2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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講演会の予定・講演録
「基礎工法の建築技術性能証明の概要と最新の動向」

   (一財)日本建築総合試験所 岩佐 裕一 氏

性能証明の概要
 われわれ日総試(日本建築総合試験所)が行う建築技術性能証明は建物の構造技術に関する技術が多く、本日は構造設計とそれに関わる技術開発の観点を含めてお話しします。
 構造設計において、常時作用する自重等の荷重を長期荷重と呼び、地震、風などの荷重を短期荷重と呼んで、それに対して安全となるように建物を設計します。日本は地震国なので、構造設計者は対地震を最も重要視して建物の設計をします。
 大震災による死者の死因に関するデータがあります。関東大震災は87%が火災、阪神・淡路大震災は83%が建物の倒壊、東日本大震災では92%が津波による溺死でした。4月の熊本の地震では、亡くなられた方は説明した3つの大震災より少ないですが、倒壊したり大破して住めなくなっている建物が相当数あり、建物をしっかりつくることは重要です。関西では、南海トラフを震源とする地震が周期的に起こっており、今はいつ海溝型の巨大地震が起こってもおかしくない時期にきています。
 耐震性の向上した建物を設計するために、特に地震に対しては、制震装置を設置したり免震建物にしたりしてグレードの高い性能設計をすることができます。構造設計者は建物に与える性能を、コストも含めて建築主と協議し、それを実現するため新たに開発されたさまざまな構工法を採用します。建築基準法や建築学会の諸規・基準類などをもとにすれば普通の設計はできますが、他者との競争になったとき、普通の設計では勝てないので、構工法を開発し、設計者の創意工夫と新しい技術を組み合わせることになりま
す。技術的な切り口では、性能アップを図る技術、差別化を図る技術、コストの合理化を図る技術、という三つがありますが、個々では限界があるので、組み合わせて特別な性能を見いだすような構工法の開発が行われます(図1)。
なぜ性能証明が必要か
 日本では、申請しないと建物が建てられません。「建築確認」「確認申請」というものですが、法律では建築確認は判断基準が確定的・一義的に定められており、判断者の裁量の余地がない行為であると規定されています。つまり、どの申請機関で審査を受けても同じ結果になるということです。一方、そうは言いながら、技術基準における建物が満たすべき要求の確認には、工学的判断が伴い、答えが一つにならないということもありうるとしています。
 通常は「法律や行政指導等に基づいてある一定範囲のことしかしないでください」と要求しますが、「特別なことをしたいときはそれなりの根拠があればやってもいいですよ」という位置づけになっています。そういう法令側の流れがある中で、われわれは建築技術性能証明という証明書を出しています。構造技術でいえば、特殊な構造がどういう定量的な性能を持っているかを証明します。
 確認申請において、建築主事等は意匠や設備、構造も含め全部を見なければなりませんが、建築主事は全部のスペシャリストではありません。審査を円滑にするために、建築主事が判断しにくいことはその技術的根拠を第三者機関として証明するわけです。一つの建築技術に対し、それに関わる立場の異なる方々にとっての証明の有効性、必要性を図に表現してみました(図2)。
 なぜ第三者機関による証明が必要かというもう一つの視点は、時代背景の移り変わりです。高度成長期1970年代、80年代はオーナー社長や部署の一担当者の判断でお金が使えていました。バブル崩壊後の1990年代はコストの意識も変わり、経済性の優先等、現実的な考え方になってきたのです。またインターネットが普及して情報が得られるようになった一方で、何がいいか悪いかの判断がつきにくい傾向も逆に強まりました。そのため、第三者による判断の重要性が増してきたと思われます。
性能証明の対象となる技術
 性能証明の対象となる構工法には、常時を支える技術や新築時に必要となる技術、地震時や既に建っている建物の耐震補強に関わる技術、この二つの観点があります。新築時においては、例えばオフィスビルで柱が5mおきにあると事務所空間として使いにくいので大スパンを構成できる技術などがあります。地震時でいうと、制震ブレース・ダンパーの開発や、機械式定着や高強度せん断補強筋といった鉄筋に関する技術などがあります(図3)。
 証明実績の具体的な工法事例や実績数を示します(図4)。耐震補強工法では55件、基礎工法は174件の証明事例があり、基礎工法についてこれから説明します。

基礎工法の性能証明の位置付け
 基礎工法は、国土交通大臣の認定に関わる性能評価と、認定は関与しない性能証明の二つに大別されます。国土交通大臣が認定してくれる工法は非常に限られた範囲で、くいの押込み支持力、既製ぐい(鋼管ぐい)、法律が要求する材料で構成されているくい材、この三つすべてに適合している必要があります。大臣認定はお墨付きの中でも最上位なので、これを目指す方は多いのですが、要件を満たさなければ認定されないため、該当しない工法については性能証明、つまり日総試のような第三者機関が行う証明に根拠が求められます(図5)。大臣認定でも、国に資料を出せば認定されるわけではなく、国から許認可を受けた機関で性能評価の審査を受けてから大臣に申請する必要があります。
先ほど基礎工法の実績が174件あると説明しましたが、基礎だけでも、地盤補強工法、地盤改良工法、杭頭接合・杭頭処理工法、杭継手、杭工法などの技術があります。工法ごとに事例をいくつか紹介します。
地盤補強工法
 これまでに証明を行った74件の地盤補強工法の補強材について分類しました(図6)。補強材には強度や耐久性が求められますし、環境配慮も必要です。使用が多いのは鋼管で、既製コンクリートパイルを使うものもあります。木材(木杭)を使う方法もありますが、腐食の問題があるためここ数十年は使用しにくいとされてきました。しかし、山林が荒れることを避けるため、国策として地場木材を使おうという方針が出ており、その流れをくんで、腐食しないように処理をした上で木材を地盤補強に使っている工法もあります。特殊な使用材料としてはプラスチック材や、織布という強度の高い繊維を織り込んだ布を補強材として使うような事例もあります。本日は使用材料について特に説明しましたが、これらの補強材を用いた場合の地盤の支持力について証明を行っています。
先端翼付き鋼管、既製コンクリートパイルの押込み支持力 先端翼付き鋼管の押込み(鉛直下向き)側の支持力については、多数の案件を証明しています。そのデータを集め統計分析を行い、技術報告等により世の中の方に情報を発信しています。
 該当鋼管は3パターンに大別でき、工法ごとにデータが集められています。横軸に換算N値と称される地盤の強さ、縦軸に支持力度を示した図です(図7)。多くの工法のデータがありますが、それらをプロットするとある一定の傾向が読めとれます。一つひとつの工法では局所的な点のデータにすぎないのですが、全体を見ると、工法は変わっても一定のことが見えてきます。
 既製コンクリートパイルも、円筒形、八角形、十角形などの多角形や、H形断面等、形状はさまざまですが、地盤の強さ(換算N値)と支持力度で実験結果を整理すると一定の傾向が見いだせます。

地盤改良工法
 地盤改良工法では34件の証明をしています。現地の地盤の強度だけでは建物を支えられない場合にセメント系材料を混ぜて地盤を改良する工法です。セメントの粉自体を土と混ぜる方法を粉体使用といいますが、土とセメントの粉は混ざりにくいので、セメントを水と混ぜて液状(スラリー)にしてから土と一緒に混ぜるスラリー仕様という工法がよく使われます。証明もこれらの工法が比較的多くなっています。
 地盤改良効果を確認するために、コアを抜いて強度を調べることになっています。ボーリングコアやモールドコア等、コアを取る方法がいくつか規定されているのですが、コアの違いによる強度の相関を知ることで現場管理に役立てられています(図8)。地盤改良工法では、改良体の品質(設計基準強度、変動係数)について証明を行っています。

最新の動向
 東日本大震災では、千葉県浦安市などで液状化の被害が非常に多く見られました。液状化対策に関わる技術も、直接的ではありませんが証明に取り組んでいます。直接的に液状化対策工法そのものを扱わないのは、絶対的な工法はありえないという理由からです。
 一般に住まわれる方は、液状化が起こらない対策をするのだから、当然液状化は起こらないようになっていると思われるかもしれません。しかし、外力条件が確定できず、地震の大きさや継続時間、繰り返し回数等によって、1回目の地震では起こらなかったが、2回目の地震のときに起こった、というケースがありました。従って、「絶対に液状化が起こりませんよ」といえる工法はあり得ないと思っています。そういう意味でも、直接的に証明をすることが難しいのです。液状化が起こりにくいと見なせる指標、例えば地盤密度が増大する、地盤剛性が増大する、N値が上がる、といった観点の指標値に対する証明は可能だと考えています。
 また、最近の事例では、太陽光発電などが設置されるところが多くなってきているので、その架台用基礎の証明をするケースがでてきています。
まとめ
 日総試が第三者機関として行う性能証明について概要を、また基礎工法の証明事例について紹介を行いました。審査のための委員会は、大学教授をはじめとする学識経験者から構成され、中立性を保った上で、適正・公平・迅速に審査します。日総試担当者は工法開発者(お客様)の証明取得のために、協働して技術サービスに努めています(図9)。
 証明については、ホームページで実績一覧を公表しています(http://www.gbrc.or.jp/contents/ building_confirm/self_certification/gijyutu_ninsho_list.html)。それぞれの工法に関し、技術の概要、その技術が開発された経緯、証明した内容、工法の概要図等を示し、証明取得者・会社の連絡先も記載しており、工法の概要を知ることができます。一度ご覧ください。
 これまで説明しましたように、性能証明は構造技術がメインとなっていますが、ある技術のある性能が定量的に評価できるのであれば、構造技術以外でも審査ができると考えています。お手元に性能証明のリーフレットをお配りしていますが、「いいものはいい!誰か言ってくれないかな? そうだ、GBRCに聞いてみよう!」といった感じでお気軽にお問い合わせください。
 
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