建材情報交流会

  • 2023.12.1 第61回 建材情報交流会(講演録)
    2024年1月12日
    基調講演
    「大阪府の災害の危険性と防災対策」
    大阪府茨木土木事務所 地域支援・企画課 地域支援・防災グループ長 矢田 哲郎氏

    ■水害を受けやすい大阪の地勢

     大阪は、約7,000~6,000年前から長い年月をかけ、海水面の変化や治水事業や埋め立てを経て陸地が次第に増えていった結果、現在のような地勢になりました。よって大阪府は、北・南・東は山に囲まれているものの、市街地部分はかなりの低平地になっています。また南北を淀川・大和川に囲まれており、さらに大阪府を南北に切った断面図を見ると顕著なのですが、大和川の堤防からかなり低い位置に市街地が広がっている状況です。大阪は非常に水はけが悪く、 水害を受けやすい地形といえます。

    ■大阪府内で想定される自然災害について

     自然災害は、「台風・高潮」「豪雨・洪水」「土砂災害」、「地震・津波」の四つに大別されます(図1)。

    ・台風と高潮

     台風は南の海上で発生します。水蒸気を含んだ空気が渦を巻きながら上昇し、それがどんどん強まった結果、熱帯低気圧と呼ばれる巨大な渦となり、これが発達して最後に台風になります。
     必ずというわけではありませんが、台風とよくセットで訪れるのが高潮です。高潮の原因は「吸い上げ効果」と「吹き寄せ効果」があります。吸い上げ効果は、台風の接近で気圧が周囲より低くなることで生じます。ストローを吸うと口の中に水分が入ってくるのと同じ原理で、海水が持ち上げられるのです。吹き寄せ効果は、文字通り風によって吹き寄せられる現象です。
     大阪にとって最も危険な台風コースは、大阪湾を北上してくるタイプです。台風が反時計回りに回転する風向きと進行方向に進む速度が相まって、市街地エリアで非常に風が強くなり、吹き寄せ効果で高潮が押し寄せます。過去、大阪に大きな災害をもたらした台風はだいたいこのコースで、平成30年の台風21号(後述)も同じでした(図2)。
     想定されている高潮の被害について説明します。水防法という法律で定められた、想定しうる最大規模の高潮浸水想定区域が各市町村のハザードマップなどを通じて公表されています。これによると大阪府では総面積の約11%で浸水被害が出ると想定されています。
     高潮対策のため、大阪市では大型の水門が3カ所(安治川水門、尻無川水門、木津川水門)設けられており、台風や豪雨の際に水門を閉鎖して水位を調整します。平成30年の台風21号でも、水門閉鎖によって高潮被害はほとんど発生しませんでした。

    ・豪雨・洪水

     豪雨災害には、「外水氾濫」と「内水氾濫(内水浸水)」があります。外水氾濫とは一般的にイメージされる洪水で、河川が堤防を乗り越えたり堤防自体が崩れたりして発生する災害のことです。内水氾濫とは、堤防からあふれるのではなく、下水道管が河川まで排水できずマンホールなどから水があふれ出て浸水するような状況をいいます(図3)。
     洪水の対策には一般的に、河川改修によって川幅を拡幅したり、川底を深くしたりする方法があります。しかし市街地では住宅地との距離が近く、難しい場合があります。寝屋川流域では、河川改修にとどまらない総合治水対策を行っており、治水緑地や流域調節池などの貯留施設、地下河川の放流施設などの整備を推進中です。
     令和3年5月20日~21日の大雨では、流域内の各貯留施設が効果を発揮し、平成7年の同規模豪雨時には床下浸水が約2,000件、床上浸水が14件発生したのに対し、本降雨では被害は床下浸水の5件のみにとどまりました。

    ・土砂災害

     土砂災害は、「土石流」「がけ崩れ」「地すべり」の三つに大別されます。土石流は、沢に沿って川の水が周りの土石を削り取りながら流れてくるものを指します。がけ崩れは急傾斜の崖が崩れるもの。地すべりは広範囲の地面が一体となって滑ってくるもので、大阪で地すべりが発生する所は少ないですが、大和川の奈良県境にある亀の瀬は有名です。
     土石流対策としては砂防ダム、砂防堰堤があげられます。がけ崩れは、急傾斜地対策としてがけ全体にコンクリート・モルタルを吹き付けてがけの風化や浸食、崩落を防止する対策をとります。ただハード整備だけでは予算的にも限界があるため、土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域を指定して、住民の方々に危険を周知しています。市町村が発行するハザードマップには必ず載っており、大阪府でも土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域がそれぞれ8,000カ所近く指定されています。

    ・地震と津波

     日本は、北アメリカプレート、太平洋プレート、フィリピン海プレート、ユーラシアプレートという四つのプレートが集まった、世界でも有数の地震国です。地震は震源場所などにより「直下型地震」と「海溝型地震」に大別されます。直下型地震は、われわれの住むこの地面の下でプレートが押し合うひずみがどこかで解放され、急に断層がずれることで発生します。海溝型地震は、もぐり込んで引きずり込まれたプレートが耐え切れなくなり、跳ね返ることで発生します。
     大阪付近には、直下型地震を引き起こすと危険視されている断層帯が数カ所存在します。①上町断層帯A、②上町断層帯B、③生駒断層帯、④有馬高槻断層帯、⑤中央構造線断層帯と呼ばれるものです(図4)。大阪府内で想定される地震の発生確率(30年確率)を見ると、一番高いのは海溝型の南海トラフ巨大地震で70~80%、これはいつ発生してもおかしくないといわれています。直下型地震の発生確率はさほど大きくなく、最も高い上町断層帯で30年以内に2~3%とされています。ただ、これはあくまでも確率です。先の熊本地震では、発生確率0~0.9%とされていた布田川断層帯が動いて大きな被害が起きました。従って発生確率が低いからといって安心は禁物で、目安程度に考えるのがよいでしょう。また直下型地震での被害想定を見ると、上町断層帯A・Bで特に大きいことが分かります。

    ■南海トラフ地震で大阪はどんな被害を受けるか?

     海溝型の南海トラフ巨大地震では、図版右上の赤で囲まれた領域が震源として想定されています。大きな被害が出るだろうと想定されているのが緑の領域です(図5)。特に津波被害が懸念されています。
     2,000年近く前からの記録に残っている限りでは、東海・東南海・南海地震は、きっちり等間隔ではないものの、概ね100年間隔で発生していることが確認されています。直近では1946年に昭和南海地震が起きており、そこからまだ77年しか経っていませんが、今後30年以内に70~80%、40年以内なら90%程度の確率で地震が発生するといわれています。明日起きるかもしれないし、100年何もないかもしれませんが、過去の地震発生の間隔は今後の備えや参考になると思います。
     平成25年に公表された南海トラフ巨大地震による想定人的被害は、早期避難率が低い場合つまり最悪の想定では総数約13万4,000人です。うち約13万3,000人が津波による被害です。犠牲者のほとんどが津波だとされているわけです。しかし警報などを受けて迅速に避難すれば13万3,000人が約7,800人まで抑えられると予測されています(図6)。
     ライフラインの被害想定は、上水道では発生直後で94%に影響が出ますが、1日経過すれば半分程度は復旧するとされています。電気では直後が約半分に影響、ガスでは3分の1程度の影響があるということですが、1日後にはある程度復旧すると見込まれています。
     震度は、大阪の市街地とその周辺地域のかなり広い範囲で震度6弱と想定されています。平成30年の大阪北部地震も震度6弱でしたが、決定的な違いがあります。大阪北部地震では数十秒だった揺れが、南海トラフ巨大地震では3~5分続くといわれています。震度だけを比較して、「大したことないのでは」と思われるかもしれませんが、揺れの時間がかなり違うのです。
     津波による浸水は、特に沿岸地域でかなりの被害が出ると予想されています。梅田周辺、大阪市役所周辺はじめ、環状線内の海側半分程度は浸水します。津波は避難の迅速さによって人的被害が大きく変わると述べました。大阪南端の岬町に到達するまで約1時間、そこから大阪市内までさらに約50分かかるので、津波警報の発令後、迅速に避難すれば被害を防ぐことができます。

    ■平成30年度の自然災害について

     平成30年6月18日、大阪北部地震が発生しました。震源は大阪部北部で、震度6弱を記録したのは高槻、茨木、枚方、箕面辺りでした。死者6名、負傷者が369名という大きな被害がもたらされました。高槻市では小学生が亡くなる痛ましい事故が起こり、それ以外にも多くの場所で被害が発生しました。
     9月4日には台風21号が襲来、死者8名、負傷者493名という大きな人的被害をもたらしました。強風による全壊、半壊も多数におよび、府内で多くの避難所が開設されました。降水量は69ミリと異常な多さではありませんでしたが、風の強さと高潮が大きな特徴でした。平均海面から約3m以上に潮位が上がり、過去の最高潮位を超える値を観測するとともに、最大瞬間風速58mを記録し、関空で冠水が起こりました。関空連絡橋に船が衝突、体育館の屋根が崩落、電柱が倒壊するなど大変な被害となりました。茨木土木管内の山間部の道路ではかなりの倒木が発生し、2週間ぐらい通行止めが続いた所がありました。

    ■家族等の安全確保―避難先やとるべき行動を確認

     災害時に安全を確保するためには、自宅などの災害リスクを確認し、日頃から避難先やとるべき行動を確認しておくことが大切です。
     大阪府や国では、浸水想定区域図などを作成しており、各市町村においてはハザードマップを配布・ホームページ公表しています。併せて避難所の場所も記載されています。例えば地震や洪水が起きたとき、どの程度の被害が生じるのかを確認し、土砂災害などの危険の有無も確認ください。いろいろな災害種別ごとに、どこに逃げるのかを把握しておきます。必ずしもどこかへ避難しなければならないわけではないですが、普段から考えておくことは重要です。
     令和3年に災害対策基本法が改正されました。「避難勧告」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、どうすればいいのかが分かりにくいため、避難が遅れ被災するケースが発生しました。そこで改正後は「避難指示」に統一されました。同法では「警戒レベル」を数字で示し、大きいほど危険度が高くなります。これらは基本的に市町村から発令されています。
     例えばレベル3の「高齢者等避難」は、高齢者や障がい者など避難に時間がかかる方々に避難の開始を促すものです。「避難指示」はレベル4で、文字通り避難してくださいという指示です。レベル4までに必ず避難するよう設定されています。
     レベル5の「緊急安全確保」は、既に災害が発生している、あるいはいつ発生してもおかしくない状況なので直ちに避難しなさいという緊急事態を意味します。少しでも高い場所や高い建物に移動する、あるいは家が崖に近ければ、少しでも崖から遠い部屋に移動する、といった行動を指示しています。その場所自体のリスクがあるかないかをまず確認し、少しでも避難リスクがある場合は迅速に避難行動をとっていただければと思います(図7)。
     一口に避難といっても多様な避難があります。「避難場所」としては公民館や学校が一般的なイメージですが、必ずしもそこへ行くことが避難ではなく、それ以外の行動で対応することもできるわけです。例えば安全な親戚・知人宅へ行くことも避難です。少しハードルは高いかもしれませんが、安全なホテル・旅館への立ち退きといった避難方法もあります。
     屋内での安全確保が可能かどうかも見極めておくことが大事です。ハザードマップを見ると、洪水で浸水する可能性がある場合、どれぐらいの深さの水が来るか、50cm未満なのか、3m未満なのか、それぞれどうすべきかが記載されています。家屋倒壊等氾濫想定区域(河川の流れによって家屋が倒壊するおそれがあるエリア)に入っているか否か、浸水深より居室が高いか否か、などが説明されているものです。そのような場所には含まれていないことがもし確認できれば、必ずしもどこかに避難しに行かなくとも、自宅にとどまって安全を確保することができます。
     例えばマンションの高層階なら避難しなくても済む場合があります。必ずしも家を出て別の場所へ行くことが避難というわけではなく、多様な避難の方法があることを紹介しておきたいと思いました。

    ■防災情報の紹介―「おおさか防災ネット」

     ぜひご自身のスマホやパソコンでご覧いただければと思いますが、今大阪府では「おおさか防災ネット」というホームページを公開しています。府内全体の避難情報を地図上で一括表示し、市町村の避難指示エリアを警戒レベル別に表示しています。QRコードを読めば簡単にスマホで利用できます(図8)。
     「おおさか防災ネット」からは、「大阪府河川防災情報」へ移ることができ、ここでは川の水位がリアルタイムで分かるようになっています。その他、大雨時の避難に関する情報や、防潮鉄扉、水門の閉鎖状況などが、分かりやすく一目で確認できます。スマホでは位置情報を検知して、自身のいる所から近くの地図が表示されるようになっています。大雨の際にぜひご利用いただければと思います。先述の土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域も画面から分かるようになっています。
     大阪府の災害対応力の強化のためには、皆さまのご協力が不可欠です。ぜひご協力をお願いいたします。

    「関西国際空港の災害対策について」
    関西エアポート㈱ 基盤技術部 部長 中谷 行男氏

    ■台風21号(2018年9月)はどんな台風だったか

     2018年に台風21号が発生したとき、どんなことが起こったか、どのように対処したかについて、関西エアポートという会社の目線、もしくは空港の目線で、事例として紹介いたします。
     泉州沖5kmに位置する関西国際空港。台風21号は、約60Km/hの速度で大阪湾の西側をかすめるように通過していきました。関空島で記録された最大瞬間風速は気象庁観測値で58.1m/s、観測地点中最高値を更新しました。中心気圧はピークの13時ごろで955hPaとかなり低くなっていました。
     関空島の海上観測塔が記録した気圧と風速の推移からは、13時から14時までが風速のピークであり、この間に台風が襲来してすぐに去ったことが分かります。わずか1時間程度で大きな被害がもたらされました。 9月4日の朝、非常に大きな台風が接近中であることを受け、危機管理体制を整えました。JRや南海電車が運転を見合わせ、関空は滑走路を2本とも閉鎖。13時、いよいよ来た、という時点でいきなり1期島の浸水が始まります。13時11分に台風が最接近し、連絡橋が通行止め、第1ターミナルビルが停電、13時38分には関空島で最大瞬間風速の58.1m/sを観測します。
     建物をはじめ立て続けに被害が出始め、13時45分にタンカーが連絡橋に衝突、通信障害が発生、各所で冠水が発生……1時間の間にいろいろな事象が一気に起こりました。台風通過後も、冠水のためついに空港自身を閉鎖しました。

    ■関空の各所における被災状況

    ・護岸、空港基本施設、島内施設、島内の交通
     強風により東から来た大波が護岸を超え、次に南からも波が押し寄せました。衝突したタンカーは、陸と空港島の間に停泊していました。台風の前は大阪湾にいろいろな船が避難してきますが、タンカーが避難していたのは、その周辺でも波が起こりにくいエリアでした。しかし今回はここからすさまじい風が吹いたわけです。
     護岸には消波ブロックが並べられていますが、東側の護岸は、元々波がほぼ起こらないことを前提につくられていたため、消波ブロックは設置されておらず、護岸も低めに築かれていました。台風の威力で護岸の一部が破壊されたのですが、人の大きさと比較すれば分かるように、護岸の部材の非常に大きな塊がえぐられてしまっています(図1)。
     護岸を越えた海水は滑走路一面を水浸しにしました。水が引いた後は、藻や魚、大きな石やガラクタが大量に転がっていました。基本施設にも水がどっと押し寄せ、ターミナル地域にも流れて来ました。鉄道部分にも水が浸入して線路が水没する状況でした。
     当時空港島には約8,000人の人がいました。通常は台風が去ると鉄道も電車も車も走れるようになるのですが、タンカー衝突により空港方面行きの車線が使えなくなっていました。そんな中、とにかくお客様が空港島から出られるようバスをチャーターし、一方方向だけの供用で連絡橋の車線を運用しました。しかし泉州地域では電柱や信号が倒れたり、停電したりして交通網が麻痺していたため、空港島から出るに出られず、夜までずっと混乱が続きました(図2)。
     この経験は次回以降に備えた発想の転換につながりました。われわれとしては、お客様は帰りたがっているに違いないから早く外に出さなければならないという使命感があったのですが、空港にとどまっても安全に過ごしてもらえるようにするべきではないか? と考えたのです。従って、どうしても出たい人は出てもよいが、空港でも3日間(72時間)は安全にとどまってもらえる体制に変えることになりました。3日分の食料や物資の備蓄をはじめ、空港内の飲食などの店舗と協定を結んで飲食物を提供してもらえるようにするといった発想に今は変わっています。

    ・排水機能や電気系統、貨物地区など

     
    「水害に対する浸水防止用設備について」
    東洋シヤッター(株)技術部 第2技術課 チーフ 亀井 敦氏

    ■水害被害の増大と浸水防止用設備の必要性

     東洋シヤッターは今年創業68年を迎える、大阪の南船場を本社とするメーカーです。シャッターをメインに、鋼製扉、ハンドルなどの金物を製造しています。
     昨今、ゲリラ豪雨や巨大台風により、水害被害が増大しています。そこでまず、浸水被害を防止する一般的な浸水対策を紹介します。浸水を防ぐためには、土のうを設置したり、木の止水板を設置するなどが一般的であり、家庭では水のうを用いた対策が一般的です。
     国土交通省の「地下街等における浸水防止用設備のガイドライン」では浸水防止用設備の例が紹介されています(図1)。土のうや水のうと同様に持ち運べるシート状タイプ、パネルをはめ込むタイプの止水板があり、それぞれのタイプで標準設置時間も示されています。
     据え付けでは止水板のスイングタイプやスライドタイプ、その他にも床からシートを引き上げるシート式や、水の浮力を利用してパネルを持ち上げる浮上式、床がせり上がる起伏式、上部に止水板を収納して浸水時に降ろす下降式があります。ここまでは水深が低い場合の対応製品です。比較的高い水深の場合に対応できるものが建具タイプで、通常使用するシャッターや扉で浸水防止性能を確保することができます。

    ■浸水防止用設備のJIS化

     これらの製品群がつくられている中、2019年11月に浸水防止設備がJIS化されました(JIS A 4716)。ドアやシャッターなどの建具型の浸水防止用設備について、浸水防止性能や耐水圧性能、操作の容易性、繰り返し性能などの評価基準や試験方法などが規定されています。このJISが制定されたことにより、浸水防止計画に沿って設置する設備を比較検討しやすくなりました。

    ・浸水防止性能

     JISでは、真水の静水圧において漏水量が【0.2㎥/h・㎡以下】の性能を持つものが浸水防止用設備とされています。この数字や単位だけを見るとピントこないかもしれません。これは、受圧面積1㎡に水が1時間ある場合に漏れた水の体積が0.2㎥(200ℓ)以下であることを意味します。
    例えば幅1m×高さ2mの扉の外に水深1mの水が溜まっている場合、水の圧力を受ける扉の幅が1m、水深が1mなので、受圧面積は1㎡となります。これを先程の基準の漏水量に代入すると0.2㎥/h(0.2㎥/h・㎡÷2)となり、これを1時間継続すると0.2㎥(200ℓ)の水漏れとなります。25㎡の部屋とすると、0.2㎥/25㎡となり、1時間で8mmの水が溜まることになります。
     JIS制定前の漏水量は、旧郵政省で示されていた0.02㎥/h・㎡以下を採用することが多かったのですが、JIS化の際に設置場所や目的に合わせて選定できるように漏水量の許容範囲を広げており、先述の数値になりました。JISでは設置場所や目的別にWs-1~6の等級も設けられ、「Ws-1」は比較的簡易な設備で、「Ws-6」は最も浸水性能が高い等級です(図2)。

    ・耐水圧性能

     水圧を確保した状態及び水圧を開放した状態で使用上有害な変形がなく、水圧から開放されたときには開閉に異常がなく、使用上支障があってはならないと規定されています。JISでは残留のたわみや水圧がかかっているときのたわみが規定されていません。実際は残留のたわみがない方が望ましいのですが、使用頻度や経済性を検討した結果からたわみの規定はせず、使用上および開閉に異常がないこととされています。

    ・操作の容易性

     止水性能を確保するための締付機構部品の操作力が200N以下と規定され、設置にかかる時間が電動シャッターの場合は5分、手動シャッターの場合は10分以内、ドアは電動手動共に5分以内と規定されています。

    ・開閉繰り返し性能

     電動シャッターは1万回、手動シャッターは500回、ドアは10万回と規定されていますが、これはあくまでも日常的に使用する常用設備の基準であり、非常用設備は大型や設定水深が高い場合が多いため単品生産となることから、常用と同じにはせず受渡当事者間の協議によるとしています。

    ・締付繰り返し性能

     締付を受ける止水材と締付機構部品の締付繰り返し性能は200回と規定されています。これは気象庁の資料から想定されました。2003年~2012年の10年間で1時間降雨量が50mm以上を記録した最高回数が沖縄の130回だったことから、点検を含め年20回程度の開閉を想定して10年間で200回としています。

    ■助成金制度 浸水防止用設備に係る税制特例措置

     水防法に基づき、洪水浸水想定区域内の不特定多数が利用する地下街、地下鉄、ビル等の地下空間の所有者や管理者が浸水計画を作成し、浸水防止用設備を設置した場合、固定資産税の特例措置が受けられます。現在は2026年3月31日まで有効とされています。他に、都道府県市町村で浸水防止用設備に対する交付金等の支援がある場合もあります。例えば東京都では、川沿いなど水害のおそれのある地域で化学物質を扱っている場合、外部への流出防止のための設備設置に補助金が受けられるなどがあります。

    ■東洋シヤッターの水防板・水防扉の紹介

    ・アルミ水防板 嵌め込み式

     幅広い出入口の浸水を防ぐ製品です。軽量で、土のうや水のうに比べて格段に省力で設置可能です。万が一パネル内部に取り残されても、パネルを乗り越えて避難できます。水深が700mmを超えると、バットレスという支え棒が付きます。パネルをはめない通常時は写真のようなすっきりとした意匠です(図3)。施工例は下枠付きですが、下枠のないタイプもあります。

    ・吊り下げ式アルミ水防板

     開口上部から電動で降ろす製品もあり、はめ込み式より設置が簡単です。通常時は上部にあり、水害時には押しボタンなどの電動操作で降下させ、板が地面に着いたらハンドルを締め付けて設置完了です(図4)。パネルの保管場所の確保やパネルの運搬が不要で、水害時にはめ込み式のものよりも迅速に対応することができます。
     最大6mのワイドスパンを電動操作で降ろせるので、広い出入口に使用できます。はめ込み式と同様、内部側に取り残されてもパネルを乗り越えての避難が可能です。

    ・水防扉(開き戸タイプ)

     浸水防止性能が高く、静水圧の自社実験で水漏れゼロを達成した製品です。丸ハンドルを回すことにより、締め込むローラーが作動し、止水材と強く密着するため高い浸水防止性能が確保できます。扉内部には鋼材が使用されているので強度も安心で、相当な高さの水深にも耐えることができます(図5)。

    ・水防扉Ⅱ(開き戸タイプ)

     先程紹介した水防扉で必要だった丸ハンドルの操作をなくし、グリップハンドル操作によるワンアクションの素早い動作で止水性を発揮します。丸ハンドルの水防扉は片開きのみですが、水防扉Ⅱは両開きも対応可能です。ただ水防扉よりも浸水防止性能は多少下がります。両扉共、あまり人が通らない場所で非常時に使用される製品です。

    ・水防扉(引き戸タイプ)

     丸ハンドルタイプの水防扉と同じ扉・止水材を使ってスライド機構にした引き戸タイプもあります。ハンドルが付いており、スライドさせて閉めた後にハンドルで締め込むと止水材と密着して浸水防止性能を発揮します。

    ・止水ドアSLタイプ

     レバーハンドルを使用した「TSウォータータイト」という製品です。一般的な建物に使用されるレバーハンドル操作の「準防音ドア(SAT)」と同じ納まりで気密性、耐風圧性などをそのままに止水性能を付加した製品です。こちらも片開き、両開きに対応でき、自動的に閉鎖状態になるため、災害時に特別な操作を行う必要がありません。
     防火の避難経路としても使用でき、フラッシュ扉の場合は60分の耐火性能があり、特定防火設備に対応可能です。窓入りの場合は、網入りガラスを使用すれば20分の耐火性能があり、防火設備に対応可能です。窓入りの場合、水がどの程度の高さまで到達しているか見られるため、上の階に逃げるか外部に逃げることが可能かの状況確認ができます。
     通常は性能を高めるため、枠にゴムを二重に取り付けますが、当製品はゴムを二重する方法を使用せず、止水用のヒレを一体化した特殊形状の止水ゴムを使用しており、一重ゴムでも高い止水性能を持たせることに成功しました。ゴムは特許を取得しており、当社でのみ製造が可能です。扉の厚みも、一般的な40mm厚で3mの水深まで対応可能です(図6)。
    当製品はフェーズフリー認証を取得し、2023年フェーズフリーアワードの事業部門でブロンズ賞を受賞しました(図7)。

    ・止水ドアPGタイプ

     グレモンハンドルを使用した製品です。機械室等で使用するグレモン装置付きの「完全防音ドア(PAT)」の気密性、耐風圧性などの性能をそのままに、止水性能を付加しました。片開き、両開きに対応ができ、災害時に特別な操作は不要で、こちらもフェーズフリー認証取得、SLタイプと同じくフェーズフリーアワードでブロンズ賞を受賞しています。
     機械室等はPATドアと止水板の2重構造で水を防御する設計が一般的ですが、当製品はそれを一つでまかなえるので、災害時の対策が迅速にでき、スペースの有効利用が可能です。SLタイプと同様にゴムは一重の納まりで高い止水性能を確保しています。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -