2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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大丸心斎橋店

けんざい195号掲載

  百貨店の老舗、大丸は享保2年(1717)に京都・伏見で呉服屋として創業した。現在の大丸心斎橋店は昭和8年(1933)、建築家ヴォーリズの設計によって建てられ、今もなお「御堂筋の顔」として多くの人々に愛され続けている。今回は、仕事でもプライベートでも頻繁に同店を利用しているという株式会社ヒロセ秘書室の中島麻依子さんが取材した。

案内役の同店広報担当満類屋さん(右)と

重厚なネオ・ゴシック様式の外観 店内至る所にアール・デコの装飾

 


御堂筋側から見あげたネオ
ゴシックデザインの水晶塔。
ニューヨークのエンパイア
ステートビルに似ている

 大丸心斎橋店を設計したのは豊郷小学校や関西学院大学などで知られるW・M・ヴォーリズである。明治38年(1905)にアメリカから来日、英語教師として赴任した彼は建築家としては無名だった。第11代大丸社長・下村正太郎氏によってその才能を見出され、心斎橋店の建築を手がけることになる。
 大丸が現在の場所に店舗を置いたのは大正3年(1914)。7年(1918)、ヴォーリズ設計による木骨4階建レンガ造りの大丸心斎橋店が完成したが、惜しくも1年4カ月後に焼失した。
 現在の大丸が完成したのは昭和8年(1933)で、はじめに心斎橋筋側を建設し、地下鉄の開通に合わせて御堂筋側を拡充した。
 同店を設計する際にヴォーリズが描いた基本イメージはネオ・ゴシック様式で、幾何学模様や植物を抽象化した図柄を基調としたアール・デコの装飾を至る所に採り入れていた。
 外観を眺めると、下から白色、茶色、白色の3層になっている。1階部分の外装は花崗岩で、とりわけ御堂筋側玄関の意匠が目を引く。最上階はテラコッタ、大正当時の雰囲気を漂わせるレリーフで彩られている。中層階を覆う茶色のスクラッチタイルは建物全体に重厚感を与えており、上下の白とのコントラストが外観を引き締めている。


雪の結晶を積み上げたような装飾の御堂筋
側玄関外観。ゴシック様式ではモチーフを
アーチ型に組むが、あえて直線的な構成に
したのが当時ではモダンだったという

中央階段。踊り場で二つの
階段が向き合うつくりは、
「階段の先にあるもの」への
期待感を高める
 
御堂筋側外壁のランタン

 


1階エレベーター上にある
時計はステンドグラス。
六角の星でデザインされている


シンボルの孔雀、原案は不死鳥だった 
モチーフの六角の星はダビデの星

 デザイン的には御堂筋側が目立つが、同店のシンボル、孔雀のレリーフ・テラコッタがあるのは心斎橋筋玄関のファサードだ。当初ヴォーリズからは、焼失した店舗再建の願いを託して不死鳥フェニックスでという指示が出ていた。ところがテラコッタを受注していたアメリカのメーカーは愛と幸福の象徴である孔雀を提案し、それが採用された。メーカー側がフェニックスという神話上の鳥にとまどったからだと言われている。
 孔雀のレリーフは青や緑色の釉がつややかな光沢を放ち、植物をかたどったレリーフに囲まれて目の覚めるような美しさであった。
 同店を飾る鳥は孔雀だけではなく、ステイタスを表す鷹や鷲、贈り物を届ける使者コウノトリなど、それぞれが百貨店をイメージさせる重要なキャラクターになっている。
 また、装飾のあらゆるところで六角の星がモチーフとして使われていることに気がつく。敬虔なクリスチャンであったヴォーリズは、幸せを象徴するといわれたダビデの星をデザインに取り入れたのである。
 趣向をこらしたアール・デコの内装は、「高級品」イメージの百貨店への来店者をよりリッチな気分にさせるのに十分な効果を発揮した。


1階の天井画の間に配置
されている鷹の彫刻は
ステイタスのシンボル

御堂筋側玄関ホール上部の
ステンドグラスに描かれて
いるのはイソップ寓話

1階天井部分。柱と柱の
間に設けられたアーチに
透かし彫りの装飾を施し、
照明をともしている

1階のフレスコ画天井。
周りを囲む電飾が華やか


今後どんなに改装しても ヴォーリズのデザインを継承

 昭和20年(1945)3月の大阪大空襲で焼失した部分の修復、29年(1954)から37年(1962)にかけての8階部分増築、平成12年(2000)の改装など、同店は何度かの修復・改装を経験している。今回案内役を引き受けてくださった同店広報担当の晶子さんは、「修復や増築では一貫してヴォーリズのデザインを尊重し、守ってきました。今後もその方針は変わりません。いかなる改装があってもそれは継承していくことになっています」と語る。
 よく利用しているのに、建物の歴史を知らず、まして装飾に託されたメッセージなど気づくこともなかった。次に訪れたとき、これまでと違う見方ができると思うと、楽しみである。 (記:中島麻依子)

大丸心斎橋店

/ 場所 大阪市中央区心斎橋筋1-7-1
    TEL 06-6271-1231
    交通 市営地下鉄御堂筋線・長堀鶴見緑地線心斎橋駅下車すぐ
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