2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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講演会の予定・講演録
中之島フェスティバルシティの構造設計について

株式会社日建設計 構造設計部主管 吉田 聡 氏

マグニチュードについて
 本日は、「1.地震・耐震の基礎」「2.フェスティバルシティの構造について」に分けてお話しします。前半は地震についての説明です。
 地震を“四角い面とそのずれ”でとらえるのが本日の説明のポイントです。マグニチュードの大小は、四角の面積とずれ量の大小で表されます。小さなマグニチュードでも、距離が短ければ、距離が大きくて大きなマグニチュードと同じ震度になります(図1)。
 地震が、一つの四角い面がずれることによって生じるものであるととらえると、大体東京駅の大きさ(幅約300m)くらいの範囲が1.5cmほどずれるのがM3です。それがM7になると、約30kmの範囲が1.5mくらい動きます。マグニチュードが1増えるごとにずれる範囲の幅が3倍になっていくので、ずれる面積は9倍になるわけです。M8になると幅約100kmの四角が5mにわたってずれることになります。
 南海トラフ地震で予想されているM9は、約300kmの範囲で15m、さらにM10となるとほぼ西日本全体が50mにわたってずれるのです。これが地震の大きさ、すなわちマグニチュードの概念です。
海溝型地震と内陸直下型地震
 地震には、陸のプレートと海のプレートの間である海溝に起因する海溝型地震と、内陸の活断層が活動して発生する内陸直下型地震があります。
 海溝型で代表的なものは、南海トラフに沿って起こる東海地震、東南海地震、南海地震、相模トラフに沿って起こった関東地震、日本海溝に沿って起こった2011年の東日本・太平洋沖地震。まとめると、遠くで発生し、規模(マグニチュード)が大きく、発生頻度が高いのが海溝型の特徴です。
 内陸型直下型を引き起こす活断層は大阪周辺に多数存在します。阪神淡路大震災を引き起こした六甲・淡路島断層帯をはじめ、上町断層、生駒断層などが知られています。全長約60kmの上町断層は最大M7.5程度の地震を引き起こすとされています。
 こちらもまとめると、近くで発生し、規模が小さく発生頻度が低いが、都市直下で起きる可能性があるため被害が大きいのが内陸直下型の特徴といえます。
耐震・免震・制振構造について
 建物構造が地震の揺れによってもたらされる影響を構造設計に考慮したのが耐震設計です。耐震の歴史を見ると、地震の発生と共に建築基準法は改正されてきました。福井地震の後に改正され(1950年)、十勝沖地震の後でまた改正(1971年)、宮城県沖地震後に改正されたもの(1981年)が、現在「新耐震」と呼ばれるものです。
 免震構造は古くからあるものですが、1980年代に積層ゴムが開発され、阪神淡路大震災後、爆発的に普及しました。制振構造はコンピュータの発達と共に普及し、日本では1989年に導入されました。
 代表的な免震部材である積層ゴムは、ゴムと鉄板を重ねたもので、水平方向に大きく変形しても破断しない優れた材料です。後半で説明する中之島フェスティバルタワーは、建物の中間部に免震層がある中間層免震となっています。オイルダンパーという部材を使って地震の揺れを吸収する制振構造は、中之島フェスティバルタワー・ウエストに採用されています。
フェスティバルシティについて
 地震および耐震についての概論をご紹介したところで、本題であるフェスティバルシティの説明に入ります。
 東側に建つのが中之島フェスティバルタワー(NFT)、西側に建つのが中之島フェスティバルタワー・ウエスト(NFTW)です(図2)。当社が設計の検討に着手したのは2007年で、当時は西側に朝日新聞本社ビルがあり、東側にリーガグランドホテル、フェスティバルホール、新朝日ビルがありました。
 まず東地区が着工し、2012年に完成。その2年後に西地区が着工、2017年3月にツインタワーとして完成しました。
