全国3500のえびす社の総本社
神戸から国道43号を一路東へ。西宮市内に入って間もなく、こんもりした森を背にした鳥居が見えてきました。全国に約3500あるえびす宮の総本社、西宮神社に到着したのです。
門をくぐると、中は想像以上の広さ。美しく掃き清められた敷地内に、立派な本殿や拝殿、社務所などが連なっています。広々とした池のある境内では、樹々のこずえが葉ずれの音を立てています。
境内の一角に、鮮やかな朱塗りの門が見えました。毎年1月10日の朝6時、「開門神事福男選び」の起点となる表大門(赤門)です。福をいただけるのは、約2000人の参加者中、わずかに3人。この門前から約230mの曲がりくねった参道を疾走し、本殿で待ち構える神主さんに真っ先に抱きついた人だけです。あのデッドヒートの現場が、この美しい石畳の道なのだと思うと、不思議な気持ちがしました。
澄んだ空気が満ちた境内は、国道沿いとは思えない静けさ。参拝の人々もゆったりとお祈りをしています。毎年1月の「十日えびす」の混雑と喧騒を見慣れた私には、思いがけない普段着の「えべっさん」でした。
室町時代から続く、「福の神」信仰
お参りを済ませた後、社務所で堀川さんにインタビューです。最初に尋ねたのは、えびす様の意味でした。
「『えびす』とは本来、異界の人やモノを指す言葉でした。中でも、海に暮らす人々は、漂着物やクジラを『えびす』と呼び、福神として崇めたといわれます」。
実は、西宮神社の主祭神、蛭子(ひるこ)命も、葦の船に乗る漂着の神様だったとか。えびす信仰の背景には、そんな伝承や風習があるのかもしれません。
「当神社の創建時期は不明ですが、平安時代にえびす社として信仰されていた記録が残っています。もとは航海・漁業の神でしたが、七福神信仰が全国に広まった室町時代以後、福の神として尊ばれるようになりました。今のように商売繁盛の神様として広く信仰されるようになったのは、江戸時代からだと言われます」。
ちなみに、室町時代のえびす信仰を諸国に広めたのが、西宮神社を本拠とする人形操りの芸人、傀儡師(くぐつし)たち。その芸能は、後の人形浄瑠璃(文楽)につながるといわれます。境内にある百太夫神は、その始祖を祭ったもの。現在は、子供をお守りする神様として、多くの人がお参りされるそうです。
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