■大鉄傘が見守る力士たちの晴舞台
正門を抜けた正面広場に立つと、正面玄関の上の唐破風屋根と、その向こうの大屋根がまず目に飛び込んできました。いただいた資料によれば、この大屋根は四角形の隅を落とした隅切り方形という形。1辺の大きさは94m、重さは3,000トン以上あるそうです。ちなみに、遠目からは分かりませんでしたが、表面をおおう銅版も、幅20cm、長さ3mの超大型サイズとか。
「国技館」の大きな額のある玄関を抜けると、そこは広々としたエントランスホール。「野見宿禰と当麻蹴速」「相撲節会」などの巨大な陶板画がホール内に掲げられ、相撲気分を盛り上げています。
ここからは、財団法人日本相撲協会の新井さんが案内してくださいます。桟敷席へ続くドアの向こうに広がっていたのは、大鉄傘と呼ばれる天井高35mの鉄骨屋根と、その下に広がる巨大な館内でした。畳5枚分もある優勝力士の写真額が切手ほどにしか見えないのですから、そのスケールが分かります。
土俵を取り巻く桟敷席は、真紅で統一されたマス席と赤いシートのイス席(2・3階)が中心。「収容人数は約1万1千人」と新井さん。外国の方に喜ばれるボックス席や車椅子用の特別席も新設されています。前方のマス席と土俵は、イベントなどに応じて収納可能な設計になっているそうです。
桟敷席の中央にある土俵は神聖な場所。この日は見られませんでしたが、場所ごとに呼出さんが造り、「しずめもの」と呼ばれるお供えを中央に埋めて清めます。相撲は、スポーツである以前に神事なのですね。
「神明造の吊屋根やその四隅の四房、さらに力士のしぐさにも、神事の名残があります」。ちなみに、吊屋根に使われている木材は伊勢神宮のご神木。天皇陛下や皇族方が観戦される2階ロイヤルボックスにも、同じものが使われているそうです。
■仕度部屋の中は、すべてキングサイズ
桟敷席の次に、仕度部屋を見せていただきました。ここは取組前の力士たちが待機するための場所。本場所中は力士たちの熱気でむせかえるほどになるそうです。
「特に、千秋楽の日は緊張感が違います。勝ち越し負け越しをかけて、最終日の土俵にのぼる力士たちも少なくないわけですから」。
仕度部屋の中は、何もかもキングサイズ。取組後の力士が入るお風呂は、ちょっとした銭湯並みですし、トイレの便器は座るとはまり込んでしまいそう。これは、メーカーに依頼した特注品とのことです。
仕度部屋の片隅には、直径30cm近い木のてっぽう柱が床から突き出しています。私が手で押してもビクともしませんが、力士たちはこの柱を相手に付き・押しの稽古をするのだとか。あまりの猛稽古で根元が傷んでしまい、もう3本目だと聞いて、またまた驚きです。
ふと下を見ると、コンクリートの床には点々としみが残っています。勝った力士の喜びの汗、敗れた力士の悔し涙。大相撲に生きる人々の歴史が、こんなところにも刻まれているのだと感じました。
ちなみに国技館には、地域の防災拠点としての役割があります。たとえば、建物は関東大震災級の地震にも耐えられる耐震構造を採用。館内には食料備蓄倉庫、雨水浄化貯蔵装置、自家発電機が完備されているほか、放送局の地区放送用拠点のスペースも確保されています。これらは、地域に役立つ施設をという、当時の春日野理事長の意向によるものだそうです。
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