■聖なる響きは“神様の贈り物”
フェスティバルホールといえば、どうしてもうかがいたかったのが、あの美しい響きの秘密です。訪れたアーチストが一応に感嘆するという残響1.7秒は、どうしてできたのでしょう。「当時最新の音響工学を基に設計されたのは確かです」と西部さん。ただし、ここまでしっかり残響音が出て、心地よい音になっている理由は“謎”だそうです。
「当時は、コンピュータももちろんない。今のような音響シミュレーションも不可能だったはずです」。 しかもホールの形状は、一番響きがよいとされるシューボックス(靴箱)型ではありません。
「舞台が横に広く、客席もそれに応じた配列です。これでいい残響を生むのは、音響学的には奇跡に近いらしい。私たちは、神様の贈り物だと言っています」。
その“贈り物”が、幾多のアーチストをとりこにしてきました。たとえば、気難しいことで知られたカラヤンも、リハーサルの後でニヤッと親指を立てたとか。
「舞台に立った皆さんがおっしゃるのは、拍手の響き。本当にホール全体から舞台に、ものすごい拍手が降り注いでくる。一度あれを聞いたら、もうやめられないというアーチストの方がたくさんいます」。
拍手の暖かさには、大阪の気風もあるようです。
「バレエの出演者の方々がいうには、このホールはとても踊りやすい。お客さまのノリがいいので、気持
ちよく踊れるのだそうです。これも、フェスティバルホールの隠れた伝統かもしれませんね」。
■50年の伝統は、新たなホールへ
数々の伝統を刻んだフェスティバルホールですが、中之島再開発事業に伴うビルの建て替えにより、今年いっぱいで一時閉館と発表されました。幾多のアーチストを迎えた舞台はもとより、レッドカーペットのロビーやシャンデリアにも、当分会えません。
「現在地には、地上約200mのツインビルが建設されます。新生フェスティバルホールも、その中でよみがえる予定です」。
フェスティバルホールの伝統をふまえ、音響効果については特別チームが設計に当たるそうです。 「ただし、最新の手法を使っても、実現できるのは想定した音の8割程度と聞きました。私としては、再び神様が贈り物をしてくれることを祈るだけです」。
ステージの一部や反響板など、数々の歴史を刻んできた現ホールにゆかりの部材が、新しいホールにも生かされればいいのですが、と西部さん。私も同じ気持ちです。
「過去の遺産を生かすことで、フェスティバルホールの歴史は新たな時代に受け継がれます。それは、このホールに響いた無数の音を受け継ぐことであり、ここに集まった多くのアーチスト、多くのお客さまの想いをつなぐことでもあると思うのです」。
新しいホールは、2013年(平成25)の誕生を目指しています。どんな音が受け継がれ、どんな感動が新たに生まれるのか、大きな期待を込めてその日を待ちたいと思います。
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