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パネルディスカッション「安全・安心な住宅を手に入れるために」 |
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コーディネーター甲南女子大学人間科学部人間環境学科教授 大森 敏江氏
住まいの安全・安心に対する関心の高まりの一方で、不満や不安がくすぶっているように思います。住宅産業、建材メーカーとしてこれらにどう応えていけばいいのか、後半に行われるパネルディスカッションに向けて、さまざまの立場の7人の方から話題を提供していただきます。 |
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報告1:住宅が造られる仕組みについて 京都大学大学院工学研究科建築学専攻准教授 古阪 秀三氏 |
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日本の住宅市場の規模は、年間120万〜130万戸。昨年は、着工総床面積1億8600万uの60%以上が住宅でした。 その建設には多くの人が関わっています。典型的な例では、建築主の下に設計チームと施工チームがいて、それぞれ全体をまとめる人と専門ごとの担当者がいます。これらの人々は、すべて契約関係で結ばれていますが、これはプレハブ住宅や大工・工務店も同様です。 一方、法規面で見ると、住宅専門の法律は住宅品確法だけ。あとは、建築基準法、建築士法、建設業法など、すべて住宅・非住宅共通です。 最後に、住宅生産の大まかな仕組みですが、何を建てるかを決める「企画」に始まり、「設計」「施工計画」「工事」、工事の品質を管理する「工事監理」、完成後の「維持保全」といった仕事があります。このうち、「設計」「工事監理」は建築士、「工事」は建設業許可を持つ会社しか扱えません。また、「維持保全」では最近、専門のコンサルタントや工事業者が活躍する方向に動いている。ただ、いずれにせよ、どの工程の中でも、消費者・居住者の位置付けははっきりしていません。これは今後、慎重に考えないといけない点です。 |
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報告2:生活者が考える安全・安心な住宅社団法人全国消費生活相談員協会 常任理事関西事務所長吉川 萬里子氏 |
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住宅は失敗したからといって容易に買い換えができる商品ではありません。高額なだけに、トラブル解決もこじれがちです。全国の消費生活センターに寄せられた相談を見ると、欠陥住宅や完成の遅れ(履行遅滞)。問題があった場合のクレーム処理などがよくトラブルになっています。もちろん、リフォーム工事をめぐる相談も多数寄せられています。 トラブル解決のための体制はどうか。全国には542か所の消費生活センターがありますが、住宅に関する技術的なことについて建築士など専門家が相談対応できるのは、独立行政法人国民生活センターなどごくわずか。一方、自治体の住宅相談窓口は、解決のための斡旋までは行っていない。建売住宅などについて相談できる窓口は、ほとんどないのが現状です。 そこで提案です。民法の原則では完全な商品の引き渡しと支払いは同時履行の関係にあり、住宅もこの原則が貫かれています。しかし、住宅の支払いは、半年点検とか1年点検が終了し、不具合が直され、完全な住宅の引き渡しを受けたと消費者が思う時点にすべきではないかと考えています。たとえば、カギの引き渡し時に代金の10%〜20%を供託して、1年後に完全な手直しが行われた時点で供託した残金を支払うという形にすれば、事業者は完全な商品を渡すべく努力をされるでしょう。代金の支払時期についての発想の転換と、消費者の立場に立った苦情処理機関の確立を望みます。 |
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報告3:集合住宅における構造上の安全・安心を考慮した設計施工について株式会社竹中工務店 大阪本店設計部構造担当副部長椿 英顯氏 |
