|
1階大広間の天井絵 |
百番は小さな小さなテーマパーク
住森さんの話しでは「客は玄関から天満宮、日光東照宮という神聖な場所に入り、俗世の汚れを落とす。住吉大社の太鼓橋を渡り、三条大橋に見立てた階段を上がると、遊女の部屋・2階は浮世。百番は小さな小さなテーマパークです」。玄関を一歩入れば現実世界から解き放たれるという趣向、日常のことを忘れて非日常を味わいたいという欲求にあわせた造りだと考えると、人の心は今も昔も変わらないのだと感じた。
浮世は遊女の部屋だ。各室ともそれぞれにテーマがあり、「由良の間」は大星由良助=大石内蔵助で赤穂浪士の討ち入りをモチーフにした絵が壁や障子に、47士の家紋が天井を飾る。喜多八の間は大井川の渡しがテーマで、船のつくりの室内から廊下を見やると壁に富士山が描かれている。
3室をつなげた1階の大広間も欄間、明かり取り、床の間、ふすまなど造作がすごい。多数の宮大工をそれぞれ競われて造作したという。
80年を経て今に生きる百番がすごいのは素晴らしい建築物であるだけでなく、ずっと使われ続けているということだろう。ふすまはボロボロ、金箔もあっちこっちはがれているし、壁の絵画は持ち主の好みで書き直された跡もある。隔離して誰にも見せないのではなく、誰でもいつでもそこに身をおける。大阪文化の誇りだ。しかも、「いつでも建物の説明をさせてもらいますよ」。住森さんのストーリーテラーの語り口で百番物語をいつでも聞けるのも嬉しい。
百番の建築技術をいま再現するのは困難だろうし、さらに困難なのは大工のこだわりと情熱ではないだろうか。部屋の細かな細工ひとつ一つに明治生まれに違いない当時の宮大工の職人魂を感じた。 (記:高木絢子)
|