去年11月の米大統領選挙は、共和党のブッシュ勝利に終わりました。レーガンが就任した1981年以降24年間、民主党の大統領はクリントン1人であることから、米国は保守化の傾向にあると言えます。
メディアによる出口調査の「何を問題として投票したか」という質問では、選挙の争点がイラク、テロ問題であるという大方の予想に反し、1番が「倫理、道徳的価値観」(22%)で、そのうち79%がブッシュに投票した。一方、経済を重視する人の80%、イラク問題を重視する人の74%がケリー派でした。
別の調査で、教会に行く頻度をたずねたところ、「週2回以上」と答えた人の64%がブッシュ、35%がケリーに入れました。「月1回」では半々、「行かない」ではブッシュ35%、ケリー64%。つまり、ブッシュは宗教心に篤い人々に支持されて当選したのです。宗教的倫理観がなぜここまで重視されるのかは、日本人には理解しにくい点です。
前回の大統領選で、ブッシュは当時副大統領のゴア(民主党)に辛勝しました。フロリダ州で500票差まで迫られた接戦の原因が何だったのか、選挙のプロである政策・戦略担当のカール・ローブ大統領上級顧問は探りました。
ブッシュを支えるのは、全米で1,900万票を数える宗教右派のコア集団です。前回、このうち400万票を逃してしまったため、今回その分をいかに獲得するかを考えた結果、ローブの400万票掘り起こし戦略がキーとなり勝利を決めました。では、なぜ成功したのか。
ブッシュ陣営は2点に着目し、それを争点に仕立てあげました。一つは同性愛者。90年代、米各州、市では相次いで同性愛者同士の結婚を認めました。もう一つは妊娠中絶です。宗教的右派は中絶は殺人であるという信念を持っています。ブッシュは今回同性婚と妊娠中絶への明確な反対姿勢を選挙戦で打ち出しました。というのもケリーは同性婚賛成の立場であり、同性婚を禁止する法案に議員として反対を表明していました。この法案は96年に可決しましたが、各州での束縛力を持たないのです。そこで「結婚は男女間に限る」を前面に出し宗教的保守派をターゲットにして、相手との明確な差別化を図りました。
ブッシュ陣営による宗教的右派掘り起こし戦略は、各地でのメガチャーチ(巨大教会)の増加が背景にありました。2,000?3,000人もの信者が礼拝に訪れるメガチャーチは普通の教会とは違って、マッサージ、スポーツジム、保育施設、図書館、集会所、映画館まで完備された一つの複合施設です。
30代以上、40代中心で中から上階層の白人を対象とするメガチャーチは各地で増えてきました。倫理観を立て直そうというムードが高まってきていたからです。ブッシュ陣営はそこに着目しました。
フロリダ州のタンパという町に、1万人の信者が集まるアイドルワイルドという教会があります。ブッシュ陣営は彼らを選挙のために組織化していました。まず信者からリーダーとして特に熱心な300人を選び、その親戚や周囲の票を固めます。リーダーはほかの信者に支持者を5人集めるように呼びかけ、さらに電話でも支持を呼びかけます。「同性婚に賛成するケリーは神を冒涜している」と礼拝の中でもはっきり言います。
英国から渡ってきた新教徒が建国した米国はプロテスタントが主流で、カソリックは25%です。民主系はそのカソリック教徒の70%の票をとりますが、今回はカソリックの50%以上がプロテスタントのブッシュに投票しました。ブッシュはカソリックの支持をも多く集めたことになります。これにはやはり倫理・道徳に対する危機感が背景にあったと言えます。結局ブッシュはフロリダ州で前回より105万票多く獲得しました。レーガン以来続いてきた保守の流れがブッシュを後押ししました。
|