趣の違う各部屋に合った調度品に囲まれ極上のひとときを楽しむ
建物は、1、2階ともに中央の広間を中心に部屋が配置されている。1階にあるロココ調の応接室は、同館最高のもてなしの場。午後からはティールームとして優雅な気分でコーヒーを楽しめる。
もとサンルームだったという陽光いっぱいのパティスリー、そして書斎に食堂、こちらはヴィクトリア調だ。夕食前のひとときを過ごすための半地下のスペースは球戯室を利用したもので、かつてはここで紳士淑女がビリヤードに興じたという。
2階もまたユニークだ。喫煙室だった部屋はインテリア、調度品、美術品すべて中国風。ほかにはパーティスペースとなる客間3室と美術室。賓客の奥方たちのために用意されたという貴婦人室では、大きな窓から円山公園の風情ある景色を堪能できる。
3階はすべて和室である。普段は立ち入り禁止のところを特別に入れてもらった。3階への階段を上ると別世界。茶室、桃山書院といわれる書院造、中央には2重折り上げ天井の客室がある。豪華絢爛な部屋ばかり見てきたせいかほっと落ち着いた。贅沢で華やかな洋館の中にこんな空間が存在することに驚いた。
スタイルの違う各部屋にはそれぞれにふさわしい様式の家具が置かれ、その多くが建築当初のものだ。しかもどれをとっても本物の逸品だ。昭和61年(1986)に建物と家具30点が京都市指定有形文化財に指定されている。
土手さんは「このようなスタイルになったのは、設計者が米国人だったことも関係しているでしょう。おそらくフランス人だったらフランスだけの、英国人だったら英国だけの様式になっていたのではないでしょうか」と言う。
再来年には竣工100周年を迎える古い建築であるが、基礎は非常にしっかりしているという。また、大理石や木の丸柱、漆喰などが時を経てますます深い味わいを醸し出す。
「この館に遊ばば、其の楽しみやけだし長(とこし)へなり」 同館の完成直後訪れた伊藤博文がこのように感想を述べ、ここを「長楽館」と名付けた。中には彼が館名を揮毫した扁額も飾られている。
紅葉の季節にまたとない極上の時間をここで味わってみてはいかがだろうか。 (記:三本千春)
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