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大広間。漆塗りの卓
(下地材はヒノキの等圧合板)
と吉野スギの天井
大広間。上座に座った位置
から見た日本庭園 |
迎賓館は、大会議室、晩餐室、和会食エリア、貴賓室と会談室、宿泊エリア、日本庭園で構成されている。
賓客を出迎える玄関扉は樹齢700年のケヤキの一枚板。中に入ると広い回廊が真っ直ぐのびる。
南に位置するのはマツをおもな造作材料とした大会議室。閣僚級の会議が行なわれる場だ。両側の壁は鮮やかな壁画装飾が施され、可動式で部屋を最大3つに区切ることができる。入口向かいの壁の上方に同時通訳ブースが隠されているという。空調設備も見えないようになっており、給気は敷居から出ている。
晩餐室は約300uで最大120人が会食でき、奥に約100uの桧舞台がある。天井は一面が美濃和紙を張った複雑な格子状の照明で覆われており、そのひとつひとつの格子が昇降することによって15通りの模様をつくることができるという。
日本庭園の廊橋を渡って会談室へ。おもな造作材としてセンが使用さてれいるので趣がまた異なる。天井は舟底天井。
和会食エリアへは露地を通って行く。ひっそり静かで、もれてくる畳の香りとあいまってこの先の和の空間を感じさせる。
ここまでの立式の部屋へはもちろん下足で入る。女性のピンヒールが床張りを傷つけないか気になったが、WPC加工が施されているので心配無用とのこと。賓客は和室玄関ではじめて靴を脱ぎ、座敷に招かれる。和会食エリアには最大24人が会食できる書院造の大広間がある。ここはスギをおもに使用、天井は長さ12mの板から成り、軒にはスギの丸太が使われている。
池に架かる廊橋からは御苑の森を借景に庭園を囲む建物の全容が見渡せる。ニッケル・ステンレス複合材で仕上げられた淡い色調の屋根も庭と調和しており、日本の様式美を堪能できる。
鯉が泳ぐ池の底には敷地内を掘削中に出てきた自然の石を敷いている。池の所々にも配置されているという。その昔鴨川に架かっていた橋の杭や、なんと2億5,000万年前に生成された石もあるらしい。
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舟底天井の会談室。青海波の
段通にはランダムにかり込みが
入り、立体的な印象。
天井を飾るのは京指物 |
至高の伝統的技能が結集 庭園の景観と一体となった建築
迎賓館の見どころは、建設や調度品の制作に活かされた京都の伝統的技能である。
建設には左官、截金、作庭、錺金物はじめ11分野の技能が採り入れられた。
館内のあらゆる壁には塗り壁の技能が活かされている。これほどの面積の塗り壁は公共工事でははじめての試みだったそうだ。主賓室座敷や和会食エリアの大広間などの座敷と露地、築地塀には京さび土壁が、回廊には漆喰が使われている。京さび土はこの建設現場から出たものを1年間かけて熟成させたという。「弟子たちに良い仕事を見せることができた」と迎賓館で腕をふるった左官さんが語ったと聞いたが、生涯の誇るべき仕事になるに違いない。
晩餐室の桧舞台の板戸を飾っているのが人間国宝・江里佐代子氏による截金(きりかね)。金やプラチナの箔を貼り付けて紋様を描く技術で、見るからに貴重な工芸である。錺(かざり)金物は神社や寺などで装飾として使われることが多いが、ここでは長押、天井の格子の釘隠しなど、ひとつひとつに見ごたえがあった。
迎賓館のレイアウトの中心が庭園だ。造園工事をリードしたのは桂離宮の整備はじめ欧米の庭園でも幅広く活躍する佐野藤右衛門氏。
部屋は日本庭園を囲むように配され、それぞれの部屋から見える庭園は異なった表情をつくる。和室から外を眺めると、上座に座ったときの目線に合わせて日本庭園が造形されているのがわかる。大広間から見えるのは、ドウダンツツジを山に見立てた山地の風景なのだそうだ。
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