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1981年(昭和56)に改定された新耐震基準では、震度6弱程度でも建物が倒壊・崩壊しないことが目標となっています。しかし、一般の人が容認できる被害程度は、この基準とは違います。アンケートでは8割の人が、「仕上げなどは一部破損しても、柱や壁は被災前と同じ状態」を望んでいます。また、阪神大震災では、家具の転倒で被災した人が非常に多かった。こうした結果は、集合住宅の構造上の安全・安心を考える上でも無視できません。 ではどうするか。従来の耐震構造、あるいは制震構造では、建物の損傷は避けられませんし、上階の揺れも激しい。一方、免震構造は、地震力を2分の1から3分の1に低減できるので、建物の被害も内部の家具の転倒もかなり抑えられます。RC系の集合住宅には、非常に適していると思います。とりわけ、最上階の激しい揺れや被災後の補修の困難が懸念される超高層住宅では、なるべく免震構造をと、デベロッパーにもお勧めしています。 今後の課題は、インフラ損傷への対策です。たとえば、一帯の電気が止まると、エレベーターが止まる。高層の方は、わが家へ水を運ぶのさえ大変なことになります。そんな場合でも何とか大丈夫というのが、本当に災害に強い集合住宅だと考えております。 |
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報告4:集合住宅における防災・防犯・室内環境上の安全・安心を考慮した設計・施工大阪ガス株式会社 リビング事業部都市圏住宅営業部提案技術チームマネージャー 勝瀬 進氏 |
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1981年(昭和56)以後、集合住宅には新耐震基準が採用されましたが、建築設備についても、建築設備耐震施工指針に基づく耐震設計が採用されました。これは阪神大震災の際も有効性が検証されています。また、2005年(平成17)の千葉県北西部地震では、首都圏で約6万4千台のエレベーターが停止しましたが、これ以後、エレベーターの地震時管制運転は、初期微動(P波)段階で最寄り階に停止・開放する方向性が打ち出され、そういう製品が順次出されています。 次に防災ですが、たとえば火災に関して、ガス厨房機器では、天ぷら油の過熱防止センサーの全口設置や地震時の感震停止などが進められています。また、防犯面では、監視カメラの採用、カギやガラスの強化などが一般化してきました。センサーと連動したホームセキュリティも普及しつつあるようです。 3点目の室内環境としては、シックハウス対策が重要です。2003年(平成15)の建築基準法改正では、ホルムアルデヒドの建材の使用制限と常時換気が義務づけられました。特に、分譲集合住宅では、浴室暖房乾燥機を利用した24時間換気が主流です。 今後の設備機器の安全・安心についてですが、3つのポイントがあると思います。1つは、設置時の導入コストあるいは将来の更新コストの考慮。次に、住む人自身による点検掃除の必要性。最後に、コミュニティによる防犯力・防災力の強化が肝要かと思います。 |
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報告5:プレハブ住宅における耐震・防犯・室内環境上の安全・安心を考慮した設計施工トヨタ自動車株式会社 住宅事業本部BR技術統括室室長 山根 満氏 |
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プレハブ住宅における安心・安全のポイントは3つあると思います。1つ目は、家づくりを依頼する会社の安全・安心。これは、健全な経営体質やトータルな組織力そのものです。 2つ目は、商品の安全・安心。これは、温熱・空気質・音などの日常的なもの、地震・台風など非常時への備え、高齢者配慮・維持管理など将来に対するものに大別できます。具体的には、ヒートショックを防ぐ高断熱化、低ホルムアルデヒド素材の採用、CP認定品による侵入口の強化、制震・免震装置の搭載などが挙げられます。 3つ目は、体制・仕組み面における安全・安心。具体的には、国交大臣の認定認証制度に基づく法令順守・品質管理、工場生産によるコスト・品質の安定化などです。また、保証制度や点検制度も、プレハブメーカーごとにさまざまな仕組みを実施しています。 私たちは、安全・安心の更なる進化に向け自動車技術を積極的に応用しています。たとえば1・2階間の遮音を担うダイナミックダンパーはエンジンマウントの制振技術、携帯しているだけで解錠・施錠できる玄関スマートキーは、セルシオのセキュリティ技術をそれぞれ応用したものです。 しかしながら、安全・安心を追求すると、コストアップやデザイン・プランの自由度の制約など、トレードオフせざるを得ない課題が生じてきます。たゆまない原価低減努力や研究開発によりこれらを解決し、お客様へよりよいものを提供することが、われわれプレハブメーカーの重要な課題と感じております。 |
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報告6:安全・安心な住宅を造るために果たす建材の役割エスケー化研株式会社事業本部広報企画チーム次長 西村 信国氏 |
