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令和6年 斎藤国土交通大臣年頭所感

2024.1.1

国土交通大臣 斉藤鉄夫
国土交通大臣 斉藤鉄夫

新年の挨拶 国土交通大臣 斉藤鉄夫 新年を迎え、謹んで新春の御挨拶を申し上げます。

 新型コロナウイルス感染拡大からの3年間を乗り越え、我が国の経済状況は改善しつつありますが、一方で、昨今の物価高や、いわゆる「2024年問題」など、解決すべき様々な課題にも直面しています。
 国土交通省の行政分野においても、資材価格や住宅価格、自動車・船舶・航空機等の燃料価格が高騰し、また、物流や建設業における担い手の確保や生産性の向上が喫緊の課題となっています。
 国土交通省として、国民生活や事業活動を守る観点から、関係省庁と緊密に連携しつつ、物価高対策、働き方改革、継続的な賃上げへの取組など、迅速かつ着実に必要な対策を進めてまいります。
 また、我が国では、気候変動に伴う自然災害の激甚化・頻発化により、毎年のように災害による深刻な被害が発生しています。昨年も、6月から9月にかけて発生した梅雨前線や線状降水帯、台風等により、各地で大きな被害が生じました。また、年末には、多くの地域で記録的な積雪に見舞われました。
 これまでの防災・減災対策等により、被害の未然防止や大幅な軽減につながった事例も数多くありますが、今後とも、国民の生命・財産を守るという国土交通省の極めて重要な使命を果たすべく、事前防災対策を含む防災・減災、国土強靱化を強力に推進してまいります。
 このほか、厳しさを増す外交・安全保障環境、少子高齢化や人口減少などを踏まえ、国土交通行政においても、多くの課題に対応していく必要があります。
 こうした様々な課題に的確に対応していくためには、現場の声に耳を傾け、国民のニーズをしっかりと捉えることが重要です。
 昨年9月には、岸田総理とともに、トラック事業の営業所を訪問し、荷役作業や運行管理の現場を視察して、経営者やドライバーの皆様から直接、ご意見をお伺いしました。また、建設業についても、関係団体との意見交換をはじめ、様々な機会を通じて、建設業の働き方改革や賃上げ等についてのお考えなどを伺ってまいりました。
 防災分野についても、被災地域の生の声を聞くことが欠かせません。私自身、昨年7月に福岡県久留米市や秋田県秋田市の大雨による被災現場に入り、被害の実情を現地で確認し、被災された方々の切実な声を聞いてまいりました。
 今後も、国民の皆様と、丁寧に、誠実に対話を重ね、小さな声ひとつひとつをよく伺って、真摯に受け止め、国土交通行政に活かしてまいりたいと考えています。
 また、国土交通省の現場を持つ強みを活かし、また、気象と防災、まちづくりと地域交通など、分野間の連携を通じて、組織の総合力を発揮してまいります。
 こうした姿勢を常に忘れず、施策の立案・実行に全力で取り組み、国土交通省一丸となって、より豊かな国民生活の実現に貢献していく所存です。

 本年は、引き続き、特に以下の3つの柱に重点を置いて諸課題に取り組んでまいります。
 ①国民 の安全・安心の確保
 ②持続的な経済成長の実現
 ③個性をいかした地域づくりと分散型国づくり

①国民の安全・安心の確保
(自然災害からの復旧・復興等)
 昨年も、梅雨前線による大雨、台風第2号、台風第7号等による自然災害が発生し、全国各地で河川の氾濫や内水等による浸水被害、土砂災害による被害等が生じました。
 道路や河川等の復旧については、令和4年9月の台風第14号により被災した熊本県の一般県道覚井一武線「球磨大橋」の仮橋等による応急復旧を国が代行して行うほか、昨年の梅雨前線による大雨で被害を受けた地域の二次災害防止のための緊急的な砂防工事を実施する等、各地で支援を行ってきました。また、災害復旧においては、原形復旧のみならず、再度災害を防止するため、施設の機能を強化する改良復旧を推進することが重要です。令和元年東日本台風や令和4年8月の大雨等、過去に被災した水系において策定した「緊急治水対策プロジェクト」に基づき、ハード・ソフト一体となった「再度災害防止対策」を推進しているところであり、昨年被災した河川についても、国、県、関係市町村が連携しつつ、対策を早急に講じてまいります。加えて、デジタル技術の活用や査定手続きの効率化を図り、被災自治体の負担軽減や、被災地域の早期復旧に取り組んでまいります。
 鉄道分野においては、平成28年4月の熊本地震により被災した南阿蘇鉄道が、昨年7月15日に約7年3ヶ月ぶりに全線で運転を再開しました。私も当日開催された式典に出席し、地元の皆さんの歓喜の声を実感しました。令和2年7月豪雨で被災したくま川鉄道については、令和7年度の全線運転再開に向けて復旧工事を進めているところです。同じく令和2年7月豪雨で被災したJR九州肥薩線については、令和4年3月に、熊本県と共同でJR肥薩線検討会議を立ち上げ、復旧後の在り方や具体的な復旧方法等について検討を進めています。令和4年から昨年末までの間には、大雨や台風による橋梁倒壊や盛土流出等の被害が発生し、現在も3事業者5路線において運転を見合わせています。昨年4月には、鉄道・運輸機構において、豊富な知見を有する職員を被災した鉄道の調査に派遣する「鉄道災害調査隊(RAIL-FORCE)」が創設され、4事業者に技術的助言等の支援を行いました。引き続き、必要な対応を行ってまいります。
 港湾分野においては、台風に伴う高潮・高波や、地震等により被害を受けた施設の復旧を進めるとともに、再度災害防止に取り組んでまいります。
 引き続き、被災された方々のお気持ちに寄り添いながら、地域の一日も早い復旧・復興に全力を尽くすとともに、これらの災害から得られた教訓を風化させることなく、さらに災害に強い国づくりを進めてまいります。
(東日本大震災からの復興・再生)

東日本大震災からの復興・再生は、政府の最優先課題の一つです。引き続き、現場の声にしっかりと耳を傾け、被災者の方々のお気持ちに寄り添いながら、「第2期復興・創生期間」における震災からの復興、そして福島の復興・再生に取り組んでまいります。
 国が主体となって整備を進めてきた復興道路・復興支援道路550kmについては、令和3年12月18日に全線開通しました。例えば、三陸沿岸道路は圏域の骨格軸を形成し、時間短縮により交流人口を拡大するとともに、多くの企業立地を促進しており、間接効果や、災害に対する強靭性、低炭素化など、多様な効果を発揮しています。今後さらに、常磐自動車道における暫定2車線区間の4車線化及び小高スマートICの整備を推進してまいります。
 住宅再建・復興まちづくりでは、避難解除区域内等の復興・再生を図るため、福島県内の復興再生拠点の整備を支援してまいります。このほか、東日本大震災からの復興の象徴である国営追悼・祈念施設について、岩手県・宮城県においては引き続き適切に管理するとともに、福島県においては令和7年度の整備完了に向けて着実に取り組んでまいります。
 観光関係では、福島県に対し、観光復興に向けた滞在コンテンツの充実・強化、受入環境の整備等の取組を総合的に支援するとともに、ALPS処理水の海洋放出による風評への対策として、岩手県・宮城県・福島県・茨城県の沿岸部に対し、ブルーツーリズムの推進に関する支援を行ってまいります。

(防災・減災、国土強靱化)
 激甚化・頻発化する豪雨災害、切迫する大規模地震、時として甚大な被害を生じさせる火山災害から国民の命と暮らしを守ることは、国の重大な責務です。
 平成29年九州北部豪雨で甚大な被害が発生した筑後川水系赤谷川では、昨年の梅雨前線により平成29年と同規模の雨量を観測しましたが、防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策等による河川・砂防設備等の整備により、家屋被害を大幅に減少させました。このように、防災・減災、国土強靭化の取組は一定の効果を発揮してきましたが、対策が必要な箇所も多く残っており、また今後も、気候変動に伴う降雨量の増加が予測されていることから、更なる取組の強化が必要です。引き続き、防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策に基づき、激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策、予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策、より効率的に対策を進めるためのデジタル化等の取組を重点的かつ集中的に実施してまいります。また、昨年6月、国土強靱化実施中期計画が法定化され、これにより、5か年加速化対策後も、中長期的かつ明確な見通しの下、継続的・安定的に切れ目なく国土強靱化の取組を進めることが可能となりました。国土交通省としては、実施中期計画の策定に向けて、施策の実施状況の調査を進めていくなど、関係省庁とも連携し、国土強靱化の取組をしっかりと進めてまいります。

(流域治水)
 気候変動の影響による降雨量の増大等の予測を踏まえ、河道掘削や堤防、ダム、遊水地、下水道、砂防堰堤、海岸保全施設等のハード整備に加え、利水ダムの事前放流、官民による雨水貯留、居住誘導や住まい方の工夫など、あらゆる関係者が協働して行う「流域治水」に、スピード感をもって、本格的に取り組んでまいります。治水計画等の見直しについては、これまで10水系の一級水系で河川整備基本方針の見直しを行ったところであり、今後も、全国の河川で見直しを進めてまいります。また、特定都市河川の指定拡大など、実効性ある流域治水の取組に努めてまいります。
 安全でコンパクトなまちづくりを推進するための、立地適正化計画の居住誘導区域等における防災・減災対策を定める「防災指針」について、昨年7月末までに、205の都市において作成・公表を完了しました。国土交通省としては、「防災指針」に基づく各都市の防災まちづくりの取組に対して、省庁横断的な連携の下、重点的な支援を行ってまいります。
 このほか、従来の「水害ハザードマップ」に加え、浸水範囲と浸水頻度の関係をわかりやすく示した「水害リスクマップ(浸水頻度図)」を、内水氾濫のリスクも含めた形で整備するよう促し、防災まちづくりや企業の立地選択等への活用を促してまいります。また、住民一人一人が作成するマイ・タイムラインに関する支援や、適切な避難行動・判断につなげるための「防災用語ウェブサイト」の充実、浸水状況のリアルタイムでの把握に、官民連携の手法を用いて取り組むなど、水災害関連情報をより分かりやすく発信できるよう努めてまいります。

(線状降水帯)
 線状降水帯の予測精度向上に向けた取組を着実に進めます。現時点では、地方ごとに、半日程度前から、予測情報を作成することが可能となっていますが、本年の出水期からは県ごとの、また令和11年には市町村ごとの情報提供を目指して、段階的に改善を進めてまいります。こうした取組を進めるため、最新の観測技術を導入した次期静止気象衛星「ひまわり」の整備や、スーパーコンピュータを活用した予測技術の開発等を進めてまいります。

(災害に備えた体制強化)
 大規模災害に備えた体制の強化も重要です。平成20年4月に創設されたTEC-FORCEは、東日本大震災をはじめ、昨年までの災害に対して、延べ13万8千人を超える隊員を派遣し、被災状況の早期把握や道路啓開、排水ポンプ車による浸水排除、給水支援など、全力で被災自治体の支援にあたってまいりました。今後も、十分な人材や資機材を確保するとともに、デジタル技術も活用し、TEC-FORCEの体制・機能の拡充・強化に努めてまいります。
 切迫する南海トラフ地震等の大規模地震への対応として、緊急地震速報や津波警報、震度情報等の発表に必要な地震観測体制や、噴火の兆候の把握や的確な噴火警報、噴火速報等の発表に必要な火山観測体制の強化を進めてまいります。また、本年は、改正活動火山対策特別措置法が施行され、初の「火山防災の日(8月26日)」を迎えることから、これに向けて火山防災の重要性について普及啓発を行ってまいります。
 また、大雨等による災害が発生した際には、気象台から地方公共団体に「気象庁防災対応支援チーム(JETT)」を派遣し、災害対応に必要な気象情報の解説・助言等の支援を行っており、今後も迅速にJETTを派遣できるよう体制の確保に努めてまいります。加えて、地域の気象と防災に精通する「気象防災アドバイザー」の全国的な拡充と、地方公共団体における活用促進を一層推進してまいります。 また、盛土を含めた土地の形状に関する災害リスクの把握や災害対策に資するため、地形分類情報や航空レーザ測量による高精度標高データの整備を実施するほか、災害情報の的確な把握に資する地理空間情報の整備・提供により利活用を促進します。

(災害時における物流・人流の確保)
 大雨や地震等の災害時には、高規格道路と直轄国道のダブルネットワークや、高規格道路の4車線区間が、迅速な交通の確保に効果を発揮し、被災地の復旧活動を支えます。災害に強い国土幹線道路ネットワークを構築するため、高規格道路のミッシングリンクの解消や暫定2車線区間の4車線化、高規格道路と代替機能を発揮する直轄国道とのダブルネットワーク化等を推進します。
 令和5年8月には、沖縄県で、台風第6号による電柱の倒壊等により長期停電が発生しました。無電柱化は、台風や地震等の被害を最小化するものであり、災害に強い道路づくりや電力の安定供給の観点からも重要です。令和3年5月に策定した無電柱化推進計画に基づき、関係省庁や関係事業者と連携し、積極的に無電柱化を加速してまいります。
短期間に集中的な大雪が発生する傾向等を踏まえ、冬季の道路交通の確保に向けて「人命を最優先に、幹線道路上で大規模な車両滞留を徹底的に回避する」という考えの下、ハード・ソフトの両面から必要な対策を進めてまいります。 このほか、災害時に迅速に代替輸送を確保し、物流の停滞を防ぐため、拠点となる貨物駅において、コンテナホームの拡幅等の機能強化を推進してまいります。

(インフラ老朽化対策の推進)
 加速度的に進行するインフラの老朽化に対しては、「予防保全」への本格転換を図り、維持管理・更新を計画的に進めていくことが重要です。しかし、多くの地方公共団体では適切な維持管理を進める上で財政面・体制面での課題を抱えています。こうした状況を踏まえ、今後は、各地方公共団体が個々にインフラを管理するのではなく、例えば、広域・複数・多分野のインフラを群として捉えて戦略的にマネジメントを行う「地域インフラ群再生戦略マネジメント」、いわゆる「群マネ」を推進していく必要があります。国土交通省では、この「群マネ」を全国で展開すべく、まずは、先行的に課題解決に取り組む地方公共団体を公募し、昨年、11件40自治体を、モデル地域として選定しました。今後は、モデル地域の取組を進め、その知見を全国展開へつなげてまいります。
 また「インフラメンテナンス大賞」においては、インフラメンテナンスの優れた取組や技術開発を表彰し、広く共有しており、令和5年度より内閣総理大臣賞を創設しました。こうした予防保全型メンテナンスへの本格転換に向けた対策を着実に進めることで、持続可能なインフラメンテナンスの実現を図ってまいります。
 また、昨年、道路整備特別措置法等を改正し、債務返済期間を50年以内とする新規定を設けるとともに、料金徴収期間の最長の延長年数として料金徴収期限を令和97年としたところであり、この制度の下、高速道路における更新事業や四車線化等を推進してまいります。

(盛土対策)
 令和3年7月に熱海市で発生した土石流災害を受け、盛土による災害を防止するため、昨年5月に盛土規制法が施行されました。現在、都道府県等における早期の規制区域指定に向けて支援を行っているところであり、引き続き、同法による規制が実効性のあるものとなるよう取組を進めてまいります。

(通学路等における交通安全対策)
 令和3年6月に発生した千葉県八街市での交通事故を受けて実施した通学路合同点検の結果を踏まえ、道路管理者の対策必要箇所について、個別補助制度も活用しつつ安全対策を進めています。令和5年度末までに、暫定的な安全対策を含め、すべての箇所で安全対策を講じることを目指すとともに、引き続き、残る対策を早急に推進していきます。
 近年、高齢運転者による交通事故割合が増加傾向にあり、高齢運転者による交通事故の防止が喫緊の課題となっています。国土交通省としては、衝突被害軽減ブレーキの装着義務化や、ペダル踏み間違い急発進抑制装置の性能を確認する認定制度等により、先進的な安全技術を搭載した自動車の普及促進に取り組んでいます。更なる交通事故数の削減に向けて、ドライバー異常時対応システムなど、より高度な安全技術の開発・普及の促進にも取り組んでまいります。
 また、自動車事故の被害に遭われた方々の支援のため、リハビリ機会の充実や「介護者なき後」への対応などにも取り組んでいます。令和4年6月には、被害者支援対策や交通事故発生防止対策を安定的・継続的に実施するため、自動車損害賠償保障法を改正しました。被害者支援対策等を進めつつ、新たな仕組みに対するユーザーの理解の促進に取り組むほか、引き続き、一般会計から自動車安全特別会計への全額繰戻しに向けて、着実な繰戻しをしっかりと求めてまいります。

(輸送の安全の確保)
 昨年11月に、紅海で我が国海運会社が運航する船舶が拿捕される事案が発生するなど、船舶に対する攻撃事案が相次いでいます。国土交通省としては、民間船舶の航行の安全を脅かす行為は、船舶の安全運航や船員の安全を損なうのみならず、法とルールが支配する海洋秩序を脅かし、航行の自由を危うくする由々しきことであり、このような行為を断固非難します。こうした考えを国際社会にも働きかけていくため、同月にロンドンで行われた国際海事機関(IMO)総会において、國場国土交通副大臣より、このような行為は船舶だけでなく国際海上輸送にも深刻な脅威となるとして、断固非難するとともに、脅威に対し連帯して対応していくためIMOや関係諸国と緊密に連携していくことを発言したところです。
 国土交通省では、船舶及び船員の解放のため、関係省庁や船社と緊密に連携し、緊張感を持って取り組んでいるところです。今後とも状況の推移や国際物流への影響を注視しつつ、関係国や国際社会と連携して、必要な対応を行ってまいります。
 令和4年4月に、北海道知床において小型旅客船が沈没し、乗客乗員計26名が死亡・行方不明となる重大な事故が発生しました。改めて、お亡くなりになられた方々とその御家族の皆様方に対し、心よりお悔やみを申し上げるとともに、今回の事故に遭遇された皆様とその御家族に重ねて心よりお見舞い申し上げます。国土交通省では、事故発生以来、海上保安庁の巡視船艇・航空機による捜索に加え、北海道警察や斜里町などの関係機関等と連携し、潜水士等による海岸部の捜索を実施してきました。また、釧路航空基地へ機動救難士を新たに配置するとともに、オホーツク海域に面する網走海上保安署への大型巡視船の配備により、北海道東部海域の救助・救急体制の更なる強化を図ったところです。今回の事故を受けて設置した「知床遊覧船事故対策検討委員会」において取りまとめられた「旅客船の総合的な安全・安心対策」について速やかに実施・遵守するとともに、事業者の安全管理体制の強化や船員の資質の向上などを内容とした関係法律の改正を行い、さらに、運輸安全委員会による最終報告書を踏まえ、改めて、旅客船をはじめとする輸送の安全確保に気を引き締めてあたるよう指示しました。引き続き、皆様に安心して利用いただけるよう、安全・安心対策に万全を期してまいります。
 このほか、各モードにおける輸送の安全を確保するための取組として、昨年3月に見直しを行った運輸安全マネジメント評価の基本方針に基づき、小型旅客船事業者に対する取組の強化も含め、各モードの運輸事業者の安全管理体制を一層向上させることにより、輸送の安全の確保に取り組んでまいります。
 踏切対策については、立体交差化等の対策に加え、周辺の迂回路整備やバリアフリー化等も含めた総合的対策を推進するとともに、災害時に長時間交通が遮断されることのないよう優先開放等の措置を確実に実施するよう取組を進めてまいります。
 鉄道分野においては、令和3年10月に発生した京王線車内傷害事件等を受けて同年12月に取りまとめた対策等を踏まえ、非常用設備の表示の共通化を進めるためのガイドラインの運用、非常時の通報装置の活用や、危険物の持込み制限の呼びかけ等に取り組んでいるほか、鉄道運輸規程等を改正し、新幹線や利用者の多い在来線の新造車両への車内防犯カメラの設置を義務付けました。このほか、地域の公共交通機関である鉄道に対し、安全な輸送を確保するために必要な設備更新等への支援を行うなど、引き続き、関係省庁、鉄道事業者等と連携し、鉄道における安全・安心の確保に取り組んでまいります。
 自動車分野においては、「事業用自動車総合安全プラン2025」に基づき、運行管理業務の高度化、健康起因事故対策や飲酒運転対策等の安全対策を着実に推進するとともに、軽井沢スキーバス事故等のような悲惨な事故が二度と発生しないよう、更なる自動車運送事業の安全性向上に向けた取組を進めてまいります。
 このほか、昨年発覚したビッグモーターの不正事案を受け、自動車整備業界における同種事案の再発防止を図るべく、車体整備の消費者に対する透明性の確保策や効果的な監査のあり方について、速やかに検討を進めてまいります。また、ダイハツ工業による型式指定申請における不正行為についての調査結果の報告を受け、国土交通省として厳正に対処するとともに、不安を感じるユーザーへの丁寧な説明と対応を、引き続き指導してまいります。
 航空分野においては、引き続き、航空輸送に関わる事業者等に対する厳正な審査・監査等とともに、空飛ぶクルマなどの新たな空のモビリティに関しても安全な運航の実現に向けた取組を進めるなど、発展著しい航空輸送の安全の確保に努めてまいります。

(海上保安応力の強化等)
 近年、尖閣諸島周辺海域において、中国海警局に所属する船舶による領海侵入や、日本漁船に近づこうとする事案が繰り返し発生しているなど、我が国周辺海域の情勢は一層厳しさを増しています。
 このような情勢を踏まえ、新たな国家安全保障戦略等の策定にあわせて決定された「海上保安能力強化に関する方針」(令和4年12月関係閣僚会議決定)に基づき、海上保安庁では、大型巡視船等の大幅な増強整備などのハード面の取組に加え、無操縦者航空機等の新技術の活用や、自衛隊をはじめとする国内外関係機関との連携・協力の強化、サイバー対策の強化、人的基盤の強化などのソフト面の取組を推進することにより、海上保安能力を一層強化してまいります。
 あわせて、国民保護・総合的な防衛体制の強化等に資する公共インフラの整備にも取り組んでまいります。

(経済安全保障等)
 四面を海に囲まれ、エネルギーや食料等をはじめとする物資の貿易量の99.6%を海上輸送に依存する我が国においては、船舶やこれを構成する舶用機器の安定的な供給調達が、国民生活及び経済活動の維持に不可欠です。このため、経済安全保障推進法に基づいて特定重要物資に指定された、船舶の運航に欠かせないエンジン、プロペラ及びソナーのサプライチェーンの強靭化に取り組んでまいります。
 また、鉄道、貨物自動車運送、外航貨物、航空、空港、水道分野の基幹インフラ事業者が特定重要設備の導入等を行う際の事前審査を通じて、インフラ事業の安全性・信頼性の確保に取り組んでまいります。
 あわせて、昨年7月、名古屋港のコンテナターミナルのシステム障害により、物流に大きな混乱が生じた事案を踏まえ、港湾における情報セキュリティ対策の強化を図ってまいります。
 このほか、造船市場における国際競争の中で我が国が世界に伍していくためには、船舶の建造効率や性能面での技術的な優位性が必要です。このため、経済安全保障推進法に基づいて研究開発を促進すべき重要技術の1つとして、デジタル技術を導入して造船業の刷新を図るための研究開発を位置づけ、今後5年間にわたって推進してまいります。
 これらの取組を通じて、経済安全保障等の確保に関する施策を総合的かつ効果的に推進してまいります。

(下水汚泥資源の肥料利用促進)
 下水汚泥資源を肥料として活用することは、持続可能な食料システムの確立や資源循環型社会の構築にも資する取組です。政府では、2030年までに下水汚泥資源の肥料としての使用量を倍増することとしています。国土交通省として、目標の達成に向け、農林水産省と緊密に連携しながら、案件形成支援や採算性向上に向けた技術開発などに取り組んでまいります。

(水道整備・管理行政の移管)
 本年4月から水道維持・管理行政が国土交通省に移管されます。これを踏まえ、上下水道一体の組織体制を整備し、本省に局長級の上下水道審議官を配置するとともに、事業主体である自治体の支援窓口として地方整備局等に水道担当の組織を新設することとしています。災害時には地方整備局等の持つ現場力・技術力を活用し、迅速な情報収集や調整、応急給水の実施など自治体支援を行うとともに、水道行政と下水道行政をあわせて所掌することにより、水ビジネスの国際展開や、官民連携、技術開発などの共通の課題に対し、一体的かつ効率的に取り組んでまいります。移管に向け、水道水質基準を所掌する環境省とも緊密に連携しながら、水道行政の一層の機能強化が図られるよう、万全を期してまいります。

②持続的な経済成長の実現
(原油価格・物価高騰等への対応)
 令和3年から続く燃料油価格の高騰により、鉄道、トラック、バス、タクシー、内航海運、航空、倉庫等の交通・物流業界を取り巻く経営環境は、厳しい状況にあります。このため、政府として、令和4年1月下旬から、燃料油価格の激変緩和事業を実施するとともに、国土交通省においても、タクシーの燃料であるLPガスについて、燃料油価格の激変緩和事業に準じた支援を行い、これらの事業の延長・拡充等を図ってまいりました。昨年11月に閣議決定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策」において、これらの激変緩和措置を令和6年4月末まで講じることが盛り込まれており、引き続き、経営に大きな影響を受けている公共交通・物流事業者を支援することとしています。あわせて、トラック運送事業、内航海運業及び倉庫業において、燃料等の価格上昇分を反映した適正な運賃・料金を収受できるようにするための荷主等への周知や、法令に基づく働きかけ等を実施してまいります。
 建設資材の価格高騰への対応も重要な課題です。政府では、骨太の方針や総合経済対策において、公共投資について、現下の資材価格の高騰等を踏まえ、適切な価格転嫁が進むよう促した上で、必要な事業量を確保する旨を明確に位置付けました。国土交通省としても、直轄工事において、適正な請負代金の設定や契約後の状況に応じた契約変更に取り組むとともに、地方公共団体や民間発注者等に対しても、適切な価格転嫁が行われるよう、しっかりと働きかけを行ってまいります。また、引き続き、必要かつ十分な公共事業予算を安定的・持続的に確保するよう取り組んでまいります。
 昨年11月に成立した補正予算において「子育てエコホーム支援事業」を創設しました。エネルギー価格などの物価高騰による影響を受けやすい子育て世帯等に対し、高い省エネ性能を有する、質の高い新築住宅の取得を支援していくとともに、住宅の省エネ改修等に対しても、環境省による高断熱窓の設置支援や経済産業省による高効率給湯器の設置支援と連携して、幅広く支援してまいります。
 また、住宅ローン減税については、住宅価格の高騰等の現下の住宅取得環境等に鑑み、令和6年限りの措置として、子育て世帯・若者夫婦世帯について借入限度額を維持する等の措置が講じられることとなったところであり、引き続き、住宅取得に係る負担軽減を通じて、良質な住宅の取得を促進してまいります。

(地域公共交通の「リ・デザイン」)
 地域公共交通は、地域の活性化やデジタル田園都市国家構想の実現に不可欠ですが、人口減少等による需要減や運転手等の人手不足により厳しい状況にあります。
 こうした状況に対して、国土交通省として、昨年10月に施行された地域交通法において、地域の関係者の連携と協働の促進を国の努力義務として位置づけるとともに、ローカル鉄道の再構築に関する仕組みの創設・拡充、エリア一括協定運行事業の創設、道路運送高度化事業の拡充など、制度面の拡充も行いました。また、昨年11月に成立した補正予算では、地域の多様な関係者間の「共創」の取組の支援やDX・GXによる経営改善支援に加え、旅客運送事業者の人材確保など、地域公共交通の再構築を図るための所要の予算が措置されたところです。
 また、昨年9月には、関係省庁との連携の下、地域交通の活性化と社会的課題解決を一体的に推進するため、私自身が議長として「地域の公共交通リ・デザイン実現会議」を立ち上げました。会議では、移動実態に係るデータの利活用や地域交通のリ・デザインを主導する司令塔機能が必要であるなどの共通認識を得たところ、今後は、これまでの議論を踏まえ、連携・協働の取組の方向性を具体化し、本年4月頃を目途にとりまとめを行う予定です。 引き続き、地域公共交通の「リ・デザイン」を進めるため、あらゆる政策ツールを活用しつつ、全力で取り組んでまいります。

(持続可能な産業の実現)
 物流や建設業においては、いわゆる「2024年問題」による影響が懸念されており、危機感をもって受け止めています。私は、こうしたピンチを、むしろチャンスと捉え、働き方改革はもとより、賃上げなどの処遇改善にも取り組み、持続可能な物流・建設業を実現してまいりたいと考えています。
 まず、物流は、我が国の経済・社会を支える重要なインフラですが、人口減少や労働環境の課題等から、担い手不足に直面しています。本年4月からは、物流業界を魅力ある職場としていくため、トラックドライバーに時間外労働の上限を定める規制が適用されますが、このまま対策を講じなければ、本年には14%、2030年には34%の輸送力が不足すると見込まれており、物流が停滞するおそれがあります。
 こうした状況を踏まえ、政府として、昨年6月に、①商慣行の見直し、②物流の効率化、③荷主・消費者の行動変容の3つを柱とした「物流革新に向けた政策パッケージ」を決定しました。また、10月には、このうち緊急的に取り組むべき対策を具体化し、スピード感を持って対応しています。さらに、荷主・物流事業者間の商慣行の見直しを図るため、本年の通常国会には必要な措置を盛り込んだ法律案を提出する予定です。本年を物流の始まりの年、すなわち「物流革新元年」と位置づけ、関係省庁や産業界と緊密に連携し、物流政策を強力に推進してまいります。
 次に、国民生活や社会経済を支える建設業が将来にわたって持続可能であるためには、実効性ある働き方改革の推進とともに、現場を担う技能者の賃金が、優れた技能や厳しい労働環境にふさわしい水準に引き上げられることが重要です。このため、週休2日の導入拡大や残業削減などの工期の適正化を通じた働き方改革や、現場の技能者への賃金の行き渡りなどの処遇改善について、必要な制度改正も含めて取り組んでまいります。
 このほか、持続可能な産業の実現に向け、各分野の担い手確保・育成や生産性向上に取り組みます。
 まず、バス・タクシーの担い手確保や経営力強化に向け、早期の賃上げ、安全・快適で働きやすい職場環境づくり、人材確保・養成の取組、経営効率化に向けた投資への支援等を引き続き推進してまいります。また、昨年12月のデジタル行財政改革会議においては、地域交通の担い手不足や、移動の足の不足といった、深刻な社会問題に対応するため、タクシーの規制緩和、地域の自家用車や一般ドライバーの活用といった施策を打ち出しました。この中で、都市部を含め、移動の不便への対応が喫緊の課題となっている現状を踏まえ、移動の足の不足を、地域の自家用車や一般ドライバーを活かすことにより補うこととし、すみやかに、タクシー事業者の管理の下での新たな仕組みを創設し、来年度(今年4月)から開始するという方針を決定しました。来年度に向け、早急に、制度の詳細を詰め、実効性のある仕組みとしてまいります。
 自動車整備業においては、関係業界とも連携し、自動車の先進技術に対応できる人材を確保・育成するため、自動車整備士の魅力向上に取り組むとともに、自動車整備事業者の生産性向上を支援することなど、人手不足の解消に向けた取組を推進してまいります。
 海事分野においては、海事産業強化法に基づく計画認定・支援制度に加え、昨年7月には、日本の船主が作成する、我が国の経済安全保障上重要な外航船舶の確保等に係る計画認定・支援制度を創設し、船舶の特別償却制度等の税制優遇措置を通じて、日本の船主による船舶保有と造船事業者による建造を促進しています。また、内航海運業においては、荷主等との取引環境の改善、生産性向上に取り組むとともに、船員の労務管理の適正化や行政手続きのデジタル化の推進等を通じて、「船員の働き方改革」等を進めてまいります。さらに、独立行政法人海技教育機構における教育内容の高度化等に取り組み、優秀な船員の安定的・持続的な養成を推進してまいります。
 航空分野においては、空港での地上支援業務(グランドハンドリング)や維持管理業務の省力化・効率化のため、先進技術の導入に向けた取組等を官民で連携して取り組んでまいります。
 不動産市場を支えるインフラである不動産鑑定士については、令和7年地価公示において鑑定評価料を22年ぶりに引き上げるなど、処遇改善・担い手確保の取組を進めてまいります。

(持続可能な観光の推進)
 観光は、人口減少が進む我が国にとって成長戦略の柱、地域活性化の切り札として期待されている重要な分野です。新型コロナウイルス感染症の感染拡大により深刻な影響を受けましたが、令和4年10月の水際対策緩和及び全国旅行支援の開始等の効果もあり、昨年は新型コロナからの復活から持続可能な観光の実現に向けて、大きく歩みを進めた1年となりました。昨年策定した観光立国推進基本計画や「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」、「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を踏まえて、本年は「持続可能な観光地域づくり」、「地方を中心としたインバウンド誘客」、「国内交流拡大」の3つの分野の取組を強力に推進していきます。
 第1に、持続可能な観光地域づくりです。国内外の観光需要が着実に回復してきた一方で、一部の地域や時間帯においては、過度の混雑やマナー違反による地域住民への影響や、旅行者の満足度低下などへの懸念が生じています。こうした状況を踏まえ、観光客の集中による過度の混雑やマナー違反への対応、地方部への誘客の促進、地域住民と協働した観光振興に、引き続き取り組んでまいります。また、観光産業においては、観光需要の回復に伴い人手不足が深刻化していることから、外国人材の活用も含めた採用活動支援や、業務の効率化・省力化に資する設備投資への支援などの総合的な人手不足対策を実施し、人手不足の解消に向けて、しっかりと取り組んでまいります。さらに、観光地・観光産業の「稼ぐ力」を回復・強化するため、宿泊施設、観光施設の改修等を計画的・継続的に支援し、観光地・観光産業の再生高付加価値化を促進してまいります。
 第2に、地方を中心としたインバウンド誘客です。訪日外国人旅行者数は着実に回復していますが、都市部を中心とした一部地域への偏在傾向も見られるところです。今後、地方部への誘客をより一層強力に推進し、全国津々浦々あまねく観光客を呼び込んでいくため、自然、文化、食、スポーツ等の観光資源を活用し、全国各地でこれまでにないインバウンド需要を創出する、特別な体験の提供等によるインバウンド観光消費の拡大・質の向上や、地域の観光資源を活用した地方誘客に資する観光コンテンツの磨き上げに取り組んでまいります。また、高付加価値旅行者の地方への誘客を強化するため、11のモデル地域において、高付加価値旅行者を惹きつける商材の作成やコンテンツの創出等を支援する、地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり等を実施してまいります。さらに、大阪・関西万博開催も見据え、アウトバウンドを含む双方向交流拡大に向けたプロモーション強化に取り組んでまいります。
 第3に、国内交流拡大です。近年の働き方や住まいのニーズの多様化等を踏まえ、テレワークを活用したワーケーションの推進や、反復継続した来訪を促進するための「第2のふるさとづくり」、ユニバーサルツーリズムといった国内における新たな交流市場の開拓に、従来の取組をさらに進化させて取り組んでまいります。  国土交通省としては、引き続き、観光地の高付加価値化や住民生活との調和による持続可能な観光地域づくり、地方を中心としたインバウンド誘客、国内交流拡大をより一層推進してまいります。

(各分野における観光関係施策)
 昨年3月、コロナ禍で停止していた我が国での国際クルーズの運航を本格的に再開し、令和5年の寄港回数はコロナ前ピークの約6割まで回復しました。引き続き、各地域の皆様と連携し、クルーズ船の受入環境整備や寄港促進に向けた取組、地域経済効果を最大化させるための取組、地方誘客促進に向けた取組を推進し、経済の活性化や賑わいの創出に努めてまいります。
 景観計画や歴史的風致維持向上計画の策定を促進し、良好な景観を形成するとともに、地方公共団体が取り組む地域固有の歴史・文化・風土を活かした歴史まちづくりに対する支援を引き続き進めてまいります。
 「道の駅」は制度創設から30年が経過しました。地方創生・観光を加速する拠点へと「道の駅」の進化を目指すモデルプロジェクトの実施や、施設の老朽化対策等の全国的な課題に対する支援、防災拠点機能の強化などを進めてまいります。
 令和3年に閣議決定された、「第2次自転車活用推進計画」に基づき、私が本部長をつとめる自転車活用推進本部を中心に、政府一体となって、自転車通行空間の計画的な整備、シェアサイクルやサイクルトレイン等の普及促進、ナショナルサイクルルート等を活かしたサイクルツーリズムの推進等、自転車の活用の推進に向けて取り組んでまいります。
 鉄道分野をはじめとした交通機関において、訪日外国人旅行者にもより快適に利用していただくため、多言語による案内表示・案内放送の充実、トイレの洋式化、クレジットカード対応型券売機や交通系ICカード等の利用環境整備、大型荷物置き場の設置等の取組を進めてまいります。

(IRの整備)
 IRは、多くの観光客を呼び込む滞在型観光の拠点であり、観光立国の実現に向けて取り組むべき重要な施策の一つです。昨年4月には大阪の区域整備計画について認定を行い、9月には実施協定を認可しましたが、依存症などの弊害防止対策に万全を期すとともに、IR整備法に基づき、必要な施策を進めてまいります。

(航空ネットワークの維持・確保等)
 世界規模での新型コロナウイルス感染症から航空旅客需要は回復しつつあるものの、その事業環境の構造的な変化により、特に地方路線の収支が厳しい状況にあります。
 航空ネットワークは、公共交通として国民の社会経済活動を支えるとともに、インバウンドの受入れをはじめ、ポストコロナの成長戦略にも不可欠な「空のインフラ」です。地方創生や観光立国の実現に不可欠である航空ネットワーク維持・活性化のため、来年度の当初予算等の成立を前提に、航空機燃料税の軽減措置に加え、100億円規模での空港使用料の軽減等を行うこととしています。
 また、ポストコロナにおける急速な航空需要の回復・増加に対応するため、昨年11月に成立した補正予算等を活用し、グランドハンドリングや保安検査をはじめとする空港業務の処遇改善や人材確保・育成等を支援するなど、引き続き、受入環境整備を推進してまいります。

(戦略的・計画的な社会資本整備)
 社会資本整備については、我が国の持続可能な経済成長を確実なものとするため、将来の成長基盤となるストック効果の高い事業を戦略的・計画的に推進してまいります。その際、現下の資材価格の高騰等を踏まえ、必要な事業量を確保してまいります。
 道路分野においては、物流上重要な道路輸送網を「重要物流道路」として指定し、平常時・災害時を問わない安全かつ円滑な物流等を確保するための機能強化を図ってまいります。加えて、デジタル化による特殊車両通行許可手続の迅速化を進めるとともに、ダブル連結トラックや中継輸送の普及促進等を通じて、物流の効率化を促進してまいります。また、集約型公共交通ターミナル(バスタ)の整備・マネジメントを通じて人中心の空間作りや多様なモビリティとの連携を進めてまいります。
 鉄道分野においては、整備新幹線、リニア中央新幹線について、地元の理解を得つつ、着実に整備が進められるよう、必要な取組を行ってまいります。現在建設中の北陸新幹線(金沢・敦賀間)については、昨年12月に無事に車両走行試験を終えたところであり、本年3月16日の開業に向け、準備を着実に進めてまいります。北海道新幹線(新函館北斗・札幌間)については、工事延長(212km)のうち約8割を占めるトンネル区間や、高架橋・橋りょう等において、工事を進めているところであり、引き続き、安全や環境に配慮し、関係者の方々と協力をしつつ、着実な整備に努めてまいります。
 残る未着工区間について、北陸新幹線(敦賀・新大阪間)については、従来、工事実施計画認可後に行っていた調査を含む施工上の課題を解決するための調査を、引き続き先行的・集中的に実施してまいります。九州新幹線(新鳥栖・武雄温泉間)については、九州地域、西日本地域の未来にとってどのような整備のあり方が望ましいか議論を積み重ねることが重要と考えており、引き続き、佐賀県との議論を積み重ねてまいります。リニア中央新幹線(品川・名古屋間)については、全長約286kmのうち約9割の区間で工事契約が締結されており、建設主体であるJR東海において、工事が進められているところです。未着工の静岡工区については、国土交通省の有識者会議において、令和3年12月に大井川の水資源への影響に関する中間報告をとりまとめるとともに、昨年12月に南アルプスの生態系などの環境保全についても報告書をとりまとめ、JR東海に対し、この報告書に基づいて対策を講じるよう求めたところです。国土交通省としては、引き続き、JR東海に対し、有識者会議の報告書の内容も踏まえ、静岡県や流域の市町の関係の方々と向き合い、ご理解とご協力が得られるよう指導してまいります。また、国土交通省として、昨年10月、リニア中央新幹線の開業による東海道新幹線沿線地域への経済波及効果等について調査結果を公表しました。さらに、リニア中央新幹線(名古屋・大阪間)については、昨年12月、JR東海において環境影響評価に着手されたところです。国土交通省としてもリニア中央新幹線の早期整備に向けた環境を整え、一日も早い開業に向けて、関係者と連携しながら、しっかりと取り組んでまいります。加えて、基本計画路線を含む幹線鉄道ネットワーク等に関して調査を行ってきましたが、引き続き、幹線鉄道ネットワークの今後の方向性について調査・検討に取り組んでまいります。このほか、なにわ筋線、東京メトロ有楽町線(豊洲~住吉)、同南北線(品川~白金高輪)など、国際競争力の強化等に資する都市鉄道ネットワークの整備についても着実に進めてまいります。
 港湾分野においては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響による国際海上コンテナ物流の混乱等も踏まえ、我が国企業のサプライチェーンの強靱化に資する国際基幹航路の寄港を維持・拡大するため、引き続き、「集貨」「創貨」「競争力強化」の3本柱からなる国際コンテナ戦略港湾政策を推進してまいります。具体的には、国内だけでなく東南アジア等からの広域集貨やコンテナターミナルの一体利用、大水深・大規模コンテナターミナルの整備・再編等に重点的に取り組んでまいります。また、引き続き、国際バルク戦略港湾を拠点としたバルク貨物輸送の効率化に取り組んでまいります。加えて、地域の基幹産業の競争力強化のための港湾の整備に取組むとともに、トラックドライバー不足に対応したモーダルシフトの受け皿にもなる内航フェリー・RORO船ターミナルの機能強化、農林水産省と共同での産地と港湾が連携した農林水産物・食品の輸出促進を図ってまいります。
 航空分野においては、首都圏空港における年間発着容量約100万回の実現を目指し、必要な取組を進めてまいります。具体的には、成田空港については、第三滑走路の整備等に向けて、地域との共生・共栄の考え方の下、機能強化の実現に最大限取り組んでまいります。羽田空港については、2020年3月から新飛行経路の運用を開始しており、引き続き、騒音・落下物対策や新飛行経路の固定化回避に向けた取組、丁寧な情報提供を行ってまいります。また、拠点空港としての機能拡充に向けて、羽田空港アクセス鉄道の整備等を進めてまいります。近畿圏空港については、関西空港の容量拡張等に向け、飛行経路の見直し等に関し、地元自治体等の関係者と連携するなど、2025年大阪・関西万博等に向けた機能強化を推進してまいります。地方空港については、福岡空港の滑走路増設事業、北九州空港の滑走路延長事業、那覇空港の国際線ターミナル地域の機能強化、新千歳空港の誘導路複線化事業などを推進し、ゲートウェイ機能の強化を図ってまいります。

 (官民連携)
 公共施設等の整備・運営に民間の創意工夫や資金を活用するPPP/PFIについては、PPP/PFI推進アクションプラン(令和5年改定版)に基づき、空港・交通ターミナル等の国土交通省所管分野における公共施設等運営事業等の導入を推進していくとともに、水分野については、新たに位置づけられたウォーターPPPの推進に向け、自治体への支援の充実を図り、取組を促進してまいります。また、空き家・遊休公的不動産等の小規模な既存ストックを官民連携により活用するスモールコンセッションの推進や、インフラの維持管理分野等における民間提案に基づく新たな官民連携手法の構築を行ってまいります。

(地域経済に寄与する産業立地の促進)
 戦略分野に関する国家プロジェクト等の国内立地・設備投資に必要なインフラの整備について、企業のニーズも踏まえつつ、迅速かつ集中的に推進してまいります。
 また、供給力強化に資する投資支援のため、産業利用に係る土地利用についても、手続のスピードアップ等必要な協力を行ってまいります。

(インフラシステムの海外展開及び国際協力・連携の推進)
 我が国の持続的な経済成長を実現する上で、世界の旺盛なインフラ需要を取り込み、我が国企業の受注機会の拡大を図ることは大変重要です。政府全体では、「インフラシステム海外展開戦略2025」において、我が国企業が2025年に34兆円のインフラシステムを受注するという目標を立てています。
 国土交通省では、政府全体の方針を踏まえ、昨年6月に「国土交通省インフラシステム海外展開行動計画(令和5年版)」を策定しました。行動計画では、①O&M(運営・維持管理)の参画推進による継続的関与の強化、②「技術と意欲のある企業」の案件形成・支援、③国際標準化の推進と戦略的活用、④デジタル・脱炭素技術の活用の4点を強化すべき重点分野と位置づけています。①O&Mの参画推進による継続的関与の強化については、維持管理や運営事業に参画し、継続的な関与により相手国と密接な関係構築を推進してまいります。②「技術と意欲のある企業」の案件形成・支援については、中小・スタートアップ企業支援の強化や、現地でのプロモーション・マッチングの実施に取り組んでまいります。③国際標準化の推進と戦略的活用については、国際標準の獲得、相手国での採用の働きかけ、日本規格のデファクトスタンダード化を実施してまいります。④デジタル・脱炭素技術の活用については、「Smart JAMP」によるASEANにおけるスマートシティの実現や都市開発の海外展開を戦略的に推進するとともに、交通ソフトインフラにおける我が国企業の海外展開を推進してまいります。更にこれらの取組を効果的に進めるため、オファー型協力に資する支援スキームの有機的な連携や、株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)による支援も含め我が国企業による継続的な海外事業参入に向けた支援に取り組んでまいります。
また、国際協力・連携の推進については、日ASEAN交通連携に基づく取組等を推進してまいります。

(国土交通分野におけるGXの推進)
 近年、気候変動の影響により、自然災害が激甚化・頻発化するなど、地球温暖化対策は世界的に喫緊の課題となっており、我が国においては、2050年カーボンニュートラルを目標として、GX(グリーントランスフォーメーション)の実現に政府を挙げて取り組んでいるところです。地域のくらしや経済を支える幅広い分野を担っている国土交通省としても、民生・運輸部門の脱炭素化等に貢献するため、住宅・建築物や公共交通・物流等における省エネ化、インフラを活用した太陽光や水力、バイオマス等の再エネの導入・利用拡大(創エネ)、輸送・インフラ分野における非化石化等を推進してまいります。
 さらに、カーボンニュートラルに加え、「生物多様性の損失を止め、反転させる」ネイチャーポジティブに資する取組も大変重要です。昨年9月に策定した「グリーンインフラ推進戦略2023」に基づき、社会資本整備やまちづくり等において自然環境の機能を活用するグリーンインフラの取組を官民連携によってあらゆる分野・場面にビルトインすることを目指し、民間投資の促進等を通じて自然豊かな都市空間づくりを目指すまちづくりGXや都市公園整備、住宅・建築物・道路空間・低未利用地等の緑化、自然環境の機能を活用した流域治水等を推進してまいります。
 各分野における取組としては、まず、脱炭素社会の実現に向け、住宅・建築物の省エネ対策等を強化することとしており、改正建築物省エネ法に基づく令和7年からの省エネ基準適合の全面義務化に向けた準備を進めるとともに、ZEH住宅や、炭素固定に資する優良な都市木造建築物等に対する支援を行ってまいります。
 また、都市のコンパクト・プラス・ネットワークの推進等とあわせて、気候変動対応、生物多様性の確保や人々のWell-being向上等に向けて、都市緑地の確保、エネルギーの効率的な利用等のまちづくりGXを推進してまいります。
 建設施工分野においては、直轄工事において省CO2に資するコンクリート等の建設材料の現場試行を実施するなどの取組を推進します。
 このほか、近年の気候変動の影響による水害の激甚化・頻発化を踏まえた治水対策とともに、2050年カーボンニュートラルに向けた取組を加速させるため、治水機能の強化と水力発電の促進を両立させる「ハイブリッドダム」の取組を進めています。現在、国土交通省、水資源機構管理の72ダムで、運用の高度化の試行を実施するとともに、国土交通省管理の3ダムでは、発電施設の新増設に向けたケーススタディを実施しており、新たに参画する民間事業者等の公募を目指してまいります。
 道路分野においては、道路ネットワークの整備や渋滞ボトルネックの解消等による道路交通の効率化・円滑化、自転車の利用促進やダブル連結トラックの利用促進等による低炭素な人流・物流への転換、道路交通のグリーン化、道路のライフサイクル全体の低炭素化の4つの柱に基づき、カーボンニュートラル社会の実現のための脱炭素化の取組を推進します。
 運輸部門の脱炭素化に向けて、交通分野においては、EV車両や充電器設備等の導入に対する補助や金融支援を行うとともに、AIオンデマンド交通やMaaSの導入など様々な支援による利便性向上を進めることで公共交通の利用を促進してまいります。
 また、物流分野においては、コンテナの大型化や関連設備の導入促進等によるトラック輸送から鉄道や船舶へのモーダルシフトや共同輸配送といった取組を着実に推進するとともに、物流施設における再エネ施設・設備等の一体的な導入支援を行うことなどにより、物流施設の脱炭素化を推進します。
 自動車分野においては、燃費規制や税制優遇、関係省庁とも連携して大幅に拡充された予算を活用して商用電動車(トラック、バス、タクシー)の導入補助を行うことにより、次世代自動車の普及促進を図ってまいります。
 航空分野においては、航空法等に基づく「航空運送事業脱炭素化推進計画」及び「空港脱炭素化推進計画」の認定を進めており、昨年12月に成田、中部、関西、大阪国際空港の4空港の計画を初認定しました。また、持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進、空港の再エネ拠点化等に取り組んでまいります。
 鉄道分野においては、鉄道車両・施設等の脱炭素化や、鉄道アセットを活用した再生可能エネルギーの導入を推進するため、関係省庁とも連携しながら、鉄道事業の低炭素化に係る補助制度や、令和6年度税制改正において対象設備に鉄道車両が追加されることになったカーボンニュートラル投資促進税制などにより、鉄道事業者の積極的な投資を後押してまいります。また、環境優位性のある鉄道の一層の利用促進に取り組んでまいります。
 海事分野においては、昨年7月に我が国の提案が取り入れられた「2050年頃までにGHG排出ゼロ」を新たな目標とするGHG削減戦略が、国際海事機関(IMO)において全会一致で合意されました。この目標の達成に向けてゼロエミッション船の導入を促す国際的な枠組み作りを主導してまいります。また、内外航のゼロエミッション船等の導入に必要な技術開発や国内生産基盤の構築に向けた支援を進めてまいります。加えて、安全性と経済合理性を兼ね備えた浮体式洋上風力発電の実現に向けた基準・ガイドライン整備等に取り組みます。
 港湾分野においては、我が国の産業や港湾の競争力強化と脱炭素社会の実現に貢献するため、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化や水素・アンモニア等の受入環境の整備等を図るカーボンニュートラルポート(CNP)の形成を推進してまいります。また、再エネの導入拡大に向け、再エネ海域利用法に基づく案件形成や基地港湾の計画的な整備等により洋上風力発電の導入を促進してまいります。加えて、藻場(もば)・干潟や多様な海洋生物の定着を促す港湾構造物など、「ブルーインフラ」の保全・再生・創出に取り組んでまいります。

