2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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講演会の予定・講演録
  「住宅・建築物に係る地震防災対策」
国土交通省住宅局 建築物防災対策室長 井上勝徳氏
“危険”な建物を事前に知ることで被害を少なく

昨年度は新潟県中越地震と福岡県西方沖地震という大規模な地震が発生しました。

震度7を記録した新潟では住家の被害が大きく、約11万7,000棟が壊れました。山間部でしたので土砂災害でもやられました。雪解けになり山古志村などでは復興が本格化しますが、被害金額は相当と思われます。

福岡では玄界島で土砂崩れの被害が多く見られました。

地震などの災害が発生した場合、まず被災建築物の応急危険度判定をします。これは阪神・淡路大震災のときわが国で最初に実施されました。余震による二次災害を防ぐため、まず建物を外からざっと見て危険度を判断し、どの程度危ないかが分かるように「危険」「要注意」「調査済(安全であることを示す)」などの色ステッカーを貼ります。これは各地方公共団体の建築の職員、建築士会の方に協力をいただきます。中越地震のときも緊急に危険度判定をしました。実際に「危険」と貼ったものが余震で倒壊し、重要性が認識されました。そのほか住宅相談や公共住宅の空き家紹介、仮設住宅の建設などを行なったり、補修時の住宅金融公庫からの融資の説明など、さまざまなアドバイスをしました。

福岡市一番の繁華街、天神にある「福岡ビル」の外壁窓ガラスが割れ、大量の破片が雨のように道路に落下したのがニュースでも流れました。時間帯が違えば多数の負傷者が出ていたと思われます。この災害を踏まえ、直ちに全国で類似の建築物数万棟を調査、1,582棟に同様の危険性があることが判明しました。大阪府では約3,600棟調査し、43棟が危険と判断されました。これらの建物には現在、市町村などを通じて改善指導を実施しています。

今の基準は震度6、7でも倒壊しない建物

阪神・淡路大震災の犠牲者はほぼ9割が圧死でした。建物被害を建築年数で比較すると、新耐震基準が施行された昭和56年以前の建物に被害がより多く見られました。従って56年以前の建築物にとるべき対策が最も重要なポイントになります。

これまでの住宅・建築物の地震対策の変遷をみると、昭和25年の建築基準法制定に始まり、その後の新潟地震、十勝沖地震、宮城沖地震などを経て56年、新耐震基準ができました。平成7年、阪神・淡路大震災で古い建物に相当な被害が出たことから、耐震改修促進法が制定されました。

昔の耐震基準は、震度5程度の地震(中地震)に対して弾性限界(地震後、変形していたものが元の状態に戻る)を保証する基準になっていました。その基準を満足していれば大きな地震でも倒壊しないだろうと考えられていました。建築は横に変形する性能があるものほど粘り強い構造なのですが、地震の被害を見ると粘り強さ不足で壊れる建物が多いことが分かってきました。このため新しい耐震基準ではいろんな改正が行なわれました。例えば地盤が柔らかいときは基礎を強くする、あるいは木造であれば壁の量を増やす、具体的には2、3階建てでは従来の約1.4?1.5倍多く壁を入れなさいという改正、粘り強くするために鉄筋コンクリート造では帯筋をたくさん入れなさいというような改正です。

今の基準は震度6強から7の大地震でも全体が倒壊しない建物をつくることを要求しています。現在、この基準に満たない建築物は、住宅では約25%、非住宅(事務所、ホテル、デパートなど)は約35%と推計されています。年間約40万戸の建て替えと、約5?6万戸の改修で、わが国の住宅の耐震化率は年間1%から1.数%くらいずつ上がっています。あと25?30年でほぼ全てを耐震化できる計算ですが、東南海地震がかなり近い将来起こることは確実なので間に合わないと言われています。中央防災会議では今年の3月に、東海地震および東南海・南海地震の死者数を今後10年で半減する目標を定めました。そのための下位目標のひとつとして、住宅の耐震化という目標が定められました。

住宅の耐震化に法整備、財政支援重要

東海地震の死者は約9,200人、うち建物内で亡くなるのが約6,700人と予想されています。一方東南海・南海地震は死者約1万8,000人、うち建物内が約6,600人と予想されています。耐震化によってこの数を半減させるのです。このために住宅の耐震化率を今後10年間で9割に持っていくという目標を立てました。

耐震化のため現在実施している施策として次のようなものがあります。

・ 法制度による耐震化の誘導:耐震改修促進法の施行

・ 耐震改修費等に対する財政的支援:補助制度、 融資制度、税制による支援

・ 耐震改修等の技術開発等:コストダウン、新技術の評価・普及等

・ 所有者等への普及啓発:相談窓口の設置・事業者の紹介などの情報提供・その他のリフォームとあわせて耐震改修を行なうよう啓発

耐震改修促進法は平成7年の臨時国会で成立し、特定建築物(多数の人が利用する学校、病院、百貨店、ホテルなど)の所有者に耐震診断や改修の努力義務を課しています。

耐震化に対する支援制度には、助成や低金利の融資、ローン減税などがあります。

助成制度はさまざまです。統合補助制度は、耐震診断や耐震改修をするときに、一定の割合で国または地方公共団体が費用を負担するものです。ただ、補助を受けられる地域は“地震が起きやすい”ところに限定されています。これはやはり問題だということで、国からの補助の形ではなく、交付金として耐震化を支援する地方公共団体に対して費用を補填できるような制度を今年度からつくりました。

全国の市町村のうち助成制度を設けている市町村は、戸建住宅では耐震診断が580市町村、耐震改修が254市町村(平成16年3月31日現在)と、日本の全市町村数2,584からするとまだまだ不十分な状況です。

壁を多くして粘り強い家にする

木造の改修は簡単にいうと壁の量を増やすことです。特に昔の建物、数寄屋風の家や農山村の民家は壁が少なく建てられています。そこで筋交いを入れたり合板を貼って、とにかく壁を増やして横からの力に強くします。現状では戸建て住宅で1戸当たり200万円程度かかるので、もう少し低価格化が必要です。

平成12年に始まった住宅性能表示制度は、地震保険とリンクしています。この制度で定める耐震等級は、建築基準法レベルのものを等級1として2、3の順で地震に強いことを示しています。

情報提供に関しては、「日本建築防災協会」のホームページで耐震のさまざまな情報が提供されています。よくある相談が誰に頼めばよいのかというもの。リフォーム業者を騙った悪徳業者が非常に多く、社会問題になっています。このため、同ホームページでは建築士事務所の一覧も紹介しています。

去年、古い建物の安全対策のため、建築基準法が改正されました。既存の建築物の検査、報告制度、罰則を強化しました。危険と判断された建物には勧告、是正命令もできるようになりました。そして厳しくなった代わりに、増改築がしやすくなるような改正もしました。

地震保険制度に望まれる保険料の値下げ

地震保険制度は昭和39年の新潟地震のときにできました。現行の被災者生活再建支援法では、全壊で300万円、半壊で100万円まで国と地方公共団体が支援することになっていますが、とてもこれで建て替えはできないと国会で議論になっています。鳥取の地震でも去年の新潟の地震でも、各県で独自に支援をプラスアルファして「支援法」で足りない分が補われました。しかし、やはり国や地方公共団体が被災者一人ひとりを税金で支援するには限界がありますから、事前に国民の皆さんの方で地震保険に入っていただかねばなりません。

今の地震保険は単体ではなく、火災保険に付帯しています。つまり火災保険に入ったうえでプラスアルファで地震保険にも入るかどうかになります。保険金額は火災保険の契約金額の3割から5割です。保険料率は、各都道府県を1等地(地震が少ない)から4等地(地震が多い)に分類して上になるほど高くなります。東京など地震の多いところでは木造住宅で年間3万5,500円、大阪は3等地なので少し安くなっています。住宅性能表示の等級が高くなるにつれ、保険料率の割引が大きくなります。建物の耐震化が進んでリスクが減ったので、保険料は少しずつ下がっています。さらにもう少し下げられないかどうか、今損保業界と調整しているところです。今は加入率が約3割とまだまだなので、保険料が下がることによって地震保険の普及が進むことが期待できます。

今年2月に国土交通大臣の諮問機関として「住宅・建築物の地震防災推進会議」※をつくり、現在、耐震化の目標設定や目標達成のための施策や地震保険の活用方策を検討しています。

※6月10日にこの会議から「住宅・建築物の地震防災対策の推進のために」という提言が出されました。

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