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建築の安全・安心を求める声は、私たちが扱う建材にも大きな影響を及ぼしています。たとえば、住宅の品質確保促進法では、躯体構造の10年保証が定められました。すると、われわれが扱う塗材にも拡大解釈され、10年保証が求められるケースも出てきています。また、建材のホルムアルデヒドやVOCについては4つのランクがありますが、使用制限のないF☆☆☆☆(フォースター)が主流となります。同じことは、労働安全衛生法改正で導入された、化学品の危険を表示するGHSについてもいえます。まさかドクロマークのついた製品を出荷できませんから、それを避けるための配合変更が必要です。こういう化学物質に対する規制の流れは、EUのREACHやRoHSなどを見ましても、ますます強化されつつあります。 そういった現状を踏まえて、われわれはどういうことをやっているか。1つは、溶剤系塗料、弱溶剤系塗料を水性化する方向です。あるいは、水性でもTVOCを1%以下にする。環境に悪影響を及ぼす芳香族などの成分を0.01%未満に抑える。一方で、抗菌作用やホルムアルデヒド分解作用を持った塗材、塗り替え回数を低減させる低汚染塗料、ヒートアイランド防止に役立つ遮熱・高反射率塗料の開発なども進めております。こうしたことを通じて、われわれ建材メーカーもできるだけ安全・安心な材料提供を行っていきたいと考えております。 |
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報告7:ユニバーサルデザインの最前線積水ハウス株式会社大阪設計部部長 前田 雅信氏 |
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ユニバーサルデザインは、米国のロナルド・メイス氏によって提唱されました。「すべての人にとって、できる限り利用可能であるように製品・建物・環境をデザインすることであり、デザイン変更や特別なデザインが必要なものであってはならない」。脱衣場から洗い場への段差がほとんどなく、補助手すりなども設けられたバスコアは、そのよい例です。 バリアフリーとの違いをよく聞かれますが、たとえば階段に車イス専用の昇降機などをつけて、一時的に障害を除去するのがバリアフリー。階段とエスカレーター、エレベーターを最初から用意して、誰でも使えるようにしておくのがユニバーサルデザインです。その融通無碍な精神は、日本古来の和室やのれん、お箸、ふろしきなどに通じます。 今、ユニバーサルデザインは公園や乗り物、自動販売機から湯飲み、時計などに応用されているほか、住宅用トイレやホームエレベーターにも取り入れられています。 最後に、これからのユニバーサルデザインですが、誰もが使いやすいという発想はほぼ限界ではないか。たとえば、芸術家の荒川修作氏が建てたマンションは、建物が人間の行動を強いることを目指した空間になっている。適度なストレスが人の潜在能力を生かすことを考えると、これからは便利過ぎない家、自然や地域に開かれた家が、選択肢としても脚光を浴びるのではないかと考えています。○ |
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質疑応答 |
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現在の住宅の引き渡し形態は、民法の同時履行の原則に合わないのではないか、という発表があった。住宅メーカー、デベロッパーの立場からはどう考えているか。前田 住宅メーカーの立場から申し上げると、建具のひずみ、床鳴りなどは、ある程度住んだり、季節を経過しないと出てこない。そこは許してほしい。山根 完成後の問題には、残ダメ工事と初期不具合があり、後者はどうしても発生する。ただ、消費者には両者の区別がつかないので、不満が残るのではないか。古阪 住宅の供給者は千差万別で、ここでの話題と実際の相談内容では問題のレベルが違う。住宅業界側は、底辺のレベルを上げるための教育をトップ企業がやるべきだし、消費者センター側もトップ企業に具体的な要望を伝える努力が必要だ。吉川 住宅について、消費者がものを言えるようになったのはごく最近のこと。消費者保護の発想が一般的な時代に、住宅業界だけがそこまで行っていない。古阪 PL法に基づくPLセンターにはあっせん機能もある。消費者はこういう窓口をもっと利用してはどうか。消費者が声を上げないと、状況はなかなか変わらない。吉川 個人で申し入れても対応されず、センターが間に入ってやっと解決する問題があまりにも多い。企業側には、個人レベルの申し入れにもきちんと対応する努力を求めたい。 |
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