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「太陽光発電システムの耐風性能評価」 |
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一般財団法人日本建築総合試験所 試験研究センター 環境部 耐風試験室 高森
浩治 氏 |
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太陽光発電システムの強風被害事例 |
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年度ごとの太陽電池出荷量の推移を見ると、急激に増えているのが2012(平成24)年くらいから、固定価格買取制度が始まってからです。固定価格買取制度は3年間の限定です。特にプレミア価格買い取りで、申請が増えて急激に増加しています。3年間は高く買い取って2015年度以降は少し減少する見込みですが、申請されて認定を受けたものに対して発電されている量はごくわずかで、発電には至っていない、施工されていないものも多いのが現状です。
すでに世の中に出回っている太陽光発電システム自体が、強風被害を受けている例がけっこうあります。ここ数十年、建築基準法に示されている設計風速に達するような強い風を伴う台風は、日本本土に上陸していないにもかかわらず、強風被害が多発しているというのが現状です。建築物と同時に太陽光パネルに被害が出ている。地上設置型太陽光パネルがめくれ上がって飛散している例。パネル固定部の強度不足です。別の例では、1本の柱で自立させている太陽光システムですが、完全に支柱から倒壊しています。柱が弱かったのか基礎部分の強度が足りなかったのか、完全にばったり倒れてしまっている事例です。屋根の上にフレームを設置してその上に太陽光のモジュールを並べているタイプで、そのまま屋根から飛んで落ちた事例もあります。フレームとモジュールがしっかり固定されているということは、フレームと屋根との結合強度が足りなかったと思われます。次の事例もすごいです。屋根に傾斜の架台を付けてその上にモジュールを並べたケースですが、その屋根の上から20メートルくらい飛んでいっています。
こういう被害は最近ときどき見られますが、施工業者がすぐ回収してもとに戻しているので、表に出てくることはあまりないそうです。太陽光発電システムの耐風設計の一番大きな問題は、既存の建築物に付ける場合が非常に多いことです。既存建築物の屋根の強度は誰が確認するのか?これはかなり根深い問題としてあります。モジュール、フレーム、屋根の設置まではいいのですが、屋根自体の留め付け強度も確認しておかないと、パネルを付けることで余分に力がかかるので、屋根ごと飛んでしまう被害も出るのです。
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国交省と経産省の関連法規 |
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それらをどう考えて耐風設計をしていくか。建物上に設置される太陽電池は国交省の建築基準法の管轄です。関連法規も建築基準法で、防耐火性能や構造安全性能などが要求されます。国交省は国住指第1152号をもって、建物上に設置されるものは「確認検査不要」としています。経産省(電気事業法)のほうで構造安全性が確認されている前提で、こちらはいらないという見解を出しており、住宅などに設置されている太陽光パネルは、意外と確認検査の対象になっていないことが多いです。新築の場合も、確認をしたりしなかったりとあいまいな扱いになっているようです。
一方、経産省は地上設置と建物上設置の両方が対象になります。関連法規は電気事業法です。電気的な性能、一応構造安全性についても要求されていますが、電気事業法の場合、構造安全性について具体的には書かれていません。JIS C8955を引用して構造安全性能を確認しなさいという形になっています。ところが経産省は建築基準法にある建築確認検査のような手立てを持っていないので、メガソーラーなどの大規模な発電設備ではある程度チェックしているようですが、小規模なものは構造計算がまったく行われていない場合もあり、構造安全性については野放しに近い状態になっているのが現状です。
もう少し細かく見ると、建築基準法施行令第82条の中で許容応力度設計のことが書いていて、風荷重に関しては、2000(平成12)年の建設省告示第1454号および第1458号に風荷重の算定が示されています。しかしその告示には太陽電池の風荷重を算定するための風力係数は示されておらず、風荷重を求めることはできない。そこで、JI S C8955(太陽電池アレイ用支持物設計標準)に示されている風力係数を引用して設計風荷重を設定している場合もあるようです。ところが国住 指1152号では「建築確認が不要」としているので構造計算をしていないケースもあるようです。一方、電気事業法では電気設備の技術基準を介してJIS C8955を引用しており、実質的には電気事業法での構造的な要求性能がここに書かれています。
2004(平成16)年にJISが設定されて、そこに許容応力度の設定の仕方も書いています。 2011(平成23)年に改定されたのですが風荷重に関する内容は大きな変更はありませんでした。その後被害が起こっています。JISで示されているその荷重は本当に大丈夫なのかという話が出て、いろいろな研究が始まりました。するとJISで示されている風力係数の値が実際の荷重より過小ではないかという、いくつかの問題が報告されました。そこで2011(平成23)年に改定したところですが、今現在JISの改定に向けて動きがあります。ということは、現行のJIS C8955をもとに風荷重を設定していくと、実物に作用する風荷重よりも過小になっている、そういう状態で今もなおどんどん増え続けていくというのが現状です。
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耐風設計・耐風性能評価での問題点 |
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社会システム上の問題と技術的な問題があります。 社会システム上の問題は、建築確認検査から除外されていて、しかも構造設計に関するチェック体制がない、小規模の場合はほぼノーチェックという状態であること。太陽電池モジュールメーカー、取付金具メーカー、設置業者、建物上設置の場合は建物の設計者など、太陽光発電システム自体に多くの設計者が関与しています。ところが全体を管理する設計者が誰なのかはっきりしません。新築の建築物に設置する場合は建築物の設計者が見るケースがありますが、既存の建物の場合は、誰が見るのかという話になる。誰が責任を持って見るかがはっきりしない中で、何となく付いてしまっているのが現状です。太陽電池とその支持架台の設計は、電気系の設計者が行う場合が多い。ソーラーパネルのメーカーや設置業者は電気系の人が多いので、意外と構造設計に関する知識が少ないのです。