(国土交通分野におけるDXの推進)
 国土交通省の所管分野において、許認可等の行政手続自体のデジタル化を進めるとともに、DX(デジタルトランスフォーメーション)の普及を促進し、新たなサービスが創出され生産性向上が実現するよう取り組んでまいります。
 インフラ分野においては、建設現場の生産性向上に向け、調査・測量から設計、施工、維持管理・更新までの全てのプロセスにおいてICTの活用等に取り組む「i-Construction」を推進しており、直轄工事においては、ICT施工を経験した建設企業の割合が、大手企業では約9割、中小企業では約5割まで拡大しました。これに加えて、工事書類のデジタル化等も進め、i-Constructionを中核として、デジタル技術を活用して業務全体の変革を目指す「インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション」を推進しています。昨年8月には、デジタル技術の活用状況や今後の計画をまとめた「インフラ分野のDXアクションプラン第2版」を策定したところですが、引き続き、生産性向上やサービスの高度化を進めてまいります。また、データのオープン化に関する取組として、国土交通省が保有するデータと民間等のデータを連携し、一元的に検索、表示、ダウンロードを可能とすることで、業務の効率化や施策の高度化、産学官連携によるイノベーションの創出を目指す「国土交通データプラットフォーム」の整備を進めています。昨年4月には利用者の声を踏まえて大幅な改修を行ったほか、9月には利用者が希望するデータを自動・一括で取得できる機能を実装しました。すでに3D都市モデル(PLATEAU)をはじめとした様々なデータと連携させていますが、引き続き、連携データ数の拡充や、データ連携の効率化に資する機能の実装等を進め、データの利活用による新たな価値の想像に向けて取り組んでまいります。
 建築・都市の分野においては、デジタル技術を活用して、都市開発・まちづくりのスピードアップを図るとともに、建物内部から都市レベルまでシームレスなデジタルデータを整備し、これをオープンにすることで、様々な分野での新サービス創出に取り組むことが重要です。このため、個々の建築物に関する情報の3次元デジタル化を図る建築BIM、都市全体の空間情報と都市計画情報の3次元デジタル化を図るPLATEAU、これらの情報と官民の様々なデータとの連携のキーとなる「不動産ID」を一体的に進める「建築・都市のDX」に強力に取り組むとともに、これらと地理空間情報を組み合わせた利活用の高度化も進めてまいります。また、不動産分野においては、不動産取引のオンライン化や土地・不動産情報ライブラリの運用開始など、DXを推進する環境整備に取り組んでまいります。
 道路分野においては、AIやICT等の新技術の導入等により、道路の維持管理や行政手続きの効率化・高度化、データの利活用の高度化等を推進してまいります。また、令和4年3月から高速道路の一部の料金所でETC専用化を開始しましたが、今後も、運用状況等を踏まえながら順次拡大し、料金所のキャッシュレス化を推進するとともに、引き続き、道路の賢い利活用を実現する料金制度のあり方を検討してまいります。このほか、ETC2.0等のビッグデータを活用した渋滞状況のきめ細かな把握・整理を進め、効果的なピンポイント渋滞対策を推進してまいります。
 水管理・国土保全分野においては、建設機械や除草機械の無人化・自動化やドローンによる巡視などの取組を進め、インフラ施設の整備や管理の高度化・効率化を推進してまいります。また、衛星やセンサーによる情報収集やAIを活用したダム操作支援、洪水予測の高度化などにより、発災時の迅速な災害対応や早期の避難等を支援します。さらには、デジタル空間上に流域を再現し予測技術等を実証できるデジタルテストベッドの整備や流域に関するデジタルデータを蓄積するデータプラットフォームの構築を進め、他分野のデータと連携もしつつ、様々なDX施策で活用してまいります。
 デジタル技術を活用して地域の課題解決等を図る「スマートシティ」に関しては、「スマートシティ実装化支援事業」として13地区の先進的な事業を選定しました。引き続き、好事例の横展開等による普及活動を実施するとともに、「スマートサービスによるWell-beingの改善方策検討ワーキンググループ」において今後の取組の方向性を議論するなど、スマートシティのもたらす効果の最大化を一層推進してまいります。
 交通分野においては、地域公共交通が極めて厳しい状況にあることから、財政支援や財政投融資等により交通DXを推進することで地域公共交通の利便性・生産性・持続可能性の向上に取り組みます。具体的には、MaaSやAIオンデマンド交通、交通分野でのキャッシュレス決済手段の導入等を推進してまいります。特に、移動に求められる様々なニーズに対応し公共交通の利便性を一層向上させ、自家用車のような使い勝手の良さを実現するMaaSを引き続き推進し、地域の方々にとって移動しやすい環境を整備してまいります。
 また、地域交通の移動サービスにおいては、自動運転の活用が期待されているところです。そのため、自動運転の通年運行の倍増や、全ての都道府県で1ヵ所以上の事業を計画・運行することを目指す等により、自動運転のすみやかな社会実装につなげ、事業化を図ってまいります。また、車載センサーだけでは検知困難な交差点等の道路状況を把握するため、道路インフラからの情報提供による支援に取り組むこととしています。引き続き、レベル4自動運転の実現に向けた環境整備など、自動運転の高度化や自動運転サービスの全国展開に向けた取組を推進してまいります。
 物流分野においては、昨年6月に策定した「物流の革新に向けた政策パッケージ」等に基づき、物流情報標準ガイドラインの活用促進等を通じた物流のデジタル化、自動倉庫等の導入、ドローン物流の事業化等の自動化・機械化による物流DXを推進してまいります。また、物流DXを促進するため、伝票・外装サイズ・パレット等をはじめとした物流の標準化に向けた取組を進めてまいります。
 ドローンについては、昨年3月に有人地帯での補助者なし目視外飛行(レベル4飛行)が実現し、さらに昨年12月には、ドローン配送の事業化に向けて、レベル3.5飛行の制度を新設しました。こうした取組を通じ、安全を確保しつつ、ドローンの社会実装を強力に推進してまいります。また、いわゆる空飛ぶクルマについては、2025年の大阪・関西万博に向けて、機体の安全性、操縦者の技能証明、交通管理、離着陸場等に関する制度整備、機体の審査等を進めてまいります。
 鉄道分野においては、本年3月にJR九州香椎線で、踏切のある区間で初めての自動運転が導入される予定であり、引き続き、自動運転の導入に向けて、要素技術、地上設備を削減可能とする地方鉄道向け無線式列車制御システム、地震発生後の点検区間を削減し列車の早期運転再開を図る詳細な地震動分布の把握手法の開発など、現場業務の効率化・省力化の取組を進めてまいります。
 港湾分野においては、国際競争力の更なる向上のため、「ヒトを支援するAIターミナル」の社会実装や、さらなる深化のための荷役機械の高度化等の技術開発を推進してまいります。また、港湾の電子化を実現する「サイバーポート」については、港湾管理分野(港湾行政手続等)の運用を本年1月より順次開始し、物流分野(民間事業者間の港湾物流手続)・インフラ分野(港湾施設等情報)との一体運用を推進します。
 海事分野においては、造船業・舶用工業の国際競争力の強化及び生産性の向上を図るため、バーチャル・エンジニアリング技術の導入を進めてまいります。加えて、自動運航船の実用化に向けた環境整備等を推進してまいります。
 このほか、世界水準のデジタル社会の形成に向け、他国の測位衛星に頼らない精緻な測位環境の整備を進めるとともに、我が国のベース・レジストリである「電子国土基本図」について、国土全域で3次元化に取り組み、だれもが利活用しやすいデジタルインフラとして整備していきます。
 これらの取組に加え、DX社会に対応した気象サービス推進のため、民間事業者に対し、気象データのクラウド技術を活用した提供を本年3月に開始します。

(スタートアップへの支援)
 スタートアップは、社会的課題を成長のエンジンに転換して、持続可能な経済社会を実現する「新しい資本主義」の考え方を体現するものであり、建設現場の生産性向上や安全・安心で快適な交通社会の実現に向けて、スタートアップが生み出す革新的技術を社会実装へと繋げることが重要です。 このため、国土交通省では、引き続き、研究開発関連補助金の拡充、表彰制度の着実な運用等に取り組み、スタートアップへの支援を推進してまいります。

(2025年の大阪・関西万博、2027年国際園芸博覧会の開催に向けた取組)
 2025年の大阪・関西万博に向け、万博に関連するインフラ整備や、空飛ぶクルマの実現など「未来社会の実験場」の具体化に向けた取組を関係省庁や地元自治体等と連携して進めてまいります。
 2027年国際園芸博覧会について、昨年、関係閣僚会議において、政府として取り組むべき対策の「基本方針」及び「関連事業計画」が決定されました。これらに基づき、政府一丸となって本博覧会の開催に向けて取り組むとともに、博覧会協会、関係省庁、地元自治体及び経済界と連携し、着実に開催準備を進めてまいります。