 中之島フェスティバルタワーには下からフェスティバルホール、そのすぐ上に朝日新聞社大阪本社、テナントオフィスなどが入っています。一方中之島フェスティバルタワー・ウエストの方に入っているのは美術館・ホール、テナントオフィス、ラグジュアリーホテルのコンラッド大阪などです。
 東と西は全く同じ外形で、内部の貸床面積(2,700u)も同じです。また天井の高さ(3m)と無柱の大空間であることも2棟に共通しています。他にも、レンガを使った組石造、フローリングの使用、ガラスや鉄の使い方などに共通点があります。

中之島フェスティバルタワー
 耐震設計目標に関しても東西は同じものを使っており、層間変形角も部材の状態も、一般超高層建物と比べてワンランク上の耐震性を実現する構造計画としています。
 まず東側のフェスティバルタワーについて(図3)。建築主から提示された条件は次のようなものです。まず中之島という立地上、伊丹空港の関係で高さ200mの規制。フェスティバルホールは、本格的な音楽ホールとし、「継承と進化」をキーワードに2,700席の席数を継承し、国内外の音楽家に賞賛されたホールを再生、現代の技術を用いて進化させること。テナントオフィスは、グレードの高いオフィス空間で、高い耐震性能と環境性能を持ち、貸しやすい貸室空間にすること。
 そこで、フェスティバルホールは環境騒音をシャットアウトし、ホール発生音を上階に伝えない浮き構造を採用することになりました。テナントオフィスは天井高3mを確保、LED照明を採用し、オフィス内に柱型を出さない計画としました。またホール部はレンガ、オフィス部はガラスを主体とした外装と決定。
構造計画上相矛盾する二つの課題解決
 敷地の制約から、ホールの上にオフィスを積むしかありませんでした。オフィスコアは、検討の結果センターコアタイプになりましたが、コア部分がホールをまたぐ際、トラスを分散して配置すると貸室効率が悪くなるため、メガトラスを採用することになりました。
 オフィスやホールに求められる性能を考慮した結果、オフィスでは無柱空間実現のため鉄骨造、ホールは音響面からコンクリート系の壁が望ましいので、SRC造で壁の付いた構造がいいだろうという結論に達しました(図4)。
 しかしこれは耐震設計上、望ましい構造計画と矛盾する内容でした。柔らかい物の下に硬い物がある状態(剛性が異なる)は構造としてふさわしくありません。さらに、上の超高層建物がホールをまたがなくてはなりません。この二つは構造計画上の大きな課題であり、これらを高い耐震性を保ちつつ実現するというのが同タワーの主題でした。
 ホールをまたぐという課題は、メガトラスを含む巨大トラスの採用で、もう一方の剛性についての課題は、間に免震部材を挟む中間層免震の採用で解決することになりました。
 巨大トラスは、センターコアの9本の柱軸力を外周の大臣柱という柱に伝えるメガトラス(高さ約20m)と、外周128本の柱軸力を大臣柱に集約するベルトトラスで構成しています(図5)(図6)。
 中間層免震の免震層はフェスティバルホールの上にありますが、大空間を必要とする客席・舞台上部には免震装置を置かないよう工夫しました。大軸力となる柱の下部には1,500mm角の鉛入り積層ゴムを2基連結して配置しています。
ます。3階南側には、オフィスで働く人はもちろん、それ以外の方々も使えるカフェテリアをしつらえています。
中之島フェスティバルタワー・ウエスト
 次 次に西地区の紹介です(図7)。1階の配置図を見ると、オフィスで勤務する方々は多くが大阪駅方面から来るので、北側にあるオフィスエントランスから入り、エスカレーターに乗ってオフィスへ向かうという動線になっていることが分かります。東側に面した部分は大きなピロティとなっており、にぎわい空間として地域に貢献することを意図しています。
 エスカレーターは3階のオフィスロビーに通じています。1階から上がって来た人たちは、低層用・中層用・高層用に分かれたエレベーターに乗って各階へ向かいます。3階南側には、オフィスで働く人はもちろん、それ以外の方々も使えるカフェテリアをしつらえています。
ラグジュアリーにこだわったホテル設計
