、昔からの調度や電話も含めて今なお現役です。補修やメンテナンスのご苦労は少なくないそうですが、これほど美しい部屋を保ってこられた熱意と努力に頭が下がりました。
耐震改修で貴重な遺産を未来へ伝える
その愛知県庁舎では今、東海・東南海地震などに供えた耐震改修が進行中。工法には、積層ゴムアイソレータや直動転がり支承、ダンパーによって建物荷重を支えながら、揺れを減衰させる「基礎免震」が採用されました。今年度中に耐震工事を終え、全工程が終了するのは来年末とのことです。登録有形文化財でもある建物を使用しながら、これほど大規模な免震工事が進められていることに驚かされました。
「先人の熱意で建設され、県民の支持で生きてきた貴重な建物を大事にするのは当然。今年で満70歳ですが、100歳、200歳と長生きしてほしいですね」。
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