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2024年11月8日読書の森(松原市民松原図書館)松原市における図書館の中央館機能を持つ施設として2020(令和2)年1月に開館した「読書の森」は、ため池を利用して整備した田井城今池親水公園の一画に建てられた図書館です。池に囲まれたキューブ状の不思議な建物は一見、巨大なコンクリートの要塞に見えたり、モニュメントのようでもあり、潜水艦の一部にも見えるような……? とにかく、図書館のイメージを超えるインパクトを持つ外観をしています。
図書館は建物ではなくシステムだという考え方
近鉄線・高見ノ里駅から徒歩数分で、突如水に浮かぶ構造物が眼前に。読書の森は、旧松原図書館の老朽化に伴う建て替えで計画され、2020(令和2)年1月に開館しました。松原市の図書館の歴史や新図書館の特色、魅力について、市で図書館行政を担ういきがい学習課の井上彩矢佳主査と館長の林敏一さんにうかがいました。
「松原市では図書館普及のための活動が非常に活発でした。それは1970(昭和45)年の『雨の日文庫』(家庭文庫、地域文庫とも呼ばれる)の発足から始まります。地域の人々が本を持ち寄って皆が閲覧できるようにしようとした活動です。根底にあったのは“図書館は建物ではなくシステムである”という考え方。どこでも、誰でも利用できる図書館サービスが必要であるという認識がベースになっています」。
自動車図書館が生まれ、多数の分室・分館が開設されるなどして、積極的にシステムの拡充が図られました。当時、松原市の図書館行政が全国的に注目され、東京で同様に進歩的な取り組みを行っていた日野市を引き合いに「西の松原、東の日野」と並び称されていました。市民になじみ深い、ため池にたたずむ古墳を想起
1980(昭和55)年に開館した旧図書館が40年を経て一新されることになったわけですが、新図書館にはさまざまな機能が求められていました。「まず一番大きいのが中央館としての機能、いわば蔵書の集約です。そしてIT化推進、他には旧図書館になかった自習室の設置などがありました」と井上さんは言います。こうして新図書館としての機能を充足し、変わらず多くの市民に親しまれ愛される施設の設計計画がスタートします。
設計・施工一体型の公募型プロポーザルが行われますが、敷地がため池の一画であったことを最大限に活用した現設計案が採用されました。井上さんは「松原市には古くからの古墳やため池がたくさんあり、市民の方々にとってその風景はとてもなじみ深いものです。ため池に浮かぶ図書館という設計案は、周囲に堀を巡らせた古墳を想起させ、非常に評価ポイントが高かったそうです。なおかつ、ため池を埋め立てるよりもそのまま生かすほうがコストを抑えられる設計・施工計画になっていたことも優れた点でした」と語ります。
開館当初は、利用者から驚きの目で迎えられたそうです。「図書館といえば明るい色の外観をイメージする人が多いので、『なぜこんな色なんだろう?』という反応は多かったですね。しかし次第に古墳のイメージであることが周知され、年月を追うごとに周囲となじんでいます。今では、まるで昔からそこにあったかのように溶け込んでいます」と井上さん。
ダークな色味の外壁に閉ざされたかに見える外観の印象とは打って変わって、内部は天井高のある明るい大空間が広がっていました。外から見たときに「窓が少ないな」と感じさせるので、これも驚きでした。同館は建物全体に占める窓面積が11%しかないそうです。これは本を管理・保管するのに日射を避ける必要があるからなのですが、少ない窓面積から効率よく採光できる工夫が施されているとのことでした。
読書の森一押しのスポットは、一般書が置かれている1階の窓際閲覧席。大きな窓に面した席に座ると池の水面が間近に見え、ぜいたくな気分で読書を楽しめる最高の場所です。図書館には珍しい屋上もおすすめ。ほぼ常時開放されており、気候のよい時期にはぜひ外の空気を感じながら読書してみたいものです。
「ITで処理の自動化が促進されています。自動貸出機を設置して利用者が自分で貸し出し処理を行ったり、予約資料をカウンターではなく『セルフ予約棚』で受け取るなど、スタッフを介さないシステムがプライバシー重視や非接触志向の時勢に合っており、重宝されています」と林さん。こうして、自動化によって確保できた時間をレファレンスやサービスの充実に割り当てることができるようになったそうです。ボランティアの協力を得て子どもイベントを多数開催
図書館は地域の大切なコミュニティスペースであり、同館でも地域の子どもや家族連れを対象にしたものを中心に、ボランティアの方々と協力して多様なイベントを開催しています。3フロアのうち3階を全て子どもの専用フロアにしていることからも分かるように、子どもが本を通して楽しみながら学べるような施設づくりに腐心しているのです。
児童書を読み聞かせる「おはなし会」や屋上を利用した「天体観望会」、紙芝居づくりなど、子どもたちがスタッフやボランティアとふれあいながらコミュニケーションを楽しみます。「今後もいろいろな企画を練っていきたいと考えています。実は間もなく来館者数100万人を迎えます。さらに2025年1月26日には開館5周年も迎えるので、それぞれ記念行事を予定しています」と林さんは言います。
50数年前に誕生した「雨の日文庫」の志は松原市の職員や市民の方々に着実に受け継がれ、今後も永く、変わることなくつながっていくことでしょう。読書の森(松原市民松原図書館) 【所在地】 大阪府松原市田井城3-1-46
【TEL】 072-334-8060
【URL】 http://www.trc-matsubara.jp/