 オフィスロビーは東地区と同じフローリングを使っており、上部の壁面には透かし積みのレンガを使うことで東地区との連動性を表現しています。オフィス空間は、東地区同様に、柱が全くないため非常に広々として見えます。3mの天井高もグレードの高さを感じさせます。
 ホテルのエントランスも1階です。エレベーターで、ほぼ最上階となる40階まで一気に上ると、眼下に大阪の街並みが見渡せます。海側に開けたビューは壮観で、「インスタ映え」すると人気が高いそうです。一番高価なスイートルームには漆の浴槽がしつらえられています。
 ホテルの客室階は、東面が東地区のオフィス階と同じアイレベルになるため、客室の中が見えてしまうおそれがありました。そのため東面は控え室やBOH(バックオブザハウス)を配置し、客室は北・西・南だけに置きました。客室の天井高は3.1m、標準客室が50uという広さ。1泊5万円程度するそうです。
低層部に制振部材を集中させる「スーパー制振」
 フェスティバルタワーと同等の高い耐震性能と、フェスティバルタワーで評判のよかった免震の採用が建築主からの要望でした。しかしオフィス、ホテルを積んでいくと、免震層の高さがフェスティバルタワーよりもずっと低い位置になり、免震構造として不利な形態になってしまいます。
 そこで、西地区に関しては中間層免震ではなく「スーパー制振」を採用することになりました。スーパー制振とは、低層部に集中的に制振部材を設けた制振層をつくる構造のことです。
 基準階は東西同じ大きさではありますが、構造的にはかなり異なります。フェスティバルタワーは9本柱のセンターコアであるのに対し、ウエストは16本柱。コアの中には多数のオイルダンパーが入っており、外周には低層部分にオイルダンパーが入っています(図8)。
 このタワーは低層部に壁が多く、外周の壁部分にオイルダンパーを多数入れています。それによって集中的に制振する「スーパー制振」を実現しているのです。
 特に東面は、1階から16mの自立壁を建物とは独立して地面から建てています。地震が起こると、建物側は大きく揺れますがこの壁はあまり揺れない、こうした差を利用してオイルダンパーを効かせているわけです。
 使用しているオイルダンパー(高減衰力ダンパー)は、一緒に設計を行った竹中工務店で開発されたもので、日本で最も大きなダンパーです。長さも太さも一般的なダンパーを大きく上回り、3倍の威力を発揮します。高減衰力ダンパーは1階から4階までの間に入っているのですが、低層部に集中的に入れることにより、当該部分だけでなく、建物全層にわたって地震時の横方向の揺れを小さくする効果があります。
 西地区の鉄骨は、平面図をABCDの4部分に分け、北陸から九州にわたる各地の工場でつくっていただきました。
デザイナーと共につくりあげる細部の意匠
 構造では、骨組みをつくるだけではなく、デザイナーの要望にこたえていくことも重要な仕事です。例えば、西地区のホテルのロビーにあるリボンのような螺旋階段についても、われわれが解析モデルをつくって安全性を解析、使用上支障がないことを数値計算で確認したのちに、図面を描いて実際につくりながら、最終的に美しい作品に仕上げるわけです。
 また、ロビーを降りたときに外装枠から外の景色が見えるのですが、せっかくの景色にあまり無骨な構造材が目立たないように、マリオン(縦枠材)を可能な限り小さくする工夫を施しました。
 中之島フェスティバルタワー・ウエストのすぐ際を阪神高速池田線が通っています。もともと池田線の上には道路を覆うように建物がありました。この池田線でリフレッシュ工事が行われることになりました。工事中は道路も数日は通行止めになります。高速道路のリフレッシュ工事はめったに行われないものなので、朝日新聞ビルを解体するのに絶好のタイミングでした。そこでこの時期を狙って西地区の解体を計画し、工事中に全て解体することができました。
 近辺に会社がある方も多く、フェスティバルシティは皆さますでにご存知の場所と思われますが、何かの折に足を運んで実際にご覧いただければと思います。
 
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