2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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武庫川女子大学 甲子園会館(旧甲子園ホテル) けんざい197号掲載
 

甲子園会館(旧甲子園ホテル)は、昭和40年(1965)に学校法人武庫川学院が国から払い下げを受け、教育施設として復活した。かつて「東の帝国ホテル、西の甲子園ホテル」と並び称された贅沢な名建築を、株式会社サワタ建材社の塩月千春さんが取材した。

 


西ウイング「池の間」の前にある
つくばいからわき出る水は
打出の小槌文様の上を流れ落ちる

 


帝国ホテルと並び称された贅沢なホテル
シンボルは幸せ呼ぶ打出の小槌

 均整のとれた左右対称のフォルム。その形は大きな鳥が翼を広げたようである。武庫川沿いの閑静な住宅街に建つ甲子園会館(旧甲子園ホテル)はかつて、東京の帝国ホテルと並び称された超豪華リゾートホテルだった。
 設計者は建築家フランク・ロイド・ライト(米・1869〜1959)の愛弟子遠藤新(1889〜1951)。当時の帝国ホテルマネージャー林愛作の構想を具現化したといわれる。
 学院管理部の松田孝氏と会館庶務課の前田健治氏に会館を案内していただいた。階段や天井に高低差がつけられ、中を進んでいくにつれ空間の変化を感じられる。目のあたりにする構造、装飾は、和と洋が見事に融合し、優美でしかも重厚、これがライト式建築の真髄であろうか。
 同館の象徴的モチーフ、お伽草子の一寸法師でおなじみの打出の小槌は遠藤オリジナルだ。建物のあらゆるところに幸福のシンボルとして使われ、ホテルの賓客の目を楽しませたという。小槌だけでなく小槌から弾き出された水玉、それを受ける水鉢が優美な、時には愛らしいオブジェとなっている。
 横長のボーダータイル、4個組み合わせて一つの模様になる15センチ角の変形四角の文様タイル、高砂市で産出される溶結凝灰石の、この3種の材料が外装、内装の基調だ。竜山石は帝国ホテルや旧山邑邸(ヨドコウ迎賓館)の建築材料となっている大谷石の仲間、加工しやすい性質で、古墳時代の石棺や寺院の礎石にも使われるものだ。甲子園会館ではアール・デコ様式の手の込んだ石彫りを施している。
 建築の様々な面に和洋折衷が見てとれる。ホールは一見洋風だが天井は障子張りの市松格子、それに欄間、行灯など和のアイテムがちりばめられている。
 とにかくどこを見ても、現代の建築では考えられないほど手間ひまをかけてつくられ、その贅沢さにため息が出てしまう。


前田氏(左)、松田氏(中央)と
ラウンジ南側のテラスで。
この日は台風一過の快晴だった

瓦葺き屋根の頂点にある、
打出の小槌が刻まれた宝塔
から弾かれた水玉が斜めに
走るようすを表している

南側からの眺め。北側から
(前頁上の写真)見る重厚さ
とは趣を異にし、アール・デコ
様式の華やかさが際だっている

1階西ホールの装飾

短かったホテルの命、そして進駐軍の接収 生涯学習機関として生まれ変わる

 昭和5年(1930)に竣工、皇族、政財界人、上級軍人など数多くの要人をもてなした。球聖ベーブ・ルースが宿泊したこともある。しかし、第2次世界大戦中の19年(1944)、国が海軍病院にしてしまったため、ホテルとしての寿命はわずか14年しかなかったことは残念としか言いようがない。
 終戦後すぐ今度は米進駐軍に接収され、32年(1957)まで将校宿舎兼クラブとして使われたのち国の手に戻った。管理が行き届かず荒れ放題だったこの建物をなんとか保存・復活させたいと尽力したのが、建築物に造詣が深かった武庫川学院の創設者・公江喜市郎である。そして40年(1965)、武庫川学院は国から、原型(外観)を変えないこと、敷地の買い取りと整備、教育施設としての使用を条件に譲り受けた。すぐさま大改修にとりかかり、かつての高級ホテルは甲子園会館としてよみがえった。以来、講演会やシンポジウムの会場となり、オープンカレッジを開講するなど市民に開かれた生涯学習施設として利用されている。建築を見に訪れる一般の見学者も含めると、会館利用者は年間1万2,000人を超えるという。
 同館は西宮市都市景観形成建築物として景観条例の指定も受けている。教育施設に改造されたため今はホテル当時の客室こそないが、威容を誇るその外観はこれからもずっと由緒あるホテルの姿でありつづけるだろう。 (記:塩月千春)  


ひさしのように張り出した部分は
水玉の彫刻をめぐらせた雨とい

西ホール奥、シャンデリアの
ような黄金色の彫刻は水玉が
降り注ぐようすを表現

幾何学的文様の浮き彫り。
水玉、水鉢が描かれている

「火色」のレリーフ
テラコッタの外壁

武庫川女子大学 甲子園会館

/ 場所 西宮市戸崎町1-13
    TEL 0798-67-0079
    交通 JR東海道線甲子園口駅から徒歩約10分
阪神電鉄甲子園駅から阪神バスで8分
戸崎町駅下車、徒歩約3分
    *一般の見学可能(事前連絡が必要)
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