建材情報交流会

  • 2023.8.4 第60回 建材情報交流会(講演録)
    2023年9月4日
    基調講演
    建築士事務所から見る 建築の成長戦略を提案する
    (優良製品・技術表彰 選考委員として考えること)
    一般社団法人大阪府建築士事務所協会
    会長 樋上雅博氏

    1.建材の将来を考える

    1-1. 松本会長年頭所感を踏まえた所見

     まずは日本建築材料協会の松本会長が昨年に出された年頭所感を踏まえた私の所見を述べます。
     現在まで多くの企業が、抗菌・ウイルス対策、環境関連・省エネ創エネ関連、働き方改革などの提案を行ってきました。具体的には非接触商材、あるいは空間内換気を促す商材、耐火性能の内外装一体型パネル、植林からプレカットまで垂直統合された無駄のない木材の生産流通システムの提案、低価格で長寿命を実現したハイブリッド型ソーラー照明灯、あるいは建設業界で女性が活躍できる環境づくりのネットワーク、省施工に加え、ノックダウンや軽量化による物流対策など、生産から施工に至るまで努力されています。このような中で、企業からの提案に基づいた主要課題についてお話しいたします。

    1-2. 環境対策について

    国土交通分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進

     主要課題に入る前に、国交省が今どのような推進をしているかについて紹介します。
     社会全体のデジタルは喫緊の課題であり、政府としてデジタル庁の創設やデジタル田園都市国家構想などの政策が進められています。国土交通行政のDXを推進するため全省的な推進組織として、2022年12月に「国土交通省DX推進本部」が設置されました。
     インフラ分野におけるDXの取り組みに関し、建設現場ではICT技術の活用による生産性向上を目指すi-Constructionを推進しています。対象となる国土交通省発注工事の約8割でICTを活用した工事が実施されている一方、地方公共団体中小企業への普及促進が課題として残っています。
     さらに国土交通省では、自らの保有データと民間などのデータを連携し、フィジカル空間の事象をサイバー空間に再現するデジタルツインを通じた業務の効率化やスマートシティなどの政策の高度化、産官学連携によるイノベーション創出を増やし、各種データの横断的活用に資するデータ連携基盤の整備を進めています。
     2021年に公開した「国土交通データプラットフォーム」上では、各種データを拡充しており、BIM/CIMデータや3次元点群データの表示・検索・ダウンロードが可能になっています。このように、国土交通省も推進母体としてICTに向けた取り組みをかなり積極的に行っているという実情があります。

    2050 年カーボンニュートラルに向けた取組等のグリーン社会の実現

     皆さまの中でも、すでにSDGsの観点で開発した製品を出されていることと思います。
     近年気候変動の影響により自然災害が激甚化・頻発化するなど、地球温暖化対策は喫緊の課題です。2050年のカーボンニュートラル、2030年度の46%削減目標の実現に向け、政府一丸となって取り組む必要があります。地域の暮らしや経済を支える幅広い分野を所管する国土交通省も、民生・運輸部門の脱炭素化を呼びかけており、2021年には「国土交通省環境行動計画」を改定しました。
     省エネ基準の適合義務化や木材利用促進に向け、建築分野の脱炭素化に資する法案の次期国会提出を目指すとともに、優良な都市木造建築物等の整備、あるいは中小工務店などによる木造のZEH 等への支援を促進して、建設分野では直轄工事において、企業のカーボンニュートラルに向けた取り組みを評価するモデル工事を行い、さらなる取り組みを推進しています。

    環境対策:企業活動としてカーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーを運営基盤に据える

     脱炭素化に向けた長期的な投資に踏み切れない企業は今後評価を落とす可能性が高くなります。CO2を排出する材料は経済価値を失う可能性が高く、「座礁資産」と呼ばれる存在になるだろうと警告されています。将来的に経済活動の大前提が一変し、世界のビジネスルールが書き換えられることに気付く必要があるとされています。
     企業のCO2排出は、直接的に自社の生産活動で排出される量に加え、バリューチェーンの上流(サプライヤー)、下流(顧客)が排出したCO2も含めて削減が求められています。つまりサプライチェーン全体でのカーボンニュートラル達成が求められるようになったわけです。そうなると、大企業と取引する中小のサプライヤーにとってもカーボンニュートラルへの対応を行わないことは、取引先を失いかねない状況に陥るという危険性が出てきます(図1)。  材料調達の際にもトレーサビリティが求められます。特にヨーロッパでは製品をつくり上げるまでに、材料の原産地はどこか、人権を尊重した発掘採集を行っているか、製造方法に問題がないか、さらにその先で製品が適正に使われているか、リサイクル可能であるかなど、全てに責任が生じ、それが当たり前の社会になってきます。ニュースでも報道されていますが、中国国内の労働における人権問題などで、日本の企業が撤退していくという事態も起こっています。

    1-3. 建築材料のデータベース化とプラットフォームの実現

    データベース化は絶対的に必要である

     データベースに関しては松本会長が積極的に推進されています。データベース化し、統一したプラットフォームでの検索を可能にするための運用は、収益目的ではない中立的な立場で遂行するのがポイントです。日本中の建材がデータベース化されていない現在、建材一つ探すだけでも大変な手間を要しているのが現状です。われわれ建築士事務所協会でも、例えば「これと同等の品を探す」場合でもなかなか探せず、他の方々に聞いても答えが一様ではありません。
     目標は、全国のあらゆる建材を画像データ含めデータベース化し、統一したプラットフォームで検索できるよう運用することです。設計事務所や建築士の方々は紙ベースのカタログをめくって建材を探すという旧態依然とした検索が主流です。これを一発で探すことができればどれほど効率的で正確な情報を入手できることでしょう。AIの導入で学習も可能になるので、例えば同様の病院や学校などを設計・建築するときは、以前のデータを呼び出して同じ作業をすることなくさらなる時短が実現します。できるだけ早く実用に向けて動いていただければと思っています。
     貴協会ではデータベース化に関する理事会決議が行われ、今年4月には委員会を立ち上げたと聞いています。このデータベース化には、一朝一夕ではまとまらない様々な要素と選択肢が必要になるでしょう。各業種、業界、専門家が一丸となり知恵を出し合い協力すれば、必ずや優れた検索エンジンになると期待しています。
     われわれ建築士事務所を経営している立場としては、これらのデータベース化はBIMやCIMに大きく貢献します。カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー(※)に取り組む貴協会とコラボレーションできる環境が整えば、国交省の謳うDXとカーボンニュートラル社会での企業活動に大いに貢献できるはずです。
    ※サプライチェーンのあらゆる段階で資源効率化と循環利用を図り、有効活用されていない資源価値の最大化を図る経済のあり方。

    2. 基本的な建築の基礎的材料の将来

    2-1. 鉄―製鉄の環境問題と鉄の将来

     鉄の製造工程では大量のCO2が排出され、製鉄では日本全体の総排出量の約15%を占めると言われています。このような環境負荷を改善するため、2008 年、次世代製鉄法を開発する国家プロジェクト「COURSE50」が始まりました。目的は、CO2の排出抑制とCO2 の分離・回収により全体の排出量を約30%削減する技術の開発です。この技術は、鉄鉱石を水素で還元する「水素製鉄」の技術に関わるプロジェクトです。一酸化炭素(CO)による還元ではどうしてもCO2 が発生しますが、一部を水素(H)に替えて行うと、CO2 の代わりに水蒸気(H2O)が発生するため、CO2 の排出を減らすことができます。
     世界の鉄鋼需要は2050 年に向けて、途上国を中心に引き続き増加する見込みです。経済のグリーン化が進む先進国では、電磁鋼板やハイテン(高張力鋼板)などの鋼材の需要が高まり、求められる鋼材の質の変化が予想されています。

    2-2. コンクリートの主材料 セメント

     セメント市場は2020 年に49 億1,000 万トンの規模に達しました。今後、2026年までに市場は年平均約5%で成長すると予想されています。セメントとは、粘土と石灰石の混合物を粉砕して製造される、建築用に広く使用されている結合材を指します。
     セメント業界ではCO2 の削減が大きな課題です。2008 年では日本のCO2 の総排出量のうち、セメント業界から排出されるものが4%を占めていました。セメント業界のCO2 排出量が多い理由として、セメント業界の手法やシステムが大きく関係していると言われています。同業界ではCO2 の排出量を減らすためにも省エネを心掛けており、さまざまな改良や工夫を行っています。
     今後セメント市場は、人口増加や世界各地の建設活動の大幅な増加が想定され、居住空間へのニーズが大幅に高まります。新興国での巨大なインフラプロジェクトの展開も成長を促す大きな要因となっています。また環境問題への関心の高まりと製造プロセスにおける技術の進歩も市場の成長を後押ししています。例えば、セメントの製造に熱エネルギーを取り入れることで、CO2排出量の抑制が可能になります。またグリーンビルディング(環境配慮型ビル)への需要の高まりにより、製造時に発生するCO2 を最小限に抑えることができる持続可能なグリーンセメントの販売が増加しています。

    2-3. 木材 CLTの普及とメリット

     森林資源の観点や、木を好む日本人の傾向から、日本は木造建築と相性がよい国であると言えます。今再び木材が注目され始め、高層木造建築は建築のトレンドとなっています。木造ビルを建てる際の一番の課題が耐震性や耐火性です。この課題を解決する新しい木造建築材として注目されているのがCLTです。よくご存知かと思いますが、CLT は板(ひき板)を貼り合わせた集成材で、木材を縦と横に交互に重ねることによって強度と耐久性を上げています。ヨーロッパではすでに中高層建築物や大規模建築物などに採用されるなど、急速にCLTの生産量が増加しています。
     日本では欧米と比べ知名度や普及率は低いものの、CLT 自体に耐震性能があり、震度7 の地震にも耐える実験や、火災に対しても長時間の耐火が証明されているなど、日本の建築業界を変える新素材として注目されています。CLT のように木材の耐火性や強度が高まることで「2 時間耐火構造」の要件クリアが可能となったことが、木造中高層建築が普及してきている理由の一つと言えます。もう一つの理由が法律の緩和です。2010 年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が成立、2016 年にはCLT に関する建築基準法告示が施行されたことで、より木材活用が促進されました。

    CLT 工法を用いることでどのようなメリットがあるのでしょうか。

    1. ①森林資源の活用。大量の木材使用が期待でき、林業の活性化にもつながります。
    2. ②工期の短縮。軽量なため工数が減り、結果的に人件費や躯体工事などの費用も削減できます。
    3. ③環境や気候変動への対抗能力。都市生活者向けに新たな木造建築を建てると、年間最大6 億8,000 万トンものCO2 を吸収できると試算されています。

     現在計画されている木造超高層建築の事例を紹介します。2025 年に東京の日本橋に竣工する木造ハイブリッド建築は、地上17 階建て、高さ約70mの賃貸オフィスビル(三井不動産、竹中工務店)。完成すれば現存する木造高層建築物としては国内最大・最高層となります(図2)。さらに地上70 階建て、高さ350mの木造超高層建築の開発構想(住友林業)があります。これは2041 年を目標に進められており、現在は超高層ビルを木造化するための技術的課題を洗い出している段階です。大阪ではまだ実例がありませんが、これから少しずつ出てくるのではないかと思います。
     木造高層建築が抱える課題は大きく二つ。一つ目が「コストの高さ」です。工事費用の削減が可能であると先般お伝えしましたが、木材をCLT 用に加工する加工費が高額なため、現状ではCLT よりも鉄やコンクリートを使用した方が低コストです。しかし今後の生産技術の向上によりコスト低減は進んでいくでしょう。
     二つ目が「耐燃性・耐重性の向上」です。建築が大規模になるほど求められる耐火時間は長くなります。台風や地震など大きな外力を受けても性能を確保できる耐重性に関しても、さらなる研究・開発が必要になります。
     今後も木造建築の高層化は進むと考えられます。現在、CLT のメリットを最も生かせるのは中層建築物ですが、先述のように解決するべき課題も多く存在するため、CLT 技術や高層建築に関しては急速な普及は難しいかもしれません。しかし環境への配慮が現代社会のキーワードとなっている中で、宿泊客や利用者に木を使う意義をアピールし、木材利用を商品価値につなげることができれば、今後も木造高層建築の需要は高まっていくことは間違いありません。

    3. 建築士事務所の視点からご提案

    3-1製品企画戦略シート(案)

     皆さまはこれまで、様々な視点から会社の独自技術を応用して製品を生み出すために研究を重ね、長年にわたり企画や開発を継続されてきたことと思います。
     私は数年にわたって貴協会主催の「優良製品・技術表彰」の選考委員を含めさせていただいた経験から、建築材料の新製品を企画するに当たり、何を指標に企画し開発を進めるべきかを、多様な視点から個別の性質を分析しニーズをとらえ、さらにはターゲットを設定し様々な条件を設定して取り組むための簡易な企画戦略シートを提案したいと考えました。
     もちろん皆さまは日頃からご努力されており、釈迦に説法とは思いますが、あくまでも建築士事務所の立場としてご提案させていただきます。
     製品企画戦略シートの特徴は、建築士の立場から建築に関する様々な条件やチェックポイントを整理し、建材開発の皆さまにも分かりやすく取り組めるように条件を指標にまとめている点です。社内外の方々にも、一つのテーマで新しい発想を創造するためのツールとして使ってもらえるのではないかと考えます。
     シートの左列に各種製品性能(機能性や新規性、デザイン性ほか)や建築関連性能(防災性能や防音、省エネほか)を列挙し、製品についてはニーズへのフィットやひらめき度、協会基準のレベル設定や専門家の認定制度の評価点をそれぞれ記入し、建築性能については建築基準法などに即した性能をそれぞれ記入するようになっています。全体の一部でもよいのでぜひご利用いただければと思っています。
     また、貴協会が進められている建材データのプラットフォームの状況に合わせ、スペックの指標として総合的にご利用いただけるのではないかと考えています。

    3-2 安心・安全な建築材料の認定・認証の提案

     建材業界には次のような課題が存在します。

    1. ①建築基準法やJIS での試験方法は確立しているが、基準法やJISで指定されないその他製品は基準や試験方法、認証がない。
    2. ②国の基準には、最低基準はあるが上位の性能を評価できない。
    3. ③今後はインターネットなどで検索できるデータベースが主流になっていく。
    4. ④検索はネットでできるがその商品の差別化が必要。
    5. ⑤データベースでのその製品は大丈夫なのか。
    6. ⑥建築設計者はネットでどのように検索し、安全な建築材料を選定するのか。
    7. ⑦建築にイノベーションを起こすためには新しい建築材料の開発が必要。
    8. ⑧新しい建築材料は実績がないため設計者が材料選定しにくい。
    9. ⑨新製品で実績がないと、安価での販売、研究開発への資金投入ができないため新製品開発が遅れる。
    10. ⑩SDGs、カーボンニュートラル、カーボンオフセットへの対応が求められる。

     これらの課題に対してわれわれがご提案するのは、一つには設計者が安心して採用できるよう第三者が認証して安全や性能を担保していくような仕組みをつくること。次にその認証や認定を行うために建築士、学識者とのコラボによる基準づくりをしてはどうかということ。そしてその基準づくりに加えて試験方法も確立し、同時に製品の不具合が起こったときの保証制度も確立することです。私は、まさに貴協会がそのような認定制度をつくり、皆さま方の優れた製品をいろいろな指標で認証すれば、検索エンジンの中でも選択されるチャンスが増えてくるのではないかと期待しています。今回の提案が少しでも皆さまのお役に立てばうれしく思います。

    優良製品・技術表彰2023 受賞製品紹介
    ■経済産業省 製造産業局長賞
    「SOLIDO シリーズ」ケイミュー株式会社

    セメントの質感を生かし、「同じ一枚」がない素材

     「SOLIDO(ソリド)」シリーズはセメント素材でできた内外装建材で、セメントの質感をあえて生かしながら、一枚として同じものがない素材というコンセプトでつくられたものです。一つの品番でも色味にばらつきがありますが、あえてそれをデザインとして昇華することで製品に仕上げています。”SOLID(無垢)を楽しむ”というのが本製品の特徴なので、どのように切っていただいてもよく、設計者、施工者がいろいろな発想、自由な発想で完成させる素材です。
     「SOLIDO」にはtypeFとtypeMの2種類があります。typeFは15~16mmくらいの少し厚みのある素材で、窯業系サイディングの技術を使って製造しています。typeMは5~6mmくらいの薄い素材で、タイルのように張ったり下見板張りのように重ねて張ったりもできます。
     もう一つの特徴が持続可能素材であるということです。セメントが主原料ではありますが、それ以外にも、火力発電所から出る石炭灰や、もう紙には再生しにくい古紙パルプや、あるいは現場でカットされて残った建材の端材(現場廃材)などを原材料に戻すことで、また建材として利用するといった形で、多岐にわたる廃棄物を利用しています。

    感性を引き出す建築素材・「SOLIDO」の多彩な用途

     「SOLIDO」は屋内外の壁や屋内の床だけでなく、いろいろな発想で幅広く利用できます。建築素材のカテゴリを超えてトレーとして使ったり、天板として使ったりするなどの用途もあります。また芸術家の感性で、壁にペイントするためのキャンバスとして使われる方もいます。このように、建築家や設計士、芸術家などの方々の感性を引き出せる商品でもあります。光との調和もよいので、間接照明と合わせた使い方もできます。

    「SOLIDO」開発のきっかけ

     発端は、気鋭の建築家の方々との出会いでした。ある展示会でその建築家がケイミューの社員に声をかけてこられたのです。
     「諸外国と比べて日本の街並みは誇れるものですか?」。当社は屋根や外壁を、新築戸建て住宅の約3分の1に供給しています。「それだけ多くの材料を供給するケイミューには、街並みを美しくする責任があるのでは? そろそろ”本物の建築材料”をつくり出し、世に問うべきではありませんか?」
     また当社はセメントを多く使った建材をつくっているのですが、そこについても「セメントも木や石、鉄と同じように、世界に誇れる素材ではないですか」とおっしゃいました。このときの建築家の言葉がきっかけとなって、もっと気持ちのよい街並みをつくっていきたいと考えるようになり、その結果生まれたのが「SOLIDO」でした。
     「セメントのよさとはどのようなところだろうか?」と考える中で、セメント特有の「白華(はっか)」を生かしたいと思うようになりました。セメントの製造工程でいろいろな模様が素材から湧き出して現れてくるのですが、それをエフロレッセンス(白華)と言います。この模様が醸し出す素材感こそがセメントのよさの一つなのではないかと感じました。これが素材感を生かした「SOLIDO」誕生の経緯です。
     現在のところはセメント素材で製造しているのですが、セメント以外の素材についても、素材感を生かした商品を提案し、継続的に展開していきたいと考えています。当社の建築材料が、気持ちのよい街並みをつくり上げていけるよう、ケイミューにしかできない商品展開をこれからも行ってまいります。

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    優良製品・技術表彰2023 受賞製品紹介
    国土交通省 住宅局長賞
    「グッドマン換気口」有限会社グッドマン

    現状の換気口との違い

     「グッドマン換気口」は、エネルギーゼロで夏の暑さと冬の結露対策ができる商品です。従来の換気口は、外部フードの場合は給気作用が大きく、レジスターの場合はダウンドラフトが起きやすくメンテナンスがしづらいという問題点があります。
     「グッドマン換気口」の構造は、煙突効果によって下から真っ直ぐ上昇気流で上がっていく空気と、内部に入ってくる空気とに分かれ、非常に空気が入りやすくなっています。
     中にある仕切り板の下方から冷たい空気が入ってきますが、普通は、ダンパーがなければダウンドラフト現象(冷気が換気口から室内に流れ込む現象)が起こるため冷気が下に落ちて足元が寒くなってしまいます。しかしダンパーを上方に上げることによって、冷気は暖かい空気と混ざり、拡散されます。そして上昇気流で暖かい空気や臭いなどが上部から排出されます。
     上が開いているので雨が入りますが、実際には入って下に落ちるようにしています。
     以上が「グッドマン換気口」の大まかな構造です。

    「グッドマン換気口」の効果

     この換気口の開発によって、温度差によって換気ができることが分かりました。つまり電気を使わずに給排気ができるわけです。そして通風効果を利用した風力による換気も可能になっています。また、ダンパー上部で内外の空気が混じり合い、寒くなりにくい(ダウンドラフト抑制)。この3点が、長年の研究によって明らかになった「グッドマン換気口」の優れたところです。
     加えて、吸排気が非常に効率よく、結露・臭い・寒さ、暑さ、カビに対して効果的です。最近の効果として、ウイルスの感染予防のための換気があります。換気が重要であるとして、夏でも冬でも窓を開けて換気するようにと言われるようになりました。特に冬場、窓を開けて換気というのはなかなかできないものですが、「グッドマン換気口」なら窓を閉めていても換気ができるのです。また、原油や電気(冷暖房費)が高騰している現在、電気を使わずに十分換気ができる換気口は非常に優位性が高いと言えます。

    データで見る「グッドマン換気口」の効果

     当商品の換気効果を旭川市のNTT社宅で検証しました(冬季・2~3月)。換気口の取り付け後は取り付け前と比較して湿度が約10%下がって温度はほとんど変化せず、優れた除湿効果が確認できました。
     夏場の換気についても検証。大阪と兵庫、2カ所の現場で「グッドマン換気口」を取り付けてデータを取りました(夏季・8月)。結果、室内のCO2の濃度がピークカットされており、換気効果が実証されました。

    採用事例ともたらされたメリット

     「グッドマン換気口」は、一般住宅はもちろんマンションやアパート、公営住宅、病院、老健施設など多くの場所で採用されています。特に最近はマンションでニーズが高く、大規模改修の際に取り替えを行う事例が非常に多くなっています。
     洞爺湖のある老健施設は、新築時に「グッドマン換気口」を採用した事例の一つです。当初から予算も工期もないという大変な状況の中「グッドマン換気口」を選ばれたわけですが、設計事務所にとっては機械と自然換気ハイブリッドするという提案が奏功し、建設会社にとっては工数削減による工期短縮実現、そして施主にとってはイニシャル・ランニング共にコスト削減という、三者にメリットをもたらす事例となりました。

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    優良製品・技術表彰2023 受賞製品紹介
    優秀賞(日本建築協会賞)
    「ミラクルf」株式会社エイト

    非接触アイテムへのニーズの高まりから誕生

     商品名の「ミラクルf」は、”面付けのフロアーヒンジ”の頭文字を取って付けたものです。この商品を開発した当初の目的について説明します。新型コロナウイルスの感染拡大が始まって、ドアハンドルやレバーハンドルなど、あらゆるものに手を触れることが忌避されるようになりました。
     ドアを出入りする際、接触なしに実行したい場合、自動ドアならば当然可能ではありますが、普通の住宅には自動ドアはないのでなかなか難しいという実情があります。一般住宅で接触なく出入りできるものはないだろうか、と考えたときに、フロアーヒンジを工夫すれば可能なのではないかと思いました。
     しかし、実際には戸建て住宅の中でフロアーヒンジは使えないわけです。これは床の下を大きく掘って設置するものなので、普通の2階建ての住宅ならば2階部分に設置できません。そこで、これを何とか一般住宅に設置できないかと考え、この商品を開発しました。

    「床への埋め込み不要」という画期的アイデア

     「ミラクルf」は特に難しい器具ではなく、単純なフロアーヒンジです。先述したように、床の下を掘るのではなく面付けで取り付けられますし、取り付けもビスで簡単に行えます。すでにいろいろな現場で実際に使っていただいております。床への埋め込みの必要がないため現場での取り付け施工は10分以内で完了し、結果的に施工面でも大きなメリットが得られました。
     フロアーヒンジ自体は既に存在し、類似品ももちろんあります。このように、フロアーヒンジを床に掘ることなく面的に施工するというだけの商品が過分な賞をいただいたと感じております。とはいえ、これが現在非常に大きな反響をいただいており、「どこにでも取り付けられる」「取り付け分野が広くなった」という声も多数頂戴しております。

    一般住宅の上階にも制限なく取り付け可能

     本体は小さなもので、これが扉の中にとどまって表からは見えません。見えるのは小口だけです。従ってドアの意匠を損なうことなく取り付けることができるという点で、非常にユニークなものではないかと思っています。従来の市場にもなかった商品です。
     これまでのフロアーヒンジは、商業施設、公共住宅、学校、病院といった施設で主に使われる製品でした。しかしマンションや一般の戸建て住宅(特に上階)でも容易に取り付け可能となったことで、今後はますます幅広く使用されていくのではないかと期待しております。

    機能性・安全性・将来性について

     開閉テストを実施し、50万回の開閉をクリアしています。また、扉を開け切ったとき・閉まったときのストップ音がほぼゼロなので、生活空間での騒音削減にも貢献します。他に衝撃面のテストも実施してほしいという声もあるので、現在引き続き機能性と安全性の検証を行っているところです。お客様からの「ここを改良してほしい」という声もいただいており、逐次対応しながらブラッシュアップを行っています。
     「ミラクルf」はごく単純な発想でありながら従来なかった機能を付加したことで少なからず注目され、各所から引き合いをいただいています。また、時代に対応した製品でもあります。マンションなどの大規模改修や小規模改修、住宅リフォーム、店舗リフォームなどは今後大幅に増加する見込みであり、このようなリフォーム時代には欠かせないアイテムになるのではないかと、当社も楽しみにしております。

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    優良製品・技術表彰2023 受賞製品紹介
    ■優秀賞(日本建築家協会 近畿支部賞)
    「グラフェンストーン」株式会社ジャパン・コンストラクション・トレーディング

    「グラフェンストーン」の特徴① CO2吸収

     「グラフェンストーン」は消石灰、石灰岩およびグラフェン(後述)を主成分とした本漆喰です。皆さまもご存知とは思いますが、本漆喰には多くの特徴があります。今回は主に三つを紹介いたします。
     一つ目がCO2の吸収。これは言い換えると調湿効果ということになります。施主が最も希望するのがこの調湿効果でしょう。CO2の吸収量=本漆喰の価値と言っても過言ではありません。
     性能を確認するために自社で実験を行いました。四角い箱をつくり、中に「グラフェンストーン」、クロス、市販の珪藻土系漆喰の3種類を仕込んだ上でたばこの煙を充満させるというものです。CO2濃度は全て3500ppm程度に統一し、どれくらいの時間で1000ppm以下(人間が健康を保てる濃度)になるかを測定しました。
     「グラフェンストーン」の場合は34分で1000ppm以下になりましたが、残念ながら他の対象素材ではCO2濃度が下がることはありませんでした。

    特徴② 防カビ 湿度を一定に保つ機能あり

     二つ目の特徴が防カビです。全くカビが生えないわけではありませんが、かなり少なくなります。こちらも自社実験を行いました。内部に霧吹きで水を含ませた箱(同じ3素材)の中にパンを入れて、翌日のカビの生え方を検証するというものです。
     その結果、「グラフェンストーン」とクロスではごく小さなカビが出ましたが、珪藻土系漆喰では大量のカビが発生しました。またこの実験データからは「グラフェンストーン」が湿度を一定に保つ効果があることが分かりました。他の2素材にその傾向は見られませんでした。

    特徴③ 防カビ 湿度を一定に保つ機能あり

     三つ目の特徴は吸臭(きゅうしゅう)です。データは特になく、化学式では全く表せないのですが、施主の方々から「臭いがなくなった」とよく言われます。飲食店、高齢者向け住宅、ペットを飼っている家、このような所からの実際の声です。「消臭」とは言わないまでも、調湿と同時に不快な臭いをかなり分解するようです。

    厚塗りでも割れないグラフェン+本漆喰の機能性

     紹介した効果を発揮するためには塗り厚が必要です。しかし厚塗りは割れを発生させます。日本は地震がよく起こるので割れを誘発しやすい環境です。それを補うのが、2010年にノーベル物理化学賞を受賞したグラフェンの配合です。グラフェンは単一炭素で構成され、大きさは原子サイズ、形状はハニカム構造です。現在、世界で最も硬い鉱物とされています。収縮性に富むため地震が多い日本にはぴったりの素材です。
     本漆喰にグラフェンを配合することで機能が高まります。これまで300~400棟を施工してきましたが、東北の震度6、7でも割れは生じませんでした。厚く塗れるため本漆喰の効果を十分に発揮することができるわけです。特に白の場合は施工性がよく、工期も短縮できます。工法は、室内の場合は入隅にメッシュテープを貼り、その上から2回塗りするだけです。
     外部にも使用できますが、やはり本漆喰の性質上、トップコートを塗っても汚れてしまうので、その辺りは相談しながら施工を行っています。
     リフォームやリノベーションに関してもよく問い合わせを受けますが、クロス、じゅらく、既存の漆喰や珪藻土などの上から直接塗ることができます。
     皆さまもぜひ、万能の本漆喰「グラフェンストーン」を取り入れ、健康で快適な空気環境を提案されてみてはいかがでしょうか。

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    優良製品・技術表彰2023 受賞製品紹介
    ■優秀賞(大阪府建築士事務所協会賞)
    「適温空間塗料ルミナスター」宮川工業株式会社

    適温空間を維持する「ルミナスター」の遮熱力

     一般的な遮熱塗料は、太陽光の遮熱を目的にしているものが多く、夏場の建物には効果を発揮します。しかし冬でも太陽光の熱を防いでしまうので建物自体が温まらず、冬は暖房に頼ることになります。暖かい空気を冷ますより冷たい空気を暖めるほうが大きなエネルギーを必要とするので、コストも増加してしまいます。
     優れた遮熱力を持つ「ルミナスター」は、暑さの原因となる近赤外線を業界トップクラスの92.7%で反射します。その効果で塗料が高温にならず、建物に熱を伝えにくくします。さらに熱エネルギーに変換された場合にも、配合された中空ビーズで塗膜を貫通する熱の伝導を遅らせ、2段階の作用で適温空間を維持します。
     冬場は保温効果により暖気の逃げを抑え、建物が冷えるのを防ぐため、少ない暖房エネルギーで快適な空間を保ちます。また、結露を抑え、カビの発生などを防ぎます。この性能により、「ルミナスター」は夏の空調エネルギーの消費はもちろん、冬場の消費量も大きく抑え、エネルギーコストの大幅なカットに貢献します。

    高い伸縮性と接着力に加え、劣化しにくい

     また当商品はコンクリートをはじめ、瓦、樹脂、金属、木材、布など多くの建物使用材に塗ることができるため、工場や事務所はもちろん、テントや牛舎など幅広く活用できます。ほぼ全ての素材に塗装できるという万能性を可能にしているのが高い伸縮性と接着力です。
     蜂蜜のような粘性があるバインダー剤とアクリル中空ビーズの性質で、塗膜の伸縮率150%を実現しています。地震、衝撃、風揺れなどから塗膜の割れを防ぎます。さらに耐久面においても優れた結果が実証されています。紫外線照射による塗膜劣化試験では5,000時間、15年相当以上の劣化なしを確認しました。
     一般的に使用される、黄変の原因となる炭酸カルシウムは使用していないので黄ばみが発生しにくく、美しい外観を維持することができます。優れた遮熱保温力を持ち、様々なシーンで活用できる塗料です。製造技術は特許を取得し、国土交通省が運営するNETISにも登録されています。

    インドで大ヒット、今後日本への展開に期待

     「ルミナスター」は、5年前から当社の前のメーカーが日本に紹介しているもので、われわれは3代目のメーカーとなります。もともと当社はこの商品をインドに紹介していました。いろいろな遮熱塗料を模索する中で、当商品の効果が絶大だと分かったためです。
     インドでは、寺院の石畳が裸足で歩けないほど熱くなっています。そこでSunblessブランドとして「ルミナスター」を石畳に塗ったのですが、これはテレビニュースにもなりました。また、大きなセレモニーホールのターフ、これは日よけのテントのことですが、これに「ルミナスター」を塗ることにより、エアコンを使わなくても木陰の涼しさを実現できるようになりました。このように、現在はインドで爆発的にヒットしています。
     今、日本でもまさにこれから展開していくところです。技術的なお話は、ご興味を持たれた際には詳細に説明させていただきますが、イメージとしてはこれまで日本でも約20年の歴史を持つ遮熱断熱塗料を超えた、「適温空間塗料」というカテゴリです。この塗料によって、あたかも日傘や木陰の下にいるような涼しさを皆さまに体感してもらいたいと思っています。
     今後は、「ルミナスター」を歩道橋やガードレールのような熱を持つ金属構造物に施すことによって、少しでも街や地球を冷やしたいと考えております。

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    優良製品・技術表彰2023 受賞製品紹介
    ■特別賞(日本建築材料協会賞)
    「Moving Rack」有限会社モドルキカク

    固定式前輪ラックの問題点を解決した新しいラック

     自転車のスタンドの立て方には二つの方法があります。一つは、自転車を持ち上げてスタンドを足ではたいて止める方法、もう一つは、スタンドを地面に押さえつけておき、自転車をバックさせて止める方法です。
     どちらが正解というわけではありませんが、自転車メーカーによると、子乗せ電動自転車に付いているような、地面に設置している面積が大きいタイプのL字型両立スタンドに関しては、後者の「地面に押さえつけてバックさせる」方法を推奨しています。
     これはごく当然の話でしょう。というのも、最近増えている電動アシスト付自転車や、子どもを乗せるために前にも後ろにもチャイルドシートが付いているような自転車は、車体重量自体が35kg程度あり、そこへさらに子どもが乗っている状態では、自転車を持ち上げてスタンドを立てるという動作は非常にハードになるからです。たとえ子どもが乗っていなくとも相当な労力が必要となり、必然的に安全な「バックさせる」駐輪方法が取られてしかるべきでしょう。
     ところが市場に出回っている前輪ラックを見渡してみると、自転車を持ち上げるスタイルでの駐輪ばかりであることが分かります。これらは大きく二つのタイプに分類されています。
     一つは、自転車の前輪をすっぽりとはめ込むタイプ、もう一つは、前輪を支柱の中に差し込むだけのタイプです。どちらのタイプも、持ち上げるスタイルを取れば何の問題もないのですが、自転車メーカーが推奨するバック方式を取ろうとすると問題が生じます。
     例えば、前者のすっぽりはめ込むタイプの前輪ラックに関しては、既にバックできない状態になってしまいます。もう一方の支柱に差し込むタイプに関しては、バックすると支柱から前輪が抜けてしまい、本末転倒な結果になってしまいます。
     この現状に鑑みると、これまで利用者は前輪ラックの存在に自転車持ち上げスタイルを強いられてきていたことになります。
     そこで当社は、この問題解決に約2年間取り組んできました。その結果、単純な機構ではありますが、前輪にラックが追従して動くよう工夫することで、自転車側とラック側が相性よくスライドし合う新しい前輪ラック「Moving Rack」の開発に成功しました。
     これにより、微力ではありますが子育て世代の女性や高齢者の方々が感じていたストレスと労力の軽減につながればと思い、今回「Moving Rack」を発売させていただきました。

    入庫も出庫もラクラク駐輪

     「Moving Rack」の使い方をご説明します。入庫するときは、普段と同じように自転車を前へ押しながら前輪をまずラックに収めます。そしてスタンドを地面に押さえつけてバックさせるのですが、この際にラックが自転車と一緒にスライドしてきてくれます。従って一切持ち上げることなく駐輪できるわけです。
     出庫時も同じです。従来ならば一旦自転車を持ち上げ、スタンドを足ではたいて解除してから出すという流れでしたが、「Moving Rack」の場合はラックが前輪に追従して動くため自転車を前に押すことができます。そうすればスタンドが自動的に跳ね上がるので、そのまま出庫できるのです。
     「Moving Rack」が、「思いやりゾーン」などの専用枠拡充のきっかけになることを期待すると同時に、現状の収容台数一辺倒の駐輪場づくりから、今後利用者の使い勝手に耳を傾けた、デザイン性のある駐輪場づくりに変わっていくことを願っております。

    優良製品・技術表彰2023 受賞製品紹介
    ■特別賞(日本建築材料協会賞)
    「中空微粒子フィルム Air」株式会社ジェイトップライン

    中空微粒子フィルムとはどのような素材なのか

     フィルムは3層構造になっており、ガラス面に接する粘着層、基盤となるポリエステルフィルム層、そして傷が付かないようにするためのハードコート層というアクリルの層が積層されています。
     「Air」は、中空微粒子(エアロゲル)を配合しています。エアロゲルは98%が空気で構成された物質で、”凍った煙”や”固体の煙”とも表現されます。このエアロゲルを粘着層部分に分散させています。

    なぜエアロゲルを粘着層に分散させているのか

     通常、ガラスには遮熱フィルムを貼りますが、これは基盤に金属膜などの反射層を敷いて夏の日射を反射させたり、熱を吸収する吸収膜を入れたりするのが一般的です。これをもっと立体的に熱処理するにはどうすればいいかを考え、糊に平均的にエアロゲルを分散させることにしました。
     エアロゲルの空気層には断熱効果がありますが、糊の厚さは35ミクロンしかなく断熱効果はさほど見込めません。そこでわれわれが狙ったのが、多孔質な表面で行われる反射であり、この反射性能を一番期待して開発・製造しました。

    どのような効果がもたらされたか

     一番期待した効果は光熱費高騰の対策としての年間を通した省エネ効果です。
     通常の金属膜などを貼ると相当な日射を反射しますし、実際に夏場の遮熱効果は非常に高いものになっています。しかし逆に日射を取り込みたい冬の場合でも反射してしまうというデメリットがあったので、これを解決しようと考えました。
     効果を確実に発揮できるよう、入射角度による日射カットをこのフィルムで実現しました。具体的には、夏の高い日差しを最大19.3%抑制します。また冬は反対に日差しを多く取り入れ、遠赤外線の室内反射率を10%以上向上させています。
     具体的な入射角度と日射カット率の相関ですが、例えば5°程度の低い日射の場合、ガラス単体の日射透過率は85.4%です。しかし「Air」を貼ったガラスでは78.8%にまで下がります。60°の高さになると、ガラス単体が77.9%の日射透過率であるのに対し、「Air」を貼ったガラスは62.9%です。これは、角度が変わると接着層の厚みも変わるという単純な原理です。つまり角度が大きい(日が高い)と日射は接着層を長く通ってエアロゲルによく当たるため日射がカットされ、角度が小さい(日が低い)とその逆で日射が入ってきやすいわけです。
     これらの効果により、窓の断熱効果が向上して窓面の結露抑制につながりました。もちろん飛散防止効果があるので室内の安全性も向上します。基盤を守るため粘着層にUVカット剤を使っていますが、99%のUVカット率になっています。
     そして一番の特徴は透明であることです。可視光線の透過率は85%。普通、ガラス単体の透過率は91%ですが、これほど多様な機能を持ちながら85%という優れた透明度を実現しています。実際に比較すると実感できますが、ガラス単体と遜色ないレベルの透明度です。
     日射吸収が少ないことも特徴の一つです。遮熱フィルムの日射吸収率が高すぎて「熱割れ」を起こすことがよくありますが、そのような所にも施工が可能です。
     日射熱負荷のシミュレーションでは、南面に「Air」を施工した場合の日射負荷の削減率が40%以上と非常に高く、南側の開口部に適していることが分かりました。
     通常の断熱・遮熱フィルムより日射吸収率が低く、透明度が高く熱割れの心配がない当商品は、安心して利用できるスマートガラスフィルムとして新築・既存建物のリニューアル等幅広い分野に採用いただけると確信しております。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -