講演会 講演録

  • 2023年9月8日
    【理想のすまいと建築フェア セミナー】(講演録 2023.6.9)
    現在の住まいは古いマンションをリフォームして住むのが正解
    (協力)日本建築仕上学会 女性ネットワークの会
    日本建築仕上学会 女性ネットワークの会 主査/株式会社フジタ 熊野康子氏
    株式会社マナベ 取締役 松尾晶子氏
    芦森工業株式会社 桂嶋恵都氏
    一般財団法人女性技能者協会 代表 前中由希恵氏
    アーキスタジオ川口 主宰 川口とし子氏

    <講演>古いマンションをリフォームでよみがえらせる ポストコロナのリフォーム 川口 とし子氏

    『劇的ビフォーアフター』で評価された事例

     これからのことを見据えて、マンションリフォームからポストコロナのリフォームという話につなげていきます。私は人気番組だった『大改造!!劇的ビフォーアフター』に“匠”として8回出演させていただきましたが、8回目の案件が「2014匠が選ぶビフォーアフター大賞」のキッチン・水回り部門で2位に選んでいただきました。その事例を紹介します。
     「誰にも貸せないアパート」というタイトルが付けられた、新小岩の駅から徒歩約10分の非常に古い建物です。6戸の部屋とオーナーの併用住宅があるアパートで、これを若い女性好みにリフォームしました。女性対象なので水回りが最も重要でした。調理スペースがなく不便なガスコンロ台とシンクだけの小さなキッチンに調理台を付け足しました。
     6戸分のセット型キッチンを廃棄するのはしのびなく、可能な限り再利用しました。再利用でありながらも新しい機能が満載で、女性らしい気配りやデザインを取り入れたことが評価されました。

    基礎知識とマンションリフォームのポイント

     この事例を手がけたさらに数年前の2010年以前から、首都圏では新築マンションよりも中古マンションの方が販売数を伸ばすようになってきていました。それ以前は新築マンションの価値の方が絶対的優位だったのですが。その状況を受けて出版したのが『いま、中古マンション買ってリフォームが正解』(2010年12月)という書籍です(図1)。翌年2011年3月11日、東日本大震災が起こり、ようやく社会の目がエネルギー問題や環境問題、サステナブルに向き始めました。それまでもずっと謳われ続けてきたことが、大震災をきっかけにやっと本格的に動き出したというのが日本の現実です。同書では、エコポイントの活用、ライフステージに合ったリフォームのすすめ、設備や給排水管の位置の重要性など、マンションリフォーム独特のポイントをアドバイスしています。
     住宅リフォームは、「基本性能」「間取り・動線」「デザイン・インテリア」の3本柱の上に成り立っています。その上でリフォームの目的によって「住空間改善リフォーム」と「性能向上リフォーム」という二つの方向性があります。前者はライフステージ、ライフスタイルの変化に対応するためのリフォーム、後者は安心・快適に住むためのリフォームを指します。
     マンションリフォームのポイントは四つ。①RCの構造にはラーメン構造と壁式構造があります。②専有・共有部分をしっかり踏まえることが重要です(図2)。③設備設置では、給排水管などの位置がリフォームに影響してきます。古いマンションでは配管が下階の天井裏を走っているケースもあり、下階のお宅に被害が及ぶこともあるので注意が必要です。④管理規約に留意。特に遮音性能の確認は重要です。

    イラストレーターのお宅をリフォーム

     もう一つ紹介する事例は、イラストレーターの上田三根子先生のお宅です。このリフォームはクリエイターの住まいということで雑誌にも取り上げられました(図3)。RCの壁式構造の建物で、一部壁を取り払って大きな空間をつくりました。イタリア製のシステムキッチンを採用、浴室にはガラスモザイクタイルを貼り、テレビのローボードなど家具も造作しました。非常に機動力の高い工務店だったので2カ月強で完成しましたが、このレベルのマンションリフォームなら余裕を見て3カ月以上を想定したほうがよいでしょう。また、特にマンションは工事中の騒音に関し、どんなに気遣いしてもし過ぎることはないと申し上げておきます。

    まとめ ポストコロナのリフォーム

    ①エントランスの工夫:エントランスに余裕を持たせましょう。将来、家族が車椅子などを必要とすることもあるかもしれません。
    ②広めのリビング:開口部や吹き抜けを設けましょう。機械換気もありますが自然の換気が何よりです。
    ③リモートワークのスペース:大人に限らず子どもにとっても、いつ突然リモート学習を要求されることになるか分かりません。そのようなことを前提としたスペースづくりが必要だと思います。
    ④自然の通風や換気:②と共通しますが、自然の換気や採光の優位性を図りましょう。
    ⑤外部との関係性:エクステリアです。庭との関係性を豊かにし、アウトドアのライフスタイルなど親自然な生き方を見直してみてはいかがでしょう。
     5点にまとめましたが、さらにいろいろなことが語られていくのがこれからの時代だと思います。

    <川口氏の講演をもとに全員でトークイベント> 今後はDIYの時代へ。工事履歴にも関心を持とう

    松尾 築40~50年以上の古民家の場合は、どのような点に気を付けてリフォームしますか?
    川口 1981年に建築基準法が改正されて新耐震基準になっており、それ以前の住宅は構造的に大変注意が必要です。診断士、一級建築士など、設計事務所や工務店にプロがいれば見てもらいます。仲介業者がいれば、インスペクターが耐震診断した調査資料などを提示いただくのがよいでしょう。
    桂島 私は仙台出身で、実家のマンションが大震災でひび割れが入った状態です。このようなマンションのリノベーションで気を付けるべきことは何でしょうか。また、マンションの一室だけ耐震性能を上げるようなリフォームは可能ですか?
    川口 一室だけで行うのはほぼ不可能だと思います。やはり管理組合で意見を出し合って全体で実施しないと意味がないでしょう。
    熊野 耐震診断を受けてみてはいかがでしょうか。表面のクラックだけで中の鉄筋にまでは影響がない場合もあります。マンションにお住まいの方は、耐震診断や耐震補強工事の履歴を一度調べてみるのがいいでしょう。履歴を調べることはとても大事なので、これから中古マンションを購入する方もぜひやってみてほしいと思います。
    前中 私は職人なので自宅をセルフリノベーションしました。今DIYがはやっており、中古マンションを購入して自分でリフォームしてみたい人も多いと思いますが、何かアドバイスがあればお願いします。
    川口 構造的な部分、間取り変更の際の壁、設備の配管に及ぶような水回りの位置変更はプロに任せます。内装は、例えば壁の塗装や断熱材の張り込み作業をやってみたいときは工務店に相談しましょう。リフォームに注力している工務店の中には、一般向けのリフォーム教室を行っているところもあるので、積極的に情報収集するのがいいかと思います。
     今後ますますDIYの時代になっていくことは間違いないでしょう。メーカーの方々にとっても、その辺りを見据えた新製品の開発が非常に重要になってくると思います。

     
     
TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -