令和7年 中野洋昌国土交通大臣 年頭所感
2025.1.1
新年を迎え、謹んで新春の御挨拶を申し上げます。
昨年は、元日の能登半島地震、その被災地を襲った9月の豪雨災害をはじめ、各地で大規模な災害が相次ぎました。改めて、こうした災害により亡くなられた方々の御冥福を心からお祈りするとともに、被災された全ての方々にお見舞いを申し上げます。
私も能登や東北の現場を視察する中で、改めて被害の甚大さを確認し、災害への備えや早期の復旧・復興の必要性を痛感いたしました。こうした教訓を踏まえ、今後も、防災・減災、国土強靱化を強力に推進してまいります。加えて、運輸分野や通学路等の安全対策、海上保安能力の強化等を通じて、国民の安全・安心を確保してまいります。
また、デフレからの脱却を確実なものとするため、我が国の成長力を高めるべく、戦略的な社会資本整備や地域間のネットワーク強化、様々な産業分野における担い手の確保、GX・DXの推進等に取り組んでまいります。
併せて、各地域がその特徴を活かしつつ、持続可能であり続けられるよう、「地方創生2.0」の旗のもと、地方への人の流れを拡大し、地域雇用や経済を拡大するとともに、公共交通など暮らしに必要なサービスの維持に努めてまいります。
国土交通行政は、国民の命と暮らしを守り、我が国の経済や地域の生活・なりわいに直結しています。私自身、国土交通大臣として、現場の声によく耳を傾け、国民のみなさまのニーズにしっかり応えられるよう、全力で任務に取り組んでまいる所存です。
本年も、引き続き、国民の安全・安心の確保、持続的な経済成長の実現、地方創生2.0の推進を柱に、諸課題に全力で取り組んでまいります。
① 国民の安全・安心の確保
(能登半島における自然災害からの復旧・復興)
能登半島地震の発災から1年が経過しました。改めて能登半島地震及び9月20日からの大雨でお亡くなりになられた方とそのご家族に対し、心よりお悔やみ申し上げます。また、被災された全ての方々に心からお見舞い申し上げます。
インフラの復旧やまちの復興は被災者の方々の暮らしとなりわいの再建に不可欠であるため、被災自治体の声をよくお聞きしながら、全力で取り組んでまいります。
道路については、昨年末に、国道249号の輪島市門前から珠洲市までの通行を確保するとともに、全ての集落等へのアクセスも確保したところです。被災地の早期復旧・復興に貢献できるよう本復旧を進めてまいります。
甚大な被害が生じた河原田川や塚田川等の河川や国道249号沿岸部の地すべり発生箇所については、権限代行等により、今年の出水期までに応急対策を概ね完了させるとともに、本復旧を進めてまいります。大きな津波被害を受けた宝立正院海岸では、権限代行により、応急復旧を実施済みであり、引き続き本復旧を進めてまいります。
水道については、建物倒壊地域等を除く全ての地区で昨年末に断水を解消いたしました。引き続き、家屋の解体等とあわせて応急復旧を支援してまいります。また、分散型システムの技術実証等を含め、上下水道施設の本復旧を支援してまいります。
港湾については、全ての港湾で本復旧を進めてまいります。地盤が隆起した輪島港では、令和8年度中の本復旧の完了を目指すとともに、和倉温泉の護岸では、旅館の営業再開に間に合うように本復旧を進めるなど、なりわいの再建に貢献してまいります。
復興まちづくりについては、液状化災害の再発防止策も含め、被災市町の復興計画に位置づけられた事業を支援してまいります。豪雨によって宅地、農地等にまたがって堆積した土砂・ガレキについては、一括撤去が可能なスキームの活用により、早期撤去に努めてまいります。
土地境界が不明確となった被災地に対し、専門家の派遣により、住宅再建に必要な土地境界の確定等を支援してまいります。
災害公営住宅については、被災地における建設費の高騰を考慮し整備費の補助限度額の見直しを行い、早期整備を支援してまいります。
能登空港については、12月25日からは震災前と同様、一日2便に復便しております。引き続き、権限代行により、滑走路等の早期復旧を目指します。鉄道についても、引き続き、七尾線の早期の本復旧を支援してまいります。
観光については、能登地域の観光拠点・観光資源の再生に向けて、観光地の復旧・復興計画の策定、復旧後の誘客促進を図るためのコンテンツ造成等の支援を行うとともに、被災地の状況を踏まえた観光プロモーションを実施してまいります。
(その他の自然災害からの復旧・復興)
能登半島における地震・大雨の他、昨年は7月の梅雨前線や台風第10号等により、全国各地で河川の氾濫や土砂災害等による家屋被害や断水等が発生しました。
災害復旧では、被災地において一日も早く安全・安心な生活を送ることができるよう、早期復旧と再度災害防止の観点が重要です。早期復旧の観点では、昨年7月に山形県酒田市で発生した土砂災害の二次被害防止対策、令和5年12月に発生した奈良県下北山村における崩土被害の復旧代行など自治体への支援を実施するとともに、災害査定手続きの効率化・簡素化についても取り組んでおります。また、再度災害防止の観点では、昨年7月に大規模な被害が発生した最上川などの河川で策定した「緊急治水対策プロジェクト」等により、改良復旧を推進しています。引き続き、国、県、関係市町村の連携のもと、ハード・ソフト一体となった取組を進めてまいります。
港湾においては、地震・高潮・高波等により被災した施設の復旧を進めるとともに、災害を通じて得られた知見を踏まえ、防災拠点としての機能強化や、民間事業者との連携体制の構築等、ハードとソフトの両面から対策を強化してまいります。
令和6年7月25日からの大雨により被災した岩手県、山形県の公園の復旧、市街地に大量に堆積した土砂の撤去を行うための堆積土砂排除事業の活用、8月の台風第10号により被災した神奈川県の公園の復旧に向けて、引き続き、被災自治体と連携しながら、必要な支援、協力を行ってまいります。
鉄道分野においては、令和2年7月豪雨で被災したJR九州肥薩線について、令和4年から熊本県と共同でJR肥薩線検討会議において議論を進めており、昨年4月に合意した鉄道での復旧を目指す方向に基づいて復旧や運営の在り方の検討を深度化させ、今年度末の最終合意を目指してまいります。現在、大雨や台風等により、6事業者10路線において運転を見合わせており、引き続き、鉄道事業者等の関係者と連携しながら、必要な対応を行ってまいります。
引き続き、被災された方々のお気持ちに寄り添いながら、地域の一日も早い復旧・復興に全力を尽くすとともに、これらの災害から得られた教訓を風化させることなく、さらに災害に強い国づくりを進めてまいります。
(東日本大震災からの復興・再生)
東日本大震災からの復興・再生は、政府の最優先課題の一つです。引き続き、現場の声にしっかりと耳を傾け、被災者の方々のお気持ちに寄り添いながら、被災地の復興・再生に取り組んでまいります。
国が主体となって整備を進めてきた復興道路・復興支援道路550kmについては、令和3年12月18日に全線開通しました。例えば、三陸沿岸道路は圏域の骨格軸を形成し、時間短縮により交流人口を拡大するとともに、多くの企業立地を促進しており、間接効果や、災害に対する強靱性、低炭素化など、多様な効果を発揮しています。引き続き、常磐自動車道における暫定2車線区間の4車線化及び小高スマートICの整備を推進してまいります。
住宅再建・復興まちづくりでは、避難解除区域内等の復興・再生を図るため、福島県内の復興再生拠点の整備を支援してまいります。このほか、東日本大震災からの復興の象徴である国営追悼・祈念施設について、岩手県・宮城県においては引き続き適切に管理するとともに、福島県においては令和7年度の整備完了に向けて着実に取り組んでまいります。
観光関係では、実際に現地を見ていただくことが最大の風評対策ですので、福島県に対し、滞在コンテンツの充実・強化等の取組を支援するとともに、ALPS処理水の海洋放出による風評対策として、岩手県から茨城県の沿岸部に対し、国際認証取得等の支援を行ってまいります。
(防災・減災、国土強靱化)
我が国の国土は災害に対して脆弱であり、激甚化・頻発化する豪雨災害や切迫する大規模地震などから、国民の皆様の命と暮らしを守ることは国の重大な責務と認識しております。
そのため、昨年末に成立した令和6年度補正予算も活用しながら、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」に基づく取組を着実に推進してまいります。
また、「5か年加速化対策」後も、中長期的かつ明確な見通しのもと継続的・安定的に切れ目なくこれまで以上に必要な事業が着実に進められるよう、令和6年能登半島地震の経験も踏まえつつ、「国土強靱化実施中期計画」の策定に係る検討を最大限加速し、早急に策定できるよう、関係省庁と連携し取り組んでまいります。
(線状降水帯・台風等の予測精度向上)
線状降水帯・台風等の予測精度向上に向けた取組を着実に進め、令和11年には市町村単位で線状降水帯の半日前予測を提供できるよう取り組むとともに、令和12年には台風の3日先の進路予報誤差を約100kmとすることを目指します。こうした取組を進めるため、最新技術を導入した次期静止気象衛星「ひまわり」の整備やスーパーコンピュータの強化を通じ、予測技術の開発等を進めてまいります。
(流域治水の推進)
気候変動の影響による降雨量の増大等への対応は喫緊の課題です。河道掘削や堤防、ダム、遊水地、下水道、砂防堰堤、海岸保全施設等の整備に加え、利水ダムの事前放流、官民の雨水貯留、住まい方の工夫などの対策を充実させ、あらゆる関係者が協働して行う「流域治水」を加速化・深化させてまいります。治水計画等の見直しについては、これまで23の一級水系で河川整備基本方針の見直しを行ったところであり、引き続き全国で見直しを進めてまいります。また、特定都市河川の指定拡大など、実効性ある流域治水を推進してまいります。
安全で持続可能なまちづくりを推進するため、立地適正化計画の居住誘導区域等における防災・減災対策を定める「防災指針」について、昨年7月末までに、321の都市において作成・公表を完了しました。国土交通省としては、「防災指針」に基づく各都市の防災まちづくりの取組に対して、省庁横断的な連携の下、重点的な支援を行ってまいります。また、防災まちづくりの一環として、激甚化・頻発化する自然災害に備え、復興事前準備の取組を推進してまいります。
また、浸水リスクを踏まえた防災まちづくりや企業の立地選択が進むよう、河川氾濫による浸水頻度を示した「水害リスクマップ」について、内水氾濫のリスクも含めたものにするなど、水害リスク情報を充実させてまいります。さらに、災害から命を守る行動を的確に取ることができるよう、災害時の一人ひとりの行動計画を記した「マイ・タイムライン」の作成支援を行うとともに、過去の災害の教訓や今後の備えに対する理解を深めていただくことで「災害リスクの自分事化」を図る「NIPPON防災資産」について、認定案件の深化や次回認定に向けての取組を内閣府と連携しながら進めてまいります。
さらに、近年の水に関わる様々なニーズの変化や気候変動に伴う渇水リスクの増大に対応するとともに、健全な水循環の維持・回復を進めるため、流域のあらゆる関係者が協働し、「水災害による被害の最小化」、「水の恵みの最大化」そして「水でつながる豊かな環境の最大化」を目指す「流域総合水管理」を、各流域の特性を踏まえ推進してまいります。
(一体的な上下水道行政の推進)
昨年4月に水道行政が厚生労働省から国土交通省へ移管され、上下水道行政を一体的に所掌しております。能登半島地震では、災害時における上下水道機能を確保することの重要性を再認識したところであり、上下水道施設の耐震化状況の緊急点検結果を踏まえ、上下水道システムの急所施設や避難所などの重要施設につながる管路等の耐震化を上下水道一体で計画的・集中的に進めてまいります。また、水ビジネスの国際展開や、官民連携、技術開発などの共通の課題に対し、上下水道一体で取組を推進してまいります。
(災害に備えた体制強化)
大規模災害に備えた災害対応力の強化も重要です。平成20年4月に創設されたTEC-FORCEは、能登半島地震をはじめ、昨年までの災害に対して、延べ16万5千人を超える隊員を派遣し、被災状況の早期把握や道路啓開、排水ポンプ車による浸水排除、給水支援、緊急物資輸送の支援を行うなど、全力で被災自治体の支援にあたってまいりました。能登半島地震で顕在化した課題も踏まえ、被災自治体の支援の実行力向上のため、官民の連携強化や、資機材・装備品等の充実強化により、TEC-FORCE等の災害支援体制・機能の充実・強化に努めてまいります。
官民の様々な主体が立地する港湾において、気候変動への適応を効果的に実施するため、関係者が協働して気候変動への適応水準や時期に係る共通の目標等を定めるとともに、ハード・ソフト両面の対策を進める「協働防護」の取組を進めてまいります。
切迫する南海トラフ地震等の大規模地震への対応として、「南海トラフ地震臨時情報」等の大規模地震に関する情報の普及啓発の取組を進めます。また、緊急地震速報や津波警報、震度情報等の発表に必要な地震・津波観測体制や、噴火の兆候の把握や的確な噴火警報、噴火速報等の発表に必要な火山観測体制の強化を進めてまいります。
大雨による災害が見込まれる際などには、気象台から地方公共団体に「気象庁防災対応支援チーム(JETT)」を派遣して気象情報の解説等の支援を行っており、今後も迅速にJETTを派遣できるよう体制の確保に努めてまいります。加えて、地域の気象と防災に精通する「気象防災アドバイザー」の拡充と、地方公共団体における活用促進を一層推進します。
また、災害リスクの把握や災害対策に資するため、活断層図等の防災地理情報や航空レーザ測量による高精度標高データのほか、災害状況の的確な把握等に必要となる地理空間情報を整備・提供し、その利活用を促進します。
(災害時における物流・人流の確保)
大雨や地震等の災害時には、高規格道路と直轄国道のダブルネットワークや、高規格道路の4車線区間が、迅速な交通の確保に効果を発揮し、被災地の復旧活動を支えます。災害に強い国土幹線道路ネットワークを構築するため、高規格道路の未整備区間の整備や暫定2車線区間の4車線化、高規格道路と代替機能を発揮する直轄国道とのダブルネットワーク化等を推進します。
令和6年能登半島地震では、倒壊した電柱などが支障となり道路啓開に時間を要するとともに、長期停電・通信障害が発生しました。無電柱化は電柱倒壊リスクを解消するとともに、長期停電等の防止のためにも重要な対策です。無電柱化推進計画に基づき関係省庁等と連携し積極的に無電柱化を進めてまいります。
短期間に集中的な大雪が発生する傾向等を踏まえ、冬季の道路交通の確保に向けて「人命を最優先に、幹線道路上で大規模な車両滞留を徹底的に回避する」という考えの下、ハード・ソフトの両面から必要な対策を進めてまいります。
このほか、災害時に迅速に代替輸送を確保し、物流の停滞を防ぐため、拠点となる貨物駅において、コンテナホームの拡幅等の機能強化を進めるとともに、貨物鉄道のBCPの策定を推進してまいります。
令和6年能登半島地震においては、支援物資等の海上輸送にあたり、能登半島地域の港湾に加え、その周辺の港湾も支援側の港湾として活用され、被災地側の港湾とを往復する形での支援が多くなされました。この経験を踏まえ、昨年の交通政策審議会答申でも重要とされた、災害時の海上支援ネットワーク形成のため、港湾の防災拠点機能の強化を推進してまいります。
(インフラ老朽化対策の推進)
加速度的に進行するインフラの老朽化に対しては、「予防保全」への本格転換や、新技術等の導入促進によるインフラメンテナンスの高度化・効率化等を進めていくことが重要であり、国土交通省では令和3年6月に策定した「第2次国土交通省インフラ長寿命化計画(行動計画)」に基づき、戦略的な維持管理・更新等の取組を進めています。
また、多くの地方公共団体では適切な維持管理を進める上で財政面・体制面での課題を抱えています。こうした状況を踏まえ、各地方公共団体が個々にインフラを管理するのではなく、例えば、広域・複数・多分野のインフラを群として捉えて戦略的にマネジメントを行う「地域インフラ群再生戦略マネジメント」、いわゆる「群マネ」を推進していく必要があります。国土交通省では、この「群マネ」を全国で展開すべく、11件40自治体をモデル地域として選定し、有識者のご助言もいただきながら検討を進めているところです。今後は、モデル地域における検討から得た知見等を踏まえ、群マネの全国展開へつなげてまいります。
また、「インフラメンテナンス大賞」においては、インフラメンテナンスの優れた取組や技術開発を表彰し、広く共有しており、極めて顕著な功績であると認められる取組や技術開発を行った者に内閣総理大臣賞を表彰しています。こうした予防保全型メンテナンスへの本格転換に向けた対策を着実に進めることで、持続可能なインフラメンテナンスの実現を図ってまいります。
個別分野においては、鉄道の老朽化対策において、昨年12月に成立した補正予算から、地方のローカル鉄道を対象に、当該鉄道事業者以外の鉄道事業者等と連携した保守実施計画の策定や業務体制再構築に向けた支援制度を設けたところであり、引き続き、鉄道の安全・安定輸送の確保に取り組んでまいります。
道路整備特別措置法等の令和5年の改正法に基づき、料金徴収期間を延長して確保した財源を活用し、老朽化した高速道路の更新事業や四車線化等の進化事業を推進してまいります。
(盛土対策)
令和3年7月に熱海市で発生した土石流災害を受け、盛土による災害を防止するため、令和5年5月に盛土規制法が施行されました。現在、都道府県等における早期の規制区域指定に向けて支援を行っているところであり、引き続き、同法による規制が実効性のあるものとなるよう取組を進めてまいります。
(輸送の安全の確保)
昨年1月の羽田空港での航空機衝突事故のような痛ましい事故が二度と発生しないよう、昨年6月の羽田空港航空機衝突事故対策検討委員会における中間取りまとめを踏まえ、更なる安全・安心対策に引き続き取り組んでまいります。最終的には、運輸安全委員会の事故調査報告も踏まえ、抜本的な安全・安心対策を講じてまいります。
令和4年4月に、北海道知床において小型旅客船が沈没し、乗客乗員計26名が死亡・行方不明となる重大な事故が発生しました。改めて、お亡くなりになられた方々とその御家族の皆様方に対し、心よりお悔やみを申し上げるとともに、事故に遭遇された皆様とその御家族に重ねて心よりお見舞い申し上げます。国土交通省では、事故発生以来、海上保安庁の巡視船艇・航空機による捜索に加え、北海道警察や斜里町などの関係機関等と連携し、潜水士等による海岸部の捜索を実施してきました。また、「海上運送法等の一部を改正する法律」に基づき、船員の資質の向上に係る制度を導入したほか、本年4月には、旅客船への改良型救命いかだ等の搭載を義務化することとしています。引き続き、皆様に安心して利用いただけるよう、安全・安心対策に万全を期してまいります。
各モードにおける安全対策に加え、「運輸安全マネジメント制度」をより積極的に活用し、運輸事業者の安全管理体制を一層強化するとともに、事業者の安全意識の構築・定着に取り組んでまいります。また、運輸分野におけるモード横断的な安全対策にも取り組んでまいります。
踏切対策については、立体交差化等の対策に加え、周辺の迂回路整備やバリアフリー化等も含めた総合的対策を推進するとともに、災害時に長時間交通が遮断されることのないよう優先開放等の措置を確実に実施するよう取組を進めてまいります。また、昨年12月に成立した補正予算から、第4種踏切を横断する歩行者の一旦停止及び安全確認を促す設備の導入に対する支援制度を設けたところであり、引き続き、安全対策を推進してまいります。
鉄道分野においては、昨年9月、JR貨物等による輪軸組立作業における作業記録の書き換え等の不適切事案が判明し、昨年10月、各事業者に対し事業改善命令等を発出しました。また、全国の鉄軌道事業者に対する緊急点検で圧入力値が社内の規定等から逸脱していることが確認されたことから、外部有識者も交えた安全性の検証を進め、昨年12月に「鉄道車両の輪軸の安全性に関する報告書」をとりまとめたところです。本とりまとめも踏まえ、引き続き、鉄道の安全・安定輸送の確保に取り組んでまいります。
また、今年は地下鉄サリン事件から30年を迎えることになります。令和5年にはJR仙台駅付近を走行中の東北新幹線車内に硫酸が漏れ、乗客・乗員が負傷した事案が発生しておりますので、改めて当時の教訓も踏まえ、鉄道テロ等の安全対策を引き続き徹底してまいります。また、本年4月からは大阪・関西万博も開催されますので、鉄道の警戒警備について、令和5年に設置義務化された車内防犯カメラの効果的な活用を含め、ハード・ソフト両面で来場者の安全確保に取り組んでまいります。
自動車分野においては、本年までの5箇年計画である「事業用自動車総合安全プラン2025」に基づき、運行管理業務の高度化、健康起因事故対策や飲酒運転対策等の安全対策を着実に推進するとともに、改正物流法による貨物軽自動車運送事業の安全対策の強化について引き続きその周知を行ってまいります。また、軽井沢スキーバス事故等のような悲惨な事故が二度と発生しないよう、更なる自動車運送事業の安全性向上に向けた取組を進めてまいります。
また、令和5年に発覚したビッグモーターの不正事案を受け、令和6年3月に自動車整備業界における同種事案の再発防止策をとりまとめました。当該とりまとめ結果を踏まえ、監査体制の強化等の取組を進めてまいります。
複数の自動車メーカー等で判明した型式指定申請に係る不正事案に対しては、昨年12月にとりまとめられた検討会の議論を踏まえ、再発防止のために必要な措置を講じてまいります。
海事分野においては、我が国海運会社が運航する船舶が紅海で「拿捕」されてから1年以上経過しましたが、船舶、乗組員ともに解放されていないことに加え、船舶に対する攻撃事案も継続しています。このような行為は、法とルールが支配する海洋秩序を脅かし、航行の自由を危うくする由々しきことであり、断じて容認できるものでなく、改めて強く非難します。
国土交通省としては、船舶、船員の解放のため、関係省庁や船社と連携し、緊張感を持って取り組んでいくとともに、状況の推移や国際物流への影響を注視しつつ、死活的に重要なシーレーンであるアジア・欧州航路等における日本商船隊や乗組員の安全確保のため、関係省庁や国際社会と連携して万全を期してまいります。
航空分野においては、引き続き、関係事業者等に対する厳正な審査・監査等とともに、大阪・関西万博で運航予定の空飛ぶクルマ等の新たな空のモビリティについても必要な取組を進め、航空輸送の安全の確保に努めてまいります。
(通学路等における交通安全対策)
通学路等において、こどもをはじめとする歩行者の安全な通行の確保に向け、個別補助制度も活用しつつ歩道や防護柵の設置等の対策を引き続き進めるとともに、ハンプなどの速度抑制対策と速度規制を組合せたゾーン30プラスの導入など面的な交通安全対策も推進していきます。
近年、高齢運転者による交通事故割合は増加傾向にあり、引き続き、高齢運転者による交通事故防止は喫緊の課題です。国土交通省では、衝突被害軽減ブレーキの装着義務化等により、先進安全技術を搭載した自動車の性能向上と普及促進に取り組んでまいりました。更に、ペダル踏み間違い時加速抑制装置についても、我が国が議論を主導してきた国際基準が承認されたところであり、今後、国内基準の整備を進めてまいります。
また、自動車損害賠償保障法を踏まえ、自動車事故の被害に遭われた方々の支援のため、リハビリ機会の充実や「介護者なき後」への対応など、被害者支援等にも取り組んでまいります。このほか、引き続き、一般会計から自動車安全特別会計への全額繰戻しに向けて、着実な繰戻しをしっかりと求めてまいります。
(共生社会の実現への取組)
障害の有無や特性にかかわらず、誰もが安心して外出し、社会生活を送ることができる社会に向けて、バリアフリー環境を整備していくことは大変重要です。
このため、バリアフリー法に基づき、公共交通機関や建築物等のバリアフリー化や地域における重点的・一体的なバリアフリー化、高齢者障害者等用施設などの適正利用といった心のバリアフリーの取組など、引き続き当事者の皆様からの御意見を丁寧に伺いながら、ハード・ソフトの両面からのバリアフリー化を推進してまいります。さらに、本年は、令和8年度を初年度とする新たなバリアフリー整備目標の策定等について検討を進めてまいります。
また、鉄道駅においては、都市部では鉄道駅バリアフリー料金制度、地方部では予算措置による重点的支援と、それぞれの特性に応じた措置を活用しながら、バリアフリー化を加速してまいります。
このほか、国土交通省としては、障害を理由とする差別の解消に向けた取組を一層推進するとともに、公共交通機関等において、こども・子育てにやさしい社会づくりに向けた機運醸成に取り組むなど、誰もが安心して参加し、活躍することが可能な、若者・女性を含む共生社会の形成を推進するため、全力で取り組んでまいります。
(海上保安能力の強化等)
近年、尖閣諸島周辺海域において、中国海警局に所属する船舶による領海侵入や、日本漁船に近づこうとする事案が繰り返し発生しているなど、我が国周辺海域の情勢は一層厳しさを増しています。
このような情勢を踏まえ、海上保安庁では、令和4年12月に決定された「海上保安能力強化に関する方針」に基づき、大型巡視船等の大幅な増強整備や、無操縦者航空機等の新技術の活用、自衛隊をはじめとする国内外関係機関との連携・協力の強化、サイバー対策の強化を図るとともに、人材の確保・育成、処遇の向上、職場環境の改善など人的基盤の強化を推進することにより、海上保安能力を一層強化してまいります。
あわせて、国民保護・総合的な防衛体制の強化等に資する公共インフラの整備にも取り組んでまいります。
(経済安全保障)
四面を海に囲まれ、貿易量の99.6%を海上輸送に依存する我が国においては、船舶やこれを構成する舶用機器の安定的な供給調達が、国民生活及び経済活動の維持に不可欠です。
このため、経済安全保障推進法に基づいて特定重要物資に指定された船舶関連機器のサプライチェーンの強靱化に取り組んでまいります。
また、我が国の造船業において、船舶の建造効率や性能面での技術的な優位性を確保するため、経済安全保障推進法に基づき、船舶の開発・設計を刷新するデジタル技術の導入に係る研究開発を推進してまいります。
さらに、鉄道、貨物自動車運送、外航貨物、港湾運送、航空、空港、水道分野の基幹インフラ事業者が特定重要設備の導入等を行う際の事前審査を通じて、インフラ事業の安全性・信頼性の確保に取り組んでまいります。
本年4月には、国土交通省分野における経済安全保障の取組をより一層推進するため、省内の経済安全保障施策の総合調整や推進を担う組織を新設することとしておりますので、引き続き、経済安全保障の確保に関する施策を総合的かつ効果的に推進してまいります。
② 持続的な経済成長の実現
(原油価格・物価高騰等への対応)
燃料油価格の高騰により、交通・物流業界を取り巻く経営環境は厳しい状況にあります。このため、政府として、令和4年1月から燃料油価格の激変緩和事業を実施するとともに、国土交通省においても、タクシーの燃料であるLPガスについて、燃料油価格の激変緩和事業に準じた支援を行っております。これらの事業は、昨年11月に閣議決定した「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」において、出口に向けて段階的に対応することとしております。また、昨年12月に成立した補正予算において、物価高騰の影響を受けた事業者等を支援する重点支援地方交付金が盛り込まれ、同交付金の推奨事業として挙げられた交通・物流に対する支援を働きかけてまいります。
あわせて、トラック運送事業、内航海運業及び倉庫業等において、燃料等の価格上昇分を反映した適正な運賃・料金を収受できるようにするための荷主等への周知や、法令に基づく働きかけ等を実施してまいります。
建設資材の価格高騰への対応も重要な課題です。国土交通省としては、直轄工事において、適正な請負代金の設定や契約後の状況に応じた契約変更に取り組むとともに、地方公共団体に対しても、適切な価格転嫁が行われるよう、しっかりと働きかけを行ってまいります。引き続き、近年の資材価格の高騰の影響等を考慮しながら、必要かつ十分な公共事業予算を安定的・持続的に確保するよう取り組んでまいります。また、改正建設業法において、民間工事も含め資材高騰分の転嫁ルールを新たに定めたところであり、民間発注者団体や建設業団体等への働きかけや建設Gメンの取組を通じて本制度の定着を図ってまいります。
昨年12月に成立した補正予算において「子育てグリーン住宅支援事業」を創設しました。エネルギー価格などの物価高騰の影響を特に受けやすい子育て世帯などに配慮し、「GX志向型住宅」等の新築や、既存住宅の省エネリフォーム等に対し、環境省及び経済産業省との連携を通じて、幅広く支援してまいります。
また、住宅ローン減税については、住宅価格の上昇など住宅取得環境が厳しさを増していることも踏まえて、令和6年から先行的に実施されている、子育て世帯等の借入限度額の上乗せ措置等が1年延長されることが閣議決定されました。引き続き、住宅取得に係る負担軽減を通じて、良質な住宅の取得を促進してまいります。
(持続可能な産業の実現、各分野の担い手の確保、生産性の向上)
地域を支える基幹産業を活性化し、成長力を高めていくことが求められています。持続可能な産業の実現に向け、各分野における担い手の確保、生産性の向上に取り組んでまいります。
国民生活や社会経済を支える建設業が将来にわたって持続可能であるためには、現場を担う技能者の賃金が、優れた技能や厳しい労働環境にふさわしい水準に引き上げられることが重要です。このため、改正建設業法に基づき、資材高騰分の転嫁対策を強化したところですが、これにより労務費へのしわ寄せ防止を図るとともに、今後、現場技能者に適正な賃金を行き渡らせるための制度の具体化を進めることで、技能者の処遇改善を進めてまいります。
物流は、国民生活や経済活動、地方創生を支える不可欠な社会インフラですが、人口減少や労働環境の課題等から、担い手不足に直面しています。昨年4月から、物流産業を魅力ある職場とするため、トラックドライバーに時間外労働の上限を定める規制が適用された一方、何も対策を講じなければ物流の停滞を生じかねない状況でした。
このため、昨年の通常国会で、荷主・物流事業者等の連携・協力や、トラック事業の多重下請構造是正に向けた規制を導入する改正物流法が成立しました。物流を支えるエッセンシャルワーカーであるトラックドライバーの処遇改善や外国人材を含めた担い手確保は、「待ったなし」の極めて重要な課題です。「物流革新元年」とした2024年に引き続き、2025年が更なる飛躍の年となるよう、政府一丸となって、全力で取り組んでまいります。
具体的には、改正物流法について、本年4月の施行に向けた準備を進めており、今後は、改正内容の周知等を徹底してまいります。また、トラックドライバーの賃上げに向けて、昨年3月に見直した標準的運賃の周知・啓発に引き続き取り組むとともに、同年11月に組織の改組を行ったトラック・物流Gメンの活動により、違反原因行為が疑われる荷主等への取締りを強化してまいります。加えて、トラック運送業における多重下請構造の是正に向けた対応策や、今後の物流拠点整備政策のあり方についても検討してまいります。
バス・タクシーの担い手確保や経営力強化に向け、早期の賃上げ、安全・快適で働きやすい職場環境づくり、外国人材も含めた人材確保・養成の取組、経営効率化に向けた投資への支援等を引き続き推進してまいります。
自動車整備業においては、関係業界とも連携し、自動車の先進技術に対応できる人材を確保・育成するため、自動車整備士の魅力向上に取り組むとともに、自動車整備事業者の生産性向上を支援することなど、外国人材の確保を含め、人手不足の解消に向けた取組を推進してまいります。
海事分野においては、海事産業強化法に基づく計画認定・支援制度に加え、船舶の特別償却制度等の税制優遇措置や共有建造制度を通じて、海運事業者及び造船・舶用事業者の競争力強化を図ってまいります。
また、内航海運事業者については、荷主等との取引環境の改善、令和6年度補正予算において創設された設備投資支援や令和7年度から2年間の延長が閣議決定された中小企業投資促進税制等を通じた生産性向上、物流の効率化に向けたシャーシ等の導入支援に取り組んでまいります。旅客船事業者についても、インバウンド需要の拡大や、離島航路の維持確保、DX・GXの推進に向けた設備投資支援等に取り組んでまいります。
さらに、船員の労務管理の適正化や行政手続きのデジタル化の推進等を通じた「船員の働き方改革」等を進めるほか、今後の少子化等も見据えて、陸上からの転職者も視野に入れた船員養成ルートの強化を進めるなど、船員の確保・育成策の拡充に取り組むとともに、独立行政法人海技教育機構における教育環境の充実による優秀な船員の安定的・持続的養成も進めてまいります。加えて、造船・舶用工業における外国人材も含めた人材確保・育成を推進してまいります。
空港での地上支援業務(グランドハンドリング)の生産性向上に向けた先進技術の開発・実装を進めるべく、必要な調査・検討に取り組んでまいります。また、令和7年の空港制限区域内における自動運転レベル4の実現に向けて官民で連携して取り組んでまいります。
不動産市場を支えるインフラである不動産鑑定士については、公的評価の鑑定料の適正化を推進するなど、処遇改善・担い手確保等の取組を進めてまいります。
(戦略的・計画的な社会資本整備、基幹的な交通体系)
社会資本整備については、我が国の持続可能な経済成長を確実なものとするため、将来の成長基盤となるストック効果の高い事業を戦略的・計画的に推進してまいります。その際、近年の資材価格の高騰の影響等を考慮しながら、必要な事業量を確保してまいります。
道路分野においては、物流上重要な道路輸送網を「重要物流道路」として指定し、平常時・災害時を問わない安全かつ円滑な物流等を確保するための機能強化を図ってまいります。加えて、デジタル化による特殊車両通行手続の迅速化を進めるとともに、ダブル連結トラックや中継輸送の普及促進等を通じて、物流の効率化を促進してまいります。また、バスタプロジェクトを全国的に推進することで、多様なモビリティを含めた交通モード間の連携を強化してまいります。
鉄道分野においては、整備新幹線、リニア中央新幹線について、地元の理解を得つつ、着実に整備が進められるよう、必要な取組を行ってまいります。
現在建設中の北海道新幹線(新函館北斗・札幌間)については、約8割を占めるトンネル区間や、高架橋・橋りょう等において、工事を進めているところです。なお、昨年5月、建設主体である鉄道・運輸機構から、2030年度末の完成・開業は極めて困難であると判断した旨の報告がなされたところであり、現在、有識者会議を開催しながらこの報告内容が合理的であるのかなど精査を行っているところです。関係者の方々と協力をしつつ、一日も早い完成・開業に努めてまいります。
残る未着工区間について、北陸新幹線(敦賀・新大阪間)については、一日も早い全線開業に向けて、今般の与党におけるご議論や、沿線自治体等からいただいたご意見・ご要望も踏まえながら、沿線自治体の皆様のご理解を得られるよう、鉄道・運輸機構とともに、丁寧かつ着実に取り組んでまいります。九州新幹線(新鳥栖・武雄温泉間)については、整備の効果を、ご地元の皆様に丁寧に説明するとともに、佐賀県についても、議論を続けることなどを通じて、ご理解を得られるようしっかりと取り組みたいと考えております。
リニア中央新幹線(品川・名古屋間)については、建設主体であるJR東海において、山梨リニア実験線を除く工事区間約243kmのうち、約9割の区間で工事契約が締結され、工事が進められています。未着工の静岡工区については、「静岡工区モニタリング会議」を通じて、JR東海の対策状況を継続的に確認するとともに、静岡県とJR東海の協議に国土交通省も入って一層の対話を促すなど、早期開業に向けた環境整備を進めてまいります。名古屋・大阪間も含め、関係自治体やJR東海と連携し、一日も早い全線開業に向けてしっかりと取り組んでまいります。加えて、基本計画路線及び幹線鉄道ネットワークの地域の実情に応じた諸課題について、方向性も含め調査・検討に取り組んでまいります。
都市鉄道については、2025年大阪・関西万博のアクセスルートとなる大阪メトロ中央線の延伸開業が本年1月に予定されています。このほか、国際競争力の強化等に資する都市鉄道ネットワークの充実を図るため、なにわ筋線、東京メトロ有楽町線(豊洲~住吉)、同南北線(品川~白金高輪)などの整備を着実に進めるとともに、新空港線の事業化に向けて、関係者と連携し、しっかりと取り組んでまいります。
港湾分野においては、我が国企業のサプライチェーンの強靱化に資する国際基幹航路の寄港を維持・拡大するため、引き続き、「集貨」「創貨」「競争力強化」の3本柱からなる国際コンテナ戦略港湾政策を推進してまいります。具体的には、国内だけでなく東南アジア等からの広域集貨やコンテナターミナルの一体利用、大水深・大規模コンテナターミナルの整備・再編等に重点的に取り組んでまいります。
また、引き続き、国際バルク戦略港湾を拠点としたバルク貨物輸送の効率化に取り組んでまいります。
加えて、地域の基幹産業の競争力強化のための港湾の整備に取り組むとともに、モーダルシフトの受け皿となる内航フェリー・RORO船ターミナルの機能強化、農林水産省と共同で、産地と港湾が連携した農林水産物・食品の輸出促進を図ってまいります。
航空分野においては、首都圏空港における年間発着容量約100万回の実現を目指し、必要な取組を進めてまいります。具体的には、成田空港については、地域との共生・共栄の考え方の下、第三滑走路の整備等の更なる機能強化の実現に最大限取り組んでまいります。羽田空港については、2020年3月から現在の飛行経路の運用を開始しており、引き続き、騒音・落下物対策を着実に実施するとともに、固定化回避に向けた努力を継続してまいります。また、機能拡充に向けて、羽田空港アクセス鉄道の整備等を進めてまいります。近畿圏空港については、地元自治体等の関係者と連携し、飛行経路の見直し等による関西空港の容量拡張など、2025年大阪・関西万博等に向けた機能強化を推進してまいります。中部空港については、現滑走路の大規模補修時における継続的な空港運用及び完全24時間運用の実現等を目的とした代替滑走路事業を推進してまいります。福岡空港の第2滑走路については、令和7年3月末までの供用開始を目指し、着実に準備を進めるとともに、北九州空港及び屋久島空港の滑走路延長事業、那覇空港の国際線ターミナル地域再編事業、新千歳空港の誘導路複線化事業などを推進し、ゲートウェイ機能の強化を図ってまいります。
(官民連携)
公共施設等の整備・運営に民間の創意工夫や資金を活用するPPP/PFIについて、PPP/PFI推進アクションプラン(令和6年改定版)に基づき、空港・交通ターミナル等の国土交通省所管分野におけるコンセッション等の導入を推進するとともに、水分野について、公共サービスの効率的・持続的な提供に向けたウォーターPPPを推進してまいります。また、官民が連携して遊休公的施設の活用を図るスモールコンセッションを推進し、地域経済の活性化や地域課題の解決等の地方創生に取り組んでまいります。
(地域経済に寄与する産業立地の促進)
半導体等の戦略分野に関する国家プロジェクトの推進や地域の産業立地促進に必要なインフラの整備について、企業のニーズも踏まえつつ、迅速かつ集中的に推進してまいります。
また、引き続き、産業利用に係る土地利用についても、手続のスピードアップ等必要な支援を行ってまいります。
(インフラシステムの海外展開及び国際協力・連携の推進)
我が国の持続的な経済成長を実現する上で、世界の旺盛なインフラ需要を取り込み、我が国企業の受注機会の拡大を図ることは大変重要です。政府全体では、昨年12月に「インフラシステム海外展開戦略2030」を策定し、我が国企業が2030年に45兆円のインフラシステムを受注するという目標を立てたところです。
国土交通省では、新戦略を踏まえた取組として、経済安全保障の観点も踏まえつつ、「質の高いインフラシステム」の普及に取り組んでまいります。特にグローバルサウス諸国におけるインフラ需要を取り込むことを念頭に、相手国のニーズを踏まえた戦略的な案件形成を行ってまいります。
具体的には、ODAと組み合わせたO&M・PPP事業の形成、公共交通指向型都市開発(TOD)など、関連事業が一体となったプロジェクトの推進、GX・DXに資するデジタル技術やスマートシティ・交通ソフトインフラの展開などを推進してまいります。
このほか、ウクライナにおける復興支援や気候変動対策への貢献、サプライチェーンの強靱化、我が国企業のグローバル人材の育成・採用の支援などを通じて、インフラシステムの海外展開を推進してまいります。
こうした取組とともに、二国間に加え多国間の枠組みに主導的に参画し、国土交通分野における国際協力・連携を推進してまいります。
また、新戦略の内容を踏まえ、国土交通省としては「国土交通省インフラシステム海外展開行動計画」を策定し、取組を進めてまいります。
(国際民間航空機関(ICAO)を通じた国際連携強化)
本年11月に実施予定のICAO理事会議長選挙について、我が国はICAO日本政府代表部特命全権大使の大沼 俊之氏を擁立しております。
ICAOは、気候変動対策をはじめとした航空分野における国際的なルール作り等に重要な役割を果たしています。
我が国としては、大沼大使の擁立を通じ、航空分野において我が国が一層貢献していく考えを改めて各国に広く発信し、また、国際社会における我が国のプレゼンスの強化にもつなげてまいりたいと考えております。
選挙での当選を目指し、各国からの支持を得るべく、引き続き政府一丸となって取り組んでまいります。
(国土交通分野における環境施策の推進)
カーボンニュートラルやネイチャーポジティブなど、地球環境問題を巡る世界の潮流は大きく変化しており、我が国においても、民間企業を含め、待ったなしの対応が求められています。国土交通省では、運輸分野や建設・インフラ分野など幅広い分野を所管しており、多様な政策手段を生かしながら、脱炭素・循環経済・自然共生の取組を推進してまいります。また、環境施策を巡る様々な社会経済情勢の変化を踏まえ、「国土交通省環境行動計画」の改定に向けた検討を進めてまいります。
サーキュラーエコノミーの実現に向けては、令和6年7月に循環経済に関する関係閣僚会議が開催され、国家戦略として取り組むべき政策課題と位置づけられました。国土交通省としても、関係省庁や産業界と連携しながら、経済成長や地方創生に資する循環経済の実現に取り組んでまいります。具体的には、循環資源の利用と生産の拡大を進めるべく、建設リサイクルの高度化、下水汚泥資源の肥料利用拡大等を推進していくとともに、住宅・建築物やインフラの長寿命化等を通じて、廃棄物の発生抑制を図ってまいります。また、港湾を核とした物流システムを構築することで、広域的な資源循環を促進してまいります。
「生物多様性の損失を止め、反転させる」ネイチャーポジティブに資する取組も大変重要です。令和5年9月に策定した「グリーンインフラ推進戦略2023」に基づき、社会資本整備やまちづくり等において自然環境の機能を活用するグリーンインフラの取組を官民連携によってあらゆる分野・場面にビルトインすることを目指し、民間投資の促進等を通じて自然豊かな都市空間づくりを目指すまちづくりGXや都市公園整備、住宅・建築物・道路空間・低未利用地等の緑化、自然環境の機能を活用した流域治水、生態系ネットワークの形成等を推進してまいります。
脱炭素社会の実現に向け、住宅・建築物の省エネ対策等を強化することとしており、改正建築物省エネ法に基づく本年4月からの省エネ基準適合の全面義務化に向けた準備を進めるとともに、ZEH水準の省エネ性能の高い住宅や、炭素固定に資する優良な中大規模木造建築物に対する支援等を行ってまいります。また、使用時だけでなく、建設から解体に至るまでの建築物のライフサイクルを通じて排出されるCO2の算定・評価等を促進してまいります。
また、都市のコンパクト・プラス・ネットワークの推進等とあわせて、改正都市緑地法等を踏まえた都市緑地の確保、エネルギーの効率的な利用や暑熱対策等のまちづくりGXを推進してまいります。
建設施工分野においては、直轄工事において省CO2に資する建設機械やコンクリートの技術基準策定等、普及に向けた取組を推進します。
近年の気候変動の影響により激甚化・頻発化する水害への対応と、2050年カーボンニュートラルに向けた取組を加速させるため、治水機能の強化と水力発電の促進を両立させる「ハイブリッドダム」の取組を進めています。現在、国土交通省、水資源機構管理の76ダムで、運用の高度化の試行を実施するとともに、国土交通省管理の3ダムでは、発電施設の新増設に向けたケーススタディを実施し、新たに参画する民間事業者等の公募を順次進めているところです。
サーキュラーエコノミーの実現に向け、農林水産省と緊密に連携した下水汚泥の肥料利用や、バイオガス化等によるエネルギー利用により、下水汚泥資源の有効利用を推進してまいります。また、水道の施設配置の最適化による位置エネルギーの有効活用や、省エネ・再エネ設備の導入を推進してまいります。
道路分野においては、昨年12月に策定した「道路におけるカーボンニュートラル推進戦略」に基づき、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて道路管理者間や高速道路会社、地方自治体、民間企業との連携を強化し、分野横断的な取組を推進します。再生エネルギーの活用等による道路交通のグリーン化を支える道路空間の創出、自転車の利用促進やダブル連結トラックの導入利用促進等による低炭素な人流・物流への転換、渋滞対策の推進等による道路交通の適正化、低炭素な材料の導入促進や道路照明のLED化等による道路のライフサイクル全体の低炭素化の4つの柱に基づき、カーボンニュートラル社会の実現のための脱炭素化の取組を、関係機関と連携して推進します。また、動物接触事故データの分析に基づくロードキル防止に向けた方策等による生物多様性への取組を推進します。
交通分野においては、EV車両等の導入等による支援を行うとともに、AIオンデマンド交通やMaaSの導入等による利便性向上を進めることで公共交通の利用を促進してまいります。
物流分野においては、地域とも連携しながら、鉄道、船舶、航空機、ダブル連結トラック等を活用した新たなモーダルシフトや共同輸配送などの取組を強力に促進するとともに、物流施設における水素・再生エネルギーの充填・充電設備の導入を支援するなど、物流GXを推進します。
自動車分野においては、燃費規制や税制優遇のほか、関係省庁とも連携して所要の額を確保し商用電動車(トラック、バス、タクシー)の導入補助を行うことにより、次世代自動車の普及促進を図ってまいります。
航空分野においては、航空法等に基づく「航空運送事業脱炭素化推進計画」及び「空港脱炭素化推進計画」の認定を引き続き進めてまいります。また、持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進、空港の再エネ拠点化等に取り組んでまいります。
鉄道分野においては、回生電力を活用したエネルギー効率の高い車両の導入、社会実装を目指す水素燃料電池鉄道車両の安全性を確保するための技術基準の作成、バイオディーゼル燃料や鉄道アセットを活用した再生可能エネルギーの導入推進等、鉄道ネットワーク全体の脱炭素化に向けて取り組んでまいります。
海事分野においては、令和5年7月に国際海事機関(IMO)において「2050年頃までにGHG排出ゼロ」等の国際海運の新たなGHG削減目標に合意しました。この目標の達成に向けてゼロエミッション船の導入を促す国際的な枠組みについて、本年春に合意できるよう各国との交渉に取り組んでまいります。また、内外航のゼロエミッション船等の開発や国内生産設備の整備・増強の支援を進めてまいります。加えて、浮体式洋上風力発電施設の基準の整備や設置・維持管理に必要な洋上風力関係船舶確保に関するあり方の検討等に取り組みます。
港湾分野においては、我が国の港湾や産業の競争力強化と脱炭素社会の実現に貢献するため、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化や水素・アンモニア等の受入環境の整備等を図るカーボンニュートラルポート(CNP)の形成を推進してまいります。
また、再エネの導入拡大に向け、再エネ海域利用法に基づく案件形成、基地港湾の計画的な整備及び排他的経済水域における展開を可能とする制度整備等により、洋上風力発電の導入を促進してまいります。
加えて、藻場(もば)・干潟や多様な海洋生物の定着を促す港湾構造物など、「ブルーインフラ」の保全・再生・創出に取り組んでまいります。
このほか、サーキュラーエコノミーへの移行を促進するため、港湾を核とした広域的な物流システムによる、資源循環ネットワークの形成を図ってまいります。
関係省庁や地方公共団体等が行う気候変動対策の効果的な推進に資するため、大雨や高温といった極端現象の将来予測等、気候変動に関する情報の提供を進めてまいります。
(国土交通分野におけるDXの推進)
国土交通省の所管分野において、行政手続のデジタル化や、Project LINKSによる行政情報のデータ化・活用を進めるとともに、DX(デジタルトランスフォーメーション)の普及を促進し、新たなサービスが創出され生産性向上が実現するよう取り組んでまいります。併せて、サイバーセキュリティも確保してまいります。
インフラ分野においては、建設現場の生産性向上に向け、ICT施工をはじめとする「i-Construction」を推進してまいりました。今後、更なる人口減少が予測される中、国民生活や経済活動の基盤となるインフラの整備・維持管理を将来にわたって持続的に実施していくため、これまでの取組をさらに一歩すすめ、「i-Construction 2.0」として昨年4月にとりまとめました。i-Construction 2.0では、2040年までに建設現場を少なくとも3割の省人化、すなわち生産性を1.5倍向上することを目指し、建設現場のオートメーション化に取り組みます。このi-Construction 2.0を中核として、デジタル技術の活用により業務全体の変革を目指す「インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(インフラDX)」を推進し、引き続き、生産性向上やサービスの高度化を進めてまいります。さらに、国土交通省が保有するデータ等の連携基盤として「国土交通データプラットフォーム」の整備を進めています。引き続き、連携データの拡大等を進め、データの利活用による新たな価値の創造に向けて取り組んでまいります。
建築・都市分野においては、EBPMに基づくまちづくりの高度化や官民データ連携による新サービスの創出を図るために、個々の建築物の情報の3次元デジタル化を図る建築BIM、3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化を推進するPLATEAU、不動産を一意に特定しこれらの情報と多様な地理空間情報との連携キーとなる不動産IDを一体的に進める「建築・都市のDX」を強力に推進してまいります。具体的には、BIMによる建築確認の実施に向けた検討、公共領域及び民間領域における3D都市モデルの活用促進、日本郵便株式会社のデータを活用して生成した不動産IDの検証等の取組を行ってまいります。また、不動産分野においては、不動産取引のオンライン化や不動産情報ライブラリの継続的な運用・拡充等を通じて、DXを推進する環境整備に取り組んでまいります。
道路分野においては、AIやICT等の新技術の導入等により、道路の維持管理や行政手続きの効率化・高度化、データの利活用の高度化等を推進してまいります。また、令和4年3月から高速道路の一部の料金所でETC専用化を開始しましたが、今後も、運用状況等を踏まえながら順次拡大し、料金所のキャッシュレス化を推進するとともに、引き続き、道路の賢い利活用を実現する料金制度のあり方を検討してまいります。このほか、ETC2.0等のビッグデータを活用し、平日・休日や時間的・空間的に偏在する渋滞や閑散時の速度に着目し、サービスレベルやパフォーマンス向上に向けた取組を推進してまいります。加えて、新たな物流形態となる自動物流道路について、社会実装に向けた検討を進めてまいります。
水管理・国土保全分野においては、建設機械や除草機械の無人化・自動化やドローンによる巡視・点検などの取組を進め、インフラ施設の整備や管理の高度化・効率化を推進してまいります。天竜川では今年度中に河川上空を活用したドローン物流の社会実装が実現される見込みです。また、衛星やセンサによる浸水・土砂災害の発生状況把握やAIを活用したダム操作支援、洪水・高潮予測の高度化などにより、迅速な災害対応や早期の避難等を支援します。さらには、サイバー空間上に流域を再現し洪水予測技術等を実証できる実験場の整備や、流域に関するデータを蓄積するプラットフォームの構築を進め、官民の技術開発の促進や様々な施策の検討・分析の高度化・効率化を図ります。
デジタル技術を活用して地域の課題解決等を図るため、「スマートシティ実装化支援事業」として13地区の先進的な事業を選定しました。引き続き、好事例の横展開等を実施するとともに、昨年立ち上げた「デジタル情報活用推進コミッティ」における議論を通じて産官学連携を促進するなど、スマートシティのもたらす効果の最大化を一層推進してまいります。
交通分野においては、MaaSやデータ活用、キャッシュレス化、完全キャッシュレスバスの実証運行等のDXの取組を標準化、財政支援等により推進することで、地域交通の利便性・生産性・持続可能性の向上に取り組みます。特に、交通サービスの高度化、交通関連データの取得と地域交通政策への活用、交通事業の業務改革などを一体的に進めるなど、これまでのMaaSを新たなステージに発展させ、地域の方々にとって移動しやすい地域交通DXの環境を整備してまいります。
また、地域交通の移動サービスにおいては、自動運転の活用が期待されており、その社会実装が着実に進んでいます。本年は、自動運転の社会実装の加速に向けて、輸送力の高い自動運転大型バスやサービスを面的に展開できる自動運転タクシーへの支援も強化すべく、制度整備とサービスの事業化推進に全力で取り組みます。また、自動運転車の走行の安全性・円滑性の向上のため、道路上に設置されたセンサにより情報提供する等、道路インフラからの支援についても取り組むこととしています。
物流分野においては、人手不足対策等の観点から、自動運転トラックによる幹線輸送サービスの自動化を推進するとともに、新東名高速道路(駿河湾沼津SA~浜松SA)等において、合流時の支援情報や、落下物・工事規制等の情報を提供する路車協調システムの実証について、取り組むこととしております。また、物流施設等における自動化・機械化機器の導入、ドローン配送の拠点整備等による物流DXを推進してまいります。さらに、物流DXを促進するため、標準仕様パレットの導入促進、物流情報標準ガイドラインの普及促進をはじめとした物流標準化・データ連携に向けた取組を進めてまいります。
ドローンについては、「空の産業革命に向けたロードマップ2024」を踏まえ、多頻度・高密度な運航に対応するためのドローンの運航管理システム(UTM)の段階的導入や多数機同時運航の普及拡大に向けた取組、飛行許可・承認の審査手続きの迅速化等の環境整備を継続的に行うことにより、安全を確保しつつ、ドローンの社会実装を強力に推進してまいります。
鉄道分野においては、昨年3月にJR九州香椎線で、踏切のある路線等では初めての自動運転が導入されました。国土交通省としては、天候等によらず列車の前方支障物を検知する技術やパンタグラフすり板の摩耗状況を自動計測する技術、まくらぎ交換作業等を容易にするショベルカー等、自動運転の導入促進や現場業務の効率化・省力化に資する開発を引き続き進めてまいります。
港湾分野においては、国際競争力の更なる向上のため、「ヒトを支援するAIターミナル」の社会実装や、さらなる深化のための荷役機械の高度化等の支援や技術開発を推進してまいります。また、港湾の電子化を実現する情報プラットフォームである「サイバーポート」については、港湾物流分野(民間事業者間の港湾物流手続)・港湾管理分野(港湾行政手続等)・港湾インフラ分野(港湾施設等情報)の機能改善及び利用促進を進めてまいります。併せて、令和5年7月に名古屋港のコンテナターミナルで発生したシステム障害を踏まえ、引き続き、港湾における情報セキュリティ対策等の強化を図ってまいります。
海事分野においては、造船業・舶用工業の国際競争力の強化及び生産性の向上を図るため、ロボットや機械の開発・実証支援による製造工程の省人化を推進してまいります。加えて、自動運航船については国際ルール策定作業を主導するなど普及に向けた環境整備等を推進してまいります。
このほか、世界水準のデジタル社会の形成に向け、電子基準点などの位置情報インフラを強化しつつ、ベース・レジストリである電子国土基本図について、全国での3次元化に取り組み、だれもが利活用しやすいデジタル公共インフラとして整備していきます。
DX社会に対応した気象サービス推進のため、民間事業者へのクラウド技術を活用した大容量の気象データの提供を拡大します。
(スタートアップへの支援)
建設分野の生産性向上や安全・安心で快適な交通社会の実現に向けて、スタートアップが生み出す革新的技術を社会実装へと繋げることが重要です。
このため、国土交通省では、引き続き、研究開発関連補助金の拡充、表彰制度の着実な運用等に取り組み、スタートアップへの支援を推進してまいります。
(大阪・関西万博、国際園芸博覧会の開催に向けた取組)
本年4月から大阪・関西万博が開催されます。空飛ぶクルマや自動運転の実現のほか、万博を契機とした地方への誘客促進に取り組むとともに、安心安全な開催に向け、円滑な輸送の確保や海上警備を含むセキュリティ対策に万全を期してまいります。
神奈川県横浜市で開催する2027年国際園芸博覧会は、今年3月に開幕2年前となります。気候変動等の地球規模の課題解決にも貢献するグリーンな国際博覧会となるよう、引き続き博覧会協会、関係省庁、地元自治体及び経済界と連携し、万全の準備を進めてまいります。
③ 地方創生2.0 の推進
(分散型の国づくり)
個性ある文化や豊かな自然環境を有する多様な地域から成り立つ我が国において、人々が地域に誇りと愛着を持って、安心して働き、暮らし続けられる国土を次世代に引き継いでいくことが重要です。このため、国土形成計画においては、目指す国土の姿として「新時代に地域力をつなぐ国土」を掲げ、この実現に向けて「シームレスな拠点連結型国土」の構築を図ることにより、地域の魅力を高め、地方への人の流れの創出・拡大を図ることとしています。計画の実装に当たっては、二地域居住等の促進や地域生活圏の形成をはじめ、計画が描く将来ビジョンを国民全体で共有していくとともに、関係省庁とも緊密に連携しながら推進してまいります。広域地方計画の策定に当たっては、全国計画を基本としつつ、それぞれの地域の個性や強みを活かして自律的に発展する圏域づくりにつながる計画となるよう、関係主体と緊密な連携を図りながら取り組んでまいります。
昨年成立・施行された二地域居住を促進するための改正法と、昨年設立された官民連携プラットフォームを活用し、二地域居住の更なる促進に向けて取り組んでまいります。新たな働き方・住まい方への対応として、職住近接・一体の生活圏を形成するなど、豊かで暮らしやすい社会を実現するため、テレワーク拠点整備等を推進してまいります。
北海道については、第9期北海道総合開発計画に基づき、食や観光の一層の強化、ゼロカーボン北海道の実現、地域の強みを活かした成長産業の形成等を図るとともに、これらの価値を生み出している生産空間の維持・発展に向けて、デジタルの活用、多様で豊かな地域社会の形成、強靱な国土づくり等の取組を推進してまいります。
(持続可能な観光の推進)
観光は、人口減少が進む我が国にとって成長戦略の柱、地域活性化の切り札です。昨年は、訪日需要の高まりや、円安等の影響に加え、持続可能な観光立国の推進に向けて政府を挙げて取り組んだ結果、訪日外国人旅行者数や消費額の回復が急速に進み、観光は力強い成長軌道に乗っているものと受け止めております。令和5年に策定した観光立国推進基本計画を踏まえて、本年も「持続可能な観光地域づくり」、「地方を中心としたインバウンド誘客」、「国内交流拡大」の3つの分野の取組を強力に推進していきます。
第1に、持続可能な観光地域づくりです。いわゆるオーバーツーリズムの懸念も生じている中、観光客の受け入れと住民の生活の質の確保の両立が図られるよう、地域の実情に応じた取組を引き続きしっかりと支援してまいります。また、観光産業においては、観光需要の回復に伴い人手不足が深刻化していることから、外国人材の活用も含めた採用活動支援や、業務の効率化・省力化に資する設備投資への支援などの総合的な人手不足対策を実施し、人手不足の解消に向けて、しっかりと取り組んでまいります。さらに、宿泊施設等の改修支援や観光DXの推進等を通じて、観光産業の収益力を強化し、従業員の待遇改善等を図ることで、観光産業の高付加価値化を可能とする好循環を生み出してまいります。
第2に、地方を中心としたインバウンド誘客です。訪日外国人旅行者数は着実に回復していますが、三大都市圏にインバウンドの宿泊全体の約7割が集中するなど、コロナ前と比べても都市部を中心とした一部地域への偏在傾向が見られます。今後、地方部への誘客をより一層強力に推進するため、地域の多様な観光資源を活かした体験コンテンツの磨き上げに取り組んでまいります。また、高付加価値旅行者の地方への誘客を強化するため、全国14のモデル観光地における高付加価値なインバウンド観光地づくりの取組を集中的に支援するとともに、その成果やノウハウを他の地域へも伝播させ、観光を通じた地域活性化を促進してまいります。さらに、大阪・関西万博開催を契機としたインバウンドの全国への誘客促進に向け、情報発信等に取り組むとともに、若者をはじめとしたアウトバウンドの促進など、双方向交流の拡大にも取り組んでまいります。
第3に、国内交流拡大です。地域の観光資源を一層魅力的なものに磨き上げるとともに、テレワークを活用したワーケーションの推進や、反復継続した来訪の促進、ユニバーサルツーリズムといった国内における新たな交流市場の開拓に、従来の取組をさらに進化させて取り組んでまいります。
国土交通省としては、こうした取組を着実に進め、2030年訪日外国人旅行者数6,000万人、消費額15兆円という目標の達成に向けて、全力で取り組んでまいります。
(各分野における観光関係施策)
昨年、我が国へのクルーズ船の寄港回数は、コロナ前ピークの約8割まで回復いたしました。また、寄港するクルーズ船の大型化が進む一方で、 小型のクルーズ船が全国津々浦々へ寄港するなど、船型や寄港地が多様化してまいりました。今後とも、各地域の皆様と連携し、多様なクルーズ船の受入環境整備や寄港促進に向けた取組、地域経済効果を最大化させるための取組、地方誘客促進に向けた取組を推進し、経済の活性化や賑わいの創出に努めてまいります。
景観計画や歴史的風致維持向上計画の策定を促進し、良好な景観を形成するとともに、地方公共団体が取り組む地域固有の歴史・文化・風土を活かした歴史まちづくりに対する支援を引き続き進めてまいります。
「道の駅」は、地方創生や観光の拠点を目指す「第3ステージ」に入り、「まち」と「道の駅」が一体となって発展する「まちぐるみ」の取組や、災害時に防災の拠点となる防災機能強化の取組を進めてまいります。
令和3年に閣議決定された「第2次自転車活用推進計画」に基づき、私が本部長をつとめる自転車活用推進本部を中心に、政府一体となって、自転車通行空間の計画的な整備、シェアサイクルやサイクルトレイン等の普及促進、ナショナルサイクルルート等を活かしたサイクルツーリズムの推進等、自転車の活用の推進に向けて取り組んでまいります。
地方の誘客促進に向け、「観光の足」を担う交通機関において、訪日外国人を含む旅行者により快適に利用していただくため、多言語による案内表示・案内放送の充実、クレジットカード対応型券売機や交通系ICカード等の利用環境整備、モビリティポートの設置、交通手段に関する情報提供の充実等の二次交通へのアクセス円滑化・利便性向上等の取組を進めてまいります。
(IRの整備)
IRは、多くの観光客を呼び込む滞在型観光の拠点であり、観光立国の実現に向けた重要な施策です。令和5年4月に認定を行った大阪の区域整備計画について、実施状況評価を行うとともに、依存症対策などの弊害防止対策に万全を期すなど、2030年の開業に向けて対応を進めてまいります。
(航空ネットワークの維持・確保等)
我が国の航空需要については、国内・国際ともに旅客数は回復傾向にあるものの、燃料費や整備費などのコストが増加していることにより、特に国内路線の収支が厳しい状況におかれています。
航空ネットワークは、公共交通として国民の社会経済活動を支えるとともに、インバウンドの受入れをはじめ、ポストコロナの成長戦略にも不可欠な「空のインフラ」です。航空機燃料税の軽減措置等を行うことにより、地方創生や観光立国の実現に不可欠である航空ネットワーク維持・活性化に取り組んでまいります。
また、急速なインバウンド需要の増加に対応するため、グランドハンドリングや保安検査をはじめとする空港業務の処遇改善や人材確保・育成等を支援するなど、引き続き、受入環境整備を推進してまいります。
(「交通空白」の解消等に向けた地域交通のリ・デザインの全面展開)
地域交通は地方創生の基盤であり、「交通空白」は我が国のあらゆる地域における待ったなしの課題です。
私を本部長とする国土交通省「交通空白」解消本部を昨年7月に設置し、全国各地でタクシー、乗合タクシー、公共ライドシェアや日本版ライドシェアなどの「地域の足」、「観光の足」の確保を強力に進めるとともに、幅広く実効性と持続可能性のある取組を全国で推進していくために、自治体や交通事業者等と、様々な資源・技術・サービスを持つ企業群からなる「交通空白」解消・官民連携プラットフォームを設置しました。
そのうえで、次期交通政策基本計画の議論とも連動させながら、令和7年度から9年度までの3カ年を「交通空白解消集中対策期間」とし、「取組方針」の策定にとりかかってまいります。
さらに、多様な関係者との連携・協働、ローカル鉄道の再構築、MaaSや自動運転の社会実装、デジタル技術を活用した省力化投資や担い手確保などを通じ、地域交通のリ・デザインを全面展開してまいります。
(稼ぐ力のあるコンパクト・プラス・ネットワークのまちづくりや都市再生の推進)
生活サービス機能や居住の誘導と公共交通ネットワークの形成を連携して取り組むコンパクト・プラス・ネットワークのまちづくりについては、昨年7月末までに立地適正化計画の作成に取り組む市町村が835、作成・公表した市町村が585、立地適正化計画と地域公共交通計画を併せて作成した市町村が532と着実に増加しています。今後はこれらの計画の実効性を高めるため、都市の骨格となる公共交通の確保やまちづくりに関する支援施策の充実、取組の裾野拡大や計画の見直し促進等に取り組み、持続可能な多極連携型まちづくりを推進してまいります。
また、官民空間の一体的な利活用により、賑わいあるウォーカブルなまちづくりに取り組み、エリア価値向上等を図ります。制度創設から5年が経過し、昨年までに100を超える自治体が、法律に基づく区域を設定し、「居心地が良く歩きたくなる」まちなかづくりに取り組んでいます。国土交通省としては、引き続き、必要な検討を行いながら、法律・予算・税制等のパッケージによる支援で推進してまいります。
加えて、多様化する道路空間へのニーズに対応するため、賑わいのある道路空間を構築する歩行者利便増進道路(ほこみち)制度の普及を促進するとともに、道路空間の柔軟な利活用による地域の魅力向上、賑わい創出を推進してまいります。
都市の国際競争力の強化に向け、金融・税制支援に向けた民間都市開発事業の認定を昨年は7件行い、民間投資を喚起するとともに、重要インフラの整備への支援にも取り組みました。また、地方都市の活性化に向け、まちなかの賑わい空間の整備、空き店舗・空き家の改修・利活用等の促進に取り組みました。引き続き、地域資源の活用を図りながら、ゆとりとにぎわいのあるまちづくりと都市再生を推進してまいります。
(安心して暮らせる住まいの確保)
誰もが安心して暮らせる住まいの確保に向け、昨年5月に改正された住宅セーフティネット法の円滑な施行や地域居住機能の再生を図る公営住宅等の供給支援に努め、住宅施策と福祉施策が一体となった住宅セーフティネット機能の強化等に取り組んでまいります。
こどもや子育て世帯が安心・快適に日常生活を送ることができるよう、こどもや子育て世帯の目線や、住宅を起点とした「近隣地域」といった視点に立った、「こどもまんなか」の生活空間を形成していきます。こどもの遊び場や親同士の交流の場を整備するなど、こども・子育て支援環境の充実に向けた取組を更に進めていくとともに、子育て環境の優れた公営住宅等や子育て世帯に向けた民間の空き家等の活用、こどもの人数等に応じた住宅ローンの金利引下げを行う「フラット35子育てプラス」の実施、子育て世帯等の住宅取得やリフォームに係る負担軽減のための減税措置等による住宅支援の強化に取り組むなど、「こどもまんなかまちづくり」を推進してまいります。
良質な住宅が次の世代に継承されていく住宅循環システムの構築に向け、良質な住宅ストックの形成、既存住宅流通市場の活性化、住宅取得・リフォームに対する支援に取り組んでまいります。
加えて、マンションの建物と居住者の「2つの老い」の進行に対応するため、昨年10月末に設置したマンション政策小委員会における検討の結果を踏まえて、老朽化マンションなどの管理や再生の円滑化等に向けた施策の強化に取り組んでまいります。
(空き家対策・所有者不明土地等対策及び適切な土地利用等の促進)
空き家対策については、令和5年施行の改正空家法に基づく「管理不全空家等」や「空家等管理活用支援法人」等の制度の活用を市町村等に促すとともに、財政支援、税制など、あらゆる方面から対策を進めてまいります。また、昨年6月に公表した「不動産業による空き家対策推進プログラム」により、空き家等の流通促進に向け、不動産業が持つノウハウを活用したサービスの充実や業務の効率化を促進してまいります。
所有者不明土地対策については、その円滑な利用や適正な管理を図るための制度が地方公共団体や事業者等により有効に活用されるよう、土地政策推進連携協議会の開催等により、引き続き制度の周知や支援に取り組んでまいります。
昨年6月に改定した土地基本方針に基づき、サステナブルな土地の利用・管理の実現に向けて、空き地にも着目した円滑な利用転換や適正管理に向けた地域の取組の環境整備など、新たな制度の創設を含め、必要な施策について検討を進めてまいります。
空き家対策と所有者不明土地対策を一体的・総合的に推進することで、空き家・空き地の有効活用等を通じ、地域経済の活性化につなげてまいります。
昨年行った第7次国土調査事業十箇年計画の中間見直しを踏まえ、更なる地籍調査の円滑化・迅速化を進めてまいります。
(活力ある地方創り)
半島地域、離島、奄美群島、小笠原諸島、豪雪地帯など、生活条件が厳しい地域や北方領土隣接地域に対しては、引き続き、生活環境の整備や地域産業の振興等の支援を行ってまいります。
特に半島について、令和6年能登半島地震等の教訓を踏まえ、安心して暮らし続けられる災害に強い半島地域を実現してまいります。
「ウポポイ」については、多くの方々にアイヌ文化に触れ理解を深めていただけるよう、昨年3月に策定した「ウポポイ誘客促進戦略」に基づき、戦略的・効果的な施策等を進めてまいります。
令和元年10月の火災により焼失した首里城は、沖縄の誇りであるとともに、国民的な歴史・文化遺産として極めて重要な建造物です。復元整備工事中の首里城正殿は、令和8年秋に完成予定であり、国土交通省としても、引き続き、一日も早い復元に向けて、沖縄県や関係省庁と連携し、全力で取り組んでまいります。
さいごに
本年も国土交通省の強みである現場力・総合力を活かして、国土交通行政における諸課題に全力で取り組んでまいります。国民の皆様の一層の御理解、御協力をお願いするとともに、本年が皆様方にとりまして希望に満ちた、発展の年になりますことを心から祈念いたします。
令和7年 元旦
国土交通大臣 中野洋昌