帝国ホテルと並び称された贅沢なホテル
シンボルは幸せ呼ぶ打出の小槌
均整のとれた左右対称のフォルム。その形は大きな鳥が翼を広げたようである。武庫川沿いの閑静な住宅街に建つ甲子園会館(旧甲子園ホテル)はかつて、東京の帝国ホテルと並び称された超豪華リゾートホテルだった。
設計者は建築家フランク・ロイド・ライト(米・1869〜1959)の愛弟子遠藤新(1889〜1951)。当時の帝国ホテルマネージャー林愛作の構想を具現化したといわれる。
学院管理部の松田孝氏と会館庶務課の前田健治氏に会館を案内していただいた。階段や天井に高低差がつけられ、中を進んでいくにつれ空間の変化を感じられる。目のあたりにする構造、装飾は、和と洋が見事に融合し、優美でしかも重厚、これがライト式建築の真髄であろうか。
同館の象徴的モチーフ、お伽草子の一寸法師でおなじみの打出の小槌は遠藤オリジナルだ。建物のあらゆるところに幸福のシンボルとして使われ、ホテルの賓客の目を楽しませたという。小槌だけでなく小槌から弾き出された水玉、それを受ける水鉢が優美な、時には愛らしいオブジェとなっている。
横長のボーダータイル、4個組み合わせて一つの模様になる15センチ角の変形四角の文様タイル、高砂市で産出される溶結凝灰石の、この3種の材料が外装、内装の基調だ。竜山石は帝国ホテルや旧山邑邸(ヨドコウ迎賓館)の建築材料となっている大谷石の仲間、加工しやすい性質で、古墳時代の石棺や寺院の礎石にも使われるものだ。甲子園会館ではアール・デコ様式の手の込んだ石彫りを施している。
建築の様々な面に和洋折衷が見てとれる。ホールは一見洋風だが天井は障子張りの市松格子、それに欄間、行灯など和のアイテムがちりばめられている。
とにかくどこを見ても、現代の建築では考えられないほど手間ひまをかけてつくられ、その贅沢さにため息が出てしまう。
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