技術的な問題は次の3つ。屋根設置型の場合なども、屋根に設置する場合特にそうですが、荷重の伝達経路が複雑になる場合が多く、構造設計が難しい。そこにきて設計荷重が過小に設定されているため、さらに危険な状態になる。設計ができたとしても耐風性能を確認するための試験方法の規格がなく、試験を実施できる機関も少ない。このような現状では構造安全性が正しく確認されているケースは少ないのではないかと思われます。(図1)
荷重の伝達経路が複雑だといいました。前述した図1は立平葺屋根の金属屋根に付いているモジュールの断面図ですが、非常に複雑です。構造設計は難しいので、耐風性能を調べるためには試験か何かで確認していく必要があると思います。 風荷重が過小に設定されているという話をしましたが、現状JISで設定されている風力係数が小さいことがその一因だといわれています。風力係数が実際どれくらいかと、研究者がいろいろ今調べているところです。われわれも地上設置型の太陽光パネル、屋根の上に設置する太陽光パネルで風洞試験を行って研究発表として発表し、いろいろと数値提案をしました。やはり提案値に対してJISの数値は低かったのです。いくら荷重を設定してしっかり設計しても、設計している荷重が低いと当然被害が起きます。今こういう現状が分かってきて、大至急JISの改定に取りかかっている状況です。
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耐風性能評価 |
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耐風設計のフローでは、設計風荷重の設定が最初にきます。その設計荷重に対して耐えられる部材を選定し、耐力確認をします。構造計算ができるのなら各部材の構造計算をして耐風の評価をすればよい。ところが太陽光のシステムは多くの部材で構成されており複雑なので、構造計算が難しい場合には載荷試験(アセンブリ試験または部材試験)で確認します。(図2)(図3) 荷重の伝達経路は非常に複雑です。モジュールに作用する風力はフレームや架台を経由して基礎や屋根構造体に伝達されます。荷重の伝達経路にあるすべての部材が漏れることなく耐力評価を行う必要があり、これが漏れると風で飛んでしまう事故につながるわけです。モジュールを留め付けている金具がやられるとそこから飛んでしまうし、屋根構造体の強度確認を忘れていると屋根ごと飛んでいくので、最終的にはすべて漏れなく耐力評価を行う必要があります。これは太陽光パネルに限らず屋根葺き材や外壁材とかも同じです。同じ部材でも取り付け位置によって受ける荷重の大きさや向きが異なるのですが、このあたりは意外と構造設計で抜けることが多いです。
太陽光のモジュールがあります。そこからモジュールを受けるためのフレームや架台があって、最終的に屋根構造体とか基礎に荷重が伝わっていきます。2つのモジュールがかかるところは当然ながら2つの荷重を受けるので、耐力試験をするときにこの1つだけを取り出してやると、ここの部材の留め付け部は過小に評価される。少なくとも2スパン分は評価しないと、ここの耐力評価はできません。屋根葺き材でも必ず2スパン以上で試験してくださいというのはこういうことです。1つのモジュールだけで試験すると過小な評価になる場合があります。
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耐力評価のための載荷試験 |
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地上設置の場合はシステムの設計者。新築の建物の場合は建築物設計者。既存の建築物の上に設置する場合は販売者か?施工者か?当然モジュールメーカーはそのモジュールが最終的にどんな建物に付くかを把握できないので、最終的な設置状態を把握できる者が確認する必要があるのです。
JIS C8955では、許容応力度設計が採用されています。許容応力度設計ではその荷重を受けた場合においても部材が損傷することなく、その後も支障なく使用できる荷重をいいます。ただ、載荷試験によって得られる荷重・変形曲線から直接的に許容耐力を求めることが難しい場合が結構あります。例えば建築物の外装材の場合、安全率を1.5から3くらいに設定することが多く、最大耐力を安全率で割って許容耐力とすることが一般的です。複数の要素を組み合わせるアセンブリ試験なら安全率を低めに設定すればいいのですが、部分試験では不確定要素が多いから安全率を大きめにしたほうがよいでしょう。
耐力評価のための載荷試験(アセンブリ試験)の事例を紹介します。パネルを2枚分置いた試験体に圧力をかける試験です。屋根の構造体まで伝わるような荷重の伝達経路を試験体の上で再現しました。たくさんの部材で構成されていますが荷重をかけていくと、一番弱いところでつぶれるという結果です。外装材の耐風圧試験と同じように目標荷重を決めます。ここでは目標荷重1が地表面粗度区分Vの設計荷重です。目標荷重2はそこから区分Uの荷重です。2段階の目標荷重を与えて、それぞれの除荷後の残留変形を見る。残留変形がなければ許容できる状態といえます。
目標荷重1をかけて除荷しても残留があった。荷重2まできて除荷してもなかった。それで最後まで破壊までいった。こちらのほうは荷重2くらいをかけると少しだけたわみが残った。残留変形が残ったのですが問題はないということで判断してかけていき最終的には6kPaへの昇圧中に破壊した。5.7kPaのところでは大丈夫だったので、最大耐力を5.7kPaとしました。6.0kPaへ昇圧中に潰れたということになります。屋根葺き材を留め付けているビスのところがちぎれて破壊したという結果です。このような部位での破壊は、個々の部材試験からは予想が難しかったかもしれず、アセンブリ試験をやってよかったという結果だと思います。(図4)(図5)
当たり前のことですが、設計荷重の設定、構造設計、性能評価、施行という流れにおいて、すべてが適切に実施されて初めて安全性が確保されます。これらが適切に実施されていないといろいろな事態が起きるわけです。現状、それぞれの段階で問題、課題があり、少しでも解決できるように活動しています。
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