③個性をいかした地域づくりと分散型国づくり
(豊かな田園都市国家の形成に向けた分散型国づくり)
 個性ある文化や豊かな自然環境を有する多様な地域から成り立つ我が国において、人々が地域に誇りと愛着を持って、安心して暮らし続けられる国土を次世代に引き継いでいくことが重要です。このため、昨年7月に閣議決定された新たな国土形成計画においては、目指す国土の姿として「新時代に地域力をつなぐ国土」を掲げ、この実現に向けて「シームレスな拠点連結型国土」の構築を図ることにより、地域の魅力を高め、地方への人の流れの創出・拡大を図ることとしています。計画の実装に当たっては、二地域居住等の促進や地域生活圏の形成をはじめ、計画が描く将来ビジョンを国民全体で共有していくとともに、関係省庁とも緊密に連携しながら推進してまいります。広域地方計画の策定に当たっては、全国計画を基本としつつ、それぞれの地域の個性や強みを活かして自立的に発展する圏域づくりにつながる計画となるよう、関係主体と緊密な連携を図りながら取り組んでまいります。また、北海道については、その強みである食や観光の一層の強化、ゼロカーボン北海道の実現、経済安全保障に貢献する先端産業拠点の形成等を図るとともに、デジタル技術も活用しながら、北海道の価値を生み出す生産空間を維持・発展させるため、年度内を目途に第9期北海道総合開発計画を策定し、これら我が国の課題解決に貢献する取組を推進してまいります。
 加えて、地方への人の流れの創出・拡大による地域の活性化を図り、個人の多様なライフスタイルを実現する二地域居住等を促進するための新たな法制度の整備に取り組んでまいります。新たな働き方・住まい方への対応として、職住近接・一体の生活圏を形成するなど、豊かで暮らしやすい「新たな日常」を実現するため、テレワーク拠点整備等を推進してまいります。

 (コンパクトでゆとりとにぎわいのあるまちづくりや都市再生の推進)
 生活サービス機能や居住の誘導と公共交通ネットワークの形成を連携して取り組むコンパクト・プラス・ネットワークのまちづくりについては、昨年7月末までに立地適正化計画の作成に取り組む市町村が634、作成・公表した市町村が527、立地適正化計画と地域公共交通計画を併せて作成した市町村が424と着実に増加しています。今後はこれらの計画の実効性を高めるための、都市の骨格となる公共交通の確保やまちづくりに関する支援施策の充実等に取り組み、持続可能な多極連携型まちづくりを推進してまいります。
 また、まちの資源を最大限に利活用して、ゆとりと賑わいあるウォーカブルなまちづくりに取り組み、多様化する人々のニーズに対応しつつ、エリアの価値を向上させてまいります。昨年までに100を超える自治体が、法律に基づく区域を設定し、「居心地が良く歩きたくなる」まちなかづくりに取り組んでいます。国土交通省としては、引き続き、法律・予算・税制等のパッケージによる支援を実施してまいります。
 加えて、多様化する道路空間へのニーズに対応するため、賑わいのある道路空間を構築する歩行者利便増進道路(ほこみち)制度の普及を促進するとともに、道路空間の柔軟な利活用による地域の魅力向上、賑わい創出を推進してまいります。
 都市の国際競争力の強化に向け、昨年は、5件の民間都市開発事業を認定し、金融・税制支援を行いました。引き続き、これらの支援により民間投資を喚起するとともに、重要インフラ等の整備への支援を行い、都市再生を推進してまいります。

(安心して暮らせる住まいの確保)
 誰もが安心して暮らせる住まいの確保に向け、国土交通省、厚生労働省、法務省と3省合同で設置した有識者検討会での議論を踏まえ、住宅政策と福祉政策が一体となった住宅セーフティネット制度の強化に取り組んでまいります。
 こどもや子育て世帯が安心・快適に日常生活を送ることができるよう、こどもや子育て世帯の目線や、住宅を起点とした「近隣地域」といった視点に立った、「こどもまんなか」の生活空間を形成していきます。こどもの遊び場や親同士の交流の場を整備するなどのこども・子育て支援環境の充実に向けた取組を更に進めていくとともに、子育て環境の優れた公営住宅等や子育て世帯に向けた民間の空き家等の活用、こどもの人数に応じた住宅ローンの金利引下げを行う「フラット35子育てプラス」の実施、子育て世帯・若者夫婦世帯の住宅取得に係る負担軽減のための減税措置等による住宅支援の強化に取り組むなど、「こどもまんなかまちづくり」を加速させてまいります。
 また、住宅内での子どもの事故防止や家事負担軽減などのため、子育てに対応したリフォームに対する税制を創設したところであり、子育て世帯の居住環境の改善にも取り組んでまいります。
 さらに、良質な住宅が次の世代に継承されていく住宅循環システムの構築に向け、良質な住宅ストックの形成、既存住宅流通市場の活性化、住宅取得・リフォームに対する支援に取り組んでまいります。
 加えて、マンションを巡る建物と居住者の両方における高齢化に対応していくため、昨年4月にスタートしたマンション長寿命化促進税制などを通じて適切な修繕工事を促進し、マンションの長寿命化を推進してまいります。また、区分所有法制の見直しの状況も踏まえ、管理、修繕、再生の観点から、必要な施策の具体化に向けた検討を進めてまいります。

(空き家対策・所有者不明土地等対策及び適切な土地利用等の促進)
 空き家対策については、昨年12月に改正空家法が施行され、空き家の除却等のさらなる促進に加え、周囲に悪影響を及ぼす前の段階からの有効活用や適切な管理の確保に係る措置を創設するなど、総合的に強化したところです。引き続き、これらの措置についてしっかりと周知等を行い、改正法の円滑な施行に努めてまいります。加えて、空き家の除却・活用に係る取組に対する財政支援を引き続き実施するとともに、相続した空き家の譲渡所得の特別控除や「全国版空き家・空き地バンク」の活用促進等を図ってまいります。
 所有者不明土地対策については、その円滑な利用や適正な管理を図るための制度が地方公共団体や事業者等により有効に活用されるよう、土地政策推進連携協議会の開催等により、引き続き制度の周知や支援に取り組んでまいります。
 また、空き家対策と所有者不明土地対策を一体的・総合的に推進することで、空き家・空き地の有効活用等を通じ、地域経済の活性化につなげてまいります。
 さらに、空き地等の増加の懸念に対応し、非宅地化を含む最適な土地利用への転換や管理の在り方について検討を進めるとともに、人口、世帯数の減少等社会経済情勢の変化を踏まえた土地政策が政府全体として適切に取り組まれるよう、土地基本方針の改定を行ってまいります。
 併せて、第7次国土調査事業十箇年計画に基づいて、早期の災害復旧や社会資本整備の迅速化等に資する地籍調査を進めてまいります。

(共生社会の実現への取組)
 誰もが安心して参加し、活躍することができる共生社会の実現に向けて、公共交通機関や建築物等のバリアフリー化などのユニバーサルデザインの街づくりや、心のバリアフリーを推進することが重要です。
 このため、令和3年度からの5年間を目標期間として策定したバリアフリー整備目標に基づいて、地方部を含めた旅客施設のバリアフリー化や、基本構想等の策定促進による面的なバリアフリーの街づくり、高齢者障害者等用施設などの適正利用といった心のバリアフリーの取組等を推進してまいります。
 また、鉄道駅におけるバリアフリー化については、令和3年に、都市部において、利用者の薄く広い負担を得てバリアフリー化を進める鉄道駅バリアフリー料金制度を創設し、昨年から運用が開始されています。加えて、地方部において既存の支援措置を重点化することにより、全国の鉄道駅のバリアフリー化を加速してまいります。
 このほか、本年4月から「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律」が施行されることも踏まえ、国土交通分野における障害を理由とする差別の解消に向けた取組をいっそう推進するとともに、公共交通機関等において、こども・子育てにやさしい社会づくりに向けた機運醸成に取組んでまいります。
 国土交通省としては、引き続き、当事者の方々の御意見を伺いながら、これらの取組を通じて、ハード・ソフトの両面からのバリアフリー化に全力で取り組んでまいります。

(活力ある地方創り)
 奄美群島や小笠原諸島をはじめとする離島や半島地域、豪雪地帯など、生活条件が厳しい地域や北方領土隣接地域に対しては、引き続き、生活環境の整備や地域産業の振興等の支援を行ってまいります。
 「ウポポイ」については、多くの方々にアイヌ文化の素晴らしさや民族共生の理念に共感していただけるよう、効果的な誘客施策について有識者検討会で議論を進めていただいており、この結果を踏まえて取り組んでまいります。
 令和元年10月の火災により焼失した首里城は、沖縄の誇りであるとともに、国民的な歴史・文化遺産として極めて重要な建造物です。復元整備工事中の首里城正殿は、令和8年秋に完成予定であり、国土交通省としても、引き続き、一日も早い復元に向けて、沖縄県や関係省庁と連携し、全力で取り組んでまいります。

さいごに
 本年も国土交通省の強みである現場力・総合力を活かして、国土交通行政における諸課題に全力で取り組んでまいります。国民の皆様の一層の御理解、御協力をお願いするとともに、本年が皆様方にとりまして希望に満ちた、発展の年になりますことを心から祈念いたします。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -