講演会 講演録

  • 2023年9月8日
    【理想のすまいと建築フェア セミナー】(講演録 2023.6.9)
    大手塗料会社における女性活躍推進と女性ネットワークの会 アンケート結果最新報告
    (協力)日本建築仕上学会 女性ネットワークの会
    日野興業株式会社 営業企画部 熊本好美氏(司会・進行)
    日本建築仕上学会 女性ネットワークの会 主査 /株式会社フジタ 熊野康子氏
    ベクセス株式会社 池田あい氏
    株式会社マツミ 広報営業部 福田一貴氏
    関西ペイント株式会社 人事部(元CD研究部長) 宮川理香氏

    <講演1>関西ペイント株式会社における女性の活躍支援 宮川理香氏

    日本の女性活躍推進における三つのフェーズ

     なぜ今女性活躍が求められるのか、その背景には労働人口不足、ESG経営によるダイバーシティ推進などがあります。女性活躍推進には三つのフェーズがありました。フェーズ1が男女雇用機会均等法、フェーズ2が「女性に優しい会社」、フェーズ3が働き方改革と呼ばれる動きです(図1)。長時間労働の是正、「残業するほど仕事をしている」という価値観からの脱却、在宅勤務やフレックスなど多様な働き方の選択です。弊社はフェーズ2の時代は育児休業法に+αして子育てに手厚い制度を整備してきたため、多くの女子社員が2年程度の育休を取る傾向にありました。
     しかし、フェーズ3に入り「子育て支援」から「活躍支援」へ切り替えて以降、女性活躍推進をダイバーシティ推進のスタートと位置付けて女性のキャリア形成を支援することを目標にし、現在は育児休業から1年たたずに職場復帰するようになっています。

    キャリア・子育て両立支援の具体内容

     産休前面談と職場復帰時面談を始めました。産休前の面談で本人のキャリアプランを確認し、復帰時面談でも再度確認します。マネーセミナーも行い、自分のライフプラン、キャリアプラン、マネープランの三つを同時進行で考えていくことを学んでもらいます。1年以内に職場復帰した人には育児休業早期復帰奨励金を用意し、例えば急な発熱でベビーシッターを利用する際などに役立ててもらっています。そのほか時短・フレックス併用制度、一度退職しても再就職できるカムバック制度、看護休暇などがあります。制度のメリットとデメリットの両方をしっかり説明した上で選択してもらっています。
     男性はライフプラン、マネープランに加えて、必ず入社直後からキャリアプラン考えていますが、女性は「管理職になりたい」などのキャリアについて漠然としていることが多いので、そこをしっかり描いてもらうようにしています。

    ESG経営とダイバーシティ

     弊社はESG経営に舵を切ったことで大きくダイバーシティが前進しました。投資家がESGへの取り組みを厳しく見るようになってきたからです。マテリアリティ(重要課題)の一つに女性活躍の推進を掲げ、グループ全体の従業員に占める女性比率20%以上、管理職に占める女性比率30%以上を目指すと公表しています。
     現在の弊社の女性活躍状況ですが、子会社に女性社長が誕生しました。技術開発では「ルビゴール」(サビの上に塗れる塗料)が女性の手により開発され、各種技術賞を受賞しています。また人事制度改革により能力があればそれに見合った仕事が与えられるようになり、若手女性が駐在員としてヨーロッパに旅立ち、さらには主任級から課長に飛び級昇格を果たした女性もいます。この飛び級昇格は女性のキャリア意識を目覚めさせる大きなきっかけになり、「自分も評価され昇格したい」という強い気持ちが女性社員たちに芽生えました。
     今後は部門ごとの女性育成計画、管理職候補選抜研修、男性育児休暇取得率アップに取り組んでいきます。

    <講演2>女性ネットワークの会アンケート最新報告 熊野康子氏

    キャリアを築きたい・昇格したい女性が増えている

     女性ネットワークの会(※)では2015年から現場で働く女性を対象にアンケートを実施しておりますが、今回は集大成となる5回目を迎えました。
     「女性が働き続けるために必要だと思うことは?」という質問に対しては、毎回「フレックス」が圧倒的なトップですが今年は「在宅勤務」がかなり伸び、「育児や子育てが不利にならない会社の評価制度」がかなり上位となりました(図2)。これは宮川さんのお話にあった、女性も認められ昇格したいという気持ちがアンケートに反映されている気がします。
     興味深いのは、「男性は育児休暇を取るべきか?」に「いいえ」と回答した人(10%程度)の理由です。「夫の食事や身の回りの世話が必要になる」「夫が口を出してきそう」「夫は育児のやり方が分からない」などが見られました。しかし総合的に見ると、やはり女性は男性の育児参加を願っていると感じます。
     「快適トイレの存在を知っていますか?」の質問では、年々「知っている」人が増えています。今回の展示会の「輝く建築女子コーナー」にも日野興業が展示してくださっています。
     「現場の仕事を行う上で待遇面の男女差を感じるときはありますか?」の質問では、「ある」が70%で、内容も毎回同じ理由でした。「優しく接せられる」がトップで、「体力的に厳しい面で配慮される」も上位(図3)。現場でキャリアを積んできた女性が、「そんなことしなくていいよ」「重いからいいよ」などと、優しく女性扱いされてしまうというものです。“体力”もキャリアをあきらめざるを得ない要因となっているようです。  以上、一部の抜粋ですが紹介させていただきました。

    日本建築仕上学会 女性ネットワークの会について

    仕上材料・施工分野の設計デザインや建築現場など、色々な分野で働く女性が、家庭と仕事との両立や組織の中で女性の役割などについて情報交換できる場を提供することを目的に、2014 年に日本建築仕上学会内で設立。女性の建設業における職域の拡大、建設業への若手女性技術者育成に取り組んでいる。

    <全員によるトークイベント>

    〇テーマ①女性活躍のために今後も必要なことは何か
    福田 弊社は改修工事などの業務を行っていますが、施工部隊でも半数が女性。作業着やハーネス型安全帯、トイレ問題など、これまで男性社会だった現場で女性も安心して働ける環境整備がまずは必要だと感じます。
    池田 弊社の女性営業職で、現場環境の整備を推進するための委員会を立ち上げて活動しています。新しい女性営業が現場の知識が全くないために困ってしまうケースが目立つので、会社で知識習得のための仕組みをつくろうと動いているところです。
    〇テーマ②男性の育児休暇は今後どのように取得していくか
    熊野 今管理職にいる男性がほとんど育児してこなかった結果として現状があります。そういう方々が「育児休暇取りなさい」とは言いにくいのではと思います。管理職研修に育児を入れてみてはどうかと思います。あるいは今からでもお孫さんの育児をしてみることをおすすめします。 宮川 弊社では男性に育児休暇取得を義務付ける制度を設けたり、動画を制作して上司が男性育休取得を必ず部下に働きかけるよう啓発しています。
    〇テーマ③在宅勤務の普及に必要なことは何か
    福田 建設業は在宅勤務をしづらい業界ですが、現場以外の業務についてはDX化が必要です。また在宅ワークで会社でのコミュニケーションがなくなることに対するメンタル面のケアも大事。例えばZoomで雑談できる時間を設けるなど。
    熊本 弊社もコロナ禍のピーク時以外は実施していない状況ですが、在宅勤務のための環境整備はやはり考えていくべきだと感じます。これは採用にも影響しており、就職活動の中で、在宅勤務ができない会社は候補から外すという話も聞くので、今後かなり重要キーワードになっていくのではないかと思いました。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -