最高の建築資材と絶妙の建築手法 コンドルのセンスと日本の職人技が光る
旧岩崎邸庭園は表門から本邸入口へと続くアプローチが緩やかな坂道になっている。本邸入口を入り、シュロの木ごしに見る洋館は異国のような、別世界に入り込んだような感覚を呼び起こす。
岩崎家本邸として完成した明治29年(1896)、当時の敷地は今の約3倍(1万5,000坪)もあった。本邸の主であった岩崎久彌は三菱財閥の三代目で、明治27年(1894)に三菱合資会社を設立した実力者だった。
現存する3棟のうち洋館と撞球室の設計は、上野の国立博物館や鹿鳴館で知られる「日本近代建築の父」ジョサイア・コンドル(英・1852?1920)が手がけた。彼は明治政府に招聘されて東大で教鞭をとり、辰野金吾、片山東熊らを育てた。こよなく日本文化を愛し、日本女性と結婚して日本で没した。
岩崎家がおもに来客を迎えるために使用していた洋館は地下1階と地上2階の木造、明治期の上層階級の邸宅建築を知るうえで重要な資料でもある。アーチを多用し、屋根の四角ドームや透かし模様のパラペット、ステンドグラスやドーマー窓など、装飾性に富んだ意匠にジャコビアン様式(17世紀初頭、ジェームズ1世時代のイギリスルネッサンス様式)の特徴が見てとれる。ジャコビアンはジェームズのラテン名ヤコブ(Jacobus)に由来する。邸内も細部まで余すところなく施された装飾が目を楽しませる。1階・婦人客室の装飾デザインはイスラム風の紋様で、布張りの天井一面にシルクの刺繍がしてあって絢爛という形容がふさわしい。
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