私の建築探訪

  • 2024年6月14日
    デュシタニ京都
    屋根や庇、木のルーバーが特徴的な外観
    屋根や庇、木のルーバーが特徴的な外観
    「デュシタニ京都(Dusit Thani Kyoto)」は2023年9月、京都市下京区の小学校跡地にオープンしたラグジュアリーホテルです。アジアを中心に多くのホテルを展開するタイの企業グループ、デュシット・インターナショナルがデュシタニブランドとしての日本進出第1弾に選んだのが古都・京都です。心身の癒し、地域制やサステナビリティを大切にしながら、タイと日本を緩やかに融合させ、五感で楽しむおもてなしを提供しています。 「けんざい」編集部

    タイのアユタヤと日本の京都が「古都」でつながる

     京都駅から北に歩を進めると、西洞院通沿いにデュシタニ京都が現れます。ダークなモノトーンの外壁に木製の縦ルーバーがひときわ目を引く、京町屋のような雰囲気をまとう個性的な外観のホテルです。東南アジアでブランド力を持つタイの大手ホテル運営企業が日本初進出の地として京都を選んだ理由は、アユタヤとの親和性があったからです。
     「アユタヤはかつてのタイの都で、伝統文化が今に受け継がれている都市です。それが日本における京都の位置付けと非常に似通っています。当グループでは『ヘリテージ(遺産、伝統)』という言葉を大事にし、歴史文化と古来のおもてなしの心を伝えていきたいと考えています。この方針が京都という地に合致していました。ホテルのコンセプトも、京都とタイのホスピタリティが織り交ざったおもてなしを提供するというものです」と、デュシタニ京都デジタルマーケティングマネージャーの簑部亜季子さんがご説明くださいます。
      同ホテルでは、ハード面(全体のデザインや調度、客室のしつらえなど)とソフト面(人的サービスなど)のあらゆる点が、タイ(アユタヤ)と日本(京都)の融合というコンセプトに沿って提供されています。内装の9割、客室、タイレストラン、パブリックエリアをタイ本国のデザイナーが手掛けていますが、和の要素が随所に、かつ自然に織り込まれています。「タイらしさを前面に強調していないのがポイントです。うまく織り交ぜることによって “感じて”いただけるよう工夫をこらしています」と簑部さんは言います。
     デュシット・インターナショナルは、「ローカル」「ウェルビーイング(心身の健康)」「サステナビリティ」「パーソナライズサービス」という四つの柱を掲げており、このホテルではそれぞれの柱でタイと日本の良さを融合したサービスが行われています。
      ホテル内に足を踏み入れると、ふわっと漂う癒しのアロマ、タイの挨拶による出迎え。香り、温かい笑顔、ホスピタリティはまさにタイを感じさせてくれます。
      また、サステナビリティへの深いこだわりから、ホテルが所有する畑で収穫した食材を料理に使っています。 野菜やハーブは京都大原の畑で、紅茶に使うオーガニック茶葉は茶の名産地である和束の茶畑で栽培しており、スタッフも定期的に畑に出向いて作物の世話にあたっているそうです。

    景観上の制限のもと、まちなみに調和させる工夫

     同ホテルは地上4階・地下2階の6層で構成されています。世界遺産である西本願寺の門前町エリアという立地上、建設は京都市の景観地区・眺望景観保全地域の制限下で進める必要がありました。高さは最高15m、一定角度での勾配屋根にすること、周辺の歴史的なまちなみと調和させること、などです。このような制限の中でラグジュアリーホテルとしての規模や特別感を出さなければなりません。
     眺望は非日常空間を演出するのに不可な要素ですが、高層にできないため、地面を約15m掘削して地下1階に大きな中庭を設けることで、明るく広く、ガーデンビューを楽しめる空間をつくり出しました。
     制限下での演出には思わぬところでの障壁があったようで、「苦労したのは設備計画です。勾配屋根にしているため屋上がつくれないんです。よって通常は屋上に設置する設備を屋根裏や地下に持っていかねばならず、その調整にかなり骨を折られたと、設計事務所の方からお開きしました」と当時を振り返ります。
      デザインコンセプトは“結ぶ” “融合” ”編み込む”をキーワードとし、西本願寺と東本願寺の間というロケーションを生かして日本の木造建築とタイの木の文化を融合しつつ、木、土、石を基盤としています。
      例えば同ホテルでは曲線が多用されていますが、これはタイの仏塔と、五重塔の屋根の形状を組み合わせたものです。天井や壁、造りつけの調度を見ると、通常は角張っている部分が丸く納められ、曲線がデザインされていることが分かります。客室のクローゼットや、ワインの樽をイメージしたというバーの壁面など、そこかしこで感じられる曲線は、優しい印象を与え、私たちを穏やかな気持ちにしてくれます。
      また、着物の襟合わせを模した間取り・照明、鳥居をかたどったハンガー掛け、日本の伝統文様である麻の葉をあしらった意匠、西陣織でアートを表現したレストランの壁など、ホテル内の随所に和の要素がさりげなく演出されています。

    地域に根ざし、愛されるホテルとなるために

     アジアを中心に多数の外国人が訪れるグローバルな同ホテルですが、地域に愛される存在となることにも注力しています。「ホテルは、地元の方々の生活との接点が少ないので、誰もが参加できるアクティビティを通して、地元の方々が当施設を気軽に利用いただけるようにしていきたいですね」と簑部さん。今後ますます、タイと日本の融合文化が国内外へと発信されていくことでしょう。

    デュシタニ京都 【所在地】 京都市下京区西洞院通正面上ル西洞院町466
    【TEL】 075-343-7150
    【URL】 https://www.dusit.com/dusitthani-kyoto/ja/
TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -