講演会 講演録

  • 2024年8月19日
    「理想のすまいと建築フェア2024」特別セミナー
    「金属サイディング外壁重ね張りリフォームの御提案(カバー工法)」
    森 浩治氏(日本金属サイディング工業会 代表幹事/日鉄鋼板株式会社 技術統括部 シニアマネジャー・工学博士)

    今後のリフォーム需要に期待が寄せられる外壁材

     金属サイディングは、表面材(塗装金属板)と裏面材(アルミ紙など)の間に発泡ウレタンなどの断熱材をサンドイッチした構造の外壁材です。オス側とメス側を嵌合(かんごう)させることによって、効率よく連続的に壁面を施工できるようになっています。金属サイディングには、「軽量」「高断熱性」「ひび割れ・凍害の心配がない」「意匠の多様性」という点で他の外装材よりアドバンテージがあります。
     リフォームの金属サイディング重ね張り工法は、一般的なモルタル外壁の上に金属サイディングをカバーするように施工する工法で、既存壁を撤去する必要がありません。また住みながらリフォームできて、短工期、廃材が少なく環境に優しいという特徴があります(図1)。横から見た断面図から分かるように、モルタルなどの既存壁の上に取り付けた胴縁によって通気層ができるので、通気構法と称しています。
     用途別素材シェアを見ると、戸建新築用では圧倒的に窯業サイディングが多くを占めていますが、戸建リフォーム用では金属サイディングのシェアが最も高くなっています。しかし最新データでは新築でのシェアがアップしていることが確認できています。
     今後、持ち家着工数はさらなる減少が想定され、建築事業はストック住宅にシフトしていきますが、その中で金属サイディングの戸建てリフォームは大いに期待できると考えています。
     金属サイディングの主要需要地は北海道、東北、関東甲信越地方です。当工業会では西日本エリアでの出荷状況も取りまとめていますが、トータル量が減少している中で西日本の需要は増加していることに着目しています。われわれは今後さらに西日本で金属サイディングを展開しようと、「GO WEST!!」をキャッチフレーズに拡大を推進しています。

    重ね張り工法を推奨するわけは?

     外壁リフォームは、既存外壁の上に塗装する「塗り替え」と、今回ご紹介する「重ね張り」の2方法に大別されます。イニシャルコストなら塗り替えのほうが低いですが、先々のメンテナンスは重ね張りにメリットがあり、意匠も断熱性も重ね張りの方が優れています。よってトータルアドバンテージは重ね張りのほうが大きいといえます。次に各論を示します。

    【耐震性・施工性】極めて軽量

     金属サイディング(3~4kg/㎡)の重量は窯業系サイディング(14~17kg/㎡)の約4分の1と軽く、柱や梁など躯体への負荷も少ないので耐震性が高くなります。軽量なので施工時の作業負荷も低減されます。また、既存モルタル壁に金属サイディングを重ね張りすることによって外壁の強度が約2.6倍上がり、地震動に伴うモルタルの剥落・飛散を抑制する効果も期待できます。
     金属サイディングは嵌合部の片側のみを固定する構造なので、地震が起きても嵌合部はスライドして揺れに追従します。このように地震の揺れを吸収して壁変形を抑えることで破損・脱落しにくくなっています。

    【断熱性・経済性】高い断熱性能・省エネ効果抜群

     芯材(断熱材)は硬質ウレタンフォームもしくはイソシアヌレートフォームで、熱伝導率が極めて低く他の外壁材に比べて断熱性に優れ、省エネ効果があるといえます。金属サイディングの厚みを1としたとき、同じ断熱効果を得るには、窯業サイディングで約6倍、ALCで約7倍、モルタルにいたっては約50倍の厚みが必要です。
     金属サイディングは新築・リフォーム共に通気構法が標準です。通気層があることで、夏季は壁が温度上昇したときに熱気を逃がし、冬季に結露が生じたときに湿気を排出することができます。悪天候時に浸入した水も排出可能です(図2)。
     さらに重ね張りは塗り替えに比べて家屋内に侵入する熱を約1.8倍抑制する効果があります。塗り替えただけでは侵入熱が多いのですが、金属サイディングを重ね張りすると、間にまず通気層が入り、金属サイディング自身の断熱材の効果が相まって侵入熱が減少、家屋内における冷房効率が上がるというわけです。昨今注目されている遮熱塗料でも、金属サイディングの通気層と断熱層の相乗効果には及ばす、重ね張りのほうが1.3倍の抑制効果があります。
     そして塗り替えは初期費用が低いものの、重ね張りではメンテナンス費用を大幅に圧縮できるため、トータル費用では金属サイディング重ね張りのほうがコストメリットが高まります。

    【美観性】豊富なデザインバリエーション

     シックなシンプル柄、特徴的な意匠も含め、会員各社トータルで200柄・800品種に及びます。石積み調、木目調、塗り壁調、レンガ・タイル調などのデザインが、和風・洋風のあらゆる住宅スタイルに対応したデザインを具現化し、多彩な住宅外観を演出します。最近は「金属らしさ」が好まれる傾向が強く、光沢やシャープさを生かしたシンプルでスマートなメタル調が好評です。
     金属サイディングの標準長さは定尺の2.5~4mですが、長くカットした長尺品もご提供できます。長尺品は1階と2階を1本でつなぐことができ、中間水切りがないすっきりとした納まりになります。片流れ物件や非住宅物件に最適です。
    昨今はスタイリッシュモダン、シンプルモダンな戸建住宅が増えており、シンプルフォルムを生かす時流があります。また、建坪当たりの有効居住空間率は「箱」になるほど高くなるため、近年キューブ型住宅が増えています。キューブ型は外観デザインが直線的でシャープなので金属サイディングがベストマッチとなります。先ほど新築でのシェアも増加していると述べましたが、これは美観性の向上も一因であると思われます。

    金属サイディングによるリフォーム・新築施工事例

     最後に、金属サイディングの美観性をフル活用して大きく様変わりした施工事例(リフォーム・新築)をご紹介します。まずリフォームですが、スレート外壁の作業所兼倉庫を、スパン調の金属サイディングで1Fと2Fで白黒に張り分け、スマートで現代的な建物に仕上げました。前後の見栄えの違いは歴然です(図3)。
     外壁が経年劣化により老朽化した某会社事務所は、縦張り黒色金属サイディングにより、スタイリッシュな今どきの外観に変化しました。リフォーム後に同社に対し行ったインタビューでは、壁の厚みが増したことをデメリットとしながらも、断熱性の向上でエアコン3機中の1機のみの稼働で済んだため光熱費の削減につながったという大きなメリットを感じていらっしゃることが分かりました。
     新築の事例は、ブラック基調の縦張り金属サイディングと木の組み合わせです。端部の収まりを生かした非常にシャープでモダンな外観に仕上がっています。
     当工業会では、セミナーのほか、リフォーム講習会も西日本各地で開催しています。施工例のフォトコンテストも2002(平成14)年から毎年開催し、今年で23回目を迎えます。今回、金属サイディングの西日本における伸びしろの大きさをご理解いただけたかと思います。需要が期待できる建材なので、ぜひご検討ください。

     
    「理想のすまいと建築フェア2024」特別セミナー
    「香港・グレーターベイエリアにおける「和空間」と今後の展望」
    リッキー フォン氏(香港貿易発展局 大阪事務所長)

    香港について、日本では報道されない事柄が多い

     香港は東京都の半分程度の狭い地域で、約750万人が住んでいます。経済が低迷していた2022年を底に、2023年から3%のGDP成長率を見せています。注目点は1人当たりのGDPで、2023年は5万ドルを超えました。一方日本は3万3,000ドルと減少傾向です。つまり1人当たりの購買力は日本より香港のほうが高いといえます。
     日本のメディアで報道しない香港事情があります。いろいろありますが、一つが香港のビジネス環境評価です。在香港の日系、米系に対して行われたアンケートでは、2019~20年にかけての香港の社会不安は直近では大方払拭され、8~9割がビジネス環境について高評価であるという結果でした。しかし本社への質問ではなぜか悲観的な見方が優勢でした。理由は日本のメディアが香港に関して悲観的なニュースばかりを報道するからでした。現地香港駐在員と、意思決定する本社の意識の乖離があったことが判明した調査でした。
     私がこれから話すことも、日本のメディアでは報道されないことです。この3~4年の間、色眼鏡で香港を見ていた方がいれば、いったん外してお聞きください。

    香港のライフスタイルトレンドは「和空間」

     香港人は日本が大好きです。コロナ前の2019年、人口740万人(当時)のうち299万人が訪日しました。およそ3人に1人で、うち3割が10回以上訪れています。
     食に関しては、日本産の鶏卵が香港で大人気です。現在日本から世界に輸出されている卵の9割以上が香港へ行きます。2023年、香港は60数億円分の卵を日本から輸入しました。香港へ行くと、飲食店の前に「当店では日本の鶏卵を使用しています」とわざわざ書いて値打ちをつけています。中国やタイからも卵は輸入していますが、日本産が選ばれています。これは卵に限った話ではなく、野菜も建築材料も、あらゆるものが今香港では日本産に置き換わりつつあります。
     なぜこれだけ日本産を消費できるのでしょうか。それは先述した、香港と日本の1人当たりGDPの差にあります。日本に1万7,000ドルもの差をつけている香港だからできるのです。
     香港には、純資産45億円以上の「超富裕層」が約1万2,600人おり、世界1位です。純資産7億5,000万円以上の「富裕層」は約6万人。それだけではなく、40代以下の若い世代に富裕層が多いのも特徴で、彼らを称して「Young Wealthy」といいます。なぜ若くして裕福なのか、その理由の一つが税制にあります。相続税も贈与税もないため、親世代の莫大な資産や高額な物件をそのまま相続できるのです。
     30~40代の香港人は、日本のアニメや音楽に親しんで育ったので、日本への憧れがあります。だからこそ何度も日本に来るし、日本の製品を買い、日本のような空間に住みたいと思っているのです(図1)。

    内装は住人が自分好みにつくり上げる

     香港にある住宅の一室をご覧ください(図2)。襖(ふすま)、無垢の床材、なぐり加工(表面加工の一つ)の木材などなど、日本製や日本風の物が多く入っています。このように和を取り入れる傾向は少しずつ増えてきています。
     香港の住宅の内装事情は日本とは異なります。日本ではマンションや戸建て住宅は内装施工された状態で引き渡されますが、香港ではスケルトンで引き渡されるのが普通です。よって内装は住人が行うのですが、一般市民は内装業者に依頼します。しかし富裕層は財力があるので一般の内装業者ではなくインテリアデザイナーや建築家に発注します。そこで「こんな感じの日本風にしたい」と要望し、デザイナーがいろいろと仕入れながら住人の理想の内装をつくっていくわけです。

    インテリアのミドルレンジに入り込むべし

     現在、香港のインテリア用品店は、ハイエンドなヨーロッパブランドかリーズナブルかどちらかの両極端なマーケットなっています。空き状態になっているその中間のミドルレンジを日本が獲得していくべきだと私は考えます。日本国内で高いとされる製品は香港では高くないのだということに、そろそろ日本の皆さまは気付かなければなりません。
     既に仙台箪笥のmonmaya(門間屋)とニトリが香港に店舗をオープンしています。monmayaは高級住宅街の一つ、ハッピーバレーに店舗を構えており、家賃は相当な金額だと思われますが、月に1棹売れれば採算が合うそうです。それでもヨーロッパの家具と比較するとかなり安いのです。このようなマーケットに日本企業の皆さまをどんどんご案内していきたいと考えています。
     8~9年前から日本建築材料協会を香港マーケットにご案内し、香港で日本の建材をプロモーションしています。例えば先ほどの和空間を彩る製品。これらについて、われわれがコラボしているデザイナーと協力し合ってインテリア雑誌に掲載し、それがオーナーの目に留まって注文が入り、あのような空間が生まれました。奥の襖は和歌山の建具店でつくられたものです。皆さまの想像する襖の値段よりおそらく5~6倍は高いでしょう。実際にそんな建材や建具が香港にどんどん行っています。

    香港の発展計画とグレーターベイエリア

     香港政府は人口増加計画を進めており、現在約750万人の人口を2046年中に820万人にすべく戦略を立てています。香港では高齢化が進んでおり、男女とも日本を抜いて世界最長寿地域になりました。出生率も日本以下で、人口の自然増加は望めません。そこで政府は外から人を流入させようと考え、数年前から「優秀人材入境計画」を実施しています。
     もちろん条件があり、世界の有名大学の卒業者、優秀な実務経験者であるなど、それなりのエリートであることが求められます。政府は「年収が4,500万円あれば香港に来てください。もっとオファーしますよ」と発信しています。香港では所得税の標準が15%なので、高額所得者にはメリットが大きいため、このことも奏功して入境者はかなり増えました。1年間で20万人もの増加です。今後もこのような層の人たちが香港に定住していくことになります。
     750万人から820万人、つまり今後約70万人が暮らす環境、働く場所を新たにつくる必要があります。そこで香港政府は5つの開発を計画しているわけですが、本日は一部のみ紹介します。香港と深圳の境に位置する北部都会区は約300k㎡の広大な開発区で、ヘルスケアや環境分野の研究開発を中心に発展させる計画です。
     空港周辺では、2024年末に完成予定のエアポート・シティの開発が進んでいます。3本の滑走路で世界一の貨物量である1,000万tを扱い、東京ドーム7個分のショッピングモールも開業します。このエアポート・シティがグレーターベイエリア(広東・香港・マカオ大湾区)の玄関口となります。人口約8,600万人を擁するグレーターベイエリアでは、国家級地域発展計画が進行中です。エリア全体が香港から至近であるため、香港のその先に広がる8,600万人のエリアへ容易に到達できます。今後の物流も大きく変わってくるでしょう(図3)。
     皆さまが今後海外進出を検討する際、もし香港をお考えであればぜひお役に立ちたいと思っています。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -