講演会 講演録

  • 2023年9月8日
    【理想のすまいと建築フェア セミナー】(講演録2023.6.8)
    Daigasグループによる持続可能なカーボンニュートラル社会の実現に向けて
    ~ 熱エネルギーの低・脱炭素化を実現するエネルギーシステムの方向性 ~
    大阪ガス株式会社 経営企画本部 企画部 カーボンニュートラル推進室長 桒原洋介氏

    Daigasグループのカーボンニュートラル

     Daigasグループは2021年1月に「カーボンニュートラルビジョン」を公表し、2050年にカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。大量のエネルギーを扱っているので、都市ガスの脱炭素化や電源の脱炭素化を考えています。2030年に向けた社会全体へのCO2排出削減貢献ということで、再生可能エネルギー(再エネ)普及貢献の500万kW、国内電力事業の再エネ比率50%程度、CO2排出削減貢献1,000万tという具体的な数値目標を掲げています。今年3月には、より具体的な取り組みをまとめた「Daigasグループ エネルギートランジション2030」を公表しました。本日はその中の「e-メタン」を特に詳しく紹介します。

    シームレスな脱炭素化~エネルギートランジション

     2050年までの段階的なエネルギー転換を「エネルギートランジション」という言葉で表しています。天然ガスシフト、ガス体エネルギー脱炭素化、電源脱炭素化などのエネルギー転換がありますが、もっとCO2排出が多いのが石炭や石油です。よって、まずは石炭、石油を天然ガスに転換していき、2030年頃にe-メタンやバイオガスというものを導入して、2050年にシームレスに脱炭素化を進めていくことを考えています。

    脱炭素化は企業にとって事業スキームの大変革

     今、熱エネルギーの脱炭素化が重要になっています。 これは電気への切り替えが難しい領域であるため、脱炭素化を進めるために天然ガスやe-メタンの導入を考えています。
     昨今のカーボンニュートラルの動きは非常に大きく、多くの企業にとって従来の事業スキームが一変するような大変革期だと思います。実は当グループは過去に大変革を経験しています。石炭系から石油系のガスに切り替え、石油系から今供給されている天然ガスに切り替えるという歴史がありました。1975年から1990年頃まで、約16年かけて中身の全く違うガスに切り替えたのです。そのようなノウハウを使い、当グループは総合エネルギー企業として進化を遂げてきました。

    都市ガスの脱炭素化~e-メタンとは?

     都市ガス業界が切り替えを図っているのがe-メタンで、再生可能エネルギーと水からつくり出される水素を利用し、お客様が排出するCO2と合成して製造するエネルギーです。直接水素を供給すればいいのでは、と思われるかもしれませんが、水素と天然ガスは熱量が大きく違うため、調理器具や給湯器にそのまま使えません。従って一旦CO2を加えて既存の都市ガスインフラや燃焼機器が使える形にするのが非常に合理的なのです。
     ここでポイントとなるのが「カーボンリサイクル」の概念です。供給されたe-メタンを燃やすとCO2が排出されますが、お客様が排出するCO2を使ってe-メタンが製造されているので、大気中のCO2は増えません。このような技術を使って、当社だけではなく都市ガス業界全体で2050年に向けたアクションプランが既に出されています。メタネーションの技術を実用化し、2030年にe-メタンを都市ガス導管へ1%以上注入することを目指し、2050年には90%程度の導入をすると宣言しています。

    水素とe-メタンの違い~なぜe-メタンがよいか

     再生可能エネルギーと水からつくられた水素は燃やしてもCO2は出ません。しかし都市ガスの熱量の約1/3しかない上、燃焼速度が非常に速いのです。家庭の燃焼機器がそのまま使えないのはそのためです。しかし都市ガスは、水素と同じ熱量を運ぶ際に水素の3倍の輸送能力が必要になり、コストが割に合いません。一方e-メタンの場合は、お客様からCO2は出るがそれを回収して製造するので大気中のCO2は増えない、つまりカーボンニュートラルだと言えます。よって既存の都市ガスインフラや燃焼機器が有効利用できてエネルギーコストの低減になり、ひいてはお客様のメリットにつながる。産業が強化され、国際競争力の維持にもつながるのではないかと考えています(図1)。
     既存インフラが使えてそのままシームレスに移行できる点は非常に優位性があります。もし水素への切り替えを考えると、過去に当社が16年かけて天然ガス転換を実行したときと同様の作業が必要になり、コストも到底見合わないことでしょう。

    e-メタンの製造技術(メタネーション)

     当グループが取り組むe-メタンの製造技術には、「サバティエメタネーション」「バイオメタネーション」「SOECメタネーション」があります(図2)。サバティエメタネーションは、今後技術実証を行って大規模化していく段階です(2030年導入予定)。バイオメタネーションは廃棄物からエネルギーをつくる新技術で、大阪・関西万博で実証する予定です。SOECメタネーションは、他のメタネーションと違い水から直接つくることができ、非常に高効率です(2050年までの導入目標)。これらの技術開発は大阪の酉島(とりしま)地区で行っています。メタネーション技術だけではなく、水素やアンモニア、あるいは発電関係の技術開発も進めています。

    e-メタンの製造プロジェクト~国内&海外

     技術開発に加え、e-メタン製造プロジェクトも立ち上げています。先述のメタネーション技術確立とそれに伴う様々な実証を行うほか、原料のCO2を鉄鋼・化学・セメント業界と連携して回収したり、自治体と連携して下水・ごみ焼却場などからもCO2を回収したりする計画です。製造に必要な再エネは、当社で建設した多数の発電所を活用する予定。水素の直接輸入も考えています。さらに、北米、南米、中東、東南アジア、豪州でもプロジェクトを立ち上げています。
     このような世界各地の取り組みに加え、CO2のバリューチェーンを構築するための新たな取り組みも始めています。国内のエネルギー利用者、CO2排出者、H-to-A 産業(CO2排出削減が困難な産業 [Hard to Abate])の皆様と連携を考え、CO2を回収して国内や海外に持ち込んでe-メタンの製造に使いたいと考えています。

    e-メタンのコスト低減と将来に向けての展望

     コストについては、2030年で約120円N/㎥、2050年で約50円N/㎥を目指します。コスト削減のためには、設備の大規模化や高効率化、革新的メタネーション技術の実用化、グリーン電力価格の低下が有効です。実はe-メタンのコストの大半は原料の水素製造の電気代で、メタン合成自体にはほとんど費用がかかりません。しかし現状、電力コスト低減は難しく、海外で安く再エネをつくる必要があるため、ゆえに国内だけでなく海外のプロジェクトも多数検討しているというわけです(図3)。
     当社グループでは、このような全方位的な取り組みによって将来的にカーボンニュートラルのエネルギーコストを下げていこうと考えています。都市ガスのカーボンニュートラル化を実現するには、チャレンジ精神と共に、強みを掛け合わせるアライアンスが必要であり、当社一社ではできません。現在、様々な企業様とお話をさせていただいていますが、今後ますます国内外のパートナーの方々と連携していくことが重要になります。皆様と共に挑戦していきたいと考えています。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -