講演会 講演録

  • 2021年8月27日
    少子高齢化時代の住まい
    (KENTEN2021特別講演)
    協力:一般社団法人日本建築協会
    大阪ガス(株) エネルギー・文化研究所
    主席研究員 加茂 みどり 氏

    これからの住まいには何が求められていくか?

     これからの少子高齢時代の特徴と、それに応じて求められる住まいの機能を、四つに分類しました。
    1.家族が小さくなる―「個」を中心に育児も介護も
     1~2人暮らしの世帯が普通になります。住まいに求められるのは、パーソナル化への対応、安心感のある遊び場等の子育て対応、子どもや高齢者が人の目に触れること、子育て・介護・家事のサービスへの対応等です。
    2.緩やかなつながりへのニーズ―自助・互助へ
     近隣住民や地域との交流・つながりを持ちたいと考えている人は86%に及びます。公助・共助から自助・互助へ政策も転換しつつあり、住まいには、訪問者を受け止め、交流を促し、外に開いたりシェアしたりできる機能が求められます。
    3.寿命が長くなる=セカンドライフが長くなる
     平均寿命が伸び、セカンドライフの期間が非常に長くなります。ライフスタイルは、「就学→就労・子育て→セカンドライフ」という一般型にとらわれない、「マルチステージ型」になります。一方で要介護期間も長くなります。セカンドライフの拠点となり、予防医療と連携し、プライバシーを確保しながら介護サービスを受けられるような住まいが必要です。
    4.働き方が多様になる―住まいが仕事場に
     働き方や仕事観が多様になってくると、家も働く場となり、今後はテレワークが可能で打ち合わせもでき、自分や家族のプライバシーを守りながら仕事ができる住環境のニーズが高まります。

    伝統的な居住文化を現代的な利便性とともに提案する

     前述の4点に加えて主張したいのは、近代化の中で失われてきた日本の居住文化の継承です。グローバル化による訪日外国人の増加は、日本を再発見する好機です。懐古主義ではない、現代的な利便性を考慮した和の居住文化を考えたいと思います。たとえば、建具で内と外の区切り方を調節して中間領域をつくり出せるような空間の考え方などです。
     そこで私たちは、内と外のバッフーァゾーンとなり、シェアハウスやホームオフィス、介護や育児サービスの受け入れなど、いまどきのライフスタイルを実現できる、「現代的な中間領域」を提案しています。

    将来ニーズに対応可能な住まいのリフォーム事例

     典型的な従来型の集合住宅の住戸で、前述のような住宅ニーズに対応するのは難しいと思われます。私が三澤文子氏と共同設計した、集合住宅の住戸リフォーム「中京・風の舎」を紹介します。「住まいのリフォームコンクール」で国土交通大臣賞を受賞した改修事例です(図1)。
    特徴①「間口幅の土間」。中間領域となる間口幅の玄関土間から内部への出入り口が3カ所あります。土間で訪問者を一度受け止め、来客のアクセスコントロールをします。土間から個室に直接出入りできるので、家族のプライバシーを守りながら個室で介護サービスを受ける、個室を打ち合わせもできるオフィスに使う、なども可能です。
    特徴②「風が抜ける家」。摺り上げ・摺り下げ障子を入れ、視線を遮りながら障子から風を通せます。また、住戸内の各部屋を続き間にすることで風の道を確保しました。風の行く先には、ベランダを縁側に見立てた中間領域をしつらえました(図2)。
    特徴③「子どもを育てやすい(子どもが育つ)家」。玄関から個室に直接アクセスさせることで子どもの自立を促すと同時に、プライバシーやセキュリティを確保して育児・介護サービスに対応します。
     さらに、④キッチンやダイニングで交流できる「つながりをはぐくむ家」、⑤木を多用した「木に囲まれて暮らす家」、⑥昔の家具なども収めた「住み継ぐ家・引き継ぐモノ」、⑦断熱性能を上げた「健康に住まう・省エネルギー」という特徴も備えています。

    新しい暮らし方に合った住まいづくりを目指して

     当社では、「実験集合住宅NEXT21」を建設し、いろいろな居住実験を行っています。例えば「自在の家」では、五つの室空間ユニットを分離・結合させ、その時必要な住戸を構成するというコンセプトで設計しています。真ん中には、5ユニットを接続したり区切ったりする「ウチドマ」があります。個人・世帯問わず、共に暮らしたい人たちが自由自在に住めるように考えた家になっています(図3)。
     集合住宅は住戸規模の変更ができません。しかしこの実験住宅のように予めユニット化すれば、分離や結合が自在にできるので、少子高齢化時代の多様な暮らし方に対応できそうです。世の中で実現するのはまだ先になりそうですが、NEXT21ではこうして提案し、実際につくって居住実験の実施に至っています。
     他にも、太陽光発電と燃料電池が連携した究極の省エネ性と健康・快適性を両立した「ウェルネスZEH」、ガスエンジンと燃料電池を備えて停電時でも自立した生活ができる「72時間自立への対応」、さらには「健康管理IoT住戸」などの試みを行っています。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -